NIMS 5年の歩み 第二期中期計画(2006~2010年度) 独立行政法人 物質・材料研究機構 NIMS 5年の歩み 第二期中期計画(2006~2010年度) NIMS 5年の歩み 第二期中期計画(2006~2010年度) 潮田資勝理事長 1~2 野田哲二理事 3 室町英治理事 4 曽根純一理事 5 岸本直樹監事 6 岸 輝雄NIMS顧問 7 ナノテクノロジー基盤領域 ナノテクノロジー基盤領域 9~10 ナノ計測センター 11~ 16 計算科学センター 17 ~22 量子ドットセンター 23 ~28 量子ビームセンター 29 ~34 ナノテクノロジー融合センター 35 ~38 ナノテクノロジー基盤萌芽ラボ 39 ~42 ナノスケール物質領域 ナノスケール物質領域 45 ~46 ナノ有機センター 47 ~52 ナノセラミックスセンター 53 ~58 ナノスケール物質萌芽ラボ 59 ~62 情報通信材料研究領域 情報通信材料研究領域 65 ~66 半導体材料センター 67 ~72 光材料センター 73 ~78 磁性材料センター 79 ~84 情報通信材料研究萌芽ラボ 85 ~88 生体材料研究領域 生体材料研究領域 91~92 生体材料センター 93 ~98 生体材料研究萌芽ラボ 99 ~100 環境・エネルギー材料領域 環境・エネルギー材料領域 103~104 超耐熱材料センター 105~112 燃料電池材料センター 113~118 超伝導材料センター 119~124 光触媒材料センター 125 ~130 新構造材料センター 131~136 次世代太陽電池センター 137~142 環境・エネルギー材料萌芽ラボ 143 ~146 材料信頼性領域 材料信頼性領域 149~150 材料信頼性センター 151~156 ハイブリッド材料センター 157~162 センサ材料センター 163~168 データシートステーション 169~174 材料創製支援ステーション 175~180 材料信頼性萌芽ラボ 181~184 共用基盤部門 共用基盤部門 187 ~188 超高圧電顕共用ステーション 189~194 強磁場共用ステーション 195 ~200 データベースステーション 201~206 共用ビームステーション 207~212 分析支援ステーション 213~218 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 221~226 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主任研究者 227~239 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 独立研究者 240~253 元素戦略センター 元素戦略センター 255~258 拠点 国際ナノテクノロジーネットワーク拠点 261~262 ナノ材料科学環境拠点(GREEN) 263~264 低炭素化材料設計・創製ハブ拠点(CMRLC) 265~266 若手国際研究センター 若手国際研究センター (ICYS) 269~272 クラスター 腐食クラスター 275~276 電子顕微鏡クラスター 277~278 自然から学ぶナノテクノロジークラスター 279~280 構造材料国際クラスター 281~282 有機デバイスクラスター 283~284 原子力材料クラスター 285~286 データ集 組織連携図 289~290 沿革 291~292 収入 293 職員 294 研究者受入 295 各種制度による学生受入・派遣 296 連携推進活動 297 学術発表 298 広報活動 299 主なプレス発表 300 理事長賞 301~302 主なイベント 303~305 普及啓発活動 306 主な発行物 307 所属長および定年制職員一覧 308~314 第二期中期計画期間の終わりと第三期の開始にあたって 独立行政法人物質・材料研究機構 理事長潮田資勝 私は岸前理事長の後を受けて、2009年7月から2011年3月末まで理事長を務めました。第二期中 期計画最後の1年9ヶ月間の運営方針は、基本的には8年以上続いた岸前理事長の方針を踏襲し、そ こに私が必要と考えた改善を加えることでした。 第二期中期計画期間中にNIMSは大きな発展を遂げました。マテリアルサイエンス分野における論 文引用数では世界第3位となり、特許出願数、産業界との共同研究などの分野でも顕著な成果を上げ ました。知財の活用を積極的に推進した結果、2009年度には特許収入が格段に増加しました。 第二期中期計画中に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPIプログラム)に東北 大学、東京大学、京都大学、大阪大学と並んで採択されたことはNIMSにおける物質・材料研究に対 する高い評価の結果です。WPIプログラムによって設置された「国際ナノアーキテクトニクス研究拠点」 は顕著な成果を挙げつつあります。また、英語を準公用語とし多くの外国人研究者を採用して、NIMS の国際化の先頭を切っています。 国の中核的機関としてのNIMSの業務には研究コミューニティーへのサービスがあります。この機 能を充実するために、「国際ナノテクノロジーネットワーク拠点」が活動を活発化し、さらに2009年 度には「ナノ材料科学環境拠点」を、2010年度には「低炭素化材料設計・創製ハブ拠点」を発足させ ました。また「つくばイノベーションアリーナ」では中心的役割を果たしています。 昨年の事業仕分けでは、我々が以前にも増して社会への働きかけを強化する必要性が指摘されまし た。第三期中期計画では組織を挙げて研究者コミューニティーと一般社会に対するサービス機能を強 化することにしました。これにより高度な設備のさらなる共用化、科学知識の普及などを積極的に進 めることを計画しています。 以上のような趣旨のもとに、「先端的共通技術部門」、「ナノスケール材料部門(MANA)」、「環境・ エネルギー材料部門」の3研究部門と並んで「中核機能部門」と「外部連携部門」を設置します。「中 核機能部門」には設備の共用サービスを担当するステーションやネットワークとハブ機能を担当する 拠点があります。「外部連携部門」には「研究連携室」と「学術連携室」を設け、各々産業界との連携 及び大学等との連携を推進します。 また、レアメタルなどの戦略的物資の代替とリサイクル技術を研究する「元素戦略材料センター」を 設けます。これらの部門とセンターは現代の国家的ニーズに積極的に対応することを目指します。ま たグローバルに物質・材料研究の情報を収集し、それを国の政策の資料として提供する「調査分析室」 を設置します。 若手研究者の育成もNIMSの重要な使命であり、国内外の大学と協力して大学院生の教育にも多く の資源を投資します。この機能には「学術連携室」と「若手国際研究センター」が対応します。 本年3月の東北関東大震災ではNIMSの設備も多くの被害を受けました。その結果、研究活動が完 全に復旧するまでにはかなりの時間と資金を要します。第三期には機構の構成員が一丸となって復旧 に努力すると同時に、このチャレンジをポジティブに捉えて、新たな決意と努力でさらなる創造的研 究の開始点としたいと考えています。 第2期の研究展開 独立行政法人物質・材料研究機構 理事野田哲二 NIMSは、第一期中期計画(2001年度~2005年度)の材料研究所としての基盤確立期を経て、 2006年度から2010年度の第二期計画においては、世界をリードする材料研究の国際的な中核機関と しての発展充実を目指してきました。特に、研究の方向においては、ナノテクノロジーを活用した物 質・材料研究に大幅に重点化し、ナノスケール新物質の創製、計測技術の開発研究とともに情報通信 分野や生体材料等ナノテクノ ロジーの応用出口を意識した新たな分野を展開してきました。第二期開 始とともにナノテク・材料の世界トップレベル研究拠点(WPI)に選ばれたことは、物質・材料科学 技術の国際的な中核拠点としての地位を固めるとともに、ナノテク・材料研究の推進を一層後押しす るものであった。また、これまでの実績を踏まえ、環境、エネルギー、安全・安心に係わる社会的ニー ズの高い研究を集中的に取り組んできました。この5年間においては、ナノテクノロジーを駆使して、 原子スイッチの新たな展開、従来の材料の性能を超える強誘電体ナノシートの開発、高保持力磁性材料、 耐熱長寿命の蛍光材料など実用的にも高い評価が得られる成果が得られています。 また、社会的ニーズに応える研究では、1GHz超級NMR用や直流送電を視野に入れた実用超伝導線 材、商用機に搭載予定のジェット機用Ni基高効率タービン翼材料、低温で靭性が増す鉄鋼材料など構 造材料研究での進展も目覚しいものでした。持続可能な社会実現のためには、安全・安心に繋がるデー タの蓄積が重要である。クリープ強度試験時間がこれまでの世界最長の35万時間を越えたことは材料 研究所としての研究の厚みを示すものでした。 このように第二期において、数多くの研究成果が得られたことは、個々の研究者の意欲の高さと不 断の努力によるものと考えられます。科学技術の分野では、代替エネルギー、CO2削減、元素戦略、 安全など緊急を要する課題が次々と挙がってきており、当研究機構の果たす役割はますます重要になっ ています。NIMSのさらなる発展と研究の進展を期待しています。 激動の時代を迎えて 独立行政法人物質・材料研究機構 理事室町英治 私はNIMSの第二期の最終年度に理事を拝命し、理事長の指示のもと第二期の総まとめと第三期に 向けての準備に携わってきました。この最後の一年間の始まりと終わりに、非常に重大な出来事があ りました。言うまでもなく、事業仕分けと未曾有の大震災です。正にNIMSのあり方そのものが問わ れる、重大で深刻な事態に直面したと言うほかありません。 第二期中期計画は2006年から5カ年の計画で進められてきました。そこではナノテクノロジーを中 心に置き、「ナノテクノロジーが拓く持続可能な社会の形成のための物質・材料研究」をメインのテー マとして、30の研究プロジェクトを始めとする様々な事業が実施されました。その成果は、いくつか の客観的な指標によって評価することができます。論文の被引用数は研究成果の有力な指標ですが、 NIMSの出版した材料分野の論文被引用数は順調に増加し、NIMSは間違いなく世界のトップクラス 入りを果たしました。一方、特許料収入は研究成果の普及・活用を見るための重要な指標ですが、第 二期の期間中に大幅な伸びを見せ、研究者一人当たりの収入は、日本の研究機関の中で不動のトップ を占めるに至っています。外部資金も順調な伸びを見せ、運営費交付金の減少を補って、NIMSの財 政に大きく貢献しています。これらの指標はいずれも第二期中期計画における種々の事業が、これ以 上ないほど成功裏に行われたことを強く示唆しています。 このような状況の下で、NIMSは事業仕分けの対象となりましたが、そこでは、NIMSの進むべき 方向について極めて重要な提示があったと思います。それは、NIMSの個々の事業の見直しというこ とに止まらず、事業仕分け全体から放たれた強いメッセージによるものでした。それを通じて明らか になったNIMSの課題は、一言でいえば、「社会とのかかわり」であり「社会への説明責任」であった と思います。事業仕分けを受けて策定された第三期中期計画の特徴として、社会ニーズに密着した領域、 すなわち環境・エネルギー・資源関連材料への大胆な重点化、企業等に対する外部連携の強化、ハブ・ 中核機能の充実に向けた様々の施策、などがあげられますが、これらは事業仕分けに対するNIMSの 一つの回答と言うことができます。 3月11日の大震災の前と後では、すべてのことが異なって見えるような気がします。震災によって、 第三期計画の中枢を変える必要は認めません。しかし、今後はよりスピーディーでより徹底した事業 の実施と、それによる社会への目に見える貢献が求められることは間違いありません。道は険しいと 言わざるを得ませんが、ここで頑張らない限りNIMSに未来はありません。公的機関としての責任と 気概を持って、事にあたりたいと思います。 物質・材料に関する日本の中核的研究機関として 独立行政法人物質・材料研究機構 理事曽根純一 第二期中期計画期間において、NIMSは物質・材料に関する基礎、基盤研究開発を行う機関として 世界的なプレゼンスを大きく向上させました。それは、材料科学分野における直近5年間累積の論文 引用数で、世界で3番目のポジションを得たこと、文科科学省の「世界トップレベル研究拠点形成促 進事業」(WPIプログラム)に採択され、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)として世 界中から優秀な研究者が集まる活動を開始したことなどに見てとれます。NIMSとして重要なもう一 つの役割は、 これらの成果を社会が要請する課題の解決に結び付けていくことにあります。おりしも、 我々は、温暖化問題、化石燃料や希少金属の枯渇問題といった深刻な環境・エネルギー問題に直面し ています。この課題に対し、物質・材料技術、さらにはナノテクノロジーが重要な役割を果たすと期 待されており、日本の物質・材料研究の中核的な役割を担うNIMSの責任は大きいと言えます。 このような状況を反映して環境・エネルギー問題に対し、積極的な国の研究開発投資がなされてい ます。2009年度には補正予算で環境技術研究開発センター棟(新環境棟)の建設が決まり、並木地 区での建設が始まりました。同年度に公募がなされた文部科学省のナノ材料環境科学拠点プログラム にNIMSが採択され、高い実績を持つ評価技術、シミュレーション技術をベースに、電池などの産業 的出口を見据えた物質材料技術の研究開発が開始されました。この拠点では、NIMSのみならず、大 学、産業界からも有力な研究者が集まり、“Under One Roof”としての研究がなされようとしていま す。2010年度には文部科学省の低炭素研究ネットワーク拠点プログラムが実施されました。低炭素社 会を実現する技術シーズを持つ15のサテライト拠点、さらにナノ加工、先端ナノ評価、材料設計・創 製の側面でそれらを支援する3つのハブ拠点が選出され、研究に必要な最先端装置が導入されました。 NIMSは低炭素化材料設計・創製ハブ拠点に選ばれ、上記ネットワーク全体のコーディネータ的役割 も合わせて担っていきます。 一方、産業技術総合研究所、筑波大学、NIMSが中心となって、ナノテクノロジーによる技術イノ ベーションを産業に結び付けていこうとするつくばイノベーションアリーナ構想がスタートしました。 NIMSは上記拠点での活動を中心に、ナノグリーン領域で先導的役割を果たすことが期待されており、 研究を実行する新環境棟においてNIMS外の研究者に対しても開かれた研究環境を提供し、イノベー ションを目指します。NIMSではこれらの研究活動を通じて生まれる成果を積極的に産業界に展開し ていく枠組みを用意しています。多様な知が結集するオープンな環境下で革新技術を生み出すと共に、 企業の要請に答えるソリューション技術を機密が保持されたクローズな環境下で提供する仕組みを用 意することで、日本の産業の国際的優位性確保に貢献していきたいと考えています。NIMSはこれら 物質・材料科学技術に関する中核的な役割を強化し、社会からより一層信頼される研究機関となって いく所存です。 独立行政法人研究所として 独立行政法人物質・材料研究機構 監事岸本直樹 NIMSの第二期中期計画期間(2006年度~)においては、「ナノテクノ ロジーを活用する材料研究開発」 に重点化し、併せて「社会ニーズに応える材料高度化研究」を実施してきました。また、中核的機関 としての活動、すなわち、施設・設備の共用、国内外ネットワークの構築、産独連携等を進めました。 第三期中期計画期間(2011年度~)では、環境・エネルギー問題等の課題解決型の目的基礎研究が主 体となり、国の中核的機関としての役割を一層強化することとなります。 第二期中期計画は、「材料分野名」を冠したプロジェクトで構成し組織も作られました。基礎研究を プロジェクトにするという、一見矛盾しかねない問題設定が行われましたが、社会的にも是認される 素地がありました。「基礎・基盤研究」は、当機構個別法でミッションとされているものの、「大学と は差別化した国立研究所のあり方」という観点から、常に葛藤に満ちた議論がありました。個人的には、 研究者個人と組織・チームの調和、研究者個人の創意は満たされ、かつ国立研究所としての則をはず さない課題設定、あるいは社会への説明責任が重要であると考えてきました。 幸いにして第二期までは、経営陣の手腕と全職員の不断の努力と相俟って、当機構のパフォーマンス は著しく向上し、論文指標、特許許諾、外部資金獲得等、どれも素晴らしい発展を遂げています。し かし近年は、国家財政の逼迫等を背景にして、世間の独立行政法人を見る目が年々厳しくなってきて おり、高い論文業績に飽きたらず、公的機関ならではの活動・成果がより強く求められています。第 四期科学技術基本計画では、グリーンイノベーションやライフイノベーションが強調され、課題解決 型の研究プロジェクトの遂行と、より直接的な社会還元が強く求められています。 第二期中期計画の最終年度に監事を拝命し、機構に対する国民の厳しい目を肌で感じる機会が増しま した。独法制度は元来、国民生活の安定及び社会経済の発展に資する業務を、適正かつ効率的に運営 することとされており、「効率化」が必須の命題です。独法人のミッションを有効かつ効率的に果たす ため、法人の長の下、組織が一丸となって活動すること、あるいは、その体制の整備・運用を図るこ とが一層求められています。最近はこれを「内部統制」というやや厳しい言葉で表現されます。2010 年度の監事業務は、「独立行政法人整理合理化計画」(2007)及び「独法人における内部統制と評価に ついて」(2010)の趣旨に沿い、第二期の目標達成や業務・会計経理の適正かつ効率的な運営を診るこ とに努めました。 今後は、公的な研究機関として説明責任を果たすのみならず、見える形で、職員一人一人が研究面 から国民の奉仕者としての役割を果たすことが望まれています。また、マネージメントとしては、個 性的な研究者の角を矯めないで、健全な内部統制を実現するということが求められています。 NIMSの10年 独立行政法人物質・材料研究機構 NIMS顧問岸 輝雄 独立行政法人(独法)としてのNIMSが10年を経過し、かつ順調に5年間の第二期を終了したこと は喜ばしい限りです。潮田理事長のもと、物質・材料の分野でその存在感を増していることを実感し ています。ナノテクノロジー(ナノレベルの組織制御を含めて)から環境・エネルギーの材料そして レアメタルの代替材料と国の政策の変化を取り入れながら、先導的に研究成果を上げています。法人 化した大学が飛躍の前に足踏みしている中で独法群が急速に力をつけ、NIMSがその先陣を走ってい ると言えましょう。 そんな中で巨大地震、大津波そして原子力発電施設の大事故という3重苦の国難に見舞われています。 個人的には若いころ、原子力配管の非破壊検査、圧力容器の欠陥許容、そして日独原子力工学セミナー の事務局を担当していた身からすると、責任を感じると同時に残念な状況です。既に、間違いなく科 学技術における日本の信頼度は失墜しており、早期に次世代の発展に力を結集しなければならない時 期です。NIMSも、放射性物質の除去、配管・容器の接合部の信頼性、燃料と被覆管の反応など材料 の面から短期、中長期に貢献することが期待されています。 この災害には残念ながら人災の部分が見え隠れしています。原子力発電に関しては多くの指摘を真 摯に受け止めることができなかった政府等の審議会の在り方が問われています。要するに評価体制の 在り方と評価の甘さです。これは、日本の科学技術全般に繋がる大きな課題です。例えば、独法の各 機関の国の評価はS, A, B, Cで表記するとほとんど例外なく Aです。これでは、個人的には評価は 時間の無駄だと考えています。より問題なのは、多種多様な評価、諮問が行われても評価される側が 真摯に受け止め、実行する意志が弱いことです。 幸いNIMSの執行部が、第二期において世界トップレベル研究拠点プログラム-国際ナノアーキテク トニクス研究拠点(WPI-MANA)、ナノ材料科学環境拠点(GREEN)等の設立において外部の評価者 の意見を充分に組み込み、高みに向かっているのはすばらしいことです。これに加えて、研究の世界 では、研究者個人の評価も重要です。これからはグローバルな課題解決型研究の時代と言われています。 課題解決といっても研究・開発は、地味な個人の挑戦的な萌芽的研究の成果に依存する部分が大きい でしょう。そのためには、NIMS 400人の研究者の力を個々に充分評価し、その結果に基づいたシス テム研究を遂行してもらいたいと願っています。 我が国の産業で外貨獲得のナンバーワンは一次素材です。材料こそが日本の生命線です。研究者には 最先端を走る高い志が期待されています。NIMSは現在、学独連携、産独連携、国際連携そして研究 のネットワーク作りにおいて多くの実績を積んでいます。つくばイノベイションアリーナ(TIA)もそ の一例です。この成果を活用して、グローバルな産学独が結集できる高い研究レベルのプラットフォー ム作りにまい進することを期待しております。 ナ ノ テ ク ノ ロ ジ ー 基 盤 領 域 ナノテクノロジー基盤領域の5年 ―物質・材料研究を支えるナノテクノロジーの基盤を構築― 領域コーディネーター藤田大介 1.はじめに ナノテクノ ロジーはナノスケールでの物 質・材料・システムの創製、加工、計測、設計 の技術の総称であり、21世紀の科学技術を支え るキーテクノロジーである。ナノテクノロジ ー ・材料分野は第三期科学技術基本計画(2006 - 2010年度)においても第二期(2001-2005 年度)に引き続き、重点推進四分野の一つに位 置づけられた。我が国が将来に亘って、環境、 エネルギー、ライフサイエンス、情報通信、宇 宙航空、先進材料などの先端的な科学技術分野 において持続的に世界を先導するためには、革 新的なナノテクノロジー基盤技術を整備する必 要がある。物質・材料研究機構の第二期中期計 画(2006 - 2010年度)では、我が国のナノテ クノ ロジーを活用する物質・材料研究のイノベ ーションに資するため、ナノテクノロジーの高 度な共通基盤技術として、ナノスケールでの創 製や加工造形、計測・分析、理論・計算などに 関する技術を高度化し、融合的に発展させるこ とを目的として、ナノテクノロジー基盤領域を 設置した。本領域は、ナノレベルの構造機能に 着目し、従来にない機能や現象を発現する物 質・材料の設計と創製に向けて、ナノテクノロ ジーに係る先端的な共通基盤技術の開発を積極 的に推進するとともに、第三期科学技術基本計 画における科学技術システム改革を推進する立 場から、先端大型共用研究設備の整備・共用を 促進した。 2.領域の組織構成 2006年4月からNIMS第二期中期計画が開 始されたが、同時にナノテクノロジーを活用す る物質・材料研究全体を支える基礎・基盤研究 を推進するためにナノテクノロジー基盤領域が 新たに設置された。本領域を総括する領域コー ディネーターは青野正和フェローが担当した。 本領域は、発足当初は第二期中期計画プロジェ クトの推進を主要ミッションとする五つの研究 センターから構成された。プロジェクトは、ナ ノデバイス分野に革新をもたらす材料の構造を 組織制御する技術、表面・表層・固体内部にい たる超高分解能を有する計測・評価技術、ナノ 構造で発現する機能・物性の量子論的な解析と 予測を可能とするシミュレーション技術、ナノ スケールの組織や構造を実現するためのプロセ ス技術の開発を目的とし、各々、優れた研究開 発能力を有する5センター(ナノシステム機能、 ナノ計測、計算科学、量子ドット、量子ビーム) が担当した。 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の発足 に伴って2007年度に組織変更が行われ、領域コ ーディネーターを岸本直樹量子ビームセンター 長が引き継いだ。ナノシステム機能センター(中 山知信センター長)の担当プロジェクトは本領 域にて継続された。ナノマテリアルの安全性へ の関心が高まるに伴い、2008年度より「ナノ材 料の社会受容プロジェクト」(宮澤薫一グループ リーダー)が新たに発足し、ナノテク固有の課 題であることから本領域に設置された。一方、 我が国全体のナノテクインフラ整備を担うナノ テクノ ロジー融合センターならびに探索的な萌 芽研究の推進を担うナノテクノロジー基盤萌芽 ラボ(井上悟ラボ長)が2009年度より発足した。 このような変化を経て本領域は、高度な基盤技 術開発のみならず、萌芽的研究やナノ社会受容 研究、さらに高度ナノテク研究支援まで包含し た包括的なナノテク研究基盤として整備された。 3.領域の成果 ナノシステム機能センター(ナノ機能組織化 技術開発プロジェクト)では、ナノ構造の機能 を単独に利用するのではなく、多数のナノ構造 をシステムとして組織化し、全体として新機能 を発現させるための技術を開発した。マルチプ ローブを自在に駆動するナノ計測技術の本格的 利用と拡張、さらに広範な材料(例えば生体細 胞)への適用を進めた。原子スイッチの集積に よる原子エレクトロニクスでは実用的なナノシ ステムへと発展させた。酸化物高温超伝導体結 晶に内在するジョセフソン接合のナノスケール 積層構造を利用したテラヘルツデバイスを開発 した。さらに、超伝導体を微細構造化した場合 に発現する特異な電気特性や、強磁場下におい てのみ超伝導を示す有機物質の発見、ホウ素高 濃度添加によるダイヤモンド結晶の超伝導性の 発現、ナノスケール高機能プローブ材料の探索 など、新材料の探索とその新機能解明を進めた。 ナノ計測センター(藤田大介センター長:ナ ノ物質・材料のための高度ナノ計測基盤技術の 開発プロジェクト)では、極限場SPM、高分解 能透過電子顕微鏡、強磁場固体NMR、表面表 層精密電子分光、超高速時間分解計測などを核 として高度ナノ計測技術を開発した。走査トン ネル顕微鏡の探針から表面サイトに原子を移送 する技術をSi(001)表面に応用し、原子レベル の一次元量子井戸構造の創製と、閉じ込め状態 の原子分解能イメージングに成功した。電子顕 微鏡法の高度化では、高分解能走査透過型電子 顕微鏡(STEM)に安定化と高機能化を施すこ とによりSTEM-EELS (電子エネルギー損失分 光法)における高分解能化に取り組み、原子識 別イメージングに世界で初めて成功した(2007 年Nature誌掲載)。 計算科学センター(大野隆央センター長:新 機能探索ナノシミュレーション手法の開発プロ ジェクト)では、ナノ領域で新しい機能をもつ 次世代材料を実現するために必要な理論基盤を 構築し、デザインルールを探索して、新規な物 性・機能を提案することを目指している。その ために、ナノ物質・材料およびナノ複合体を対 象に、構造、電子状態、物性・機能の相関を統 合的に解析するため、第一原理計算、超大規模 解析、多物性・機能解析、強相関モデリング、 マルチスケール解析などの先端ナノシミュレー ション手法を開発した。新しい計算手法として は、大規模系に対する高精度な量子論的解析を 可能とする第一原理オーダーN法を開発し、半 導体量子ドット構造(2万3千原子)に対する 世界最大規模の第一原理計算を実現した。第一 原理オーダーN法は、計算コストが原子数Nに 比例して増大するため、大規模系の高精度解析 への道を切り開く手法として期待される。 量子ドットセンター(小口信行センター長 (2006年度)~迫田和彰センター長(2007 - 2010年度):高度ナノ構造制御・創製技術の開 発プロジェクト)では、量子ドット、フォトニ ック結晶、ナノワイヤなどの設計・創製・評価 技術を融合・高度化することにより、新たなナ ノ構造の創製と機能性を追求した。特に、液滴 エピタキシー法により、内部応力や構造異方性、 欠陥密度の極めて少ない量子ドットの作製に成 功し、発光エネルギーの異方性の劇的な減少を 達成した。 量子ビームセンター(岸本センター長(2006 -2009年度)~藤田センター長(2010年度): ナノ物質・材料の創製・計測のための量子ビーム 基盤技術の開発プロジェクト)では、高輝度放射 光、中性子ビーム、イオンビーム、原子ビームな どを総合的に開発利用し、材料創製・計測などの 研究開発ポテンシャルを活用することにより、量 子ビーム基盤技術の確立を行った。特に、中性子 マルチスケール評価技術に関しては、次世代多目 的パターンフィッティング・システム RIETAN-FP及び可視化ソフトウェアVENUSを 開発した。酸化物イオン伝導体の高温粉末中性子 回折データに最大エントロピー法に基づくパタ ーンフィッティングを適用し、酸化物イオンの拡 散経路の三次元可視化に成功した。 4.おわりに ナノテクノロジー基盤領域における研究開発 は第二期中期計画を経て飛躍的な進歩を遂げ、 数々の世界トップレベルの研究成果を挙げるま でに発展した。さらに新規にナノ社会受容研究 やナノ融合センターなどの社会ニーズに対応し た研究や共用・支援機能を拡充することにより、 我が国のナノテクノ ロジーを活用した物質・材 料研究を推進する中核的な拠点として整備され た。今後、本領域において開発された基礎基盤 技術を材料イノベーションとして開花させてい くためには、内外の研究機関、大学、産業界と の連携が不可欠である。先端ナノテクノロジー によるマテリアルイノベーションを目的とした ナノテクノロジー基盤領域シンポジウムを開催 したが(図1)、今後とも社会ニーズを踏まえた 融合研究をNIMS全体として推進する。 図1NIMSナノテクノロジー基盤領域シンポジウム 2011(平成23年2月23日開催) ナノ計測センターの5年 ―先進的材料研究のニーズに応えるナノ・先端計測― センター長藤田大介 1.センターの目的 NIMSの第二期中期計画(2006~2010年度) における目標達成のために20の中期計画研究 プロジェクトが立ち上げられた。20プロジェク トの一つである「ナノ物質・材料研究のための 高度ナノ計測基盤技術の確立」を推進するため、 ナノスケールかつ先端的な計測技術の高度化を 先導する研究センターとしてナノ計測センター (Advanced Nano Characterization Center, ANCC)が設置された。 ナノ計測センターは、NIMSの六つの研究領 域の一つであるナノテクノロジー基盤領域に属 し、ナノテクノロジーを活用した物質と材料の 研究を推進するためのキーテクノロジーとなる 高度ナノ計測技術の先導的開発と先進材料への 応用をミッションとしている。具体的には、表 面表層から固体内部に至るまでの包括的なナノ 計測技術の開発を推進してきた。様々な物質や 材料におけるナノスケールでの構造、新機能、 未知の物性を明らかにするため、NIMSコアコ ンピタンス技術を核として、ナノ創製と機能探 索のための走査型プローブ顕微鏡(SPM)、超 高分解能の透過型電子顕微鏡(TEM)、強磁場 を利用した高分解能固体核磁気共鳴法(NMR)、 フェムト秒の時間分解能を有する超高速時間分 解計測技術、広域かつ表層の三次元ナノ解析技 術、原子識別可能な超高分解能原子間力顕微鏡 の六つのサブテーマ(グループ)に対応する先 端的なナノ計測技術の開発を先導している。並 行して、先進的な材料へ積極的に応用するとと もに、物質・材料研究に資する知的基盤の整備 や計測手法の国際標準化の推進を目指している。 ナノ計測センターの研究成果を国内外の研 究者や技術者に広く普及させ、外部機関との連 携と協力関係を着実に構築することは益々重要 となっている。研究成果発表会、シンポジウム、 ANCCセミナーの開催やWebサイトを通じて 情報発信を積極的に進めている。本稿は、連携 推進と成果普及の観点から、ナノ計測センター の実施するNIMS中期計画プロジェクトを中 心として研究成果と活動をまとめたものである。 先導的なナノテクノロジー・材料研究の促進に 資する有益な情報を皆様にご提供できれば望外 の幸甚である。 2.活動概要 ナノ物質・材料研究の効率的推進にはナノレ ベルの解析が重要な役割を果たしており、構造、 物性、機能のナノ計測はキーテクノロジーとし て一層の高度化が望まれている。このような高 度ナノ計測技術では、創製環境や機能発現環境 を計測空間に与えながら多元的な物性情報を高 分解能で計測する技術が重要である。また、新 規ナノ物質の構造理解には、原子の空間的配置 や配位構造の精密解析が重要な役割を果たす。 本プロジェクトでは、図1に示すように、表面 から固体内部に至るまでの原子分解能ナノ解析 技術、非晶質から単結晶に至る多様な物質材料 に対応可能な原子配置解析法、機能発現や材料 創製に関わる極限環境場における計測技術、フ ェムト秒レベルの遷移過程の解析を可能にする 超高速時間分解計測技術、などのナノマテリア ルの研究開発にとって必要とされる最高水準の 先端計測技術の開発を目指している。 プロジェクトではナノ物質・材料研究にとっ て必要不可欠な情報であり、かつ高度なレベル に達している計測技術(走査型プローブ顕微 鏡、透過電子顕微鏡、表面化学分析、フェムト 図1表面・表層・内部に至るナノ計測技術の開発 秒レーザー分光、核磁気共鳴分光、超高分解能 原子間力顕微鏡)をサブテーマとして設定した。 固有の計測技術の連携により包括的なナノ物 質・材料解析技術の確立を目指すものである。 プロジェクトのサブテーマを担当する六つの研 究グループ(先端プローブ顕微鏡G、先端表面 化学分析G、超高速現象計測G、先端電子顕微 鏡G、強磁場NMRG、ナノ メカニクスG)を センターに設置した。研究代表者(センター長) はプロジェクトならびにセンターの総合的運営 を担当した。研究推進体制として、研究方針や 年度計画などの研究運営における的確な助言を 得るためにアドバイザリーボードを設置し、当 該分野における学識経験者に委員を委嘱した。 年度成果報告書の発行、公開の研究成果発表会、 ANCCセミナー、公開シンポジウムの開催など、 研究成果のアウトリーチ活動を積極的に行うと ともに、産業界、大学、研究独法などの研究者 との連携を推進した。 3.研究成果 先端計測技術はナノ物質材料の研究開発にお ける基幹技術として一層の高度化が望まれてい る。材料の機能発現環境におけるその場計測、 多元的な物性の解明、原子識別能力、三次元的 な構造解析、超高速現象の解析、原子配位構造 の精密解析などが要請されている。各グループ のターゲットはこれらの要請を満たすように設 定している。世界最高水準のナノ計測技術を包 括的に実現し、多様なナノ物質・材料への応用 技術を開発することを目指している。 3-1極限場表面ナノプローブ 材料表面は光化学反応や触媒反応などの多様 な機能を発揮する場であると同時に、ナノスケ ールの加工・操作・創製の場である。多様な環 境場に対応するために、高温から極低温までの 可変温度、可変高磁場、応力歪場、超高真空、 ガス雰囲気などの制御された環境場で動作する ナノプローブ顕微鏡が求められている1)。 例えば、次世代電子材料として期待されるグ ラフェン単原子層超薄膜(二次元)やカーボン ナノチューブ(一次元)などのナノスケールの 低次元物体(ナノ物体)の構造や機能を明らか にすることが求められている。このような低次 元ナノ物体の機能は量子力学的効果に由来する。 原子レベルでの構造を計測するためには清浄表 面の創製と維持のための超高真空が必須である。 さらに、新規のナノ物性やナノ機能を明らかに するためには量子効果が明瞭に発現する極低温 や可変高磁場が必要である。このようなナノ物 体の構造、物性、機能を明らかにするため、先 端プローブ顕微鏡グループ(藤田大介GLら) では、複合された極限場で動作する走査型トン ネル顕微鏡(STM)の開発に成功した。走査ト ンネル分光法により、世界最高レベルの高磁場 (16テスラ)環境での原子分解能での局所状態 密度マッピング計測を達成している(図2)。 3-2表層三次元ナノ解析 ナノ物質・材料である電子材料や複合材料の 開発では、高速かつ非破壊的に広い領域を3次 元分析できる分析手法の開発が望まれている。 このためにオージェ電子分光装置(AES)、X 線光電子分光装置(XPS)、電子線マイクロアナ ライザー(EPMA)等による高分解能化および 解析の高度化が進められている。このような計 測・解析でキーとなる固体内における電子の輸 送現象は、ナノデバイスの基礎として重要であ 図2 (a)極低温(0.5K) ・超高真空(~10-9Pa)かつトップレ ベルの高磁場(16T)の複合極限環境STM装置.HOPGに おける原子分解能STM(a)ならびに可変高磁場下での ランダウ量子化の観測(b) るのみならず、表面電子分光などのナノ計測技 術の基本をなすものであるが、実用上有用な低 エネルギー電子に対して、その固体内の輸送現 象を実用に耐えうるレベルで正確に記述できる システムは存在しない。各種基礎物理量も低エ ネルギー領域では不正確で問題が多く、世界的 に研究が続けられている。さらに表層広域三次 元電子輸送モデリングの実用化に関する研究は 産業界からも今後の発展が期待されている。先 端表面化学分析グループ(田沼繁夫GLら)で は、物質・材料表層の三次元解析を実現するた め、表面分析用電子輸送シミュレータの開発を 目指し、基礎となる物性パラメータの高度化を 推進している。物質の誘電応答に関する情報は、 電子分光法における非弾性平均自由行程 (IMFP)や非弾性散乱バックグラウンドの定 量解析に不可欠であり、電子輸送シミュレータ の基本的物理量である。誘電関数は従来、光学 的方法で測定されてきたが、新たに反射電子エ ネルギー損失スペクトル(REELS)から求める 手法の開発に成功した。REELSの角度・エネ ルギー分解精密計測とファクターアナリシス (FA)解析からエネルギー損失関数(ELF)を 決定し、得られたELFから光学定数を求める (図3)2)。開発方法は、試料前処理も簡便であ 図3 (a)AR-REELS&FA法により抽出したバルク GaAsのエネルギー損失関数.(b)本手法、従来法、 理論によるエネルギー損失関数の比較 り、広範囲の材料評価に適用可能である。今後、 光学定数のデータが存在しない化合物半導体を 中心に誘電関数の整備を行い、実験および理論 計算の両面からデータベースを作成・公開する 予定である。 3-3超高速現象計測 次世代の光・電子デバイスに要求される素子 サイズや周波数特性は、固体中の電子の典型的 な散乱長(~20 nm)および散乱時間(~10fs) に迫っており、ナノ構造の電子の集団運動及び これと相互作用する格子振動に関する動的な超 高速過程を実時間観測できる手法を確立するこ とが急務である。しかしながら、固体において フェムト秒(fs)からピコ秒(ps)の時間スケ ールで起こる電子系と格子系との相互作用を直 接観察するための有力な手段はこれまでに確立 されていない。超高速現象計測グループ(北島 正弘GL、石岡邦江主幹研究員ら)ではナノ物 質・材料系における超高速の量子現象を計測す 図4グラファイトのコヒーレントフォノン るためのコヒーレント分光技術の開発を推進し てきた。 一方、超高速現象の解析は、光触媒、太陽電 池、レーザーなど光学機能材料の働きの解明に 役立つ。電子正孔対の光励起とエネルギー緩和、 輸送、再結合などの微視的過程の時間スケール (通常フェムト秒とマイクロ秒の間)が光学機 能の効率を左右する。フェムト秒パルス光によ って物質中に誘起されるコヒーレントフォノン を観測することにより、原子の動きを実時間で 知るだけでなく、電子格子相互作用の時間変化 を露わにすることができる(図4)。 3-4先端電子顕微鏡 先端電子顕微鏡グループ(松井良夫GL~木 本浩司GL)では、固体内部のナノ構造解析の ために、電子顕微鏡の「高分解能化」及び「高 精度・高感度化(高識別化)」を主要目的として、 先端的ナノ構造解析手法の開発とその材料応用 に取り組んできた。「高分解能化」研究において は、共焦点走査透過型電顕(STEM)による三 次元観察技術の高度化、汎用透過型電顕用三次 元トモグラフィーホルダーの開発とその応用、 電顕内その場反応過程観察手法の高度化を行っ た。「高精度・高感度(高識別)化」研究にお いては、環状暗視野(ADF) STEMの高性能化 と精密構造解析法への展開、ローレンツTEM 観察法による新規ナノ磁気構造の解明、高エネ ルギー分解能EDX (TES-TEM)の高性能化と その材料への適用を行った。 高識別化の研究成果例としてADF-STEMの 高性能化と精密構造解析法への展開を以下に示 す。STEM における環状暗視野(Annular Dark-field; ADF)像は構造直視性に優れ、微小 領域の構造観察に用いられるが、計測用ソフト ウエアなどの開発により高精度(10pm)の原 子位置決定や蛍光体中に含まれた単原子ドーパ ント計測に成功した(図5)。LED蛍光体材料と して期待されるβ Si3N4中のEu単原子ドーパ ントが明瞭に可視化されており、シミュレーシ ョン結果との良い一致を示す3)。 また、「高分解能化」としては、STEM共焦 点光学系による三次元高分解能観察技術の開発 図5 (a) β Si3N4結晶のADF-STEM像.従来法との比 較ならびにEuドーパントのシミュレーション像 (b)カーボンナノコイルの共焦点STEMによる三 次元再構築像 に成功し、任意深さにおける断層像取得や三次 元再構成が可能となった4)。図5(b)に示すカー ボンナノコイル像は、世界初の共焦点STEM像 からの三次元再構築像である。 3-5強磁場NMR ガラス、アモルファス材料、ゴム、ポリマー、 触媒など実用上重要な非晶質材料は非常に多い。 これらの物質は従来のNMRでは分析対象にな ってこなかった。その理由は、従来のNMRで は磁場が10テスラ(500MHz)程度であった ために、感度と分解能の点で特別に有利な水素 核と炭素核だけに分析対象が限定されていたか らである。しかし、磁場が20テスラ(900MHz) を超えると水素核や炭素核以外の元素でも NMRが可能になるので、NMRによってしか得 ることができない貴重な情報が強磁場を利用し た固体NMRに期待されている。 強磁場NMRグループ(清水禎GLら)では、 世界屈指のNMR磁石群と計測技術を結合させ て、世界最高性能のNMRシステムを開発し、 その装置と技術をナノ物質・材料研究に応用し、 当該材料分野における重要課題の克服に貢献す ることを研究目的とする。特に、従来のNMR 技術では測定困難だった四極子核の高分解能測 定を実現させ、水素核と炭素核に限定されてい た従来のNMRの適用範囲を多くの元素に対し て拡大させ、X線など他の計測技術と相補的な 構造解析を確立させることを目指している。 最近の成果としては、図6に示すように、固 体NMRとしては世界最高磁場(21.8T)の 930MHz固体NMRを用いたMg-NMR計測に より、色素増感太陽電池の候補物質の一つであ る葉緑素(BChl-c)の分子集合体の構造決定に 成功し、30年以上の論争に終止符が打たれた5)。 3-6ナノ メカニクス 平成20年にオスカル・クスタンセGLがナ ノ計測センターに参加し、新たにナノ メカニク スグループが設置された。導電性のない物質・ 図6(a)固体NMRとしては世界最高磁場強度21.8T (=930MHz)を有する強磁場NMR装置.(b)葉緑素 (BChl-c)の単体分子構造(枠内図)および分子集合 体で測定したMg-NMRスペクトル 材料表面の場合、STMでは計測困難であり、原 子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy, AFM)法が用いられる。ナノ メカニクスグルー プでは、表面の原子を操作し、原子一個を識別 できる超高分解能の非接触原子間力顕微鏡の開 発と応用研究を進めている6)。 4.今後の研究動向 ナノ計測センターでは、第二期中期計画プロ ジェクトの推進を通じて、先端的な材料や新規 物質の包括的なキャラクタリゼーションに必須 の高度計測技術をコアコンピタンスとして開 発・整備してきた。今後、新規物質や先進材料 に関する研究開発に必須のナノ・先端計測技術 の進むべき方向としては、四つのニーズを実現 することが重要であると考える。第一に物質や 材料の構造を精密に理解することが不可欠であ る。そのためには、最表面、表層領域、固体内 部の構造を計測する技術を相補的に活用するこ とが重要である。さらに、物質や材料には、単 結晶や多結晶のみならず、ナノ結晶や非晶質な どの多様な構造が存在すると同時に、表面再構 成などの周期構造、さらに原子空孔やボイドな どの多様な欠陥構造が存在する。このような多 様な構造を原子レベルで解析できる計測技術の 開発が期待されている。第三のニーズとしては、 多様な物性や機能を計測することである。構造 と機能は密接な関係にあり、ナノスケールで制 御された材料におけるナノレベルでの構造と機 能の同時計測が求められている。第四の要請は、 多様な環境場におけるin-situ (その場)計測で ある。環境・エネルギー材料の重要性が高まる につれて材料や素子の動作環境での計測技術へ のニーズが増大している。特に太陽光発電材料 や高性能二次電池材料の場合、動作環境でのナ ノレベルその場計測への期待が大きい。 ナノ計測センターは国内の大学・独立行政法 人ならびに海外研究機関との連携や民間企業の 研究者・技術者との共同研究を推進するととも に、成果を普及させるためのアウトリーチ活動 を行ってきた。2011年度以降においても、社会 からの要請と物質・材料研究のニーズに応える 先端的計測基盤技術を目指して努力したい。 謝辞 ナノ計測センターでは年度毎のセンターな らびにプロジェクトの運営や研究方針などに的 確な助言を頂くため、学識経験者によるアドバ イザリーボードを設置した。アドバイザーの諸 先生方(幾原雄一教授(東京大学大学院)、二瓶 好正教授(東京理科大学)、松本吉泰教授(京都 大学大学院)、森博太郎教授(大阪大学超高圧電 子顕微鏡センター)、森田清三教授(大阪大学大 学院)、和田仁教授(東京大学大学院))にはセ ンターの研究活動の推進に多大な貢献を頂いた。 この場を借りてナノ計測センターの活動にご協 力を頂いた皆様に厚く御礼を申し上げる。 参考文献 1)D. Fujita, M. Kitahara, K. Onishi and K. Sagisaka: Nanotechnology 19 (2008) 025705. 2)H. Jin, H. Shinotsuka, H. Yoshikawa, H. Iwai, S. Tanuma and S. Tougaard: J. Appl. Phy.107(2010)083709. 3)K. Kimoto, R. J. Xie, Y. Matsui, K. Ishizuka and N. Hirosaki: App. Phys. Lett. 94(2009)041908. 4)M. Takeguchi, A. Hashimoto, M. Shimojo, K. Mitsuishi and K. Furuya: J. Electron Microscopy 57(2008)123. 5)Y. Kakitani, Y. Koyama, Y. Shimoikeda, T. Nakai, H. Utsumi, T. Shimizu and H. Nagae: Biochemistry 48(2009)74. 6)S. Sadewasser, P. Jelinek, C.-K. Fang, O Custance, Y. Yamada, Y. Sugimoto, M. Abe and S. Morita: Phys. Rev. Lett.103(2009) 266103. 計算科学センターの5年 ―シミュレーションと理論によるマルチスケールな物質・材料探索― センター長大野隆央 1.センターの目的 持続可能な社会を支える物質・材料の開発・ 改良を行うための研究基盤技術として、計算材 料科学は不可欠である。本研究センターの目的 は、ナノ領域で新しい機能を有する次世代材料 を実現するための理論基盤の構築を推進し、デ ザインルールを探索し新規な物性・機能を提案 することである。ナノ物質・材料及びナノ複合 体を対象に、構造、電子状態、物性・機能の相 関を統合的に解析するため、第一原理計算、超 大規模解析、多物性・機能解析、マルチスケー ル解析等の先端的なナノシミュレーション手法 を開発する。 2.活動概要 本研究センターは、第一原理物性G、第一原 理反応G、粒子・統計熱力学Gの3グループか ら構成され、第一原理解析法、大規模解析、量 子モンテカルロ法、分子動力学法、Phase-field 法等の様々な手法を用いて、物質・材料の物性・ 特性を、電子状態、電子相関、原子挙動の多様 な視点から解析し予測することを目指した。こ の5年間の主な研究プロジェクトを以下に示す。 NIMSプロジェクト研究 ・新機能探索ナノシミュレーション手法の開発 (2006年度~2010年度) その他、多数のプロジェクト研究に参加し、さ らに萌芽的研究も行った。主な外部資金プロジ ェクトは以下のとおりである。 科学研究費研究 ・第一原理オーダーN手法の開発とナノ物質へ の応用(2005年度~2008年度) ・ナノ構造形成・新機能発現における電子論ダ イナミクス(2010年度~2014年度) ・六方晶窒化ホウ素結晶の高輝度深紫外線発光 制御(2007年度~2009年度) ・ MDおよび統計熱力学手法による金属ガラス のナノ構造解析(2003年度~2007年度) 戦略的創造研究推進事業(JST-CREST) ・ Phase-field法による組織・特性予測法の確立 (2003年度~2007年度) ・ナノ細孔中の液体の分子シミュレーション (2008年度~2012年度) 文部科学省ITプログラム ・革新的ソフトウェアの研究開発―ナノ物質材 料マルチスケール機能シミュレーション(2005 年度~2008年度) ・イノベーション基盤ソフトウェアの研究開発 ―ナノデバイスシミュレーターの研究開発 (2008年度~2012年度) NEDO研究 ・水素貯蔵材料先端基盤研究事業「金属系水素 貯蔵材料の基礎研究」(2007年度~2010年度) 数値解析にはNIMS材料数値シミュレータを 使用する。1996年3月導入の初代システム NEC-SX4 から、NEC-SX5、 HITACHI-SR11000 を経て、2009年3月にはSGIシステム(6.7 TFLOPS)に更新され、計算能力は大幅に向上 した。また、計算機リソースの効率的な利用を 図るため、ITBL協定機関との間で計算機リソー スの一部開放と相互利用を行っている。 3.研究成果 この5年間の主な成果の一部を下記に紹介する。 他にも多くの成果があり、その詳細に関しては本 研究センターのホームページ等をご覧下さい。 3-1第一原理計算手法の開発 第一原理電子状態計算は、物質・材料の構造・ 物性・機能を高精度に解析・予測する代表的な 計算手法である。東京大学生産技術研究所と共 同して、ナノ物質の構造、及び物性・機能を解 析する第一原理計算プログラムPHASEを開発 した1)。 PHASEは、ナノ物質の原子構造・電 子構造等の基礎物性の解析に加えて、格子振動、 電子系及び格子系による誘電応答、非線形光学 応答等の様々な物性・機能の解析、STM、XPS 等の実験結果の解析、等多くの解析機能を有す る。また、多重並列化等の高速化アルゴリズム の開発・導入により、シリコン半導体中の浅い 不純物準位(図1)のようなnmスケールに拡 がった電子状態の解析等、1万原子規模の大規 模な高精度第一原理計算が可能である2)。 図1Si中のAs不純物準位の波動関数 3-2第一原理オーダーN法の開発 通常の第一原理計算手法では計算量が原子 数Nの3乗に比例して急激に増加する。このた め、数千原子以上を含む大規模系に対して第一 原理計算を実現するのは大変困難である。我々 は、英国ロンドン大学(UCL)のグループと協 力して、計算量、メモリ量がNに比例するオー ダーN法第一原理計算プログラムCONQUEST を開発している。並列化効率の向上、計算安定 性の改善により、半導体表面構造や巨大生体分 子に対して、数千、数万原子を含む超大規模系 に対する第一原理計算による全エネルギー計算、 構造最適化が可能となってきた。 応用研究例として、Si(001)基板上にエピタキ シー成長したGeナノ構造の安定性に対する研 究を行った。この系の2次元的成長で見られる 2xN構造と、3次元的成長の初期に現れるハッ トクラスターと呼ばれるピラミッド型構造の二 つの構造の安定性を調べた。3次元構造に対し ては、エッジ構造、ファセット構造が異なる3 つの構造モデルを考慮し、ハットクラスターの サイズが異なる数千から数万の原子を含む系に 対して、第一原理計算に基づく構造最適化を行 うことに成功した3)。図2左に、計算に用いた 最大サイズの系(約2万3千原子)の構造を示 す。同様の計算を2次元構造に対しても行い、 吸着Ge被覆率が3程度の時に、安定構造が2 次元から3次元に変化することを示した。これ らは実際に観測されている実験結果と一致する。 今後、大規模第一原理計算によって、ナノ構造 の成長機構解明、設計が行える事が期待できる。 また、生体分子系に対するオーダーN法第一原 理計算も開始し、多数の水分子に囲まれたDNA の複雑系に対してセルフコンシステント第一原 理計算を安定して行える事を示した4)。さらに、 我々がオーダーN法を実現するのに用いている 密度行列最適化手法が極めて精度の高い手法で あることを確認した。タンパク質の系に対して も同様の結果が得られている。 さらに、プログラムの並列化効率を向上させ、 テスト系への計算結果等から、次世代計算機に 図2計算に用いたGe/Si(001)ハットクラスタ ーの構造(左図)と2次元2xN構造と3次元ハッ トクラスター構造の吸着Ge1原子あたりのエ ネルギー よって数百万原子系に対する第一原理計算が実 現可能であることを示した。これらの結果は CONQUESTがこの分野で世界をリードする プログラムであることを示している。 3-3ナノ物質の伝導特性解析手法の開発 ナノ構造を通した量子論的な電子伝導は、 Si-CMOSデバイスのみならず、beyond CMOS 領域にある分子・スピントロニクスにおいて重要 な特性である。量子論的な伝導特性を高精度に解 析するための第一原理的解析手法を開発し、金属 電極に挟まれた有機分子からなる分子接合系等 に適用して、分子センサー・分子ダイオード等の 新規な伝導機能を予測・提案した。金電極で挟ま れた鉄ポルフィリン分子接合系(図3左)におい ては、鉄ポルフィリン分子は酸素・ 一酸化炭素等 の低分子を吸着し、この低分子吸着により電流・ 電圧特性が変化(図3右)するため、伝導特性変 化から吸着分子種を識別する分子センサーとし ての機能する可能性を提案した5)。 図3鉄ポルフィリン分子接合系と低分子吸着時 の電流・電圧特性 3-4 Massless Dirac coneを持つ有機導体の 第一原理計算による電子状態の解明 α -(BEDT-TTF)2I3がグラフェンと同様にフ ェルミ準位近傍でmassless Dirac coneを持つ 特異な電子状態を持つ可能性が日本のグループ のモデル計算により示唆されていた。第一原理 計算によりフェルミ準位近傍でmass -less Dirac coneを持つことを世界で初めて確認し、 実験とも定量的に比較を行い信頼に値するこの 物質のモデル導出することにも成功した6)。 図4 a-(BEDT-TTF)2I3のHOMO(赤)-LUMO(緑) バンドの電子状態 3-5金属酸化物分子への拡散量子モンテカ ルロ法の適用 酸化物金属分子は強相関電子系であり、大き なスピンが存在することから、密度汎関数によ り正確な状態及び全エネルギーの定性的な予言 が難しいことが知られている。基底関数の依存 性が少なく、電子間相互作用の効果を最も精密 に調べることのできる理論手法である拡散量子 モンテカルロ法によりマンガン酸化物分子の計 算を行い正確なエネルギーを計算により予言し、 従来の密度汎関数法による結果との比較を行い、 シミュレーションに使うべき交換相関相互作用 を明らかにした7)。 図5 (MnO)n分子のunit formula毎の結合エ ネルギー 3-6遷移金属錯体系の協力的相互作用の研究 遷移金属錯体系には、温度、圧力、光等の外 場による刺激で双安定状態間の相転移現象を示 す一群があり、現象の多様性のみならず多機能 性材料への応用の可能性からも注目されている。 スピンクロスオーバー (SC)化合物系等が典型 例である。従来のSC相転移の研究は、現象論 的取り扱いに限られていたが、ミクロな視点か ら協力現象において重要な役割を担う弾性相互 作用にもとづくモデルの構築を行い、分子動力 学(MD)法等を用いた物性の解析方法を開発 した。 その結果、局所的な格子歪みが協力的弾性相 互作用を生み出し、局所的な構造変化からグロ ーバルな構造変化に至る核生成機構及び相転移 機構の知見を得た。この弾性相互作用系の核形 成やドメインダイナミクスにおいては、系の表 図6核生成およびドメイン形成の様子.(a)弾性相 互作用系.バルク中.(b)弾性相互作用系.自由境 界.(c)短距離相互作用系 面や界面が重要な役割を担っており、ドメイン 形成や相転移のダイナミクスは、系の境界条件 によって大きく異なることを見出した8)。 3-7 BN等の層状化合物の第一原理計算 六方晶層状構造であるh-BN及びsp3結合に よる四面体構造を1次元的に積層した5H-BN を皮切りに、BN,SiC,AlNの各ポリタイプ構造 (図7にあるように2H~12H[一部30H]まで扱 った)の安定構造とその電子状態を求めた9)。 第一原理計算の結果、BNとAlNポリタイプに 関して、hexagonality (ポリタイプ構造内の六 方晶的な層の数と全層数との比)と全エネルギ ーが密接な関係を持つことが分かった。これは 最短の第3隣接原子対(陽イオンと陰イオンの 対)の存在(この数がhexagonalityと関係)に 起因する。共有結合性が重要なBNではこの第 3隣接原子対がより少ない構造がより安定とな る。一方イオン性の強いAlNでは当該原子対が 多い構造が安定となることが分かった。 図 7 2H,3H,4H,5H,6H,1 0H,12H ポリタイプ構 造(30Hは省略) 3-8複雑な酸化物の現実的モデル化 この研究では、様々な酸化物の性質を説明する 物理的に意味のあるモデルでありかつ第一原理 電子状態計算に基礎をおいた解として導いてい る。実際にはペロブスカイト酸化物等の電子的磁 気的性質を調べるために用い、特に、構造や軌道、 図8TbMnO3の平衡磁気構造(赤:Mn、緑:O) 磁性等の自由度の役割を研究し、反転対称性を破 る磁気秩序が磁性と強誘電性の結合(マルチフェ ロイシティ)を説明するというモデルをBiMnO3 やTbMnO3, HoMnO3で提案した。 3-9第一原理計算を用いた実測値再現と材 料特性の解明 局在化軌道に基づく新しい光学特性の計算 手法を確立し、典型的なガラス物質の非線形光 学特性の起源を明らかにするとともに、計算プ ログラムを一般に公開した10)。また原子核近傍 の電場勾配計算に基づく メスバウワー分光スペ クトルの再現による次世代赤外線通信材料の短 距離秩序の解明、 遷移状態計算や摂 動計算による光電 子スペクトルやフ ォノンスペクトル、 熱力学的特性の再 現による新しいホ ウ化物金属表面超 構造(図)の解明等 に成功した11)。 図9ホウ化物表面構造.(上) 新しい構造(下)ボラフェン 3-10 CNT束の機械的・電気的性質 カーボンナノチューブ(CNT)は、代表的なナ ノ構造物質として、特に一本一本のチューブの特 性・制御法について多くの研究がなされている。 我々は、NTの集合体としての特性について理論 予測を行った。半導体的性質を示すNTの束を構 成し、チューブに垂直な向きに圧縮応力をかけ、 構造の変化や電子状態の変化を非経験的に導い た。その結果、わずかの圧縮で金属化することや 不連続な変形挙動を示すことが導かれた12)。 図10計算による6.7GPa応力下でのCNTの変形 3-11光学的断熱操作による物質状態制御理 論の構築 物理定数と元素種を入力として物質特性を 決定しようとする第一原理計算とは相補的な方 法論に、第二量子化法に基づいた有効模型理論 がある。この枠組は、物質中の本質的自由度に 着目し、その振る舞いを規定する行列から出発 し、各種数学手法を駆使して物性の理解と新規 現象の開拓を目指している。その立場から、物 質の光学的性質の理解と、外場による高次物質 機能設計を狙った光学的手段による物質状態制 御を考察してきた。特に後者について、光の特 性を有効活用することで物質状態を操舵する光 学的断熱操作を提案し、これを用いて1次元有 機導体及びナノチューブ物質での非線形電気分 極13)と、2次元トポロジカル絶縁体での特異電 気伝導現象14)を理論的に予測した(図11)。 図11本理論から得た2次元トポロジカル絶縁体の 相図.横軸がスピン軌道相互作用の大きさ、縦軸が 試料作成時の基板効果、奥行きが照射光強度で、薄 皮の内部が特異な電気伝導を与える領域、外側が絶 縁領域.2色は伝導方向の違いを意味する 3-12バンド構造を反映した量子ホール効果 の理論 一様磁場中の2次元系では、ホール伝導度が 量子化される現象が「量子ホール効果」として 知られている。量子化された伝導度は占有状態 に対する位相不変量(チャーン数)で表現される。 図12グラファイトのバンド構造(上)と導かれ たチャーン数(下) 我々は現実的なバンド構造に対して位相不変量 を数値的に求める手法を開発し、グラフェンの マルチバンドモデルに応用した15)(図12)。 3-13第一原理状態図計算 強度や延性などの材料特性はその材料を構成 する相の構造や組織形態に大きく依存するため、 特性の優れた材料を開発するには、状態図の情 報が不可欠である。熱力学データの測定値が無 い場合、あるいは安定に存在しないため測定で きない場合に、第一原理計算による計算結果を CALPHAD法のデータベースに変換して予測 する方法が現実的である。 Ir-Nb系合金は融点が高く、Ni基耐熱合金と 同様のγ(fcc)+γ' (L12)2相組織が得られるため耐 熱材料として注目されるが、合金設計、合金開 発に不可欠な状態図情報が不十分である。熱力 学解析に必要な化合物の生成エンタルピー等の 基本的な実験データは極めて不足しているため、 阿部ら16)は、金属間化合物相のIr3Nb(L12), IrNb(L10), IrNb3(L12)について生成エンタルピ ーを第一原理計算により求めた。各化合物相の 自由エネルギーを副格子モデルで記述すること により、実験による相構成をほぼ再現した(図 参照)。今後、準安定相の問題、有限温度におけ る自由エネルギーの推定、TCP (Topologically Close-Packed)などの複雑な構造をもつ化合物 の熱力学量の推定など、これまでには取り扱い が難しかった分野に広がっていくと思われる。 図13 Ir-Nb 2元系計算状態図 3-14分子動力学法による金属ガラスの構造解析 バルク金属ガラスは極めて高いガラス形成 能を有し、丸棒や板状等のバルク形状アモルフ ァス試料を作製することができる。このため、 新材料として注目されているが、金属ガラスの 構造については未解明な点が多く、特に、金属 ガラスの特徴である正20面体等のクラスター はある配置のパターンを形成しており、いわゆ る中距離秩序構造(Medium Range Order, MRO)と呼ばれているが、詳細は不明であった。 下野ら17)は、A-B2元系合金について、原子間 相互作用としてL-J 2体ポテンシャルを用いた 分子動力学法により、液体状態から急速冷却す ることによりガラス(アモルファス)構造を作 成し、構造解析を行った。この系でのガラス構 造の特徴である正20面体構造クラスターに着 目して解析を行った結果、存在する正20面体 構造クラスターの分布に明らかな対称性は認め らないが、図14に示すように、互いに連結し たネットワーク構造が存在することを明らかに した。冷却直後の状態(a)では、正20面体クラ スターそのものの密度が少なく、その結合もま ばらであるが、ガラス転移温度直下での時効熱 処理により結合が全体に広がりネットワークを 組む(パーコレーション(b))ことが分かった。 図14急冷時冋及び時効処理後(b)のA40B60金 属ガラスにおける正20面体クラスター間結合の 空間分布 3-15 Phase-field法による鉛フリーはんだミ クロ組織の解析 Phase-field法を用い、ミクロ組織の制御因子 を評価し、得られた情報を材料開発に還元する ための研究を行った。環境への配慮からはんだ の「鉛フリー」化が義務付けられ、代替合金と してSn-Ag-Cu系の研究が行われている。しか し、実用化には様々な課題があり、その一つに、 はんだ付け表面に樹状組織(ミクロ組織)が現 れて表面が荒れる問題があった。このような樹 状組織の生成割合は、平衡論的な熱力学理論で は説明できない。そこで動的な変化過程を解析 できるPhase-field法によって、ミクロ組織の 支配因子の計算を行った18)。Sn-Ag-Cu系はん だのミクロ組織は主に表面を荒れさせる樹状組 織とそうではない共晶組織によって構成される。 初晶Sn6Cu5の析出に対する駆動力が臨界値に 達すると共晶凝固が開始すると仮定して計算し た結果、Cuの添加量が共晶相量を支配してい ることが分かった。図15にCuの添加量と共晶 率の関係を計算した結果を示す。 図15 Cu添加量と共晶率の関係 3-16 Fe-Cu-Mn-Ni系合金におけるCu析出 のPhase-fieldシミュレーション Fe-Cu-Ni-Mn4元系合金は軽水炉圧力容器鋼 の基本成分系である。特に、Cuの析出が材料 の脆化の原因と考えられ、Phase-field法により、 Cu析出粒子の界面偏析が解析可能であること が示された19)。図16は873K時効におけるFe- 15at%Cu- 1at%Mn- 1at%Ni 4 元合金の組織形 成で、上段がCu濃度(青:0%Cu,黒:100%Cu)、 中段がNi濃度(黒:0%Ni,白:10%Ni)、及び下段 がMn濃度(黒:0%Mn,白:10%Mn)を明暗で表 現している。Cuについて黒から赤の変化はbcc からfccへの変化に対応する。初期にCu(bcc) 相が形成され、MnとNiはCu-rich相に分配さ れるが、時効の進行に伴いNiはCu(bcc)析出相 の界面に若干濃化するがMnは偏析しない。 Cu(bcc)がfccに変化すると、NiとMnは界面 に偏析し、偏析傾向も強まる。MnやNiの界面 偏析は他の研究者によって実験的にも確認され ており、本結果は圧力容器の機械的性質を理解 する基本情報を与える成果と考えられる。 図16 873K時効におけるFe-15at%Cu-1at% Mn-1at%Ni合金の組織形成シミュレーション 4.今後の研究動向 計算科学の進展には、解析理論や数値解析手 法の進歩とともに、計算機パワーの進展が不可 欠である。計算機の性能は10年で約1000倍、 という驚異的な速度で向上しており、現在、ピ ーク性能10 PFLOPS級の「次世代スーパーコ ンピュータ(京)」の開発が進められ、数年後に は確実に、ハイエンド計算機のピーク性能はペ タ・フロップスの時代を迎える。今日、持続可 能な社会を構築するため、環境・エネルギー問 題の抜本的な解決が模索され、革新的な原理・ 概念、新規な物質・材料の探索が社会的な課題 となっている。計算科学は、新しい方法論・ア ルゴリズム・ソフトウェアの研究開発を深化さ せ、発展を続ける計算機環境を効率的に最大限 に活用することによって、より現実に近い条件 で複雑な現象を解析・理解し、新たな可能性を 系統的に探究する重要な手段として、物質・材 料研究を大きく進展させるものと期待される。 参考文献 1)T. Ohno, et al.: Proceedings of SC07 Conference (Reno, November, 2007). 2)T. Yamamoto, et al.: Physic Letters A 373(2009) 3989. 3)T. Miyazaki, et al.: J. Phys. Soc. Jpn. (Letters) 77 (2008)123706. 4)T. Otsuka, et al.: J. Phys. Condens. Matter. 20 (2008)294201. 5)H. Kondo, et al.: to be published in J. Phys. Chem. C. 6)H. Kino, et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 78 (2009) 105001. 7)H. Kino, et al.: J. Comp. Theor. Nanoscie. 6 (2009)2583. 8)M. Nishino et al.: Phys. Rev. B, 82(2010) 020409R. 9)K. Kobayashi and S. Komatsu: J. Phys. Soc. Jpn. 77(2008)084703. 10)S. Suehara, T. Konishi, and S. Inoue: Phys. Rev. B 73(2006)0922031. 11)S. Suehara, T. Aizawa, T. Sasaki: Phys. Rev. B 81(2010)085423. 12)D. Chen et al.: Phys. Rev. B 77(2008)125412. 13)J. Inoue: Phys. Rev. B 81(2010)125412. 14)J. Inoue and A. Tanaka: Phys. Rev. Lett.105 (2010)017401. 15)M. Arai, Y. Hatsugai: Phys. Rev. B 79(2009) 075429. 16)T. Abe, et al.: Comp. Coup. Phase Diagrams and Thermochemistry 32(2008)353. 17)M.Shimono and H.Onodera: Mater. Sci.Forum, 539-543(2007)2031. 18)M. Ode, et al.: J. Electron. Mater. 36(2006) 1969. 19)T .Koyama, et al.: Mater. Trans., 47(2006)2765. 量子ドットセンターの5年 ―高度ナノ構造制御・創製技術の開発― センター長迫田和彰 1.センターの目的 「量子ドットセンター」という名称は、前セ ンター長の小口信行氏の命名による。小口氏は 量子ドット研究の創成期(1990年頃)に「液滴 エピタキシー法」(図1)を考案して、世界に先 駆けて量子ドット(ナノ結晶)の自己成長に成 功した1)。研究の初期にはⅡ-Ⅵ族半導体が主な 対象であったが、その後はⅢ-Ⅴ族半導体、特に AlGaAs基板上のGaAs量子ドットの自己成長 が中心テーマとなった2)。これは一つには、 GaAs/AlGaAs系が格子定数の差の小さい、い わゆる格子整合系であって、もう一つの自己成 長法であるStranski-Krastanov法(SK法)で は作製できないことによる。 本稿で詳しく述べるように、この系に着目し たことは実に卓見であり、この5年間の研究の 成果によってSK法では不可能な等方的で内部 ひずみが無く、極めて良質な量子ドットが実現 できた。この成果により、基礎科学の分野でた いへん重要な少数多体系の電子相関の研究に格 好の舞台を提供するとともに、秘匿性の高い情 報通信の実現などに必要な量子もつれ合い光子 の新しい発生技術に道を開いた。 このような背景から、量子ドットセンターの 研究目的は、第1には液滴エピタキシー法を中 心とする結晶成長技術の高度化による良質の半 導体ナノ構造の創製、第2には顕微分光法や精 密な表面解析技術によるナノ構造の評価・解析、 第3には量子ドットの特長を生かしたデバイス 応用の探索である。また、第4の目的として、 ナノフォトニクス技術との融合による、新規な 光機能の開拓を目指した。 2 .活動概要 研究目的を達成するために、この5年間の研 究プロジェクトにはナノ構造創製、ナノフォト ニクス、高分解能電子顕微鏡など、分野の異な る研究者が参加し、互いに協力して研究を進め た。特に、液滴エピタキシー等による試料作製 と単一ドット分光による特性評価は研究プロジ ェクトの両輪であり、両者が緊密に協力したこ とで次節以下で述べるような優れた研究成果が 得られた。 ナノフォトニクス分野においても、フォトニ ック結晶共振器によるGaAs量子ドットの発光 増強の実現や、プラズモン共振器による偏光制 御された2波長赤外発光、色素会合体ナノファ イバーにおけるポラリトン光伝搬の発見、等電 子トラップによる単一光子発生等、オリジナリ ティの高い研究成果が得られた。 この間、常勤研究者とポスドクによるセミナ ーを計114回開催し、研究動向についてセンタ ーメンバー全員で情報共有することでプロジェ クト研究の促進を図った。外部連携については、 ミラノ大学(イタリア)、フィレンツェ大学(イ タリア)、INSA (フランス)、ノッティンガム 大学(イギリス)などとMOUを結んで共同研 究を行うことなどで、プロジェクトの効率的な 実施を図った。さらに、2010年5月30日~6 月3日にはつくば国際会議場で、International Conference on Nanophotonics 2010 を米国光 学会(OSA)との共催で開催し、国内外から約 300名の参加者を得て、本プロジェクトの研究 成果を発表するとともに、この分野の国際交流 に貢献することができた。 図1液滴エピタキシー法の原理 3.研究成果 3-1液滴エピタキシー法の高度化 ナノメートルサイズの量子ドット中の伝導電 子やホールは、量子閉じ込め効果により、ドッ トサイズに依存した離散的なエネルギー準位を とる(図2)。また、荷電粒子間の距離がバルク 結晶よりも小さく、強いクーロン相互作用が働 くので励起子が安定化する。さらに、キャリア 数の調節が容易で単一光子発生が可能といった 特徴がある。 通常行われるように、量子ドット(GaAs) を取り囲むバリア層(AlGaAs)を光励起して キャリアを注入する場合(図3)、励起光強度の 調節によりドット内のキャリア数を調節できる。 単一ドット分光法で蛍光スペクトルを測定する と、励起子、正負のトリオン、励起子分子(図 4参照)の鋭い発光線を観測できる。水素原子 (H)になぞらえると、励起子⇔H、トリオン ⇔H-、H2+、励起子分子⇔H2の対応関係があ るが、原子の場合とは異なって、量子ドットで はドットの大きさを変えることでクーロン相互 作用や交換相互作用の大きさを変化させること が可能であり、少数多体系の電子相関を研究す る格好の舞台を提供する。さらに、電子とホー ルの対消滅による励起子分子から励起子への光 学遷移、および、それに引き続く励起子から基 底状態への光学遷移により(図5)、量子暗号通 信などで必要な量子もつれ合い光子対が生成可 能である。 しかし、広く用いられているSK法による歪 み系量子ドットの自己成長では、基板と量子ド ットの格子定数の差に起因する内部応力により、 キャリア間のクーロン力に匹敵するほどの大き なピエゾ電場がドット内に発生して、エネルギ ー準位をランダムに大きくシフトさせてしまう。 また、ドット形状の異方性に伴う閉じ込めポテ ンシャルやピエゾ電場の異方性によって、本来 は縮退していて円偏光の発光を与えるJz=±1 (Jzは全角運動量の基板に垂直成分)の励起子 準位が、直線偏光の発光を与える2つの準位に 分裂する(Fine-Structure Splitting、図 5)。 このような励起子準位のシフトや分裂は交換相 互作用の量子サイズ効果を覆い隠してしまうの で、少数多体系の電子相関の研究にとって大き な障害になっている。さらに、量子もつれ合い 光子対の発生においては、2つの経路で発生す る2組の光子対が互いにエネルギー的に区別さ れてしまうので、もつれ合いの程度を減少させ るという問題を引き起こす。 これに対して、液滴エピタキシー法による格 子整合系量子ドットの自己成長では、基板と量 子ドットの格子定数が等しいので、内部応力に 図2ドットサイズによる蛍光波長の変化 図3光励起によるキャリア注入 図4量子ドットに捕捉されたキャリア (e:電子,h:ホール) 図5量子ドットの励起子分子からの発光過程 よるピエゾ電場が生じないという極めて優れ た特長をもつ。そのため、液滴エピタキシー法 による量子ドットは、少数多体系の電子相関の 研究やもつれ合い光子対発生の検証実験にと って理想的な材料である。 しかし、液滴エピタキシー法ではGa液滴の 形状保持のために、砒素分子線を供給してGa As結晶を作製する際の試料温度を200℃以下 に抑える必要があった。結晶化後のGaAs量子 ドットについても形状保持の目的から従来は、 AlGaAsキャップ層の成長温度を200℃以下に 抑えていた。この低温成長プロセスにより、過 剰の砒素原子の取込み等による結晶品質の低下 が生じていた。ところが、400℃でアニーリン グを試みたところGaAs結晶の形状変化が僅か であることを発見し、同じく 400℃でキャップ 層成長が可能であることを見出した。これによ り結晶品質と光学特性が大幅に改善できた3)。 図6は単一ドット分光法で測定した発光スペ クトルの線幅(均一幅)のヒストグラムである。 400℃でのアニールとキャップ層成長で均一幅 が劇的に減少することが分かる。バリア層の光 励起によるキャリア注入の場合、バリア層の欠 陥準位に捕えられたキャリアがドット中のキャ リアにランダムなクーロン力を及ぼして、電子 準位が時間的に揺らぐこと(スペクトル拡散) が知られている。定常光測定ではこのランダム なスペクトルの揺らぎが均一幅として観測され る。したがって、均一幅の劇的な減少は欠陥準 位の減少を意味する。また、励起子の蛍光寿命 も400℃のアニールにより2倍程度に伸びてい ることから、欠陥準位の低減による無輻射再結 合の抑制も結論できる。 次に、従来から使用してきたAlGaAs (100) 基板面に代えて、より対称性の高い(111)A面を 用いることで、生成する量子ドットの円対称性 を向上させることに成功した。この結果、構造 異方性に伴う微細構造分裂幅も格段に減少し、 図7に示すように、ドットのサイズに依らず(し たがって、ドットの発光エネルギーに依らず)、 世界最高レベルの小さな分裂幅を達成した4)。 励起子のエネルギー(したがって、ドットサ イズ)の異なる多数のGaAs量子ドットについ て、正負のトリオンと励起子分子の結合エネル 図6均一幅のヒストグラム.(A)従来法,(B)400℃ でアニールとキャップ層成長.X:励起子,T:トリ オン,XX:励起子分子 図7 GaAs量子ドットの微細構造分裂幅 図8トリオン(X-,X+)と励起子分子(XX) の結合エネルギーのドットサイズ依存性 上:実測値,下:理論値 ギーを単一ドット分光法で測定した。SK法に よる歪み系量子ドットの場合、内部ひずみに伴 う大きなピエゾ電場や構造異方性の影響で、こ れらの結合エネルギーはランダムに分布する。 これに対して液滴エピタキシーによる格子整合 系量子ドットでは、図8に示すように滑らかな 依存性が観測された5)。 量子モンテカルロ法に よる理論値とも整合する測定結果が得られたこ とから、トリオンや励起子分子などの少数多体 系の電子相関の研究に格好の試料であることが 証明された。 3-2フォトニック結晶光共振器による発光 促進効果の検証 ナノテクノロジー融合センターの協力を得て、 GaAs量子ドットを埋め込んだフォトニック結 晶光共振器を作製した(図9) 6)。光共振器は、 厚みが約 1μmのGaAs基板に電子線リソグラ フィで周期的に空気穴を開けて作製した。SEM 像中央の空気穴の存在しない部分が共振器とし て働く。共振波長は空気穴の周期(格子定数、 a)を変化させることにより調節できる。 種々の周期をもつ共振器を作製して発光スペ クトルを測定したところ、共振波長に一致する 量子ドットの発光が強く観測された(図9)。ま た、時間分解測定で蛍光寿命の短縮も観測され たことから、光共振器による発光促進効果(パ ーセル効果)が確認できた。パーセル効果はこ れまでInAs量子ドット(発光波長は1.3μm程 度)などでも観測されている。GaAs量子ドッ トの場合、発光波長が0.75μm程度でInAsの 約半分であることから、フォトニック結晶共振 器の格子定数も約半分の200nmにしなければ ならず、このような小さなフォトニック結晶共 振器を作製してパーセル効果を確認したのは、 この研究が最初である。 3-3 GaAs量子ドットレーザー 結晶品質の良いGaAs量子ドットが得られた ので、一つ目のデバイス応用としてレーザーの プロトタイプを作製した。まず、パルス光励起 による室温までのレーザー発振を確認した。7) 次に、量子ドット層をp型とn型のAlGaAs層 で挟んだ電流注入型のレーザーを作製した(図 10) 。その際、量子ドットの発光波長を揃えて 効率的なレーザー発振を実現するために、低砒 素圧での結晶成長や高温熱処理による高さの均 一化など、ドットのサイズ揺らぎを低減する工 夫を行ったところ、不均一幅が14meVとたい へん小さなGaAs量子ドットを得ることができ た。77Kにおいてパルス電流注入でレーザー発 振が確認でき、その際の発振閾値電流は8.4 kA/cm2であった。格子整合系量子ドットのレー ザー発振は世界初である。 図9上:フォトニック結晶光共振器の SEM像,下:発光スペクトル 図10 GaAs量子ドットレーザー 3-4等電子トラップによる単一光子発生 窒素不純物(N)をδドープしたGaP中の等 電子トラップをMOCVD法で作製して、束縛励 起子からのエネルギーのそろった単一光子発生 に成功した(図11)8)。量子ドットの離散的な エネルギー準位からの発光でも単一光子発生は 可能であるが、発光波長がドットサイズに依存 することが問題になる場合がある。これに対し て等電子トラップの発光波長は結晶構造だけか ら決まるので、サイズ依存性の問題が無い。特 に、MOCVD法で作製したGaP結晶は完全性 が高く、残留ひずみや転移の影響が無いために、 50μeVという世界最小の不均一幅を達成した。 顕微分光法で測定した束縛励起子の発光の光 子相関(図11)を見ると、遅延時間がゼロの時 に2光子の同時検出の確率がほぼゼロであり、 明瞭なアンチバンチングが観測されたことから、 単一光子発生が検証できた。 3-5プラズモン共振器による偏光制御され た2波長赤外発光 先に述べたフォトニック結晶共振器に加えて、 金属/誘電体/金属の3層構造(MIM構造) から成るプラズモン共振器に関しても、電磁波 の効率的な閉じ込めや局所電場の増強効果につ いて詳しく検討してきた。この成果に基づいて、 厚み(w)が300 nm程度の空気ギャップをも つMIM共振器の2次元アレイを作製して、特 性を調べた9)。 図12に示すように、シリコン基板に周期的 な線状の突起を形成してクロムと金の金属層を 蒸着し、エポキシ樹脂に反転転写した後にシリ コン基板をアルカリで溶解除去することにより、 MIM構造(この例では誘電体は空気)の2次 元アレイを作製した。その際、基板の線状突起 はピッチ(p)が異なり、互いに直交するチェ ッカーボード構造とした。 プラズモン共振器の共鳴電場は空気溝と直交 する方向に偏光しており、また、pの値に応じ て共振波長が変化する。これを利用して、偏光 制御された2波長赤外発光を実現した。図12 に示すように、試料を200℃に加熱した時の赤 外発光スペクトルは水平偏光(H)と垂直偏光 (V)とで異なる波長にピークをもつ。このよ うな赤外光源を用いることで、2種の有機材料 の混合物の組成分析が、分光器無しで行えるな どの応用が期待できる。 3-6会合体ナノファイバーにおけるポラリ トン光伝搬の発見 チオシアニン色素が一定の条件の下で、100 nm程度の太さのファイバーやリング状の会合 図11上:GaP中のNN4等電子トラップの構造, 下:光子発生のアンチバンチング 図12プラズモン共振器アレイの作製プ ロセスと2波長赤外発光 体を形成することを見出した(図13)。絞った レーザー光でファイバーの一端を光励起すると、 チオシアニンの発する蛍光が数百ミクロンオー ダー の長距離にわたって伝搬する ことが確認で きた。図にも示されているように、ミクロンオ ーダーの小さな曲率半径でファイバーを曲げた 場合でも、大きなロス無しに光伝搬が観測され た。 通常の光ファイバーに見られるような、コア 部とクラッド部の屈折率差による全反射を利用 した光伝搬の場合には、伝搬光の波長と同程度 の曲率半径でファイバーを曲げれば、全反射条 件が満たされないのでたいへん大きな伝搬ロス が生じる。したがって、会合体ナノファイバー の光伝搬機構は従来の光ファイバーとは全く異 なる。 詳しい解析の結果、シアニン色素の電子励起 状態と電磁波とが混然一体となった励起子ポラ リトンによる伝搬であることが判明した10)。し たがって、会合体ナノファイバーは従来には無 い全く新しいタイプのファイバーであり、光集 積回路などへの応用が期待される。 4.今後の研究動向 液滴エピタキシーによる量子ドットの創製研 究については、均一幅と微細構造分裂のいっそ うの低減を行って、単一光子源やもつれ合い光 子源としての性能実証に進む。GaAs量子ドッ トレーザーについては、ドットサイズの均一性 のいっそうの改善やドット数密度の増大などに より、発振閾値の低減と室温発振を目指す。ま た、量子ドットレーザーに期待される良好な温 度特性を検証する。等電子トラップについては、 すでにたいへん小さな均一幅と不均一幅が実現 できているので、パーセル効果やレーザー発振、 光子数のもつれ合い状態実現など、多くの応用 の可能性がある。プラズモン共振器については、 本稿で述べた赤外光源としての応用の他に、共 振波長付近の波長領域で期待される負の屈折率 を利用した、光波領域メタマテリアルとしての 応用を探りたい。特に、非線形光学材料との組 合せによる新規デバイスの実現が期待される。 会合体ナノファイバーについては、励起子ポラ リトンの伝搬特性をさらに詳しく解析して、い っそうの特性向上につなげたい。このように、 第二期プロジェクト研究の成果は第三期プロジ ェクトの重要な要素技術であり、多くの応用展 開が期待される。 参考文献 1)N. Koguchi, S. Takahashi and T. Chikyo: J. Cryst. Growth 111(1991)688. 2)小口信行,渡邉克之,間野高明,黒田隆,迫 田和彰:応用物理74(2005)343 図13会合体ナノファイバーによる光導波 3)T. Mano et al.:Nanotechnology 20(2009) 395601. 4)T. Mano. M. Abbarchi, T. Kuroda, B. Mcskimming, A. Ohtake, K. Mitsuishi and K. Sakoda: Appl. Phys. Express 3(2010) 065203. 5)M. Abbarchi et al.: Phys. Rev. B 82(2010) 201301. 6)T. Kuroda et al.: Appl. Phys. Lett. 93 (2008)111103. 7)T. Mano, T. Kuroda, K. Mitsuishi, Y. Nakayama, T. Noda and K. Sakoda: Appl. Phys. Lett. 93(2008)203110. 8)Y. Sakuma, M. Ikezawa, M. Watanabe and Y. Masumoto: J. Crystal Growth 310 (2008)4790. 9)H. T. Miyazaki et al.: Appl. Phys. Lett. 92 (2008)141114. 10)K. Takazawa et al.: Phys. Rev. Lett.105 (2010)067401. 量子ビームセンターの5年 ―ナノ物質・材料の創製・計測のための量子ビーム基盤技術の開発― センター長藤田大介 1.センターの目的 「量子ビーム」とは、光量子、イオン、電子、 中性子、中間子、ニュートリノ等のビームの一 般的総称であり、加速器や高出力レーザー装置、 原子炉等の施設から供給される種々の広範なビ ームを含む概念である。 ナノ物質・材料研究に大きな飛躍をもたらす には、量子ビームの持つユニークな特徴、すな わち高分解能性、高感度性、可干渉性、非平衡 性、高制御性等を相補的に活用し、革新的なナ ノ材料創製技術や、他の手法では実現不可能な 解析評価手法を開発することが有力である。し かし、それまでの量子ビーム技術では、「物質・ 材料へ適用する高度な構造解析技術の進展不 足」、「ナノ材料創製、計測技術における技術的 限界」等の問題があった。このため、第三期科 学技術基本計画の重要政策(2005年4月)に おいて、融合領域の例として量子ビームが強調 され、また、原子力委員会新計画策定会議(2005 年4月)において、放射線の積極的利用が謳わ れ、国は、高品位な放射光、中性子等を利用す る「量子ビームテクノロジー」なども活用して、 探索的な研究や新しい分野を開拓する研究を推 進すべきとされた。 当機構の放射光、中性子ビーム、原子ビーム 等による高度材料解析技術やイオンビームによ る材料創製ポテンシャルを活用して、ナノ物 質・材料の創製、造形、制御、計測に資する基 盤技術を開発することにより、これらの社会的 要請に応えることができる。本プロジェクトで は、先端的量子ビームを開発・利用し、物質・ 材料研究基盤を構築することを目的とした。 2.活動概要 まず、高輝度放射光を用いて従来の表面分析 技術や顕微鏡技術等によっては観察・評価する ことが困難な「埋もれた」界面のナノ構造を超 高分解能で非破壊的に解明する新解析ツールを 確立し、専用ビームライン測定装置群の次世代 化によってより複雑なハイブリッド構造を持つ ナノ材料の構造解析に成功した。また、中性子 と放射光を包含する先導的粉末構造解析ソフト ウェアを開発することで計測解析技術の複合的 高度化を図った。次にNIMSの材料創製基盤と の組み合せが物質・材料研究に新たな突破口を 開くことを半導体・光・磁性・超伝導・電池・ 燃料電池材料などにおいて挑戦した。さらに、 本プロジェクトでは、大電流重イオン・レーザ ー複合技術を開発し三次元ナノ構造の形成法を 確立するとともに、その形成過程や構造の詳細 を各種量子ビームを用いて評価することで、機 能素子材料の開発を先導した。そして、イオン ビームを用いた材料創製技術の高度化が、計測 解析技術の複合的高度化により開かれた突破口 から実用ナノ材料につながる方策となり得るこ とを示した。 3.研究成果 3-1放射光によるナノ物質・材料研究基盤技 術 3-1-1表面・埋もれた界面の新しい計測技術 X線反射率法は、薄膜の深さ方向の精密構造 (各層の膜厚や密度、表面・界面のラフネス等) を非破壊に与える分析技術である。これまで十 分でないとされてきた微小領域または短時間で の測定に関しても、最近大幅な高度化がなされ つつある1)。 半導体検出器を用いて白色X線の反射スペク トルを測定するエネルギー分散型X線反射率法 は、角度走査を行うことなく等価な情報を比較 的迅速に取得できる技術として1970年代から 知られていた2-6)。微小角域でのθ/2θ走査を行 う通常のX線反射率法に比べると、入射X線の照 射している領域が常に固定されており、その大 きさを小さくすることで、微小領域の分析も原 理的に可能になる。にもかかわらず、実際には 応用範囲がきわめて限られており、あまり普及 していないのは、データの品質に関わる以下の 問題点のためと考えられる。(1)一度に取得可 能なデータの横軸(散乱ベクトル)の範囲が、 X線源の持つスペクトルの広さにより決まる。 シンクロトロン放射光も含め、これまでの多く のX線源では十分な広さをカバーできなかった。 (2)構成元素の吸収端の影響を受け、そのエネ ルギー近傍のデータ点が使いにくく、解析も単 純ではない。(3)反射率は、反射X線スペクトル と入射X線スペクトルの比であり、正確な入射X 線スペクトルを評価する必要があるが、これは 必ずしもやさしくない。特に連続的に平滑では ない入射X線スペクトルの場合は、問題を起こ しやすい。(4)検出器のエネルギー分解能によ って横軸の分解能が支配されるが、多くの場合、 通常のX線反射率法よりも劣る。(5)半導体検出 器はパルス計数型の検出器であるため、扱える 計数率に制限があり、迅速測定を目指す場合、 通常のX線反射率法よりは速くても、大きな角 度広がりを持つ単色X線を用いる技術には及ば ない。 上述の問題点は、X線源に着目することによ り解決できる。具体的には、約100 keV (また はそれ以上の)高エネルギー域に及ぶ広い滑ら かな連続スペクトルを持つ白色放射光を利用す るとよい7)。わが国のSPring-8の偏向電磁石 光源は、最もこの目的に適している。唯一困難 と思われた微小ビームの形成についても、マイ クロスリット(長い平行金属板の間隙)の技術 により、平行性を犠牲にすることなく 17μ(H)×5.5μ(V)のサイズに整形することがで きるようになった。 従来、不均一試料、パターン試料をX線反射 率の測定対象にすることは困難であった。今回、 高エネルギー白色放射光の微小ビームが得られ たので、金属薄膜のパターン試料上の1本の線 のみに照射して測定を行った。図1に結果を示 す。観測された干渉パターンより薄膜の膜厚は 100 nmと求められた。測定時間は120秒を標 準としたが、図に示すように20秒程度でも実用 的な結果が得られる。1~5秒でさえ主な特徴は 確認できているが、さすがに1秒以下で、時々 刻々の変化を追うタイプの測定は難しい。これ はX線源ではなく、検出器による制約である。 しかし、短時間で効率的に多数の試料、もしく は同一試料上の多数の地点を測定するのには十 分である。また、場所により異なる金属薄膜が パターニングされている試料を移動させ、照射 位置を連続的に変えながら、反射スペクトルを 繰り返し取得する実験を行った。金属の種類に より臨界エネルギーが異なり、同じX線エネル ギーにおける反射強度が異なるため、その違い をよく反映したラインプロファイルが得られた。 X線反射率は深さ方向の精密情報を与えるが、 このようなパターン試料上の走査と組み合わせ ることにより、三次元的な解析が実現できる。 10μオーダーの空間分解能と1点あたり数10~ 100秒程度で測定できる迅速さを生かすことに より、このような高度な解析に道を開くことが 可能になった。 3-1-2準結晶の散漫散乱の解析法とその応用 合金結晶にしばしばみられる結晶の短距離秩 序によるX線散漫散乱は準結晶にも頻繁に見ら れるが、その解析法は知られていなかった。そ こで準結晶の高次元解析法の応用として、一部 に準結晶の高次元空間での記述を用いた散漫散 乱の強度式を与えた8-10)。さらにこの式の妥当 性を検証するため、この式を簡単な準結晶構造 と見なされるPenrose図形のフェイゾンフリッ 図1微小領域のX線反射率測定.石英ガラス基板 上の100ミクロン幅でパターニングされたクロム 薄膜のライン1本のみのX線反射率測定 図2 Penrose図形のフェイゾンフリップによる散漫 散乱の解析的計算(a)と数値計算(b)の結果 プによる散漫散乱に適用して、数値計算の結果 と比較した。図2に導いた公式を適用して得ら れた散漫散乱強度と数値計算の結果を示す。2 つの結果は非常に良く一致し、式の妥当性が確 かめられた。またこの式を実際の10回対称 AlNiCo準結晶の2つの相(b-Ni相とS1相)の散 漫散乱の解析に適用した。散漫散乱の測定はこ れまで主に4軸回折計を用いて行われてきたが、 長時間の測定が必要であった。逆格子空間の広 い範囲の散漫散乱を短時間で測定するため、二 次元検出器用のソフト開発を行った。これを用 いてKEK BL8Bでイメージングプレート検出 器を用いて測定した10回対称AlNiCoおよび 20面体対称ZnSc準結晶のデータ処理を行って、 散漫散乱強度分布を決定し、散漫散乱強度測定 の(10倍以上の)迅速化が行えることを実証し た。 3-2中性子散乱によるマルチスケール解析 とナノ材料イノベーション ミクロなプローブである中性子は、水素やLi や酸素等の軽元素を検出することに優れ、金属 等の重元素に対しても大きな透過力を有する。 さらに、電子の持つスピンと相互作用するとい う優れた特徴を持っている。これまでNIMS中 性子散乱グループ(NSG)は、原子力開発機構 の研究炉JRR-3を始めとした国内外の中性子 源や、2008年に共用を開始した大強度核破砕型 中性子源J-PARC/MLFを用いた中性子散乱実 験に上記の解析技術や計測技術を適用し、マル チスケール評価の手法を確立することをめざし てきた。さらに、その有効性が特に期待できる ナノ複相組織材料やエネルギー変換材料を対象 として、上記の手法がナノ物質・材料の開発の 突破口となり得ることを実証することに主眼を おいて来た。 3-2-1マルチスケール評価技術:粉末回折法 NSGの泉らは、自身が2000年に開発したX 線・中性子粉末構造解析の世界的スタンダード ソフトREIETAN-2000の後継統合ソフトとし て、次世代多目的パターンフィッティング・シ ステムRIETAN-FPを開発した11)。まず、2005 年度にベータ版の公開、2006年度のGUIによ る解析支援環境を構築に続き、2009年度には RIETAN-FPの正式版を一般公開した。この RIETAN-FPの特徴は、MEM法を用いること で、従来解析の難しかった乱れた原子配置や、 化学結合、非局在電子、非調和熱振動を三次元 的に可視化することができるようになり、材料 研究の幅広い分野での利用が期待されている。 3-2-2マルチスケール評価技術:小角散乱法 X線小角散乱装置と原研の中性子小角散乱装 置の相補的利用基盤を構築する目的で、2006 年度にCrをターゲットにした低波数-高輝度型 のX線小角散乱(SAXS)装置を導入した。こ の高輝度-高透過能型ラボX線源の導入により 鉄系合金における評価可能な最大粒径が30nm から100nmへと向上した。既存のMoをター ゲットにしたSAXS装置との併用により、可能 な空間スケールを大幅に拡大させることに成功 した。また、中性子・X線の小角散乱プロファ イル強度の絶対評価を行うことにより、原子に よる散乱長の違いを利用した合金コントラスト バリエーション(ACV)法を開発した12)。この 方法は、ナノスケールの析出物の数密度やサイ ズの定量評価だけではなくて、組成情報も得ら れるという新たな利点があることがわかった。 3-2-3燃料電池用正極材料の高温におけるそ の場観察 燃料電池材料開発では、水素や酸素等の軽元 素の可動イオンが材料中でどのように動くかを 捕らえることが、材料設計上非常に重要である。 NSGの泉らと東工大学の八島グループは、高温 中性子粉末データにRIETAN-FPを適用し、次 世代固体電解質型燃料電池用の電極材料として 有望なPr2NiO4系物質の高温における酸素イオ ンの拡散経路の可視化に世界で初めて成功した (図3参照)13)。 図3 Pr2NiO4系物質の高温における酸素イオン の拡散経路の可視化 3-2-4粉末プロセスの磁場配向過程の直接観 測 セラミックスの中でもアルミナ材料は、電気 絶縁特性、耐熱性、力学特性、熱伝導、光学特 性が優れているため広く用いられている。アル ミナ材料を形成するアルミナ微粒子を強磁場環 境下において一定方向に配向することにより、 上記の特性は更に向上することが知られている。 しかしながら、磁場による配向をより完全にす るためには、微粒子の配向過程の解明が求めら れていた。NSGの寺田らは、JRR-3で中性子 散乱実験を行い、10テスラまでの磁場下で、溶 媒中に分散したアルミナ微粒子が配向する過程 を観察することに初めて成功した14)。 3-2-5鉄鋼材料の遅れ破壊の原因となる微量 水素の直接観測 高強度鋼の突然の破壊の原因となっている 水素脆性を防ぐ目的で、ナノ炭化物の導入が有 効であることが知られている。しかしながら、 ナノ炭化物に水素がどのようにトラップされて いるかを直接観測することは、これまで困難で あった。NSGの大沼らは、構造材料センターと 共同で鉄合金中のナノ炭化物による水素のトラ ップサイトを中性子小角散乱により検討した。 この結果、わずか6ppmの水素濃度にも関わら ず、ナノ炭化物の界面に水素がトラップされて いることを見いだした15)。鉄鋼材料中の低濃度 水素の存在位置特定につながるこの成果は類例 が無く、極めて重要な成果である。 3-3イオンビーム利用技術とナノ材料イノ ベーション 本プロジェクトにおいてイオンビームグルー プでは、世界最大クラスの大電流負イオン注入 技術や独自のイオン・レーザー複合照射技術等 を礎に、イオンビームによる材料表面への直接 的なナノパターン構造作製、ナノ材料創製・構 造制御技術の開発並びに、それら技術を活用し たナノ構造制御によるナノ光学材料を始めとし た機能的なナノ粒子材料の開発を行った。 3-3-1イオン・ナノパターンニング技術に関す る研究 イオンビームのナノパターン照射は、直接的 な微細表面加工やナノ粒子の配列化が可能とな る技術である。ナノスケールのパターニングを 目的に、マスク材料としてナノ細孔を有する自 己組織化多孔質アルミナマスクや集積イオンビ ーム加工によるTi、Si薄膜マスクを開発し、重 イオンビームに対する耐照射性の実験的評価を 行い、耐照射性を向上させることに成功してい る。さらにこれらマスクを用いることにより世 界で初めて重イオン・ナノパターンニング照射 による結晶石英基板へのダイレクトな50 nm レベルのナノパターン材料改質、及び基板内へ の金属ナノ粒子のパターン分布生成に成功して いる。(図4参照)また、このナノスケールパ ターニングによる独特の近隣効果の存在も初め て明らかにしている。重イオンナノパターン照 射技術の確立は、パターン化ナノ機能材料開発 に道を拓くものである。イオン注入法が本来持 つ深さ方向の高制御性と相まって、高スループ ットの三次元ナノ構造制御が期待できる。 図4 Si薄膜ナノパターンを用いたマスク照射後の結 晶石英基板表面のAFM像 3-3-2エネルギービームを利用したナノ構造 制御技術に関する研究 エネルギービームとして利用する場合、目的 に応じてイオン種(He-Au)、加速エネルギー (keV~数百MeV)を選択することで、金属、 半導体、有機材料と幅広い材料の構造改質が期 待される。また、フォトンによる励起場や歪み による応力場などと組み合わせることで高い制 御性を付与できる。 イオンビームを利用した表層改質は、密着性 が高く改質層が剥離しにくい、複雑な形状にも 対応しやすいなどの特徴がある。バイオ関連材 料においては、医療用チューブ等に実用化され ているポリフッ化ビニリデン(PVDF)の表面 改質を試み、タンパク質吸着性の低減に成功し ている。 先に述べたようにイオンビームはエネルギー 付与とともに元素注入の側面を持ち、双方の特 徴を生かした材料改質が可能となる。半導体メ モリ材料においては抵抗変化型メモリ (ReRAM)材料の開発を目的に、アルミナ薄 膜に対し、組成制御・欠陥導入による構造改質 を試み、メカニズムの解明及び特性の向上につ いていくつかの知見を得ている。 イオンビーム照射下で引き起こされる過渡的 な電子遷移過程を複合照射によりフォトンで励 起することでナノ粒子形成過程を制御するだけ ではなく、作製されたナノ粒子形態の制御も可 能となる。3 MeVのAuイオンと波長532 nm のレーザー同時照射により、負イオン注入で SiO2中に作製したAuナノ粒子のサイズを同時 照射中のレーザー強度により制御することが可 能であることを明らかにしている。 ナノインデンテーションによって導入された 応力場は、材料内に多くの空孔や歪みを生じさ せる。この材料にイオン照射でエネルギー付与 を行うことで、材料表面にナノサイズのグルー ブが形成されることが確認された。また可塑変 形した領域においてナノ粒子の析出が促進され ることがわかった。これは、歪み・応力場とイ オンビーム照射の組み合わせがナノ構造作製・ 制御に有効であることを示したものである。 3-3-3ナノ粒子材料の形態制御・機能化に関す る研究 負イオン注入法は金属ナノ粒子作製の有力な 手段の一つである。負イオンによる注入は基板 の表面帯電を抑制し、注入制御性に優れている。 イオン注入法はイオン種と基板種の選択の自由 度が高いため、様々な安定なナノ粒子材料の作 製が可能となる。貴金属ナノ粒子材料は光学非 線形性が大きいことから、新たな光学応答を有 する機能的なナノフォトニクス材料として期待 される。我々は、三次の非線形光学定数の波長 分散特性の実験的評価手法を独自に確立し、非 線形性の起源について材料要因・構造要因につ いての定量的解析に成功している。さらに本評 価手法による解析を基に構造制御を行い、ナノ 粒子を埋め込む媒質の高誘電率化(SrTiO3)に より、Cuナノ粒子の内部電場を増強し、6倍近 くもの非線形性の増強にも成功した。 3-4原子ビーム利用技術とナノ材料イノベ ーション 量子ビームの多くは透過性に富んでいるが、 逆に透過性が小さく表面に敏感な性質を備えて いるものもある。低速の量子ビームがそれで、 例えば、熱エネルギーレベルの速度しか持たな い原子、分子が該当する。高々1,000 メートル/ 秒の速度で物質の表面に衝突する原子、分子は、 表面原子を乱すことなく、手前で反射されてし まう。つまり、透過性がゼロで、最も外側の表 面原子とのみ相互作用するという、究極の表面 敏感性を備えている。本プロジェクトでは、他 の量子ビームと相補的な性質を備えた低速量子 ビーム(He*、He+、O2)の利用技術をナノ物質・ 材料の創製・計測のための量子ビーム基盤技術、 「原子ビーム利用技術」と位置づけ、ナノ材料 イノベーションを目指して開発を行った。 3-4-1ナノリソグラフィー 次世代リソグラフィーでは、多層の化学増感 レジストの表層を侵入深さの小さいビームで露 光し、高い空間分解能を得ようとしている。こ れに対して、本プロジェクトでは、自己組織化 単分子膜と熱エネルギーレベルの準安定原子線 の組み合わせの持つポテンシャルを調べた(図 5)。加工限界を原理的な限界であるレジストの 分子サイズにまで近づけていくために、エッチ ングプロセスの改良などを進めた。例えば、シ リコンウェハーの水素終端前処理の導入により、 極めて高品位のOTS自己組織化単分子膜をシ リコン表面に直接生成できることがわかり、原 子線未照射膜ではエッチング液中に数時間浸漬 後に始めて剥離が観察される程度に耐性が向上 した。その結果、100nmを切るエッジ分解能が 達成された。今後、ナノメーターレベルでのリ ソグラフィーが実現できれば、ナノデバイスを 実用化する上で大きな課題である大量生産に道 を開くことができ、有用な生産技術としてナノ テクノ ロジー産業の発展に寄与するものと期待 される。 図5原子ビームリソグラフィーの模式図.透過 マスクを通過したHe*原子が脱励起する際に基 板表面を被覆する単分子レジスト膜にダメー ジを与え、 これが潜像となって、エッチング処 理により基板にパターンが転写される 3-4-2スピン偏極準安定脱励起分光(SPMDS) 電子素子の高速・高度集積化は、信号の担体 を従来の電荷から電子スピンに替えることによ って限界を乗り越えることが提唱され、多くの 努力が傾けられてきた。このスピン工学へのア プローチで鍵となるのがFermi準位近傍の電 子スピンの振る舞いである。スピン注入やトン ネリングでは、強磁性体・半導体界面あるいは 強磁性体・絶縁体界面の電子スピン偏極が素子 の特性を決める重要な因子であるが、界面はも とより、それを模した表面でさえスピン偏極を 測定することは困難である。これに対して SPMDSは、表面最外層のFermi準位近傍の占 有価電子状態のスピン偏極を調べることができ る。本プロジェクトでは、スピン偏極He(23S) を生成する技術開発を行い、様々な有機あるい は無機分子を吸着した表面にSPMDSを適用し てスピン偏極挙動を明らかにした。例えば、ニ ッケルの清浄表面に超高真空CVD法によって グラフェンを成長させたところフェルミ準位近 傍では正にスピン偏極することが分かった。 3-4-3スピン偏極イオン散乱分光 スピン偏極挙動の詳細な解明には、原子毎の あるいは元素毎の情報が必要とされる。低速の He+イオンビーム(運動エネルギー~1keV)は、 表面からナノ メ ートル以下しか侵入しないが、 侵入したものは中性のHe原子になり、He+イ オンのまま反射されるのは最も外側の表面原子 で散乱したものだけである。つまり、He+イオ ンを検出すれば最表面原子の情報を得ることが できる(低速イオン散乱分光)。本プロジェクト では、スピン偏極He*原子からペニングイオン 化によってスピン偏極He+イオンを生成する技 術を開発し、最表面のスピンを元素毎に計測で きることを実証した。この実績を基に「スピン 偏極低エネルギーイオン散乱分光装置」を表面 分析市場に投入した。 4.今後の研究動向 本プロジェクト全体の趣旨でもあるように 量子ビームはそれぞれ優れた計測手法・改質手 法を提供する。本プロジェクトでは、個別の量 子ビーム技術開発はもちろんのこと、積極的に、 複数の量子ビーム技術を組み合わせることで、 相乗効果を上げる事を試みた。例えば、ナノ粒 子の形状・形態制御による機能化を目的に負イ オン注入で形成したSiO2中の球形Znナノ粒子 に対して、X線小角散乱によるナノ粒子形成過 程の解析、SPring-8でのナノ粒子の融解過程の 解析、原研東海タンデム加速器による200 MeV のXeイオン照射による粒子形状変形(楕円体 化)を行い、形態制御につながる知見を得てい る。今後も、高輝度放射光(SPring-8、KEK)、 中性子ビーム(J-PARC, JRR-3M)およびイオ ンビーム(EPF)は、材料創製と材料計測解析 において、互いに相補的な機能を有しており、 総合的な利用によりナノ材料イノベーションに 対して相乗的な効果が期待される。 参考文献 1)桜井健次編「X線反射率法入門」(講談社). 2)Y. Nakano et al.: Jpn. J. Appl. Phys. 17-2 (1978)329. 3)M. Bhattacharya et al.: J. Appl. Phys. 94 (1993)2882. 4)W. E. Wallace and W. L. Wu: Appl. Phys. Lett. 67 (1995)1203. 5)T. Horiuchi et al.: Adv. in X-Ray Anal.39 (1995)171. 6)T. Panzne et al.: Thin Solid Films 515(2007) 5563. 7)K. Sakurai et al.: J. Phys. Conf. Series 83 (2007)012001. 8)A. Yamamoto: Z. Krist. 223(2008)855. 9)A. Yamamoto: Acta Crystallogr. A 66(2010) 372. 10)A. Yamamoto: Acta Crystallogr. A 66 (2010)384. 11)F. Izumi and K. Momma: Solid State Phenom.130(2007)15. 12)M. Ohnuma et al.: Acta Materialia 57 (2009)5571. 13)M. Yashima et al.: J. Am. Chem. Soc.130 (2008)2762. 14)N. Terada et al.: Appl. Phys. Let. 92 (2008)112507. 15)M. Ohnuma et al.: Scripta Materialia 58 (2008)142. ナノテクノロジー融合センターの4年 ―多種多様な材料に対応した異分野融合によるイノベーションの創出のための研究拠点― センター長 野田哲二、副センター長 花方信孝 1.目的 ナノテクノロジー融合センターは、ナノテク ノロジー・材料分野において、①融合研究の推 進によるイノベーションの創出、②施設および 設備の共用化、③オープンアクセス型の研究拠 点、という3つの機能を遂行することを目的に 2007年4月に設置された。イノベーション創 出に寄与するためには、多種多様な材料・物質 に対応可能で、素材からプロトタイプ作製まで の一連のナノプロセスを備えた施設の整備が 必要である。このような高度ナノ創造基盤施設 を中核として、さらに大学や企業の保有する施 設と連携することにより、研究開発効率を飛躍 的に向上させることが可能となる。本センター は、多種多様な材料・物質に対応できる異分野 の融合研究のためのナノファウンドリー施設 であり、ナノ集積ラインとソフトマテリアルラ インという2つの異なるライン組織を設置して いる。 ナノ集積ラインは、世界最高水準の微細加工 プロセッシング、ナノスケール観察、測定評価 のための設備を完備し、専門スタッフの技術支 援のもとに、半導体材料、酸化物材料、誘電体 材料、磁性材料、金属材料、複合材料など様々 な材料の微細加工に関する技術を提供すること を目的としている。 ソフトマテリアルラインは、生体分子を単離 精製あるいは解析するための設備、最先端の光 学顕微鏡設備、様々な物質に対応した分析機器 を完備し、ナノ材料のバイオ分野への応用研究、 有機・高分子材料の創製・評価に関する技術を 提供することを目的としている。 2.活動概要 本センターは、2007年4月に設立され、そ の年の10月にソフトマテリアルラインが、翌 年4月にナノ集積ラインが運営を開始した。ま た、2007年10月には、ソフトマテリアルライ ンにライカマイクロシステムズ株式会社と共同 で「NIMS-Leicaバイオイメージングラボ」を 設置した。 NIMSは、文部科学省の委託事業として2007 年度にスタートした「先端研究施設共用イノベ ーション創出事業」に「NIMSナノテクノロジ ーネットワーク拠点」(後に、「NIMS国際ナノ テクノロジーネットワーク拠点」に改名)とし て参加するが、本センターは「超微細加工領域」 を担当する。ナノ集積ラインおよびソフトマテ リアルラインにおいて、年間約150件のNIMS 内研究者および外部研究者に対する研究支援を 行った。本センターの研究支援により遂行され た研究成果は公開を原則としているが、成果公 開を望まない外部研究者に対しては、自主事業 として対応した。 3.研究成果 3-1電子材料研究のための超微細加工技術 ナノ集積ラインでは、重ね合わせ露光技術や リフトオフ技術を駆使して、ナノチューブやナ ノシート、量子ドットなどへのコンタクト電極 を作製し、ナノ材料の電子物性探索のための研 究支援を実施している。ここではその代表例と して2件の共同研究型支援について紹介する。 1)グラフェン結合量子ドットの作製 グラフェン結合量子ドットの作製においては、 線幅100nm以下、線間20nm以下の超微細電子 線描画技術と、グラフェン加工のためのドライ エッチング技術、コンタクト電極を形成するた めの重ね合わせ描画、リフトオフ技術が必要と なる。図1は作製したグラフェン結合量子ドッ トの電子顕微鏡像である。ソース・ドレインと ドットとなるアイランドとの接合部およびアイ ランド同士の接合部はわずか10nm程度である。 また、図2の電荷安定図から三角形状部のグラ フェンが結合した量子ドットであることがわか る。詳細は、参考文献1)を参照。 2)半導体量子ドットを介したSQUIDの作製 図3はGaAs基板上にランダムに成長された (φ100nm~300nmのInAs量子ドットへのコン タクト電極作製後の電子顕微鏡像である。基板 上にランダムに配置されたナノ構造へのコン 図1作製したグラフェン結合 量子ドットの電子顕微鏡像 図2グラフェン結合量 子ドットの電荷安定図 タクト電極作製において鍵となる技術は大きく 以下の3つである。まず、量子ドットの位置を特 定するためのアドレスパターン作製、次に量子ド ットの位置を鮮明に確認するための観察技術、そ してナノスケールのリフトオフ技術である。これ らの技術を駆使することによって,ナノ材料への コンタクト電極作製を可能としている2)。 図3 InAs量子ドットへのコンタクト電 極作製後の電子顕微鏡像 3-2 FIB-SEMを駆使した匠技術による研究支 援 1)高精度FIB加工とSEM観察を繰り返したバ ルク金属の3次元可視化 FIBでナノオーダーでのスライシング加工を 施し、一定セクションごとに取得したSEM像 を画像変換することによって、金属片の内部組 織の3次元可視化を実現している3)。 図4 一定間隔ごとのFIB加 工とSEM観察の模式図 図5取得した数10枚のSEM 像を画像変換することによ って得られた3D像 2) FIB加工技術を駆使したTEMナノインデン テーション用試料の作製 TEMその場ナノインデンテーション法を応 用し、圧入・圧縮変形挙動の素過程として転位 運動、転位―格子欠陥の相互作用などマクロな 強度特性発現機構の理解を進めるための試料作 製を実施している4)。 図6 FIBでピラー形状に加工し た粒界および単結晶部 図7ナノインデンテーショ ン後のTEM像 3)電子線アシストカーボン堆積によるLaB6エ ミッタの作製 LaB6単結晶ナノワイヤーを高分解能電界放 射型の電子放出源として応用するために、電子 線アシストカーボン堆積を用いてLaB6エミッ タの作製を実施している5)。 図8タングステンチップに静 電付着しているLaB6単結晶ナ ノワイヤー 図9電子線アシストカーボ ン堆積によって固定した LaB6単結晶ナノワイヤー 3-3表面プラズモンカラーフィルタの開発 近年、金属薄膜にナノスケールの微細加工を 施した構造における表面プラズモンポラリトン の挙動、光の異常透過現象が注目を集め、これ まで銀や金などの貴金属を用いて波長フィルタ や発光ダイオード(LED)の光取り出し効率の 向上など様々な応用研究が進められている。 ナノ集積ラインでは(株)豊田中央研究所と 共同で、銀・金に比べ高いプラズマ周波数を有 し、プロセス整合性の良いアルミニウムを金属材 料として選択し、“吸収によらない高い透過率”、 “ナノスケールの高い空間分解能”、“光学特性 の高い制御性”を有する表面プラズモンカラー フィルタを設計、またこれを単純かつ一括した 加工プロセスにより作製することに成功した。 本カラーフィルタは、アルミニウム薄膜に周 期的ホールアレイを形成し、表面プラズモンの 回折を利用することで光-表面プラズモン間の エネルギー交換を可能にし、光の回折限界を超 えた光の伝搬・透過を実現する。数値計算で得 られるプラズモニックバンドおよび光伝搬シミ ュレーション(3D-FDTD法)で得られる透過ス ペクトルにより、全可視光域に対応するカラー フィルタには260~420nm程度の微細周期構造 が必要であることが示される。作製プロセスと しては、まずスパッタ法によりガラス基板上に 150nmのアルミニウム薄膜を成膜し、電子ビー ム 描画および反応性イオンエッチングによりア ルミニウム薄膜にホールパターンを形成、最後 にPECVD法により表面保護膜(SiO2)を形成 した。作製したホールアレイは、光透過特性と して透過率30%、半値幅50nmのフィルタ特性 を示した。この時、透過スペクトルのピーク波 長は周期の1.65倍、ホールサイズの3.3倍に相 当し、光の回折限界を超えた、表面プラズモン を介した光の透過現象であることが分かる。ま た、ホールアレイの透過特性は単位格子形状や パターン配列により偏光依存性の有無など高機 能化が可能であることが確認されている6)。 図10表面プラズモンカラーフィルタ (左)電子顕微鏡像(右)透過光像 3-4エンテロウイルス71受容体遺伝子の単 離 エンテロウイルス71はピコルナウイルス科 エンテロウイルス属に分類され、我が国にも常 在しているウイルスである。通常は乳幼児に手 足口病を引き起こすウイルスとして知られてい るが、稀に重篤な急性脳炎を引き起こすことが あり、このウイルスに関する基礎的な研究を行 うことは重要である。ウイルス受容体遺伝子の 単離、同定は研究上重要なポイントであるが、 本研究以前にはそれについての報告はなかった。 我々はこのウイルスがマウスL929細胞には感 染しないがヒト由来のRD-A細胞には感染する という現象を利用し、ウイルス受容体遺伝子の 単離を計画した。 マウスL929細胞にヒトゲノムDNAをトラ ンスフェクションし、エンテロウイルス71感 受性を獲得した形質転換細胞株2株(051,246) を樹立した。これらの細胞と元のL929細胞の mRNA発現プロファイルをヒトDNAマイクロ アレイによって比較を行なう実験を行なうこと でウイルス受容体遺伝子の候補を絞り込むこと とした。 マイクロアレイ解析の結果、形質転換細胞で 高いレベルで発現しているmRNAの発現量順 の一覧表を作製し、候補の順位づけを行なった。 さらにこれらの遺伝子産物のアミノ酸配列を SOSUIプログラムによって解析することによ り膜タンパクである可能性のあるものを選抜し た。選抜した候補遺伝子をマウス由来細胞に導 入しEV71感受性を惹起する遺伝子が Scavenger Receptor B2 (SCARB2)遺伝子で あると同定した。ウイルスの増殖試験によりこ の遺伝子がEV71受容体であることが示唆され た。さらにEV71と同じように手足口病の原因 ウイルスであるCVA16も、同一分子を感染受 容体として利用していることがあきらかとなっ た7)。 ((財)東京都医学研究機構・東京都神経科学総 合研究所 小池智らとの共同研究) 3-5ホルマリン固定パラフィン包埋組織切 片を用いた臨床プロテオミクスによる胆道 癌・膵臓癌の新規バイオマーカーの探索 胆道癌・膵臓癌ホルマリン固定パラフィン包 埋(FFPE)標本を用いて、最新の臨床サンプ ル前処理技術と高感度に蛋白質発現解析を行う ためにカスタマイズされたLC/MSシステムに より、早期診断、将来の疾病への罹患、今後の 病態の変動・予後、治療への反応性予測に寄与 する特異的新規バイオマーカー蛋白質の探索を 試みた。 1)胆道癌(進行度予測因子の抽出) 早期発見が困難で予後不良な肝外胆管癌に 絞り、臨床情報や予後情報が明らかな症例の FFPE 組織153 例から Stage Ⅰ 7 例、Stage Ⅳ 7 例の計14例を対象とした。コントロール(非 癌部組織)には胆道癌以外の症例から採取され た胆管上皮7例を用いた。細胞特異的にレーザ ーマイクロダイセクション(LMD)を実施し、 さらにLC/MS/MSでプロテオーム解析を行い (図11)、Stage Ⅰ :1266 種類、Stage Ⅳ :1143 種類、非癌部:1095種類(癌部:1664種類、 全体:1993種類)のタンパク質を同定した。さ らに半定量比較解析法、バイオインフォマティ クスを用いた解析を加え、77種類のバイオマー カー候補タンパク質を選定した。 2)膵臓癌(予後不良・治療抵抗因子の抽出) 病理学的に癌遺残を認めない膵切除が行わ れ、組織学的に浸潤性膵管癌と確定診断された FFPE組織から、術後約2年以内に再発し死亡 した4例を予後不良群、5年生存が得られた4 例を予後良好群とし、比較検討した。胆道癌の 場合と同様にLMDでの分取後、プロテオーム 解析し、予後不良群:924種類、予後良好群: 845種類のタンパク質、全体で1099種類のタ ンパク質を同定した。胆道癌と同様の手法を用 いて群間で発現に有意差のあるタンパク質73 種類を選定した。これら73種は予後良好群で 優位に発現するもの36種、予後不良群で優位 に発現するもの37種であった。さらにそれぞ れのタンパク質についてGene Ontology解析 及び文献検索を行い、8種類を候補として選定 した。(東北大学付属病院 小野川 徹らとの共 同研究) 図11LC/MS/MS測定の実際(胆道癌) 3-4キトサンナノ繊維培養基材の開発 キトサンはエビやカニをはじめ、多くの生物 に含まれる天然素材のキチンを脱アセチル処理 することにより得られる高分子で、生体親和性 が高く、生体内分解性も有することから、組織 再生を促進する足場素材として期待されている。 カニの外骨格から得られるキトサンとナノテク ノロジーを組み合わせ、再生医療用材料として 応用展開することを目指して細胞培養基材(図 12)の研究開発を行った。キトサン・ナノ繊維 培養基材上で各種培養細胞を培養し、細胞の接 着性と増殖性を蛍光顕微鏡観察して培養基材と しての有用性を検討した。 各種培養細胞の基材上での接着性と増殖性が 良いことが判明し、北海道曹達株式会社、東京 都神経科学総合研究所、株式会社プライマリー セル、財団法人北海道科学技術総合振興センタ ーおよびNIMSの共同開発の結果として本基 材のサンプル提供を広く開始するに至った。 図12キトサンナノ繊維細胞培養プレート 4.今後の研究動向 本センターが本格的に活動を開始してから3 年が経過したが、その間、多くの成果が論文発 表および学会発表された。本センターは、イノ ベーション創出を目的に掲げているが、これま での活動でサイエンスイノベーションの創出に 関しては、ほぼ目的を達成できたと言える。今 後は、これらの成果を基盤とし、さらに分野融 合研究を推進することによって、テクノロジー イノベーションを目指す。すなわち、論文およ び学会発表から、「目に見える成果」の創出を意 識した活動を行う。特に、ナノテク・材料分野 と、環境・エネルギー分野およびライフサイエ ンス分野との融合を図り、グリーンイノベーシ ョンおよびライフサイエンスイノベーションを ナノテク・材料研究から下支えするような研究 に対する支援を中心に、これまでの技術ポテン シャルを十分に生かし、国民のクオリティー・ オブ・ ライフの向上に貢献できる成果の創出に 注力する。 参考文献 1)S. Moriyama et al.: Nano Letters 9(2009) 2891. 2)S. Kim et al.: Appl. Phys. Lett. 98(2011) 063106. 3)Y. Adachi et al.: Acta Materialia 56(2008) 5995. 4)L. Zhang et al.: Scripta Materialia (to be published). 5)H. Zhang et al.: Nano Letters 10 (2010) 3539. 6)D. Inoue et al.: Appl. Phys. Lett. 98(2011) 093113. 7)S. Yamayoshi et al.: Nature Medicine 15 (2009)798. ナノテクノロジー基盤萌芽ラボの3年 ―ナノテクノ ロジー基盤技術に資する技術探索研究― ナノテクノロジー基盤萌芽ラボ長 井上 悟 1.目的 ナノ構造制御物質の合成およびその物性解 析を通じて、新規の機能材料探索を目的とした。 研究対象とする物質はフラーレン分子および超 伝導酸化物である。様々なフラーレンナノマテ リアルの合成と物性解析による機能発現を、ま た、銅酸化物超伝導体の合成と物性解析研究に よる高性能次世代デバイスの開発を重点的に推 進した。 2 .活動概要 液―液界面析出法 (liquid-liquid interfacial precipitation method, LLIP 法) と は、フラー レンの良溶媒飽和溶液にそれと混和するフラー レンの貧溶媒を添加することにより、フラーレ ン結晶の析出と成長を行わせる方法である1)。 フラーレン工学グループは、LLIP法を用いて、 図1に示すように、C60ナノウィスカー(C60NW)、 Sc3N@C80ナノウィスカー2)、C60フラーレンナ ノシート3,4)、 垂直配向フラーレンマイクロチ ューブ5)などの多様なフラーレン結晶の合成を 世界に先駆けて行って来た。また、C60NWとマ クロファージ様細胞との相互作用の研究により、 C60NWが生分解性であることを発見し6)、 C60NWが安全性の高い物質であることを明ら かにした。2001年のC60NWの発見以来、その 物性の解明が進み、電界効果トランジスタ、ケ 図1(a)C60ナノウィスカー、(b)Sc3N@C80ナノウ ィスカー2)、(c)C60ナノシート3)、(d)垂直配向C60 マイクロチューブの走査電子顕微鏡(SEM)像 ミカルセンサ、発光素子、太陽電池などへの応 用研究が広く行われている。C60NWの実用化が 一層進むためには、その大きさと形状を制御す ることができる高度な合成技術が必要である。 そこで、C60NWの成長機構の解明に力を注ぎ、 形状制御方法の開発を行った。 テラヘルツ周波数帯電磁波(THz光)は、超 高周波の電磁波として、また同時に医療生体関 連物質の分光、透視モニタリングなどの安全安 心技術として、様々に期待されながら、マイク ロ波と遠赤外光との間に取り残された未開拓波 数領域である。THz応用を困難にしている要因 は、エレクトロニクスとフォトニクス両技術の 狭間で汎用の光源が開発されていないことにあ る。小型・固体・周波数可変・mWビーム強度 THz光源の出現が待望されている。 さて、マイクロ波技術の雄、超伝導体のジョ セフソン接合では、接合電圧Vを印加すると、 周波数f=V/Φ0なる交流発振がおきる(Φ0~1 mV/484 GHzは、磁束量子)。Vは、超伝導エ ネルギーギャップEgの大きさを超えることが 出来ないため、従来の金属系超伝導素子の周波 数上限は0.7THzである。しかも、接合一つか らの電磁波励起強度はpWと極めて小さい。銅 酸化物高温超伝導体では、高い超伝導遷移温度 により、Egが一桁高く、THz励起が可能である。 さらに、この物質は、図2に示すように結晶の 積層構造そのものがジョセフソン接合の直列回 路を形成していて、高品質の単結晶が合成でき れば、均質な接合列を光源の強度アップに利用 できる。1987年金属材料技術研究所(NIMS の前身)で発見されたビスマス系超伝導体 Bi2Sr2CaCu2O8 (BSCCO)がその典型例である。 その結晶では厚さ1μmに650接合が直列に連 なっている。しかし、ここで大きな壁が立ちは だかった。それは全ての接合を同期させて交流 発振させる技術の開発である。これまでに我々 も含めて、BSCCOからは0.5THzまでの発振 が検出されてきたが、何れも十分に同期の取れ ていないものであったため、応用に有効な出力 強度が得られなかった。このような状況を打破 図2 (上)BSCCO単結晶の写真とそれを用いた テラヘルツ光源の概念図.(下)原子レベルの結 晶構造モデルに、超伝導性および絶縁性を示す 原子層をそれぞれ“S”と“I”とで示した したのが、アルゴンヌ国立研究所のOzyuzerら のグループによる直列接合数が~650と大きい ばかりでなく、面内方向サイズも100μm程度 という、図2右上の巨大な台地状(メサ)構造 での同期発振の実現とμW級THz放射外部観 測実験である12)。全接合の同期発振を実現させ た鍵は接合幅による空洞共鳴現象が一つの要因 に違いないが、この現象の全体像の解明が実用 領域のmW出力技術開発に向けて精力的に研 究されている。 3.研究成果 3-1フラーレン系ナノカーボンの開発 C60NWの成長が光によって促進されること が明らかにされている7)。さらに、温度因子に ついて調べた結果、C60飽和トルエン溶液とイ ソプロピルアルコール(IPA)の系において、 C60NWの成長の活性化エネルギーが52.8 kJ/molと求められた8)。 この値は、溶媒中にお けるC60の拡散の活性化エネルギーに比べて非 常に高く、その原因として、C60分子の脱溶媒 和エネルギーが大きいことが考えられる。さら に、水を少量添加したIPAを用いて成長の活性 化エネルギーを測定した結果、図3に示すよう に、水の添加量の増加に伴い、活性化エネルギ ーが著しく低下することを見出した9)。 この結 果は、水がC60分子と溶媒との結合エネルギー を下げるように働くことを示唆している。 C60NWは、緻密な表面層と多孔質内部層とのコ アーシェル構造となっているため10)、C60NW 図3 C60NWの成長の活性化エネルギーに及ぼす水 の影響.水分量は、IPAに対する質量%で表示9) 図4成長初期におけるC60NWの長さと直径の関 係の例9) 図5トルエン/IPA系における溶媒組成(トルエン の質量%)とC60NWの臨界直径(Dc)との関係9) の電気抵抗率やヤング率が直径に依存して大き く変化することが分かっている。C60NWの生成 核の大きさを制御して、直径を自在に変化させ ることを可能とする技術の開発が必要である。 図4は成長初期におけるC60NWの長さと直 径の分布を示している。ある値以上の直径(臨 界直径Dc)において、C60NWの長さが急に増 加することが分かる。トルエンとIPAの組成の 関数としてDcを調べたところ、図5に示すよ うにDcは組成に対して線形な関係となること が示された。この関係を用いてC60NWの直径 を制御することができる。1cm程度の長さを持 つC60NWを合成することが可能であるが、マ 図6短いC60NWのSEM像(a)、及び、長さ(b)と直 径(c)のヒストグラム イクロメートルサイズの短いC60NWも、コン ポジットや太陽電池応用等で必要とされている。 成長制御技術の進歩により、図6に示すように 短くかつ均一な長さをもつC60NWの合成も可 能となった11)。 3-2固有ジョセフソン接合からのテラヘル ツ放射 THz放射時における、接合内部の電磁現象を 解明するため、低温レーザー顕微鏡(LTSLM) 観察を行った。この顕微鏡ではジョセフソン接 合を局所的にレーザー加熱して、接合の電流― 電圧特性への影響を画像として取り出す。接合 内の電磁場および電流分布を空間分解能~ 1μm程度で観察することが出来る。キャビティ 共鳴により接合内に定在波が立っている場合は、 その腹と節で電流―電圧特性の応答が異なるこ とが知られている。図7に示すように接合面積 40 × 330μm2のBSCCO メサ型接合スタックで T=25Kにおける、電磁波の定在波パターンの観 測に成功した13)。 さらに、図8に示すように、電流―電圧特性 の高バイアス条件において、新しいTHz放射条 件を見出した13)。高バイアスを反映して、THz 放射出力がOzyuzerらの場合 12)よりも一桁高 く、さらに線幅も鋭いことが分光実験により明 らかになり、応用上、より有望なバイアス条件 であることが判明した。このバイアス条件でも、 THz定在波が走査型低温レーザー顕微鏡によ 図7 40 × 330μm2 BSCCOメサ型接合スタック、 T=25Kにおける、(左)電流―電圧特性におけるTHz 放射検出バイアス条件B,C (右下)その拡大図で像 観察条件A,B,Cを示す、(右中)A,B,C各点における 結晶内のTHz定在波の走査型低温レーザー顕微鏡に よる観察像、(右上)A,B,C各点における応答電圧 のラインスキャン13) 図8 40 × 330μm2 BSCCOメサ型接合スタック、 T=50Kにおける、(左)電流―電圧特性の高バイアス 領域におけるTHz放射測定条件A-K、(右)A-K各点 における結晶内のTHz定在波の走査型低温レーザー 顕微鏡による観察像.定在波パターンが明瞭に観測 されたC,D,G,Hが発振条件13) り観察されたが、電極の取り方とそれに起因す る試料内温度分布により、THz定在波パターン の現れ方が低バイアス条件とは異なる。この試 料の場合は、接合スタック上面全面をカバーす る金電極へは、試料の右端から給電している。 このため試料の加熱領域は、やや右寄りに現れ、 定在波はそれを避けるように左側に観測された。 このことから、加熱領域では接合の局所温度が 超伝導遷移温度に達しているものと考えられる。 我々はこのような加熱領域を”Hot Spot”と命名 し、その生成とTHz放射条件との関係、ひいて 図9 50×330μm2 BSCCOメサ型接合スタック、 T=20Kにおける、(左)低温レーザー顕微鏡による観 察像に現れたHot Spotと定在波パターン、(右) (1)-(5)各バイアス条件における応答電圧のライン スキャン14) 図10 (上)結晶内のTHz定在波像の観察、(下)外 部放射の分光スペクトラム観測結果.左のグラフは 可変周波数幅を示し温度条件も含めれば0.2THz以 上可変、右のグラフは放射THzの鋭い線幅を表す14) は高バイアス条件におけるTHz発振メカニズ ムについて詳細な検討を加えている。図9に、 明瞭に観察された”Hot Spot”像を示す 14)。”Hot Spot”サイズのバイアス電流・試料温度依存性に 伴い、定在波パターンが変化し、これが0.2THz 程度の周波数可変性をもたらした14)。さらに図 10に示した定在波パターンには、2次元モード の定在波が観測されている。 4.今後の研究動向 成長機構の解明により、フラーレンナノウィ スカーの形状制御技術の確立に目処がつき、実 用化へと近づいた。今後は、太陽電池、燃料電 池、触媒、吸着剤などの環境・エネルギー利用 に向けたフラーレンナノウィスカーおよび関連 するフラーレンナノマテリアルの合成と性質の 解明を進めて行く。また、固有ジョセフソン接 合からのテラヘルツ放射については、形状・集 積・準光学的手法を駆使して、THz放射パワー の増大と放射メカニズムの解明に向けた実験を 進めている。 参考文献 1)K. Miyazawa: J. Nanosci. Nanotechnol.9(2009) 41. 2)T.Wakahara, Y. Nemoto, M.Xu, K.Miyazawa and D.Fujita : Carbon 48(2010)3359. 3)M. Sathish and K. Miyazawa : J. Am Chem Soc., 129(2007)13816. 4)T. Wakahara, M. Sathish, K. Miyazawa, C. Hu, Y. Tateyama, Y. Nemoto, T. Sasaki and O. Ito : J. Am. Chem. Soc.,131(2009)9940. 5)S. I. Cha, K. Miyazawa and J.-D. Kim: Chem. Mater. 20(2008)1667. 6)S. Nudejima, K. Miyazawa, J. Okuda - Shimazaki and A. Taniguchi : Proc. The 2010 International Conference on BIOCHEMISTRY and MEDICAL CHEMISTRY (BIOMEDCH'10), Cambridge, 2010, p.89. 7)M. Tachibana, K. Kobayashi, T. Uchida, K. Kojima, M. Tanimura and K. Miyazawa: Chemical Physics Letters 374(2003)279. 8)K. Hotta and K. Miyazawa : NANO 3(2008) 355. 9)K. Miyazawa and K. Hotta : J. Cryst. Growth, 312(2010)2764. 10)R. Kato and K. Miyazawa: Diamond & Related Materials : 20(2011)299. 11)K. Miyazawa and K. Hotta : Journal of Nanoparticle Research, DOI 10.1007/ s11051-010-0132-y 12)L. Ozyuzer et al.: Science 318(2007)1291. 13)H. B. Wang, S. Guénon, J. Yuan, A. Iishi, S. Arisawa, T. Hatano, T. Yamashita, D. Koelle and R. Kleiner: Phys. Rev. Lett.102 (2009) 017006. 14)H. B. Wang, S. Guénon, B. Gross, J. Yuan, Z. G. Jiang, Y.Y Zhong, M. Grünzweig, A. Iishi, P. H. Wu, H. Hatano, D. Koelle and R. Kleiner: Phys. Rev. Lett.105(2010)057002. ナ ノ ス ケ ー ル 物 質 領 域 KNKD—22 ee ナノスケール物質領域の5年 ―ナノスケール新物質の創製と組織制御に向けた取り組み― 領域コーディネーター 佐々木 高義 1.はじめに 80年代から90年代前半にかけてのフラーレ ン、カーボンナノチューブの発見、走査プロー ブ顕微鏡など新しいナノ解析技術の発達を契機 として、ナノサイエンス、ナノテクノロジーの 研究開発が世界的に活発化し、隆盛を極めてき ている。これは材料開発にナノの視点を取り入 れることにより、従来のバルク材料では達成が 困難な革新的機能、応用が実現され、様々な技 術革新や新産業創出につながることが期待され るためである。NIMSにおいては第一期中期計 画に引き続いて、第二期においてもナノテクノ ロジー研究を重要研究課題に設定し、様々な視 点から研究開発を推進した。本領域では特にナ ノ メートル領域でのサイズ、形状、組織に由来 して現れる新規機能、物性の発掘を目指してナ ノスケール新物質の探索、創製、その機能解明、 応用開発を目標に設定した。具体的には無機か ら有機にわたる広範な物質系において、新規ナ ノスケール物質を系統的に創製し、その機能開 拓を行うとともに、これらを様々に組織化・複 合化することにより、次世代エレクトロニクス、 環境、エネルギー関連技術の発展を担うシーズ の創出を目指して研究を行った。 2.領域の組織構成 図1に本領域の研究推進体制を示す。ナノス ケール物質センターでは運営費交付金研究プロ ジェクト「ナノチューブ、ナノシートの創製と 機能発現に関する研究」を担当した。すなわち 1次元ナノ物質としてのナノチューブと、2次 元のナノシートを酸化物、窒化物、水酸化物な ど様々な物質系において探索・創製し、その機 能・構造の解明を通じて優れた電子的・磁気的 機能を持つ材料の創製を目指した研究を行った。 なおこのセンターは2007年10月の国際ナノア ーキテクトニクス研究拠点(MANA)の発足に 伴い、翌年4月よりMANAナノマテリアル分 野にグループ、人員がほぼそのままの形で移行 し、引き続き上記研究を推進した。ナノ有機セ ンターは特異な形状や機能を有するナノ有機モ ジュールを合成し、これを組織化して高度な分 子機能を発揮するフィルムやファイバーなどの 開発を目指す「ナノ有機モジュールの創製に関 する研究」を推進した。ナノセラミックスセン ターではプラズマ法など様々な方法でセラミッ クス系のナノ粒子を合成して、これらを電場や 磁場のもとで配列させること、また陽極酸化な どナノ細孔形成技術をベースに規則ナノ構造を 形成することを通じて、特異な高次構造を特徴 とする機能性セラミックスの製造を目指した 「ナノ粒子プロセスの高度化によるイノベイテ ィブセラミックスの創製に関する研究」を推進 した。また広く萌芽的観点から研究を行うナノ 物質ラボと分子センサーの開発を目指したクラ スター(分子センシング材料プロジェクト)も 本領域に参加した。 ナノスケール物質領域 ナノスケール物質センター (2006.4~2008.3) MANAナノマテリアル領域(2008.4~2011.3) ソフト化学グループ ソフトイオニクスグループ ナノ物質創製・評価グループ ナノチューブグループ ナノ有機センター 機能膜グループ 機能モジュールグループ 機能材料化学グループ ナノアーキテクチャーグループ 高分子グループ バイオナノマテリアルグループ 超分子グループ ネットワーク錯体グループ ナノセラミックスセンター 微粒子プロセスグループ 非酸化物焼結体グループ 窒化物粒子グループ 高融点微結晶グループ プラズマプロセスグループ 機能性ガラスグループ 分子センシング材料プロジェクト(2008.4~2011.3) ナノ 物質ラボ(2009.4~2011.3) ガラスグループ 独立研究グループ ホウ化物グループ 超高圧グループ ポリアモルフィズムグループ ナノ量子輸送グループ 図1ナノスケール物質領域の研究体制 3.領域の成果 ナノスケール物質の探索に関しては、我々独 自の技術、工夫を加味した様々な合成法を駆使 して進めた結果、酸化物、窒化物、水酸化物、 炭化物など多彩な物質系においてナノチューブ、 ナノワイヤーなどの1次元ナノ物質、分子レベ ルの薄さの2次元ナノシートなど、20種類以上 の新規ナノ物質の合成が達成され、新規物性や 増強された機能性が数多く見いだされた。例え ばBNナノチューブではLi2Oを触媒に用いた CVD法を開発し、高純度、大量合成(1時間 あたり数百mg)に成功した(図2)。その他Si, ZnO, ZnSなど金属、半導体など多彩な特性を 持つナノチューブ、ナノワイヤーなどを合成し た。一方、層状化合物を単層剥離するというユ ニークなプロセスにより厚さがわずか0.5~3 nmの様々な酸化物、水酸化物ナノシートを合 成し、これらが優れた誘電性や光触媒性、蛍光 特性を示すことを明らかにした。 図2高純度BNナノチューブ さらに得られたナノスケール物質をナノレベ ルで精密に組織化したり、異種物質と複合化す ることにより、機能性材料、デバイスの開発を 目指した研究を行った。上述の高純度BNナノ チューブでは、ポリマーマトリックス中に高分 散させるプロセスを開発し、放熱基板への応用 が期待できるナノコンポジット材料を開発した。 一方、ナノシートは水相中に分散したコロイド として得られるため、静電的自己組織化やラン グミュア・ブロジェット法により、積み木細工 のようにナノシートをレイヤーバイレイヤー累 積できることを明らかにし、電子的、磁気的、 光化学的機能など、様々な機能発現が可能であ ることを示した。一例を挙げるとTiやNb系酸 化物ナノシートを累積したナノ薄膜(図3)は、 厚さ5~20 nmの極薄領域で、既存材料を大き く上回る誘電性能を発揮し、次世代のコンデン サやトランジスタに欠かせないHigh-k材料と して有望であることを突き止めた。一方、太さ 図3Ca2Nb3O10ナノシート膜 約2 nmのZnやCdの水酸化物ナノストランド を球状の剛直なタンパク質と複合化して得られ る多孔質膜(図4)が、従来の水処理膜の約 1000倍のスピードで有機化合物を分離・濃縮で きることを明らかにし、「人工透析用フィルタ ー」としての実用化が検討された。その他、ナ ノ有機モジュールの合目的的な集積化により、 カラー電子ペーパーとしての応用が期待される 高効率エレクトロクロミック膜、フラーレン素 材の超撥水膜など多彩な成果が得られた。セラ ミックスナノ粒子を対象とした研究においては、 TiO2, ZnOなどのナノ粒子の懸濁液に磁場、電 場を印加するという独自の手法により一軸配向 させ、従来の方法では困難な組織制御を達成し た。またAl2O3, MgAl2O4などのナノ粒子に大 電流をパルス状に印加して低速度で昇温、加圧 焼結することにより、従来の2倍に達する機械 的強度と透明性を持った緻密焼結体を開発する 等、様々な材料の開発に成功した。 図4フェリチンをベースとした多孔質膜 4.おわりに ナノスケールに由来する機能デザインに着目 した物質創製、組織制御により、様々な技術分 野に役立つことが期待される斬新な材料が多数 開発された。今後これらのシーズの応用展開に 注力し、さらなる発展、成果の創出につながっ ていくと期待される。 ナノ有機センターの5年 ―NIMSの有機・高分子研究の第一歩― センター長一ノ瀬泉 1.センターの目的 ナノ有機センターは、デンドリマーや超分子、 人工的にデザインしたタンパク質、あるいは無 機クラスターや高分子など、特異な形状や機能 を有する新しいナノ物質を研究対象として選ん だ。このようなナノ物質(ナノ有機モジュール) は、薄膜やファイバー、ナノデバイスなど、新 しいナノ材料を創り出すための「機能ユニット」 となる。本センターでは、ナノ有機モジュール から目的に応じた組織構造を設計し、新しい機 能をもつ高分子ナノファイバー、生体分子の超 高感度の検出システム、グリーンケミストリー を支えるナノ分離膜、有機FETや表示デバイ スの開発を目指した。 2 .活動概要 第一期中期計画(2001年度~2005年度)の 中盤から後期にかけて、物質研究所では3つの 有機系の研究グループ(高分子性酸化物グルー プ、超分子グループ、機能モジュールグループ) が立ち上がった。これらのグループでは、グル ープリーダーがNIMS外から採用され、それま でのNIMSには無かった有機・高分子分野の材 料開発を担当することになった。一方、ナノマ テリアル研究所にも外部から新しいグループリ ーダーが採用され、ナノアーキテクチャーグル ープとバイオナノマテリアルグループにおいて 有機材料の微細加工や生体高分子の単分子解析 技術の研究が始まっていた。第二期中期計画 (2006年度~2010年度)では、上記の5つの 研究グループが結集し、新設されたナノ有機セ ンターにおいて「ナノ有機モジュールの創製」 というプロジェクトを担うこととなった。 ナノ有機センターのプロジェクトは、NIMS の有機・高分子系の最初のものであり、その研 究対象には、タンパク質やDNAのような生体 高分子から、金属錯体を含んだ高分子、分子集 合体や超分子まで向けられた。また、必ずしも 有機物質に限らず、フラーレンや無機ナノスト ランドも主要な研究対象とされた。これらは、 いずれも特異な形状と機能をもつ巨大分子で 表1ナノ有機センターの所属グループ 機能膜グループ(2006.4~2011.3) (ナノストランド、高速水処理膜、高分子ファイバー) リーダー :一ノ瀬泉 機能モジュールグループ (2006.4~2009.3) (配位高分子、ロタキサン、酸化還元ポリマー) リーダー:Dirk G. Kurth サブリーダー:樋口昌芳(2007.10より併任) 超分子グループ(2006.4~2007.3) (多孔性材料、界面分子認識、吸着) リーダー:有賀克彦(2007.4より併任) ナノアーキテクチャーグループ (2006.4~2011.3) (有機トランジスタ、有機・高分子EL素子、DNA鋳型) リーダー三木一司 バイオナノマテリアルグループ (2006.4~2009.5) (ナノプローブ技術、生命分子の単分子解析) リーダー:荒川秀雄 高分子グループ(2007.4~2011.3) (導電性高分子、有機分子センサー、有機材料) リーダー:竹内正之 国際ジョイントラボ(Potsdam) (2007.4~2010.3) (液状フラーレン、超撥水材料) リーダー:中西尚志 ネットワーク錯体グループ(2008.4~) (MOF、金属イオンのシーケンス制御) リーダー :Omar M. Yaghi (併任) サブリーダー:田代健太郎(併任) 機能材料化学グループ(2009.4~2011.3) (酸化還元ポリマー、電子ペーパー) リーダー:樋口昌芳(併任) 国際ジョイントラボ(Mainz) (2010.6~) (レドックス応答性高分子、ゲル) リーダー:池田太一 あり、組織構造の設計により、低分子には見ら れない優れた機能を発現する可能性がある。一 方、材料化のためには、巨大分子の薄膜化や配 向、配列を制御する技術が重要となる。コロイ ド化学や高分子科学に基づき、巨大分子の組織 構造を構築することも、本プロジェクトの大き な柱として位置づけられた。 プロジェクトの開発目標としては、ナノ有機 モジュールの分子認識特性に着目し、高感度の 生命分子センサーやバイオハザードの高選択的 な除去、極薄の多孔性自立膜によるナノ分離シ ステムの開発を目指した。本センターが所属し たナノスケール物質領域は、実用化を目指した 材料研究だけではなく、新物質を組織的・系統 的に探索・創製することを大きな目的としてい た。本センターでも、新しい有機・高分子の合 成と機能探索に力を入れ、レドックス特性を示 すポリマーや新しい導電性高分子、室温で液状 の巨大分子、多孔性の配位高分子などの創製を 行った。本センターでは、最先端の有機合成化 学による物質創製を担うグループとして、2007 年度に高分子グループ、2008年度にネッワー ク錯体グループが立ち上げられた。なお、高分 子グループの竹内グループリーダーは、2008 年度から3年間「分子センシング材料プロジェ クト」を実施している。 ナノ有機センターでは、有機・高分子材料の 研究体制を迅速に構築するために、国際連携を 積極的に進めた。機能モジュールグループのリ ーダーには、マックスプランク研究所(MPI) のコロイド界面部門(Potsdam)のDr. Dirk G. Kurthが担当し、同部門には、高分子グループ の中西尚志研究員が国際ジョイントラボのグル ープリーダーを兼務した。一方、ネットワーク 錯体グループのリーダーには、UCLAのProf. Omar M. Yaghiが担当した。2010年度からは、 機能材料化学グループの池田太一研究員が MPI高分子研究部門(Mainz)の国際ジョイン トラボのグループリーダーを兼務している。 本センターでの5年間の研究に携わった研究 グループを表1に示す。 3.研究成果 3-1高速水処理膜 NIMSでは、ナノストランドと呼ばれる極細 の無機ファイバーが水中で自発的に形成され、 その水溶液をフィルターで濾過すると、極薄の 自立膜を形成できることを見出していた。ナノ ストランドは、銅や亜鉛、カドミウムの水酸化 物であり、その表面には多くの正電荷を有する。 本センターでは、このようなナノストランドに 水中の高分子やタンパク質を吸着させ、その水 溶液をフィルターで濾過することで、様々な自 立膜を形成できることを見出した1)。中でもフ ェリチンという球状タンパク質を吸着させ、濾 過により作製したナノシートでは、同等の阻止 性能を示す既存の限外濾過膜と比較して、1000 倍のスピードで有機分子を分離できることが明 らかになった2)。 図1有機分子の高速分離を可能にするフィルターの 模式図2) ナノストランドを利用する多孔性ナノシー トの製造法は、幅広い水溶性の物質を利用でき る。実際、導電性高分子やラテックス粒子を用 いて、高透過性の限外濾過膜が開発されており、 タンパク質の分離膜、バイオフィルターとして の応用が期待されている。先のフェリチンを用 いた高速水処理膜は、人工透析用のフィルター としての実用化が検討されている。 ナノ有機センターで開発された高速水処理 膜は、膜厚が数10から100 nm程度であり、 内部には多数のナノ細孔が存在する。このよう な細孔中の水の透過機構は、学術的にも非常に 興味深い。本センターでは、計算科学センター と協力して、ナノ細孔中の水の運動性を第一原 理計算により検討し、密度や拡散係数、構造化 などの評価を行った。また、ナノ細孔中の水の 巨視的物性の解明に関しては、本センターにお いて、科学技術振興機構(JST)のCREST研 究が実施されている。 3-2シャボン膜から無機ナノシートへ ナノ有機センターでは、ナノ厚みの自立膜の 新しい製造方法として「シャボン膜」に着目し、 工学的応用を目指した幅広い基礎研究を行った。 カチオン性の界面活性剤の水溶液を数マイクロ メートルの細孔の中で乾燥させると、二分子の 厚みの自立膜が得られる。この膜(乾燥泡膜と いう)は、数nmの厚みにも関わらす、高真空 下でも安定に存在できる。従来、シャボン膜の 形成には水の存在が不可欠と考えられていたが、 実際には、水が完全に消失しても、膜の形状を 保持できることが分かった。双性イオン型の界 面活性剤から形成した乾燥泡膜は、180℃程度 の熱安定性を示す。このような乾燥泡膜には、 カーボンや金属、化合物半導体(CdSe)などを 蒸着できることが分かった3)。 即ち、液体のシ ャボン膜から形成される乾燥泡膜は、平滑な無 機自立膜を製造するための基板となる。 膜厚が数nmである乾燥泡膜は、サイズを数 10マイクロメートル以上にすることが困難で あった。この問題を克服するために、本センタ ーでは、イオン性液体を利用した乾燥泡膜の製 造を検討した。蒸気圧が著しく小さなイオン性 液体は、ポリエチレングリコールを親媒基とす る界面活性剤を用いることで、高真空下でも安 定な泡膜を与えた。界面活性のポリマーを用い た場合(図2)、数250マイクロメートルのサイ ズで数10 nmの厚みの高分子膜を製造するこ とも可能であった4)。 図2界面活性ポリマーのナノ厚みの泡膜4)。 このような手法は、部分ケン化ポリビニルア ルコールのような界面活性ポリマー、あるいは ゼラチンのような高温で表面張力の低下を示す タンパク質などにも適用することができ、有機 ナノシートの一般的な製造方法として広がりつ つある5)。 3-3超撥水コーティング 表面の撥水性の制御は、材料設計における重 要なパラメーターである。水の接触角が150° を超える高度な撥水性(超撥水)は、繊維の防 水性の向上や汚れ防止など応用範囲が広い。し かしながら、耐久性の大きな超撥水表面を形成 することは容易でなく、様々な検討が行われて きた。ナノ有機センターでは、フラーレンにア ルキル鎖を導入した化合物が優れた超撥水性を 発現することを見出した6)。このような化合物 では、アルキル鎖の部分とフラーレンの部分が それぞれ別々に自己集合する傾向があり、有機 溶媒中で熟成することで、フラクタル次元の大 きな高表面積の形状となる。このようなフラー レン誘導体の溶液を塗布し、ゆっくり乾燥させ ると、材料の超撥水化が可能となる。 我々は、超撥水コーティング剤としての更な る性能向上を目指し、アルキル鎖にジアセチレ ン基を導入することを検討した7)。このような 化合物からは、表面積が著しく大きなコート膜 を形成でき、紫外線を照射すると、その構造を 保持したままジアセチレン部位とフラーレン部 位がそれぞれ重合する。結果として、有機溶媒 への安定性と機械的強度が向上し、高撥水性コ ーティングが可能となる。 図3フラーレン修飾体の架橋により安定化された高 撥水性被覆膜7)。 アルキル鎖をフルオロアルキル鎖に置換し ても、必ずしも接触角の増大が見られない。こ のことから、フラーレン誘導体では、フラーレ ン部位が外側を向いた会合体を形成し、その撥 水性に寄与していると考えられる8)。 フラーレン誘導体は、有機溶媒中で様々な会 合形態を示すため、ナノからマイクロメートル における構造設計に幅広い可能性を持つ。また、 溶媒により溶解性が大きく異なっており、耐薬 品性が高いなど、巨大分子としての優れた性質 を持ち合わせている。このような材料は、電子 材料としても魅力的であり、今後の研究が期待 できる8)。 3-4ポリチオフェンのサイズ効果 ポリチオフェンは、化学的な安定性や電気伝 導性、優れた光学特性を有するため、導電性ポ リマーの中でも特に重要な材料である。本セン ターでは、ポリチオフェンの主鎖が硬直になる ように分子設計することで、従来とは全く異な る光・電子機能を発現させることに成功した。 図4では、ポリチオフェン鎖の周囲がアルキル 鎖(絶縁層)で巧みにコーティングされており、 主鎖が外部環境から遮蔽されている。このポリ マーでは、非常に剛直なコンフォメーション(分 子の立体構造)が実現されており、1本の導電 性高分子を分子レベルで絶縁被覆した電気コー ドのような構造となる。TRMC (Time-Resolved Microwave Conductivity)法で高分子鎖1本の キャリア移動度を測定したところ、有機半導体 としては最高レベルの値(0.9 cm2/Vs)を示し た。また、個々の導電性高分子が欠陥なく覆わ れているために、高分子鎖間での短絡がないこ とも明らかとなった9)。 被覆ポリチオフェンの分子長を二量体から 十量体まで変化させると、蛍光スペクトルが青 から赤へと連続的に変化する。そのバンドギャ ップは、分子長の逆数に比例しており、顕著な サイズ効果を示すことが明らかになった。被覆 ポリチオフェンでは、吸収波長と蛍光波長の間 のストースクシフトが小さく(790cm-1)、蛍光 量子効率(61%)が一般のアルキル置換ポリチ オフェン(41%)と比較して大きい9)。導電性 高分子で半導体ナノ粒子のような明瞭なサイズ 効果が見出されたことは極めて興味深く、この 物質のコンフォメーションが著しく制限されて いることを示している。 図4被覆ポリチオフェン(分子ワイヤー)の構造と ポリマー鎖長による発光特性ならびにバンドギャッ プの変化9) 3-5爆発性有機分子のセンシング 分子センシング材料プロジェクトでは、気相 における極微量の有機分子を検出するための材 料とその検出システムを探索した。このような 材料は、空港における爆発物の検出などテロ対 策技術として有望視されており、食品の安全性 の確認や医療用センサーとしても大きな期待が 持たれている。 本センターでは、蛍光特性をもつ2つのシア 図5トリニトロトルエン(黄色)を識別する有機 高分子ナノファイバー10) ノスチルベンをビナフチル基に連結させた化合 物を分子設計し、この化合物を有機溶媒中で自 己会合させることで、ナノファイバーを形成さ せることに成功した。発達したナノファイバー は、クロロホルムとトルエンの1:3の混合溶 液中で得られる。この溶液をキャストすると、 図5のSEM像に示すような繊維状のフィルム が得られる。このフィルムは、シアノスチルベ ン基からの強い蛍光を発し、吸収された光から の量子収率は33%に達する。 シアノスチルベン基の発光は、ジニトロトル エンやトリニトロトルエンが存在すると光誘起 電子移動反応により消光される。我々は、繊維 状のフィルムをジニトロトルエンの希薄な蒸気 に晒すと、フィルムからの蛍光強度が瞬時に低 下することを確認した。蛍光強度の減少は、繊 維状の構造をもつフィルムでは90%を超える。 一方、ビナフチル基で連結されていないシアノ スチルベンでは、このような蛍光強度の減少が 起こらない。蒸気圧から換算すると、検出可能 なジニトロトルエンの濃度は、ppbオーダー (10-9g/g)となる。同様な高感度検出は、トリ ニトロトルエンでも可能であった。 3-6 ロタキサンポリマー 酸化還元反応により電気的・力学的特性を大 きく変化させる材料を開発するために、本セン ターでは、ポリチオフェン(導電性高分子)に 環状の酸化還元部位(ビオロゲン)が連結した 新しい高分子を合成した(図6)。この高分子で は、ネックレス状に配置された酸化還元部位が 幾何学的に拘束されており、導電性高分子の分 子鎖と常に接している。また、ビオロゲン部位 とポリチオフェン鎖は、電子のドナーとアクセ プターの関係にあり、酸化還元反応により高分 子特性が大きく変化する。 ネックレス状導電性高分子は、モノマーを透 明電極(ITO)上で電気化学的に重合すること で、100 nm程度に薄膜化することができ、そ の薄膜は、電圧の印可により赤色から薄青色に 可逆的に変化する。このため、調光材料やカラ ー電子ペーパー、あるいは電界効果トランジス タなどへの応用が期待されている11,12)。 図6環状ビオロゲンとポリチオフェン誘導体のロタ キサン型ポリマー11) 3-7高配向有機FET ナノ有機センターでは、アゾベンゼン基を有 するポリイミド化合物を用いて光配向膜を製造 する技術を有する。この光配向膜は、その上に 液晶性の共役高分子13,14)、あるいはペンタセン などの機能性有機分子15,16)の配向膜を形成で きるため、偏光高分子電界発光(EL)素子や高 性能有機電界効果トランジスタ(FET)の作製 に利用できる。 フルオレニル/ビチオフェン型コポリマー (Poly [(9,9- dioctylfluorene -2,7- diyl)-co-bithio - phene)] : F8T2)は、空気中で安定な液晶性共 役高分子であり、高いホール移動度を示す。ま た、その液晶性を利用して骨格構造を一軸配向 させることによって、配向方向に沿ったホール 移動度を増強させることができる。我々は、ア ゾベンゼンを含むポリイミド(Azo-PI)光配向 膜上にF8T2の高配向膜を形成し、異方的かつ 高い電界効果移動度を確認した17)。 図7に作製した高配向F8T2-FETの構造を示 す。Azo-PI光配向膜(11nm)を形成した後、 ソース・ドレイン電極を作製し、F8T2層をス ピンコートし、285℃でアニール後に室温まで 急冷することによって、高配向F8T2層を形成 した。この膜上にゲート絶縁膜を堆積した後、 ゲート電極を形成してFETを作製した。クロ スニコル配置の偏光顕微鏡でFET素子を回転 しながら観察すると、高配向F8T2層に由来す る明暗が観察される(図7)。このデバイスの伝 達特性から決定した飽和領域の電界効果移動度 は、F8T2のポリマー鎖とチャンネル(電流) の方向が平行の場合0.016 cm2V-1s-1、ポリマー 鎖とチャンネルの方向が垂直の場合、0.002 cm2V-1s-1であった。平行配向素子、垂直配向素 子共に、ヒステリシスがほとんどないノーマリ ーオフのp-チャンネル・トランジスタ動作を示 し、両素子共に107を超えるon/off比を示した。 平行配向素子の移動度は、これまでに報告され ているF8T2-FETの移動度の最高値と同等で あった。Azo-PI光配向膜は2次元配向パターン を容易に作製できるので、高配向活性層を有す る有機FETの集積化に適した配向膜である。 図7フルオレニル/ビチオフェン型ポリマーのFET の偏光顕微鏡像17) 3-8ナノ粒子近接場光源 近接場光は特定波長を集光できるため、近年、 光センサーや太陽電池、光化学反応などへの応 用が期待されている。しかし、これらのデバイ スを実現するためには、実用化が可能な大面積 の近接場面光源が必要となる。本センターでは、 アルカンチオール分子を利用して、近接場光の 点光源となる金ナノ粒子を金被覆基板上に緻密 に並べることで、この大面積化に成功した18)。 直径10 nmの金ナノ粒子を用いた場合、一つ の金ナノ粒子に注目すると少なくとも3~4個 の隣接ナノ粒子までは粒子間距離が等しい秩序 的な配列構造を有する(図8)。金ナノ粒子配列 の吸収波長は、金ナノ粒子径と隣接金ナノ粒子 との距離をパラメーターとして、600 nmから 1100 nmの間で調整できる。この結果、これら のナノ粒子の配列構造は、可視光領域から遠赤 外領域までの幅広い波長の近接場光源として利 用できる。 光源が点から面になることで、近接場光には 幅広い応用の可能性が広がる。我々は、金ナノ 粒子の配列構造による近接場光源の光を著しく 増幅することを、近傍に存在する蛍光分子の発 光強度の増大から実証した。 図8金ナノ粒子2次元配列のSEM像、ナノ粒子間径と 隣接距離に依存した吸収スペクトル変化18) 4.今後の研究動向 ナノ有機センターは、有機材料を対象とする NIMSの最初の研究センターとして、外部から の優秀な人材の獲得、若手の育成、最先端の研 究環境の整備、化学系企業との連携など、多様 な役割を担った。特に、MPIやUCLAとは、 グループリーダーの招聘・派遣により相互に密 接に連携し、結果として、NIMSの有機材料の 研究レベルを急激に向上させることがきた。 一方、本センターでは、有機材料の性能向上 や耐久性の評価にも力を注いだ。5年間の研究 で見出された様々な新材料は、企業との連携を 深めつつ、具体的な用途開発を進めることで、 我が国の競争力の向上につながるであろう。 参考文献 1)X. Peng, J. Jin, E. M. Ericsson, I. Ichinose: J. Am. Chem. Soc.129(2007)8625. 2)X. Peng, J. Jin, Y. Nakamura, T. Ohno, I. Ichinose: Nature Nanotech. 4(2009)353. 3)J. Jin, Y. Wakayama, X, Peng, I. Ichinose: Nature Mater. 6(2007)686. 4)W. Bu, J. Jin, I. Ichinose: Angew. Chem. Int. Ed. 47(2008)902. 5)I. Ichinose: Free-Standing Nanostructured Thin Films, Chapter 8 in Nanostructured Thin Films and Surfaces, C Kumar (Ed), Wiley-VCH, Weinheim, 2010. 6)T. Nakanishi, T. Michinobu, K. Yoshida, N. Shirahata, K. Ariga, H. Möhwald, D. G. Kurth: Adv. Mater. 20(2008)443. 7)J. Wang, Y. Shen, S. Kessel,P. Fernandes, K. Yoshida, S. Yagai, D. G. Kurth, H. Möhwald, T. Nakanishi: Angew. Chem. Int. Ed. 48(2009)2166. 8)T. Nakanishi: Chem. Commun. 46(2010) 3425. 9)K. Sugiyasu, Y. Honsho, R. M. Harrison, A. Sato, T. Yasuda, S. Seki, M. Takeuchi: J. Am. Chem. Soc.,132(2010)14754. 10)C. Vijayakumar, G. Tobin, W. Schmitt, M.-J. Kim, M. Takeuchi: Chem. Commun. 46(2010)874. 11)T. Ikeda, M. Higuchi, A. Sato, D. G. Kurth: Org. Lett.10(2008)2215. 12)T. Ikeda, M. Higuchi, D. G. Kurth: J. Am. Chem. Soc.131(2009)9158. 13)K. Sakamoto, K. Miki, M. Misaki, K. Sakaguchi, M. Chikamatsu, and R. Azumi: Appl. Phys. Lett. 91(2007)183509. 14)K. Sakamoto, K. Miki, M. Misaki, K. Sakaguchi, Y. Hijikata, M. Chikamatsu, R. Azumi: J. Appl. Phys.107(2010)113108. 15)D. Guo, K. Sakamoto, K. Miki, S. Ikeda K. Saiki: Appl. Phys. Lett. 90(2007)102117. 16)D. Guo, K. Sakamoto, K. Miki, S. Ikeda, K. Saiki: Phys. Rev. Lett.101(2008)236103. 17)K. Sakamoto, T. Yasuda, K. Miki, M. Chikamatsu, R. Azumi: J. Appl. Phys., 109, (2011)013702. 18)K. Isozaki, T. Ochiai, T. Taguchi, K. Nittoh, K. Miki: App. Phys. Lett., 97 (2010) 221101. ナノセラミックセンターの5年 ―ナノ粒子プロセスの高度化によるイノベイティブセラミックスの創製― センター長目義雄 1.センターの目的 近年、IT・半導体、環境、原子力、航空宇宙 などの先端産業を支える新デバイスの開発、機 器の発展、高効率化、環境負荷の低減が強く求 められている。ナノセラミックスセンターでは、 光、電磁機能、耐熱性や高強度といった基本的 特性の先鋭化に加えて、これらの特性を意図的 に重畳あるいは洗練させた多機能性のイノベイ ティブセラミックスを創製すること目指してい る。ここでは、種々のナノ粒子プロセスを追求 し、高度化を図るとともに、機能発現機構に基 づいたナノ構造設計の指針構築と新機能材料の 合成・評価までを一貫させ、相互の連携によっ てより新規な展開を図る。 2.活動概要 当センターは、ナノスケール物質領域に属す る研究センターとして発足し、以下の6グルー プが設置された。 ①粒子プロセスグループ(GL :目 義雄) ②非酸化物焼結体グループ(GL:田中英彦、 定年退職により、H21年度より廣崎 尚登) ③窒化物粒子グループ(GL :廣崎尚登) ④高融点微結晶グループ(GL:平賀 啓二郎) ⑤プラズマプロセスグループ(GL:石垣 隆正) ⑥機能性ガラスグループ(GL :井上 悟) 要素技術は、(1)均一な組成、結晶子径の制御 されたナノ粒子の合成、(2)粒径の揃ったナノ粒 図1研究要素間の連携 子配列・集積化・分散制御、規則配列多孔体の 作製と空間利用、(3)マイクロメートルからナノ メートルオーダーまでの高次構造制御、(4)局所 構造と対象機能の発現との理論的・実験的検討 によるナノ構造設計、である(図1)。各要素の 年次計画を図2に示す。 特に、ナノ粒子プロセスの高度化には、外界か ら反応場に、電場、磁場、電磁場、応力場などを 印加することが効果的であることが分かってき た1)。各プロセスに関する研究は、いずれもNIMS において先導的に研究されて来た経緯があり、そ れぞれ高いポテンシャルを誇っている。具体的な 図2各要素の年次計画と研究目標 要素技術として、反応性熱プラズマによるナノ粒 子創製技術、プリカーサーによる高純度非酸化物 系ナノ粒子作製技術、気相法による高機能非酸化 物ナノ粒子の作製技術、パルス通電(SPS)など の高度焼結技術、強磁場印加による弱磁性体配向 技術、電気泳動堆積による膜、積層体作製技術、 陽極酸化による規則配列多孔体作製技術などが 挙げられる。 3.研究成果 3-1高周波熱プラズマによる非平衡組成酸 化チタンナノ粒子の合成 液体プリカーサーを酸素含有RF熱プラズマ 中にミストとして噴霧し、蒸発、酸化反応を経 て鉄およびユウロピウム、エルビウムを添加し た高結晶性酸化チタンナノ粒子を一段プロセス で合成した2)。 酸化チタンは約3.2eVのバンドギャップをも ち、近紫外光である380nm程度までの光を吸 収する。酸化チタンホスト格子に吸収されたエ ネルギーを発光種である希土類イオンに効率的 に移動させることができれば、高効率発光体と して利用できる可能性がある。しかしながら、 チタンと希土類元素ではサイズが大きく異なり (6 配位イオン半径:Ti4+; 0.065、Eu3+;0.095、 Er3+;0.088 nm)、希土類元素は酸化チタン格子 中に固溶しがたい。合成に成功した熱プラズマ 合成TiO2:Eu3+ナノ粒子は、TiO2格子に希土類 元素であるEu3+を均質に導入したものであり、 Eu3+は最大0.5at%まで固溶した。図3に示し たように、このナノ粒子から、TiO2のバンド励 起を与える近紫外光330-380nmの照射により、 波長617nmにピークをもつ赤色純度の高い発 光が得られた。同様に、Er3+が約0.5at%固溶し たTiO2:Er3+ナノ粒子では、波長1.54μmの強い 近赤外発光を得ている。 磁性半導体として期待されている遷移金属ド ープ酸化チタン系では、鉄ドープナノ粒子で熱 プラズマ法を用いると鉄が0~16.7モル%の非 常に広い範囲でTiO2に固溶することを見いだし た3)。通常用いられるゾルゲル法など液相合成で は、鉄ドープ量の上限は5モル%程度であった が、熱プラズマ法では、非常に高濃度の鉄がド ープされた酸化チタンナノ粒子が合成可能であ った。酸化チタン中のTi4+のFe3+による置換は 酸素空孔の生成をもたらし、さらに、5モル%以 上の高濃度鉄含有ナノ粒子では、酸素空孔の規 則化の結果Shear構造が現われた(図4)。 図3 Eu3+ドープTiO2ナノ粒子の発光および励起ス ペクトル 図4高濃度酸素空孔の規則化による濃淡縞が見 られる鉄ドープ酸化チタンナノ粒子のTEM像 3-2非酸化物系ナノ粉末の合成プロセス 近年、非酸化物系セラミックス産業において は、高純度化や粉末微細化のニーズが強くなっ ている。プレカーサー法やゾルーゲル法を応用 して、有機物質からナノスケールの炭化物セラ ミックスを合成するプロセスを開発している。 有機物質を原料として用いると、高純度精製や 粒子微細化が比較的容易であるという利点があ る。高純度炭化ケイ素(SiC)のナノ粒子作製 には、プレカーサーとなるポリカルボシラン (PCS)高分子をノルマルヘキサンに溶解し、こ の溶液を攪拌したエタノ ールに少しずつ滴下す ることによって、図5のように一次粒子径が 100nm以下の微細なPCS粒子が混合液中に析 出することを見い出した4)。 このプロセスは、 簡便で量産にも適しており、また、混合条件の 適正化により、析出するPCS粒子径を広範囲 に制御できる可能性がある。得られた析出物を アルゴン雰囲気中で焼成することにより、SiC 粉末に変換できた。 AlNナノ粉末の粒径制御に関し、Al2O3ナノ 粒子を出発としたガス還元窒化プロセスにおい 図5 SiCプレカーサー粒子 て、反応過程と熱処理条件の最適化を進め、粒 成長を抑えたナノ粉末を合成した。多元窒化物 の合成に関し、La2O3-SiO2-CeO2系等の酸化物 前駆体をガス還元窒化することにより、多元窒 化物である(La,Ce)Si3N5の高純度窒化物粒子を 合成した。また、炭素還元窒化により多元窒化 物である(Y,Ce)3Si6N11の高純度窒化物粒子を 合成した。これは、通常の固相反応では生成し ない相であり、低温での炭素還元で初めて合成 に成功した。以上のように、ガス還元窒化プロ セスは、高純度酸化物をプレカーサーとして純 度と形態を保ったまま窒化物に変換する手法で ある5)。これらの窒化物粒子は、蛍光体や透明 焼結体などの光学用途への採用が期待されてい る。 3-3多様なナノ構造作製に応用できる多孔 体セラミックス 配列したナノ メ ーターサイズの細孔を含有す る多孔体セラミックスに陽極酸化アルミナがあ る。これは反応が進む過程で起こる相互作用に より、型などを使わなくても規則的な多孔体組 織ができる。このような陽極酸化技術は、アル ミニウムの化学的耐久性の改善(アルマイト) やカラーアルミサッシなどの工業的量産技術と して開発され改良されてきた技術で、40年以上 の歴史がある。ここでは、陽極酸化技術を、ガ ラス表面での成膜技術に発展させるとともに、 より多様なナノ構造作製技術として高度化する 研究を進めた。例えば、Al-TiまたはAl-Zrの2 層金属薄膜をガラス基板上に形成し、Al層を最 初に陽極酸化し続いてより強力な条件で2層目 のTi或いはZrを陽極酸化するスルーマスク陽 極酸化により従来規則配列が困難であったTi やZrの規則陽極酸化が可能となった。 作製可能な細孔径は数nm~1000nmの広範 図6様々な陽極酸化細孔アレイを鋳型として作製 したニッケルナノコーンアレイのSEM写真 囲に亘り、細孔の形を通常の円柱状から円錐状 や樽状などとすることができる他、細孔中には ゾル・ゲル法や電析法により化合物を導入でき るので、ナノメーターサイズの鋳型として利用 できる。また、陽極酸化アルミナと細孔中に導 入した化合物との溶解度差を利用すると、型そ のものを溶かしてしまうことでガラス表面にナ ノ メーターの大きさのロッドやチューブが林立 した構造(アレイ)を形成できる6)。細孔内壁 に二酸化チタン膜を付加した光触媒や磁性体を 埋め込んだ高密度磁気記録媒体などへの応用が 期待されている。 図6に陽極酸化アルミナを鋳型として作製し た様々な高さ:口径比(アスペクト比)のニッ ケルナノコーンアレイの走査電子顕微鏡写真を 示す6)。このようにアスペクト比を大きくとれ るので無反射膜やセンサーなどへの応用が期待 されている。また、直流電圧を掛けることで縦 の細孔が揃っている構造が得られ、交流の電圧 を加えると全く異なる層状の構造となる。 硫酸水溶液中の反応 蓚酸水溶液中の反応 りん酸水溶液中の反応 クエン酸水溶液中の反応 図7様々な酸水溶液中の交流印可陽極酸化で作られ た層状陽極酸化アルミナのSEM写真 種々の酸水溶液を使って作製した層状構造 例の電子顕微鏡写真を図7に示す7)。この構造 は二枚貝の貝殻構造に似ている。貝殻では層の 中がセルに分かれていてより頑丈な構造になっ ている。このように、直流や交流の電圧を加え る陽極酸化技術の複合制御法の開発や、精度を 向上することで多様な多孔体やナノ構造を作製 できると期待される。 3-4パルス通電焼結による多機能セラミッ クスの創製と焼結機構 多結晶セラミックスを微細粒のまま高密度に 焼結すると、高い強度と透明性が同時に得られる ことが期待される。低速度昇温制御パルス通電焼 結により微細粒・透明セラミックスの合成を可能 とした(図8)。これにより、Al2O3、MgAl2O4で 最高水準~従来の2倍に達する強度と透明性(光 の直線透過率45%~70%)の重畳を達成した。さ らに、多結晶体の微視構造(粒径・気孔)と光の 透過・散乱・吸収挙動との関係について、理論解 析を含めて初めて明らかにした8,9)。 図8従来手法(左)と本研究の低速度昇温制御SPS (右)の比較 一方、パルス通電焼結の特徴は、大電流(数 千アンペア)印加による急速加熱と加圧焼結で ある。WCなどの導電性試料とAl2O3などの絶 縁体試料について、均一な組織を得る手法につ いて検討した10)。また、MgAl2O4のパルス通電 焼結による緻密化と結晶粒構造の変化挙動を追 跡し焼結機構を調べた結果、拡散クリープ(n ~1:既存モデル)のみでは説明できないこと を見出した(図9) 11)。焼結速度ρtと実効応力 σeffの相関より求めた応力指数nは、σeffの低下 (密度ρの増加)に伴いn>4から連続的に減少 し、徐々にn≈1に近づく傾向を示した。また、 焼結中の内部組織のTEM観察の結果、焼結初 期(n>4:図中の↓)では積層欠陥を伴う多く の部分転位組織が観察され、細粒材に特有の機 構が現れていると推察される。焼結が進行する と、高密度域(n≈1)では低密度域で確認され た転位組織は観察されなくなった。以上の焼結 挙動および組織観察の結果より、スピネルの焼 結は、ρt<73%の焼結初期(n>4)では塑性変 形、ρt= 73-85%の中期(n≈1)では拡散機構が 支配的な焼結機構であると解釈した。 図9規格化した応力に対する緻密化速度.暗視野 TEM像は、ρt = 74%で観察された積層欠陥を示す 3-5電気泳動堆積法(EPD)の高度化 従来のEPDプロセスでは、コストや環境問 題、粒子分散性の高さや容易さから水系サスペ ンションの利用が求められているが、水の電気 分解で発生する気泡が粒子堆積層内に巻き込ま れ膜質や膜密度を低下させる問題を抱えており、 有機溶媒系サスペンションが多く用いられ水系 溶媒の使用は実用化に至っていなかった。しか し、水系溶媒を用いた場合でも、印加する直流 をパルス状(矩形波)としそのON/OFFスイッ チング速度を速くすると、気泡の生成が徐々に 減少し、ある一定のスイッチング速度で気泡の 発生が完全抑止された堆積膜が形成できること を見出した(図10)12)。 導電性ポリマーで被覆したセラミックスを 基材とする電気泳動プロセスは、非導電性のセ ラミックス上への粒子の体積を可能とし、EPD 法の適用分野を大きく広げた13)。また、DCパ ルス電気泳動堆積法は、従来の有機溶媒系プロ セスを環境やコストに優しい水系プロセスに転 化する画期的な方法である。 図10堆積体内への気泡生成に及ぼすパルス印加時 間と電流の関係 著者らは、アルミナのような弱磁性体でもそ の結晶磁気異方性を利用することにより、10 T 程度の強磁場中スリップキャストにより配向体 を作製できることを実証した14)。配向体作製の 要件としては、結晶磁気異方性を有すること(通 常、非立方晶の結晶構造であれば良い)、単結晶 粒子が単分散していること、磁化エネルギーが 熱エネルギーよりも大きいこと、粒子が回転で きる程度に粘度が小さいこと、粒状粒子の場合 粒成長することなどが挙げられる。 EPDを強磁場中で行うことにより、基板の向 きを変えても結晶方位は磁場印加方向のみに依 存することが分かってきた14)。磁場と電場の なす角度(φB-E)を調節することにより、基板に対 する結晶方位が制御可能となる。また、EPD中 に時間毎にφB-Eを変化させることで、結晶方位 が違った層を堆積することが可能となる。 図11は,磁場と電場のなす角をφB-Eとしたと き、φB-E = 0°とφB-E = 90°を交互に繰り返して積 層させたアルミナの例である。φB-Eを制御する ことで配向層を積層した場合でも、下地の堆積 層の結晶方向に引きずられること無く、結晶方 位を揃えることが可能であることが確認できる。 図11φB-E = 0°とφB-E = 90°で作製した配向積層アル ミナの微細組織 強磁場を利用した結晶方位制御と電場を利用 した粒子配置制御が同時に期待できる強磁場 EPD法は、結晶方位と組織微構造の双方が高次 に制御されたセラミックス薄膜、厚膜、積層体、 傾斜組成材料などの作製に応用できる新しいセ ラミックスプロセスとして期待される。特に、 安価な市販の粉末から結晶方位が任意に制御さ れた配向体が簡単に作成でき、汎用性の高いプ ロセスであるという利点は大きい。現在、構造 材料、強誘電体、熱電材料、イオン伝導体、光 触媒材料などの高機能化・多機能化に本方法の 適用が進められている。 3-6強磁場中鋳込成形による真珠殻構造の 作製 微構造制御による材料特性向上のヒントは、 自然界にある。例えば、真珠殻は100nm程度の 厚さを持つ配向した炭酸カルシウムの板状組織 が積層し、その界面にタンパク質膜を数パーセ ント含んだ配向積層構造(階層構造)をとる15)。 この組織は、炭酸カルシウム焼結体に比べて、 強度、靭性(壊れ難さ)とも格段に優れた特性 を持つ。強度と靭性といった背反する特性の向 上のヒントはその微構造にある。両者を同時に 大きくするためには、そのミクロ構造が1)粒界 界面が弱く、2)粒子が棒状、板状組織を有する、 という2つの性質を持つことが必須である15)。 ここで、ナノサイズの層として、MAX相セラミ ックスに注目した。MAX相はMn+1AXnと表さ れ、Mは遷移金属、AはAグループ元素、そし て、XはC、またはNとなる16)。 一例として、MAX相をNb4AlC3とした結果 を紹介する17)。このMAX相ではAl原子層と Nb、及びC原子層間の結合力が弱いことから、 転位が起こりやすく、原子層が滑りやすい。 Nb4AlC3のナノ層粒子を整列させため、強磁場 中で鋳込成形し、さらにパルス通電加熱焼結し た。SEMおよびTEM写真から、ナノスケール の大きさの層を有する真珠殻に似たミクロ構造 であることがわかる(図12)。 図13は配向性Nb4AlC3セラミックスとその 他のセラミックス材料の曲げ強度と破壊靱性の 比較を示した。この図から分かるように、配向 性Nb4AlC3セラミックスは曲げ強度と破壊靱 性のいずれも最高値を示す。また、Nb4AlC3セ ラミックスは1400℃まで劣化することなく曲 げ強度を保持することから、高温用途への適用 も可能と考えられる。さらに、Nb4AlC3セラミ 図12配向Nb4AlC3セラミックスの組織構造図 (a)、配向体の横面(b)および垂直面(c)のSEM写 真、積層面(d)および粒界(c)のTEM写真.ナノオ ーダー(積層面)からミクロンオーダー(粒界)まで 配向積層体となっていることがわかる 図13配向Nb4AlC3セラミックスとその他の先端 セラミックスの曲げ強度と破壊靱性の比較 ックスは加工が容易なため、複雑な構造部品も 簡単につくることができ、高性能層状セラミッ クス材料の開発と設計につながっていくと期待 される。 4.今後の研究動向 今後は、ナノセラミックスセンターの様々な 成果を活用、さらにプロセス技術を高度化する ことで、環境調和型無機多機能材料の創製に繋 げていく予定である。特に、ナノセラミックス センターではあまり取り組まなかったフラーレ ン、ナノチューブ、グラフェンなどのノベルカ ーボン材料、外場としてナノ構造保持に最も有 力と考えられる超高圧の利用、培われたプロセ ス技術の活用によるセラミックス系の機能探索 を加え、より総合的に、より強力な連携の下で の取り組みが望まれる。粒子作製、構造体化、 設計・評価まで、一環した研究体制で行える研 究拠点として、本研究体制に比肩できる大学、 機関は見当たらない。単機能の先鋭化された物 質・材料、多機能物質・材料の開発には、本プロ ジェクトが有する一環体制が威力を発揮するも のと自負している。 参考文献 1)Y. Sakka et al.: Sci. Tech. Adv. Mater. 8 (2007)572. 2)X.H. Wang, J.-G. Li, H. Kamiyama, Y. Moriyoshi and T. Ishigaki: J. Phys. Chem. B,110(2006)6804. 3)J.-G. Li, X. H. Wang, K. Watanabe, T. Ishigaki: J. Phys. Chem. B,110 (2006) 1121. 4)S. Ishihara, H. Tanaka, T. Nishimura: J. Mater. Res., 21(2006)1167. 5)H-L. Li, R-J. Xie, N. Hirosaki, Y. Yajima: J. Electrochem. Soc.,155(2008)J378. 6)T. Nagaura, et al.:Electrochem. Com.10 (2008)681. 7)T. Nagaura, F. Takeuchi and S. Inoue: Electrochimica Acta, 53(2008)2109. 8)B. N. Kim, K. Hiraga, et al.: Acta Mater. 57(2009)1319. 9)B. N. Kim, K. Hiraga,et al.: Acta Mater. 58 (2010)4527. 10)S. Grasso, Y. Sakka, G. Maizzaand C. F. Hu: J. Am. Ceram. Soc. 92(2009)2418. 11)K. Morita, B.-N. Kim, H. Yoshida and K. Hiraga: Scripta Mater. 63(2010)565. 12)L. Besra, T. Uchikoshi, T. S. Suzuki, Y. Sakka: J. Europ. Ceram. Soc., 30(2010) 1187. 13)T. Uchikoshi, T. S. Suzuki, Y. Sakka: J. Europ. Ceram. Soc., 30(2010)1171. 14)T. S. Suzuki, T. Uchikoshi and Y. Sakka: Sci. Technol. Adv. Mater., 7(2006)356. 15)M. A. Meyers et al.: Prog. Mater. Sci., 53 (2008)1. 16)M. W. Barsoum: Prog. Solid State Chem. 28(2000)201. 17)C. Hu, Y. Sakka, et al.: Scripta Materia. 64(2011)765. ナノスケール物質萌芽ラボの3年 ―ナノ組織制御による機能発現研究― ナノスケール物質萌芽ラボ長井上悟 1.目的 無機、有機―無機複合材料を中心として、ナ ノスケール物質の新規合成および物性解析研究 を進め、独創的な物質合成法・物性評価法の開 発を通じて新規機能材料分野を開拓することを 目的とした。 2 .活動概要 超高圧グループでは、超高圧力下の物質合成 技術及び超高圧力下の物質状態の研究を通じ、 新高密度物質・高機能材料等の探索を推進する ための超高圧力研究システム開発研究を進めた。 ホウ素骨格と金属よりなる高融点ホウ化物 (ホウ素/金属≧2)は、共有結合と金属の両 者から来る特異な特性を示す。ホウ化物グルー プでは、ホウ化物を研究対象として、3000℃付 近における良質な大型単結晶の育成、さらに、 良質な試料の利点を活かした物性評価を行い、 新しい特性や現象の発見および材料の開発(Ⅲ 族窒化物半導体形成用基板など)を進めた。 試料のサイズが、その物性を決めている特長 的な長さまで小さくなると、試料の大きさや形 状に起因する新規の量子輸送現象が発現する。 ナノ量子輸送グループでは、微細加工装置を利 用して、さまざまな物質を加工し、量子現象が 顕著に現れやすい低温磁場中で電気的磁気的特 性を調べて、新規の量子輸送現象を探索してき た。さらに、有機物や強相関電子系などの物質 においても、デバイスへの応用を目指した新規 の量子現象の発見を目的に研究を進めた。 「ポリアモルフィズム」とは1成分物質の無 秩序な状態(液体、ガラス、非晶質)に多形が 存在し、さらに、その無秩序相間で不連続な転 移が起こることを意味する。ポリアモルフィズ ムグループでは、ポリアモルフィズムという新 しい観点から液体とガラスをより深く理解する ことでナノ組織制御のアイデアを創出すること を目標としている。具体的には、「液体-液体臨 界点」の概念に基づいて、水 (H2O)や水溶液 の物性の理解を目指して研究を進めた。 ガラスグループでは、主に新ガラス探索と新 ガラス溶解法について研究した。新ガラス探索 には、コンビナトリアルガラス研究システムを 使用して短時間での探索を実施している。また、 新ガラス溶解法開発研究では、大幅な省エネル ギー達成を目標に、革新的気中溶解技術につい ても研究している。 3.研究成果 3-1基本酸化物構造探索研究の新展開(セス キ酸化物における高配位高密度構造の発見) 酸化インジウムにおいて、ダイヤモンドアン ビル高圧装置を使い、40万気圧以上の圧力でレ ーザーにより2000度以上の温度を発生させる ことにより、従来よりも13%密度の高い構造の 生成に成功した。この構造は、7および8配位の 金属イオンサイトを持ち、理論計算でも構造安 定性が確認されたことから、様々な元素置換が 予測され、機能性酸化物の探索研究のうえで、 新しい基本酸化物構造として注目されている1-3) (図1)。 図1基本酸化物構造探索研究の新展開 3-2鉄系超伝導体の電子状態を探る 2008年に発見された鉄とヒ素を含む鉄系超 伝導体は、絶対温度55度(摂氏-218度)と比 較的高い温度で超伝導になり、現在開発の進ん でいる銅酸化物高温超伝導体の強力なライバル になる可能性がある。 ナノ量子輸送グループは、2010年に強磁場共 用ステーションの強磁場磁石を用いて鉄系超伝 導体 KFe2As2のドハース・ファンアルフェン (dHvA)振動の測定に成功し、その電子状態 を詳細に明らかにした。 図2試料を強磁場・超低温の測定環境に送り込むため の全長3.5mのプローブと試料(左上)、検出コイル(右 下) 図3鉄系超伝導体KFe2As2のdHvA振動(挿入図)と そのフーリエ変換.測定温度は絶対温度0.08度(摂 氏-272.65度).ε、α、ζの3種類の周波数成分が 確認できる.2α、3αなどは高調波.また、Cu(N) とマークされているのは検出コイルの銅線から信号 で試料と関係ない 試料を強磁場かつ絶対零度に近い超低温の測 定環境に送り込むセットアップを図2に示す。 図3の挿入図は観測されたdHvA振動の一例。 振動に含まれる周波数成分を調べると(図3)、 ε (イプシロン)、α (アルファ)、ζ(ゼータ) と名付けた3種類の周波数成分がある。磁場を かける方向や温度を変えて多数の測定を行い、 電子構造計算と呼ばれる理論計算と比較すると 顕著な食い違いがあり、電子と電子の間の相互 作用が通常よりも遙かに強い、すなわち強相関 の状態にあることが明らかになった。これは、 鉄系超伝導体の超伝導機構解明を目指す研究に おいて基本的で重要な知見である。 3-3ホウ化物単結晶合成とその物性 二ホウ化ジルコニウムは、格子定数、熱膨張 率が窒化ガリウムにほぼ一致し、高い熱伝導性 と電気伝導性を有する、理想的な基板材料であ る。しかしながら、融点が3200℃と高く、良質 な大型単結晶の作製が容易でない。そのため、 図4ホウ素炭素系溶媒を用いたZrB2単結晶の作製 溶媒を用いる浮遊帯域溶融法による結晶育成の 結果、育成温度が600℃と低く設定できること により加熱電力が45%低下し、さらに、得られ る単結晶中の欠陥(エッチピット密度)が一桁 以上減少した。さらに、溶媒を用いるこの手法 が他の高融点単結晶の育成においても有効なこ とを実証した。 得られた各種単結晶を 基板とした窒化ガリウム 膜の作製においては、基 板表面第一層が金属原子 であることが、窒化ガリ ウム膜の成長に決定的な 要因になることを実証し た。また、固溶体化する ことで格子定数を一致さ せた基板においては、成 長初期段階からスムース な窒化ガリウム膜の成長 を確認した。 3-4水のポリアモルフ ィズム研究 水は4℃で密度が最大 になる(図5)。これは、 低温高圧下で水が2つの 液体に相分離するために 起こると考えられている。 低温で水は結晶氷になる ため、この液液臨界点仮 説の実験的証明は難しい。 水を乳化して過冷却状態 を作り、低温高圧下で水 の体積を精密に測定した。 結果は臨界点付近で見ら れる特有な体積変化を示 図5 4℃で密度が最 大になる し(図6)、500気圧、-50℃付近に臨界点があ れば、臨界点のスケーリングの式で定性的に記 述できることが分かった。 また、水の2状態間の変化が不連続であるこ とを明確にするため、2つの非晶質氷間の体積 変化と高濃度の水溶液ガラスの連続的な体積変 化を比較した。結果は、「異なる非晶質構造間の 不連続な相転移」と「非晶質構造の連続的な構 造緩和」が本質的に異なることを示した。 これらの結果は、水の液―液臨界点仮説の妥 当性を示している。 図6臨界点付近の体積変化 3-5酸窒化物蛍光体分散ガラスの作製 サイアロンに代表される酸窒化物蛍光体は 耐熱性が高く、高温下での利用なども期待され る。現状はシリコン系のポリマーに封止するこ とによってLED等への応用が進められている。 近年のLED技術の進歩により、蛍光体を光ら せる光源の出力は向上し非常に高輝度での発光 が可能になってきた。しかしながら、光源の出 力の増加に伴い、光源近傍は非常に高温になる ため、現状においては出力をかなり絞った状態 で光源が使用されている。このため、500℃近 くの高温においても使用できるような封止材と してガラスに注目し、研究を行った。 ガラスの作製方法としては(1)溶融法、(2)ゾル- ゲル法の二種類を用いた。 (1)では、B2O3系ガ ラス及びTeO2系ガラスを対象として、ガラス を1200℃で作製した。その後、得られたガラス を粉砕し、Ca-α-SiOAlON:Eu2+を添加した後、 再度溶融を行った。(2)では、テトラメトキシシ ラン(TMOS)を原料として、塩基性触媒下に おいて加水分解、縮重合反応を室温で行った後、 Ca-α-SiOAlON:Eu2+を添加した。熟成した後、 乾燥し、1050℃で焼結を行った。 方法(1)においては、R2OB2O3(R:Li,Na,K)で は、アルカリの添加量が増えるに従って、蛍光 体が失活する様子が確認された。R'O-B2O3 (R':Mg,Ca,Sr,Ba)系ガラスでは、ガラスの溶融 温度が十分ではなく、ほとんどガラスを得るこ とができなかった。また、ZnO-B2O3系ガラス においては、蛍光体を失活することなく、ガラ スを得ることができたものの、蛍光体の凝集が 起こっていた。R2OZnO-B2O3ガラスについて 検討したところ、アルカリの添加量が増えるに つれて蛍光体が失活する傾向がみられたものの、 数%のアルカリを添加することによって、蛍光 体が均質に分散したガラスを作製することに成 功した。ガラス構造の解析によって、ガラス中 に形成される非架橋酸素の形成が蛍光体の失活 に影響することが示唆された。 一方、TeO2系ガラスでは、蛍光体無添加では ガラスの形成は可能であったものの、ほとんど のガラスは蛍光体を添加すると、蛍光体が黒っ ぽく変化し、失活する様子が確認された。ガラ ス転移温度が比較的低いガラス系では、再溶融 温度をガラス転移温度付近まで下げることによ って、蛍光体が失活しないで分散するガラスが 形成できることが確認された。これらの蛍光体 分散ガラスは、ガラスの厚さ及び蛍光体添加量 によって白色に近い色度を得ることができた。 図7に蛍光体を分散したNa2O-ZnO-B2O3ガラ ス、およびTeO2系ガラスの写真を示す。TeO2 系ガラスの方が屈折率が分散した蛍光体と近い ため、蛍光体が均質に分散していることがわか る。このため、TeO2系ガラスの方が発光の効率 が高くなることも確認された4)。 方法(2)においては、蛍光体を添加したシリカ ガラスの作製に成功した。ゾル-ゲル法では、乾 燥時に働く毛管力によって亀裂等が形成し、大 きなバルクの形成が難しいことが知られている が、数cmの大きさのバルク形成に成功した。 図7蛍光体分散Na2O-ZnO-B2O3ガラス及び Na2O-ZnO-B2O3ガラスの外観とLED露光時(下段)4) 図8蛍光体分散シリカガラスの外観図5) 図8には5mass%の蛍光体を含むシリカガラス の写真を示す。ガラスが厚い時は、ガラス中で 励起光が散乱してしまい白色は得られなかった ものの、ガラスを薄くし蛍光体添加量を制御す ることによって白色の発光が得られることが明 らかになった5)。 4.今後の研究動向 これまで整備・開発されてきたベルト型高圧 装置、ダイヤモンドアンビルセル、衝撃圧縮装 置を基盤とした高圧力技術の更なる発展(圧 力・温度領域の拡大とその制御技術の精密化) を進めるとともに、これらを連携して、高圧下 における反応性流体相の制御と高密度相凍結の ための制御技術の開拓を軸として、未知の現象 の解明、新規超硬質材料、水素吸蔵材料、新半 導体材料・超電導物質の探索・創製等に向けた 新物質・材料の合成を目指す。 電子相関が強い系では、従来の理論の枠組み では説明できない新規のメカニズムによる超伝 導が出現する。今後、我々はそのような超伝導 体の電子構造を決定し、超伝導メカニズムを実 験的、理論的に解明したいと考えている。 ホウ素骨格と金属よりなる高融点ホウ化物 (ホウ素/金属≧2)は、共有結合と金属両者 の多彩な特性を示すため、これら特徴ある特性 の組み合わせに注目して、材料としての検討が なされている。われわれのグループにおいても、 格子定数、熱膨張、熱伝導等に注目した基板材 料、低い仕事関数や電気伝導性に注目した電極 材料などとしての可能性を検討した。今後も、 魅力ある特性をもつホウ化物の材料としての利 用が検討されていくものと思われる。 ポリアモルフィズムの概念は、水の液液相転 移を理解するだけでなく、乱れた系(液体、ガ ラス、非晶質など)の見方を大きく変革し、そ れらの構造と物性を高度に制御できる可能性を 示唆する。外場(圧力、温度、組成など)がポ リアモルフィズムの発現に及ぼす影響を調べ、 水や水溶液などの基本的な物性をより深く理解 して、乱れた系に関する新しい科学の構築を目 指す。 低軟化温度ガラス形成系の更なる探索を進め ると共に、低軟化温度化と共に発生する膨張係 数の増大と化学的耐久性の低下の改善手法につ いても研究を進める。また、大幅な省エネルギ ーを達成可能な革新的ガラス気中溶解法の開発 研究を更に進める。 参考文献 1)Yusa et al.: Phys. Rev. B 77(2008)064107. 2)Yusa et al.: Phys. Rev. B 78(2008)092107. 3)Yusa et al.: Inorg. Chem. 48(2009)7537. 4)H. Segawa, S. Ogata, N. Hirosaki, S. Inoue, T. Shimizu, M. Tansho, S. Ohki and K. Deguchi: Opt. Mater. 33(2010)170. 5)H. Segawa, H. Yoshimizu, N. Hirosaki and S. Inoue: STAM in press. 情 報 通 信 材 料 研 究 領 域 GH fe Pe UOTE PS BA eet 情報通信材料研究領域の5年 ―情報通信機器を高度化する基礎となる材料の開発に貢献― 領域コーディネーター堀池靖浩 1.はじめに 1985年頃、Japan as No.1と米国から云われ た時、エレクトロニクス産業を眺めても確かに 実感できた。1MビットDRAMは世界を席捲し、 ラップトップ型パソコンというイノベーション を興した。そして、バブルの崩壊と機を一にす るかのように、日本半導体も低落の一途を辿り、 今も停滞のままである。しかし、半導体は近隣 諸国に主役を譲ったものの、2009年統計では、 エレクトロニクス産業は、全製造業の13%の製 造品出荷額(45兆円)、と自動車産業と並んで 裾野が広く、多くの雇用を支える我が国の基幹 産業である。AV機器、PCなどの電子機器や半 導体の世界シェアは20%前後であるのに対し、 電子部品・電子部材は世界シェア40%以上を獲 得しており、今も高い競争力を有している。正 に、材料は我が国から今後とも世界を牽引すべ き我が国が誇る分野である。 NIMSの第一期では、半導体関係の研究とし て、次世代LSIに必須のHigh-kゲート絶縁膜 の最適組成をコンビナトリアル合成により見出 し、筑波大学などと共同で理論や評価を行う 「High-k net」を組織し、半導体先端テクノ ロ ジーズ(Selete)でのデバイス開発に大きく貢 献した。一方、無機材質研究所時代に開発され た二重ルツボによる化学量論LiNbO3は低電圧 で分域反転を起こし、波長変換素子に応用され、 ZnOやGa2O3などのワイドバンド半導体・紫外 線透過光学結晶材料の研究も世界に先駆けて研 究を進めてきた。また、3次元アトムプローブ (3 DAP)などを駆使したナノ組織解析グルー プが発足し、ナノ構造の観察と制御を磁性材料 研究に特化し、磁気記録やスピントロニクス、 高エネルギー積磁石の開発へ展開されていった。 第二期のスタート時には、ユビキタス社会の 更なる発展に対し求められる情報通信機器には、 デバイスや通信機能の大容量化と高速化、低消 費電力化、マンインターフェース高精細ディス プレイなどが要求されていた。NIMSがその要 求に応えるには、まず新機能且つ独創的な物 質・材料の研究が不可欠と考え、第一期の半導 体、光、磁性の3材料研究を基にして一つの領 域として発足させるに至った。その研究目標は、 半導体、光、磁性の各種物質・材料を、(1)結晶 構造や電子軌道に由来する物性を洞察し、(2) そのナノ構造体を独創的合成法により創製し、 (3)種々の新規な観察・計測によって解析し、(4) ナノサイズで制御することにより新規な機能を 発現させた材料を開発し、(5)デバイス化するこ とであった。 2.領域の組織構成 1.半導体材料センター 1.1 半導体デバイス材料開発グループ 1.2半導体特性評価グループ 1.3ワイドバンドギャップ半導体グループ 2.光材料センター 2.1 光周波数変換グループ 2.2光波動制御グループ 2.3光電機能グループ 3.磁性材料センター 3.1磁性材料グループ 3.2 スピントロニクスグループ 3.3ナノ組織解析グループ 4.情報通信材料研究萌芽ラボ(2009年に発足) 3.領域の成果 3-1半導体材料センター 次世代CMOSを構成する課題の一つは、 High-k絶縁膜と金属ゲートのスタック構造であ る。代表的なHigh-k材料のHfO2系を用いると、 Siとの界面に酸化膜が生じることとフェルミレ ベルピニング(FLP)が起こることであった。 後者の原因は、界面反応でSiとHfO2の酸素が 結合し、HfO2中に酸素空孔(+)が生じ、出た電子 はPoly-Siに入り、クーロン引力によりフェルミ 順位を固定し、Poly-Siに電圧を印加しても Si/SiO2の界面のチャンネルを制御することがで きなくなることにある。筑波大学などと連携し、 FLPはHigh-k膜中に発生した酸素空孔に電子 が移動することで発生することを解明した(図 1)。そして、High-k膜中の空孔がゲートの材料 の種類による影響を電子線誘起電流法(EBIC) で評価し、High-k膜中の酸素空孔の量は多結晶 Si、金属シリサイド、窒化物、炭化物金属の順 で少ないことが判明した。そこで、仕事関数の 図1フェルミレベルピニング(FLP)の発生機構 制御ができ、微細加工性の優れた非晶質金属ゲ ートを開発し、TaCにYを添加することで非晶 質構造を有し、0.8eVのフラットバンド制御が 可能でHfO2上でも安定な材料を見出した。さ らにHigh-k材料とSiとの界面に酸化膜を生じ ない直接接合を実現するため、熱力学の観点か らこの材料をコンビナトリアル手法で探索し、 界面SiOxを取り込み、Ceの存在により電荷中 性を維持するためFLPが無く、しかも界面酸化 膜のないCeHfAlOx系High-k材料を開発した。 3-2光材料センター 紫外から赤外光を自在に生成する光学材料を 研究してきた。窒化ホウ素(h-BN)は、高圧合 成と金属融剤を用いたフラックス成長の2方法で 作成し、電子励起により深紫外(215nm)の光源 を開発した。QPM (疑似位相整合素子)では、 LiNbO3基板の電圧印加分極反転により広範囲な 波長変換素子を開発し、特に640GHzのクロック 再生が可能な光導波路が開発された。深紫外線に 対して透明なBaMgF4強誘電体の大口径単結晶 も開発され、分極反転により277nmの紫外光へ の変換が達成されている。更に、圧力印加水晶板 によるQPMで193nmへの波長変換に成功し、 ArFレーザ固体化が期待される(図2)。コロイ ドフォトニック結晶は応力で色が変わり、歪箇所 の可視化ができ、安全・安心に向け大面積化を進 めている。そのバンド構造を利用し、蛍光材料と 図2 193nm変換素子.水晶板(下)に周期的に凹凸加 工した金型(上)を圧着し、加熱後、加圧状態で常温 に戻す・ Ti-サファイアレーザを左側から右側(又は 逆)に照射する 組み合わせたコロイド結晶レーザや液晶の過冷 却によりらせん長を連続的に変えたことによる チューナブルレーザのようなオールプラスチッ クレーザも開発された。 3-3磁性材料センター 磁気ランダムアスクセスメモリ(MRAM)用 定電流トンネル磁気抵抗素子の実現をめざし、 Co2 Fe (Al,Si)ホイスラー合金強磁性電極を用 いたTMR素子を試作し、400%以上のMR比を 達成した。また、次世代高密度ハードディスク ドライブ用再生ヘッド応用を目指し、強磁性ホ イスラー合金を用いた面直電流-巨大磁気抵抗 (CPP-GMR)素子開発に挑み、新たに探索し たCo2Fe(Ge,Ga) (CFGG)ホイスラー合金を強 磁性層としたCPP-GMR素子で、室温42%、 低温129%のMR比を達成した(図3)。また、 次世代超高密度磁気記録媒体として、L10-FePt 合金の6nm以下のナノ粒粒子を均一に分散さ せた媒体で、熱アシスト磁気記録としては最高 の550 Gbit/in2を達成した。また、ハイブリッ ド自動車用Dyフリー高保磁力ネオジム磁石の 開発に取り組み、Nd2Fe14Bナノ結晶をNdリッ チ層で囲むことにより、Dyを用いずに20 kOe の高保磁力を実現した。 図3 (左)CFGG膜厚12 nmのCPP-GMR素子の HAADF像、(右)CFGG膜厚12 nmのCPP-GMR素 子のMR曲線 4.おわりに 本領域は産業界との共同研究や成果の移転 を重要視し、第二期でのゲートスタックの成果 はSeleteを通じて国内の半導体企業に移転さ れた。h-BN深紫外線光源は双葉電子と共同で ハンドヘルド型を開発し、殺菌に使える。また、 h-BNはへき開面が超平坦なため、ノーベル賞 受賞者も含め、世界中の多くのグラフェン研究 者の求めに応じて供給され、その研究を支えて いる。ワイドバンド半導体のZnOは三菱瓦斯化 学との共同研究で大型単結晶成長に成功した。 高保磁力磁石や磁気記録媒体とCPP-GMRも 国内外の関係企業との共同研究が進行している。 半導体材料センターの5年 ―次世代集積回路を支える材料の開発と産学独連携― センター長知京豊裕 1.センターの目的 現在、電子デバイス開発は大きな変革点にさ しかかっている。これまでのSiデバイスは多結 晶Siを使ったゲート電極やSiO2を使ったゲー ト酸化膜など単純で安定な材料を使い、微細加 工で多様な構造を作製することでロジックやメ モリーなどの機能を発現してきた。しかし、こ のような構造による機能発現に限界がでてきた。 特にゲート酸化膜厚の減少にともなうゲートと ドレイン間のもれ電流の増加は大きな問題とな っている。今後、さらなる微細化と高性能化、 それに低消費電力化に対して、これまでの材 料・手法では対応できない。 半導体材料センターはこのような課題に対 して、これまで培ってきたコンビナトリアル材 料科学の手法とナノ構造評価技術を使い、次世 代半導体材料の開発を目指した。特に、高誘電 体材料(High-k材料)、次世代金属ゲート材料 を探索し、これらの課題に対して材料の視点か ら答えを出そうとし、それらの情報を社会に還 元しようとした5年間であった。 2.活動概要 半導体材料センターは、それまでに進めてい た、コンビナトリアル薄膜合成手法と各種酸化 物を使った非晶質系高誘電体材料研究をベース にして、 ①より高誘電率をもつ新しいHigh-k材料の 開発。 ②High-k材料に対応する仕事関数の制御可 能なメタルゲート材料開発とその界面制御、 計測手段の開発。 ③ゲートスタック構造の中のHigh-k材料中 の欠陥の評価。 ④Si上に多様な材料、特に窒化物材料を成長 させた新しい機能発現やゲート酸化膜中に 機能性分子を埋め込んでSiエレクトロニク スと分子エレクトロニクスの融合などもお 試みた。 こうした成果は多元系材料の析出の予測プ ログラムや材料データベースとしてNIMSか ら発信できる体制をつくった。 ⑤これらの結果を社会に還元するために、 “High-kネット”などを通じた産学独連携 や国際連携を進めた。 3.研究成果 3-1コンビナトリアルスパッタ装置の開発 多様な材料の開発手段としてコンビナトリ アルスパッタ装置を開発した。これまでの材料 探索はコンビナトリアルパルスレーザ堆積法が 主な手段であった。この装置は酸化物などの堆 積には有効であるが、金属や窒化物金属などの 熱伝導の高い材料を堆積することが困難であっ た。半導体材料センターの研究では、メタルゲ ート材料などの開発も目指していることから、 新たな成膜手段が求められていた。 半導体分野では多様な成膜手段が取られる がもっとも一般的で広く用いられているのがス パッタ成膜である。これはArなどの希ガスを 真空装置内にいれ、電圧をかけることでプラズ マを形成し、そこで発生するイオンをターゲッ ト材料に衝突させ、その反跳ででてきた分子を 基板につけるものである。特にマグネトロンス パッタ銃はターゲット周辺に磁石を置くことで イオンのサイクロトロン運動をつかった効率的 な堆積法である。また、制御ソフトもユーザイ ンターフェースを改善し、だれでも使える使用 にした。この装置には他のコンビナトリアル成 膜装置と同様に移動式マスクがつけられ、連続 的に組成を変化させた組成傾斜膜の作製が可能 である。図1にこの装置をつかってPt-Wの組 図1コンビナトリアルスパッタ装置の概略図 とPt-Wの組成傾斜膜作製例 成傾斜膜を作製した際の基板上での組成変化を 示す。場所によって線形的に組成が変化してい る様子がわかる。この装置はその後、メタルゲ ート材料探索だけでなく、ZnOの異なる極性面 上のオーミックコンタクト材料探索など、電極 材料探索にも利用された1)。 3-2新しいゲート酸化膜の開発と界面制御 集積回路の微細化がMooreの指針にしたが って進むにつれて、従来のSiO2をつかったゲー ト酸化膜に代わる高誘電率酸化物(High-k)ゲ ート絶縁膜が必要になってきた。この技術の最 大の課題はリーク電流を抑制するに十分な高い 誘電率をもつゲート酸化膜の開発と電流を On/Offするしきい値電圧の制御である。また、 Siとの良好な界面をもち、キャリアの移動度の 低下を抑制する観点から、High-k/SiO2の積層 構造が現在の主流である。しかし、強いイオン 性のHigh-k膜と共有結合性のSiO2膜が接触し て形成したHigh-k/SiO2のヘテロ界面(異種材 料界面)に発生するダイポールが大きな問題と なった。これはイオン性酸化物であるHigh-k 材料とSiO2のような共通性結合をもつ酸化物 が接した場合、界面でまず酸素の移動が起こり、 それが界面にダイポールを形成する。さらにこ のダイポールはHigh-k膜中の酸素空孔の量と も関係することが最近の研究でわかってきた。 このヘテロ界面の酸素がフラットバンド電 圧へ及ぼす影響について系統的に調べた結果を 図2に示す。白金電極の触媒効果を利用して、 酸素雰囲気での熱処理で活性な酸素をHfO2膜 中へ導入し、HfO2中の酸素空孔の量を変化させ た。その結果、酸化熱処理温度の高温度に従っ てフラットバンド電圧が正方向へシフトするこ 図2 HfO2/SiO2の界面ダイポールとしきい値電圧 (Vth).酸化熱処理をして、HfO2中の酸素空孔を減 らすとダイポール量が変わり、Vthが変化する とがわかった。これは、ヘテロ界面で酸素の増 加に伴って、欠陥の数が変わり、形成される電 気二重層(ダイポール)の量が変わったためと 考えられる。このような酸化物同士のヘテロ界 面の科学的な理解は、ナノワイヤーやFinFET 等の3次元構造のヘテロ界面の課題解決に大き く役立つと期待されている。 さらに微細化が進んだゲート幅10nm世代の CMOS集積回路を実現するためには、これまで のHigh-k/SiO2の積層構造でも対応できず、 High-k材料をSiに直接接合させる必要がある。 しかし、多くの酸化物とSiの界面では反応が容 易に起こり、SiO2が形成される。この課題に対 して、半導体材料センターでは、熱力学的観点 からSiO2をその後の熱処理で高誘電体膜中に とりこむような酸化物を探索し、Siと直接接合 し、かつ十分な誘電率をもつHigh-k材料の探 索をコンビナトリアル手法を用いて行った。酸 化物、MOxがSiO2と反応してMSiOxを形成 するか、MOxとSiO2に総相分離するかは、熱 力学的に予想できるが、希土類酸化物は一般に MSiOxを形成することが知られている。しかし、 その共晶点は材料によって異なり、ある物は 1000℃を超える。集積回路のプロセス温度は 1000℃程度であり、それ以下の温度で MSiOx を形成する酸化物はLa2O3など限られる。その なかで誘電率の高いCeO2もその候補の一つで ある。このCeO2と他の酸化物とのコンビナト リアル材料合成を行い、最も有効な組成を探索 した。その結果、CeAlSiOxが誘電率27と非常 に高い誘電率をもち、かつSi(100)にエピタキ シャル成長していることがわかった。また、 Pt-Wの組成を変えたメタルゲートに対しても 仕事関数に依存したフラットバンドシフトが観 図3 Si(100)上にエピタキシャル成長したCeAlSiOx High-k材料.界面にSiO2存在しない 察されたことから、膜中の欠陥や固定電荷も少 ない理想的な高誘電体酸化物であることがわか った。さらに、Ceは酸化雰囲気ではCe4+、還 元雰囲気ではCe3+の揺動価数をもち、絶えず電 荷中性を自己整合的に維持することもわかった。 これらのことから、CeAlSiOxは将来のゲート 酸化膜に必要な基本的な要件を満たす材料であ ることがわかった2)。 3-3 メタルゲート材料の開発 集積回路ではさらなる高機能、高集積化を推 進するために新しいメタルゲート材料が求めら れている。現行のHfO2系高誘電材料へのゲー ト材料では多結晶Siゲートに代わる材料とし てTiNなどの窒化物系材料が検討されている。 これらの材料は仕事関数が4.5 eV程度でゲー ト酸化膜を介してSiのバンドギャップ中央付 近にフェルミレベルがくる材料である。しかし、 これから省電力化が求められる次世代集積回路 ではゲートバイアスも0.5Vを切ると予測され ており、精密で広範囲な仕事関数制御が求めら れる。半導体材料センターではコンビナトリア ル手法を用いて、仕事関数の低い材料と高い材 料の合金による制御や異なる仕事関数の積層に よって仕事関数を制御する試みを行った。 HfO2/SiO2上にPt-W合金の組成変化薄膜を成 膜し、その仕事関数変化と熱処理によるMOS キャパシタ構造のフラットバンドシフトの変化 を系統的に評価した結果を図4に示す。Pt組成 の増加とともに仕事関数値が連続的に増加し、 Pt組成では、W組成から0.8eVの仕事関数増 加が確認され、金属材料の組み合わせにより仕 事関数の制御が可能であることを示された。ま た、5%水素を含む窒素ガスと5%酸素雰囲気で の熱処理においては、可逆的なフラットバンド 電圧の変化と組成によるシフト方向の違いから 界面における酸素の収支が界面における電位状 態に影響し、メタルゲート特性に大きく影響す ることを示した3)。 集積回路の微細化に伴い、メタルゲート材料 の結晶粒径のばらつきが電気特性ばらつきの原 因となってきた。半導体材料センターは非晶質 金属によるメタルゲート材料を提案し、早稲田 大学との共同研究で、Ru-Mo合金の組成比を変 える事により結晶性を制御しつつ、広い範囲で の仕事関数制御を試みた。ここで用いたのは金 属の析出である。金属合金では、熱処理の雰囲 気の違いで表面あるいは界面に特定の元素だけ で析出する現象が起こる。特に酸化雰囲気では 酸化しやすい金属が表面あるいは界面に析出し、 それが酸化物として表面を皮膜することが知ら れている。また、こうした酸化物は仕事関数が 高いことも知られており、メタルゲートと High-k界面に意図的に酸化物を析出させること で、金属合金の範囲を超えた仕事関数制御が可 能になる。半導体材料センターで電気陰性度を 使ったモデルによる析出の予測プログラムを開 発してきた。その観点から、Ru-Mo系はMoが酸 化雰囲気で熱処理すると表面と界面にMo析出 し、MoO3を形成することが予測された。また、 Ru-Moは原子半径が大きく異なることから、非 晶質あるいは微結晶の粒径をもっことが予測さ れた。このRu-Moを用いて、微細トランジスタ を作製し、しきい値電圧の制御性と結晶粒径の 特性ばらつきに対する影響を検討した。その結 図4 Pt-W二元組成傾斜膜の仕事関数の組成依存性 と高誘電体材料にPt-Wをゲート材料として適用し た試料のフラットバンドシフトの組成依存性とそ の熱処理の依存性 図5 Ru-Mo系メタルゲート材料の結晶性とフラッ トバンド変化(Vth) Moの析出と酸化のためにVth の広範囲な変化が可能になった.この範囲の結晶性 は非晶質に近いこともわかった 果、Ru-Mo系メタルゲートではHigh-kとの界面 に形成されるMo酸化物のためにしきい値を 0.8eVの範囲にわたって制御可能であり、かつ の微結晶(平均粒径~4nm)のために、特性ば らつきが大きな結晶粒のメタルゲートに比べて 少ないことがわかった。 3-4電子線誘起電流法(EBIC)による欠陥の 視覚化 High-k材料はイオン性結晶のために酸素空 孔が発生しやすい。また、メタルゲートとの反 応により、High-k膜中に欠陥が導入される可能 性もある。さらに、High-kゲートスタック構造 は還元雰囲気や酸化雰囲気での後熱処理もプロ セスの中にあり、こうした異なる雰囲気での熱 処理は新たな欠陥をHigh-k膜中に発生させる。 しかも、High-kゲートスタック中の欠陥は埋め 込まれた構造の中にあり、従来の評価法では観 察することができない。したがって、電気特性 の変化から現象を説明することしかできなかっ た。このような埋め込まれた欠陥を評価する方 法として、半導体材料センターでは基板にバイ アス電圧を印加できる電子線誘起電流法 (Electron Beam Induced Current: EBIC) を 開発し、埋めこまれたHigh-k膜中の欠陥を視 覚化することに世界ではじめて成功した。 図6に示すように、EBICでは電子線によっ て、この構造の中に電子とホールのペアをつく り、上のゲート電極とSi基板側から電子とホー ルを取り出す。もし、High-k膜中に欠陥など、 電子あるいはホールを捕獲する場所がない場合 には、同じ数の電子とホールが試料から取り出 せ、ゲート電極とSi基板から取り出せる電荷に は差がない。この場合、EBICは何も表示しな い。しかし、電子あるいはホールを捕獲する欠 陥が膜中にあると、取り出せる電子とホールの 数に差が生じ、この差がEBICでは白い点とし て現われる。電子線は集束して試料に当てるこ とができるために、走査型電子顕微鏡のように 電子線を試料に沿って移動させることで欠陥の 場所を視覚化することができる4)。 この方法に よって、High-k膜中の欠陥がどこにあるかを世 界ではじめて視覚化することに成功した。この 研究によってHigh-k膜の信頼性評価が大きく 進展した。 最近では、欠陥のある場所やリークが生じた 場所を薄片化して透過型電子顕微鏡で観察し、 現象を詳細に観察することに成功した。その結 果、もれ電流が発生した場所には電子を捕獲す る欠陥があること、もれ電流が流れるとその箇 所がジュール熱で加熱され、High-k/SiO2界面 で反応を起こし、SiO2がわずかに厚くなること など、これまでわからなかったことが明らかに なった。また、上部電極の材料を多結晶Si,金属 シリサイド、金属窒化物に変えて観察したとこ ろ、ゲート電極材料によってHigh-k膜中に発 生する欠陥の量に差があることもわかった(図 7)。これらの結果も、世界初の成果としてNIMS から発信され、半導体デバイスやその信頼性に 関する著名な学会で招待講演につながった。 EBIC観察の基板バイスなど関連するパラメ ー ターを様々に変化させることで、欠陥の分布や 故障位置の決定だけでなく、欠陥のエネルギー 準位や深さ依存性もわかる。この手法は新規素 子の動作特性や信頼性試験などへ応用も可能で 図6電子線誘起電流法(EBIC)の概念図と視覚化 された埋め込まれたHigh-k材料中の欠陥 図7 EBICで観察したメタルゲート材料を多結晶 Si(a)、TaSiN(b)、TiN(c)としたときのHigh-k膜中の欠 陥の発生の違い.TiNがもっとも欠陥の発生が少ない ことがわかる ある。このEBICにいろんな計測手法を融合さ せ、欠陥を多面的に評価する方法にも挑戦して いる。将来はこの方法を用いて、新しい半導体 材料をつかった新機能素子の開発にも応用が可 能である。 3-5多様なメモリデバイス開発 半導体材料センターでは、High-kゲートスタ ック材料開発のほかに、将来のポストスケーリ ング世代におけるデバイス開発にも挑戦してき た。原子スイッチはNIMSのTerabeらによっ て提唱された画期的な省電力ロジックデバイス である。この原子スイッチを現在の集積回路プ ロセスに持ち込むために、現行プロセスと親和 性の高い材料での実現を目指し、その材料を探 索した。候補となる材料としてはこれまで DRAM用の材料として実績があるTa2O5や Nb2O5、そしてHigh-k材料のHfO2などの遷移 金属酸化物を原子スイッチ構成のためにCuが 拡散できる母相として選択した。コンビナトリ アル手法を使ってHfO2にTa2O5およびNb2O5 との組成傾斜薄膜を作製し、スイッチング動作 を評価した。その結果、基板温度300℃、酸素 分圧1x10-4 Torr、膜厚50 nmにてHfO2の単膜 領域のみ明瞭なスイッチング動作が確認できた (図8)。 HfO2薄膜は多結晶であり、表面粗さ (RMS)はおよそ0.5 nmであり、表面平坦性 にも優れている。 また、特徴として他の抵抗性スイッチデバイ ス(Resistivity RAM:ReRAM)と比較して最初 のデバイス形成過程(Forming)がないことも わかった。 この構造を用いて、メモリ動作の実証をおこ なった。書き込み電圧は+ 4.25V、消去電圧は -2.25Vとしたときに1000回を超える明確な メモリ動作を確認した5)。 単一電子メモリは、電子がひとつずつ量子ド ットにはいって電気抵抗が階段状に変化するク ーロンブロッケード効果を利用することによっ て、電荷蓄積量を電子の個数レベルで制御する ことができる。そのため、低消費電力、多値動 作を兼ね備えた次世代メモリとして期待されて いる。しかし、このデバイスは未だ実現されて いない。その大きな要因として、量子ドットの サイズをナノ メートルスケールで均一に制御す ることが非常に困難なことがある。クーロンブ ロッケード効果のような量子力学的現象を室温 において発現させるためには、量子ドットのサ イズを数ナノメートルまで微細にし、且つ均一 に形成する必要がある。 当センターでは、“分子”が均一な大きさを もつ理想的な量ドットであることを利用し、そ こに電子を蓄積してメモリとして用いることに より、この問題を克服しようとしている。 ここでは、単一電子メモリの基本構造である 金属-絶縁体-シリコン半導体構造中で、優れた 絶縁特性を示す酸化アルミニウムを原子層成膜 法で低温形成することによって、分子を壊すこ となく、絶縁膜中に埋め込むことに成功した (図9)。その結果、260Kと室温近傍において クーロンステアケースを観測する極めて画期的 な成果が得られた。この成果は、室温で動作す る単一電子分子メモリの実現への第一歩となっ た。 そのほかに、BNをSi上に堆積させ、熱処理 をすることで、BNSi/Siによるヘテロ構造を作 製し、それが太陽電池として機能することも見 いだした。これはワイドギャップBNを入射面 におくことで効率的に光を界面に導き、光変換 効率に貢献できる構造の実現につながった。 図8 Cu/HfO2/Pt構造で観察されたCuの拡散によ る原子スイッチング 図9 Au/Al2O3/C60/SiO2/Si(100)で構成された単一 電子メモリ構造. C60は均一なサイズでゲート絶縁 膜中に分散している 3-6半導体材料センターの産学独連携 産業界との連携を加速するために、半導体材 料センターは半導体製造企業によるコンソーシ アムである半導体先端テクノ ロジーズ社 (Selete)と大学、独立行政法人で構成するバ ーチャルな研究組織“High-k net”に当初から参 加し、High-k/メタル・ゲートに関する物理・化 学的なメカニズムの解明を目指した活動を進め てきた。Seleteでは、High-k/メタルゲートの 実用化に向けた技術成果をメンバー企業に移管 する際、科学的な裏付け情報を一緒に提供する ことが必要であり、この役割が“High-k net”に 期待されていた。“ High-k net”のメンバーは、 互いに専門分野の異なる複数の研究者で構成さ れ、Seleteが提示する技術課題に対して、各研 究者がそれぞれの切り口で解析や材料探索を行 った。特に半導体材料センターには材料の組成 や不純物濃度を系統的に変化させたときの特性 の変化や、EBICを使ったゲートスタック中の 欠陥の評価などが期待され、これらの研究を通 じて、Seleteの研究開発へ貢献を行った。また、 定期的に進捗報告会で情報を交換しながら、共 著の論文を出すなどの取り組みも行った。こう した活動で半導体材料センターは300mm最先 端プロセスを使った試料を提供してもらい、再 現性のある実験をおこなうこともできた。こう した活動は産業界のニーズを吸収でき、半導体 材料センターの研究者にとっても重要な意見交 換の場となった。 4.今後の研究動向: ポストスケール世代の集積回路は3次元化 と材料が重要 シリコン半導体技術は半導体ロードマップ (ITRS2009)でも示されているように微細化 によるスケーリングにおける課題が提示されて、 世界でそれを共有している。それによれば、 hp22nm技術世代まではMooreのスケーリン グ則に従い、平面的にデバイスを作製すること が可能であるとされ、それ以降はマルチゲート 構造などを使った立体的な構造や多機能化した 電子デバイスなど3次元化へ移行すると考えら れている。その中で、IBMを中心とした複数の 会社による連合体は、ニューヨーク州立大学ア ルバニーに集結して、High-k膜の高品質化と信 頼性の観点から従来プロセスを踏襲した、ゲー トファストプロセスでメタル/High-kゲートス タックを作製する技術を開発しつつある。この 方法は微細化に有利である一方で、不純物の拡 散を抑制する必要があり、安定したメタル /High-k界面の作製が必須となる。また、微細 化に対してHigh-kのメリットを生かすHigh-k 膜のSiへの直接接合技術やその材料に適合し たメタルゲートの開発も必須である。 欧州は半導体デバイスに新たに加える More-Than-Mooreへ方向を打ち出し、多機能 化電子デバイスの開発へ重点を置いている。欧 州の各国では、産学官で構成されたナノテク、 ナノエレのクラスターを構築し、これらのクラ スターが連携することで幅広い分野に柔軟に対 応する“クラスターのクラスタリング”が進行 している。共通しているのは、Si半導体は、「構 造から材料へ」の転換を進めていくと考えられ る点である。ここでは、構造を単純化し、材料 で機能を実現する方向を模索することになる。 その一例がロジックデバイスとしての原子スイ ッチ、メモリー素子としてのReRAMなどであ る。材料の開発のニーズはますます高まる。コ ンビナトリアル手法による効率的な材料開発が 求められている。 参考文献 1)T. Nagata, J. Volk, M. Haemori, Y. Yamashita, H. Yoshikawa, R. Hayakawa, M. Yoshitake, S. Ueda, K. Kobayashi, T. Chikyow: Journal of Applied Physics,107 (2010)103714. 2)D. Kukuruznyak, H. Reichert, K. P. T. Chikyow: ADVANCED MAT. 20(2008) 3827. 3)K. Ohmori, P. Ahmet, M. Yoshitake, T. Chikyow, K. Shiraishi, K. Yamabe, H. Watanabe, Y. Akasaka, Y. Nara, KS Chang, M. L. Green and , K. Yamada: J. Appl. Phys.,101(2007)84118. 4)J. Chen, T. Sekiguchi, N. Fukata., M. Takase., T. Chikyow, K. Yamada, R. Hasunuma., Y. Akasaka., S. Inumiya., Y. Nara and K. Yamada: Appl. Phys. Lett., 89 (2006)222104. 5)M. Haemori, T. Nagata and T. Chikyow: APEX 2(2009)61401. 光材料センターの5年 ―Beyond Goethe,もっと、もっと、もぉ~っと光を!― センター長大橋直樹 1.センターの目的 光材料センターでは、この5年間、NIMSの 第二期中期計画の中の重点研究課題である「オ プトロセラミックスのナノプロセス技術による インテリジェント光源開発」という課題を中心 に、研究・開発が進められてきた。これの課題 以外にも、国からの資金による研究課題、ある いは、企業や大学などの他の機関との共同研究 やそれらから依頼された研究課題にもあわせて 取り組んできた。 「オプトロセラミックスのナノプロセス技術 によるインテリジェント光源開発」といわれて も、全く何だか分からないかも知れない。そこ で、我々の研究を平たく言うと、「どれだけ強い 光を作れるか、どれだけ様々な色(波長)の光 を作れるか、そして、どれだけ自由に光線を操 れるか」という課題に対して、「それを実現する ために必要な物質、素材、あるいは、構造体を いかにして巧みに作り出すか」、という答えを出 すことが我々に課せられたミッションである。 2 .活動概要 副題に、「Beyond Goethe」と記した。半導体 の世界では、Beyond CMOSという言葉を耳に するが、これは、CMOSと言われる半導体素子 の基本構造をつかった素子では実現できないよ うな高性能をCMOS以外の新しい技術を開発 して実現しよう、という動きである。さて、で は、なぜ、「Beyond Goethe」かである。Goethe (ゲーテ)は、文芸家として知られ、「若きウェ ルテルの悩み」などの作品で知られる。しかし、 そのゲーテは、「色彩論」を執筆した色(光)の 研究者としても知られている1)。 そのGoethe が、最後に言った言葉が「もっと光を」だとい われている。Goetheの求めた「光」は、まさ しく我々に課せられた課題である。では、 Goetheの悩みを解決すべく、「光」をもっと作 りましょう、ということである。ゲーテが思考 した「光」は、色彩学の名の通り、あくまで目 に見える光を対象としている。我々も、「光」と 言ったときに、暗黙の内に、目に見える光「可 視光」を考えがちである。しかし、実際には、 プリズムを使って作った虹色の帯において、紫 の先には紫外線があり、赤の先には赤外線があ るのは、ご承知の通りである。 すなわち、我々のセンターでは、Goetheが 求めた「もっと光を」は、「もっと可視光を!」、 だったに違いないと考えた。一方で、Goethe の望みを叶えるべく、もっともっと強い可視光、 もっともっと鮮やかな可視光を得るための物 質・材料科学を発展させると共に、他方で、 Goetheが対象として捉えていなかった、すな わち、Goetheのさらなる先を求め、紫外線な どの「人間」に見えない光まで含めた、「もっと、 もっと、もぉっと光を」という研究を展開して きた。 その研究は、大きく分けて、3つの取り組み からなる。ひとつは、実際に光を発生する結晶 を作る研究である。光る結晶というのは、結晶 に、光を照射したり、あるいは、電子を入れた りしてエネルギーを与え、そのエネルギーが光 のエネルギーとして放射されることである。特 に、まさしく、Beyond Goetheということで、 紫外線を発生する結晶の研究を中心に進めた。 後で述べるとおり、この研究からは、特に波長 の短い紫外線を発生する装置の開発が実現し、 殺菌などに威力を発揮する紫外線の応用に大き な進展をもたらした。また、そうした結晶の中 の不完全性についての研究も進められ、高効率 の発光をもたらすためにはそのような材料が求 められるか、また、それを実現するにはどうす べきか、という示唆が得られている。 他の2つの取り組みは、結晶、あるいは、粒 子などからなる構造に対して光を入射した光を、 反射させたり、あるいは、光の波長を変化させ たりして光を操るための材料や構造の開発であ る。ここの取り組みは、2つの部分から構成さ れた。ひとつは、結晶を成長させ、その結晶を 加工することで光の波長を変換する性質を持っ た構造を作ったり、あるいは、添加物を加えた 結晶を使って、結晶中を通過する光線の進み方 を制御しようとしたりする研究である。もうひ とつは、光の伝搬や反射を制御するための構造 を形成して、光線を操ろうとするものである。 これらの取り組みによって、例えば、青色の光 を照射すると、波長が半分になった紫外線が出 てくる波長変換素子と呼ばれる結晶や、非常に 小さく、かつ、大きさの揃った粒子を整列させ た粒子の集合体を形成することで、粒子の並び 方によって決まる特定の波長の光のみを高効率 に反射する反射板のような材料など、興味深い 材料が得られている。 また、我々の活動は、実際の研究のみにとど まらず、海外の研究機関との交流や、学会の開 催など、研究開発に関するあらゆる事柄に及ん でいる。例えば、2010年には、国際会議、 International Conference on Science and Technology of Advanced Ceramics を主催し、 世界各国からの研究者が一同に介して、最新の 研究成果についての議論を行う場を提供した。 また、フランスのボルドー大学や日本の九州大 学をはじめ、世界各国の大学から学生さん達が 我々の研究室に滞在して研究を行う、連携大学 院の活動も活発に行った。図1は、フランスの 共同研究者等との打ち合わせの際のスナップ写 真である。 3.研究成果 3-1光波長変換素子の開発 可視光の波長は、380nmの青(紫)から、 680nmの赤までの範囲である。これに対して、 我々が目指したのは、波長が380nmよりも遥か に短い、紫外線を発生するレーザーの基礎と なる材料の開発である。紫外線の用途のひとつ として、半導体の微細加工に用いられる紫外線 光源がある。最新の半導体製造工程の中で、ウ エファーに回路図を転写するためのリソグラフ ィーと呼ばれる技術で利用される紫外線の波長 は、KrFエキシマレーザーの248nmやArFエ キシマレーザーの波長193nmである。一般に、 写真の解像度は、波長が短ければ短いほど高い 解像度が得られるため、集積度の高い半導体チ ップを製造するためには、こうした波長の短い 紫外線を使った露光(リソグラフィー)が必須 となる。一方、エキシマレーザーはレーザーの 一種であるが、蛍光灯の様な放電管であり、ガ スの入れ替えなどの保守作業が必要なレーザー である。これを、光る結晶を光源とした固体レ ーザーに置きかえることは、装置の小型化、保 守作業の低減などの様々な利得をもたらす。そ こで、我々は、緑色や青色のレーザーを光源と して、その波長を半分にすることが出来る波長 変換素子を作ることで、波長200nm付近の紫 外線を得ることを目指した2)。 この目的を達成する方法は、その紫外光を直 接発光するレーザーを得ること、そして、既に あるレーザーの光の波長を変換して紫外光を得 ることである。図2に、波長変換の実際の様子 を示した。ここでは、桃色の矢印で示すところ に目に見えない赤外線レーザー光が入射されて おり、これが、緑色のレーザー光に変換されて いる。これは、疑似位相整合と言われる技術を 用いた波長変換素子によって実現している3)。 疑似位相整合素子とは、図3に示すように、特 定の周期でその分極ドメインを交互に反転させ 図1仏国共同研究者との共同研究や大学院生の日 本滞在に関する打ち合わせ(仏・マリーキュリー大 学構内にて、筆者は右端) 図2赤外線レーザーから波長変換によって緑色の レーザー光を発信している様子 図3疑似位相整合素子の概念図 た強誘電体結晶であり、その交互に反転する電 場の中を通った光の波長を、その反転周期に対 応した波長に変換する素子である。 ここで、疑似位相整合素子を使って紫外線を 発振させようとした場合、ひとつの問題が生じ る。すなわち、得ようとする短い波長の紫外線 に対して透明な波長変換素子を作る必要がある、 ということである。もし、波長400nmの光を 波長変換して波長200nm付近の紫外線を得よ うとした場合、波長変換素子は200nmの紫外 線に対して透明でなければならない。図2に示 したニオブ酸リチウム結晶の疑似位相整合素子 では、200nmの紫外線を透過することは出来な いため、短波長の紫外線を吸収しない結晶を利 用する必要がある。 そこで、我々は、2つの答えを出した。ひと つは、紫外線に透明な結晶である水晶に、図3 のような構造を作り込むことである4)。水晶は、 圧電体結晶であり、その圧電分極を交互に反転 させた構造を得ることで、短波長の紫外線を発 振する疑似位相整合素子を実現した5)。もう一 図4フッ化バリウムマグネシウム単結晶 つの方法は、短波長の紫外線を透過する新しい フッ化物強誘電体結晶の開発である6)。そうし て得られたのが、図4に示すフッ化物強誘電体 結晶のフッ化バリウムマグネシウム7)である。 このようにして開発された短波長紫外光を発振 する疑似位相整合素子については、さらなる高 性能化を目指した研究が、現在もNIMSにおい て進められている。 3-2紫外発光材料の開発 これまでに述べた疑似位相整合素子は、元と なるレーザー光を半分の波長に変換して紫外光 を得る素子であるのに対し、我々は、直接紫外 光を発光する紫外線光源についても検討を進め た。固体から光が発せられるためには、所望の 光の波長に対応したエネルギー差を持つ2つの 電子状態が存在し、そのうちの高エネルギー状 態(励起状態)から低エネルギー状態(基底状 態)に電子が戻るときに、余ったエネルギーを 光のエネルギーとして放出させる必要がある。 特に、短波長の紫外線を発光させるには、その 2つの電子状態に大きなエネルギー差が無けれ ばならない。近年、よく耳にするワイドバンド ギャップ半導体は、広いバンドギャップを持つ ために、バンドギャップを越えて励起された電 子が基底状態に戻る際に、その広いバンドギャ ップに対応した短い波長の光を発する、という 特徴を持っため、短波長の光源用材料として着 目されている。 そうした中、我々は、究極のワイドバンドギ ャップと呼べるほど広いバンドギャップを持つ、 窒化ホウ素という結晶に注目して、深紫外域で 発光する発光材料の開発を進めた8)。実際に、 窒化ホウ素は、220nm付近の波長の光を発する ことが知られている。 まず、窒化ホウ素を高い効率で発光させるた めには、高品質の窒化ホウ素を得る必要がある。 そのためには、ひとつの方法として、5万気圧、 というような高い圧力をかけた中で合成する方 法がある。しかし、この高い圧力の発生には大 がかりな装置が必要である。これに対して、ま ず、大気圧下で高品質な結晶を合成するための 手段を開発した。それは、あたかも、水溶液か ら食塩を結晶化させて析出させるのと同じよう に、窒化ホウ素の原料となる元素を溶融した金 属に溶かし込み、そこから、窒化ホウ素を析出 させるという方法である9)。この方法で得られ た鱗片状結晶の写真とその発光スペクトルを図 図5金属溶媒から析出させた窒化ホウ素の薄片結晶 の写真と、その発光スペクトル 5に示す。発光スペクトルに見られるように、 波長220nm付近に鋭いピークが見られており、 波長の紫外線が得られていることが分かる。 さて、この窒化ホウ素は、絶縁体であり、LED の様にして電流を流して発光することは、少な くとも現時点では不可能である。そのため、図 5のスペクトルは、結晶に加速した電子を照射 してそのエネルギーを使って発光させたもので ある。電子を照射して光らせる装置に、最近は 少なくなったブラウン管がある。本プロジェク トでは、企業との共同で、窒化ホウ素蛍光体に 電子線を照射して短波長紫外光を得るための装 置を試作した10)。発光装置の概略は図6に示す とおりである。この装置を使うことで得られる 短波長の紫外線は、病気の原因となる細菌など を死滅させる働きを持っており、実際に、この 紫外線発生装置によって細菌を除去できること が分かっている11)。 また、ワイドバンドギャップ半導体を有効に利 用するためには、素子を作るためのウエファーが 必要である。そこで、我々は、青色LEDで知ら 図6窒化ホウ素(hBN)を発光体として用いた紫外 線照射装置 れる窒化ガリウムと非常によく似た特性や構造 を持つことで知られるZnOについて、そのバン ドギャップの大きさを制御したウエファーの開 発にも取り組んだ。シリコンウエファーは、溶融 したシリコンからシリコン結晶を析出させて成 長される。ところが、特に、温度を上げると溶融 する前に蒸発してしまう酸化亜鉛は、酸化亜鉛自 身を溶融して結晶を成長するという方法をとる ことが出来ない。そのため、我々は、フラックス 法と呼ばれる方法で酸化亜鉛のウエファーの作 成に取り組んだ。その結果、2インチという直径 で、かつ、マグネシウムを添加することによって、 バンドギャップの大きさを制御したウエファー の製造方法の開発に成功した12,13)。 こうしたワイドバンドギャップ材料の開発は、 2011年度からの5年間、さらに進歩させるため の研究が継続されることになっている。 3-3コロイド結晶の製造と応用 もう一つ、我々の取り組みで重要な位置を占 めるのが、冒頭に示したとおり、光線を操るた めの材料であるフォトニック構造である。フォ トニック構造の原理は、ご存知のない方には、 ややわかりにくいかも知れないが、基本は波の 干渉と回折の現象である。ガラスや水面に出来 た油膜が光を反射するとき、虹色に見えたり、 あるいは、特定の赤や青などの色に見えたりす るのは、光の干渉によるものであり、波として の光の性質を使って、特定の波長の光だけを選 択的に反射する構造を作ることが可能である。 フォトニック構造の作り方としては、屈折率の 異なる結晶の薄膜を何層も周期的に積み重ねる 方法や、半導体の微細加工技術を使って、ウエ ファーの上に、微細な穴を周期的に掘る方法な ど様々な方法がある。 光材料センターでは、微少な球を整列して積 み重ねることで、フォトニック構造を形成して いる。パチンコ玉を並べると、自然に結晶の様 な構造になることはご存知だろう。それと同じ ように、コロイドと呼ばれる非常に小さなプラ スチックやセラミックスのたまを周期的に並べ てゆくのがコロイド結晶である。宝石のopal は、正にこのフォトニック構造によって宝石と しての色合いを出しており、図7は、コロイド 結晶をシート状に固化したサンプルの写真であ り、オパールの様なもの14)、という例えがまさ しくそれであることが一目見て分かるサンプル である。 図7宝石のような色合いを見せるシート状に 固化したコロイド結晶(上)と、特定の波長の 光のみを反射する典型的なコロイド結晶(下) こうしたフォトニック構造は、レーザーを作 る際に利用される。レーザーとは、光をキャビ ティーと呼ばれる空間に閉じこめ、その中で、 光が行き来する間に、光の位相がそろい、レー ザー光が得られる。その光を行き来させるため には、鏡が必要であり、特定の波長の光を狙っ て反射させることの出来るフォトニック構造は、 レーザーを作る上で、重要なものである。その フォトニック構造と液晶技術を組み合わせるこ とで、我々は、新しいレーザーを開発した15)。 レーザーと言えば、先に述べたエキシマレーザ ーの様にチューブに閉じこめた気体の放電現象 や、発光する結晶を使ったものを想像するのが 一般的である。しかし、我々が開発したのは、 全てがプラスチックで出来ており、フニャフニ ャと折り曲げることも可能であり、また、ハサ ミが有れば、切断できることが出来るような、 「軟らかい」レーザーである。(図8) 他にも、コロイド配列を使ったフォトニック 構造には、興味深い性質があり、例えば、ゴム の中にコロイド結晶を作り込むことで、図9の ように、伸ばしたり、縮めたりすると、色が変 わるゴムなども作ることが可能であり、変形を 色で検知する「歪み検出器」等に応用できると 考えられている。 図8プラスチックで出来た「軟らかい」レーザ ー素子の概念図(上)とサンプルのレーザー発振 の様子(下) 図9伸縮すると色が変わるゴム このように、フォトニック結晶、特に、コロ イド粒子配列を用いたフォトニック結晶には、 まだまだ新しい機能が期待されている。 4.今後の研究動向 我々の進めてきた研究の中から、既にいくつ かの新しい芽が出始めている。例えば、ワイヤ レス通信の高品質化やワイヤレス端末の意匠性 向上を目指して開発が進められている透明高周 波素子16)がその一つである。光材料センターで 検討されてきた、透明導電体の新たな応用先と して、期待のもたれるものである。また、上述 のプラスチックレーザーについては、現在、そ の発振波長の選択性の向上などを目指した開発 がさらに進められている。 原子力、火力、究極の選択を迫られる可能性 がある日本の状況にあって、その電力の源が何 であれ、高効率の照明、高効率な家電製品、高 効率な輸送機器など、エネルギーを消費する側 の効率化が必要であることは言うまでもないこ とであり、今後も、人々の生活の中の安心や安 全、そして、エネルギーや地下資源の消費をお さえ、効率的で持続性ある社会を拓くために材 料科学が果たす役割は大きいと考えられる。 さて、光材料センターは、その5年間の研究 期間を終えた。私がGoetheのトリビアをこね 回すのも、これが最後の機会となる。光材料セ ンターの構成員達は、新たなプロジェクトの遂 行に向けて、それぞれの新しい組織での職務に 就いた。光材料センター、センサ材料センター の一部は、光・電子機能ユニットに参集し、よ り環境負荷の低いエレクトロニクスや光素子を 目指す。また、コロイド結晶を扱ってきた研究 員達は、量子ドットなどのフォトニクス構造の 研究開発を推進する先端フォトニクス材料ユニ ットで新たなプロジェクトをスタートする。 さて、この原稿を結ぶに辺り、この紙面では 紹介しきれない多くの研究成果をあげてきた、 光材料センターの構成員各位に、改めて敬意を 表し、また、共同研究先、あるいは、資金提供 元などの協力機関に対して、深くお礼申し上げ たい。また、最後まで、本稿に目を通して下さ った読者諸氏にあっては、是非、NIMSにさら なる、叱咤激励の言葉をお送りいただけるよう にお願いして、本稿を締めることとしたい。 参考文献 1)ウィキペディア「色彩論」,http://ja.wikipe dia.org/wiki/%E8%89%B2%E5%BD%A9% E8%AB%96 2)島村清史,VilloraGarcia,竹川俊二,北村健 二:機能材料 25(2005)13. 3)栗村直,北村健二:レーザー研究32(2004) 181. 4)原田昌樹,栗村直,山田毅,足立宗之:光学 36(2007)253. 5)NIMSプレスリリース[水晶波長変換デバイ スで波長193nm真空紫外光]http://www.ni ms.go.jp/news/press/2010/09/p201009130. html 6)島村清史,VÍLLORA G. Encarnación, SE NGUTTUVAN Nachimuthu,青嶌真裕,住 谷圭二:レーザ加工学会誌15(2008)191. 7)NIMSプレスリリース[フッ化物強誘電体 単結晶を用いてSHGの発光]http://www.ni ms.go.jp/news/press/2007/11/p200711290.h tml 8)渡辺賢司,谷口尚,黒田隆,神田久生:工学 35(2006)268. 9)Y. Kubota, K. Watanabe, O. Tsuda and T. Taniguchi: “Deep Ultraviolet Light-E mitting Hexagonal Boron Nitride Synth esized at Atmospheric Pressure” Science 317(2007)932-934. 10)NIMSプレスリリース[六方晶窒化ホウ素 を用いた遠紫外線面発光素子の試作]http: //www.nims.go.jp/news/press/2009/09/p20 0909210.html 11)NIMSプレスリリース[六方晶窒化ホウ素 を用いた遠紫外線で殺菌効果]http://www. nims.go.jp/news/press/2010/p201010270. html 12)大橋直樹,小林純,関和秀幸:工業材料56 [10](2008)61-64. 13)NIMSプレスリリース[デバイス開発用大 面積高性能酸化亜鉛ウェハー]http://www. nims.go.jp/news/press/2007/08/p2007082 80.html 14)不動寺浩,古海誓一,澤田勉:未来材料10 (2010)8-15. 15)古海誓一:高分子59(2010)338. 16)NIMSプレスリリース[透明な高周波デバ イス ~見えないアンテナへの道~]http: //www.nims. go.jp/news/press/2010/p2010 10280.html dia.org/wiki/%25E8%2589%25B2%25E5%25BD%25A9%2525 http://www.nims.go.jp/news/press/2010/09/p201009130 http://www.ni file:////www.nims.go.jp/news/press/2009/09/p20 nims.go.jp/news/press/2010/p201010270 nims.go.jp/news/press/2007/08/p2007082 http://www.nims go.jp/news/press/2010/p2010 磁性材料センターの5年 ―磁石・磁気記録・スピントロニクス材料― センター長宝野和博 1.センターの目的 高度情報化社会ではデータストレージの高密 度化への要求が高まっており、ハードディスク ドライブ(HDD)で1Tbit/in2を超える超高密 度記録密度を実現することが課題となっている。 そのためには新たな高密度磁気記録媒体と記録 再生ヘッドが必要である。また低消費電力型不 揮発性メモリーとして注目されている磁気ラン ダムアクセスメモリ(MRAM)の開発のために 低電流でのスピン注入書き込み技術と、熱安定 性に優れた低抵抗トンネル磁気抵抗素子が必要 である。一方、低炭素社会への取り組みとして、 自動車のハイブリッド化・電気化のための新た な磁石材料の開発が急務となって来ている。こ のように磁性材料は現代社会にとって重要な基 幹材料であり、その高性能化、さらにはスピン トロニクス応用のための新しい磁性材料・デバ イスの開発が強く望まれている。 このような背景から第二期中期計画で発足し た磁性材料センターでは高度情報化・低炭素社 会に必要な磁性材料・スピントロニクス材料を 試作し、そのナノ構造の解析、構造と磁気特性 の因果関係の確立を行うことにより、社会的 ニーズの高い磁性材料の開発とそのために必要 な基礎研究を推進することを目的とした。具体 的には(1)次世代高密度磁気記録媒体用磁性薄 膜、(2)次世代再生へッドやMRAM応用を目 指した磁気抵抗素子、(3)高保磁力を持つ永久 磁石材料の開発を目指した。それを実現するた めに、3次元アトムプローブ(3DAP)、高機能 電子顕微鏡法(TEM)などを駆使して、セン ターで試作された磁性材料や磁性・スピントロ ニクス素子のナノ構造を原子レベルまで遡って 解析し、ナノ構造と磁気・伝導特性の因果関係 を解明した。これらの基礎研究から得られた知 見に基づき、現代社会で必要とされている新た な磁性・スピントロニクス材料ならびにスピン トロニクス素子を開発を目指した。 2.組織と運営 本研究は永久磁石、超高密度磁気記録媒体、ス ピントロニクス材料開発を目指した磁性材料グ ループ(宝野和博、古林孝夫、高橋有紀子)とス ピントロニクス素子開発を目指したスピントロ ニクスグループ(猪俣浩一郎、三谷誠司(2008か ら)、介川裕章(2007から)、葛西伸哉(2009から)、 林将光(2010から))、これらの磁性材料と素子の ナノ解析を行い磁気特性とナノ構造との因果関 係を解明するナノ組織解析グループ(大久保忠 勝)の3グループにおける高度な専門性と基盤技 術を共用しながら推進した。センター内の定年制 職員は発足時、わずか5名であったが、筑波大学 連係大学院学生やポスドクなど活力ある若い力 と専任職員の高い専門性を協奏させつつ成果を 挙げることを目指した。全メンバーの半数以上が 外国籍であり、センターセミナー、グループミー ティングはすべて英語を標準語として行ってき た。また、的確なニーズ掌握のため企業との共同 研究を重視した。トヨタ自動車をはじめ多くの企 業と共同研究を実施、NEDOプロジェクトへの 参画、文部科学省元素戦略プロジェクト、CREST などの戦略的研究課題、大学研究者との学術的な 共同研究の推進を進めた。これらの外部資金で磁 性材料研究のための設備の整備を行うとともに、 大学からの積極的な人材登用によりNIMSで実 績のなかったスピントロニクス研究のインフラ 整備を行い、プロジェクト終了時に磁性・スピン トロニクス両材料分野において下記のような トップレベルの成果を得ることができた。 3.主な成果 3-1FePt系熱アシスト磁気記録媒体 種々のストレージデバイスの中でも、ハード ディスクドライブ(HDD)は低ビット単価で大 容量を保存できることから広く使われている。 現在市販されているHDDの記録密度は550 Gbit/in2程度で、この記録密度を高めるとHDD の小型化や消費電力の低減に大きく貢献できる。 しかし現行の垂直磁気記録方式では1Tbit/平方 インチ程度が限界と考えられていて、これを4 Tbit/in2以上に飛躍的に高めるには新しい磁気 記録方式への移行が必要である。そのための有 望な記録方式の一つが熱アシスト磁気記録であ る。熱アシスト方式の媒体としては、数ナノ メー タの磁石粒子を均一に分散し、磁化しやすい結 晶方位を媒体の膜面に垂直に配列させる技術が 必要で、ナノメーターサイズでも熱揺らぎで磁 化反転しないように、結晶磁気異方性の高い材 料を使う必要がある。そのような材料として L10構造のFePt規則合金相が最適と考えられて きたが、これまで熱アシスト媒体に適した粒子 分散性の良いナノ粒子分散型垂直磁化膜を作製 する有効な技術がなかった。 磁性材料グループでは2008年にスパッタ法 を用いて熱酸化Si基板上に平均粒径5.5 nmの FePt粒子をサイズ分散2.3 nmに制御したナノ 粒子分散型垂直磁化膜の作製に成功した1)。 そ の後、ガラス基板上に同様の膜を成長させるこ とにも成功し、FePt合金薄膜の磁気記録媒体応 用への期待を高めた2)。しかし、L10構造への規 則化が十分で無かったために保磁力は8~15 kOe程度で、熱アシスト磁気記録のためにはさ らに高保磁力化が必要であった。そこで、 FePt-C膜にAgを同時スパッタすることにより L10構造への規則化を促進し、平均粒径6.1nm、 サイズ分散1.8 nm、保磁力37 kOeのナノ粒子 分散垂直磁化膜の創製に成功した3)。図1に膜 構造が示されているが、L10構造を持つFePtを 用いた垂直磁化膜としては、これまで報告され ていたどの粒子分散膜よりも粒子分散性と結晶 配向性に優れた膜であった。この媒体を用いて、 日立GSTサンホセ研究センターと共同で熱ア シスト磁気記録ヘッドによる記録試験を行った ところ、現行のHDDとほぼ互角の550 Gbit/in2 の記録密度が熱アシスト方式で達成可能である ことが示された(図2)4,5)。FePt媒体を用いた 熱アシスト磁気記録によるデータとしては世界 最高値であった。このようなFePtAg-Cのナノ 粒子分散膜は成膜中に自然に結晶配向する MgOの中間層の上にスパッタ法で容易に成膜 できるので、安価なガラス基板上でも作製可能 であることから、実用性が高く、次世代の超高 密度磁気記録方式として提案されている熱アシ スト磁気記録媒体実用化に向けて大きく前進し た。 3-2ホイスラー合金を用いた面直電流磁気抵 抗素子 HDDで4 Tbit/in2レベルの記録密度を実現す るためには、媒体のみならず再生ヘッドの高性 能化も必要である。現行のHDDで使われてい る再生ヘッドには強磁性層で絶縁膜を挟んだト ンネル型磁気抵抗(TMR)素子が使われている が、絶縁体膜を含むTMR素子では、高いMR 値を維持したまま素子抵抗を下げることが困難 であり、2 Tbit/in2以上の超高密度HDD用再生 ヘッドとしては高周波応答に限界があると言わ れている。そこで、TMR素子に変わる次世代の 再生ヘッドとしてすべての層が金属で構成され る面直通電型(CPP) -巨大磁気抵抗(GMR) 素子が注目されてきている。ところが、FeCo などの通常の強磁性金属を用いたCPP-GMR素 図1(FePt)Ag-Cグラニュラー膜のTEM像、電子 線回折パターン、サイズ分散、磁化曲線 図2静的熱アシスト磁気記録パターン.2 μm×2 μm領域のパターンで9.2 nmが分解されているこ とから550 Gbit/in2の記録密度に相当 子では数%のMR比しか得られないことが問題 であった。 磁性材料グループではスピン分極率が高いこ との知られていた既存のCo基ホイスラー合金 を強磁性層としたCPP-GMR素子で大きな磁気 抵抗が得られることを実験的に示した6,7)。さら に高いMR値を実現できる強磁性層材料を探索 するため、点接触アンドレーフ反射測定により 4元系Co基ホイスラー合金のスピン分極率を系 統的に調査した。その結果、Co2Fe(Ga0.5Ge0.5) 合金(以後CFGG)で、伝導電子のスピン偏極 率が69%とCo基ホイスラー合金としては比較 的高い値が得られることを見出した。この CFGGを強磁性電極に、Agをスペーサ層に用 いたCPP-GMR素子で、室温MR比42 %、ΔRA =9.5 mΩ·μm2、 10 K では MR 比120%、ΔRA = 26.4mΩ·μm2と、CPP-GMRとしては現在最高 の値を実現することに成功した8)。 2-5 Tbits/in2用HDDの再生ヘッドに応用す るためには素子抵抗が0.1Ω ・μm2、MR比が 図3 CFGGを用いたCPP-GMR素子のMR曲線 50 %以上の値が要求される。CFGGを用いた CPP-GMR素子の抵抗は約0.03Ω ·μm2と1桁 低いので、今後スペーサのナノ構造を制御する ことにより素子抵抗を調整すれば、再生ヘッド としての応用の可能性が高まってくると期待さ れる。またCFGGの規則構造を制御すれば、室 温で100%を超えるMR比も十分視野に入ると 考えている。 3-3ホイスラー合金を用いた高効率スピン注 入磁化反転 高集積度のMRAMや、メモリとロジックの 混載による低消費電力デバイスの実現には、ス ピン注入方式によるメモリ書込みが必要である。 さらに高集積化された素子では、スピン注入の ための電流値に制限があるため、低電流密度で のスピン注入磁化反転が今後のスピントロニク ス素子実用化の成否を握る重要な研究課題と なっている。 スピン注入の高効率化には、大きなスピン分 極率を有する材料を用いることが有効であるた め、スピントロニクスグループでは、世界に先 駆けてCo基ホイスラー合金のスピン注入磁化 反転実験を行った9)。Co基ホイスラー合金では 磁化ダイナミクスの緩和定数を小さくできる可 能性もあり、この点でもスピン注入磁化反転の 低電流密度化に有利である。 スピン注入磁化反転試料はCr/Agバッファー 層上にエピタキシャル成長させた Co2FeAl0.5Si0.5ホイスラー合金とAgスペーサー 層からなるCPP-GMR素子であり、磁化反転さ せるフリー層は電子線リソグラフィーによって 250×190 nm2の大きさに微細加工した。図4は 電流に対する素子抵抗の変化を示した実験結果 であり、明瞭なスピン注入磁化反転が実現され ている。磁化反転の生じる臨界電流密度は 106A/cm2台であり、確率分布を調べるための多 図4 Co2FeAl0.5Si0.5ホイスラー合金を用いた CPP-GMRにおけるスピン注入磁化反転 数回の測定と理論解析によって熱揺の効果を差 し引いても臨界電流密度Jc0は9.3×106A/cm2と いう、CPP-GMR系では最小レベルの値となっ た。高スピン分極率と低ダンピングの寄与を示 唆する結果である。 なお、この研究と関連して、高品位のCo基 ホイスラー合金の成長や高スピン分極に関する 基礎的研究も行い成果を得た10-13)。 3-4新規トンネルバリア材料:MgAl2O4 現在、HDDの再生ヘッド用トンネル磁気抵抗 (TMR)素子ではトンネルバリアにMgOが使 われているが、バリア材料に選択の余地がない ため、使用可能な強磁性電極材料が限られてい る。TMR素子のMRAMなどへの応用を目指し、 更なる特性向上(低抵抗、高TMR比)の突破 口を見いだすことが必要である。このような背 景から、MgO以外の新規トンネルバリア材料の 探索研究が世界各国でなされていたが、MgOに 匹敵する高TMRはこれまで得られていなかっ た。 スピントロニクスグループでは、強磁性トン ネル接合膜の作製と構造評価を系統的に行い、 その過程でMg/Al積層膜のプラズマ酸化により 結晶性のMgAl2O4トンネルバリアが形成され ることを見いだした13)。この発見をもとに、成 長条件を改良することによって、結晶性に優れ た単結晶MgAl2O4トンネルバリアを得ること に成功した14)。MgAl2O4はスピネルと呼ばれ、 MgO等と比較しても化学的に安定であり、更に bcc構造の3d磁性遷移金属・合金との格子不整 合が極めて小さい。図5は、MgAl2O4の結晶構 造とそれを用いたFe/ MgAl2O4/Feトンネル接 合のTMRである。室温でのTMR比は117%、 低温で165%に達しており、Feのスピン分極率 から期待される値を大幅に越えている。この大 きなTMRはコヒーレントトンネル効果と呼ば れる現象に起因しており、MgOと異なる結晶構 造のトンネルバリアにおいてもコヒーレントト ンネル効果が発現することを実証したものであ 図5 MgAl2O4の結晶構造とFe/ MgAl2O4/Feト ンネル接合のTMR効果 る。特性改善は現在も進行中であり、TMR比は 室温で250%以上、低温で360%以上となっている。 MgAl2O4を用いた強磁性トンネル接合は、 TMR比の大きさに加え、応用上重要なバイアス 電圧依存性にも優れているという特徴も持って いる14)。TMRが半減するバイアス電圧はVhalf と呼ばれており、この値が1.0-1.3 Vに達して いるMgAl2O4/Fe界面の整合性が優れているた めに、MgOバリアの場合よりも優れたバイアス 依存性を示すと考えられる。 3-5 Si基板上におけるホイスラー合金強磁性 トンネル接合の作製 ホイスラー合金を用いたスピントロニクス素 子の実用的な応用においては、素子をSi基板上 に製造することが不可欠となる。Si基板上にス パッター法でMgOやTiNを(001)面に高配向で 成長させたバッファ層を用いると、MgO単結晶 基板と同等の特性が得られると期待される。ス ピントロニクスグループでは、高スピン分極率 を有することが実験的に確認されていた Co2FeAl0.5Si0.57,13)を用いて、強磁性トンネル接 合をMgOバッファー層を介してSi基板上に作 製し、実用的に十分なTMR比を得ることに成 功した。MgOバッファー層は面内多結晶である が、強い(100)配向を示し、その上の Co2FeAl0.5Si0.5層の表面が平坦となり、室温で も125%という高いTMR比が得られると考え られる15)。 3-6 Dyフリー高保磁力ネオジム磁石の開発 優れた磁石特性を有するNd-Fe-B合金が発 見されてから約25年、多くの研究者によって特 性向上の取り組みがなされ、現在、Nd-Fe-B磁 石は、ハイブリッド車、電気自動車の高出力モー タ ーや、 多くの電気・電子部品で使用されてい る。最近、高保磁力を得るために用いられてい るDy等の重希上類元素の資源的制約によって、 重希上類元素を使わずに、耐熱性の指標となる 保磁力を向上させることが緊急の研究課題とし て浮上してきた。 ナノ組織解析グループと磁性材料グループで は、NEDO希少金属代替材料開発プロジェクト 及び文部科学省元素戦略プロジェクトの一環と して、集束イオンビーム-走査型電子顕微鏡 (FIB-SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)と独 自に開発したレーザー3次元アトムプローブ (La3DAP)を相補的に用いて、さまざまなプ ロセスで製造されたNd-Fe-B磁石のミクロか らナノのマルチスケールで組織を解析してきた。 それにより、これまで十分に理解されていな かった添加元素、プロセスの違いによる保磁力 発現機構を明らかにし、添加元素の検討、プロ セスの最適化に関する基礎的な知見を得た。そ れにより、250 nm程度のNd2Fe14Bの結晶から 構成される磁石粉の保磁力を、Dyを全く使わず に20 kOeまで高めることにも成功した。 一般的な焼結磁石では、微量なCuの添加や、 焼結後に行う熱処理によって、保磁力が2割以 上増大することが知られていたが、マルチス ケール組織解析によって、主相であるNd2Fe14B 相を囲んでいる粒界相の存在、構造、組成を定 量的に示し、このNd、Cuを含む厚さ数nmの 粒界相によって、主相の磁気的結合が弱められ、 保磁力が増加することを明らかにした16,17)。さ らに、Nd2Fe14B相の結晶粒径を小さくすること で保磁力が増加することは知られていたが、粒 径が約3 μm以下になると保磁力が逆に減少す るという問題に対しては、組織解析の結果、粒 界3重点に存在するNdリッチ相が、酸化物相 に変化して、粒界へのNdの供給が不十分にな ることが原因であることを示した18)。この結果 を踏まえ、共同研究先の磁石メーカーでは酸素 低減の対策を行い、現在、1μm程度の超微細粒 で20 kOeの高保磁力が達成されている。 一方、水素吸脱に伴う不均化・再結合(HD・ DR)プロセスによって作製されるNd-Fe-B系 磁石は、磁化容易軸が配向したサブミクロンの 超微細結晶粒組織を実現できることから、大き な保磁力とエネルギー積を実現できる可能性が あるが、これまで、粒径から期待される高保磁 力は得られていなかった。この試料の粒界近傍 図6 (a)拡散処理前(16kOe)、(b)拡散処理後 (19.6kOe)試料のSEM反射電子像と、(c)熱処理後試 料粒界近傍のNd、Cu原子マップ の3次元アトムプローブ解析から、非磁性元素 の粒界への偏析が焼結磁石ほど顕著でないこと がわかった19,20)。このことから、結晶粒界のNd の濃度を高めればDyを使わなくても保磁力を 高められると考え、HDDRプロセスで作製され た磁粉とNd-Cu合金粒を混合し熱処理(拡散処 理)を行うことにより、粒界相のNd濃度を高 め(図6)、粉体という制約はあるものの、重希 土類元素を含まない異方性Nd-Fe-B磁粉とし ては最大の保磁力(約20kOe)を得ることに成 功した21)。今後はこの粉体のさらなる高保磁力 化と緻密な異方性焼結体作製に取り組む。 3-6短波長レーザー3次元アトムプローブの 開発と絶縁体材料解析への応用 磁性材料センターでは、磁性材料の磁気・伝 導特性を最適化するために強磁性体と非磁性体 のナノ構造を制御している。そのためにはナノ 構造を定量的に評価する必要があるが、そのた めにTEMや独自に開発したLa3DAPを用いて いる。3DAPは、試料中の個々の原子位置をサ ブナノメーターの分解能で表示可能な強力なナ ノ組織解析法であるが、最近まで試料原子のイ オン化に電圧パルスを用いていたために、その 用途は導電性材料に限定されていた。ナノ組織 解析グループでは、CREST-JSTの一環として 独自にフェムト秒レーザー3次元アトムプロー ブを開発し(図7)、このレーザーの波長を紫外 域まで短波長化することで、世界で初めて絶縁 体バルク試料のアトムプローブによる3次元ト モグラフィーの取得に成功した。 この技術を使うと、図8に示すように、絶縁 性セラミックス材料中の原子一つ一つの位置を 立体的に可視化することが可能になる22)。また、 紫外光への短波長化により、従来のアトムプ ローブで問題となっていた試料破壊頻度が激減 されるとともに、質量分解能も向上し、飛行距 離が短い広開ロ角でも、長飛行距離・狭開口角 のアトムプローブと同等の高質量分解能が達成 された。この技術革新により、レーザーアトム プロ ーブの解析対象が絶縁体を含む全ての無機 材料に広がり、また集束イオンビーム/走査型 電子顕微鏡を用いた試料作製により、粒界や薄 膜といった任意の注目箇所から試料が作製可能 であるので、レーザーアトムプローブの活躍の 場は大きく広がってきている23)。 図7短波長レーザーアトムプローブの原理図と 外観 図8安定化ジルコニアースピネルナノコンポ ジットセラミクスから得られた3D原子マップと 組成プロファイル 4.今後の研究動向 永久磁石・軟磁性材料などの伝統的な磁性材 料は発電機やモータなどの動力・電力変換必須 の材料であり、より省エネルギーを目指すなら、 磁性材料の特性を向上させるのが効果的である。 ところが、磁石も軟磁性材料も技術的には飽和 しつつある分野であったが、近年のハイブリッ ド・電気自動車の普及のためにDyを使わない 高保磁力磁石開発のニーズが浮上し、同時に軟 磁性材料でも高飽和磁束密度と低鉄損材料がこ れまで以上に求められるようになった。一方、 データストレージの分野でも、デジタル家電の 普及により、一般家庭やデータセンターでの HDDに使われる電力消費量が肥大しており、 HDDの低消費電力化、つまり磁気記録密度の飛 躍的な増大が求められている。媒体においては、 高い結晶磁気異方性を持つ強磁性体をナノス ケールで制御する技術、ヘッドにおいてはスピ ントロニクスを応用した磁気抵抗素子が必要で ある。HDDではモータでディスクを回転させて いるために省電力化には限界がある。よって将 来的にHDDに変わる不揮発性磁気メモリが開 発されればさらなる省電力に繋がる。また、磁 性を応用した新しい省電力型デバイスにも期待 できる。このように強磁性体の磁化だけを使っ ていた従来の磁性材料から、磁化により電子の 流れを制御するスピントロニクスの研究が重要 になってきている。第三期中期計画ではよりス ピントロニクスの課題の比率が高まって来るが、 スピントロニクスが強磁性体に人工的にナノ構 造を付与して実現されることから、原子層制御 成膜技術、微細加工、ナノ解析の重要性が益々 高まるであろう。 参考文献 1)A. Perumal,Y. K. Takahashi, and K. Hono: Appl. Phys. Express,1(2008)101301. 2)A. Perumal,L. Zhang, Y. K. Takahashi, and K. Hono: J. Appl. Phys.108 (2010) 083907. 3)L. Zhang Y.K. Takahashi, A. Perumal, and K. Hono: J. Mag. Mag. Mater, 322(2010) 2658-2664. 4)L. Zhang, Y. K. Takahashi, K. Hono, B. C. Stipe, J. Y. Juang, and M. Grobis: J. Appl. Phys.109(2011)07B703. 5)L. Zhang, Y. K. Takahashi, K. Hono, B. C. Stipe, J. Y. Juang, and M. Grobis: IEEE Trans. Mag.(2011),in press. 6)T. Furubayashi, K. Kodama, T. M. Nakatani, H. Sukegawa, Y. K. Takahashi, K. Inomata, and K. Hono: J. Appl. Phys. 107(2010)113917. 7)T. Nakatani, T. Furubayashi, S. Kasai, H. Sukegawa, S. Mitani, and K. Hono: Appl. Phys. Lett. 96(2010)212501. 8)Y. K. Takahashi, A. Srinivasan, B. Varaprasad, A. Rajanikanth, N. Hase, T. M. Nakatani, S. Kasai, T. Furubayashi and K. Hono: Appl. Phys. Lett. 98(2011),in press. 9)H. Sukegawa, S. Kasai, T. Furubayashi, S. Mitani and K. Inomata: Appl. Phys. Lett. 96(2010)042508. 10)W. H. Wang, H. Sukegawa, R. Shan and K. Inomata: Appl. Phys. Lett. 93 (2008) 122506. 11)K. Inomata, M. Wojcik, E. Jedryka, N. Ikeda and N. Tezuka: Phys. Rev. B 77 (2008)214425. 12)H. Sukegawa, W. H. Wang, R. Shan, T. Nakatani, K. Inomata and K. Hono: Phys. Rev. B 79(2009)184418. 13)R. Shan, H. Sukegawa, W. H. Wang, M. Kodzuka, T. Furubayashi, T. Ohkubo, S. Mitani, K. Inomata and K. Hono: Phys. Rev. Lett.102(2009)246601. 14)H. Sukegawa, H. Xiu, T. Ohkubo, T. Furubayashi, T. Niizeki, W. H. Wang, S. Kasai, S. Mitani, K. Inomata and K. Hono: Appl. Phys. Lett. 96(2010)212505. 15)W. H. Wang, H. Sukegawa, R. Shan and K. Inomata: Appl. Phys. Lett. 93 (2008) 182504. 16)W. F. Li, T. Ohkubo, T. Akiya, H. Kato, K. Hono: J. Mater. Res. 24(2009)413. 17)W. F. Li, T. Ohkubo, K. Hono: Acta Mater. 57(2009)1337. 18)W. F. Li, T. Ohkubo, K. Hono, M. Sagawa: J. Mag. Mag. Mater. 321(2009)1100. 19)W. F. Li, T. Ohkubo, K. Hono, T. Nishiuchi, S. Hirosawa: J. Appl. Phys.105 (2009) 07A706. 20)H. Sepehri-Amin, W. F. Li, T. Ohkubo, T. Nishiuchi, S. Hirosawa, K. Hono: Acta Mater. 58(2010)1309. 21)H. Sepehri-Amin, T. Ohkubo, T. Nishiuchi, S. Hirosawa, K. Hono: Scripta Mater. 63 (2010)1124. 22)Y. M. Chen, T. Ohkubo, M. Kodzuka, K. Morita and K. Hono: Scripta Mater., 61 (2009)693. 23)K. Hono, T. Ohkubo, Y.M. Chen, M. Kodzuka, K. Oh-ishi, H. Sepehri-Amin, F. Li, T. Kinno, S. Tomiya and Y. Kanitani: Ultramicroscopy in press. 情報通信材料研究萌芽ラボの5年 ―結晶材料を征する者こそが次世代の情報通信技術を征する― 萌芽ラボ長 堀池靖浩、応用結晶科学グループ 木村秀夫 1.目的 現在の情報通信技術はSiテクノロジーによ り支えられている。Siの歴史は金属Siから始 まったが、帯溶融技術の発明によりSiの精製が 可能となり、半導体Siとして脚光を浴びるよう になった。競合材料として化合物半導体GaAs、 GaNが開発されてきたが、半導体Siの優位は 当分の間変わらないだろう。しかし、Siだけで 全ての情報通信材料をカバーすることは不可能 で、Siが主に演算素子として使われるなら、記 憶素子やエネルギー変換素子として多くの酸化 物結晶材料が使われている。 萌芽ラボでは、このような情報通信用酸化物 結晶材料に注目し、将来の新しい素子への適用 を目指して結晶成長技術の基礎から応用までを カバーする研究を日夜行っている。 2 .活動概要 前項の目的達成のため萌芽ラボには応用結 晶科学グループが設置されている。萌芽ラボの 活動は、「応用結晶」と「結晶科学」に分ける ことができる。 「応用結晶」の部分では、強誘電体単結晶・ 薄膜、マルチフェロイック(主に強磁性強誘電 体)単結晶・薄膜に関する研究を進めている。 この分野では、バルク結晶、薄膜結晶に関する 研究を同時に進めることが重要であるとの方針 の元、Bi4Ti3O12、KNbO3、 BiFeO3、 Bi2FeMnO6 に関して多くの研究成果を公表してきた。また、 新しい応用として酸化物結晶の光触媒効果に注 目し、宇宙環境におけるコンタミネーション防 止技術の開発を行っている。 「結晶科学」の部分では、酸化物結晶の作製 技術開発に重要な包晶系酸化物の溶融・結晶化 過程に関する研究を進めている。また、酸化過 程の研究から派生して、人工緑青に関する研究 まで研究範囲を拡大している。 活動の主体はポスドクや外来研究者であり、 職員との連携の元、研究を進めている。また、 外国との連携を進め、オーストラリア、中国の 大学とMOUを締結している。 3.研究成果 3-1新しいマルチフェロイック材料の開発 本研究では次に示すカップリングを対象とし ている(図1)。 通常ABO3型ペロブスカイト強誘電体では、 Bサイトの磁性イオンにより反強磁性を示すが、 BiMnO3は例外で強磁性を示す。一方A2BB'O6 複合ペロブスカイトでは、BとB'とのカップリ ングにより強磁性秩序が発現することがある。 Bi2NiMnO6、BiFeO3-BiCrO3 と同様に BiFeO3 系複合ペロブスカイト酸化物(Bi2BB'O6)におい ても大きな電気磁気効果が期待される。今回取 り上げるNd:BiFeO3とBizFeMnOe層からなる ナノ複合膜はほとんど研究されていないが、強 誘電体へのNdの添加は強誘電特性の改善に広 く行われている。Goodenough-Kanamori's則 によると、180° -Fe3+-O-Mn3+-結合は八面体サ イトで強い一軸のJahn-Teller歪みを発生する。 よってNd:BiFeO3/ Bi2FeMnO6複合膜には基板 の反磁性、Ndによる常磁性、BiFeO3による反 強磁性、Bi2FeMnO6による強磁性が共存してお り、成膜条件を変えることで他の磁性に対して 強磁性を強調させることができるものと期待さ れる。 AFMによる表面像からは、表面粗さと結晶 粒径には相関があり、これからBi2FeMnO6膜 上のNd:BiFeO3膜はPt/Ti/SiO2/Si基板上の Nd:BiFeO3膜より成長速度が速いと推定され る。 Nd:BiFeO3/Bi2FeMnO6二層膜の分極ヒステ レシス曲線では、2Rは54 μC/cm2、Ecは237 図1本研究で対象としている電界、磁界と 分極とのカップリング関係 kV/cmで、分極ヒステレシス曲線は非対称であ り、Jangらが示すように分極は電圧の上昇と ともに減少する。電極の影響や薄膜表面の不均 一分極については排除できるから、この原因は 次の二つである。一つ目は、薄膜は絶縁性に富 み蓄積電荷を均一にする自由電荷が存在しない ため薄膜内で分極勾配が生じて反分極が発生す るためである。二つ目は、薄膜内で異なる抗電 界を持つ不均一なドメインが存在し、印加電圧 によっては分極反転できないためである。 Nd:BiFeO3/Bi2FeMnO6二層膜の疲労特性で は、分極反転回数の増加とともに分極が増大す る。疲労は主にドメインの形成、電極と薄膜界 面での空間電荷や酸素欠陥によるドメイン壁ピ ンニング、その他の熱履歴によるが、分極が増 大する異常な疲労特性は、Nd:BiFeO3膜と Bi2FeMnO6膜との界面で空間電荷が生成する ためである。 磁化の強さは温度に依存し、300Kと5Kに おけるNd:BiFeO3/Bi2FeMnO6二層膜の磁気ヒ ステレシス曲線を面内方向と面に垂直方向との 場合について見ると、薄膜では明瞭な磁気異方 性がある。典型的な強磁性体の曲線となり、磁 化の強さは300 Kで25 kA/m, 5 Kで83 kA/m である(図2)。300 Kでは基板の強い反磁性の 影響を受ける。飽和磁化Msの温度依存性では、 磁化の強さは室温以下でT1.6の温度依存性を示 し、Ms(T)=Ms(0)[1-b(T/Tc)1.6]となる。ここでb の値は1.02±0.11×10-4であり、強磁性キュリ ー温度は Tc440 Kと計算される。強磁性特性 は5度の反強磁性スピンキャンティングから導 かれ、小さな磁化の強さと適度な強磁性キュリ ー温度を示すことになる。 3-2無鉛強誘電体単結晶の開発 近年、無鉛強誘電体としてKNaNbO3 (KNN) が注目されている。KNbO3-NaNbO3系の状態 図は全率固溶体を形成し、液相線と固相線の間 隔が広いため、固溶体結晶の優秀性が期待され るにも関わらず、融液からの均一組成単結晶育 成は困難である。しかし、同じアルカリ金属で もKに対して周期律表でNaとは反対側にある RbやCsではNaよりイオン半径が大きいため、 これらをNaと共添加することで組成変動を抑 制した単結晶育成が可能となる。共添加技術は、 以前には固溶体希土類ガーネット単結晶育成に 適用し、有効性を確認している。 ファイバー単結晶育成には、Ptチューブとリ ング状ハロゲンランプを持つことを特徴とする ファイバー単結晶育成技術を用いた。縦長Pt チューブを用いることで原料融解後の自然対流 による融液攪拌が進み、常に融液組成を均一に 保持することができ、全率固溶型状態図を持つ 強誘電体単結晶が育成できた。種結晶の使用が 困難な為、希土類元素添加に因る容易成長方向 制御を行っている。原料合成技術としては、固 相法を採用し、炭酸化合物の吸水性と固相合成 反応時の成分の蒸発の問題は、低純度原料の利 用で解決した。共添加は、NaとRb、Csそれ ぞれの共添加の場合について実施した。電気特 性では、誘電率・誘電損失の温度依存性、イン ピーダンスの周波数依存性、強誘電ヒステレシ スを中心に評価した。いずれの場合も、典型的 な強誘電体のP-E曲線が観察されている(図3)。 誘電特性や圧電特性も、RbやCsの添加により 改善される結果を得ている。 図2ダブルペロブスカイトBi2FeMnO6薄膜に おける磁束密度と磁化 図3 KRbNbO3のP-Eループ 3-3包晶系における結晶の成長及び溶解に 関する研究 液相の凝固によってできる材料組織は、相平 衡図の結晶相の組み合わせになるとは限らず、 各相の生成速度に左右される。凝固組織のうち、 金属、セラミックス、有機物に広く見られるも のの一つに包晶がある。このような組織を構成 する複数の結晶相の生成過程を個別に調べ、カ イネティクスから包晶形成メカニズムを明らか にすることを研究の目的とした。このために Sr(NO3)2-H2O系をモデル物質として用い、結 晶生成過程を直接観察する実験を行った。 この系で包晶となるSr(NO3)2 (高温相、α相) とSr(NO3)2・4H2O(低温相、β相)について、過 飽和度溶液中で、二つの結晶相が最初に現れる までの時間を測定してそれぞれの核形成速度を 測定し、またマイケルソン型干渉法を用いて成 長・溶解速度を測定した。この結果、低温相の表 面エネルギーが高温相より大きく、核形成が遅 いことが分かった(図4)。溶解度の温度依存性 と表面エネルギーとの経験則から、これは多く の包晶系で成り立つと考えられる。この結果、 高温相は低温域でも低温相に先立って核形成し、 安定な低温相は準安定な高温相を核としてその 上に析出する、オストワルドの段階測に従うこ とが認められた。さらに、低濃度溶液中では氷 (γ相)が最初に成長することで残液濃度が上昇 し、同様の順序で他の二相が現れ、この結果相 平衡図の包晶領域外でも包晶が形成されること が観察された(図5)。 結晶表面ステップの表面エネルギー増加は ステップ密度を減少させ、ステップ移動による 結晶成長速度を低下させる。しかし影響は核形 成ほど大きくはなく、溶質取り込みが速ければ 表面エネルギー増による不利は相殺される。二 つの相で実際にステップの密度と移動速度を測 定すると、核形成とその後の成長では各相の速 度の関係が逆になり、これが包晶形性の重要な 要因となっていることである。結晶の成長表面 の溶液濃度は飽和濃度に近づくが、包晶系では 安定相の飽和濃度が低い。従って二つの相が同 時に成長して接触すると、準安定相は溶解し始 める。安定相の成長が速い場合は準安定相取り 込んで包晶を形成するが、逆の場合は準安定相 が消えて包晶を作らない。以上より、包晶形成 には高温相の核形成速度と低温相の成長速度が 他方より大きいことが必要条件であると結論さ れる。 図4 Sr(NO3)2-H2O系での結晶相の生成順序 図5包晶組織形成過程の直接観察 4.今後の研究動向 マルチフェロイック材料の応用例としては多 くはないが、近年CO2削減の観点から記憶素子 への応用が注目されている。すなわち、これま での記憶素子では電流により発生する磁界を利 用して読み書きを行ってきたが、このような電 流駆動型の記憶素子では省電力化には限界があ る。そこで注目されているのがマルチフェロイ ック材料の電気磁気効果を利用した方法である。 これは、電界の印加により磁化反転を起こさせ るもので、原理的には消費電力ゼロでの記憶が 可能である。しかしながら、室温での180°磁 化反転には未だ成功していない。それには新し いマルチフェロイック材料の開発が必要で、現 在、これまでに開発したBi2FeMnO6での180° 磁化反転に取り組んでいるところである。 多くの酸化物結晶は包晶系であり、結晶の理 解のためには包晶系の理解が必要不可欠で、今 後も取り組む予定である。 本稿における全般的な参考文献 1)H.Y. Zhao, H. Kimura, Yi. Du, Q.W. Yao, ZX. Cheng and X.L. Wang, In­ Ferroelectrics, ISBN: 978-953-307-557-0, INTECH Open Access Publisher (2011) (accepted). 2)H. Kimura, R. Tanahashi, H.Y Zhao, K. Maiwa: Cryst. Res. Technol.46(2011)37. 3)Y. Du, Z.X. Cheng, H.Y. Zhao, H. Kimura, P. Zhang, Z.P Guo, X.L Wang: Curr. Appl. Phys., DOI:10.1016/j.cap.2010.10.015 (in press). 4)H.Y. Zhao, H. Kimura, K. Ozawa, Z.X. Cheng, X.L. Wang, T. Nishida, J. Appl. Phys.108(2010)093903. 5)H.Y. Zhao, H. Kimura, K. Ozawa, Z.X. Cheng, X.L. Wang, T. Nishida: Phys. status solidi -RRL. 4(2010)314. 6)Y. Du, Z.X. Cheng, S.X. Dou, X.L Wang, H.Y. Zhao and H. Kimura: Appl. Phys. Lett. 97(2010)122502. 7)Z.X. Cheng, X.L. Wang, S.X. Dou, H. Kimura and K. Ozawa: J. Appl. Phys.107 (2010)09D905. 8)Z.X. Cheng, X.L. Wang, H.Y. Zhao and H. Kimura: J. Appl. Phys.107(2010)084105. 9)木村秀夫,Z.X. Cheng, H.Y. Zhao, X.L. Wang:まてりあ 49(2010)364. 10)H. Kimura, R. Tanahashi, H.Y. Zhao, and K. Maiwa: Ferroelectrics 403(2010)26. 11)H. Kimura, R. Tanahashi, H.Y. Zhao, K. MaiwA, Z.X. Cheng and X.L. Wang: Opt. Mater. 32(2010)735. 12)H. Kimura, T. Numazawa, T.J. Sato: Advances in Chemistry Research Volume 6, edt. J.C. Taylor, Nova Science Publishers, Inc.(2010)185. 13)H.Y. Zhao, H. Kimura, Z.X. Cheng, X.L. Wang, T. Nishida: Appl. Phys. Lett. 95 (2009)232904. 14)X.L. Wang, G. Peleckis, C. Zhang, H. Kimura, and S.X. Dou: Adv. Mater. 21 (2009)2196. 15)H. Kimura, R. Tanahashi, K. Maiwa, R. Morinaga and T.J. Sato: J. Cryst. Growth 311(2009)522. 16)H. Kimura, C.V. Kannan: in Handbook on Borates: Chemistry, Production and Applications, edt. M.P. Chung, Nova Science Publishers, Inc.(2009)301. 17)Z.X. Cheng, X.L. Wang, S.X. Dou, H. Kimura and K. Ozawa: J. Appl. Phys.104 (2008)116109. 18)C.V. Kannan, K. Shimamura, H.R. Zeng, H. Kimura, E.G. Villora and K. Kitamura: J. Appl. Phys.104 (2008) 114113. 19)Z.X. Cheng, X.L. Wang, S.X. Dou, K. Ozawa, H. Kimura: Phys. Rev. B 77 (2008)092101. 20)Z.X. Cheng, X.L. Wang, H. Kimura, K. Ozawa and S.X. Dou: Appl. Phys. Lett. 92 (2008)092902. 21)H. Kimura, R. Tanahashi, K. Maiwa, Z.X. Cheng, C.V. Kannan: Jpn. J. Appl. Phys. 46(2007)7031. 生 体 材 料 研 究 領 域 tHISTORC BS ACE 生体材料研究領域の5年 ―ナノテクノロジーを活用するバイオ材料の開発― 領域コーディネーター青柳隆夫 1.はじめに これまでの医学の発展は、工学的な支えがあ ったことは疑いもない。検査診断や治療におい て、材料研究が果たしてきた役割は大変大きい。 一方で再生医療の進展も大変めざましいものが ある。しかしながらそれらは互いに相反するも のではなく、将来の医療を見据えたときには、 車の両輪の役割を果たすべきである。 生体適合性材料、人工臓器、再生医学、ドラ ッグデリバリーシステムといった、生体材料研 究のアウトプットを意識してその基礎的な材料 研究を推進するには、多くの知識を結集する必 要がある。 人体を構成する最小単位は「細胞」である。 細胞の集団とそれを支える接着タンパク質など の生体マトリックスによって「組織」ができ、 さらにそれらが秩序だって構成されて「臓器」 となって機能を発揮する。すなわち、人体は極 めて緻密なナノ構造を基盤に、それらの階層構 造によって成り立っている。また、生体の機能 に関してもその仕組みは大変緻密に設計されて いる。分子レベル、ナノレベルから材料の設計 を行うナノテクノロジーをベースとした生体材 料開発が大変有効である。しかしながらそれら の戦略において、たとえば力学的な性質を生体 に似せようとしたとき、単一材料よりはむしろ 異種材料を複合化させて初めて実現されるもの も多い。優れた生体材料を開発するには、生体 の仕組みを理解し多方面からのアプローチが必 須である。 これらの背景から、生体材料研究領域では、 NIMSの融合研究体制の特徴・強みを活かし、 新しい生物機能性材料や、それらを巧みに組み 合わせた医療デバイスの開発を精力的に推進す ることを目標にこの5年間の研究を遂行してき た。すでにNIMSでは、材料・デバイスを開発 するために必要な高水準の研究設備(合成およ び評価装置、細胞培養室や動物実験施設)と高 い技術ノウハウを蓄積しており、その利点を活 かすことが他機関に比べての優位性を確保する ことになると考えた。材料科学における多くの 知見とバイオ技術を積極的に融合させることに より、外部医療機関とも協力して研究を遂行し てきた。 2.領域の組織構成 本領域は、プロジェクト推進を生体材料セン ターが主に担当し、さらに生体組織再生材料プ ロジェクト(革新的分子配向生体組織再建材料 の開発研究)および生体材料研究萌芽ラボ(ヘ ルスケアチップに関する研究)で構成された。 生体材料センターは、無機生体材料、金属生体 材料、高次機能生体材料、高分子生体材料、先 端医療材料、生体材料システム化、生命機能制 御の7研究グループで当初スタートし、2009 年度より複合化生体材料グループが加わり合計 8グループで研究が行われた。 上述したように優れた生体材料を開発する には、多方面からのアプローチが極めて重要で あり、それぞれの分野に精通した研究者がそれ ぞれの特徴を活かしながら研究を推進すること が大変効果的であった。 分野横断的に遂行された生体組織再生材料 プロジェクトでは、生体材料センターの生命機 能制御グループが中心となり、生体に存在する 繊維模倣構造とその機能解析をおこない、靱帯、 角膜、神経などの組織と機能を迅速に再建させ る材料の基礎研究が行われた。具体的にはコラ ーゲン繊維の強磁場内での配向制御を中心に研 究が展開された。 また、生体材料研究萌芽ラボでは次世代型の 検査診断システムを構築すべく、ヘルスケアチ ップ、バイオアッセイチップなどに特化して研 究が推進された。迅速でなおかつ、少ない検体 量で数多くの診断が可能となれば、最近進歩が 著しい診断機器による検査と相まって、患者の 状態を多方面から診断でき、早期診断、早期治 療が実現できる。この結果、疾病の治療費の削 減やQOLの向上が期待される。さらに術後の 社会復帰が促進されれば、社会経済的にも大き な貢献となる。 3.領域の成果 これまでの本領域の成果としては、無機生体 材料グループの配向連通多孔質ヒドロキシアパ タイトからなる人工骨があげられる。生体骨の 構造を模倣し、なおかつ水をテンプレートとし て連通孔を効果的に構築しており、2009年に 厚生労働省薬事承認を取得し商品化された。こ のテーマはさら生体骨を模倣したヒドロキシア パタイトーコラーゲンのハイブリッド材料へ展 開されている。 また、再狭窄を効果的に防ぐ薬物放出型ステ ントの開発研究も生体材料システム化グループ で行われた。心筋梗塞の原因となる冠動脈の狭 窄を改善するのに、ステントを用いた治療が効 果的である。しかし、血管を拡張後も再狭窄が 問題となることが多く、ステント留置部の組織 の肥厚を抑制する必要がある。 そこで、問題となる肥厚化を抑制する薬剤を 徐放し、さらにステントの生体組織適合性を改 善した材料開発が成功した。健常の血管の表面 と見間違うほどの組織が安定に形成されること が確認され、長期間にわたって再狭窄を抑制す ることが動物実験で実証された。 同グループでは、経肺吸収用の微粒子の研究 が遂行された。薬物の投与法には、経口や注射 による場合が多いが、薬剤を肺の粘膜から効果 的に投与できる材料設計が検討された。経口投 与では、胃を通過するためにタンパク質などの バイオ医薬の投与には不向きである。肺胞まで に到達する諸条件が系統的に調べられ、その材 料性状が最適化された。ワクチンやインスリン などの高分子量のバイオ分子を血液中へ送り込 む基本技術である。 一方、先端医療材料グループでは、細胞機能 を直接コントロールして、センサー細胞が作ら れた。細胞は大変秩序立った機能を発揮するい わば超精密機能ユニットである。大変敏感に環 境変化をキャッチできる事ができることから環 境変化に応答して蛍光発光するタンパク質を発 現する遺伝子を組み込んだセンサー細胞が作ら れた。この細胞は、周りの環境変化によって細 胞が発光することから、薬物やナノ材料の毒性 試験には好適である。すなわち量子ドットやナ ノ微粒子材料など次世代ナノテク材料の毒性の 評価に極めて有望である。ナノレベルの材料が 生体に及ぼす影響を正しく評価することは極め て重要であり、その結果を材料開発にフィード バックすることにより、より実用性の高いナノ 材料へ繋げることができる。 高分子を用いた研究においても大きな成果 が得られた。高分子生体材料グループでは、生 分解性高分子材料と生体組織を形成している前 述のコラーゲンとを組み合わせた生体組織再生 用の複合材料が開発された。軟骨などの再生に 極めて有効であることが明らかにされた。また、 このようなマトリックス材料の研究において、 幹細胞の分化コントロールに関する研究も遂行 された。材料が構築する環境因子が細胞分化に どのように影響するか調べることにより、新し い生体機能材料開発へ繋がる可能性がある。高 次機能生体材料グループは、生体に不活性な表 面構築を固体表面での高分子ブラシの構築によ って実現させた。人工臓器や検査診断領域でそ の精度を向上させる技術として期待される。 刺激応答性高分子材料の研究が複合化生体 材料グループで行われた。刺激応答性材料とは 外部の環境変化に応答してその物性を大きく変 化させる材料である。センシングやプロセッシ ングなど、材料自身がその機能を発揮するため にスケールダウンが可能であることからナノテ ク材料として大変優れている。薬物ターゲティ ングを実現するドラッグキャリアーとしての応 用や、生体組織再生への応用も継続的に行われ ている。 4.おわりに 生体材料研究領域は、第三期では、MANAの ナノバイオ分野に所属し、生体機能材料ユニッ ト、生体組織再生材料ユニットとして、一部の 研究が継続的に行われる。ナノバイオ領域では、 自己の持つ自然治癒力を高め、病的部位を治し ていくという発想に基づき、細胞を用いず、材 料そのものが半持続的に生体組織治癒効果を促 す“マテリアルセラピー”を可能にする材料創 出を目標に掲げた。設計された材料が薬剤のよ うに効き目を発揮するものであり、これまでの 研究を継続しつつ、新しいナノバイオ研究を開 拓していく。複雑化した社会において、医療を 支える材料研究の重要性を常に意識しながら研 究業務を推進することが極めて重要であると考 えている。 生体材料センターの5年 ―バイオナノテク技術をベースにした生体材料の研究開発― センター長青柳隆夫 1.センターの目的 人体を構成する最小単位は細胞である。細胞 の集団とそれを支える接着タンパク質などの生 体マトリックスによって「組織」ができ、さら にそれらが秩序だって構成されて「臓器」とな って機能を発揮する。すなわち、人体は極めて 緻密なナノ構造を基盤に、それらの階層構造に よって成り立っている。また、生体の機能に関 してもその仕組みは大変緻密に設計されている。 すなわち、優れた生体材料を設計、合成するに は分子レベル、ナノレベルから材料の設計を行 うナノテクノロジーをベースとした材料開発が 大変有効である。しかしながらそれらの戦略に おいて、たとえば力学的な性質を生体に模倣し ようとしたとき、単一材料よりはむしろ異種材 料を複合化させて初めて実現されるものも多い。 優れた生体材料を開発するには、生体の仕組み を理解し多方面からのアプローチが必須である。 2.活動概要 これらの背景から、生体材料センターでは、 NIMSの融合研究体制の特徴・強みを活かし、 新しい生物機能性材料やそれらを巧みに組み合 わせた医療デバイスの開発を精力的に推進する ことを目標にこの5年間の研究を遂行してきた。 すでにNIMSでは、材料・デバイスを開発する ために必要な高水準の研究設備(合成および評 価装置、細胞培養室や動物実験施設)と高い技 術ノウハウを蓄積しており、その利点を活かす ことが他機関に比べての優位性を確保すること になると考えた。材料科学における多くの知見 とバイオ技術を積極的に取融合させることによ り、外部医療機関とも協力して研究を遂行して きた。 当センターは、無機生体材料、金属生体材料、 高次機能生体材料、高分子生体材料、先端医療 材料、生体材料システム化、生命機能制御の7 研究グループで当初スタートし、2009年度より 複合化生体材料グループが加わり合計8グルー プで研究が行われた。上述のように、これらの グループが連携しあうことにより、それぞれの 分野に精通した研究者がそれぞれの特徴を生か しながら研究を推進することが大変効果的であ った。 3.研究成果 3-1配向連通多孔質アパタイト人工骨に関 する研究 配向連通多孔質ヒドロキシアパタイトから なる人工骨が開発された。生体骨はヒドロキシ アパタイトとコラーゲンを主成分としており、 緻密な階層構造を有している。開発された人工 骨は、氷の結晶を鋳型にしてつくられた方向の 揃った空孔をもっており、血管や細胞がより進 入しやすくなっている。2009年に 厚生労働省 薬事承認を取得し商品化された。このテーマは さら生体骨を模倣したヒドロキシアパタイトー コラーゲンのハイブリッド材料へ展開されてい る1)。 図1連通孔を有するヒドロキシアパタイトから なる人工骨 3-2再狭窄を効果的に抑制する薬物溶出ス テントに関する研究 再狭窄を効果的に防ぐ薬物放出型ステントの 開発研究も生体材料システム化グループで行わ れた。心筋梗塞の原因となる冠動脈の狭窄を改 善するのに、ステントを用いた治療が効果的で ある。しかし、血管を拡張後も再狭窄が問題と なることが多く、ステント留置部の組織の肥厚 を抑制する必要がある。 そこで、肥厚化を抑制する薬剤を徐放し、さ らにステントの生体組織適合性を改善した材料 開発をおこなった。健常の血管の表面と見間違 うほどの組織が安定に形成されることが確認さ れ、長期間にわたって再狭窄を抑制することが 動物実験で実証された。動物実験結果の写真を 図2に示す。 タミバロテンは合成レチノイドとして既に 臨床応用されている薬剤である。図から明らか なように、血栓形成も効果的に抑制され、血管 内面は大変平滑であった。 当グループでは、継続して、医療用接着剤に 関する研究を遂行している。反応性を高めたク エン酸誘導体と、生体高分子を組み合わせたも のである。アルデヒド系やフィブリン系の従来 の接着剤では、高強度と高安全性を兼ね備える ことができなかったが、本研究ではそれを実現 することができた2)。 図2開発されたタミバロテン溶出ステントを留置し たときの血管内皮 3-3センサー細胞の構築と応用 一方、先端医療材料グループでは、細胞機能 を直接コントロールして、極めて斬新なセンサ ー細胞が作られた(図3)。細胞は大変秩序立っ た機能を発揮するいわば超精密機能ユニットで ある。大変敏感に環境変化をキャッチして、そ の機能を変化させることができる。 細胞を大変敏感なセンサーとして利用する ために、環境変化に応答して蛍光発光するタン パク質を発現する遺伝子を組み込んだセンサー 細胞が作られた。 具体的には、タンパク質の遺伝子を連結して 細胞に導入した。この細胞はDNAを切断する 薬物(エトポシド)に対して感度良く応答し、 従来法に比べ約50倍程度、高感度だった3)。こ の細胞は、周りの環境変化によって細胞が発光 することから、薬物やナノ材料の毒性試験には 好適である。すなわち量子ドットやナノ微粒子 材料など次世代ナノテク材料の毒性の評価に極 めて有望である。ナノレベルの材料が生体に及 ぼす影響を正しく評価することは極めて重要で あり、その結果を材料開発にフィードバックす ることにより、より実用性の高いナノ材料へ繋 げることができる。 図3センサー細胞が微量薬物を検知して発 光する様子 3-4糖特異的バイオオランジスタの構築 デバイスの構築においては、糖分子を特異的に 捉える機能性分子としてフェニルボロン酸化合物 を利用してトランジスタのゲート表面にナノ構造 を構築し、糖分子の反応場を創製した(図4)4,5)。 フェニルボロン酸は、グルコース分子と可逆 的な共有結合を形成する事が知られている。す なわちグルコースが結合するとその親水性ゆえ にゲルは膨潤する。グルコースとの結合を解離 すると、ゲルは収縮する。すなわち、この刺激 応答性高分子の体積相転移に伴うゲルの誘電率 変化を利用して、中性分子であるグルコースを 検出するバイオトランジスタを提案した。図5 で示したように、グルコースの濃度に応答して 電位応答が変化しているのが確認された。 フェニルボロン酸を利用した、シアル酸の検 出への応用にも成功した(図6) 6)。すなわち自 己組織化膜の末端にフェニルボロン酸基を導入 し、糖鎖末端のシアル酸基を定量する新しいセ ンサーを開発した。糖鎖は、発生や分化などの 様々な生命現象に深くかかわっている。なかで もシアル酸は、糖鎖中に最も高頻度に、かつ糖 鎖末端に多く存在する分子であり、その密度や 分布は、細胞の疾病(癌、転移、糖尿病、自己 免疫病)と関係して変化することが知られてい る。 血液中のシアル酸の簡便な定量に大変効果 的であると考えている。 図4糖に応答して体積を変化させるフェニルボロ ン酸ハイドロゲル 図5フェニルボロン酸ハイドロゲルからなるバ イオトランジスタのグルコース濃度応答挙動 図6自己組織化膜を用いた細胞表面シアル酸の 検出 3-5生体吸収性金属材料の生体内環境にお ける分解特性制御 骨接合材などの金属製医療用デバイスの生体 吸収化のために、マグネシウムおよびその合金 の医療応用が期待されている。しかし、生体内 におけるマグネシウムの分解挙動や生体適合性 に関する知見が不足しており、その制御法も確 立されていない。疑似体液中におけるマグネシ ウムの分解特性を調べたところ、表面にリン酸 カルシウムが析出し、これにより分解速度が低 下することが明らかになった(図7) 7)。そこで、 表面処理(陽極酸化)によるリン酸カルシウム 析出制御を検討した。陽極酸化処理条件により、 多孔質および平滑表面が形成され、この表面形 態により疑似体液中のリン酸カルシウム析出挙 動が異なることを明らかにした(図8) 8)。本処 理により、生体内での分解特性制御が可能であ ることに加え、骨形成の促進も期待される。 図7疑似体液浸漬後の試料表面の元素濃度 図8疑似体液浸漬後の陽極酸化試料表面のCa濃度 の経時変化 3-6コラーゲンと生分解性高分子を用いた 組織再生用足場材料に関する研究 高分子を用いた研究においても大きな成果が 得られた。高分子生体材料グループでは、生分 解性高分子材料と生体組織を形成している前述 のコラーゲンとを混み合わせた生体組織再生用 の複合材料が開発された(図9)。軟骨などの再 生に極めて有効であることが明らかにされた (図10)。乳酸-グリコール酸のみならず、様々 な高分子への拡張した研究も進展している9)。 また、このようなマトリックス材料の研究に おいて、幹細胞の分化コントロールに関する研 究も遂行された。材料が構築する環境因子が細 胞分化にどのように影響するか調べることによ り、新しい生体機能材料開発へ繋がる可能性が ある。 図9生分解性乳酸―グリコール酸共重合体とコ ラーゲンを複合化させた足場材料 図10合成された足場材料表面に接着した細胞 3-7生体の高次構造利用した再生角膜用足 場材料に関する研究 高次機能生体材料グループでは、超高圧下で の脱細胞技術を用いて、角膜の再生に関する研 究を遂行させた10)。 生体組織は細胞が細胞外マトリックスとと もに構造化して形成されている。超高圧処理に よって細胞を脱落させた細胞外マトリックスは、 いわば生体が有していたときとかなり類似した 構造を維持していると考えられる。これに細胞 を播種して適用すれば優れた再生に結びつくと 考えられる。図11で示したように、すでにウ サギを用いた動物実験においても、その有用性 は確認されている。 図11超高圧処理に脱細胞技術を利用した角膜の再生 3-8高分子薄膜のナノ構造制御によるバイ オイナート表面の開発 当グループでは、固体表面へ、連鎖長の揃っ た高分子を密度をコントロールしながら固定化 する高分子ブラシに関する研究を遂行してい る11)。これは、固体表面に高分子重合開始剤を 固定化し、そこから高分子の重合を起こさせる。 固体表面への高分子の固定化に関しては、密度 のコントロールが大変困難であった。本手法を 用いることにより、それを克服することができ る。 図12にも、PHIEMAのブラシ表面の細胞接 着性を評価した結果を示した。密度を高く PHEMAを固定化すると細胞は全く接着しな くなった。また、水溶性の他の高分子を用いて も同様の結果が得られた。 図12高分子ブラシの構築と生体適合性 血液適合性を含めて生体適合性を発現する には数多くのアプローチが行われてきたが、本 手法では、バルクの材料の性質を維持しながら 適合性を付与できる可能性がある。すなわち、 人工臓器の表面に固定できれば、長期間、生体 適合性を維持できると考えられる。 3-9スマートポリマーによる薬物ターゲテ ィングに関する研究 スマートポリマーは様々な物理的、化学的刺 激に応答してその性質を大きく変化させる材料 である。複合化生体材料グループではその中で も典型的なポリ(N-イソプロピルアクリルアミ ド) (PIPAAmと略す)をベースにした新規な 構造を有するポリマーを設計・合成し、バイオ マテリアルとしての応用を検討した。 刺激応答性高分子の設計により、コアに疎水 性の核を、シェル部に血中安定性、ターゲティ ングを目的とした分子認識能、組織への親和性 など複数の機能を同時に持たせた、高機能の高 分子ミセル型薬物キャリアの設計に関する研究 が行われた。PIPAAmは32℃にLCSTを有し、 加温によって水溶液中で沈殿を形成する。さら に親水性、疎水性モノマーとの共重合によって、 それぞれLCSTが高温、低温にシフトすること が知られている。 そこで、LCSTの異なる連鎖を持つブロック コポリマーにおいては2段階の温度応答性を発 揮すると予想された。図2にブロックコポリマ ーの集合体形成の模式図を示した12)。 ガン治療には抗ガン剤の患部へのみの送達 が期待され、多くのアプローチが行われてきて いる。中でも高分子の集合体からなる薬物キャ リアが特に注目されており、本システムは局所 加熱手法を用いることにより、抗ガン剤ターゲ ティングに応用できる。 4.今後の研究動向 生体材料センターは、第三期では、MANAの ナノバイオ分野に所属し、生体機能材料ユニッ ト、生体組織再生材料ユニットとして、生まれ 変わり、研究が継続的に行われる。これまで示 してきたように、継続的な研究によって臨床応 用される可能性が高い材料も多い。 第三期でのナノバイオ領域では、自己の持つ 自然治癒力を高め、病的部位を治していくとい う発想に基づき、細胞を用いず、材料そのもの が半持続的に生体組織治癒効果を促す“マテリ 図13 2段階の温度応答瀬を発揮するスマートポ リマーの会合挙動 アルセラピー”を可能にする材料創出を目標に 掲げた。設計された材料が薬剤のように効き目 を発揮するものであり、これまでの研究を継続 しつつ、新しいナノバイオ研究を開拓していく。 再生医学との両輪になって、材料が主役とな る診断・治療システムの構築を目指していく所 存である。複雑化した社会において、医療を支 える材料研究の重要性を常に意識しながら業務 を推進することが極めて重要であるとメンバー 全員が考えている。 参考文献 1)H. Maehara, T. Yoshii, I. Torigoe, Y. Kawasaki, Y. Sugata, M. Yuasa, M. Hirano, N. Mochizuki, M. Kikuchi, K. Shinomiya, A. Okawa: J. Ortho. Res. 28(2010)677. 2)T. Taguchi, H. Saito, M. Iwasashi, M. Sakane, N. Ochiai: J. Bioact. Compat. Polym., 24(2009)546. 3)A. Taniguchi: Biomaterials, 31(2010)5911. 4)A. Matsumoto, N. Sato, T. Sakata, K. Kataoka, Y. Miyahara: J. Sold State Electrochem.,13(2009)165. 5)A. Matsumoto, N. Sato, T. Sakata, R. Yoshida, K. Kataoka, Y. Miyahara: Adv. Mater. 21(2009)4372. 6)A. Matsumoto, N. Sato, H. Cabral,K. Kataoka, Y. Miyahara: J. Am. Chem. Soc., 131(2009)12022. 7)A. Yamamoto, S. Hiromoto: Mater. Sci. Eng. C, 29(2009)1559. 8)S. Hiromoto, T. Shishido, A. Yamamoto, N. Maruyama, H. Somekawa, T. Mukai: Corrosion Sci., 50(2008)2906. 9)Y. G. Ko, N.,T. Tateishi, G. Chen: J. Biomed. Mater. Res. Part B, 93(2010)341. 10)S. Sasaki, S. Funamoto, Y. Hashimoto, T. Kimura, T. Honda, S. Hattori, H.Kobayashi, A. Kishida, M. Mochizuki: Molecular Vision, 15(2009)2022. 11)C. Yoshikawa,Y. Hashimoto, S. Hattori, T. Honda, K. Zhang, D. Terada, A. Kishida, Y. Tsujii, H. Kobayashi: Chem. Lett. 39 (2010)142 12)Y. Kotsuchibashi, M. Ebara, K. Yamamoto, T. Aoyagi: J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 48(2010)4393. 生体材料研究萌芽ラボの5年 ―ナノ加工を駆使した在宅・ベッドサイドPOCTデバイスの開発― 萌芽ラボ長 青柳 隆夫、ナノバイオデバイスグループ グループ長 堀池靖浩 1.目的 近年、μTASやLab-on-a-chipと呼ばれる分 野の発展は目覚ましい。これは、従来の大規模 な化学分析の個々の機能をダウンスケールし、 リアクタ、分離コラム、流体処理、検出器など を一つのチップに機能的に集積化する技術であ る。その結果、少量の異なる試薬を用いて様々 な化学反応を起こさせ、高速に検出することが できる。マイクロ流体チップの研究・開発の報 告は年毎に増加の一途を辿っており、その出口 は医療チップに向けられ、特にPOCTデバイス 開発が盛んである。そこで本研究は、在宅やべ ッドサイドで高速・正確に診断できるバイオチ ップの開発を目的とする。 2.研究成果 2-1ヘルスケアチップ 我が国の急速な高齢化による医療費の国家 予算を圧迫する状況を鑑み、日頃の疾病に対す る予防が大切であり、在宅で診断可能なヘルス ケアチップを開発した。 在宅を目指し、150μm径のSUS管から無痛 針を作り、ディスプレイを見ながら自分で採血 できるようにした。図1(a)は採取した6μLの全 血を無痛針の方向を中心として遠心分離し、そ の血漿からpH、Na+、K+、グルコース、尿素 窒素を電気化学的に測定するチップである。(b) は尿素測定を基に尿素窒素を測定する。 図2(a)は、中性脂肪、トータルコレステロー ル、HDLを比色法により測定するチップを示 図1(a)電気化学法診断チップ、(b)尿素窒素センサ 図2(a)比色法診断チップ、(b)計測部 す2)。 3層構造であり、液は上層から下層へ遠 心力で移動させる。ここで、試薬:血漿=50~ 100:1の血漿と2種の試薬を正確に秤量する。 更に、秤量された試薬と血漿をジグザグ流路を 用いて混合した。電気化学法チップと比色法チ ップの自動測定装置を開発した。(b)は比色法チ ップの計測機構部分の写真を示す。検査会社の 測定と1:1の相関が得られた。 2-2ナノギャップ捕捉DNAとのハイブリダ イゼーションによる感染症診断チップ 最近の豚インフル蔓延にも示されるように 早期の罹患の有無のチェックが重要である。多 くはウイルス由来であり、細胞破砕後にターゲ ットDNAの抽出とプローブDNAのハイブリ により感染を診断するチップを開発した3)。 図3はチップ構造を示し、上層のSi層にY 字状流路が設けられ、DNAの洗浄を行う。そ の際、図4の溶出工程に示すように、Y字状流 路にまずSiマイクロピラーを作製し、原子層堆 積法(ALD)でAl2O3膜を覆う。このゼータ電位 は酸性では正、アルカリでは負になり、DNA 図3ナノギャップDNA捕捉感染症診断チップ 図4 DNAのSiピラーで固定・洗浄後、ナノギャッ プアレーで捕捉・伸長 は負電位なので酸 性液でDNAを Al2O3膜表面に付 着させる。更に、 その下流にpH応 答ハイドロゲルバ ルブを形成し、酸 性液で洗浄後、ア ルカリ液に切り換 えDNAを脱着させ、下層の石英板に形成した 816個のナノギャップアレーに移動させる。上 層から移動したDNAは電気泳動でギャップで 捕捉され、直線状又はギャップを跨いで伸長さ れる。ここで、破砕後のDNAは二本鎖である が、この捕捉過程でイオン流により生じたジュ ール加熱で一本鎖に変性したことを発見した。 その証拠は、ターゲットDNAの一部の配列を 有するDNAを入れると、図5に示すように、 ハイブリが起こったことである。この結果、感 染が本チップで迅速に検査できる。 図5伸長した一本鎖DNA にプローブDNAがハイブ リした蛍光発光 2-3ナノ液滴イムノアッセイ 生活環境の劣化に対して、アレルギー、ホル モンなどの異常を網羅的に診断するため、流路 内に液滴(ドロップレット)を形成し、ナノ L のリアクタ内でELISA法によるイムノアッセ イチップを開発した。 図6は流路構成を示す。SOI基板を用い、 PDMSに転写する。主流路には油を導入し、そ の流路に垂直に3本のナノピラーが設けられた ノズルアセンブリ、液滴群を分離するため空気 を挿入するスペーサ、発色剤導入用ノズル、そ してインキュベーション/混合流路が下流方向 に接続されている。抗体をタンパク質Gがコー トされたビーズに垣持させ、抗原と反応させ、 図6ナノ液滴リアクタを用いたイムノアッセイ 図7 (a)溶出液と発色剤の融合・混合、(b)INF-Y の検量線 酵素結合抗体でサンドイッチさせる。これをビ ーズから外し、ビーズをナノピラーで堰き止め、 溶出液の液滴を主流路内に生成し、融合領域で 発色剤と反応させ、混合し、検出領域で蛍光を アバランシェ光ダイオードで検出する。図7(a) は発色剤との融合と混合の変化を示す。蛇腹形 状の流路を十重に折り曲げ、その結果99.5%の 混合率を達成した。(b)はINF-Yの検出の一例を 示し、pg/Lの感度で3桁の検出能力が得られた。 3.今後の研究動向 採血ベースのPOCTデバイスは正確ではあ るが、医師主導等のバリアが高く、尿や唾液の 検体などを用い、無侵襲に疾病マーカの診断可 能な、低コストデバイスの開発に向う。 参考文献 1)C. Chang, H. Ogawa, A. Oki, M. Takai, M. Nagai, H. Hisamoto and Y. Horiike : Jpn. J. Appl. Phys 45[5A](2006)4241-4247. 2)Y. Horiike, H. Ogawa, M. Nagai, H. Koda, C. H. Chang, H. Shingi, M,Takai, Y. Morimoto : TRANSDUCERS. 07 EUROSENSORS ⅩⅩⅠ OF TECHNICAL PAPERS 1(2007)347-350. 3)S.Hashioka, R. Ogawa, Y. Horiike : Jpn. J. Appl. Phys., 46[4B](2007)2775-2780. 環 境 ・ エ ネ ル ギ ー 材 料 領 域 環境・エネルギー材料領域の5年 ―ナノテクノロジーを活用した基礎研究、産業界との密接な連携による迅速な成果活用― 領域コーディネーター長井寿 1.はじめに NIMSは第二期中期計画(2006~2010年度) において、材料基礎研究として革新的なシーズ を生み出すために、この領域を設定し、超耐熱 材料、燃料電池材料、超伝導材料、光触媒材料、 新構造材料について、研究センターを設置しプ ロジェクト研究を進めた。 さらに2009年度より次世代太陽電池材料セ ンターもスタートさせた。同時に、LED蛍光体、 全固体リチウム二次電池、白金族金属材料、発 電用熱電材料の研究プロジェクトも開始した。 革新的なシーズを生み出すためには、ナノテ クノ ロジーを活用し、元素戦略の立場に立って、 常に基礎に立ち返る研究姿勢が求められる。ま た、基礎シーズを確実に「使われてこそ材料」 とするためには、実験室規模での研究と企業開 発研究を有効に橋渡しすることが不可欠である。 NIMSでは、物質創製、解析、計算を結合す る基礎ポテンシャルがあり、さらに実用特性を 評価できる試験技術を有している。これらを土 台に、有力な民間企業との連携を研究段階から 構築する戦略を本領域では採った。 また、社会情勢の変化に伴い急速に社会ニー ズの重点が動くことを念頭に、内外の関係研究 者等との対話を柔軟かつ系統的に進め、またそ の成果を有効に公表する姿勢を貫いた。 2.領域の組織構成 2-16センター 1)超耐熱材料センター:超高率複合発電、コ ジェネレーション、次世代ジェットエンジ ンなどに期待される高性能Ni基超合金を はじめ、各所の超耐熱材料や新コーティン グ材の開発・実用化を目指した。 2)燃料電池材料センター:200~500℃で高伝 導度を示す固体電解質、安価で高耐食性の セパレータ材料、および安価で高効率な水 素製造用燃料改質触媒・水素分離用材料等 の開発に取り組んだ。 3)超伝導材料センター:新超伝導材料の探索、 高温酸化物や先進金属系による高性能線材 開発、高品質超伝導体単結晶合成と特性評 価、SQUID素子開発とその応用、強磁場超 伝導磁石の開発・応用などを推進した。 4)光触媒材料センター:可視光下で効率的に 利用できる光触媒技術の確立を目指した。 5)新構造材料センター:鉄鋼、Mg合金、Al 合金、Ti合金などの金属を対象に、これら の継ぎ手、耐食材料、耐熱材料、高比強度 材料などの高性能化を目指した。 6)次世代太陽電池センター:高エネルギー変 換効率と低コストのために、光電変換機能 解明、新規な電池構造創製、新たな電池材 料創製などを目指した。 2-2 4プロジェクト 1)LED蛍光体プロジェクト:青色光励起下で の高効率発光、高出力に対する耐久性、色 彩再現性を目標に、中間色発行特性に優れ た高機能蛍光体材料を目指した。 2)全固体リチウム二次電池プロジェクト:高 出力化、高エネルギー密度化の実現を、イ オン伝導と電気化学の基礎から追求した。 3)白金族金属材料プロジェクト:従来よりも 少ない使用量でこれまで以上の特性を発現 する白金族合金の開発を目指した。 4)発電用熱電材料プロジェクト:熱電特性に 及ぼす複合構造の効果を明らかにし、構造 制御指針を検討した。 2-3 2クラスター 共同して対応すべき重要課題へ柔軟に取り組 むために、2009年度より、研究組織所属を超え たクラスター活動を30名程度の規模で進めた。 1)環境浄化材料クラスター:自然エネルギー を利用した環境浄化を目指し、無機材料に とどまらず有機材料を含めた新しい研究軸 を検討した。 2)構造材料国際クラスター:化石、原子力エ ネルギー材料、構造材料などを、安全、安 心との結合、元素戦略に基づく展開などで、 国際的に中核機能を形成することを検討し た。 3.領域の成果 3-1研究成果 別項で詳細な研究成果報告があるので、ここ では代表的な成果を紹介する。 1)地上ジェットエンジン試験に成功:Ni基単 結晶超合金タービン翼 NIMSは世界最高性能を示す超耐熱Ni基超 合金をいくつも開発してきたが、そのひとつを 大型ジェットエンジンタービン翼に組み込むこ とに挑戦した。種々の材料評価試験に合格、タ ービン翼鋳造に成功し、ボーイング次世代型旅 客機B787のエンジンに搭載されて、2011年以 降商用飛行に運用されるものと期待されている。 基礎研究を土台に、民間企業との密接な連携で 最終製品化にまでたどり着いた成果と言える。 2)超高強度で壊れにくい1800メガパスカル級 ボルトの開発に成功 まず鉄のナノ構造を制御し、高強度で破壊に 強い素材開発というブレークスルーを実現した。 さらに、加工技術に優れた個性ある企業と連携 し、その素材をさらに改善しつつボルト成形に 成功した。従来法高強度ボルトは脆いのに、開 発ボルトは壊れ方がねばく、高い安全性を示し ている。我が国が資源有効利用度世界一を誇れ る基礎研究成果である。 3)人工光合成の夢を開く可視光応答型光触媒 の開発に成功 リン酸銀の水分解による酸素発生試験では、 可視光下での量子収率はおよそ90%と驚異的 な値を示す。端緒的だが夢を拡大する貴重な基 礎研究成果である。今後、メカニズム解明など を通じて、可能性を拡大する。 3-2関連活動 NIMSが取り組むべき「環境・エネルギー・ 資源」に関わる研究課題を検討するために、国 内外の有識者と連携し、様々な活動を展開した。 1)動向調査および課題検討のための開かれた 活動 ―「これからの環境エネルギー材料に関わる懇 談会(2008年1月16日)」:環境・エネルギー に関わる研究機関関係者と交流し、材料に対す るニーズをまとめた。 ―「環境エネルギー材料連続セミナー(2008年 1月より20回開催)」:月例会として関連話題を 絞って、NIMS内外の専門家による討議、意見 交換を展開した。 2)情報発信活動 ―「環境エネルギー材料研究展(2008年5月 29,30日、東京ビッグサイト):NIMS内外の 80名の研究者が一堂に会し、それぞれが成果を 展示することで、材料技術の環境への貢献をア ピールした。 ―「環境・エネルギー材料アウトルック―環境・ エネルギーにむけた材料科学の構築(2008年9 月発行)」:9章91頁のNIMS研究者執筆によ るレビュー集をまとめ、NIMS内外の議論の発 展に貢献した。 ―「環境・エネルギー材料ハンドブック(2011 年2月)」:オーム社から商業出版(著作権は NIMS)。A5判、859頁。ほぼNIMS職員によ る執筆で、広範な層の理解増進を狙う。 このような活動を通じて得られた情報は、新 しい研究センターや研究プロジェクトの立ち上 げの判断材料としても活用した。 4.おわりに 2009年には、文部科学省「ナノテクノロジー を活用した環境技術開発プログラム」に応募し 採択された課題を実施するために、「ナノ材料科 学環境拠点」が発足した。 さらに、政策的には2009年6月に、つくば イノベーションアリーナ(TIA)の構築が、産 業技術総合研究所(AIST)、NIMS、筑波大学、 日本経済団体連合会の四者によって合意され、 2010年6月に閣議決定された新成長戦略にお いて国家戦略プロジェクトの中に位置づけられ た。「ナノ材料科学環境拠点」は、その産学官共 同研究拠点としての重要性を認められ、2010 年10月にTIA拠点活用プロジェクト(ナノグ リーン領域の中核的プロジェクト)として登録 された。 このように、環境・エネルギー材料について は益々その重要性が叫ばれ、しかも、基礎研究 に裏付けされた新シーズの迅速な創出が期待さ れている。それらの展開の基盤の多くは、この 期の研究活動で形成されたものと言える。 超耐熱材料センターの5年 発電ガスタービン及びジェットエンジン用超耐熱材料の開発 ―省エネルギーによるCO2排出削減への貢献をめざして― センター長原田広史 1.超耐熱材料センターの研究目的と概要 地球温暖化抑制の観点から我が国が中期目標として掲 げた“2020年において1990年比25%のCO2削減”を達 成するため、天然ガス複合発電やジェットエンジンなどに 用いるガスタービン機関の熱効率向上に大きな期待が寄 せられている。加えて、2011年3月11日の東日本大震災 に伴って生じた福島第一原発事故が引き起こした電力危 機に短・中期的に対応すべく、大容量で環境負荷の比較的 小さい発電所用天然ガス複合発電や、地域や重要施設のエ ネルギーを安定供給できるガスタービンコジェネレーシ ョンへの期待が高まっている。 これらに用いるガスタービン機関の熱効率向上には、カ ルノ ーサイクルの頂点に位置するタービン入口ガス温度 の上昇が有効であり、その実現に必要な超耐熱材料、なか でも最も現実的に効果を期待できる次世代Ni基超合金の 研究開発に大きな期待が寄せられている。 超耐熱材料センターでは、第二期中期計画において、発 電効率向上等によるCO2削減への貢献を目的に、新世紀 耐熱材料プロジェクト (第二期:2006-2010年度)1)を行 ってきた。その成果を、海外の最新技術とも比較しながら 紹介する。他省庁や民間企業との協力によるこれらの材料 の実用化研究の進展や、2006年6月にNIMSに設立され たロールス・ロイス航空宇宙材料センターの研究成果につ いても可能な範囲で紹介したい。 2.超耐熱材料への期待 2-1天然ガス複合発電への適用 国内の総排出CO2ガスの約30%は火力発電所から排出 されている。図1に示すように火力発電には燃料によって 石炭火力、石油火力、天然ガス複合発電火力の3種類があ り、単位電力あたりのCO2発生量は順に100:76:53程度の 大きな差がある。従って、石炭火力を天然ガス複合発電火 力にて代替すれば、効果的にCO2の削減が可能である。 再生可能エネルギーが電力の主要構成要素となるには長 期の取り組みが必要とみられることから、今後10年間に CO2排出増加に歯止めをかけ減少に転ずるには、石炭火力 から天然ガス複合発電火力への転換が現実的で最も効果 的な方法のひとつと考えられている。 現在天然ガス複合発電火力に用いられているガスター ビンの燃焼温度は、普及型で1100~1300℃ (熱効率は43 ~49%、HHV基準)、最新型で1500℃ (熱効率約52%) である。図2に示すように、1500℃級の空冷タービン動翼 基材であるNi基超合金の耐用温度980~1025℃ (137MPa の応力にて1000hでクリープ破断する温度)を1100℃ま 図1発電方式別単位電力あたりのCO2発生量 図2タービン動翼材の耐用温度向上により期待される発電 の熱効率向上 図3 ロールス・ロイス社の航空機エンジンの燃料消費効 率改善の経緯 で向上させ、適合する遮熱コーティング(TBC: Thermal Barrier Coating)や冷却構造などをあわせ用いれば、燃焼 ガス温度を1700℃まで向上させて熱効率を56%以上に向 上させることが可能と考えられる。125-135万KWの石炭 火力発電をこのような超高効率の天然ガス複合発電火力 で代替すれば、1ヶ所で国内総排出の約0.4%、10~20ヶ 所で4~8%のCO2削減が見込める。さらに、石炭火力の 発電効率の低い海外で普及できれば 大きな排出権取引も 可能となると期待される。 2-2ジェットエンジンへの適用 将来の航空機需要の伸びも考慮して、総排出量の1~2% 前後とされる航空機エンジンからのCO2排出についても、 その削減のためいっそうの燃料消費効率(SFC: Specific Fuel Consumption)向上が必要になっている。航空機用 エンジンの離陸時のタービン入口ガス温度は1500℃を超 えているが、新機種に搭載される次世代エンジンでは、燃 料消費効率向上のためさらなる高温化が必要となってお り、高温タービン部材の耐用温度向上が求められている。 因みに、2011年には250人乗り中型高効率機ボーイング 787 (B787)、2013年以降には中型高効率機エアバス 350XWB (A350XWB)が順次就航予定であり、これら新 機種開発にあわせて、米国GE、英国RR (ロールス・ロ イス)にて高効率ジェットエンジンの開発が行われている。 図3はRR社のエンジンのSFC改善の経緯を示したもの である。 エンジンの燃料消費効率向上は経済的にも重要である。 例えば国内エアラインの年間の燃料費は一社で数千億円 に達し、1%ポイントの効率向上でも百億円以上の節約に なる。ジェットエンジン技術は、戦後日本が世界に遅れを とり、その影響が未だ色濃く残っている分野である。航空 図4 Ni基超合金の典型的なミクロ組織 図5 Ni基単結晶合金の耐用温度向上の歴史1) 機産業の復権という観点からも、世界をリードする超耐熱 材料の開発に期待が寄せられている。 このように海外国内で高性能タービン開発が活発化し ており、それらを可能にするための最も重要なキーテクノ ロジーの一つとしてタービン翼をはじめとする高温ター ビン部材への期待が高まると同時に、材料への要求もます ます過酷になっているのが現状である。なお、Ni基超合金 タービン翼は前述のように、通常、遮熱コーティングを施 し、内部から空冷あるいは蒸気冷却することによってメタ ル温度を調節し、融点以上の高温のガス流中で使用可能に なっている。しかし冷却はそれ自体熱効率の低下要因とな るので、基材である超合金の耐用温度をできる限り高くし、 冷却量を最小にすることが常に求められる。 3.研究成果 3-1タービン翼用Ni基超合金の開発 Ni基超合金は母相であるγ相(Ni固溶体)中に 60-70vol%のγ'相(Ni3Alを基本組成とするL12規則相) 表1代表的なタービン翼用単結晶超合金の合金組成(wt%,bal.Ni)1) Alloy Alloy Composition Genera Organisation Co Cr Mo W Al Ti Nb Ta Hf Re C B Zr Others tion PWA1480 5 10 - 4 5 1.5 -12 ------ 1st Pratt&Whitney Rene'N4 8 9 2 6 3.7 4.2 0.5 4-- - -- - 1st GE CMSX-2 4.6 8 0.6 8 5.6 1 - 6-- - -- - 1st Cannon Muskegon TMS-6 - 9.2 - 8.7 5.3 - - 10.4 - - - - - 1st NIMS PWA1484 10 5 2 6 5.6 - - 9 - 3 - - - - 2nd Pratt&Whitney Rene'N5 8 7 2 5 6.2 - - 7 0.23- - - - 2nd GE CMSX-4 9 6.5 0.6 6 5.6 1 - 6.5 0.1 3 - -- - 2nd Cannon Muskegon TMS-82+ 7.8 4.9 1.9 8.7 5.3 0.5 - 6 0.1 2.4 - -- - 2nd NIMS YH 61 1 7.1 0.8 8.8 5.1 - 0.8 8.9 0.25 1.4 0.07 0.02 - - 2nd Hitachi Rene'N6 12.5 4.2 1.4 6 5.75 - - 7.2 0.15 5.4 0.05 0.004 - 0.01Y 3rd GE CMSX-10 3 2 0.4 5 5.7 0.2 0.1 8 0.03 6 - -- - 3rd Cannon Muskegon TMS-75 12 3266--6 0.15--- - 3rd NIMS MX-4/PW 16.5 2 2.8 5.9 5.9 - - 8.25 0.15 5.95 0.03 0.004 - 3Ru 4th GE/P&W/NASA A1497 MC-NG <0.2 4 1 5 6 0.5 - 5 0.1 4 - - - 4Ru 4th ONERA TMS-138 5.8 3.2 2.8 5.9 5.9 - - 5.6 0.1 5.0 - - - 2Ru 4th NIMS TMS-162 5.8 2.9 3.9 5.8 5.8 - - 5.6 0.09 4.9 - - - 6Ru 5th NIMS TMS-196 5.6 4.6 2.4 5.0 5.6 - - 5.6 0.1 6.4 - - - 5Ru 5th NIMS が整合析出したミクロ組織を有し、整合界面が転位の移動 鋳造合金、一方向凝固合金、単結晶合金へと進化してきた。 単結晶合金も、初期の第1世代合金から、レニウム(Re) を3wt%程度含む第2世代合金、Reを5-6wt%含む第3世 代合金、ルテニウム(Ru)など貴金属を2-3wt%含む第4 世代合金、貴金属を5-6wt%程度含む第5世代単結晶合金 へと開発が進み、その間約100℃の耐用温度向上が得られ ている。代表的なタービン翼用Ni基単結晶超合金の組成 を表1に示す。また図5には鍛造合金以来半世紀以上にわ たる耐用温度向上の経緯を示す1)。図中「目標」は新世紀 耐熱材料プロジェクトにおける開発目標である。 最新の第4世代以降の単結晶超合金の開発は、米国GE 社2)、 フランスONERA3)や、国内では著者らの新世紀耐 熱材料プロジェクト1,4)で進められてきた。貴金属元素の添 加により、第3世代単結晶合金で問題点となっている組織 安定性を向上させ、それによる高温長時間側でのクリープ 強度向上を図っているのが第4世代合金の一般的な特徴で ある。新世紀耐熱材料プロジェクトでは、Ru添加による 組織安定化とあわせて添加元素によるγ/γ'格子定数ミス フィットの調節を行って、整合界面のミスフィット転位網 を微細化するという方法で、耐用温度1080℃の第4世代 合金TMS-1384)を開発したが、これを発展させて耐用温度 1100℃の世界初の第5世代合金TMS-162、TMS-1965-7)、 さらには耐用温度1120℃を達成し、いっそうの向上を目 指して研究が進められている。 図6はクリープ試験中に生じたTMS-138のミクロ組織 を示したものである。立方体状であったγ'析出物が応力 軸に垂直な方向に連結して板状組織(いわゆるラフト組 図6高温クリープ中にNi基超合金のγ/γ'整合界 面に形成されたミスフィット転位網4,5) 図7各世代の単結晶超合金の耐用温度比較1) 織)を形成し、γ/γ' 界面には微細な転位網が形成されて いる。転位の移動は材料の変形の素過程である。その転位 が、界面にネットワークを形成することにより相互に拘束 し、さらに新たに生成した可動転位が界面を横断すること も妨げる効果によって優れたクリープ強度が得られる。界 面転位間隔が小さくなるにつれてその効果は増し、クリー プ強度が飛躍的に高く なる。 このメカニズムを利用して開 発されたのがNIMSの上記第4/5世代単結晶超合金である。 代表的な単結晶超合金の耐用温度を世代別に比較したの が図7であり、第4/5世代合金の優位は明らかである。 MX-4またはPWA1497と呼ばれる合金は、GE、P&Wな どが共同開発した第4世代合金であるが、界面転位間隔が 大きいため1000℃以上の高温のクリープ強度は第3世代 合金と同等レベルまで低下する。 第4世代合金TMS-138については、国内のジェットエ ンジンメーカーとの協力で、経済産業省の超音速エンジン プロジェクトの高温高圧タービン翼材としての実機試験 が短時間ではあるが成功裏におこなわれ、その成果を生か して小型エコエンジンへの実用化が検討されている。また 第5世代合金の国内、海外のジェットエンジンメーカー等 での実用化も今後期待されるところである。 第4、第5世代合金は、クリープ強度だけでなく、空冷 翼の使用環境を模擬したOut-of-Phaseの熱疲労強度にも 優れることが新世紀耐熱材料プロジェクトにおいて示さ れた7)。またTMS-196は、第4、第5世代合金の問題点 であった耐酸化性の点でも、第2世代と同等程度の良好な 特性を有することが明らかとなり、バランスのよい第5世 代合金として実用化が期待されている6、7)。 3-2コーティング材の開発 高圧タービンブレードに遮熱コーティングを施して空 冷(あるいは蒸気冷却)して用いる際、基材Ni基超合金 とボンドコート材(金属)、トップコート材(セラミック) の相互の適合性が重要である。特に近年の高温化のため、 基材とボンドコート材の相互拡散による組織劣化、強度劣 化が重要な問題となっている。その解決のためEQ (Equilibrium)コーティングという新しい概念のボンド コート材が川岸らにより開発された8,9)。これはγ'相など をベースに、耐酸化性に優れかつ基材と熱力学平衡するよ うに設計した金属をコーティング材として用いるもので、 図10に示すように高温で長時間加熱しても相互拡散をほ とんど生じないため、ミクロ組織が安定に保たれ、強度劣 化を生じないのが特徴である。今後燃焼ガス温度向上を背 景に遮熱コーティング等に広い実用化が期待されている。 図10高温でも基材の組織劣化を生じないEQコーティング(熱力学 平衡コーティング)8,9) 3-3タービンディスク材の開発 ジェットエンジンや発電ガスタービンの熱効率向上のた めには、タービン翼だけでなくタービン翼を装着するター ビンディスクの耐用温度向上が必須である。タービンディ スクは、優れたクリープ強度、疲労強度、破壊靭性などが 要求される重要部材であり、鍛造製品が用いられる。 図11にタービンディスク材の耐用温度向上の歴史を示す。 合金元素添加による固溶強化やγ’体積率の増大によって 耐熱性向上が図られてきた 10)。 従来、鍛造-鋳造プロセス (C&W)ではU720Li合金が限界とされており、それ以上 の高強度のものは粉末冶金(P/M)プロセスが必要とされ て来たが、異物混入などに対する高度の品質管理が要求さ れ、高コストになるという問題があった。そこで、U720Li の耐用温度を50℃上回るNi-Co基鍛造超合金(TMW合金) の開発を行なった。 TMW合金は、Ni基超合金とCo基合金を融合するとい う革新的な概念(図12)により、高強度と優れた鍛造性を 両立すべく設計された合金で、小規模(~100kg)の鋳造― 鍛造プロセスでの比較において、U720Liの耐用温度を50℃ 図11タービンディスク合金の耐用温度向上の歴史(TMWは NIMS開発の鋳造-鍛造合金)10) 図12 Ni-Co鍛造超合金(TMW合金)の設計コンセ プト10,12) 上回り、P/M材に匹敵する耐熱性を示した11)。合金組成を 表2に示す。これらの合金の実用化には、商用の大型プロ セスによる試作と特性の実証が不可欠である。そこで、 NEDOエネルギー使用合理化プロジェクトとして三菱マテ リアル(桶川)と協力して大型製造技術開発を行った。ト ン級の大型溶解に始まるトリプルメルト (真空誘導溶解→ エレクトロスラグ再溶解→真空アーク再溶解)を行った後、 TMW合金に適した鍛造過程を経て、成分の偏析や製造プ ロセス中の割れなどの問題を生じず、結晶粒径10μmの均 質な微細組織を有する実用スケール(直径440 mm)の摸 擬タービンディスクの試作に成功した(図13)。 この模擬ディスク材の高温特性をクリープ試験により評 価したところ、0.2%クリープ耐用温度にて既存のU720Li 合金より58-76℃高く(図14)、最新のP/M材と同等以上 の耐用温度を有する可能性が示された。また、疲労特性、 クラック進展速度などの特性の点でもU720Li合金と同等 以上の優れた特性を有することが確認された10,12,13)。 開発合金の実用化には、特性データベースをさらに充実 させる必要があり、そのためにエンジンメーカーなど国内 はもちろん海外の民間企業等との連携も深めつつ研究を進 めていく計画である。航空エンジンや発電ガスタービンの 高温タービンディスクに国産の材料が使われれば、我が国 初めてのこととなり、熱効率向上によるCO2削減の効果も 図13開発Ni-Co基超合金(TMW合金)を用いた実用スケール 440mm径のパンケーキの製造(三菱マテリアル)10) 図14開発合金(TMW)と既存合金(U720Li)の0.2%クリープ 耐用温度の比較10,12) 表2既存合金U720Li及び開発合金(TMW)の公称組成(wt%残Ni)とγ'量11,12) Alloy Cr Co Mo W Ti Al C B Zr γ'vf U 720Li 16.0 15.0 3.0 1.25 5.0 2.5 0.025 0.018 0.03 45 TMW-2 14.4 21.8 2.7 1.10 6.2 2.25 0.023 0.015 0.033 48.7 TMW-24 13.8 25.0 2.6 1.1 5.6 2.2 0.015 0.015 0.03 45 TMW-3 16.5 23.3 3.1 1.2 5.1 1.9 0.026 0.018 0.022 40 TMW-4 14.9 26.2 2.8 1.1 6.1 1.9 0.014 0.017 0.019 45 TMW-4M3 13.5 25.0 2.8 1.2 6.2 2.3 0.015 0.015 0.03 49.5 γ 'vf:Volume fraction of γ' at 760℃ 図15高温部材の広範な適用の可能性(発電用途) 図16高性能Ni基単結晶合金の天然ガス複合発電用大型ガス タービン翼への実用化研究 併せて、極めて意義のある技術的成果となるものと期待さ れている。 タービンディスクのような鍛造超合金をコストパフォー マンス良く 製造するためには、 大型の型鍛造プレスが不可 欠である。国内においても2012年度、5万トン級の大型鍛 造プレスが設置されることとなり、本開発合金の実用化に より、これまで困難であった国産ジェットエンジン開発や、 1700℃級ガスタービンのいっそうの高効率化など、国際競 争力強化に役立つものと期待されている。 図15はNi基超合金など高温部材の適用の可能性を示す ものである。ガスタービン設計者との協力により、耐用温 度の高い開発材料を広範に適用していくことにより、いっ そうのCO2削減効果が期待される。 3-4材料設計解析 以上のような材料開発にあたって基礎となる材料設計法 の開発、組織・構造解析についても積極的に研究を行った。 誌面の都合で詳細を省略するが、超合金の設計に関しては、 多元系のNi基超合金について任意の温度、応力における、 組織、特性予測を行う合金設計プログラム14)の精度向上を 図り、これを用いて効果的に新合金開発を行った。 組織予測などシミュレーションの観点からは、世界では じめて多元系Ni基超合金を取り扱うPhase-Field法による シミュレーションを可能にするなど15)世界をリードする一 連の研究成果を発表した。さらに、実機で使用された超合 金部材についてアトムプローブにより解析して微量元素の 粒界偏析挙動を解明した16)。 新たに、ジェットエンジンのシステムシミュレーション ソフトと材料設計ソフトを融合させた“バーチャルジェッ トエンジン”の原型ソフトを開発した 17)。 新材料を実用化 するにあたり、その熱効率向上効果や材料の信頼性を事前 に評価することで、実用化を促進することが期待されてい る。 4.企業との連携による実用化研究 4-1発電用1700℃大型ガスタービン 天然ガス複合発電は現行の火力発電として最も効率が高 く CO2排出量の少ない方式である。現行のタービン入口ガ ス温度は最高1500℃で熱効率は52% (HHV基準)である が、これを1700℃にすると熱効率は56-60%に向上し、熱 効率56%の発電所で従来の石炭火力発電所10―20基を代 替することによって国内総排出CO2の約4―8%が削減可 能と試算されている。1700℃大型ガスタービンの実現させ るための要素研究が2004年以降、文部科学省/NIMSと資 源エネルギー庁/三菱重工業等の連携のもとで行われている が、実現へのキーとなるのがタービン動翼などの高温化技 術である。当センターは第二期中期計画において、三菱重 工と共同で、現行の合金に比べ低コストでクリープ強度と 熱疲労強度の優れた単結晶合金を開発し、実機動翼を試作 した(図16)。2015年以降の実用化を目標に、NEDO省エ ネプロジェクト(2010―12年度)として引続き研究開発を 進めている。 4-2コジェネ用中小型発電ガスタービン ガスタービン発電装置の排出ガスに含まれる熱を排熱回 収ボイラで回収して蒸気を発生させ、電力と熱(蒸気や熱 水)を併給するコージェネレーション(熱電併給)システ ムは工場や事務所ビル、ホテル、病院、地域冷暖房などで 導入が進んでおり、大震災を機に非常用電源として注目を 集めている。そこに用いる中小型ガスタービンにおいても、 発電効率を向上して電力比率を向上させるためにタービン 翼の耐熱性向上が重要な課題となっている。当センターと 川崎重工は、共同で開発した合金で小型タービン動翼を鋳 造してエンジンに組み込み、実機運転試験に成功した(図 17)。 図17高性能Ni基単結晶合金のコジェネレーション用 中型ガスタービン翼への実用化研究 4-3航空機用大型エンジン 民間航空機エンジン開発の重要な課題は燃料消費率 (SFC)の改善である。エアラインでの燃料費は、全ての 費用の約10%の割合を占め、運行費用の中では約30%の割 合を占める。したがって、SFC改善は、CO2削減・地球温 暖化防止のために重要であると共に、特に運航費用低減の 観点から非常に重要な課題である。NIMSは研究拠点とし てロールス・ロイス航空宇宙材料センターを機構内に設立 するとともに、同社と共同して、大型民間航空機用ジェッ トエンジンの最高温部(タービン翼)で使う耐熱性に優れ たNi基単結晶超合金の開発を行った(図18)。現在、ボー イング787用エンジンでの2011年以降の実用化に向けて順 調に研究が進められている。RR社の試算では、エンジンで 最も高温にさらされるタービン翼の耐用温度を40℃上げる ごとに燃料消費効率は1%程度向上し、これは太平洋を越え る国際線で1機当たり年間100万ドルの運用コスト削減効 図18高性能Ni基単結晶合金の民間航空機用中・大型ジェット エンジン翼への実用化研究 果がある。従来、海外の開発材料が使用されてきた高温タ ービンブレードに国産技術を用いた材料が使用されれば我 が国航空エンジン業界にとって初めてのこととなる。 4-4ビジネスジェット用小型エンジン 今後の需要増大が期待されるビジネスジェットなどの小 型機の特性向上には、燃料消費効率改善と共に、“シンプル 構造”による軽量化が重要となる。これを実現するために は、タービン回り の冷却構造の簡素 化が不可欠であり、 その材料の耐用温 度向上が要求され ている。NIMSは (株)本田技術研究所 と共同で小型ジェ ットエンジン用耐 熱合金の開発を進 めている(図19)。 図19 Honda HF118ターボファンエ ンジン 4-5事故調査 航空機エンジンの事故などに対して中立の立場で事故原 因を究明し、同種事故の発生を防止にするため国土交通省 の調査機関の事故調査に協力した。また、材料開発の立場 から国内エアラインで実機使用され廃棄になったタービン ブレードなどの高温高圧部材を調査して材料の劣化や損傷 のメカニズムを調べ、より信頼性のある合金開発に役立て た。 5.今後の研究動向 2020年までに1990年比で25%のCO2を削減するとい う我が国の中期目標を達成するために、ジェットエンジン や発電ガスタービン機関のいっそうの高効率化が求めら れている。加えて、福島第一原発事故が引き起こした電力 危機に対応すべく、大容量で環境負荷の比較的小さい発電 所用天然ガス複合発電や、地域や施設のエネルギーを供給 するガスタービンコジェネレーションのいっそうの高効 率化と早期導入への期待が高まっている。 これらに応えるべく、タービン入口ガス温度の上昇に必 要な超耐熱材料、なかでも高温タービン部材の耐用温度向 上のための研究を加速する必要がある。さらに、将来的に は、現在用いられている空冷ガスタービンに代えて、無冷 却の超高温タービンにて効率の大幅向上をめざす必要が あり、Ni基超合金以外の超耐熱材料の探索・設計研究が必 要である。 今後、新開発超合金部材が有効に利用されて、ジェット エンジンやガスタービンの高効率化による地球環境保全 はもとより、大震災からの復興、国際競争力向上に大いに 寄与することを期待するものである。 参考文献 1)原田広史、川岸京子、谷月峰、横川忠晴、藤岡順三:日 本ガスタービン学会誌、38、No.2(2010)71. 2)K. S. O'hara, W. S. Walston, E. W. Ross and R. Darolia: U. S. Patent 5,482, 789A (1996). 3)P. Caron: Superalloys 2000, Edited by T.M.Pollock, et. al.TMS (The Minerals, Metals & Materials Society), p.737. 4)J. X. Zhang, T. Murakumo, Y Koizumi, T. Kobayashi, H. Harada, S. Masaki, JR: Mat. and Mat. Trans. A, 33A(2002)3741. 5)J. X. Zhang, J. C. Wang, H. Harada, Y Koizumi: Acta Mater, 53(2005)4623. 6)佐藤彰洋、原田広史、小林敏治、張建新、村雲岳郎、横 川忠晴:日本金属学会誌、70(2006)196. 7)A. Sato, H. Harada, A-C. Yeh, K. Kawagishi, T. Kobayashi, Y Koizumi, T.Yokokawa, J. X. Zhang: Superalloys 2008, p.131. 8)川岸京子、佐藤彰洋、松本一秀、小林敏治、原田広史、 青木祥宏、荒井幹也:日本金属学会誌、71(2007)226. 9)K. Kawagishi, A. Sato, H. Harada, JOM July(2008) 31. 10)藤岡順三、谷月峰、崔傳勇、横忠晴、小林敏治、原 田広史、福田正、三橋 章:日本ガスタービン学会誌、 38(2010)71. 11)Y. Gu, H. Harada, C. Cui, D. Ping, A. Sato, and J. Fujioka, Scripta Mater. 55(2006)815. 12)YF. Gu, T. Fukuda, C. Cui, H. Harada, A. Mitsuhashi, T. Yokokawa, J. Fujioka, Y Koizumi, T. Kobayashi: Met. Mat. Trans. A, 40A(2009)3047. 13)横川忠晴、谷月峰、崔傳勇、小泉裕、藤岡順三、原田 広史、福田正、三橋 章:日本金属学会誌、74(2010)221. 14)T. Yokokawa, M. Osawa, K. Nishida, et. al: Scripta Mater, 49(2003)1041. 15)T. Kitashima, H. Harada: Acta. Mater, 57(2009) 2020. 17)DH. Ping, YF. Gu, CY. Cui, et. al: Mat. Sci. Eng. A, 456(2007)99. 16)北嶋具教、横川忠晴、福田雅文、原田広史:産業界にお けるコンピュータシミュレーション(2010)9. 燃料電池材料センターの5年 ―使いやすい温度で長時間安定に作動する燃料電池を実現する材料の開発― センター長西村睦 1.センターの目的 燃料電池の材料研究においては、既存の電解 質と電極をベースにして耐久性改善、高エネル ギー密度化および低コスト化を図るという取り 組みが主流であったが、我々は問題の起こりに くい温度域(中低温)で安定して作動する燃料 電池を実現するための新材料開発を目指した。 材料の基礎に立ち返ってナノ領域の微細構造・ 界面構造を再検討することで、イオン伝導や触 媒機能に与える影響などを精査するという基本 姿勢の下、燃料電池を構成する主要部材および 水素を製造するための材料の研究開発を行った。 2 .活動概要 固体電解質・電極、セパレータ、水素を製造 するための燃料改質触媒および水素を高純度化 するための分離膜材料の4つをターゲットとし て設定し、それぞれを担当するナノイオニクス 材料、スタック材料、金属間化合物触媒および 水素精製材料の4グループを設置した。定年制 職員12人とポスドクなど総勢約50名でプロジ ェクトを開始した。 「中低温」と「基礎に立ち返ったナノ領域の 検討」に加えて「元素戦略」の考え方も基本姿 勢とした。これは、一般的な燃料電池や水素製 造用材料には、白金(Pt)やルテニウム(Ru)、 さらにはパラジウム(Pd)などの貴金属・希少 元素が多く使用されているが、これらがコスト 高の原因となり普及の大きな阻害要因になって いるためである。我々は、Ruを用いずにPt量 も大幅に低減した電極触媒、Niに代わって窒素 (N)を利用した高耐食性セパレータ、貴金属 を用いない改質触媒、Pd水素分離膜に代わるV 合金水素分離膜などを研究開発対象として、そ れぞれ実用化に向けて大きな成果を得た。 文末に挙げた研究論文および通常の国内・国 際会議における成果発表に加え、日本MRS学 術シンポジウムにおいて当センターが中心とな ってセッションを企画して討論の場を設けた他、 東京ビッグサイトで春に開催されるFC EXPO にも毎回参加して講演と展示を行った。 3.研究成果 3-1固体電解質・電極材料 中低温(150-500℃)動作を可能にする燃料電 池用材料(固体電解質・電極)の研究を推進す るべく、固体電解質研究においては、300℃以上 500℃以下の領域用に、酸化物材料を用いて、 150℃以上300℃以下の領域用には、ハイブリッ ド材料を用いて、その可能性を検討し、それら 固体電解質に適用可能な、新規高性能電極材料 (アノード・カソード)の開発研究を実施した。 酸化物材料の研究では、ドープドセリア固体 電解質の微細構造設計1-5)と、この材料との間に 機能性界面を創る可能性のある金属・セリア電 極例えば6)に関する研究を実施中である。 本グループでは、ドープドセリア焼結体中に、 マイクロドメイン構造(数nmから数十nmの 大きさ)が存在し、酸化物イオン伝導度と燃料 電池出力特性に影響を与える1,2)ことを見出し、 さらに、このマイクロドメイン構造を、TEM- EELSを用いて詳細に解析した(図1)4)。 図1の結果は、イオン伝導度が低い試料(図 中のx=0.25)中に現れるマイクロドメイン内で は、酸素欠陥の秩序化が増大していることを示 している。 ドープドセリアは、他の酸化物固体電解質同 様、既報の酸化物イオン伝導の活性化エネルギ ーに、多くの異なる値が存在する。その理由は、 図1Yドープセリア固体電解質から観察された固体 電解質特性、マイクロドメイン構造及びTEM-EELS分 析データ 固溶体粉末合成径路の違いにより、ドーパント のナノレベルにおける不均一性に差が生じ、そ れが、焼結体中に現れるマイクロドメインの大 きさや分布を大きく変えるためと考察した。 よって、酸化物固体電解質の持てる能力を最 大化し、長期安定性を確保する為には、電解質 内や電極・電解質界面中の不均一構造の詳細な 解析とシミュレーションを組み合わせ、妥当な 欠陥構造を明らかにし、ナノ不均一構造がイオ ンの拡散現象に与える影響を評価したうえで、 要求される特性を長期にわたり、発現させうる、 微細構造を作成する必要がある。 欠陥構造シミュレーションの結果、マイクロ ドメイン内では、酸素欠陥の短距離秩序化が進 行していること5)、粒界、電極・電解質界面で は、バルクとは異なる欠陥構造が安定になるこ となどが明らかになりつつある。 以上のデータをもとに、均一な組織を作成し た例を図2に示す3)。 常圧焼結法に比べ、パルス通電焼結法を用い て作成した均一な組織を有する試料では、大き な導電率の向上(図2A)とカソード雰囲気か らアノード雰囲気まで一定の導電率(図2B) が観察され、組織制御による酸化物イオン伝導 の向上が確認された。 ドープドセリアを燃料電池として活用する には、電極/電解質界面、電極内界面の大きな抵 図2粒径と導電率の関係(A)と導電率の酸素分圧依 存性(B) 図3 Pt-CeOx/Cカソードの電気化学的分極曲線 抗を低下させる必要がある。そこで、Pt-O-Ce 結合を持つPt-CeOx電極を作製し、まずは、高 分子形燃料電池用カソードとして利用した。そ の結果、市販の電極を用いた場合より高い性能 を示した(図3)。また、アノードに用いた場合 は、CO被毒耐性の改善効果が確認された。現 在、ドープドセリア燃料電池内の界面における 抵抗層の構造解析と、金属/セリア電極の固体酸 化物形燃料電池用電極への応用を検討中である。 より詳しくは、ウエブサイトで閲覧可能な燃 料電池材料グループホームページ中の文献も併 せて参照されたい7)。 ハイブリッド材料の研究では、有機-無機複合 材料8)、固体酸-イオン性液体系材料9)、 及びナ フィオン-イミダゾール系材料10-12)の可能性を 検討した。本節では、その中で、ナフィオン- イミダゾール系に関し得られた成果を中心に、 その重要なポイントを紹介する。 高温・無加湿用電解質膜として、既存の高分 子電解質ナフィオンのナノポアに、塩基性モノ マー(イミダゾール)を導入し、この塩基性モ ノマーに、ナフィオン中の水分子の役割を担わ せることを目的に、ナフィオン-イミダゾール系 材料の開発を行った。 新規高分子系固体電解質は、自立膜として、 薄く(50μm以下)かつ柔軟性に富む材料でな ければならない。そのうえで、100℃以下の温 度と同様に、100℃以上においても、優れたプ ロトン伝導性を持つことが求められる。 本研究で扱った幾つかの材料の導電率の温 度依存性を、図4に示す。幾つかの優れた材料 が見出されたが、この中で、ナフィオン-1,2,4- トリアゾル10)とナフィオン-ベンズイミダゾル 11)はともに、120~130℃以上において伝導度や 電池出力の低下が認められたが、ナフィオン -1,2,3-トリアゾル12)は、130℃を超える温度で も、高いプロトン伝導度と、燃料電池用固体電 解質としての可能性があると考え研究を進めて いる。このナフィオン-1,2,3-トリアゾルには、 図5に示すように、含水状態のナフィオンに観 察されるようなナノクラスター構造が観察され ており、この材料の研究を通して、100℃以上 でも、安定なプロトン伝導度と安定な燃料電池 出力を示す材料開発を推進中である。 以上、作成した試料中のバルク、表面及び界 面構造に関するマイクロアナリシスデータを基 にした、燃料電池材料研究成果の一部を紹介し た。 図4ナフィオン-イミダゾールハイブリッド材 料の導電率の温度依存性 図5 X線小角散乱法により解析したナノ構造 3-2高窒素ステンレス鋼製セパレータ NIMSで開発されたニッケル省資源型高窒素 ステンレス鋼(HNS)は高耐食性、高強度、非 磁性の特性を有し、かつニッケル含有量の低減 化を可能にした素材である13)。本研究は、HNS の金属セパレータへの適用可能性を探るととも に、プレス加工を可能とする薄板加工技術確立 のための金属学的指針を得ることを目的とした。 3-2-1 Ni溶出イオンの抑制と発電試験 低Ni高窒素ステンレス鋼のセパレータへの 適用のポイントはNiイオンの抑制である。これ までの検討の結果、HNSのNiイオンの溶出量は、 従来材のそれの1/100以下であることが分かっ た。図6に、各種セパレータ材による1000時間 までの発電試験の結果を示した14)。図より、 HNSの発電特性は、従来材のそれと比較して優 れた発電特性を有していることがわかった。 3-2-2組織制御 ―結晶粒微細化― 素材の強度―延性バランスを向上させ、プレ ス加工性の向上を図る方法として結晶粒微細化 がある15)。結晶粒微細化には、相変態法や再結 図6各種セパレータによる発電試験結果 晶法などがあるが、これまでの検討では、冷間 圧延率80%の強加工と再結晶法を組み合わせ た加工熱処理法を試みた。その結果、結晶粒径 が5μmまで微細化するが確認できた。 3-2-3 HNSの薄板加工 組織制御による結晶粒微細化法により、HNS の薄板加工の試作を行った。図7に、板厚:0.1 ~0.08mmの、高強度、高耐食性、非磁性のオ ーステナイト系HNSの帯板材の試作例を示す。 この薄板材から図に示すようなセパレータを模 擬したプレス成型にも成功した。 図7 HNS製薄板試作材とプレス加工例 3-3水素製造用Ni3Al金属間化合物箔触媒 燃料電池の実用化には、小型、高効率、低コ ストの水素製造装置の開発が急務である。マイ クロリアクターは熱伝達、物質移動、拡散が速 いという優れた特徴があるため、上記の新しい 水素製造装置として期待できる。現在、Pt、Rh、 Ruなど貴金属触媒をステンレス鋼箔にコート した高温マイクロリアクターが開発されている が、貴金属は資源不足、高価格の問題があり、 貴金属フリーの新しい触媒の開発が必要である。 またステンレス鋼箔は耐熱性が不足し、かつ触 媒との密着性に欠ける。これらの課題を解決す るため、本研究では、触媒特性と耐熱特性の2 つの特性に優れたNi3Al金属間化合物箔を開発 し、貴金属フリーの新しい水素製造用高温マイ クロリアクターの実現を目指した。 3-3-1 Ni3Al箔及びマイクロリアクター試作技 術の開発 NIMSでは世界で初めてNi3Al金属間化合物 の冷間圧延箔の開発に成功した(図8)16)。燃料 改質用高温マイクロリアクター製作の要素技術 として、Ni3Al箔のエッチング加工と拡散接合 の研究を行い、それぞれについて最適なプロセ ス条件を見出した。 図8開発したNi3Al金属間化合物箔と試作し たハニカム構造体 3-3-2 Ni3Al箔の水素製造触媒活性の発見 Ni3Al箔はメタノール、メタンから水素を製 造する反応(メタノール分解反応:CH3OH⇔ 2H2 +CO)に対して高い触媒活性と選択性を示 すことを見出した17,18)。図9の曲線はメタノー ルの転化率の時間変化である。反応初期にメタ ノ ールの転化率が急速に増加することが注目さ れる。放射光X線光電子分光法と電子顕微鏡を 用いてこの反応初期の触媒活性発現機構を調べ た18,19)。図9の写真に示すように、反応初期、 Ni3Al中のAlが選択的に酸化され、その結果、 箔表面に活性なニッケル(Ni)微粒子が生成す ることを見出した。さらに、反応の進行に伴い、 ニッケル微粒子からカーボンナノファイバー (CNF)が成長することを明らかにした。この CNFに担持したNi微粒子の表面ナノ構造が高 い活性を示す機構を提案した。 3-3-3表面処理により箔触媒活性の向上 Ni3Al箔を化学的または電気化学的に表面処 理すると、触媒活性が更に向上する可能性があ ることを見出した20,21)。その原因は表面処理に 図9 メタノール分解反応中、Ni3Al箔表面に生 成するNi微粒子、及びそれによる触媒活性増大 よりNi3Al中のAl原子が選択的に溶出され、 箔表面にNi微粒子が高密度に分散化したポー ラス構造が生成するためである。これらの結果 から、表面処理と微細組織の制御(ここでは述 べない)の2つの手法を用いて、Ni3Al基金属 間化合物箔の触媒特性の更なる向上が期待でき る。 3-4水素分離用V合金膜 既存のPd合金水素分離膜に代わり、貴金属 量を極力減らした水素分離膜システムの実用を 目指して、独自のシーズであるV合金にPd被 覆を行った複合膜22)について実用化への技術 基盤確立を図った。V/Pd界面をAES, XPSに より分析し、界面に存在する水素透過の阻害要 因を明らかにして、それを取り除くための界面 制御技術の確立と、耐不純物被毒製被覆、耐熱 性被覆技術の開発を行った。また合金の水素吸 収特性を評価し、水素雰囲気下で引張試験を行 い、さらに割れの発生を水素雰囲気下顕微鏡で 観察することにより水素濃度と強度・割れやす さを関連づけ、使用時に割れにくい材料の開発 を行った。 3-4-1 PdCu被覆による耐H2S被毒性の改善 水素分離用V-15Ni合金表面にPdCu合金を 被覆することにより、極めて高い耐硫化水素 (H2S)被毒特性を達成した。硫化水素は、バ イオマスから水素を製造する際に不純物として 含まれるため、バイオ由来の水素を利用する際 には除去する必要があるとともに、被毒しにく い膜材料の開発または表面処理法の確立が重要 である。図10は、V-15Ni合金基板に100nm のPdCuを被覆した複合膜について、不純物と してH2Sを11ppm含む水素ガスを用いて 200℃から400℃までの温度で水素透過を行っ た結果である。通常11ppmのH2Sが存在する と金属系水素分離膜ではごく短時間で急激に水 素透過流量が減少してしまうことが報告されて いる。今回はスパッター被覆条件の最適化によ り、被覆層が緻密化され、優れた耐H2S被毒性 が達成された。 本複合膜はPdCu単体の膜よりも一桁程度水 素透過度が高いため、バイオマス由来の水素の 精製に有望である23,24)。 図1011ppmのH2Sを含む水素ガスを用いた水 素透過結果(PdCuを被覆したV-15Ni合金膜の 透過度の時間変化) 3-4-2 V合金膜による完全な水素分離の実現 開発したV-15Ni合金水素分離膜を用いて、 高い水素透過流量と完全な水素分離を達成でき ることを示した。冷間圧延で作成した厚さ 32μmのV-15Ni合金の表面に100nmのPd-Ag 合金を被覆した水素分離膜について、 H2+10%Heの混合ガスを用いて300℃で連続水 素透過を行い、透過ガスを質量分析計により分 析した(図11)。その結果、H2ガスのみが透過 実験開始直後から増加するが、ほぼ同じ分子径 を持つHeは全く透過せず、これは100時間以 後でも同様であった。製膜法で作成した膜では、 どうしても多少のピンホールが存在するため不 純物ガス成分も多少は透過してしまう。今回の 成果は、希少資源であるPdの使用量を大幅に 減らした複合膜が大処理速度の高純度水素製造 技術に有望であることを示し、固体高分子形燃 料電池用の燃料製造コスト低減に資するもので ある。 この成果を発展させ、薄板化と構造体化を行 い、透過面積約14cm2の薄板試料とフランジを 一体化した構造の水素分離モジュールを作成し た(図12)。それを用いて透過試験を行い、ガ スリークなく、高い水素透過性能を実現できる ことを明らかにした。 図11質量分析計による透過ガスの分析結果 32 ミクロンの V-15Ni, 573K, H2+10%He 図12試作した水素分離 モジュールの模式図 4.今後の研究動向 二酸化炭素排出削減の要請に加えて、東日本 大震災以降我が国が否応なく対応を迫られる、 原子力発電以外のエネルギー確保という観点か ら、クリーンな水素を用いる燃料電池の導入が 促進されると予想される。今回の震災はまた、 大規模プラントで発電し、大都市圏へ送電して 消費する現行エネルギーシステムの脆弱性をも 露わにした。今後は再生可能エネルギーを中心 とする多様な電源を、より身近に広く薄く配置 する分散型エネルギーシステム、例えばマイク ログリッドが脚光を浴びる可能性が高い。そこ では太陽電池や二次電池とともに、出力調整の 容易な燃料電池が重要な役割を果たす。 自動車用の電源としても、今は電気自動車用 二次電池の開発がブームと言えるが、エネルギ ー密度的には燃料を用いる燃料電池が圧倒的に 有利であり、長距離輸送用として高出力・長寿 命な、そして勿論低コストの燃料電池を実現す る材料の開発がこの先も必要とされる。 燃料電池のタイプ別では、エネファームでの 実用化が始まった固体高分子形燃料電池に続き、 低コスト化が容易な固体酸化物形燃料電池も市 場投入されるとともに、より一層の高出力化、 長寿命化が求められる。長寿命と低コスト化の ためには中低温作動は本質的な解であり、中低 温用固体電解質や電極材料の開発は今後も重要 な研究領域である。 セパレータも各種燃料電池において、決して 小さくないコスト要因となっており、プレス加 工可能な高耐食性の金属セパレータ開発は重要 なテーマである。 水素製造コストも燃料電池の普及に大きな 影響を与える要因であり、水素製造用の改質触 媒や、高純度水素を精製するための分離膜の開 発は重要な課題である。 当然のことながら上記全ての材料に関して、 白金族元素に代表される希少資源を極力用いな い努力が今後も要求される。 参考文献 1)T. Mori, J. Drennan, Y. Wang, J. H. Lee, J. G. Li, T. Ikegami: J. Electrochem. Soc.,150 (2003)A665. 2)D. R. Ou, T. Mori, F. Ye, M. Takahashi, J. Zou, J. Drennan: Acta Materialia, 54(2006) 3737. 3)T. Mori, R. Buchanan, D. R. Ou, F. Ye, T. Kobayashi, J. D. Kim, J. Zou, J. Drennan: J. Solid State Electrochem.,12(2008)841. 4)D. R. Ou, T. Mori, F. Ye, J. Zou, J. Drennan: Physical Review B, 77(2008)024108. 5)F. Ye, T. Mori, D. R. Ou, J. Zou, J. Drennan: Solid State Ionics,180(2009)1414. 6)K. Fugane, T. Mori, D. R. Ou, A. Suzuki, H. Yoshikawa, T. Masuda, K. Uosaki, Y Yamashita, S. Ueda, K. Kobayashi, N. Okazaki, I. Matolinova, V. Matolin: Electrochim. Acta, 56(2011)3874. 7)GREEN homepage, http:// nanogreenfc. com/modules/myinfo/index.php?uid=1 8)J. D. Kim, T. Mori, and I. Honma: J. Electrochem. Soc.,153(2006)A508. 9)J. D. Kim, S. Hayashi, M. Onoda, A. Sato, C. Nishimura, T. Mori, and I. Honma: Electrochim. Acta, 53(2008)7638. 10)J. D. Kim, T. Mori, S. Hayashi, and I. Honma: J. Electrochem. 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Kobayashi, S. Ueda, Y. Yamashita, D. M. Wee and T. Hirano: J. Phys. Chem. C 114(2010)6047. 20)Yan Ma, Ya Xu, M. Demura and T. Hirano: Appl. Catal.B: Environmental 80(2008) 15. 21)H. Y. Lee, M. Demura, Ya Xu, D. M. Wee and T. Hirano: Corrosion Science 52(2010) 3820. 22)C. Nishimura, M. Komaki, S. Hwang, and M. Amano: J. Alloys and Compounds 330-332(2002)902-906 23)J. Y. Yang, M. Komaki, C. Nishimura: International Journal of Hydrogen Energy 32(2007)1820-1824. 24)J. Y. Yang, C. Nishimura, M. Komaki: J. Alloys and Compounds 431(2007) 180-184. 超伝導材料センターの5年 ―ナノ構造制御による超伝導材料の高性能化― センター長 熊倉浩明 1.センターの目的 超伝導は量子効果が巨視的に発現する現象 であり、電気抵抗の完全な消失、磁束の量子化 といった特異な効果として現れる。この超伝導 は物性物理的な興味のみならず、大電流をエネ ルギー損失無しに流すことを可能とし、また磁 束の量子化はセンサーや高速情報機器への応用 を可能とするため、実用的にも非常に興味が持 たれている。このように超伝導は、エネルギー、 環境保全・資源保護、医療・生命科学、交通、 情報通信などの重要領域において画期的な技術 を誕生させる可能性をもっており、これらの超 伝導利用技術が実現すれば、二酸化炭素排出の 問題を始めとする、人類の懸案事項の殆どが解 決されると言っても過言ではない。このような 超伝導技術の成否は多くの場合、優れた超伝導 線材が開発されるか否かにかかっている。そこ で、このような先進分野において実際に使える 高性能超伝導線材を製造するための基盤を確立 することを当センターの目的とした。この目的 のために、超伝導の基礎から応用に至るまで組 織的・総合的な研究を推進した。 2.活動概要 具体的には、実用化が期待されるビスマス系 高温酸化物、MgB2、Nb3Alの三つの超伝導材 料について、高性能線材の研究開発を鋭意進め た。高性能線材開発のためには、線材評価技術 の高度化も重要であり、線材の微少領域の特性 を精密に分析・評価するための、SQUID素子 を含む技術開発を平行して進めた。また、上記 三つの超伝導体の特性をさらに上回る超伝導体 が発見されると、さらに大きな技術的、社会的 インパクトを与えることは明らかである。そこ で当センターでは、このような新超伝導体の探 索も目的の一つとした。一方、高性能線材の応 用としては上記したように種々のものが考えら れるが、強磁界超伝導マグネットもその一つで ある。当センターでは、これまでの実績をベー スに、さらに高性能な超伝導マグネットの開発 を進めた。 これらの研究を効率的に遂行するために、以 下に示す4つの課題を設定して7つの研究グル ープを設置するとともに、NIMSの他研究ユニ ットや大学、企業と緊密な連携をとって、超伝 導体の構造解析や物性の評価、超伝導の理論的 研究ならびに長尺線材やマグネットの試作など、 超伝導の広範な領域をカバーすることとした。 (1)高温酸化物超伝導体や先進金属系超伝導体 による高性能線材、コイルの開発(担当グル ープ:先進線材グループ、高温線材グループ、 強磁場線材グループ) (2)高品質超伝導材料の合成と特性評価、及び 新規デバイスの開発(特性評価グループ) (3)強磁界超伝導マグネットの開発とその応用 (マグネット開発グループ) (4)新しい超伝導材料の探索・開発と特性評価 (新物質探索グループ、ナノフロンティア材 料グループ) 3.研究成果 3-1ビスマス系高温超伝導線材の高性能化 高温超伝導線材は送電ケーブルや磁場応用機 器での実用化が大きく期待されている。液体窒 素や冷凍機による冷却で運転できるので、通電 損失低減や機器の小型化を通じて省エネルギー に寄与できるからである。電気を流す用途には、 やはり、所謂「電線」のような材料が最も適し ている。我々は、110K程度以下で超伝導とな るビスマス系高温超伝導物質(Bi-2223)の線 材化と、より多くの電流を抵抗ゼロで運ぶこと を目指した高性能化に取り組んできた。銀基材 の中で、セラミックスのBi-2223粒子を結晶軸 の方向を揃えて細い糸のように並べた超伝導フ ィラメントを多数配置した複合材を熱処理する ことで線材を作製する。このフィラメントの配 置や熱処理のプロセスを工夫することによって、 抵抗ゼロで運ぶことのできる電流(臨界電流) の向上を図ってきた。図1に最新の試作線材の 臨界電流密度(超伝導フィラメントの断面積当 たりの臨界電流)の磁場、温度依存性を示す。 液体窒素温度(77K)外部磁場なしで臨界電流 密度は7万A/cm2程度であり、断面積1mm2 の銀との複合線材として210A以上の臨界電流 に達している。さらに、液体窒素の過冷却で得 られる66Kでの臨界電流密度は10万A/cm2 (外 部磁場なし)を超えている。さらに冷凍機冷却 の場合の使用温度領域である20Kでは5T以下 の磁場中で10万A/cm2を超えており、30Kで も2.5T程度以下の磁場中で10万A/cm2を超え ている。 図1Bi-2223フィラメント臨界電流密度の磁場、温度 依存性 3-2 MgB2線材の開発 MgB2は従来の金属系超伝導体に比べてTcが 高く、また結晶粒の結合が比較的強くて配向化 が不要と考えられる点で実用上有利であると考 えられる。また原材料の価格が低いことも MgB2の利点である。すでに1kmを越える長尺 線材も企業等で作製されるようになってきてお り、また最近ではイタリアのグループがMgB2 線材を用いてオープンタイプの冷凍機冷却によ るMRIシステムを完成させ、病院で試験的に 運転するなど、応用に向けた研究開発も活発化 している。 MgB2の線材化法としてはいわゆるPIT法が 主流であるが、MgB2コアの充填率が50%程度 と低く、応用上最も重要な臨界電流密度Jcが低 いという難点があった。そこで、MgB2の充填 率を向上させる線材作製法として、Mg拡散法 を開発した。金属管(鉄管)の中心に純Mg棒 を配置し、Mg棒と鉄管との隙間にアモルファ スボロン粉末を、なるべく密になるように充填 図2 Mg拡散法で作製した7芯ならびに19芯の MgB2線材.Mgコアの周囲りにMgB2超伝導層が密 に生成している する。溝ロールやダイス線引きで1mm径程度 のワイヤーに加工する。この線材を束ねてさら に金属管に挿入し線材に加工した後、熱処理を 行った。このようにして芯数が7~19本の多芯 MgB2線材の作製に成功した。図2に、7芯な らびに19芯線材の断面構造を示す。本線材で は内側の金属管としてTaを用い、外側の金属 管としてはCu-Niを用いた。 Mgは六方晶で加工性が悪いことで知られて いるが、このような状況では焼鈍等を必要とせ ずに断線なく加工できる。最後に熱処理をする とMgがボロン層に拡散して行き、MgB2が形 成される。このようにして得られたMgB2層は PIT法で得られるMgB2コアよりも充填率が高 く、4.2K、10T の磁界において100kA/cm2、20K では3.5テスラで100kA/cm2を越えるMgB2線 材としては世界最高のTcが得られた1)。 3-3 Nb3Al線材の開発 急熱急冷変態法Nb3Al線材のTcを向上させ るため、急冷後に得られ最終的にNb3Al化合物 に変態するbcc相過飽和固溶体に注目し、その 微視的組織の最適化を図った。組成の空間分布 を均一化するため、急冷処理に処するNb/Al積 層前駆体における積層間隔を150nm以下に最 適化した。bcc相過飽和固溶体から特定の結晶 方位関係を保ってNb3Alがマッシブ変態によ り析出・生成するので、Nb3Al結晶粒の多くは お互いに小傾角粒界で接しており、大傾角粒界 で定義されるNb3Al粒径は母相(bcc相)の大 傾角粒径に依存する。そこで、急冷線材を伸線 加工することによりbcc相過飽和固溶体の粒径 を減少させた。また、伸線加工に伴いbcc相に 蓄積されたひずみエネルギーはA15相への変 態反応を促進させる効果がある。図3に示すよ うに、過飽和固溶体の塑性変形は、変態後の Nb3Al結晶粒の微細化と均一化を可能にした。 このような組織制御により、Nb3Alのnon-Cu Jc の目標であった4.2K,15Tにおける1000 A/mm2の値をクリアすることができた。次いで、 この1km級Nb3Al線材の長尺化均一特性の実 証を兼ねて、実規模サイズ・Nb3Al内層コイル を試作し、Nb-Tiコイルに直列接続して単独電 源で励磁して40mmのクリアボアに15Tの磁 場発生に成功した2)。このNb3Alマグネットは、 強磁場共用ステーション内においてJc測定評 価に使用されている。なお、Nbマトリックス に起因する低磁界不安定性が観察されたが、マ トリックス材種をTaに変更することによりこ れを抑制できることを明らかにした。 図3 EBSD分析したNb3Alフィラメントの結晶粒組織 過飽和固溶体の変形:(a)無し(b)有り.変形を加え ることによってNb3Al結晶粒の微細化と均一化が達 成される 3-4特性の評価 Bi2Sr2CaCu2O8+δ単結晶を用い、c軸方向に二 周波駆動電流によってジョセフソン磁束量子を フローさせ、それによって生ずるフロー電圧に パンケーキ磁束量子による整流作用(ラチェッ ト効果)があることを見出した3)。空孔格子を Bi2Sr2CaCu2O8+δ単結晶に作製し、空孔格子に 対する磁束量子の整数・分数マッチング効果を 見出し、空孔格子が存在する系での磁気相図の 解明を行った。マイクロ波共鳴走査型トンネル 顕微鏡(STM)では低抵抗物質の局所抵抗及び 容量をSTM短針の曲率半径程度の空間分解能 で測定可能とした。Bi2Sr2CaCu2O8+δ単結晶に 非磁性不純物を添加させた試料で不純物準位に ある準粒子波動関数に干渉効果があることを STM測定によって観察に成功した。 ニードル型SQUID顕微鏡の高透磁率パーマ ロイ探針をSTMのプローブとして併用し、ト ンネル電流によるフィードバックを行うことに よって、STM-SQUIDハイブリッド磁気顕微鏡 を開発した。線材試料をマクロからミクロのレ ベルでシームレスに測定できるデュアルスキャ ン機構を設計することにより、cmオーダーか らμm以下までの測定が行えるようになった。 本システムを用いて高温超伝導線材試料の超伝 導状態での電流による磁場分布などの測定に成 功した4)。 3-5新物質の探索 新しい超伝導体および関連物質の合成発見 を第一の目的とし、以下の成果をあげた。 NIMSで合成発見した新規超伝導体 Nax(H3O)zCoO2 ・ yH2Oの超伝導機構解明に挑 んだ。ソフト化学的手法を駆使して世界に先駆 けの量を制御することに成功し、超伝導相 と磁気秩序相が隣接することを見いだした。そ して、本系の超伝導が、量子臨界点近傍の磁気 揺らぎにより誘起されることを明らかにした。 他方、鉄ニクタイド系超伝導体に関連し、新規 超伝導相の開発と高性能化に取り組んだ。その 結果、TbFeAsO0.85の構造、電気・熱特性、超 伝導不純物効果、TbFeAsO1-δの超伝導特性、 SmCoAsの磁気転移、Sr4Sc2Fe2As2O6のキャリ アドーピング効果などを明らかにした。また、 ホウ素ドープダイヤモンド超伝導に関しては、 超高圧環境を利用した結晶育成と高性能化に取 り組んだ。その結果、高圧合成バルク試料とし ては最高のTc (~10.3 K)を記録することに成功 した。 新超伝導物質探索の過程で、幾つかの新物質 と新機能を発見した。新規層状化合物 (Ca0.85OH)1.16CoO2と新規カルシウムフェライ ト型構造化合物CaCo2O4において、高い熱電応 答を見いだした。また、NaV2O4結晶の合成に 成功し、ナノハーフメタルの新概念を世界に先 駆けて提案した。さらに、NaV2O4-CaV2O4固 溶系における特異な磁気秩序と温度誘起金属絶 縁体転移を発見した。NaV2O4は、磁場・温度・ Na量に対して敏感に変化する磁気伝播ベクト ルをもつ金属反強磁性状態であることを明らか にした。 関連物質の特筆すべき成果として、新物質 RMnO3 (R= Ho, Er, Tm, Yb, Lu)の合成と巨大 誘電分極の発見が上げられる5)。従来のRMnO3 (R= Tb, Dy)でのマルチフェロイクスがスパイ ラル型磁気秩序に起因するのに対し、本系のそ れはE型反強磁性秩序に付随する構造歪みによ るものである。従来とは異なる発現機構による 巨大マルチフェロイクスの発見は、世界の注目 を集めた。この他にも、RCoO3(R=希土類)にお ける電子相図の完成、新物質NaOsO3における 室温金属絶縁体転移(転移温度137℃)の発見 など、ペロブスカイト、ポストペロブスカイト 型新物質に関する注目すべき発見があった。 これらの新物質開発の成果の多くは、超高圧 合成法の利用によるところが大きい。高品位試 料を合成するために、より均一で安定な高圧・ 高温状態を発生できるよう、ベルト型高圧合成 装置における圧力セル構成の改良を行った。そ の結果、2.5 GPa、~2000℃を長時間維持できる 高圧セルを開発し、ヒーター内温度分布を従来 の約半分以下に抑制することに成功した。今後 の物質開発研究に資するものとして期待できる。 3-6鉄系超伝導体の研究 超伝導体の特徴の一つは、ゼロ抵抗状態であ る。超伝導線材で送電すれば、エネルギーをロ ス無く遠くへ輸送することができ、コイルを作 れば、強い磁場を発生可能である。さらに、超 伝導体が磁場を排除するマイスナー効果や超伝 導コンピューターの素子の元となるジョセフソ ン効果も、超伝導にのみ発現する現象である。 我々のグループでは、新超伝導材料の開発およ びその特性評価から線材応用の糸口をまで一貫 して研究している。この五年間の主たる研究成 果の一つとして、鉄系超伝導についてここにま とめたい。 鉄系超伝導体における新現象 近年、鉄系超伝導体の発見を契機に、新超伝 導体が多数発見された。これまでに発見された 鉄系超伝導体の中でFeSe系は最もシンプルな 結晶構造を持つ。我々は、鉄系超伝導体の発現 メカニズムを解明する上で最適な物質であると 考え、FeSe系に着目した。 FeSeは、超伝導転移温度Tc=約10Kの超伝 導体である。FeSeに圧力を加えたところ、Tc は圧力の増加とともに急激に上昇し、4~6GPa の高圧下においてTc=37Kに達することを明ら かにした。このTcは、二元素系超伝導体の中 で3番目に高く、この系が高いポテンシャルを 秘めていることを示唆している。 超伝導転移温度は何によって決まるのか、こ れは大変興味深い課題である。FeSeの結晶構 造解析より、鉄面からのアニオンの高さが、超 伝導転移温度と密接に関係していることを発見 した。このことから、全ての鉄系超伝導体にお いて、Tcと鉄面からアニオンの距離に共通する 関係が得られたのである(図4)。鉄系超伝導の 機構解明に資する重要な相関であると考えられ る。 一方、FeTeは、結晶構造がほぼ同じであるが 反強磁性体で、そのままでは超伝導にならない。 磁性を消すことが出来れば超伝導が発現すると 考え、イオン半径の小さな硫黄Sを置換した試 料を溶融法で作成し、新超伝導体の発見に成功 した。ところがこのFe(Te,S)系は大変不思議な 性質がある。より質の高い試料を作成しようと、 固相反応法で合成したところ、磁性は消えたも のの超伝導は現れないのである。ところがその 試料を大気にしばらくの間曝露すると、超伝導 体に変化することが分かった。図5に示すよう に、大気曝露時間が増加するほど、超伝導転移 温度が上昇する。しかし、良質な超伝導発現に は数ヶ月という期間が必要である。 そこで、大気以外でもより短時間で超伝導を 誘発するものが存在するのではないかと考え、 様々な液体や気体を試した結果、大変驚いたこ とに、お酒が超伝導を誘発することを発見した。 Fe(Te,S)試料を70度の酒に24時間浸すだけで 超伝導が現れるのである。最も効果的な酒は赤 ワインであった。一般にこのような低温で超伝 導体を合成した例はきわめて少ない。反応メカ ニズムの解明により、新超伝導探索における新 しい手法の開発につながると期待される。 図4超伝導転移温度とアニオン高さの相関. Tcと鉄面からアニオンの距離との間には明瞭な関係 が認められる 図5超伝導転移の大気曝露時間依存性.大気曝露時 間が増加するとともに超伝導転移温度が上昇し、ま た転移がシャープになる 3-7酸化物超伝導コイルを使用したNMR磁 石の開発 NMR装置は、磁場の増加に伴い感度と分解 能が向上するため、強磁場化が望まれているが、 1GHz(23.5 T)を大幅に超えるNMR装置の開 発には、酸化物超伝導(HTS)コイルの使用が 不可欠と考えられている。しかしNMR装置で は、単に磁場を発生するだけでなく、試料空間 での磁場の時間的安定性と空間的均一性が高い レベルで要求されるため、HTSを使用してこの 条件を満足することは困難とされてきた。 そこでHTS内層コイルを使用し、かつ溶液 NMRの計測が可能な装置の開発6)に取り組ん だ。HTSは4.2 mm幅のBi-2223素線の両側を 50 μmのブロンズテープで補強した線材を使用 し、内径、外径、高さがそれぞれ81.2 mm、121 mm、375.23 mmとなるコイルを磁場均一性の 点で実績のある整列巻きで製作した。 このコイルを既存のNMR磁石の最内層コイ ルと交換した。通常のNMR磁石は永久電流モ ードの運転を想定しており、電源で運転する場 合は液体ヘリウムの蒸発量が増加するため、長 時間運転が困難である。本磁石は4 K冷凍機と HTS電流リードを組み込み、電源で運転した場 合でも長時間運転が可能であるように改造した。 本磁石を電流の安定度が1.2×10-6 F.S./8 hと 極めて優れた電源で通電して、500 MHz (11.7 T)の定常運転を行った。超伝導および室温の シムコイルを用いて磁場均一性を向上し、内部 ロックで磁場を安定化した状態では、タンパク 質試料に対して、永久電流モードの既存NMR 装置と同程度の溶液NMRの結果を得ることが できた。これによりHTSコイルがNMR磁石 として使用可能であることを世界で初めて実証 した1)。 現在は本成果を生かして、Bi-2223内 層コイルを組み込んだ1.03 GHz(24.2 T)NMR 磁石を開発中である。 本開発は、科学技術振興機構の産学イノベー ション事業【先端計測分析技術・機器開発】に よる成果である。 4.今後の研究動向 超伝導応用機器、特にエネルギー関連機器や 医療関連機器では、超伝導物質を多芯フィラメ ント状として常伝導金属(銅や銀など)と複合 化した高性能超伝導線材が必須である。このた め、線材開発では、超伝導フィラメントと常伝 導金属マトリックスの複合体を長尺線材形状に 加工し、かつ、その超伝導フィラメント内で高 特性(電流輸送特性の優れた)超伝導体を形成 させることが最も重要である。そのためには、 超伝導体生成反応の熱力学や前駆体・粉体調整 の化学、及び、線材作製プロセスにおける塑性 加工というような、超伝導線材化の基盤となる 材料科学が欠かせない。今一度材料科学の基盤 に立ち返って線材作製プロセスを見直すことが 必要である。それを通じて線材作製プロセスを 工夫し、電流輸送能力を大きく向上させること につなげていかねばならない。 代表的な例としてビスマス系高温超伝導線 材について記す。実用に足る高温超伝導線材へ 向け、ビスマス系と希土類系の二種類の高温超 伝導材料の研究・開発が進められている。将来 的には送電ケーブルのような低磁場用途はビス マス系、モーター等の高磁場用途は希土類系と いう棲み分けになるものと考えられる。また、 実用材料として社会に浸透していくためには 「電流容量×長さ」当たりの線材コストも重要 なると考えられるが、電流容量即ち線材性能の 向上は線材コスト低減に最も有効である。 以上の状況の中で、ビスマス系高温超伝導線 材応用は、現在、実証システム試験段階にまで は進んできた。その省エネルギー効果を真に社 会的・世界的な貢献のレベルまで引き上げるた めには、更に2倍の線材特性向上が必要と見込 まれている。現状の製造プロセスを精緻にする ことで1.5倍程度の特性向上は見込めるが、そ れ以上の高性能化には基礎科学に立ち返ったプ ロセス再構築が不可欠との認識は産学で一致し ている。 図6線材におけるBi-2223結晶の配向度と臨界電流 密度の関係。横軸はBi-2223結晶c軸方向のばらつき を角度で示しており、小さいほど結晶の向きが揃っ ていることを表す。完全に配向した場合は0度となる 図7現在の200A級Bi-2223線材の超伝導フィラメン トの内部組織、及び、フィラメントの完全超伝導相 化による高配向・高特性実現の概念図.不純物相の ない超伝導フィラメントを実現するには、いつ不純 物相が生成し、どのように成長するのか等、高温で の反応進行過程を知ることが欠かせない 図6にBi-2223線材における結晶の配向度と 臨界電流密度の関係を示す。Bi-2223相は2次 元性の強い超伝導体であることから、特性向上 のためには配向度を向上させる(結晶c軸方向 の粒子間でのばらつきを小さくする)必要があ る。しかしながら、現状では、高性能線材でも 6度程度のばらつきが存在している。図7に銀 被覆したフィラメントの内部組織を示す。非超 伝導相(不純物相)の大きな粒子が、周辺の超 伝導相粒子の配向を激しく乱している。更なる 特性向上のためには、結晶粒子配向を阻害する 非超伝導相の生成を完全に抑制して超伝導相の 配向度を向上させなければならない。しかしな がら、現状では、前駆体(出発原料粉末)から の超伝導相の高温生成反応の解明や、微細組織 形成のその場観察といった基礎的研究が不十分 な状態にとどまっている。このことが、特性向 上の障害となっている。被覆材の介在と高温と いう二重の障害を乗り越える観察手段として、 そのためには、材料科学・固体化学の基盤に立 ち返って系統的な基礎研究に取り組むことによ り反応過程を解明し、それに基づいて理想とす る微細組織に近づけることで線材の大幅な特性 向上の実現が期待できる。 参考文献 1)K. Togano, J. Hur, A. Matsumoto and H. Kumakura: Supercond. Sci. Technol.23 (2010)085002. 2)T. Takeuchi, N. Banno, Y. Iijima, A. Kikuchi, H. Kitaguchi, M. Yoshikawa, K. Tagawa and K. Nakagawa: IEEE Trans, on Appl. Supercond 20(2010)616-619. 3)S. Ooi, S. Savel'ev, M. Gaifullin, T. Mochiku, K. Hirata and F. Nori: Phys. Rev. Lett. 89(2007)247002. 4)M. Tachiki, T. Hayashi, D.F. He, and H. Itozaki: IEEE Trans. Appl. Supercond.19 (2009)874. 5)M. Tachibana, T. Shimoyama, H. Kawaji, T. Atake, and E. Takayama-Muromachi: Phys. Rev. B 75(2007)144425. 6)T. Kiyoshi, S. Choi, S. Matsumoto, K. Zaitsu, T. Hase, T. Miyazaki, A. Otsuka, M. Yoshikawa, M. Hamada, M. Hosono, Y. Yanagisawa, H. Nakagome, M. Takahashi, T. Yamazaki and H. Maeda: IEEE Trans. Appl. Supercond. 20(2010)714. 光触媒材料センターの5年 ―高機能光触媒材料の研究開発:ナノ光触媒の可能性への挑戦― センター長葉金花 1.センターの目的 地球規模の環境汚染問題とエネルギーの供 給不足問題が深刻化する中、環境低負荷型浄化 技術及び新エネルギー生産技術の開発が急務に なっている。光触媒は有害化学物質の分解・除 去、さらには水を分解して水素を生成できるな ど、次世代環境浄化&エネルギー変換材料とし て期待されている1)。しかし、既存の材料では 紫外光にしか活性を示さないため効率や用途が 制約され、応用・普及を妨げている。 このような問題を解決するため、2006年4 月に開始された第二期中期研究計画プロジェク ト(2006年4月~2011年3月)の一つとして、 当センターは設立された。本研究センターのミ ッションは、使用環境に制約の少ない可視光応 答型光触媒の開発とその高機能化を実現し、環 境低負荷型浄化技術に係わる材料基盤を確立す ると共に、光化学エネルギー変換用材料研究へ の発展を目指すことである。 2 .活動概要 この五年間、当センターを構成してきた機能 開発グループ、ナノ構造制御グループ、基礎プ ロセスグループでは、上記研究目標を達成する ため、それぞれ次のような課題を推進してきた。 機能開発グループでは、酸化物をベースとした 半導体材料のバンド構造の制御を介して、紫外 光のみならず、太陽光や室内照明光の主成分で ある可視光にも応答する新規光触媒材料の開発 を進めてきた。ナノ構造制御グループでは、ナ ノテクノ ロジーを応用した光触媒の高性能化研 究を進めてきた。また、基礎プロセスグループ では、光触媒効率の支配因子を理論的、実験的 に解明し、高効率材料の設計及び高機能化に資 することを目指した。 その結果、この間の研究成果として、新規高 効率可視光応答型光触媒材料を多数開発すると 共に、高機能化を図るための微粒子作製技術の 開発・応用にも成功した。さらに光触媒の反応 メカニズム研究に関してはバンド構造と光触媒 活性との関連究明、表面吸着構造と水分子の解 離吸着条件の特定など、高機能光触媒材料の開 発に重要な指針を与えた。これらの研究成果は 160余編におよぶ論文・総説等として発表され てきた。また、この五年間、光触媒に関する研 究の普及活動および国際連携・交流の一環とし て、NIMS国際光触媒ワークショップ、日中高 機能光触媒シンポジウムを主催した他、国際光 触媒展(協賛)にも積極的に携わった。さらに 国内外の研究機関との共同研究、外部資金によ る研究などにも積極的に取り組んだ。本稿にて 当センターを代表する研究トピックスを紹介す る。 3.研究成果 3-1画期的な酸化力を誇る可視光応答型光 触媒材料Ag3PO4の開発 可視光応答型材料の開発はその重要性から 基礎・応用を問わず国内外で盛んに行われてき た。従来のアプローチとして紫外光応答型酸化 チタン材料の改良(異種金属元素或いはアニオ ンのドープ等)を中心に行われてきたが2)、光 照射で生成した正孔と電子のトラップ・再結合 中心となりやすい格子欠陥を伴うため、大幅な 活性向上が実現できなかった。 より高機能な光触媒材料を求め、我々は酸化 チタンの枠組みに囚われない、新規複合酸化物 光触媒材料の開発に取り組んできた。理論計算 を参考にしながら、構成元素の価数、外殻電子 配置、スピン状態、結晶場の影響などを総合的 に考慮し、特にキャリアの移動度に深く関連す る軌道の局在性について検討した上で、材料設 計・開発を行っている。その結果、可視光照射 下において水及び各種有機有害化学物質を分解 できる新規光触媒材料の開発において幾多の成 果を収めた3-8)。 これまで蓄積された知見から、TiO2以外の光 触媒としては、単純な金属酸化物にpブロック 元素やアルカリ金属元素もしくはアルカリ土類 元素を組み合わせることで、優れた光触媒特性 を示す材料の出現が期待される。実際、pブロ ック元素ビスマスを含む複合酸化物のなかで光 図1可視光照射下での光触媒反応による 硝酸銀水溶液からの酸素発生 触媒特性が注目される幾つかの酸化物が報告さ れている。今回我々は同じpブロック元素のリ ン(P)を含む複合酸化物リン酸銀(Ag3PO4) に着目し、研究を行った。その結果この材料が 画期的な酸化特性を有する新規可視光応答型光 触媒であることを発見した9)ので紹介する。 図1に開発したAg3PO4を用いた水分解によ る酸素発生の結果を示す(可視光照射)。高活性 な酸素発生光触媒として知られているBiVO4 やWO3を凌駕する結果となり、水を光酸化す る性能が極めて高いことが明らかとなった。ま た、量子収率を測定し、定量的な評価を試みた ところ、420nmではほぼ90%、480nmの可視 光でも、80%余もの見掛けの量子収率を示した。 また、その量子収率の波長依存性は、Ag3PO4 の光吸収能の変化とよく対応し、酸素発生は Ag3PO4の光励起により引き起こされた光触媒 反応によるものであることが伺える。さらに、 18O同位体を含む水の分解実験から、測定され た酸素ガスは水の分解によるものであることが 分かった。 光触媒反応は、光励起した電子やホールが移 動し、触媒物質の表面を介して酸化・還元反応 を起こすことがその本質である。多くの光触媒 材料では、励起した電子・ホールの殆どが拡散 移動の過程で再結合し、反応に寄与することな く触媒内部で消滅する。そのため量子収率が 数%に止まっている。これを踏まえると、この 材料の90%近くの量子収率は画期的なことで ある。 Ag3PO4の強い光酸化性能をより明らかにす るために可視光照射下での各種色素の分解実験 も行った。その結果、図2に示されるように、 非常に短い時間で色素の色が消え、また、全有 機炭素量も著しく低下し、強い酸化反応が起こ 図2可視光照射下でのメチレンブルー(MB)色素 の分解実験.挿入図は、Ag3PO4を用いた場合の MB溶液の色の変化.4分でほぼ完全に脱色 っていることを端的に示す結果が得られた。 この材料がなぜこれほどの高い量子収率を 示すか、計算科学の力を借りて解明を試みた10)。 Ag3PO4のバルク電子構造について第一原理計 算を行ったところ、図3に示すようにAg3PO4 の伝導帯下端は主にAg S軌道で形成され、 Ag2Oなどの銀酸化物によく見られるAg d軌道 に起因する局在準位がほとんど現れないのが特 徴である。図中右側に示された波動関数の等高 面から、この状態が遍歴性の強い状態であるこ とが示唆されている。これは、電子がどの方向 に対しても移動しやすいことを意味している。 さらに、Ag3PO4ではAg-O結合の形成が抑制 される代わりに、Ag s - Ag sの混成による分 散の高いバンドが形成され、他の銀系光触媒に 比べて電子の有効質量が小さく等方的であるこ とが理解された。そのため、Ag3PO4では光励 起キャリアの拡散移動が比較的に容易であり、 図3 Ag3PO4のバンド構造と伝導帯下端の波 動関数 高い量子収率をもたらしている要因の一つと考 えられる。 本研究では無機材料でありながら、植物の光 合成の量子収率に匹敵する酸化力を有する材料 Ag3PO4を見出した。その高活性の起源を解明 することにより、今後の物質探索に関して新し い視点を拓くと共に、環境・エネルギー分野へ の応用研究に新たな発展をもたらすことが期待 される。 3-2バンド構造の連続的制御による新規固溶 体可視光応答型光触媒の開発 固溶体合成法は、二種類以上の化合物を原子 レベルで溶解させる方法である。この方法は、 母物質である個々の化合物の電子構造を光触媒 反応用に最適化することが可能であり、個々の 母物質では実現されない特性が得られる点で興 味深い。また、ドープ等の手法で見られる活性 低下を引き起こす欠陥準位の抑制の観点からも 有望な手法と考えられる。我々は、これまでに 第一原理計算の結果を参考に、様々な系におい て固溶体化合物の組成を制御することにより、 バンドギャップ及び伝導帯、価電子帯のポテン シャルを連続的に制御することに成功した11-12)。 本稿にて、代表的な例として、ペロブスカイト 系酸化物SrTiO3とAgNbO3を母物質とした新 規固溶体光触媒材料について紹介する11)。 合成した固溶体材料(AgNbO3)1-x (SrTiO3)x を調べた結果、AgNbO3の成分が増えることに 伴い、バンドギャップが徐々に狭くなり、固溶 体の吸収端が長波長側にレッドシフトすること が分かった(図4)。また、シックハウス症候群 の原因物質であるアセトアルデヒドの酸化分解 実験を試みた結果、母物質であるSrTiO3や AgNbO3と比較すると、固溶体ではいずれも活 性が優れていることが明らかになった。なかで も、前者を25%、後者を75%含む固溶体半導 体(AgNbO3)0.75 (SrTiO3)0.25 が、最も優れた性 能をもつ可視光応答型光触媒となることが判明 した。また、この固溶体光触媒材料は、従来最 も活性が高いとされている窒素ドープ型酸化チ タンと比べ、比表面積が数十分の1しかないに もかかわらず、活性が3倍以上も高く、非常に 有望な可視光応答型光触媒材料であるといえる。 今後合成方法にナノテクノロジーを利用し、超 微粒子化による比表面積の大幅な増大を図るこ とによって飛躍的な性能改善も可能であり、室 内での環境浄化への用途も開けることが期待で きる。 3-3高活性ナノ多階層中空構造WO3光触媒の 作製 光触媒反応が材料表面で行われるため、ナノ テクを駆使した高比表面積化、高結晶性化が極 めて重要である。我々は微粒子作製技術の開発 にも積極的取り組み、様々な成果をあげてきた 13-15)。その一例として、WO3光触媒材料の形態 制御による高機能化について紹介する13)。 図5に溶液法を用いて、作製した中空構造を 有するナノ多階層構造WO3光触媒を示す。前 駆体材料の選択および合成条件の最適化を行う ことによって、枝状、ダンベル状、球状などの 中空構造WO3が得られた。なお、中空構造の 壁の厚さはいずれも250nm前後である。透過 図4 (AgNbO3)1-x(SrTiO3)x固溶体の組成変化に伴う UV-Vis吸収スペクトルの変化.x=0と1とはそれぞれ AgNbO3及びSrTiO3になる 図5溶液法で作製したナノ多階層中空構造を有する WO3光触媒のSEM写真.上段:枝状WO3、中段:ダ ンベル状WO3、下段:球状WO3 型電子顕微鏡を用いて調べたところ、どの形態 の材料においても表面は格子欠陥の少ない (020)ナノ板状 WO3単結晶(サイズ:10nm x 100nm x100nm)によって構築されていること が分かった。このようなナノ構造を有する材料 は一般的に良い結晶性、高い比表面積、さらに は高い光透過性が期待できる。光触媒反応のプ ロセスから考えると、結晶性の良い微粒子は格 子欠陥が少なく、光励起キャリアの移動に有利 なだけではなく、移動する距離が短縮する分、 表面へ辿り着く確率を上げる。また、高い比表 面積は、表面での酸化・還元反応における反応 活性点を増やすことになる。さらに、中空構造 は光の透過を容易にする。これらの特性が総合 的に作用した結果、中空構造における光触媒材 料の活性が、色素分解ならびに気相有害物質 IPA分解のいずれにおいても、市販のWO3材料 より大幅に向上することをもたらした。 3-4ユビキタス元素よりなる光触媒材料 光触媒材料としては、TiO2、ZnO等の酸化物 半導体がよく検討されている。その実用化には 環境中に拡散する有害物質を濃縮する強力な吸 着能、光触媒粉末の基材や結合材への担持方法 等が検討課題となっている。本研究では、非毒 性でユビキタスな元素(地球表層に豊富に存在 する汎用元素)からできているジオマテリアル とZnOとの組み合わせによって、自身が光溶解 (溶液中で光があたると自らが酸化、還元し溶 ける現象)するZnOの欠点を補うとともに、亜 鉛(Zn)の使用量を削減できる新しい光触媒材 料を創製した16-17)。 ジオマテリアルとしては、粘土鉱物系材料に 注目した。陽イオン性、及び陰イオン性有害物 質の光触媒分解反応を目指し、Znをその構造中 に含む層状ケイ酸塩鉱物(ヘクトライト:HEC、 サポナイト:SAP、バーミキュライト:VER、 フロゴパイト:PHL)及び陰イオン交換性粘土 鉱物(層状複水酸化物:LDH)に注目した。 層状ケイ酸塩鉱物は、AlまたはMgの水酸化 物八面体が連結した八面体シートを、2枚の SiO4四面体が六角網状に連結した四面体シー トでサンドイッチした基本構造を有する。特に スメクタイトは、陽イオン交換能、インターカ レーション能などの特異な性質とともに、固体 酸として機能することが知られている。その形 態は、数百nmサイズの異方性の大きな二次元 空間を有する珪酸塩ナノシートの積層物とみな 図6層状ケイ酸塩鉱物の光触媒活性(RhBの 吸収ピーク強度の時間依存性) 図7 LDHの光触媒活性(MOの吸収ピーク強度 の時間依存性) せる。 層状ケイ酸塩鉱物の水溶液中での光触媒活 性は、色素ローダミンB (RhB)の脱色・分解 反応(UV-VISスペクトルの550nm近傍の吸収 ピークの強度変化)を紫外線照射下にて検討し た(図6)。 RhBそのものの強度変化は、数% 程度しか認められないのに対して、膨潤性・ RhBの包摂能を有しているスメクタイト(Zn- HECおよびZn-SAP)のRhBの脱色・分解は 指数関数的に増大し、紫外線照射30分後には 吸収ピーク強度は半分に減少した。その減少効 率は、典型的光触媒材料であるルチルの2倍強 であった。しかしながら、非膨潤性・RhBの非 包摂能を有するZn-VERおよびZn-PHLの吸収 ピークの強度変化は、RhBそのものの強度変化 と同等であり、その光触媒活性はほとんど認め られなかった。従って溶液中での光触媒活性に は「吸着能・膨潤性・包摂能」が重要な要素で あることを示唆している。またスメクタイトの 特徴の一つである広範囲のpH条件の溶液中で の安定性も、新たな環境浄化材料としても応用 が可能であることを示している。 LDHは粘土鉱物の一種に分類され、陰イオン 性粘土とも呼ばれている。LDHは、水酸化マグ ネシウムと同様の水酸化物の八面体シートおよ び陰イオンと水分子からなる中間シートが交互 に積層した構造を持つ。この八面体シートの2 価金属イオンの一部を3価金属イオンで置き換 えているため、生じる正電荷を電気的に中和す るために層間に「交換性陰イオン」を取り込む ことができる。一般に単一金属水酸化物より細 かい長径数十~数百nmサイズの板状粒子とな る。LDHの水に対する溶解性は、含まれるM2+ およびM3+それぞれ単独の水酸化物の溶解度に 関連していることから、溶解度の低い金属を選 択することでより水溶液中で安定なLDHを得 ることができる。主なM2+の溶解性の序列はMg >Mn>Co>Ni>Fe>Zn、 M3+の溶解性の序列 はCr>Al>Mn>Feとなっている。これより、 安定性が比較的高いZnおよびAlを構造中に含 むLDHを選び、その光触媒活性をメチルオレン ジ(MO)の脱色・分解反応(UV-VISスペクト ルの280nm近傍の吸収ピークの強度変化)を紫 外線照射下にて検討した。紫外線を照射しない 場合には、MOの吸収ピークの強度変化は見ら れなかった。一方MOを吸着させた後に紫外線 を照射したところ、MOの吸収ピークの強度は 減少し、その脱色・分解が増大すること、すな わちLDHが光触媒活性を示すことを確認した (図7)。従って、LDHはスメクタイトと同様に 有機物の親和性が大きく、吸着能が高いため、 有害有機物分解を効率よく進めることができ、 地球環境問題へ大きく貢献すると期待される。 3-5ナノシート/ポリマーナノコンポジット の創製 新規光触媒材料の応用に際して、そのナノシ ート化とそのポリマーとのナノコンポジット化 を検討した。付加価値の高い複合材料として、 粘土鉱物と高分子とナノメートルのレベルで複 合化した粘土/高分子ナノコンポジットが注目 を集めている。低比重(軽量)で優れた力学特 性、ガスバリア性及び難燃性を示し、自動車用 材料、電気電子部品用材料、包装材料など多く の分野で応用が進んでいるが、さらなる機能向 上が強く求められている。 これらの課題に対して、アスペクト比の大き い分散粒子・ナノメートルレベルの厚み制御が 可能となる層状物質を探索し、マイカ系ポリマ ーナノコンポジットの合成、組成・性質の異な る2種以上の2次元ナノシートが規則的な順序 で積層した混合層鉱物系ポリマーナノコンポジ ットの合成に成功した(図8)。これらの新規ポ リマーナノコンポジットに加えて、これまでナ ノコンポジットに応用されることのなかった LDHを高分子マトリックス中に一層(ナノシ ート)単位で剥離・分散したナノシート/高分子 ハイブリッドの創製の手がかりも見出した。今 後は高次構造をさらに制御する技術の確立を行 うことにより、高いバリヤー性の要求される材 料分野や高比剛性、高耐熱性の要求される構造 材料分野への応用可能な材料となる発展性が期 待される18-19)。 図8合成規則型混合層(タルク/タルク/スメクタ イト)/エポキシナノコンポジット 3-6光触媒表面への分子吸着素過程と全系 電子構造に関する理論研究 光触媒反応は材料表面で行われるため、反応 分子吸着プロセスの素過程や詳細な吸着構造の 他、吸着分子と光触媒からなる全システムの電 子構造を知ることは、高性能光触媒の設計上極 めて重要である。われわれは、第一原理量子分 子動力学手法を駆使することにより、金属酸化 物系光触媒表面への水分子の吸着素過程の詳細 を明らかにしてきた20-23)。図9は、紫外線照射 で水分解能を有するYVO4光触媒表面における 水分子の吸着過程をシミュレーションした例で あり、図10は、水分子吸着時の光触媒全系の 電子構造の例である。これらの計算により、V 周辺では、酸化チタンのTi周辺と同様に、盛ん に水分子が解離吸着し、このことが水素発生に とって重要な役目を果たしていることがわかっ た。また表面における未吸着時と吸着時の電子 構造変化が様々な金属酸化物で明らかになりつ つあり、表面構造制御の重要性が認識されつつ ある。これらの知見を今後新規材料の設計・開 発に生かすことによって、より高機能な光触媒 材料の開発が期待される。 図9水分子吸着過程の量子分子動力学計算 原子の色:水色Y、灰V、赤O、白H 図10水分子吸着時の全系の電子構造 4.今後の研究動向 光触媒材料は、低負荷型浄化技術として、環 境保全分野への応用に広がりを見せる一方、太 陽光エネルギーを化学エネルギーに変換・貯蔵 する「人工光合成技術」としても多大な可能性 を秘めている。これらの技術の実現には高感度 な可視光応答型光触媒材料の開発が重要な鍵を 握っている。本センターではこの最重要課題に 精力的に取り組み、数多くの重要な知見を得た。 これら第二期中期研究計画の成果を発展させる 形で、2011年4月から開始される第三期中期研 究計画においては、高機能光触媒の開発を継続 的に推進する一方、環境再生・修復に寄与でき る金属間化合物触媒材料、メソポーラス材料、 層状珪酸塩などのジオマテリアル吸着・複合材 料およびそれらに共通する表面・界面の現象に 関する理論研究を総合的に推進していく予定で ある。これらの研究によって、複雑多様化して いる環境問題の解決に貢献していく所存である。 参考文献 1)藤嶋昭、橋本和仁、渡部俊也:“光触媒のし くみ”、日本実業出版社(2000). 2)R. Asahi, T. Morikawa, T. Ohwaki, K.Aoki, Y. Taga : Science 293(2001)269. 3)葉金花:環境管理44(2008)42. 4)Z. Zou, J. Ye, K. Sayama and H. Arakawa, Nature, 414(2001)625. 5)J. Tang, Z. Zou, J. Ye: Angew. Chem. Int. Ed. 43(2004)4463,. 6)T. Kako, Z. Zou, M. Katakiri, J. Ye: Chem. Mater. 19(2)(2007)198. 7)X. Li, N. Kikugawa, J. Ye: Adv. Mater. 20 (2008)3816. 8)S. Ouyang, N. Kikugawa, Z. Zou, J. Ye: Appl. Cata. A: General 366(2009)309. 9)Z. Yi, J. Ye, N. Kikugawa, T. Kako, S. Ouyang, et al.: Nature Mater. 9(2010)559. 10)Naoto Umezawa, Ouyang Shuxin, and Jinhua Ye: Phys. Rev. B 83(2011)035202. 11)D. Wang, T. Kako, J. Ye: J. Am. Chem. Soc. 130(2008)2724. 12)S. Ouyang, J. Ye: J. Am. Chem. Soc. Doi/ 10.1021/ja110691t. 13)D. Chen, J. Ye: Adv. Fun. Mater.18(2008) 1922. 14)Y. Bi, J. Ye: Chem. Commun.(2009)6551. 15)G. Xi and J. Ye: Chem. Commun. 46 (2010)1893. 16)C.S. Pascus, M. Ohnuma, Y. Matsushita, K. Tamura, H. Yamada: J. Cuadros, J. Ye, App. Clay Sci., 48(2010)55. 17)K. Morimoto, K. Tamura, J. Ye, H. Yamada: Tran. Mater. Res. Soc. Jpn. 35 (2010). 18)K. Tamura, H. Yamada, S. Yokoyama, K. Kurashima: J. Am. Ceram. Soc., 91(2008) 3668. 19)K. Tamura, S. Yokoyama, C.S. Pascua, H. Yamada: Chem. Mater. 20(2008)2242. 20)M. Oshikiri, M. Boero, A. Matsushita and J. Ye: J. Chem. Phys.131(2009)034701. 21)M. Oshikiri, M. Boero, A. Matsushita and J. Ye: Appl. Surf. Sci. 255(2008)679. 22)M. Oshikiri, M. Boero, A. Matsushita and J. Ye: J. Electroceramics 22(2009)114. 23)M. Oshikiri and M. Boero: J. Phys. Chem. B 110(2006)9188. 新構造材料センターの5年 ―ナノーミクロ組織制御による構造材料の高性能化― センター長津﨑兼彰 1.センターの目的 NIMS新構造材料センターでは、輸送機器の 小型軽量化やプラントの長寿命化を可能とする 構造材料の実現を目指して、ナノーミクロの階 層的組織制御によって、鉄鋼・Mg合金・Al合 金・ Ti合金などの金属系構造材料やその継ぎ手 の高性能化(高耐久性・高成形性・高靱性)に 関する研究を行ってきた。 資源枯渇時代を念頭において合金元素添加 をできるだけ抑えた上で、また量産化可能プロ セスであることを条件に加えた上で、材料特性 の大幅向上に挑戦した。 2.活動概要 材料特性向上の目標として、研究プロジェク トでは次の具体的な数値を掲げて活動を行った。 1)軽量金属材料【小型軽量化】 降伏強度350MPa (従来の2倍)で伸び15% 以上の高性能マグネシウム合金 2)高強度高靭性鋼【小型軽量化】 1500MPa超級で衝撃吸収エネルギーを 300%以上にアップした高強度棒鋼 3)耐食鋼【長寿命化】 CuやNiなどの希少元素レスで100年メンテ ナンスフリー(腐食速度を従来の1/10)の耐食 性向上技術 4)火力発電用耐熱鋼【長寿命化】 650℃で長時間使用可能なフェライト鋼耐熱 鋼(従来の上限温度は610℃) ここに示した目標特性は、いずれも従来技術 の延長では達成できない挑戦的なものとして設 定された。また、プロジェクトの開始および中 間段階において、有識者からのアドバイスを頂 いて研究課題の選択と集中を行ってきた。 ここではプロジェクトの中心4課題とともに、 構造体化基盤技術としての溶接技術と解析基盤 技術としてのナノレベル力学解析について得ら れた研究成果の概要を示す。プロジェクト課題 では、実用化前段階までの成果を上げた火力発 電用耐熱鋼の課題に紙幅を割く。 3.研究成果 3-1脱希土類元素添加の高性能Mg合金1-2) (NIMS主要研究成果2009年度版、15頁) マグネシウム合金の高強度・高延性・高靭性 化には、準結晶粒子分散が有効な組織制御法で ある。しかし、マグネシウム合金中に準結晶相 を形成させるためには、熱的安定性などの観点 から希上類元素の添加が必要とされ、素材コス ト高などの課題があった。本研究では、安価な 汎用元素として知られるアルミニウムと亜鉛を 添加元素として選択し、組成の調整と適切な加 工熱処理により準結晶をマグネシウム母相内に 分散することに世界で初めて成功した。 開発合金は、汎用マグネシウム合金展伸材の 強度・延性レベルを凌駕し、希土類元素を添加 した準結晶粒子分散マグネシウム合金と同等レ ベルの強度・延性バランスを示している。(図 1)。金属組織の特徴は、準結晶粒子が微細に分 散していること、母相結晶粒が微細化している こと、それら微細結晶粒の結晶の向きがさまざ まに分布していることである。本合金は二次成 形性にも優れ、300℃以下の比較的低温におい ても立体的ロゴの転写や歯車などの複雑形状部 材の成形が可能である。(図2)。 開発合金は、軽量化による消費エネルギー低 減に加え、素材や二次成形加工コストなど、ト ータルコスト削減につながり、輸送機器用部材 だけでなく多様な用途拡大が期待できる。 図1開発マグネシウム合金と従来材との室温強度・ 延性比較 図2鍛造成形後の外観写真 3-2低温ほど壊れにくい超鉄鋼3-5) (NIMS主要研究成果2008年度版、7頁) 降伏強度が1400MPa以上の低合金鋼は顕著 な延性脆性遷移挙動を示し、室温以下では衝撃 吸収エネルギーがほとんどなくなるのが常識で あった(図3の通常材)。一方、開発材では既 存の超高強度鋼の延性脆性遷移温度域で衝撃吸 収エネルギーが室温よりもさらに上昇するとい う靭性の逆温度依存性を見出した。-20℃から 60℃では、500Jの衝撃エネルギーでも試験片 が完全に破断しないものもあった(開発材)。 靭性の向上は、割れが衝撃方向とほぼ直角に 分岐する層状破壊を起こすためと考えている (図4)。これまで靭性の逆温度依存性はいくつ か確認されているが、室温降伏強さ1840MPa の超高強度でかつ低温域での発現は画期的であ る。とくにNi、Coなどの希少元素に頼らない 超高強度低合金鋼の飛躍的な靭性向上はNIMS 独自の技術として国内外から注目を集めている。 図3 0.4%C-2%Si-1%Cr-1%Mo鋼の加工熱処理材(開 発材)と通常焼入れおよび焼戻し材(通常材)の衝 撃吸収エネルギーと試験温度の関係 図4シャルピー衝撃試験後のVノッチ試験片の外観 室温降伏強さ1840MPaで低合金鋼組成であ る開発材料は、寒冷地の資源採掘用機器部品な どを含めて多くの軽量高強度部品への適用が期 待されている。また、本研究で見出されたナノ ーミクロの階層的組織制御のコンセプトは、チ タンなどの他の金属材料へも適用可能である。 さらに、低温になるほど靭性が向上するという 現象は材料科学的に見ても興味ある課題であり、 破壊の基礎研究分野の活性化にもつながるもの と期待している。 3-3 メンテナンスフリーの耐食技術6,7) 耐食鋼のテーマでは、表界面への元素の濃縮 技術確立により耐食性向上を達成することを目 指した。まず、ナノ皮膜の構造・組成・強度の 解析技術を新たに確立し、耐食性皮膜のキャラ クタリゼーションを詳細に検討した。特に、海 浜地域で暴露した高耐食性耐候性鋼について、 さび層を収束イオンビームで切り出し、透過電 子顕微鏡を用いて状態解析を行い、耐食性皮膜 のナノレベル解析技術を確立した6)。 図5樹脂被覆金属ナノ材料 次の段階では、このナノ解析技術をもとに高 耐食性ナノ皮膜の形成技術を確立した。形成手 法は、化成処理を利用した外部からの合金元素 供給という全く新しいプロセスに取り組み、こ れによって腐食環境に強い材料を新たに開発し た。ここで、耐食皮膜の達成の鍵となるのは、 耐食性ナノ材料の創製である。AlおよびSiのナ ノ金属粒子を核として樹脂で表面被覆を行った ナノ材料の創製に成功し(図5)、特許出願を果 たした7)。 さらに、ナノ材料の表面樹脂の被覆率を変化 させることにより反応速度を制御する技術を確 立した。図6は、樹脂被覆金属ナノ材料の化学 反応特性を求めたものである。Alナノ粒子から 発生する水素量は表面樹脂量(wt%)で変化し、 表面樹脂量で化学反応性を制御することが可能 となっている。 このナノ材料の耐食効果により革新的耐食 性の付与を達成することが可能となった。これ まで提案されている多くのナノ材料のなかにお いて、本ナノ材料のように反応速度制御を達成 できるものは他に全く見られず、徐放性を付与 させたことは、極めて新規性が高い。 今後は、このナノ材料を耐食向上微粒子とし て利用し、実際の表面処理皮膜システムを創製 していく。耐食性微粒子の反応速度を制御する ことで短時間から長時間まで皮膜システムの高 耐食性を維持することが可能であると推察され る。 このように本ナノ材料および高耐食性ナノ 皮膜の形成技術は、極めて革新的であり、世界 をリードしている。これにより、社会インフラ の腐食劣化に対して、革新的な表面処理法の指 針提示が可能となった。 図6樹脂被覆金属ナノ材料の化学反応特性 3-4高効率火力発電のための耐熱鋼8,9) 粒界ナノ析出物の高温における遷移やクリー プ変形機構に立脚して、高温長時間クリープ強 度向上や溶接継手部のクリープ強度劣化を抑制 する合金設計指針を明確にし、従来鋼の使用上 限温度610℃を超える650 ℃で使用可能なフェ ライト系耐熱鋼を達成することを目的とした。 あわせて、実用化に必要な実プラント・主蒸気 管サイズのパイプ製造性やパイプ溶接性を民間 企業と共同で検討した。これにより、高効率で CO2を削減できる次世代火力発電プラントの実 現に寄与できる。 フェライト系耐熱鋼は、オーステナイト鋼や Ni基合金に比べて低熱膨張、高熱伝導度、低合 金元素量、低価格の特長を有するが、600℃以 上で長時間使用するとマルテンサイト組織の回 復・軟化が進行し、クリープ強度が劣化するた め、プラント高温化の障害になっていた。本研 究では、粒内の大部分で強化が十分であっても、 旧オーステナイト粒界近傍でマルテンサイト組 織の回復が進行すると局所的にクリープ変形が 促進され早期に破断するという機構解明に基づ いて、粒界に偏析し易いボロンを活用して粒界 近傍の微細な炭化物やマルテンサイト組織の長 時間安定化を図り、さらにナノサイズMX窒化 物による析出強化を複合活用した。 その結果、ボロンと窒素の添加濃度が低く焼 きならし温度(1100℃)で固溶する場合は、 650℃でボロンの効果とMX窒化物の効果が加 算的に作用し、添加濃度に応じてクリープ強度 は顕著に増大すること、ボロンと窒素を過剰に 添加すると、焼きならし熱処理中に粗大な窒化 ホウ素(BN)が生成し、特に固溶ボロンが激減 するため長時間でクリープ強度が劣化すること を明らかにした(図7)。ボロン濃度が140 ppm の場合、焼きならし温度で固溶する窒素は最大 で約95 ppmとわずかである。 従来鋼の溶接継手部の劣化は深刻であるが、 焼きならし温度でボロンが固溶する場合、溶接 時の加熱中のα/γ相変態挙動が従来鋼とは異 なり、溶接熱影響部の微細組織が母材部とほぼ 同一となるため、タイプ4 (Type Ⅳ)損傷と呼 ばれるクリープ強度劣化は起こらないことを、 650℃で3万時間程度までのクリープ試験で明 らかにした。タイプ4損傷による劣化を防止で きることを見出したのは本研究が初めてである。 α/γ相変態挙動が異なる機構として、ボロンの粒 界偏析によって拡散型相変態が遅延するモデル 図7140 ppmボロン添加9Cr鋼のクリープ強度に及 ぼす窒素添加の影響(650℃) を提案した。 固溶ボロンとナノサイズMX窒化物による母 材のクリープ強化、および、固溶ボロンによる 溶接継手のタイプ4損傷抑制を基に新たな9% Cr鋼(MARBN)を合金設計した。MARBNは、 従来のボイラ用フェライト系耐熱鋼の中で最高 強度のP92鋼と比較して650℃で母材のクリー プ強度が非常に高い上に、溶接継手でもクリー プ強度劣化を示さないことから(図8)、650℃ 級材料として有望である。 実プラント・主蒸気管サイズのパイプ製造や パイプ溶接が MARBNで可能であることは、 NIMSと民間企業との共同研究で3トン溶解イ ンゴットを用いて実証した(図9)。 MARBNは、国が推進するA-USC (高効率 火力発電)プロジェクトで主蒸気管用フェライ ト系耐熱鋼の候補材の一つに挙げられ、現在、 実用化のための各種試験が民間企業主導で行わ れている。 3-5構造体の特性向上を図る溶接技術 能率が良いために構造体化技術として広く使 用されている溶接技術(消耗電極式溶接:GMA 溶接)では、安定な溶接施工を行うために、数% の酸素や数十%の二酸化炭素を含んだシールド ガスが使用される。その結果、溶接金属(溶接 継ぎ手部)の酸素量が増加し、延性や靱性が低 下する(図10の通常溶接施工法)。 優れた特性を持つ材料の開発にともない、当 然のことであるが、これらを構造体化すること が必須とされ、構造体自身にも高い性能が求め 図8MARBN鋼(開発材)と従来鋼P92の母材および 溶接継手のクリープ試験結果(650℃) 図9 MARBN鋼(開発材)の実規模パイプ製造および パイプ溶接(NIMS-民間企業共同研究) られる。特に、高強度材料や低温用鋼などでは、 高能率な溶接ができると同時に、高性能な溶接 継ぎ手の形成を可能とするGMA溶接が求めら れる。重要な継ぎ手性能の1つとして靱性があ げられる。GMA溶接で靱性を確保するために は、酸素や二酸化炭素などの酸化性ガスを含ま ない純アルゴンをシールドガスとして使用し、 溶接金属の酸素量を低減することが有効である。 しかしながら、シールドガスを純アルゴンとす ると溶接が不安定となり、図11に示すような 蛇行ビードを形成し、実用化は不可能とされた。 そこで、純アルゴンシールドガスでも安定な GMA溶接を可能とするために、溶接ワイヤの 溶融挙動を解析し、図12に示すように、直径 1.2mmのワイヤを2重構造とした同軸複層ワ イヤを開発した10-12)。中心部(芯線)の径は 0.6mm、外周部厚さ(フープ)は0.3mmで、 中心と外周部に融点差を持ち、平均組成は溶接 ワイヤとして適正な組成となっている。このよ うなワイヤ構造にすることによって、純アルゴ ンシールドガス中の溶接挙動は劇的に変化し、 安定な溶接が世界で初めて可能となった。その 結果、溶接の靱性は図10で示すように改善さ れ、純アルゴンGMA溶接施工技術が確立でき た。この技術をベースとして、実用化に向けた 研究をNEDOプロジェクト(2007-2011年) で展開した。 NIMSではこれまでに溶接時の残留応力を低 減できる低変態温度溶接材料を開発している。 これを同軸複層ワイヤとして、純アルゴン GMA溶接施工を行えば、構造体の疲労強度向 上による寿命延長、靱性や延性の改善などが期 待でき、老朽化した社会鋼構造インフラ設備の 補修・補強のみならず、設備の再生につなげる ことができる。さらに、喫緊の課題となってい る地震等でダメージを受けた鋼構造物の補強・ 補修溶接技術としての適用が期待できる。 一般的に溶接すると性能が低下すると言わ れるが、その常識に反し、性能向上を図ること ができる革新的溶接プロセスとして今後の適用 拡大を目指している。 溶接金属中の酸素濃度(ppm) 図10通常溶接施工法により作成した溶接部の吸収 衝撃エネルギーと、開発溶接法(純アルゴンGMA溶 接)により作成した溶接部の吸収衝撃エネルギー 図11純アルゴンシールドガスを用いた通常のGMA 溶接施工法で形成される溶接ビード 図12純アルゴンGMA溶接を可能にする同軸複層ワ イヤ 3-6組織―力学関係の解析技術の高度化 ナノ―ミクロの階層的組織において、組織― 力学関係の解明に必須となるナノレベルの力学 特性解析技術の高度化を達成した。この解析技 術は、「開発材料はなぜ優れた特性を示すのか」 というWHYに応えるとともに、メカニズム解 明を通してさらに優れた材料の開発指針の構築 につながる。これまでに取り組んできた解析技 術の高度化の一例としてナノインデンテーショ ン法の応用を示す。 力学特性を支配する重要な組織因子である結 晶粒界に着目し、荷重下においてnm以下の分 解能で変形量を測定できるナノインデンテーシ ョン法を応用して、粒界近傍における変形挙動 を解明した。Fe合金において、荷重―変位曲線 上にpop-inと呼ばれる塑性変形開始挙動が現 れることを明確にし、粒内よりも粒界ではより 低い応力で塑性変形が開始することを明らかに した(図13)。この結果は、粒界近傍に有効な 転位源が存在することを示唆しており、粒界強 化機構の理解に大きく寄与した13)。 組織―力学関係の解析手法をさらに高度化す るため、透過電子顕微鏡内その場ナノインデン テーション技術の開発を行った。TEMによっ て変形中の転位運動をその場で観察し、同時に 計測される荷重―変位曲線との関係を解析する ことによって、変形組織と力学挙動の関係が明 確化される。Fe-Si合金に応用した結果、bcc 金属中の易動度が低いらせん転位が多く観察さ れ、これらの転位運動が変形抵抗を支配してい ることが明らかとなった14)。また、pop-inと して特徴的に現れる変形抵抗の急激な低下は、 転位密度の急激な上昇に伴って発現することが 明らかとなった(図14)。これは、転位の増殖 速度が流動応力に影響することを示唆する重要 な結果である。 図13 Fe合金の粒界上および粒内のナノインデンテ ーションで得られた荷重―変位関係(左上は粒界上 の圧痕SPM像) 図14 Fe合金のTEM in-situナノインデンテーションで 得られた急激な流動応力の低下に伴う転位密度増加 4.今後の研究動向 長期的視点からは、溶解、鋳造、鍛造、圧延、 熱処理、接合などの基盤プロセス技術を、先進 的な解析・計測技術とともに材料研究における 両輪として位置付け、これらを最大限に活用し た研究を今後も継続して遂行する。その中でも 元素戦略的視点に基づいた研究に重点をおき、 特性発現のための元素機能を解明することによ って希少元素に頼らない高性能な構造金属材料 の開発に向けた研究を推進する。これらの研究 は、NIMS第三期中期計画では元素戦略材料セ ンター構造材料ユニットにて主として実施され る。 中期的視点としては、震災後のインフラ復興 のために、現在までに得られた研究成果を最大 限に生かす取り組みを行う。塗装メンテナンス フリーの橋梁のための表面処理耐食技術、高能 率高安全を達成する溶接技術、緊急補強材とし ての高強度高靭性鋼などが候補に浮かぶ。これ らはNIMS全体としての取り組みの中で進め ていく。 参考文献 1)H. Somekawa, Y. Osawa, A. Singh, T. Mukai: Scripta Mater., 61(2009)705. 2)PCT/JP2010/050575, PCT/JPN2009/060188 3)Y. Kimura, T. Inoue, F. Yin, K. Tsuzaki : Science, 320(2008)1057. 4)木村勇次:ふぇらむ、14(2009)154. 5)PCT/JP2006/323248 6)T. Nishimura: Corrosion Science, 52(2010) 3609. 7)T. Nishimura and I. Miura: Japan Patent 2009-066210(2009), submitted. 8)F. Abe: Sci. Technol. Adv. Mater., 9(2008) 013002. 9)F. Abe, M. Tabuchi, S. Tsukamoto and T. Shirane: Intern. J. Pressure Vessels Piping, 87(2010)598. 10)T. Nakamura, K. Hiraoka: STWJ,13 (2008)25. 11)T. Nakamura, K. Hiraoka: Quarterly Journal of JWS, printing(2011). 12)特願 2005-20309、特願 2005-171434 13)T. Ohmura and K. Tsuzaki: J. Mater. Sci., 42(2007)1728. 14)L. Zhang, T. Ohmura, K. Sekido, K. Nakajima, T. Hara and K. Tsuzaki: Scripta Mater. 64(2011)919-922. 次世代太陽電池センターの2年 ―高効率及び低コストの次世代太陽電池を目指した光電変換機構の解明と新規構造・材料開発― センター長韓礼元 1.センターの目的 次世代太陽電池センターは、地球温暖化防止 や深刻化するエネルギー問題解決の為、2009 年3月に発足した。現在実用化されている、結 晶シリコン太陽電池の課題(原料不足・高発電 コスト)を解決し、太陽電池を社会へ飛躍的に 普及させるべく、新材料による次世代太陽電池 の創製を目的とする。 2 .活動概要 当センターでは、低コスト次世代太陽電池の 高効率化技術の確立を目指して、光電変換機構 の解明、新規電池構造の創出、新たな電池材料 の創製を主な研究課題として、色素増感太陽電 池、有機薄膜太陽電池、量子ドット太陽電池、 多接合化合物太陽電池、薄膜シリコン太陽電池 の5つの太陽電池研究を推進している。本報告 では紙面の都合もあり、次世代太陽電池として 最も注目されている色素増感太陽電池、有機薄 膜太陽電池、量子ドット太陽電池について記載 する。 3.研究成果 3-1色素増感太陽電池の研究 色素増感太陽電池(図1)は酸化チタン (TiO2)、増感色素、ヨウ素系電解質などの、 資源的な制約が少ない廉価な材料で構成され、 高温・高真空プロセスを使用しない、大量生産 に適した構造であることから、モジュールの生 産コストを大幅に下げる可能性を有し、低コス ト次世代太陽電池として注目されている。また 色素を変えることでカラー化、基板材料をプラ スチックに変えることでフレキシブル化も可 能である。低コストでデザイン性に優れた色素 増感太陽電池が実用化されると、住宅、工場、 交通機関のありとあらゆる場所に設置できる と期待されている。しかし、色素増感太陽電池 はシリコン太陽電池に比べて、エネルギー変換 効率が依然低いのが現状である。電池内部の電 荷輸送などのデバイス物理の解明など、高い変 換効率を得るための基礎研究を行っている。 図1色素増感太陽電池の模式図 3-2 メカニズムの研究 色素増感太陽電池において、電解液中の 4-tert-ブチルピリジン(TBP)などの添加物は 開放電圧(Voc)を向上させるために使用され るが、TBPの添加はVocの向上と共に短絡光 電流(Jsc)低下を引き起こす。VocとJscのト レードオフのメカニズムを解明し、TBPによっ てJscを維持しながらVocを向上できれば、変 換効率15%も可能である。一般的に、VocとJsc のトレードオフは、TiO2表面でのTBP吸着が TiO2を負に帯電させるため、TiO2のフェルミ 準位が高エネルギー側にシフトし、色素から TiO2への電子注入効率が低減したと考えられ ている。しかし、実際にTiO2の正確なフェル ミ準位を計測することは難しいため、過渡吸収 分光法や計算化学において間接的な方法で推測 されていた。今回、TiO2多孔膜の擬フェルミ準 位(QFL)を検知するため、色素増感太陽電池 のTiO2膜上にTi電極を挿入した(図2)。陽極 である透明導電性酸化物(TCO)電極と陰極で ある対極に加え、Ti電極の3つの異なる電極を 有した色素感太陽電池を作製し、TBPを電解液 に添加した時のTiO2膜のQFLの影響を調べた 1)。 陽極と陰極間の印加電圧を変えて光電流と 陰極に対するTi電極の電位を検知した。Ti電 極の電位がQFLに相当する。電解液に加える TBP量が増加するのに伴い、QFLの高エネル ギー側へのシフトが初めて確認され、色素増感 太陽電池のVoc向上に寄与していることを示し た。短絡状態でもTBPによるQFLの高エネル ギー側へのシフトが初めて確認されたことで、 TBPのJscに与える影響を研究する上で重要な 情報が得られた。 図2 TiO2膜における擬フェルミ準位(QFL)を検知する ためTi電極を挿入した3極式色素増感太陽電池 3-3デバイスの高効率化研究 色素増感太陽電池のTiO2膜について検討を 行った。粒径分布による光閉じ込め効果の解析 を行い、800 nm近辺の光をより多く閉じ込め るため、各層の粒径や粒径分布を適正化した。 また、TiO2膜電極を多層化し、より一層、光閉 じ込め効果を向上させることができた。さらに、 色素吸着時の添加剤の濃度や吸着条件などの検 討を行った。添加剤の使用は TiO2表面におけ る色素の会合防止に有効であることが分かった。 その結果、効率11.1%を達成できた(図3)。当 センターにおいても、色素増感太陽電池の世界 最高効率を実証した。 図3 NIMSでのセル変換効率 3-4高性能材料の開発研究 高効率化のため、増感色素の近赤外領域の光 感度の向上が重要となる。ここで、β-ジケトナ ートターピリジンルテニウム(Ru)錯体構造に 種々の置換基を導入した2)。その結果、新規Ru 錯体は増感色素として可視光から近赤外光 (350 nmから1000 nm)までの広い波長領域 において高い光電変換特性を示した。 また通常用いられるチオシアナート単座配位 子(NCS-)に対し、長いアルキル鎖を有する βジケトナート二座配位子をRu金属に配位させ た新規錯体色素を設計・合成した。本色素は、 可視光波長領域において高い外部量子収率を有 することが分かり、浸漬時の共吸着剤が不要と なることが分かった3)。本増感色素の開発によ り、色素増感太陽電池の高効率化の手掛かりを つかんだ。 ナノポーラス材料中の電荷移動を向上する目 的で、細長いTiO2ナノ ロッドを新たに作製し た4)。TiO2ナノ ロッドは細長い形状に加え、結 晶構造がルチルであるため、光屈折率がアナタ ースやブルカイトに比べて大きく、光閉じ込め 効果を有効に発揮できることが分かった(図4)。 図4TiO2ナノ ロッドのSEM像 3-5有機薄膜太陽電池の研究 有機薄膜太陽電池(図5)は、色素増感太陽 電池と同様に、低コストでデザイン性に優れた 太陽電池として盛んに研究が行われている。正 孔輸送性と、電子輸送性をそれぞれ示す有機分 子を積層した低分子型太陽電池と、正孔輸送性 を示すポリマーと、電子輸送性を示すフラーレ ン誘導体が、ナノレベルで混合したバルクヘテ ロ接合の高分子型太陽電池に分けられる。当セ ンターでは、低コストが可能な高分子型を中心 に、材料から分子の電子状態・配列から半導体 物性までの基礎研究を行うことで高い変換効率 を目指している。 現在、p型のπ共役高分子とn型の可溶性フ ラーラン誘導体の混合薄膜を用いたバルクヘテ ロ型有機薄膜太陽電池は、進捗が目覚ましく、 材料やデバイス構造は公開されていないが、 2011年にはエネルギー変換効率8.3%が得られ 図5有機薄膜太陽電池の模式図 図6 P3HTとPCBMの構造式 ている。当センターでは、バルクヘテロ型有機 薄膜太陽電池で一般的な材料およびデバイス構 造を用いて、標準的な特性を有する有機薄膜太 陽電池の作製を試みた。また、その過程にお いて、有機薄膜太陽電池の問題点や改善点の抽 出を行った。 材料は正孔輸送性のポリチオフェン誘導体で あるP3HTと電子輸送性の可溶性フラーラン誘 導体PCBMを用い(図6)、ガラス基板/透明電 極 ITO/PEDOT:PSS/P3HT:PCBM (1:1(重量 比))/LiF/Alのデバイス構造を作製した。この 有機薄膜太陽電池をAM.1.5の疑似太陽光下で 電流-電圧測定を行い、太陽電池特性を導出した。 図7 P3HTとPCBMを用いた有機薄膜太陽電特性 上記のデバイス構造で得られた太陽電池特 性は、短絡電流Jsc=9.9 mA/cm2開放電圧 Voc=0.64V、フィルファクターFF=0.64、エネ ルギー変換効率Eff=3.8%であった。(図7) 国内学会では同様の材料でエネルギー変換 効率1~2%の報告が多く、当センターで作製し た標準太陽電池は高い特性を有していることが 分かる。また、PCBMとしてC70のPCBMを 用いた場合では、Jsc=11.1 mA/cm2、 Voc=0.59 V、 FF=0.66、Eff=4.3%が得られた。この太陽電池 における外部量子効率(IPCE、外部回路を流 れる電子数/入射した光子数)を図8に示す。 570 nmに77%のP3HTの光吸収に由来した 高いIPCEが得られており、その波長でのITO 透明電極の透過率が83%であることを考える と、内部量子効率(外部回路を流れる電子数/ 吸収した光子数)はほぼ100%となる。P3HT に代わって変換効率の大幅な向上には、IPCE を長波長側に拡大して高いJscを得るための新 規材料の開発が必要である。 図8 P3HTとC70PCBMを用いた 有機薄膜太陽電池のIPCE そこで当センターでは2010年度より、他研 究機関と共同で、均質なアモルファス薄膜を形 成し、誘導体を合成しやすいトリフェニルアミ ン系太陽電池用材料の開発を行ってきた。トリ フェニルアミン系材料は、本来、有機ELの正 孔輸送材料として開発され5)、吸収波長が400 nm以下であるため、太陽電池材料としては利 用出来ない。そこで吸収波長を長波長化するよ うにトリフェニルアミン(ドナー)とベンゾチ アジアゾール(アクセプター)を同一分子に有 する材料を開発した。(図9) これらの材料は、吸収波長が550 nm付近に あり、有機EL材料から太陽電池材料への展開 が可能になった。アモルファスであること、分 図9開発したトリフェニルアミン― ベンゾチアジアゾール材料 子内にアクセプターを有することから、正孔移 動度は10-5 cm2/Vs 程度(P3HT は10-3 cm2/Vs 以上)、と低かったが、正孔移動度の低い材料に おいても混合するPCBM比率や膜厚の最適化 によりEff=1%を達成した6)。これらの材料は、 予備実験段階での材料であったが、同様の骨格 で新規開発した材料(正孔移動度10-4 cm2/Vs) を用いた太陽電池ではJsc=7.5mA/cm2、 Voc=0.92V、FF=0.39、Eff=2.7%の特性が得ら れている。特筆すべきは高いVocである。この 電圧を維持しつつ、材料開発によるJscの向上、 有機/電極界面の改良によりFFを向上させ、 P3HTの太陽電池特性を超える新規材料を開発 することが次期の目標である。 3-6量子ドット太陽電池の研究 当センターでは、量子ドット(QD)を利用 した中間バンド型太陽電池(図10)を対象に研 究を行った。この太陽電池の特徴は、伝導帯と 価電子帯の間にバンドを形成することで、バン ドギャップより低いエネルギーの光も吸収でき ることである。効率は理論的に約63%という非 常に高い値が予測されている。この太陽電池の 課題は、実際に中間バンドが理論で予測される ように機能するかどうか、および中間バンドの 実現である。中間バンドの候補として、量子ド ットが注目されている。量子ドットは、数十ナ ノ メートルの大きさで、電子や正孔を3次元的 に閉じ込めることができ、離散的な電子状態を 有することが大きな特徴である。量子ドットを 用いて中間バンドを形成するには、近接して配 置された量子ドットを周期的に作る必要がある。 中間バンド型太陽電池について、我々のグル ープは二つの取り組みを行っている。一つは格 子整合系量子ドットを用いた太陽電池で、もう 一つは積層多重量子井戸構造を利用した太陽電 池である。 (1)格子整合系量子ドット太陽電池 歪みを利用した自己形成手法では、積層化に よって結晶性が劣化することが知られている。 そこで我々のグループでは、歪のない格子整合 系の量子ドットを用いて研究を行っている。量 子ドットの作製には、当機構で開発した液滴エ ピタキシー法(液滴形成とその結晶化の二つの ステップからなる量子ドットの自己形成手法) を用いた。 図10中間バンド型太陽電池の概念図 図11AlGaAs上に形成したGaAs量子ドットの原子 間力顕微鏡像(a)と量子ドットのある太陽電池とな い太陽電池の電流電圧特性(b) 図11(a)はGaAs量子ドットの原子間力顕微 鏡像である7)。この量子ドットを5層積層した 構造を有する太陽電池を作製した。量子ドット による光電流を検証するために、ソーラーシミ ュレータに700 nm以下の光をカットするフィ ルターを取り付けて電流電圧特性を測定した。 その結果を図11(b)に示す7)。量子ドットの無い 太陽電池と比較し、量子ドットの有る太陽電池 では、明瞭な光電流が得られていることが分か る。今後の課題は、量子ドットの高密度化と近 接構造による多層化を実現し有効な中間バンド を形成すること、および中間バンド型太陽電池 の動作原理の基本である2光子吸収による光電 流の検証である。 (2)多重量子井戸型太陽電池 自己形成量子ドットを用いて、中間バンドを 形成するには大きな技術的課題がある。そこで、 電子ドット間の結合の電子状態が素子特性に与 える影響や結合構造における課題を明らかにす る目的で、量子ドットの代わりに量子井戸構造 を用いて研究を進めた。なおこの構造では、積 層方向にミニバンド(中間バンドに対応)が形 成される。 図12は、結合のある多重量子井戸(b)と結合 のない多重量子井戸(a)の二つの太陽電池の電 流電圧特性の結果である8)。照射した光は、障 壁層のバンドギャップより低いエネルギーであ る。その結果、結合の無い構造では単調に電流 が減少するのに対し、結合のある構造では、低 バイアス領域から電流が大きく減少することを 見出した。結合構造における光電流の急激な減 少は、光照射で生成したキャリアの蓄積が関与 していると考えている。今後は、量子構造から 効率的にキャリアを引き抜く手法の開発が課題 となる。 4.今後の研究動向 2020年までに温室効果ガス25%削減に貢献 する為、次世代太陽電池の高効率化、低コスト 化を目指した次世代太陽電池(色素増感太陽電 池、有機薄膜太陽電池、量子ドット太陽電池) に特化して材料開発を行う。 色素増感太陽電池は、現在、変換効率11%を 達成したため、企業を中心に信頼性、大面積化 などの実用化研究が行われているが、2020年の 国の太陽電池発電コスト目標(14円/kWh)を 達成するためには、変換効率を更に引き上げる ことが不可欠である。引き続き、メカニズムの 解明による材料とデバイス開発を行い、変換効 率の向上を目標とする。 有機薄膜太陽電池においては、現在報告され た変換効率は8%であり、携帯端末などの室内 用太陽電池として米国を中心に研究が活発に行 われている。室内光は光強度が弱いため、実用 図12結合のない多重量子井戸(a)と結合のある多 重量子井戸(b)太陽電池における電流電圧特性. 測定温度は77 K 化するには高い変換効率が必要と言われている。 従って、高光捕集能・高キャリア移動度を兼ね 備えた新規材料開発を中心に行うとともに、デ バイスメカニズムの解析で変換効率向上の手段 を明確化する。 量子ドット太陽電池においては、40%以上の 変換効率が理論的に予想されており、超高効率 化とともに太陽電池の低コスト化が期待され、 量子効果や電荷分離に関する基礎研究がなされ ている。しかし、まだ量子効果による大電流の 取り出しなど発電原理の確認には至っていない。 2030年以後の国の太陽電池発電コスト目標(7 円/kWh)を達成するため、変換効率40%以上 の量子ドット太陽電池の動作原理を検証する。 3つの太陽電池に共通して、電池性能がナノ材 料や各界面における構造やエネルギー状態、電 荷移動過程に大きく依存する。次世代太陽電池 の性能を向上するためには、ナノ材料や各界面 における光励起電子移動過程について、高感度 で高速時間分解能を有する、過渡吸収分光法に よる計測を行い、更にナノ材料や各界面の構造 やエネルギー状態をシミュレーションによる解 析を行うことで、計測と計算を対比させ、新規 材料とデバイス構造の設計指針を得たいと考え ている。 参考文献 1)S-F. Zhang, M. Yanagida, X. Yang, and L. Han: App. Phys. Exp. in press. 2)S. Gao, A. Islam, Y. Numata, and L. Han: App. Phys. Exp. 3(2010)062301. 3)S. P. Singh, A. Islam, M. Yanagida, L. Han: International Journal of photoenergy. (2011)757421. 4)W. Peng, M. Yanagida, and L. Han: J. Nonlinear Opt. Phys.,19(2010)673. 5)T. Yasuda, T. Suzuki, M. Takahashi and T.sutsui: Chem. Lett. 38(2009)1040. 6)T. Yasuda, T. Ishi-i and L. Han: J. Photopolym. Sci. Tech. 23(2010)307. 7)T. Noda, T. Mano, M. Elborg, K. Mitsuishi, K. Sakoda: Journal of Nonlinear Optical Physics & Materials, 19(4),(2010)681. 8)T. Noda, T. Mano, K. Sakoda, and H. Sakaki: Phys. Status Solidi C 8(2)(2011) 349. その他 【書籍】 1)韓礼元:太陽電池の基礎と応用(2010)258. 2)韓礼元:有機エレクトロニクス2011新市場 を切り開く(2010)80. 3)韓礼元:太陽電池 革新技術全集2009年版 (2009)464. 4)韓礼元、柳田真利:仕事関数・イオン化ポテ ンシャルの計測・評価と制御・利用事例集 (2010)301. 【特許】 1)A. Islam, S. P. Singh, and L. Han: Japan Patent 264260(2010). 2)A. Islam, S. P Singh, and L. Han: Japan Patent 264427(2010). 3)A. Islam, Z. Chen, and L. Han: Japan Patent 268761(2010). 4)H. Nakamura, M. Matsuura, T. Maeda, and T. Yasuda: Japan Patent 239746 (2009). 環境エネルギー材料萌芽ラボの5年 ―サステイナブルな未来を創る材料の芽を育てる― 環境エネルギー材料萌芽ラボ長 原田幸明 1.目的 地球温暖化防止に向けて経済、生活のあらゆ る分野でCO2発生量削減の取り組みが進めら れている。この中で最も期待されているのが革 新的技術の開発によるエコイノベーションとそ の普及であるが、環境エネルギー材料はそのさ まざまなエコイノベーション技術を具現化する キーテクノロジーである。この環境エネルギー 材料の開発には、太陽電池や超伝導材料のよう に集中的な取り組みで世の中のニーズに応えて いく取り組みとともに、長期的な視点から従来 とは全く異なるメカニズムの機能原理を発揮す る材料や時間をかけて革新的なプロセスを高度 化させていく材料技術が必要である。環境エネ ルギー萌芽ラボは、そのような息の長い基礎研 究や抜本的な材料開発を準備し、将来の環境エ ネルギー材料の基礎の構築を進めた。 2 .活動概要 【白金族金属】高温における形状回復効果の評 価および組成制御による変態点制御。【エコエ ネルギー】p-型Mg2(SiSn)の更なる高性能化と 熱電における析出物効果の解明。【照射効果】 316鋼冷間加工材のHe予注入・照射下疲労試 験開始と高濃度He含有低放射化鋼10000時間 クリープ試験。【電界放電プロセス】アセトン溶 媒の湿式電界紡糸条件の把握。25および13μm の極細熱電対の作製。【先進低温工学材料】室 温磁気冷凍の共同研究を加速するとともに、水 素磁気冷凍の実用化をはかる。【先端機能物性 理論】「汎関数くり込み群」の対象とする物質 群の拡張と高温超伝導性や量子臨界性の解明。 【量子理論物性】熱エネルギーを電流やスピン 流へと変換する。「熱電・熱スピン量子ホール効 果」のターゲット物質の理論探索。【有機デバイ ス】多種多様な有機半導体それぞれの個性が活 かせるデバイスの選択、作製、評価。【磁気ナ ノデバイス】磁性体を含むナノ構造利用の情報 記録・演算・通信関連物性現象の開拓とデバイ ス 開発。【nanodynamic物質 design】 高規則性 複合酸化物メゾポーラ材の実用化開発。【ナノ セラミクス応用】医用ナノセラミクス合成。 3.研究成果 3-1メゾポーラス吸着センサーの開発 環境浄化の観点から有害元素に対する極微量、 高速、かつ可視化可能な吸着センサー材料を開 発した。これはシリカに代表されるメゾポーラ ス材料の内孔表面に高密度で目的元素を捕獲し さらに電荷移動により呈色反応をもたらすもの であり(図1)、ppbオーダーで数分で反応を起 こす。これにより、Hg,Cd,Pb,Cr,Cuなど1)に加 え、従来困難とされてきたAsの即時検出と除 去2)も可能とした。 図1Pool-On-surface状態をも用いた高密度捕獲膜 図2 メゾポーラス吸着センサーによるCoの回収 さらに、上記技術を有害元素の検出、除去だ けでなく、電子機器などに含まれるレアメタル の希薄溶液からの回収技術への適用を図った。 その結果、図2のように携帯電話機の粉砕物(都 市鉱石)でNi,Feの高濃度混在状態から微量の Coを選択的に抽出する捕獲膜3)を開発した。 3-2微小熱電対の作製に関する研究 熱電対は、熱電能の異なる2本の金属線を接 合した温度センサーである。線径が小さい微小 熱電対は応答速度が速く、また熱容量の小さな 対象を測定するのに適している。 そこで、当グループで開発した微小放電接合 技術で、K熱電対の素線である、線径50μmの アルメル線とクロメル線を接合して微小熱電対 の作製を行った4)。 大気中で、高電圧・低電流の放電プラズマを 発生させて接合を行うと、図3に示すように放 電炎が変化していき、最終的に素線の先端が溶 融・一体化して、図4のような測温接点が形成 された5)。 現在、歩留まりは悪いものの、市販の最小線 径である13μmの素線を使ったK熱電対の作製 にも成功している。 このようにして試作された微小熱電対は、熱 応答速度は800℃/sec.以上であり、例えばJIS 規格で最小の0.65mm径の熱電対の熱応答速度 の40倍以上であった6)。 図3放電炎の変化 図4微小放電接合による測温接点 図5は熱容量の小さな測定物を、試作した線 径の異なる熱電対で測定した結果で、素線の熱 伝導のため、線径が細い方が真値に近い値とな った。この結果は、熱分析時に微小熱電対を使 うと試料量が少なくともよいことを示す。また、 熱分析以外にもマイクロタスをはじめとするオ ンチップ上の反応操作の研究、あるいは集積回 路の熱管理等への応用が考えられ、実際に微小 熱電対をハヤブサが持ち帰った試料の熱分析チ ームに提供して利用された。 図5測定に及ぼす線径の影響 3-3高性能熱伝変換材料 熱電変換は物質中のキャリアによる熱エネル ギー輸送現象を応用したソリッドステートのエ ネルギー変換で、物質に温度差を与えるだけで 発電したり、電流を通すだけで冷却や加熱が可 能である。したがって、地熱や太陽熱などの再 生可能エネルギーや低品位の排出エネルギーに よる発電およびフロンレスの冷却・加熱ができ、 環境にやさしいエネルギー変換技術といえる。 エネルギーや地球温暖化の問題が深刻度を増す なか、エネルギーや廃熱を有効利用して発電を 行う高性能な熱電変換デバイスの実現が望まれ ている。 当グループでは、熱電変換材料として、ケイ 化物系および高分子系の材料について研究開発 を実施した。主な成果は以下の通りである。 1)ケイ化物系 Mg2(SiSn)系熱電材料について、1)液―固相 法で合成した原料インゴットを粉砕・分級、2) 平均粒径の異なる原料粉末を調整、3)ホットプ レスによる焼結、の合成プロセスを確立して、 ミクロンオーダーで結晶粒径の異なる場合でも 密度99%以上の焼結体を得た。これにより合成 した焼結体を用いて検討した結果、熱電特性に 対する結晶粒の影響はほとんど認められないこ とを明らかにした。さらに、p型Mg2(SiSn)系 熱電材料における第2ドーパントの格子間添加 効果についても検討を行った。Ag添加の Mg2(SiSn)に第2ドーパントとしてLiを添加し た結果、Ag+Liの二重添加はAgのみの添加よ りも約10%変換効率が高くなることを見出し た。無次元性能指数ZT(=S2σT/K、S:ゼーベッ ク係数、σ:電気伝導率、T:絶対温度、K:熱伝導 率)は1.2を達成した。 2)高分子系 大気中で安定な導電性高分子であるポリチ オフェン系を対象として、これにヘキシル基、 オクチル基およびドデシル基のアルキル基を配 した場合、側鎖分子の分子量が大きくなるに従 って電気伝導率は小さくなり、それに伴って出 力因子( = S2σ)も小さくなる傾向を示した。 興味深いのは、88~400Kの温度範囲において、 いずれも最近接間ホッピングを示し、温度上昇 と共に電気伝導率が飛躍的に大きくなる傾向を 示したことである。側鎖を有しないポリチオフ ェンがバリアブルレンジホッピングを示すのと は対照的で、最近接間ホッピングによるエネル ギーフィルタリング効果も示唆された。 3-4白金族金属の有効利用 白金族金属は、触媒として利用されている他、 耐熱性、耐酸化性、耐腐食性に優れていること から、エレクトロニクス用単結晶育成のための 超高温用「るつぼ」や自動車エンジン用スパー クリ ングプラグ、 耐熱コーティング材料などの 高温材料、ガラス溶解炉材料としても使われて いる。白金族金属ほどの耐熱性、耐酸化性、耐 腐食性を有する金属はないため、他元素では代 替が難しい。また、産出国や生産量が限られて いるため、機能を落とさずに白金族金属の使用 量を減らし、白金族金属の特性を極限まで生か した高機能材料の開発が重要課題である。とこ ろが、白金族金属は、高価であり、また融点が 高いことから実験が難しく、状態図、機械的性 質、物性などのデータがそろっていないのが現 状である。そのため、合金設計を行うには試行 錯誤に頼るしかなく、白金族金属・合金の性能 を十分に引き出せなかった。そこで、これまで スポットがあたってこなかった超高温材料およ び、コーティング材料に特に着目し、未解明な ことの多い白金系合金の基礎データを構築した。 また、排ガス清浄化触媒として白金系金属の需 要の半分を占める触媒材料については、安定な 原子秩序を持つベルトライド型金属間化合物に 着目し、化合物の原子秩序と電子構造を指針と した新たな触媒材料の探索を行うとともに、ナ ノ粒子合成プロセスを開発した。 主な成果は、下記の通りである。 ・白金族金属の中でも、高温強度に優れるが、 耐酸化性に問題があったIr合金の有効な表 面改質法とそのプロセス条件を明らかにし、 超高温において、高強度と優れた耐酸化特性 を有する合金開発に成功した。 ・ジェットエンジンなどに使用される耐熱材 料であるNi基超合金のコーティング材とし て白金系の材料が使われているが、従来より も酸化特性、高温腐食特性に優れたコーティ ング材の開発に成功し、新たなプロセス法と して、電気めっきにも成功した。 ・触媒材料については、活性原子の内殻電子状 態が触媒材料探索における有効な指標である ことを明らかにし、いくつかの化合物につい てはナノ粒子合成も成功した。 3-5先進低温工学材料と冷却システムの開発 熱と磁性との関わりを調べ、強磁場中で磁性 材料が示す発熱・吸磁現象(磁気熱量効果)や 熱輸送用特性を応用した先進材料の開発を図り、 これを利用したシステム機器への応用を進めて いる。磁性体を用いる磁気冷凍方式は、高い効 率をもつ次世代の冷凍方式として注目されてい る。その対象は超低温から室温領域まで多岐に わたっており、NIMSにおいては複数のプロジ ェクトについて積極的に取り組んできた。 NEDO水素革新技術プロジェクトでは、磁気 冷凍による水素液化実証システムの研究を行い、 水素の液化サイクルや予冷サイクルに関する多 くの知見を得るとともに、水素貯蔵や輸送に必 須な液体水素生成技術への展開をはかった。 JAXA宇宙環境利用プロジェクトでは、ADR超 低温発生装置をNASAとともに開発し、特に新 材料GLFの開発では大きな成果をあげた。こ の材料はNASAを初めとする主要研究機関で 採用されている。また、室温磁気冷凍技術の基 礎研究も行い、磁性材料や冷凍サイクルについ て多くの知見を得た。これらの研究で中心的に 取り上げられている酸化物系磁性材料は、それ ぞれのシステムで性能の要となっている。例え ば、開発された酸化物磁性体Gd2O2Sは、超伝 導機器の冷却に不可欠な4K冷凍機の性能を飛 躍的に高めることが実証されており、MRIなど の実用機器への利用が拡がっている。 3-6有機デバイス材料 有機半導体を用いた有機デバイス(有機トラ ンジスタ、有機EL)は、低コストプロセスの 適用、大面積でフレキシブル・軽量化が可能で あり、次世代の環境調和型デバイスとして期待 されている。本研究では萌芽研究として、既存 の材料開発方針に囚われない自由な発想で有機 物の機能や個性を活かす材料開発を行ってきた。 有機トランジスタに関する研究は、低分子有 機半導体単結晶で隣接分子間のπ電子の重なり を介したキャリア輸送が主流であるが、この輸 送には限界がある。その現状を打破するため、 高分子の加工性、柔軟性を活かした延伸法によ り高度に配向したπ共役高分子集合体を作製し、 高分子主鎖方向のキャリア輸送を利用した高性 能有機トランジスタの可能性を検証した。 具体的にはポリチオフェン薄膜を5倍延伸し た配向薄膜上にトランジスタを作製した。飽和 電流より求めた平行方向での正孔移動度は2.7 ×10-3 cm2/Vsであり、延伸方向と垂直に電流を 流した場合の移動度(8.0×10-4 cm2/Vs)と比 較して3.4倍であり、主鎖方向での高い伝導性 を実証している7-8)。 一方、有機ELの開発の主流は、真空蒸着法 により正孔輸送層や電子輸送層を積層すること で低電力化、高効率化を行っている。今後は低 コスト化の為、印刷法等で成膜可能な溶液プロ セスが着目されるが、そのプロセスでの積層は 下地層を溶かさない溶媒に可溶な材料が必要で ある。これらの制約の中での材料開発は困難で あるが、本研究では民間企業と開発を行った材 料を用い、溶液プロセス(スピンコート法)に より3層の有機薄膜の積層に成功し、高性能、 低電力化を実証した。 具体的には透明電極ITO/ PEDOT:PSS (正孔 注入層:水)/ポリパラフェニレンビニレン誘 導体(発光層兼正孔輸送層:トルエン)を積層 した。従来であれば、この上に陰極を蒸着して 完成(デバイス1)であるが、本研究ではアル コールに可溶な電子輸送材料を更に成膜し、電 極を蒸着した(デバイス2)。この発光材料を用 いたデバイスの外部量子効率の最大理論値は 1.8%であり、実際のデバイス1では0.24%、デ バイス2では1.3%が得られた。このように溶液 プロセスに対応した新規材料が電子輸送材料と して機能し、正孔と電子がバランス良く再結合 したことで最大理論値に近い値を得ることが可 能となった。 4.今後の研究動向 環境・エネルギー研究は未来を担う研究であ り、またそのような機能素子を生み出すプロセ スや材料科学も広い基盤を提供する。すでに第 二期の中途から「太陽光発電グループ」はユニ ットとしての独立を果たしたが、第三期に入る に当たり「エコエネルギー」は電池材料Uへ、 「有機デバイス」は太陽光発電Uへ、「先端機 能物性理論」は超電導Uへ、「白金族金属」は 先進高温材料Uへ先進的な環境エネルギー材 料へと展開し、「電解放電プロラス」、「ナノセラ ミクス応用」は先端材料プロセスUへと展開し ている。また、「照射効果」は信頼性U、「低温 材料工学」は強磁場ステーション、「量子理論物 性」は理論計算科学Uと進んでいる。 参考文献 1)特願 2010-071178 メソポーラス粉末、金 属イオンセンサー及び金属イオン検出方法 並びに金属イオン吸着材と金属回収方法 2)特願 2011-006345ヒ素(As)イオン吸着 素子と、それを用いた水中のAsイオン濃度 検出方法及び水中からのA s除去方法 3)特願 2010-008692 金属イオン吸着剤と それを用いた金属回収方法 4)今野、江頭、小林:高電圧微小放電接合法を 応用した極細熱電対の作製、Trans JAPAN Soc. Mech. Engin. A, 76(2010)708-710. 5)今野、江頭、小林:熱電対とそれを利用した 測温器、日本国特許出願番号2009-144105 (2009.06.17) 6)江頭、今野、小林:高電圧放電接合法で作製 した極細熱電対の評価、Trans JAPAN Soc. Mech. Engin. A, 76(2010)705-707. 7)T. Yasuda, L. Han and T. Tsutsui: J. Photopolym. Sci. Tech.22(2009)713. 8)T. Yasuda: Phys. Stat. Sol.(C) 2(2011)604. 材 料 信 頼 性 領 域 see et 材料信頼性領域領域の5年 ―材料技術による、より安全・安心社会の実現のために― 領域コーディネーター香川豊 1.はじめに 材料の破損や破壊による事故を未然に防ぎ、 構造体の信頼性を保障する。安全・安心な社会 を実現するための研究開発は重要かつ継続性が 必要な課題である。しかし、材料技術としては 完成されたもの、研究開発が一段落しているも のとの認識が強い状況にある。一方、このよう な状況に反して、構造材料の破損による事故は 依然としてなくならないばかりか、過去に社会 インフラに使われた材料の老朽化や材料の過酷 環境での使用等に安全性が損なわれる件数も増 す傾向にある。また、構造体の設計時には予測 されなかった劣化や過大な負荷による破損が生 じることもある。このような環境で、構造物の 安全・安心を確保するためには材料自身の信頼 性分野の研究が欠かせないという状況になって いた。 2.領域の組織構成 構造材料の分野で「古くて新しい問題」かつ 「解決に長時間を要する問題」に対する解決策 を用意するために、2006年度の中期計画開始時 に「材料信頼性領域」を組織した。この領域では、 発足当時3センターが設けられた。その後、 2009年度にデータシートステーションと材料 創製支援ステーション、材料信頼性ラボが材料 信頼性領域に加わった。 中期計画初期に材料信頼性領域に設置された 前述の3センターは構造材料を安全・安心に利 用することを考え、①材料が壊れる前、②材料 が壊れる時、③材料が壊れた後、という時間的 経緯を基に分けることができる。①はセンサ材 料センター、②は材料信頼性センター、③はコ ーティング・複合材料センター(後にはハイブ リッド材料センターと名称変更)である。 このように、構造材料の将来の利用技術を考 えつつ、材料が使われる状態での時間軸をパラ メーターとして大型プロジェクトが行われたこ とは特筆すべき点であるとともに、この分野の 研究者を多く抱えているNIMSの独自性に富 む研究活動であったといえる。また、最終的に 図1中に示した新たな組織を導入したことは5 年間を経て、本領域のミッションが終了したと きに、領域の研究分野が広がり次期プロジェク トにつながる新たな成果が得られる組織となっ たといえる。 3.領域の成果 ここでは、5年間のまとめという観点から領 域設立当時からの3センターの成果に内容を絞 り、概要を説明する。なお、この他にも組織編 成により途中の年度から参画したグループによ っても多くの成果が得られているので、年次報 告等を参照していただきたい。 ①センサ材料センター 安全で安心な暮らしを脅かす物質や事象が 次々に出現している。これらの障害を取り除く には、いち早く災害や危険物を事前に検知する ことが重要である。センターではこの目的のた めに、センターメンバーが見いだしたオリジナ ルな物質・材料の持つセンシング機能を高度化 しつつ、新たなセンサ材料・システムを提案す ることを行った。 対象とするものとしては力、熱、光、ガス(特 定の気体)などに対して使用されている材料特 性を損なう環境検知のための物質・材料開発及 び新規材料を用いたデバイス開発が行われた。 材料信頼性センターで行われた腐食予測のため のセンサが構造材料の寿命予測を大きな目的と しているのに対し、ここでは材料が置かれた環 境下で、いち早く危険を検知するということを 目的とした。得られた成果をもとにしたセンサ 技術は、従来からあるセンサとの併用で更なる 安全性確保に貢献できるといえる。この他にも、 センサ材料自体の研究開発だけでなく、デバイ ス化を目指した研究を推進したことはこの分野 の将来の研究開発手法としても重要である。 ②材料信頼性センター CO2削減や省資源化のために、高温プラント の高効率化や次世代プラント用の材料では使用 環境がより過酷にならざるを得ない状況にある。 材料自体及び材料使用時の劣化を判定する手法 の開発も重要な成果である。このような環境で 利用される構造材料の時間依存特性に関しては 各種疲労試験やクリープ試験方法及び長時間に 及ぶ貴重なデーターを取得した。これらの研究 成果は長時間の使用を想定した場合には必要不 可欠である。近年の電子デバイスのように性能 の向上に伴い次々と新しいものに取ってかわる 使用方法とは大きく異なるものである。この他 にも、長時間クリープでの強度低下に注目した 材料寿命評価・事故解析技術、劣化・損傷が進 行中の組織強度・物性評価技術の確立、腐食な どの使用環境下で材料の破損に至る時間を予測 するための研究開発が数多く行われた。 ③ハイブリッド材料センター ハイブリッド材料センターでは材料の破壊が 開始しても引き続き力を負担できたり、変形を 許容できたりする材料を「フェイルセーフ材料」 と定義し研究開発を行った。フェイルセーフ機 能を材料自体に組み込む手法として力学特性の 異なる材料や界面を巧みに利用したハイブリッ ド材料の研究が行われた。繊維強化プラスチッ クス、セラミックスハイブリッド材料、コーテ ィングなどを中心に展開された。また、ハイブ リッド効果を最大にするために強度と靭性の両 立という難しい課題の解決策としてマルチスケ ールの材料高強度・高靭性化をバイオミメティ ックスの考え方を参考にして提案された。ハイ ブリッド材料センターでは材料が破壊を開始し ても破壊前に用いていた力学機能を利用するこ とが可能な材料の例を提案することができた。 プロジェクトで提案された力学機能を持つ材料 と、従来から利用されている「フェイルセーフ 構造」との併用により、将来の安全・安心な構 造材料利用技術に貢献できるものと考えられる。 4.おわりに 材料信頼性領域で行われた研究は、対象とし た材料以外にも種々の材料系への展開が可能で ある。5年間に培われた知見は直接材料の研究 に役立つものと、異種材料や異種分野への展開 が可能なものに分けることができる。領域の中 で5年間の間に得られた物質・材料あるいは評 価・解析手法は社会基盤を支える構造材料に関 連するものが大多数である。使われ始めると長 い時間にわたり、機能を発現しなければならな い構造材料の分野でも未解決で残された課題は 多い。 今後の構造材料の利用技術を考えるときに、 材料に対する外的要因として、図1のような使 用環境の変化が挙げられる。すなわち、構造材 料を使用し始めてから構造体の寿命に至るまで の環境変化である。地球温暖化による気温の上 昇、酸性雨、砂や火山灰など我々の生活環境を 取り巻く環境が大きく変わっている。また、自 動車の大型化や鉄道の使用頻度の著しい増加な ど社会の変化による構造体の使用状況の変化も 大きい。また、大地震のような想定外の外部負 荷が発生することも予想しなければならない。 このような、内外的な使用環境の変化が生じ ても、設計時の安全・安心を確保するためには 新たな視点に基づく構造材料開発が必要であり、 そのときに材料信頼性研究の領域で得られた成 果が広範囲の材料技術の研究開発に役立つと考 えられる。 図1構造材料が置かれた外的環境に対して新たに行うことが必要と考えられる研究開発.例えば、使用前に想定し ていた環境の変化に対する材料信頼性確保技術は、対象とする応用分野の使用環境変化による特性劣化を考えるこ とが必要.危険な環境(破損前)、寿命(破損時)、破損時の安全性担保(破損後)を統一的に考えた課題解決を 強く意識した研究開発が望まれる.このときに、特定の分野からだけのアプローチでは研究開発の効果が発揮しに くい環境になっており、技術分野を基にした最新技術分野の融合というアプローチも重要である 材料信頼性センターの5年 ―社会で使われる機器や構造物などの安全性・信頼性を高める強度特性評価と寿命評価― センター長緒形俊夫 1.センターの目的 鉄鋼等の構造材料の実用環境中におけるク リープ・疲労・応力腐食破壊の寿命評価手法の 確立を目指し、高サイクル疲労、長時間クリー プの強度低下に注目 し、材料の寿命評価・自己 解析の技術基盤を構築することである。 即ち、劣化・損傷材のナノ ・ミクロ組織の強 度・物性を評価する技術を確立し、寿命予測及 びデータベース化し、材料の損傷破壊機構の解 明を進めることで、安全・安心な社会に寄与す ることである。さらに,微小材料の創製・評価 技術を確立し,次世代構造材料としてのマイク ロマシン用高信頼性材料の技術基盤を構築する。 2 .活動概要 当センターは、高温材料、疲労、腐食、極限 環境、微小工学及び材料創製・信頼性グループ の6グループから組織されている。前の4グル ープの研究者は、データシート出版業務を併任 している。データシートは、顧客である社会の ニーズを反映していて、構造材料の設計や規格 にも参照され、社会的な関わりと寄与が深い重 要な業務である。 また、材料に関する公的な研究機関として、 年間2件程度の事件や事故調査依頼を受けてい る。こうした調査は報告書作成までに、最短で も2, 3ヶ月はかかる地味な業務である。 データシート出版や事故調査は、論文発表と は異なり、研究成果や個人の業績評価の対象に は見え難い仕事で、時間的にも研究活動よりも 優先されるものであるが、日頃の研究成果を社 会にフィードバックし貢献するプロ集団として の自覚を持って取り組んでいる。 3.研究成果 3-1高強度鋼のギガサイクル疲労における 寸法効果の解明 疲労研究では内部破壊に焦点を絞った特性の 解明を図り、通常の表面破壊との比較を主眼に、 内部破壊特性に対する平均応力や水素の影響等 を調査した。その結果、内部破壊の特性は通常 の表面破壊とは大きく異なり、平均応力や水素 の影響により顕著な疲労強度の低下が生じるこ とが明らかとなった1,2)。ギガサイクル疲労研 究を進める上でのコア技術である超音波疲労試 験の技術開発にも取組み、高温用超音波疲労試 験装置の開発3)に成功する等の成果を得た。 超音波疲労試験の技術開発の一環として、試 験片の大型化に取組んだ4)。疲労試験において 試験片寸法は重要な要素で大きな試験片ほど信 頼されるが、超音波疲労試験で標準的に使用し ている試験片が他の試験片に比べて小さかった こと、高強度鋼で内部破壊が生じる場合に寸法 効果が大きくなる可能性があることが指摘され ていたこと5)等が開発動機である。本研究では、 この技術を用いて、高強度鋼のギガサイクル疲 労における寸法効果について調査した。 図1に試験片形状を示す。本研究では大型化 した試験片と通常の試験片を用いて超音波疲労 試験を行い、両者の結果を比較した。用いた材 料はばね鋼SUP7 (HV525)である。図2に疲 労試験結果を示す。白塗りの丸(○)が通常の 試験片による結果で、黒塗りの丸(●)が大型 化した試験片による結果である。同図から明ら かなように、明瞭な寸法効果が観察され、ギガ サイクル疲労強度の低下量は20%程度である。 破壊形態は全て内部破壊である。通常の試験片 では酸化物系介在物以外にも、TiN介在物や組 織割れが内部破壊の起点となったが、大型化し た試験片では内部破壊起点は全て酸化物系介在 物であった。図3に内部破壊起点となった介在 物寸法の測定結果を示す。大型化した試験片で 内部破壊起点となった酸化物系介在物の寸法は 通常の試験片よりも明らかに大きい。従って、 高強度銅のギガサイクル疲労における寸法効果 は酸化物系介在物の影響によって生じているこ とが分かる。 以上の結果は、高強度鋼をより安全に使用す るためには、できるだけ大きな試験片を用いて ギガサイクル疲労試験を実施する必要があるこ とを意味している。すなわち、小さな試験片を 用いた結果は実際よりは高めの、危険側の結果 図1超音波疲労試験片の形状 図2ギガサイクル疲労試験結果 図3内部破壊起点となった介在物の寸法 である可能性がある。そのため、超音波疲労試 験における試験片大型化の技術は企業からの関 心が高く、既に1件のライセンス契約が成立し ている。また、更に重要な点は、寸法効果によ る疲労強度の低下量が20%と非常に大きい点 である。これは、寸法効果という理解の範疇を 超えて、疲労試験結果が試験片寸法に依存する という解釈になる。この場合、従来のS-N曲線 による疲労特性の評価は意味を成さないことに なる。この問題を解決するためには、①材料中 の介在物寸法を適切に評価し、②介在物寸法を パラメータとして疲労強度を評価するという2 段階の手順を踏む評価法を確立する必要がある。 このような評価法は村上らが既に20年以上前 に提案しているが6)、 今後はより学術的な議論 を重ね、完成度を高めていく必要がある。 3-2高温構造材料のクリープ損傷評価技術 高Cr耐熱鋼は、CO2削減や省資源のための 次世代プラントの構造材料への適用が検討され ているが、長時間クリープにおける母材強度の 低下や、溶接部に生じるクリープ損傷(Type Ⅳ 損傷)が問題となっており、組織劣化および損 傷のメカニズムを解明し、材料特性・寿命を予 測するシステムを開発することを目標とした。 高Cr耐熱鋼は、MX炭窒化物の微細析出に より強化されているが、長時間クリープでは有 害相(Z相)に変化し強度が低下する。本研究 では、高Cr耐熱鋼の複雑な析出組織を可視化・ 定量化する方法を確立し、有害相の析出条件と クリープ強度の関係を、母材および溶接部にお いて明らかにした7-9)。また、実機相当の長時間 クリープ条件下での析出素過程(図4)とクリ ープ強度の関連を解明した10)。さらに、これら の知見に基づき、有害相析出を回避し長時間強 度を改善する熱処理方法を提案した11)。 高Cr耐熱鋼の溶接構造部材では、溶接熱影 響部(HAZ)の細粒組織にType Ⅳ損傷が発 生・成長しクリープ寿命が低下する。本研究で は、クリープ損傷の計測方法を開発し、高Cr 耐熱鋼(9Cr及び12Cr鋼)の厚肉溶接部にお けるType Ⅳ損傷の発生・成長プロセスを定量 的に明らかにした(図5)12,13)。 9Cr鋼と12Cr 鋼の損傷・破壊挙動の違いが、主としてクリー プ中のHAZ組織の回復や再結晶に起因するこ とを明らかにした。高温多軸応力下での空孔拡 散、損傷成長、き裂成長を3次元で解析する計 算コードを開発し、損傷分布や破壊寿命の予測 が可能となった14,15)。さらに、ボロンによる粒 界強化を最適化することにより、高Cr耐熱鋼 溶接部の高温損傷を抑制し、クリープ寿命を約 5倍に改善する方法を提案した16)。 溶接継手強度低減係数の策定17)や、高温破壊 試験法の国際標準化18) (ASTME1457-2007, ISO TTA5:2007(E))にも貢献した。 図4長時間クリープに伴うZ相およびMXの析出数密 度変化 図5 9Crおよび12Cr耐熱鋼の溶接継手におけるType Ⅳ損傷挙動の評価 3-3腐食挙動の解明 ステンレス鋼の局部腐食(すきま腐食、応力 腐食割れ:SCC)およびマグネシウム合金の腐食 挙動をテーマとして研究を行ってきた。 一方、アジア各国では、社会資本の腐食劣化 対策が急務となり、大学、研究所に事例解析研 究室が設置されてきている。当グループはそう した研究室との連携を強め、研究者の受け入れ だけでなく、現地での指導も行ってきた。 3-3-1ステンレス鋼の局部腐食の機構解明 3-3-1-1すきま腐食の発生と成長 304鋼/ガラス-すきま下でのすきま腐食を観 察した19)。当初、すきま内部に点状の溶解が認 められ、その後この溶解部は開口部(試片の縁 の部分)付近まで拡大して行く。その後、すき ま腐食は、起点となったところで必ずしも深く まで進展するわけではなく、発生と進展とでお のおの機構が異なっていることがわかった。こ うした挙動は、従来から提唱されている「脱不 動態化モデル」20)とは異なる機構ですきま腐食 が発生・成長していることを示唆している。 3-3-1-2すきま腐食のモデル化 すきま腐食部でのpH低下は金属イオンの加 水分解によるとされてきた20)。すきま内溶液を 模擬してステンレス鋼の主な構成成分である Fe, Cr, Niの塩化物の混合溶液のpHを調べた ところ、pHはCr/[Cr(OH)]2+の平衡で決まり、 その他のイオンはH+の活量係数を増大させる (pHをさらに低下させる)ことを見出した21)。 この錯イオン生成と物質移動を考慮した、すき ま腐食の数値モデル化に成功した21)。 3-3-1-3中性塩化物水溶液環境系での応力腐 食割れ(SCC)の発生と進展 ステンレス鋼丸棒にプラスチック製すきま形 成材を押しつけ、すきま腐食部を起点とする SCCの発生と進展について調査した(図6)。 応力無付加条件下での再不動態化電位(ER :す きま腐食が成長できる下限界電位)がSCC発 生についても下限界電位となることを確認した。 しかし、SCCを起こさせてその再不動態化挙動 を調べたところ、SCCき裂はより厳しいすきま として働くので、その進展を防ぐにはさらに還 元性環境にする必要があることがわかった22)。 図6すきま腐食およびSCCの発生領域と進展領域 3-3-2マグネシウム合金の腐食挙動 種々の電気化学的試験を通じて、電位-Cl-濃 度([Cl])からなる腐食マップを作成した。低 濃度の電解質水溶液中では、当初腐食したとし てもその際に生成する腐食生成物によって表面 が覆われ、マグネシウム合金は耐食性を有する ようになることを見いだした23)。 3-4宇宙ロケットから高圧水素容器まで 液体水素(-253℃)を用いる宇宙ロケットエ ンジン及び高圧水素環境中での材料特性の取 得・蓄積と信頼性向上に関する研究を進めてい る。材料特性を評価するだけでなく、H-IIA ロ ケットの高信頼性化や低コスト化に向けた検討 にも参加し、JAXAから感謝状を受けている。 チタン合金では、低温で双晶変形に伴って疲 労破壊が生じていることを見出した(図7) 24)。 現在は、このような破壊が起こることと低温で 高サイクル疲労特性が低くなることとが関係し ていると推察した。ニッケル基超合金では、疲 労き裂が進展した破面に見えるすじ上の模様 (ストライエーション)と応力拡大係数範囲⊿ Kをもとにした破面解析結果との対応(図8) を明らかにした。ここで取得・評価された材料 特性は、H-IIA ロケットのエンジン設計基準の 変更や材料特性の改善また運転条件の改善に反 映され、H-IIA ロケットの信頼性向上に大きく 寄与し、連続打ち上げ成功に大きく貢献してい る。今後、次期国産ロケットを開発していく上 でも、これらの試験技術とデータの取得が必要 不可欠になっている。 図7 Ti-5Al-2.5Sn ELIの極低温疲労破面のSEM-EBSD 法による解析結果 図8 NI基合金アロイ718で、⊿Kが34MPa・ m0.5付近で 見られたストライエーション 3-5ナノ ・マイクロワイヤーの特性評価 ITや医療分野で今後活躍が期待されるマイ クロマシンの信頼性を確保するために、構成す る不可欠な微小構造材料としてマイクロ ・ナノ ワイヤーの創製と材料強度試験法の開発を行 い25-28)、従来の手法では、その微小なサイズが 故に取り扱いが困難であったワイヤーについて、 1本ごとに高精度に材料強度特性を評価するこ とに成功した。 ナノ ・マイクロワイヤー引張試験器(超小型 引張試験器)本体、ならびに、この試験器をイ ンストールした卓上型SEMを図9に示す。ナ ノ ・マイクロワイヤー等微小サイズの試料を安 定良く取り扱うために、まず、試料台に試料を セットした後、この試料台を試験器本体にセッ トするという2段の工程を採用した。試料台へ の固定には、試料のサイズに応じて2方式を採 用しました。試料サイズが大きい場合には、試 料台(10×5 × 3mm)を2分割できるようにし、 試料固定時には割ピンによって一体化され、試 料を固定した後、試験器本体の試料台にセット した時点で割りピンを抜き取って、引張試験を 行った。試料サイズが小さい場合には、試料台 本体にマイクロピンセットを取付け(図10)、 さらにマイクロプローバーを用いて試料をセッ トした。引張操作は、ベースプレート上面の左 右に設置した積層圧電アクチュエーター(移動 量28μm、 最大応力25N)により行われ、生じ た引張応力は中央部に設置した方端固定の積層 圧電アクチュエーターに発生する電荷量を電圧 に変換して求められ、また、引張延び量は中央 部上部に設置した変位センサー(分解能5nm、 測長量50μm)によって求めた。 開発した超小型引張試験器を用いたナノ・マ イクロワイヤーの測定結果を図11にまとめる。 図9超小型引張試験器本体(左)、この試験器をイン ストールした卓上型SEM (右) 図10約100nm径Siナノワイヤーの測定治具への操 作固定法の確立(左)とSEM内引張試験による測定 (右) 図11ナノ ・マイクロワイヤーの引張試験結果 一般に径サイズが小さくなると一般に強度の増 加が観察される。 3-6ナノ組織を有する金属細線・極薄板の力 学的特性評価技術の確立と材料創製 マイクロマシン用微小部品は金属細線や極薄 板で構成されるが、高い信頼性が求められる。 金属組織をナノレベルまで微細化することによ って、強度と高い信頼性の獲得が期待できる。 そのための、材料創製技術と評価技術の確立を 目的とした。 3-6-1連続圧延技術 ナノ組織(200nm)を有する金属細線を創製 するためのコンパクト連続圧延技術を確立し た(図12) 29)。本プロセスは (1) Coil to coil 連続圧延(2)温間制御圧延(3)直交2ロール 近接圧延(4)オーバル・スクエア孔型による 多方向大ひずみ圧延からなり、微細組織をもつ 鋼細線の実機レベル生産が可能となった。多く の微細粒製造技術が、実験室レベルを出ないも のであり、本成果は工業生産を可能にした世界 初の成果である。 図13に鋼細線の外観を示す。また、 SEM-EBSD組織を示す。平均粒径0.7μm微細組 織となっている。 図12連続温間大ひずみ圧延装置 図13連続圧延で得られた超微細組織線材の 外観とミクロ組織 図14線材の優れた強度-絞りバランスと成形性 M1.7マイクロねじ 3-6-2ナノ組織金属細線と高信頼性部品 上記連続圧延された線材コイル(直径3mm) を冷間伸線し、直径20μmの極細線を得た。本 金属細線の組織は、短軸径で100nm以下である。 図14に引張強さ―絞りバランスを示すが、フェ ライト+パーライト、ベイナイト、マルテンサ イトと比較して、ナノ組織鋼は最も優れた強度 ―絞りバランスを有する。その結果、強度と高 成形性の両立が実現でき、図14に示すように、 マイクロネジ製造へとつながった。本マイクロ ネジは破壊試験において、高トルク値を達成し、 携帯電話、デジカメなどの精密電子機器の分野 で応用が期待されている。高信頼性と低環境負 荷の特徴をもつナノストラクチャーマイクロ パーツ実現が期待できる。 3-6-3ミクロン金属素材の強度特性評価 微小荷重引張試験機導入により、直径20μm までの引張試験を可能にした。このような極細 線では、伸び計の直接装着は不可能である。そ のため、非接触法での伸び計測法を開発した。 その結果、金属極細線の応力-ひずみ曲線の取得 が可能となった。現在では、デジタル画像セン サーの導入により、引張試験片形状変化の in-situ計測による真応力―真ひずみ挙動の解 析を可能としつつある。 3-6-4粒界不純物の力学的性質への影響 浮遊溶解の利用により、重量2kgの4N純鉄 (純度99.99%)の作製を試み、結晶粒を微細にし た細線を作製し、C,Pなどの元素粒界偏析の力 学的性質に及ぼす影響について研究を行った。 3-6-5結晶粒微細化と靭性値の関係評価 信頼性評価技術の一貫として、超微細粒鋼を 用いて、延性―脆性遷移に及ぼす有効結晶粒径 の関係を検討し、組織と破壊エネルギーの関係 を明らかにした30)。また、疲労予亀裂導入技術 を確立し、3点曲げ法による破壊靱性測定を行 った。結晶粒径とCTOD値の関係を把握した31)。 4.今後の研究動向 今後、環境・エネルギー分野における材料の 信頼性評価、寿命評価及び損傷機構の解明の重 要性は一層大きくなる。これに対応するため、 非破壊評価を始めとする最新の測定・評価技術 を取り入れて旧来の材料試験法の高度化のみな らず、試験・評価法自体も見直し、より精度が 高く信頼性のある寿命評価が求められる。さら に、これまでの高い試験評価技術のポテンシャ ルを生かし、世界の国際標準の基盤となるデー タを提供することも期待されている中で、世界 をリードする材料信頼性評価研究プロジェクト が始まっている。 疲労に関しては、これまでの研究で内部破壊 は通常の表面破壊とは特性が大きく異なり、従 来の方法では疲労特性を評価できないことが明 らかとなった。そのため、今後は内部破壊の本 質的なメカニズム解明を進め、それに立脚した 新しい評価法を確立する必要がある。このよう な取組みを行うための研究計画は既に立案され、 次期中期計画において実行される予定である。 CO2削減や省資源のためにはエネルギープラ ントの高効率化が重要な課題であり、700℃級 の先進超々臨界圧火力プラント(A-USC)や、 次世代高温原子力プラント(Generation Ⅳ, FBR)の開発が進められている。また90年代 に運転開始した600℃級のUSCプラントも運 転時間が10万時間を超えている。構造材料の 使用環境が過酷化するため、これらの主要構造 材料であるNi基合金や高Cr耐熱鋼およびそれ らの溶接構造物の安全性、信頼性に関する研究 は今後益々重要になると考えられる。高温構造 部材では、クリープボイドやき裂の発生の評価、 それらに対する多軸応力場の影響、熱疲労やク リープ疲労の影響などが未解明の重要課題とな っており、試験法の国際標準化も検討されてい る。大規模な計算が可能になっており、損傷や 破壊のナノからメゾの現象を考慮したマルチス ケールモデリングによる計算解析が進められて いる。また、損傷や組織変化を定量的に評価し 寿命解析にフィードバックするために、新しい モニタリング技術の研究も進められている。 すきま腐食の発生・成長に関しては、脱不動 態化モデルに変わる新規機構の提言が望まれる。 さらに、実機の寿命予測のためには、すきま腐 食やSCCのが『いつ、どこで、どのように』 発生し成長して行くかの推定ができる手法の検 討が必要である。 Mg合金は、表面処理を施されて使われるの が普通であるが、素地の腐食挙動を考慮した、 適正な耐食性評価法、およびそれに基づく合 金・表面処理法の開発を進めてゆく必要がある。 各種の機械強度特性評価を行える複合機械特 性試験機の開発については、特に引張破断試験、 引張伸び試験はほぼ確立されており、今後疲労 試験、クリープ試験等の信頼性試験種を増やす とともに、より簡便に使用できる試験機にする ための改良が行われ、ナノワイヤーに代表され る微小構造材料の材料信頼性の系統的データベ ースが構築されることが期待される。 参考文献 1)竹内悦男、古谷佳之、長島伸夫、松岡三郎:鉄と鋼96 (2010)36. 2)Y. Furuya, H. Hirukawa and M. Hayakawa: Metall. Mater. Trans. A 41(2010)2248. 3)Y. Furuya: Japan Patent(2011). 4)Y. Furuya: Scripta Mater. 58(2008)1014. 5)Y. Furuya, T. Abe and S. Matsuoka: Fat. Fra. Eng. Mat. Struct., 46(2003), 641. 6)村上敬宜:金属疲労 微小欠陥と介在物の影響 養 賢堂(1993). 7)K. Sawada, H. Kushima and K. Kimura: ISIJ Int. 46(2006)769. 8)K. Sawada, H. Kushima, K. Kimura and M. Tabuchi: ISIJ Int. 47(2007)733. 9)K. Sawada, M. Tabuchi, H. Hongo, T. Watanabe and K. Kimura: Materials Characterization, 59 (2008)1161. 10)K. Sawada, H. Kushima, M. Tabuchi and K. Kimura: Mat. Sci. Eng. A 528(2011)5511. 11)K. Sawada, K. Suzuki, H. Kushima, M. Tabuchi and K. Kimura: Mat. Sci. Eng. A, 480(2008)558. 12)本郷宏通、田淵正明、李永奎、高橋由紀夫:材料58 (2009)101. 13)本郷宏通、田淵正明、渡部隆:材料60(2011)116. 14)M. Tabuchi, H. Hongo, T. Watanabe and A. T. Yokobori, Jr.: J. ASTM Int. 3(2006)JAI13226-1. 15)M. Tabuchi, H. Hongo, Y. Li, T. Watanabe and Y. Takahashi: J. Pressure Vessel Tech., Trans. 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Noda: Materials Transactions 48(2007)2202. 29)鳥塚史郎,村松榮次郎,井上忠信,長井寿:日本金 属学会誌,72(2008)571-580. 30)花村年裕,趙明純,邱海,殷福星,長井寿:鉄 と鋼,95(2009)71-78. 31)H. Qiu, K. Enami, K. Hiraoka, K. Nagai and Y. Hagiwara : Journal of Materials Science, 43 (2008)1910-1913. ハイブリッド材料センターの5年 ―異なる材料をマルチスケールでハイブリッド化し材料の安全性や機能性を向上― センター長黒田聖治 1.センターの目的 構造材料の急速破壊は、時に大きな事故の原 因となる。ハイブリッド材料センターは、近未 来の構造体や移動体に重要な役割を果たす軽量 複合材料や耐環境コーティングの破壊モードを、 さまざまな空間的スケールにおいて異種材料を ハイブリッド化することによって制御し、材料 の破壊が始まっても一定時間は負荷を担えるよ うな機能(フェイルセーフ機能と呼ぶ)を付与 することを目的としたフェイルセーフハイブリ ッド材料プロジェクトを主課題として研究した。 また、フェイルセーフ機能発現の指導原理とし て、自然界に存在する強靭な材料の構造を子細 に調べ、それを人工材料に反映させるというコ ンセプト(バイオミメティックス)を指導原理 に掲げた。 2.活動概要 センター発足時(平成18年)の名称はコー ティング・複合材料センターで、複合材料とコ ーティングの2グループ、定年制研究者15名、 エンジニア2名で構成した。その後、平成21 年度に金属系ハイブリッド材料、異種材料のイ ンターコネクション、計算の各研究グループが 増強され、研究者20名、エンジニア2名の体 制となった。さらに、ポスドク研究員数名、研 究業務員、事務業務員、大学院学生等が合わせ て常時20名以上在籍した。 外部との連係活動としては、つくば国際コー ティングシンポジウムを平成18年と20年に主 催、平成19年には複合材料の国際ワークショ ップ、21年にはNIMS WEEKのサテライト会 議として「ハイブリッド複合材料の現状と将来 展望」と題するシンポジウムを開催した。 プロジェクト期間の5年間で総予算は4.59 億円、導入された主な装置としては、CFRP製 造用オートクレーブ、超高温セラミックス焼結 装置、小型スプレードライヤー、クロスセクシ ョンポリッシャー、負荷機構付き低真空SEM などがある。 3.研究成果 3-1フェイルセーフハイブリッド複合材料 複合材料グループでは、構造材料自体がフェ イルセーフ機能を持つハイブリッド材料の実現 を目指して、1)バイオミメティクス(生体模 倣科学)に基づく特性発現メカニズム解明と材 料設計・プロセス技術への展開、2)ハイブリ ッド炭素繊維強化プラスチックス(HCFRP: Hybrid Carbon Fiber Reinforced Plastics)の 高性能・高機能化技術、3)酸化物系ハイブリ ッドセラミックス材料開発、4)マルチスケー ル計測評価技術、などに主にプロジェクト研究 開発に貢献することを目的に取り組んできた (図1)。グループではバイオミメティクスから 得られた「ナノメートル」から「センチメート ル」というディメンジョンで階層的に生じる材 料力学特性向上機構を人工的なハイブリッド材 料に取り込むことを検討した。 まず、数億年という長い歴史の中で安全性・ 信頼性 に 対する 最適構造 を 造 り出してきたフェ イルセーフ機能を持つ自然界の材料として「ア ワビ」を選定し、その特性発現メカニズムを詳 細に検討した(図1(A))。有機層と無機層のナ ノ積層構造を持つ貝殻真珠層は体積の95%が 炭酸カルシウム(CaCO3)であるにも関わらず その破壊抵抗はCaCO3単体に比べ1000倍以上 高い。この現象は、炭酸カルシウム層内に存在 する10nm程度のナノ変形挙動、界面有機層の 粘弾性挙動によるナノブリッジング機構、界面 インターロッキング機構などにより生じている ことを証明した1)。この結果から、積層型ハイ ブリッド材料ではいろいろなディメンジョンで 変形能力や破壊特性が異なる相およびその組み 合わせを最適設計することが必要であるという 指針を得た2)。この指針を軽量構造材料として の用途が拡大しているプラスチックス系ハイブ リッド材料及びセラミックス系ハイブリッド材 料へ適用し、アワビの構造と同じ積層構成で「変 形し易い相」と「変形しにくい相」をハイブリ ッド化することを検討した。 図1マルチスケール効果を利用したフェイルセーフハイブリッド材料の研究開発 プラスチックス系ハイブリッド材料では、異 なる種類の繊維を利用して異なる相を作り出し た。高強度型と高弾性型の2種類の炭素繊維3,4) と耐熱性ポリイミド樹脂を用いて製造した一方 向ハイブリッドCFRPの引張特性は、従来の CFRP (点線)では最大荷重に達した後に即座 に破断するのに対し、最大荷重後も引き続き荷 重を負担できるフェイルセーフ効果を示すこと が明らかになった(図1(B))。このような挙動は 繊維を複数方向に配向することによって得られ てはいるが、一方向強化型では再現性よく得ら れた最初の事例である。 ハイブリッドセラミックス材料では、Al2O3 とAl2O3繊維で強化したAl2O3複合材料を積層 することにより、破壊を開始した後にも大きな ひずみ許容性を示すフェイルセーフ材料が得ら れた(図1(C))。さらに、このハイブリッド材料 はノッチ敏感性がないセラミックス材料となり うることを示すことができた。簡単な積層構成 でセラミックスの持つ欠点を克服することがで きることを示した結果であるといえる。 フェイルセーフ機能の発現メカニズムを定量 的に解明するには、ナノ~ミリスケールのマル チスケールひずみ計測手法の確立が重要な鍵を 握る。電子線リソグラフィにより異なるスケー ルのパターンを用いてハイブリッド材料のマル チスケール変形・ひずみ分布を解析する技術を 開発した(図1(D))。この技術により、積層界面 剥離挙動や繊維周辺の局所ひずみを定量的に評 価することを可能とした5)。 以上のように、「ハイブリッド材料」、「フェイ ルセーフ機能」などのキーワードは決して新し いものではないが、マルチスケールカ学とハイ ブリッド材料設計というコンセプトを付与する ことによりハイブリッド材料を利用したフェイ ルセーフ機能化への基盤構築ができたものと考 えている。 3-2フェイルセーフ耐環境コーティング 過酷な環境で使用される部材を保護するため に、材料表面に耐熱性や耐摩耗性、耐食性など を付与する耐環境コーティングが、様々な産業 分野において利用されている。具体的には、製 鉄・製紙、液晶ディスプレイなどの製造プロセ スや、ガスタービンや化学プラントといったエ ネルギー分野を下支えする領域において重要な 役割を担っている。これら耐環境コーティング における一つの大きな課題は、コーティングと しての信頼性・耐久性である。定期的にライン を止め、部材交換や再コーティングを行うこと は、生産効率の点で望ましくなく、究極的には メンテナンスフリーの表面改質技術が期待され ている。 このような背景のもと、本サブテーマでは厚 さ100μm以上の厚膜を対象として、瞬時破壊 を生じないフェイルセーフ機能を有する耐環境 コーティングの開発を行った。ここでは、その 内の一つであるサーメット/メタル積層コーテ ィングを紹介する。 サーメットは、セラミックスの硬さや強度と メタルの靭性を合わせ持つ高強度・高靭性な材 料である。中でも超硬と呼ばれるWC-Co(炭 化タングステン-コバルト)は、優れた力学特性 を有することから焼結体は金属加工用工具とし て、コーティングは摩耗やエロージョンによる 損傷が深刻な部位に適用されている。WC-Co のコーテイング法としては、これまで大気中で 粉末を溶融させ基材に吹き付ける溶射コーティ ング法しか無かった。しかし、真空中で精密な 温度制御の下、製造される焼結体と比較すると、 成膜時の劣化反応により破壊特性(靭性)が著 しく劣るという課題がある。 これに対し、NIMSでは原料粉末を溶融させ ずに固相のまま基材に高速衝突させて密着させ るウォームスプレー(WS)法6,7)という成膜プ ロセスを開発し、従来の溶射では良質膜の形成 が困難なチタンやWC系のサーメットへの適用 研究を行ってきた。本プロジェクトでは、(ⅰ)粒 径約200 nmの微細な炭化物が分散した新しい WC-Co皮膜の開発、(ⅱ)延性な金属材料とハイ ブリッド化した WC-Co/メタル積層コーティン グの開発を行った。図2(a)に実際に開発した WC-Co/Al積層皮膜の断面写真を示す。NIMS 独自開発のウォームスプレー法をベースとして 連続的な異種材のハイブリッド化が可能となっ ている。また、図2(b)にはWC-Co/Cu積層皮膜 について、き裂の進展がメタル相において偏向、 架橋されている様子を示している。従来の溶射 プロセスでは成膜時の酸化等の問題によって金 属の厚膜で延性を発現することは難しく、WS プロセスの優れた特性を示している。図2(c)に 示す通り、積層構造を最適化した皮膜では単相 皮膜と比べ、皮膜強度を維持したまま破断エネ ルギーを2倍以上に向上させることができた8)。 さらに、図3に示すようにWC-Co皮膜単相 でも実用上重要な表面平滑性と硬さの大幅な上 昇を実現することに成功した9)。 図2 (a)WS法により作製されたWC-Co/メタル積層 コーティング,(b)延性メタル相によるき裂進展抑 制の様子(皮膜の破断試験結果),(c)積層コーティ ングの曲げ強度と破壊仕事の分布 図3開発したWC-Coコーティングの表面平滑性と 硬さの分布 3-3金属系in situハイブリッド材料の創製 金属材料におけるハイブリッド組織を加工プ ロセスで造り込む新しい手法を提案し、メイン テーマであるフェイルセーフハイブリッド材料 を実現するための新しい材料要素技術を提供す る目的で研究を行った。 3-3-1金属間化合物における強加工によるナ ノハイブリッド組織形成と機械特性との相関 高温用構造材料として重要なNi3Al(L12相) について高圧ねじり加工による強加工を行い、 そのナノ組織形成過程と機械的性質との相関を 明らかにした。その結果、加工後の組織はサブ ミクロンサイズのプレート状のL12相と粒径 50 nm程度の不規則相の等軸ナノ結晶からなる バイモーダル組織を呈していることが明らかに なった10,11)。また引張り試験の結果、加工前の 試料は顕著な粒界破壊で変形能を殆ど有しない が、図4に示した様に高圧ねじり加工を加えた 試料では、バイモーダル組織の形成とともに強 度と延性が大きく向上することが明らかになっ た12)。 3-3-2 Ti系合金におけるハイブリッド組織の形 成およびその室温延性との相関の解明 Ti-Al-Nb系合金は600℃ 以上の高温用チタ ン合金として期待されており、二種類の金属間 化合物からなる複相組織を呈する。本プロジェ クトでは、重くて高価なNbの一部をMoおよ びFeで置換したTi-Al-Nb系合金について、渦 状のハイブリッド構造(VGS: Van Gogh Sky 組織)の形成過程および室温引張延性への影響 を検討した13)。溝ロール圧延と熱処理によって 形成されるVGS組織はα2相が密集した渦状 部分とO相+ B2相からなるマトリックス部分 図4 Ni3Al多結晶の高圧ねじり加工による応力歪み 曲線の変化.N:高圧ねじり加工の回転数 図5 Ti-Al-Nb系合金における渦状のハイブリッド構造 (VGS組織)が室温伸びに与える影響 から構成されており、EPMAによる組成マッピ ングから、主にNbの偏析によってVGS組織が 形成されていることがわかった。圧延、熱処理 をB2単相域および(α2 + B2) 2相域で行った 結果、どの場合にもNbの偏析は観察されるが、 2相域で圧延、熱処理を行った場合に特に顕著 なVGS組織が形成され室温延性も最も高くな った(図5)。同様に元素の偏析を利用した組織 制御をTi-Mo合金にも適用し,双晶と転位すべ りの2種の変形モードを共存させることで強度 と延性の両立が可能になることを示した14)。 3-4計算予測 前述の強加工によるハイブリッド組織化の例 として、形状記憶特性を有するTiNi合金を強 加工することで結晶/非晶質複合組織を実現し、 結晶としての形状記憶効果と、非晶質としての 強度を併せ持つ材料が得られている。しかし、 強加工による非晶質化のメカニズムおよび加工 度と組織の関係など不明な点が多い。 そこで原子個々の動きを追跡するシミュレー ション手法である分子動力学法を用い、TiNi 合金の押し出し加工のシミュレーション解析を 行った。加工度(減面率)50%の押し出し加工 を施した結果が図6(a)であり、ナノ結晶と非晶 質が並存する組織となっている。また減面率を 変化させて非晶質化率との関係を調べたところ、 図6(b)に示すように実験と整合する結果が得ら れ、シミュレーション予測の有効性を示唆して いる。 また原子レベルの解析から、加工先端部で発 生した転位が歪みの少ない中央部に移動・蓄積 してナノ結晶化の前段階である回位を生成する こと、また更に歪みが蓄積した部分では非晶質 図6 (a)押し出しシミュレーションで得られた強加工後のTiNi合金ナノ組織,(b)押し出し加工した後の加工度(減 面率)と非晶質化率との関係、青:シミュレーション、赤:実験結果 構造の基本ユニットである正20面体型クラス ターが生成し、非晶質生成の核としての役割を 果たしていることなど、複合組織生成のメカニ ズムが明らかになりつつある。 3-5機能化インターコネクション エレクトロニクス分野でも、多機能の部品を 基板上に搭載し高機能化及びコンパクト化を図 るには異種材料のインターコネクトを実現する 必要がある。固体表面の化学的結合状態と表面 の微細構造を制御することで、常温ハイブリッ ド化を実現する事を目指した。 その結果、異なる電子基板材料をその結合の メカニズムに関わらず水の吸着により生成する 化合物間を架橋として大気圧150℃以下の条件 下で母材破断強度に達する強さで接合できた 図7150℃、大気圧窒素雰囲気(湿度8g/m3)で接合された各材料の界面の透過電子顕微鏡像ならびに,次世代 の電子デバイス構築に不可欠な銅超微細バンプレス(bumpless)配線基板を,同条件で全表面的に接合した界 面の拡大像(世界初) 図8 (a)ハムシの足の毛状接着構造体が植物のレプ リカ表面と接しているところ,(b) メタクリル低粘 性樹脂で作製した毛状表面の接着構造体、直径200 nmの毛状構造ができている (図7)。且つ、界面の微細構造制御により金属接 合界面ではバルク抵抗に匹敵する低い抵抗値が 得られた。銅とSiO2の低温・大気圧下接合は世 界初の成果として評価され2010年社団法人エレ クトロニクス実装学会研究奨励賞を受賞した。 また、接合においてもバイオミメティクスを 取り入れた研究を進めた。微小動物は可逆的な 優れた接着機構を持っており、本研究ではその 構造と接着のメカニズムを研究し、接合技術に 取り入れる事でナノスケールの接触問題及び環 境低負荷技術のキーである可逆的な接合法の開 発を目指している。本研究期間において、図8 に示すように、ハムシやクモの足にある接着性 剛毛の接着特性を調査し、接着のメカニズムと 接着限界を明らかにした。また、生物を規範と した毛状の接着構造体を設計し、メタクリル低 粘性樹脂で直径200 nmの毛状接着構造体の作 製に成功した。 4.今後の研究動向 nmからcmに及ぶマルチスケールで異種材 料や複相組織をハイブリッド化することによっ て、単純な引っ張りや曲げ荷重下では目的とし たフェイルセーフ挙動を示す材料を得ることが できた。しかし、自然が生み出す材料の構造の 精妙さにはまだまだ及ばないと言わざるを得な い。マルチスケール構造を作り込むプロセス技 術の革新が求められる。 また、開発材料がより実用に近づくために必 要な機械特性として耐衝撃特性、疲労特性があ り、今後の研究課題である。 金属複相組織制御、インターコネクト、バイオ ミメティックス、計算シミュレーションの要素技 術研究はそれぞれ次期プロジェクトの中で重要 な役割を果たしていくことが期待されている。 参考文献 1)T. Sumitomo and H. Kakisawa, H. Owaki, and Y. Kagawa: J. Mater. Res., 23-5(2008), 1466. 2)H. Kakisawa, K. Minakawa, S. Takamori, and Y. Osawa: J. Ceram. Soc. Jap.,113 (2005), 808. 3)K. Naito, J.M. Yang, Y. Tanaka, and Y. Kagawa: Appl. Phys. Lett., 92 (2008), 231912. 4)K. Naito, J.M. Yang, Y. Tanaka, and Y. Kagawa:, Carbon, 46(2009),189. 5)Y. Tanaka, K. Naito, S. Kishimoto and Y. Kagawa: Nanotechnology, 22 (2011) 115704. 6)S. Kuroda, J. Kawakita, M. Watanabe and H. Katanoda: Sci. Technol. Adv. Mater. 9 (2008)033002. 7)S. Kuroda, M. Watanabe, K-H Kim and H. Katanoda: J. Thermal Spray Technol., Published online, 31 March 2011. 8)渡邊,C. Brauns,小松,黒田:日本溶射協 会第92回講演大会講演論文集,p.1. 9)S. Kuroda, G. Raman, M. Watanabe, M. Komatsu J, K. Sato and J. Kitamura: Proc. Int. Thermal Spray Conf., Singapore, 2010, CD-ROM. 10)O. Ciuca, K. Tsuchiya, Y. Yokoyama, Y. Todaka and M. Umemoto: Mater. Trans. 51(2010)14. 11)O. Ciuca, K. Tsuchiya, Y. Yokoyama, Y. Todaka and M. Umemoto: Mater. Trans., 50(2009)1123-1127. 12)K. Tsuchiya and O. Ciuca: Mater. Sci. Forum 667-669(2011)17. 13)S. Emura, K. Tsuzaki and K. Tsuchiya: Mater. Sci. Eng. A 528(2010)355. 14)X. H. Min, K. Tsuzaki, S. Emura and K. Tsuchiya: Mater. Sci. Eng. A(2011)in press. センサ材料センターの5年 ―インテリジェントセンサデバイスに関する基盤研究― センター長羽田肇 1.センターの目的 安全・安心社会を脅かす事象は、予想困難な 地震等の自然災害、あるいは日常的に産業、生 活場から発生する有害物質・病原体の他、近年 では、テロあるいは犯罪のように故意に引き起 こされる障害がクローズアップされ、大きな問 題となっている。安全・安心社会形成には、こ れらの障害をいち早く検知し、無害化すること が不可欠であるが、これまでは、個々の問題に 対しそれぞれ対策を講じてきた。 上記の事情は、欧米でも同様で、とりわけ米 国では、2001年9月11日に発生した同時多発 テロ事件以来、障害のセンシング技術の開発が 最重要課題の一つとなっている。かような共通 認識の下、日米のアカデミックなレベルでのセ ンサ科学の方向性を探るべく、日本学術会議・ 米国科学アカデミー主催の下、” Japan-US Workshop on the Future of Sensors and Sensor Systems”が、つくばで開催されている1)。 このワークショップにおいて、「新興・再興の脅 威に対処するには新規なセンサの開発が不可欠 であり、そのためには、弛まない基盤的研究を 行っていく以外、王道は無い」という考え方が、 重要な結論の一つとして提示された2,3)。日本語 の諺で言えば、「急がば回れ」であろう。エネル ギー分野においてもセンサの重要性は強く認識 されているところである。例えば、プラント等 の損傷をいち早く検知することが、重大な事故 を未然に防ぐことに繋がる。このような今日的 なセンサ応用を開発するに当たっても、しっか りした基礎の上にはじめて実りある成果が期待 される。 インテリジェントセンサの基本的な考え方 は以下の通りである。具体的に言えば、例えば、 ダイオキシン類は、図1で示した一連の化合物 の総称であり、数百種類の化合物が存在する。 これまでの考え方では、この数百種類の化合物、 それぞれに対応したセンサが必要となる上、新 たなダイオキシン類には無力である。一方、ダ イオキシン類に共通した性質を持つ化合物であ れば、危険性が高いと言える。インテリジェン トセンサの考え方では、かような危険性の発現 にかかわる特徴を検知することを基本としてい る。この考え方をさらに押しすすめると、「リス クや化学種そのものを検知する」方向から、「ヒ トや環境が受ける影響を指標としたセンサ技術 であれば、物質主体でなくリスク主体のセンシ ングが可能になる」と考えられ、これを「定質 センサ」4,5)と呼称している。すなわち、本プロ ジェクトの目的は、「定質」的な考え方に基づく 新たなセンサ材料・システムを提案する事と換 言しても良い。 図1ダイオキシン類の構造.二つのベンゼン環 に塩素が結合していることが特徴的である 2.活動概要 以上の提案を実施するに当たって、電気的な 面からセンシング機構解明を行う「(A)エレク トリカルセンシング機能研究」(センサ化学グル ープ担当)、および音響的な側面から研究する 「(B)アコースティカルセンシング機能研究」 (センサ物理グループ担当)、光学的センサ機能 を探求する「(C)オプティカルセンシング機能 研究」(光学センシング材料グループ担当)、さ らにインテリジェントセンサとして不可欠なア クチュエータ機能を研究する「(D)アクチュエ ータ機能研究」(アクチュエータ機能グループ担 当)の四つのサブテーマを設けた。 本研究を進めるとともに、本研究に関わる情 報発信、および社会的なニーズの把握を図る目 的で、「安全・安心を見守るセンサ技術と定質と いう考え方」シンポジウム、ならびにセンサ材 料センターセミナーを開催した。各会合は以下 の通りである。 第1回「安全・安心を見守るセンサ技術と定質 という考え方」シンポジウム 2007年2月27日 化学会館7階大ホール 第2回「安全・安心を見守るセンサ技術と定質 という考え方」シンポジウム 2008年3月12日 第3回「安全・安心を見守るセンサ技術と定質 という考え方」シンポジウム 2009年3月11日 化学会館7階大ホール 2006年度 センサ材料センターセミナー 2007年3月13日 NIMS/ナノ ・生体棟 3階 331・ 332号室 センサ材料開発の問題点に関し議論を行った。 2007年度 センサ材料センターセミナー 2008年2月26日 NIMS/研究本館(千現地区)8階 中セミナ室 新しいセンサ材料・システムに関する議論を行 った。 3.研究成果 本プロジェクトでは、最終的には社会の安 全・安心という利益をもたらすセンサデバイ ス・システムを開発することが動機となってい るが、これを基礎的な現象解明に立脚している 点に特徴がある。従来の社会の安全・安心に関 わるセンサ研究は、対象が明確に限定されてい るため、必ずしもセンサ機能の基礎的理解が十 分であったとは言えない。そのために、限定し た対象とは異なる新興の障害が生じた際、迅速 的な対応が困難になることが予想される。従来 の研究手法に、本提案で究明される科学・技術 を組み合わせることで、センサ研究に新たな科 学・技術のパラダイムを拓くことになり、迅速 な問題解決の一助となる事が期待された。以下 に、各サブテーマの成果をトピックス的に記述 する。 3-1エレクトリカルセンシング機能研究サ ブテーマ(センサ化学グループ担当) 本サブテーマでは、高速応答性化学センサデ バイスの開発をするために、物質表面に吸着す る化学種と固体との相互作用研究を可能とする 材料プロセスを開発することを目標とした。 これまでの化学センサは感度向上のために、 ポーラスな粉体あるいは単純な薄膜を利用して いた。しかしながら、ポーラス材料では気相拡 散過程を経るため最速で数秒かかってしまうこ とが難点の一つとなっていた。本サブテーマで は、ナノ粒子を単層粒子として二次元的に配置 する事で、応答速度を、秒以下とすることが可 能とする材料開発を行った。さらに、センサ機 構としてはポーラス材料同様、界面を利用する ことが可能で薄膜では実現できないppbオーダ ーの分析が可能となる。また、この形態を使用 することで物質が本来持っている化学センサと しての機能が評価でき、SPR現象等を駆使して 化学センサの素過程について検討した(図2参 照)。 図2 ZnO/Au薄膜を使ったSPRセンサのNOxに 対する応答6) 3-2アコースティカルセンシング機能研究 (センサ物理グループ担当) 地震や火山活動及び日常騒音(低周波から音 波)などを監視するためのアコースティックセ ンシングシステムが緊迫的に必要となっている。 このようなシステムの核心となっているのは高 性能の圧電材料である。現在使用されている有 毒なPb含有の材料(PZT)を代替する環境に 優しい高性能の圧電材料を緊急に開発していく ことが求められている。本研究は環境に優しい 鉛フリーの高性能圧電材料を研究開発し、アコ ースティックセンシングシステムの構築に必要 な核心材料を提供する。また、圧電以外のフェ ロイック(Ferroic)材料(磁性材料やマルテン サイトなど)においてもセンシングに使える材 料や機能も探った。本サブテーマでは、新しい 考え方に基づく圧電体材料を探索した結果、 PZTの特性に匹敵する高性能の圧電体を見い だすことに成功した7)。新しい理論は「三重臨 界点(tricritical point)を持つMPB理論」と 呼ばれている。MPB (Morphotropic Boundary 相境界)とは、圧電材料の状態図上で2種類の 異なる強誘電相の境界を意味し、MPBが立方 相―菱面体相―正方相の三重臨界点を持つ場合、 高い圧電特性を有する。この条件を満足するす べてのMPB材料系において高い圧電効果が期 待され、PZTはこの条件を満たした一つの例に 過ぎない。つまり、高い圧電効果は鉛と無関係 である。これまでの非鉛圧電材料のMPBは三 重臨界点を持っていないため、ソフトPZTのよ うな高い圧電効果は実現できなかった。 この理論に基づいて、新しい非鉛系BZT-BCT (Ba(Zr,Ti)O3-(Ba,Ca)TiO3の略、つまり、チタ ン酸ジルコン酸バリウムとチタン酸バリウムカ ルシウムの固溶体)を設計した。この系の状態 に三重臨界点(tricritical triple point) による MPBが存在しており、MPB組成の50%BCT では室温での圧電定数d33は620pC/Nという非 常に大きい値が得られた(図3参照)。 3-3オプティカルセンシング機能研究(光学 センシング材料グループ担当) 本サブテーマでは、光学特性評価の立場から センサ機能について検討する。すなわち、これ まで行ってきた太陽光ブラインド性を持つ熱安 定なSD型あるいはMSM型ダイヤモンドDUV フォトセンサの開発研究について概観すること にある具体的には、太陽光下においても、 深紫外線(190~280nm)を選択的に検知する 小型固体素子型の深紫外光センサの開発を目標 とした。性能的には実用上十分な①可視光と紫 外光での感度差が6桁以上、②lnW/cm2の微 弱深紫外線が検知しうる感度を持つこと、③高 温動作(少なくとも400℃以上の高温で動作し うるデバイスを作製することを目標とし、最終 的には、深紫外線センサデバイスのプロトタイ プを提案する。更に、紫外部での発光材料の探 索を行った。 以上の探索の結果、図4に示したような、優 れたソーラーブラインド性を有する、ダイヤモ ンド薄膜UVフォトセンサの開発に成功した。 この材料では、B濃度1021m-3以下のダイヤモン ド薄膜上に作製した熱処理前のHfN-SD型フォ トセンサであるが、(a)順方向-10Vにおける光 応答特性、および(b)光強度0.2W/m2の220nm 光に対する応答時間特性を示す。可視光ブライ ンド比106を維持しながら、応答時間0.3秒以下 の高速応答性が得られていることが判明した。 図3 Comparison of BZT-50BCT のd33の値と他 の圧電材料の値との比較 図4 HfN SDタイプのフォトレスポンス(a) と応答性(b) 3-4 「アクチュエータ機能研究」(アクチュ エータ機能グループ担当) 本サブテーマでは、従来の圧電素子に比べて 桁違いに大きい力を発生することから実用化が 期待されている形状記憶合金薄膜アクチュエー タの開発を行った。従来のTi-Ni二元系形状記 憶合金に第三元素を添加することによって、1) 組成依存性が少なくて量産が可能な形状記憶合 金薄膜(3インチウエハ内の安定した特性を目 標とした)、2)高強力形状記憶合金薄膜(現在 の200MPaから1GPaへ発生力を増やす)、3) 車載用形状記憶合金薄膜(作動温度を現在の 60℃から100℃に上げる)、4)二方向形状記憶 合金薄膜(新しい二方向形状記憶処理技術の開 発)、5)新しい機能を付加した多層形状記憶合 金薄膜などの多様なアクチュエータの開発を行 い、用途の拡大を目指した。また同時に、マイ クロデバイスへの実用化を促すためにデバイス 応用のための基盤技術(設計支援技術、製造プ ロセスの管理技術、デバイスの信頼性の確保な ど)の確立を図った。 図5(a)の例では、600℃で1時間の熱処理を 行ったTi51.5Ni33.1Cu15.4合金薄膜の形状記憶特 性を示した。薄膜に一定荷重を付加した状態で 冷却・加熱を行い、その時のひずみを測定した。 冷却時にマルテンサイト変態によって発生した 変態ひずみは、加熱時の逆変態によって完全に 元に戻ることがわかる。図5(b)のTi51.7Ni48.3二 元合金薄膜では低荷重側で2段階の変形が見ら れる。これは、Ti-Ni合金の変態が冷却に伴っ てB2相→R相→B19'相の2段階で進むこと による。荷重が大きくなると両者の変態温度は 近づき、B2相→B19'相の1段の変態になる。 以上のような性質は、バルク試料では難しく、 薄膜形状記憶合金で初めて実現できたものであ る。 4.今後の研究動向 エレクトリカルセンシング機能研究を担当し たセンサ化学グループでは、新規ナノ物質形成 プロセスとして球状ZnO粒子の形成に成功し、 その材料がセンサ機能を持つことを確認した。 しかしながら、従来材料に比して、必ずしも優 れたパーフォーマンスを示すには至らなかった。 これは、添加物の最適化が成されていないため で、これに対応すべく、コンビナトリアルイオ ン注入による物質探索を提案し、それによって 作成されたケミカルライブラリーのレセプター 機能評価に当たって、SPR法が有効であること を示した。さらにこれらの基礎となる、薄膜形 成法、SIMSによる評価法についても新たな地 検を得ることができた。一方、当初、オプトグ ループとの連携により、紫外光を利用したセン サデバイスの提案することも目標とした。これ については、紫外光の利用の面では進展があっ たものの、これらの結果をデバイス形成までに は至らなかった。第三期中期計画においては、 これらを総合したデバイス開発を引き続き行っ ていく計画である。 アコースティカルセンシング機能研究を担当 したセンサ物理グループでは、主に非鉛圧電体 の開発に注力してきた。高性能非鉛材料に関す る三重点MPB理論は、今後さらに良い高性能 非鉛圧電材料の設計開発に指針を与えると考え られる。今後はBZT-BCTより更に高性能を持 つ非鉛圧電材料の発見に繋がる可能性がある。 この理論を磁歪材料分野に応用することにより、 磁性分野の常識であった「結晶構造は磁性状態 に依存しない」という概念を覆すと共に、超磁 歪効果の起源を解明し、強誘電材料の高い圧電 効果の起源を統一的に理解できた。この新しい 知見は今後の超磁歪材料の探索に指針を与え、 Terfenol-Dを代替できる新規低コストの超磁 歪材料の発見に繋がることが期待される。 オプティカルセンシング機能研究では、光学 特性評価の立場からセンサ機能について検討し 図5様々な応力に対する,歪み一時間曲線.(a) Ti51.7Ni48.3 と(b) Ti51.5Ni33.1Cu15.4薄膜.試料は600℃ において1時間焼鈍したものである た。具体的には、太陽光下においても、深紫外 線(190~280nm)を選択的に検知する小型固 体素子型の深紫外光センサの開発を目標とした。 性能的には実用上十分な①可視光と紫外光での 感度差が6桁以上、②lnW/cm2の微弱深紫外 線が検知しうる感度を持つこと、③高温動作(少 なくとも400℃以上の高温で動作しうるデバイ スを作製することを目標とし、最終的には、深 紫外線センサデバイスのプロトタイプ提案を目 指した。その結果、以下の成果を上げることが できた。高融点金属カーバイドおよびナイトラ イド金属間化合物をショットキー性およびオー ム性電極として用いることによって、極めて熱 安定な太陽光ブラインド型ダイヤモンド深紫外 線フォトセンサの開発に成功した。更に開発し たダイヤモンドセンサ素子を用いて、火災検知 システムを初めて試作した。同時に、高感度性 の起源となった光伝導利得現象は、ダイヤモン ド内のキャリアトラップ準位を介したキャリア の捕獲・放出によって支配されていることを実 験的・理論的に示すことによって、深紫外線の センシング学理を構築した。また、ダイヤモン ドpn接合を用いたダイヤモンド紫外線センサ の開発に成功し、ベルギー王立科学研究所との 共同研究(太陽ライマン線観測(LYLA)プロ ジェクト)において、開発したダイヤモンド深 紫外線センサを搭載した太陽観測衛星打ち上げ 成功した。同様にAlGaNの光電効果素子を利 用した火災センシングの実証も行った。しかし ながら、プロジェクト最終目標に挙げた有害物 質のセンシングを実証することができなかった 点が反省点である。 プロジェクトの課題であった形状記憶合金薄 膜アクチュエータの実用化に向けた基盤研究は、 新しいTi-Ni-Cu形状記憶合金薄膜とその応用 アクチュエータの開発によって大きい成果を挙 げることができた。プロジェクト以前にもスパ ッタリング法で作製した形状記憶合金薄膜は MEMS用超小型大変位・強力アクチュエータと して注目され、多くの研究が行われていた。し かし、組成制御が難しいTi-Ni二元合金が研究 の中心であって、実用化は困難であった。本プ ロジェクトでは、組成依存性が小さく安定した 特性を示すTi-Ni-Cu形状記憶合金薄膜を開発 し、また簡便なアクチュエータとしてポリイミ ドと組み合わせたユニークな薄膜型アクチュエ ータを提案した。企業、大学、海外との積極的 な共同研究により、形状記憶合金薄膜の用途も MEMS用アクチュエータはもとよりセンサや 超弾性を使った医療器具にまで拡がりつつある。 特にポリイミド/形状記憶合金薄膜アクチュエ ータは、安価に生産できて簡便に使えることか ら、世界初の製品化の可能性も見えてきた。し かし、一方では企業との共同研究により100℃ 付近の変態温度を有する安価な高温形状記憶合 金薄膜アクチュエータの必要性が指摘された。 今後の課題として、生産コストの低減とコスト に見合う付加価値の高いアクチュエータの開発 が重要である。例えば、複合化による新たな機 能の開発、薄膜の形態を有効に使った用途の開 発、バイアスばねを必要としない簡便なアクチ ュエータの開発、高温で作動する信頼性の高い アクチュエータの開発などが今後の課題として 挙げられる。 プロジェクト全般では、インテリジェントセ ンサ開発に資するため、センサに関わる科学・ 技術の基盤的研究を行ってきた。その成果を披 露するシンポジウムにおいては、インテリジェ ントセンサの基本的な考え方が議論され、定質 センサのコンセプトがそのキーとなることが広 く理解されるようになった。個別のグループは、 上記したように概ね計画を達成できたものと判 断され、多くの報告がなされている。また、多 くの特許出願がなされていることからわかるよ うに、これらの成果は単に学理的なものに留ま らず、今度、実用化に向け進展するものと期待 される。 インテリジェントセンサの考え方は、具体的 には「定質センサ」の考え方に収斂される。こ の観点から、定質センサのコンセプトの普及を 図るべく、シンポジウムを開催したが、これと 平行して(財)新技術振興渡辺記念会の研究助 成(2008年度下期)を受け「定質センサによる 化学・生物剤の網羅的検出技術に関わる調査研 究」を実施した。この調査研究では、定質セン サに関わる技術に関し、「リスクコンタミナンツ の定質センサ検知に対する技術需要の調査」、 「定質センサによる検知技術の開発調査」、およ び「リスクコンタミナンツ検知のための定質セ ンサ材料およびシステムの信頼性を確立する技 術開発調査」の3つに分類し、上記シンポジウ ム支援、アンケート、聞き取り調査、文献調査 等、幅広く実施した。結果として、定質という コンセプトに基づき開発される(すでに一部で 技術化されつつある)センサ技術が、未知既知 のリスクを明らかにし、安全安心の確保に非常 に有用であることが明らかにされた。さらに、 定質という考え方による分析・センサ技術は、 有用物質の検索・発見や、生産現場のQCなど、 さらに広い用途に資することも明らかになった。 その一方で、上述したように、リスクマネージ メントの考え方を踏まえた今後の技術開発、技 術普及、産業化、そしてそれによる安全安心な 社会の形成には、幾つかの課題があることが浮 き彫りにされた。さらに、これらの障害を克服 すべく、センサの基礎的検討を含めた新たな研 究システムの構築が不可欠なことが示された。 この調査の詳細については、調査報告書を参照 されたい6)。 センサを取り巻く情勢は時々刻々変化して いる。我々の研究は基礎に根ざしていることか ら、これらの社会的変化に惑わされることなく、 グローバルに適用可能なセンサ科学の基礎を構 築できた。しかしながら、反面、センターとし ての総合的な成果として単にインテリジェント センサを提案するのみで、それを実証するため のセンター全体が関わるような総合的なデバイ ス形成まで至らなかった点は、反省点として残 る。今後、この方向の研究を行っていくために は、NIMSの枠に囚われず、大学を中心とした アカデミー、他の国研、あるいは国内の産業界 のみならず、グローバルな研究組織体を形成す る必要がある。この好例として、ダイヤモンド 紫外光センサのヨーロッパ衛星搭載を挙げるこ とができる。プロジェクト期間中に、国際的な 共同研究の核も形成されたことから、今後、具 体的なセンサ共同研究として進展していくと確 信している。 参考文献 1)http://www7.nationalacademies.org/gdest/ GDEST_Japan_US_Workshop_Main.html 2)L. M. Branscomb: "From Science Policy to Research Policy," in Investing in Innovation: Creating a Research and Innovation Policy That Works, ed. L. M. Branscomb and J. H. Keller (Cambridge, Mass.: MIT Press,1990),112-139. 3)http://www.issues.org/16.1/holton.htm 4)春山哲也:定量センサから定質センサへ、ケ ミカルエンジニアリング,52(9)(2007) 679-687. 5)Tetsuya Haruyama: Cellular biosensing: Chemical and genetic approaches, Analytica Chimica Acta, 568 (2006) 211-216. 6)K. Watanabe, K. Matsumoto, T. Ohgaki, I. Sakaguchi, N. Ohashi, S, Hshita, H. Haneda: J. Ceram. Soc. Jpn.(2010) 7)WF. Lie, XB. REN: Phys. Rev. Lett.,103 (2009)25. 8)Y. Koide, M. Y. Liao, and J. Alvarez: Materials Transactions JIM, 46 (2005) 1965-1968. 9)M. Y. Liao, J. Alvarez, and Y. Koide: Jpn. J. Appl. Phys. 44(2005)7832. 10)M. Y. Liao, Y. Koide, and J. Alvarez: Appl. Phys. Lett. 88(2006)033504. 11)M. Y. Liao and Y. Koide: Appl. Phys. Lett. 89(2006)1135. file:////www7.nationalacademies.org/gdest/ http://www.issues.org/16.1/holton.htm データシートステーションの5年 ―機械構造物の安全性・信頼性向上を目指し、構造材料データシートを作成する― ステーション長木村一弘 1.ステーションの目的 データシートステーションの目的は、安心・ 安全な社会を構築するために必要不可欠な各種 構造材料の信頼性を向上させ、安全かつ効率的 に材料を利用するための材料特性データを生産 し、構造材料データシートとして発信すること である。また、取得した材料特性データの意味 やデータ・知見等の活用方法、さらには新しい 試験法や評価法を研究・開発するとともに、講 演会や講習会等を通して成果の普及・啓蒙を図 り、世の中の生産活動や研究開発等に貢献する ことを目指す。こうした知的研究基盤の構築・ 提供はひとたび事故が起きた時の経済損失や事 故対策、また発電プラントの効率化・長寿命化 といった環境エネルギー的視点からも必要不可 欠な科学技術貢献である。 2 .活動概要 クリープ、疲労、腐食及び宇宙関連材料強度 に関する試験データを取得して、第二期中期計 画期間の5ヵ年で、以下の構造材料データシー トを発行した。 クリープは、1988年以降に開始した22鋼種 のクリープ試験を継続し、7冊のクリープデー タシートと2冊のクリープ変形データ集、4冊 の微細組織写真集を発行した。 疲労は、車軸・クランク軸や軸受けに使用さ れる高強度鋼の100億回までのギガサイクル疲 労強度特性、耐熱合金の低サイクルおよび高サ イクル高温疲労強度特性、板厚80, 40mmの溶 接構造用圧延鋼の1億回までの疲労強度特性と 9~160mmの範囲で板厚の影響及び極低不純 物チタン合金の100億回までのギガサイクル疲 労強度特性とそれに及ぼす応力比効果の評価を 行い、14冊の疲労データシートを発行した。 腐食は、長期間大気暴露試験を継続するとと もに、炭素鋼を用いて暴露試験結果に及ぼす暴 露試験開始時期の影響の評価を行い、6冊の腐 食データシートを発行した。 宇宙関連材料強度は、H-IIAのLE-7A, LE-5B, LEX推進エンジンに用いられる材料について、 対象とする材料に応じて、液体ヘリウム温度 (4K)から高温(873K)の温度範囲で引張、シャル ピー衝撃、破壊靱性、疲労、疲労き裂進展等の 各種強度特性の評価を行い、9冊の宇宙関連材 料強度データシートと3冊の破面写真集を発行 した。 3.成果 3-1クリープデータシート クリープデータシートプロジェクトは、国産 耐熱金属材料の長時間クリープ試験データを取 得することを目的として昭和41年度(1966年) に開始し、当初計画された44材種のクリープ データシート作成は2004年でほぼ終了した。 昭和63年(1988年)以降には、改良9Cr-1Mo鋼 等の新たに開発された高強度耐熱金属材料を試 験対象材料としてサンプリングし、長時間クリ ープ試験を継続実施している。第二期中期計画 5ヶ年は、これら23材種の長時間クリープ試験 を実施して、7冊のクリープデータシートを発 行するとともに、クリープ変形データ集を2冊、 長時間クリープ試験材の微細組織写真集を4冊 発行した。第二期中期計画5ヶ年に発行した発 行したクリープデータシート、クリープ変形デ ータ集、微細組織写真集を以下に記す。 クリープデータシート:7冊 No.53,高温圧力容器用高強度クロムモリブデ ン鋼鍛鋼品 JIS SFVCM F22V(2.25Cr-1Mo- 0.3V)のクリープデータシート No.54,発電ボイラー用合金鋼鋼管火STBA 24J1(2.25Cr-1.6W)及び発電配管用合金鋼鋼 管火 STPA24J1(2.25Cr-1.6W)のクリープ データシート No.55,ガスタービン用ニッケル合金板JIS NW6002 (Nickel based 21Cr-18Fe-9Mo)及 びニッケル合金棒JIS NW6002 (Nickel based 21Cr-18Fe-9Mo)のクリープデータシ ート No.56,発電ボイラー用合金鋼鋼管 火SUS 304 JI HTB (18Cr-9Ni-3Cu-Nb-N)のクリー プデータシート No.57,ボイラ・熱交換器用ステンレス鋼管 ASME SA-213/SA-213M Grade TP347HFG (18Cr-10Ni-Nb)のクリープデータシート No.58,発電ボイラー用ステンレス鋼管火 SUS310J1 TB(25Cr-20Ni-Nb-N)のクリー プデータシート No.59,耐食耐熱超合金棒JIS NCF718-B (Nickel based 19Cr-18Fe-3Mo-5Nb-Ti-Al) のクリープデータシート クリープ変形データ集:2冊 No.D-1,ボイラ・熱交換器用クロムモリブデン 鋼鋼管 ASME SA-213/SA-213M Grade T91 (9Cr-1Mo-V-Nb)及びボイラ及び圧力容器用 クロムモリブデン鋼鋼板 ASME SA-387/ SA-387M Grade 91(9Cr-1Mo-V-Nb)のクリ ープ変形データ集 No.D-2,ボイラ及び圧力容器用クロムモリブ デン鋼鋼板 ASME SA-387/SA-387M Grade 91(9Cr-1Mo-V-Nb)のクリープ変形データ集 ―SR熱処理の影響― 微細組織写真集:4冊 No.M-6,蒸気タービンロータ用クロムモリブ デンバナジウム鋼ASTM A470-8(1Cr-1Mo- 0.25V)クリープ試験材の微細組織 No.M-7,耐熱鋼遠心力鋳鋼管SCH 22-CF (25Cr-20Ni-0.4C)クリープ試験材の微細組織 No.M-8,耐熱鋼遠心力鋳造管SCH 24 (25Cr-25Ni-0.4C)クリープ試験材の微細組織 No.M-7A,耐熱鋼遠心力鋳造管SCH 22-CF (25Cr-20Ni-0.4C)クリープ試験材の微細組織 これらの活動の成果として、2006年4月7 日に『10万時間を越える超長時間の高信頼性ク リープ試験によるクリープデータシートの作 成』が、日本機械学会賞(技術)を受賞した。 また、第二期中期計画5ヶ年において、40年 を超える長時間のクリープ破断データを取得す るとともに、これまでに確認されている世界最 長のクリープ試験データを超える、超長時間の クリープ試験データを取得した。 40年を超えてクリープ破断した試験片を図1 に示す。試験材料はボイラ及び圧力容器用炭素 鋼鋼板(JISSB480)の0.3%炭素鋼であり、試 験条件は400℃、294MPa、クリープ破断時間 の350,771.8hは40年5日と11時間46分に相 当する。これらの超長時間のクリープ試験デー タを図2に示す。図2は図1に示すクリープ破 断試験片のクリープ曲線と世界最長記録を更新 した長時間クリープ試験データを併せて示した ものである。同一規格材であるCaNヒートは 40年を超えてクリープ破断したが、CaGヒー トは従来の世界最長のクリープ試験データであ る356,463hを更新した。このように、同一規 格材でもクリープ破断強度に大きなヒート間差 が生じる理由は、材料規格では規定されていな い微量合金元素であるMo量に依存するためで ある1)。 図1350,771.8hでクリープ破断した試験片,材料: 0.3C鋼(JIS SB480),試験温度:400℃,試験応力: 294MPa,試験時間:40年5日11時間46分 図2ボイラ及び圧力容器用炭素鋼鋼板JIS SB480のク リープ曲線 3-2疲労データシート ① 長期常温疲労データシート 自動車を始めとする機械の軽量化・省エネ化 に伴い高強度鋼の需要は高まっているが、高強 度鋼においては今まで打ち切りの試験回数とさ れてきた1000万回以上で内部破壊が起こり、 疲労限が消滅するという新たな問題が顕在化し た。そこで、第二期では第一期からの継続であ る炭素鋼S40Cと低合金鋼SCM440に加え、軸 受け鋼SUJ2について、100億回までのギガサ イクル疲労データシートを発行するとともに、 マグネシウム合金押出材(AZ61とAZ31)の疲 労データシートを発行した。 ②高温疲労データシート 発電プラントや輸送動力の一層のエネルギー 高効率化(燃焼温度の高温化)を実現するため には、高強度耐熱材料の需要が高まってきた。 そこで、第二期では、耐食耐熱超合金板 NCF800H (21Cr-32Ni-Ti-Al)の三角波ひずみ 制御による長期高温疲労特性とニッケル合金板 NW6617 (Ni-22Cr-12Co-9Mo)の三角波によ る長期低サイクル疲労及び台形波によるクリー プ疲労特性を評価して、 疲労データシートを発 行した。 ③溶接継手疲労データシート 大型溶接構造物の疲労設計、保守管理では引 張溶接残留応力の存在する疲労寿命曲線を想定 しなければならないが、小型の疲労試験片では 実構造物に相当するような残留応力が開放され てしまい、実構造物の疲労強度特性を精度良く 評価することができない。そこで、板厚を変え た溶接継手試験片を用いて、疲労強度特性に及 ぼす板厚の影響について検討を行ってきた。第 二期では、板厚80mmと40mmの溶接試験片 の疲労データシートを発行し、板厚9~160mm の範囲で,板厚の増加に伴う疲労強度特性の低 下を定量的に解明した。溶接構造用圧延鋼(SM 490B)溶接継手の疲労強度特性に及ぼす板厚の 影響を図3に示す2)。 図3溶接構造用圧延鋼(SM 490B)溶接継手の疲労 特性に及ぼす板厚の影響2) ④チタン合金疲労データシート チタン合金は優れた耐食性と高い比強度を有 するため、航空宇宙産業や海洋開発機器など多 くの分野で需要が高まっている。しかし、高強 度鋼と同様に長寿命域で内部破壊が起こるため、 疲労限の消滅が問題となっている。そこで、第 一期では最も汎用性の高いTi-6Al-4V合金(普 通材)を中心にギガサイクル疲労特性データシ ートを出版した。第二期では生体材料としても 期待されているTi-6Al-4V ELI合金を中心に 100億回までのギガサイクル疲労特性データシ ート(図4)に加え、実用面で重要な高応力比 側のギガサイクル特性データシートを出版した。 図4Ti-6Al-4V ELI合金(900MPa級)の最高100億回ま でのギガサイクル疲労強度特性3) 第二期中期計画5ヶ年に発行した発行した 14冊の疲労データシートを以下に記す。 No. 102,炭素鋼S40C(0.40C)の超音波疲労特 性データシート No.103,チタン合金 Ti-6Al-4V ELI (1100MPa 級)の疲労特性データシート No. 104,機械構造用合金鋼SCM440(0.40C- 1Cr-0.2Mo)のギガサイクル疲労特性データ シート No.105,チタン合金 Ti-6Al-4V ELI(900MPa 級)のギガサイクル疲労特性データシート No. 106,機械構造用合金鋼SCM440(0.40C- 1Cr-0.2Mo)の超音波疲労特性データシート No.107,チタン合金 Ti-6Al-4V ELI (1100MPa 級)のギガサイクル疲労特性データシート No.108,溶接構造用圧延鋼SM490B荷重非伝 達すみ肉溶接継手の疲労特性データシート ―板厚の効果(その3,板厚80mm)― No.109,耐食耐熱超合金板NCF800H(21Cr- 32Ni-Ti-Al)の長期高温低サイクル疲労特性 データシート No.110,マグネシウム合金押出材 AZ61 (Mg-6Al-1Zn)と AZ31(Mg-3Al-1Zn)の疲労特 性データシート No.111,チタン合金 TF6Al-4V(900MPa 級)の 高応力比側ギガサイクル疲労特性データシ ート No.112,軸受鋼SUJ2 (1.0C- 1.5Cr)のギガサイ クル疲労特性データシート No.113,ニッケル合金板 NW6617 (Ni-22Cr- 12Co-9Mo)の長期高温低サイクル疲労特性デ ータシート No.114,溶接構造用圧延鋼SM490B荷重非伝 達すみ肉溶接継手の疲労特性データシート ―板厚の効果(その4,板厚40mm)― No.115,チタン合金 Ti-6Al-4V ELI(900MPa 級)の高応力比側ギガサイクル疲労特性デー タシート 3-3腐食データシート 腐食データシートプロジェクトは、1998年に 開始した大気暴露試験を引き継いで、低合金鋼 の長期大気腐食特性を取得することを目的とし て、耐候性鋼の主要合金成分を添加した二元系 合金を軸として2002年から開始した。その後、 市販材および溶製材を新たに追加して、大気曝 露試験を開始した。第二期中期計画5ヶ年も、 NIMS内の大気曝露試験施設の他、日本ウェザ リングテストセンターの銚子試験場と宮古島試 験場の計3箇所の曝露サイトにおいて、直接曝 露と遮へい曝露の2条件で二元系合金、炭素鋼、 耐候性鋼等の長期試験を継続実施してきた。第 二期中期計画5ヶ年においては、最長10年間 の大気曝露試験データを取得してデータをまと めるとともに、大気曝露試験を毎月開始する短 期繰返し曝露試験データを取得して、6冊の大 気腐食データシートを発行した。銚子試験場で 10年間大気曝露したFe-1%Ni及びFe-1%Cr 試験片の外観写真を図5に示す4)。 開放条件よ りも遮蔽条件下での曝露試験片の方が腐食の程 度が大きく、その程度はFe-1%Niよりも Fe-1%Crの方が大きい。一月毎に炭素鋼の大気 曝露試験を開始して、それぞれ1ヶ月と1年間 の大気曝露試験により求めた腐食減量を、開始 時期に対して整理して図6に示す5)。1ヶ月間 の腐食減量は曝露試験開始時期の違いにより大 きく異なるが、1年間の腐食減量は曝露試験開 始時期によらず、ほぼ一定であることを明らか にした。第二期中期計画5ヶ年に発行した発行 した6冊の大気腐食データシートを以下に記す。 No.1B, Fe-Cr, Fe-Ni二元系合金大気腐食特性 データシート No.1C, Fe-Cr, Fe-Ni二元系合金大気腐食特性 データシート No.3A,炭素鋼、耐候性鋼大気腐食特性データ シート No.3B,炭素鋼、耐候性鋼大気腐食特性データ シート No.4A, Fe-P, Fe-Cu二元系合金大気腐食特性 データシート No.5,炭素鋼の短期繰り返し暴露の大気腐食特 性データシート 図5銚子試験場で10年間大気曝露した試験片 図6炭素鋼の1ヶ月及び1年間の腐食減量に及ぼす曝 露試験開始時期の影響5) 3-4宇宙関連材料強度データシート 国産宇宙ロケットエンジンを主とした液体水 素利用機器の開発の安全性と信頼性を確保する ことを目的として、使用される材料の強度特性 のデータ整備に関し、2000年に宇宙開発事業団 (NASDA,現宇宙航空研究開発機構(JAXA)) 側から協力の依頼があり、それを契機にして宇 宙関連材料強度データシートの作成が始まった。 液体ロケットH-IIAのLE-7Aエンジンおよび LE-5Bエンジンに用いられる材料につき、緊急 性に応じて試験計画を策定し、試験・評価を実 施した。2002年度に1冊目の宇宙関連材料強 度データシート、No.1を発行して以来、毎年デ ータシートを発行しており、第二期中期計画5 ヶ年では9冊のデータシートを発行した。さら に、強度特性の理解を深めることを目的として、 破面の観察及び破面写真の収集整理を行い、3 冊の破面写真集を発行した。アロイ718鋳造材 の疲労き裂進展特性に及ぼす温度の影響を図7 に、疲労き裂先端部の破面写真を図8に示す6)。 第二期中期計画5ヶ年に発行した発行した9 冊の宇宙関連材料強度データシートと3冊の破 面写真集を以下に記す。 宇宙関連材料強度データシート:9冊 No.10,アロイ718鋳造材の破壊靱性および高 サイクル疲労特性データシート No.11,コバルト基超合金アロイ188の高サイ クル疲労特性データシート No.12,アルミニウム合金A356-T6鋳造材の破 壊靭性および高サイクル疲労特性データシ ート No.13, Cu-Cr-Zr合金の低サイクル疲労特性デ ータシート 図7アロイ718鋳造材の疲労き裂進展特性に及ぼす 温度の影響6) 図8アロイ718鋳造材の疲労き裂先端部の破面写 真6) No.14, Ti-5Al-2.5Sn ELI 鍛造材(φ 180 mm ビ レット)の疲労き裂進展特性データシート No.15,アロイ718鍛造材(φ165 mmビレット) の疲労き裂進展特性データシート No.16,低炭素アロイ247 一方向凝固材の高サ イクル疲労特性データシート No.17,アルミニウム合金A356-T6鋳造材の疲 労き裂進展特性データシート No.18,アロイ718鋳造材の疲労き裂進展特性 データシート 破面写真集:3冊 No.F-1, Ti-5Al-2.5Sn ELI 合金(φ180mm billet)の破面写真集 No.F-2, Ti-5Al-2.5Sn ELI 合金(φ160mm billet)の破面写真集 No.F-3,アロイ 718 鍛造材(φ165mm billet)の 破面写真集 これらの活動の成果がH-IIA ロケットの信頼 性向上やH-IIB ロケットの開発に貢献したこと に対し、2009年3月19日に(独)宇宙航空研究 開発機構(JAXA)から感謝状をいただいた。 3-5データシートシンポジウム データシートステーションでは、発行したデ ータシートを国内外の多くの機関に送付すると ともに、NIMS物質・材料データベースの一部 (NIMS構造材料データシートオンライン)と してデータシートの情報を発信しているが、一 層の成果の普及促進を図るとともに、データシ ートユーザーとの意見交換を行い、ユーザーの 意見や要望を取り入れるための場として、デー タシートシンポジウムを定期的に開催した。 第 二期中期計画の5ヶ年においては、各データシ ートの内容を中心として以下のように4回のデ ータシートシンポジウムを開催した。 ・宇宙用材料国際会議(2007年3月13日) ・クリープデータシートシンポジウム「規格・ 基準におけるクリープ強度特性の重要性」 (2008年 3 月18 日) ・疲労データシートシンポジウム「疲労研究の 最近の研究成果と疲労データシートの紹介」 (2009 年11月12 日) ・腐食データシートシンポジウム「社会基盤構 造物のマネジメント ―橋梁を中心として ―」 (2010 年 6 月 30 日) さらに、MOUを締結しているドイツのMPA シュツットガルト及びダルムシュタット工科大 学と計3回のワークショップを開催した。 ・ 6th NIMS-MPA-IfW Workshop on Development and Qualification of New Materials for Highly Efficient USC Power Plant, Tsukuba, Japan, 2007 年 3 月14 日 ・ 7th International NIMS-MPA-IfW Workshop on Advances in High Temperature Materials for High Efficiency Power Plants, Stuttgart, Germany, 2008 年 10月7-9日 ・ 8th NIMS-MPA-IfW Workshop on Advances in High Temperature Materials for High Efficiency Power Plants, Tsukuba, Japan, 2010 年 3 月 24-26 日 3-6 ISO9001品質マネジメントシステム 構造材料データシートの作成は、その品質を 高めるとともにデータシート利用者からの要望 を有効に取り込むことを目的として、データシ ートと密接に関連し,外部からの要求に応える クリープ受託試験と事故調査と併せて、ISO 9001: 2000 "Quality management system" (JIS Q 9001: 2000品質マネジメントシステム) の認証を2002年5月20日付で取得した。 第二期中期計画5ヶ年においても毎年の定期 審査と3年毎の更新審査を受け、品質マネジメ ントシステムの認証を継続した。この品質マネ ジメントシステムに基づいて内部品質監査や計 画・品質管理委員会等の日常業務を実施して、 構造材料データシートのトレーサビリティの確 保と品質向上、さらには円滑な業務遂行に役立 てた。 4.今後の動向 宇宙関連材料強度データシートの成果が、国 産ロケット用部材の設計に反映されていること は言うまでもなく、クリープデータシートの成 果は国内外の許容応力や余寿命評価ガイドライ ンの策定に反映されており、疲労や腐食データ シートの成果も材料の安全かつ適切な利用や新 材料の設計に対する重要な指針を提供している。 長期的かつ継続的な取組が不可欠であるクリー プや疲労、大気腐食等の材料試験を今後も着実 に実施して、材料の設計・製造・利用等に関す る規格・標準に対してより一層積極的に貢献す るための材料標準の整備に努めることが、物 質・材料研究に関する公的機関としての責務で ある。 参考文献 1)木村一弘、九島秀昭、八木晃一、田中千秋: 鉄と鋼 81(1995)757. 2)溶接構造用圧延鋼SM490B荷重非伝達すみ 肉溶接継手の疲労特性データシート板厚の 効果(その 4、板厚 40mm) No.114(2011). 3)チタン合金Ti-6Al-4V ELI(900MPa級)の高 応力比側ギガサイクル疲労特性データシー ト No.115(2011). 4)Fe-Cr, Fe-Ni二元系合金大気腐食特性デー タシート No.1C(2010). 5)炭素鋼の短期繰り返し暴露の大気腐食特性 データシート No.5(2011). 6)アロイ718鋳造材の疲労き裂進展特性デー タシート No.18(2011). 材料創製支援ステーションの5年 ―材料研究を支える創製・加工の一貫技術― ステーション長鳥塚史郎 1.ステーションの目的 材料創製支援ステーションは、2006年4月 に物質・材料研究機構の第二期中期計画に基づ いて、共用基盤部門の8つのステーションの一 つとして設置された。 当ステーションは、「創製 技術セクション」と「設計試作セクション」か らなり、材料研究に関する材料創製、加工の一 貫した技術、装置、そして、人材を有している。 NIMSにおける最先端の研究を、大学や企業が 保有しない独自で高度な技術をもって、支援す ることが目的である。さらには、保有技術の研 鑽、展開、継承とともに、それらの技術の外部 共用を行うことも目的としている。 2.ステーションの構成 (1)創製技術セクション 金属材料研究のための金属素材の溶製技術と 塑性加工技術を保有している。研究者の要望に 応じて、研究素材の作製から金属組織の制御、 さらには、新合金開発や新加工プロセス開発な ども行っている。また、接合技術の支援も行っ ている。図1に示すように、6人のスタッフが 担当している。一部に自由使用の機器も有する が、ほとんどが完全依頼、すなわち、研究者の 立ち会いの元、実験操業をエンジニアが行うと いう形態をとっている。 (2)設計試作セクション 図1に示すように、並木加工室、千現加工室、 硝子工作室、試料作製室の4つのサブグループ からなる。それぞれ、機械工作、機器設計試作、 レーザ加工、硝子工作による実験機器作製、組 織観察用試料作製と組織観察を担当し、研究者 のニーズに応じた技術的支援を行っている。完 全依頼型の技術支援のみならず、技術指導を精 力的に行い、多くの研究者が工作機械や試料作 製装置などを自由に使用できるよう支援もして いる。 両セクションを研究者であるステーション 長が統括する構成である。当ステーションは、 技術を維持発展させるために、定期的かつ計画 的なエンジニア職員の採用並びに教育は、最も 重要な施策と考えている。 材料創製支援ステーション 鳥塚史郎、(片田康行2006-2008.9) 河野桂、(田口晴美、高田悦子) 創製技術 セクション 岩崎智、荒金吾郎、中里浩二、檜原高明、黒田秀治、 谷内泰志、(佐久間信夫、藤原昌樹) ()は過去在籍者 設計・試作 セクション 並木加工室 増田安次 千現加工室 平出貞夫、小松誠幸、吉川虹緒 (高橋弘光、魚津良雄) 硝子工作室 川崎昌彦、宮代寛 試料作製室 鳥塚史郎田中孝尚、多田節子 図1材料創製支援ステーションの組織 3.活動成果 3-1創製技術セクション (1)概要保有する主な設備 【金属溶解】・高周波真空溶解設備・超清浄浮 揚溶解設備・加圧式ESR溶解設備 【塑性加工】・油圧鍛造機・熱間および冷間圧 延機 ・溝ロール圧延機・スェージング機 【熱処理】・移動式加熱炉・大型加熱炉 【単純使用設備】切断機、機械加工、溶接機 (2)実績 依頼件数 5年間の完全依頼件数の推移を図2に示す。 なお、件数は目安であり1件で数10個などの 依頼も多く、実行数では年間2,000~3,000個 程度の処理個数をこなしている。また、単純使 用設備となる汎用機器類の使用件数も図3に示 す。 図3汎用機器類使用件数の年度推移 外部機関との連携 NIMSミッションの1つである「機構の施設 及び設備の共用」を遂行するため、当セクショ ンでは「技術の共用」と言う概念を取り入れて、 内部研究者との連名による共同研究や外部から の技術相談等による研究用サンプル作製依頼な どに積極的に対応している。図4は研究用素材 の溶製や試料の成形加工・加工プロセス開発の ための塑性加工実験など、外部機関との契約件 数と内部研究者連名の共同研究の件数を示した ものである。年々外部依頼は増加傾向にあり、 リピーターも増える傾向となっている。2010 年度は中期計画終了年度で、技術相談等の外部 依頼への早急な実行の制約があった。そのた め、受託を制限せざるを得ず、件数は減少した が、次年度での早急な対応を行う予定である。 図4外部機関との連携件数の年度推移 広報活動 当セクションでは、内部研究者はもとより外 部機関への保有設備および技術的PRが重要と の認識から、積極的に各種フェア(例:産学官 技術交流・NIMSフォーラム・TXショールー ムなど)に参加して広報活動に努めてきた。図 5はそれらフェアを含め、設備見学対応や一般 公開の特別企画に参加した件数をまとめたグラ フである。 図5広報活動に関する対応件数の年度推移 受賞 第二期中期計画の5年の中で当セクションで は、2名が技術的考案により文部科学大臣表彰 創意工夫功労賞を受賞している。 * 2006年度 「不純物除去による耐食性抜本 的改善による考案」 岩崎智 * 2010年度 「制振合金溶製に関する鋳造装 置の考案」 檜原高明 以上のように当セクションでは、設備操作だけ のオペレーターまたはルーチンワークだけの設 備操業者に留まることなく、研究者と一緒にな って実験操業・プロセス開発・材料開発などを 行う技術屋集団を目指すものである。 3-2設計試作セクション 並木加工室 (1)概要 NIMS内の研究者を対象に技術支援を行って おり、研究業務の多様化に伴う高度な支援業務 に対応できるように努めてきた。以下に主な業 務内容を示す。 1.実験装置の設計製作、改良 2.ジグ等の設計製作や機械加工 3.各種機械の保守管理 4.技術相談・技術指導 主要管理設備は以下である。設計試作セクシ ョン専用工作室と、研究者工作室とに分かれて おり、フライス盤2台、旋盤5台、平面研削盤 2台、ボール盤4台、CAD (図6)を管理して いる。 図6機械設計支援システム (2)実績 設計試作依頼においては、研究者と仕様を煮 詰め、使用目的を理解した上で新たに設計図面 を作成、製作を行ってきた。図7に過去5年間 の実績を示す。 図7 2006~2010年の依頼件数と制作点数 機械加工依頼においては、必要に応じて依頼 図面の修正、又は新たに図面を作成し、更には 可能な限り迅速に対応することにより研究者に よる実験の停滞を防ぐことに努めてきた。 また、研究者自ら機械加工を行う際には安全を 最大限考慮し、指導を行った。 以下に、今期の代表的な製作物品を示す。 図8微小引張試験片研削装置 図9光学研磨機 図10ガス流制御マルチホロープラズマCVDで使 用するカソード電極 図11ピエゾ駆動型フォトニック結晶回折波長チュ ーニング装置 受賞 第4回理事長賞知的基盤功労賞 増田安次 「高精度光学鏡面研磨装置の設計製作」 3-3設計試作セクション 千現加工室 (1)概要 千現加工室は、研究に必要な装置のCADを 用いた設計試作や改修、各種部品・治具等の製 作、機材保守管理、機械操作・安全講習会の開 催、展示工作品製作、加工室紹介パネル作成、 技術相談等を主な業務としている。 主要管理設備は以下である。旋盤5台、フラ イス盤4台、平面研削盤2台、ボール盤、精密 カッター2台、ワイヤ放電加工機4台、数値制 御旋盤1台、マシニングセンタ3台、YAGレー ザ加工機 1 台、 帯鋸盤、他を管理している。ま た、この5年の中で設備利用システムの開発、 加工室の整備、機器の大型補修、新規設備(フ ェムト秒レーザ加工機システム 図12)の導入 を行った。 図12フェムト秒レーザ加工機システム (2)実績 千現加工室の特徴は、加工室機材利用者のた めに安全講習会・技術講習会を行い、英語での 指導も実施していることから、桜地区、並木地 区、ICYSからの利用も多く、機構全体の支援 に貢献していることである。2009年度は、安 全・技術講習受講者のべ51名であった。 図13 2006~2010年度千現加工室自由予約機械の 使用実績 図13に千現加工室の5年間における機器利 用状況を示す。装置の稼働率は高く、例えば自 由予約機械のワイヤ放電加工機、フライス盤、 旋盤等は近年1,000時間を超えている。千現加 工室が独自に開発した、「機材利用・管理システ ム」も利用者の増加に貢献した一因である。 図14 2009年度千現加工室センター別利用状況 また、図14に2009年度の利用者のセンター 別割合を示すが、NIMS内の広範なセンターか ら利用されている。 千現加工室では、機械の自由使用だけでなく、 依頼品製作も受け付けてきた。2009年度は104 件あり、依頼が急増している。また、「微細加工」 に特化した技術開発もあわせて遂行している。 その他 ・機構内での協力:月例ICYSブリーフィングに て千現地区共用設備の説明およびラボツァ ーに協力。一般公開日にて「楽しいものづく り教室」「レーザ・超音波加工」を実施。 ・外部機関との連携:中小民間企業との「研究 成果実用化交流会」を実施し、機械加工企業 と外注の連携を開始。 ・産業技術総合研究所、筑波大学、NIMSの3 者協定に基づく研究協力枠にて、工作関連の 連携を開始し、連携1回目の講演会としてレ ーザ微細加工・光造形セミナーを主催。 ・共同研究:(株)ソノテックとの超音波加工に関 する共同研究を実施。 ・学会発表:精密工学会秋季大会で共同研究成 果を発表。 ・解説記事:「超音波カッターによる引っ張り試験 片加工」平出貞夫、小松誠幸、浦田勝頼(ソノ テック)、加藤毅(ソノテック):(株)日本工業出 版社「超音波テクノ」2009年7, 8月号. 3-4設計試作セクション 硝子工作室 (1)概要 ガラス工作室では、先導的研究開発・実用化 研究に欠かせないガラス機器、装置の設計・製 作や、各種試料の真空封入、ガス置換封入、精 密研磨、技術指導、素材の供給、共通設備の維 持管理など幅広い作業から研究技術支援を行っ てきた。 おもな管理設備として、硝子旋盤、平面研削 機、内面外面円筒研磨機、超音波加工機、真空 封入装置等を保有している。真空封入用ターボ 分子ポンプが2010年度に更新された。 (2)実績 硝子工作室では千現地区に加え、並木硝子工 作室にて業務を行っており、並木地区利用者の ニーズにも応えている。硝子器具、装置の設計 試作及び試料の真空・ Arガス封入等、多くの作 製に取り組くんだ。依頼件数は、図15に示す 様に年々増加傾向にあり、幅広い研究室の依頼 に対応してきた(表1)。 表15年間の地区別依頼件数 図15 5年間の依頼件数の推移 依頼件数 千現地区 並木地区 桜地区 2006 159 126 28 5 2007 168 104 61 3 2008 170 116 53 1 2009 174 115 57 2 2010 181 120 57 4 代表的製作例 1)金属ナノ粒子製造装置の製作(図16) 製造装置の中心的部品であるガラス回転ドラム を製作し、装置本体とともに業務実施契約のも 図16金属ナノ粒子製造装置 とで、企業に出荷された。 2)超微粒子製造装置の試作・改良(図17) この製造装置は、企業との共同出願により製 品化を実現した。製品化に至るまで捕集機構等 の試作を重ね多くの改良を行った。 図17超微粒子製造装置 3)触媒評価装置の設計・作製(図18) 高真空排気された反応ライン中にて、目的試 料の反応ガスに対する触媒活性を定量的に評価 する為の触媒評価装置である。 図18触媒評価装置 その他、「ジャッケット付き恒温セル・ハイ ドロゲルの物質透過セル」、「熱交換用ガラス蛇 管」、「不活性雰囲気合成装置」、「有機材料実験 用真空ライン」、「シュリンクラインの作製」な どを設計・製作した。 広報活動 科学技術週間では実演を主に理化学硝子機 器の加工技術及び工作設備などを、広く 一般に 紹介し、NIMSフォーラム等と共に、広報活動 に努めた。 2009年4月15日の一般公開での硝子工作室の 実演がNHK水戸にて放映された。 受賞 2007年4月1日 第1回理事長賞知的基盤 功績賞 宮代 寛「ガラス工作技術による先端 研究装置の開発 3-5設計試作セクション 試料作製室 (1)概要 試料作製室では、材料組織観察の ために必要な、切断、埋め込み、研磨、光学顕 微鏡観察、硬さ測定のための一連の装置を有し、 平均のベ5,000名におよぶユーザーの利用に対 応している。また、TEM (透過型電子顕微鏡)、 EBSD (電子線後方散乱回折)用試料作製など の特殊試料作製にも対応している。 管理設備としては、各種切断機6台、埋め込 み装置4台、研磨装置26台(図19)、光学顕 微鏡3台、硬さ測定装置、比表面積測定装置等 を管理している。 2008年度で は、自動研磨機 を6台増設、 2009年度では、 ファインカッタ ーを2台増設、 2010年度では、 手動研磨機6台 更新、デジタルマイクロスコープおよび光学顕 微鏡導入した。ユーザーの利便性と研究の質の 向上に寄与できるように努めている。2010年か らは3D観察にも力を入れ始めた。 (2)実績 過去10年平均4,900人の利用者に上る利用 に対応している(図20)。2010年度、試料作製 室では、延べ人数で5,150人の利用者があった。 2008年度以降エクセルベースのマシンタイム システム導入に伴い、試料作製機の特定の情報 を正確に把握できるようになったことで、利用 者の総数やどの装置の利用頻度が高いかなどが 明らかとなっている。 図21に、2007-2010年度の主要装置の試料 作製室利用者の分布を示すが、手動研磨機、自 動研磨機、切断機、埋め込み機に関して、 図19 6連自動研磨装置 図20試料作製室総利用者数推移 図21主要装置利用者数推移 のベ800名以上のユーザーに利用されているこ とが分かる。その中でも、自動研磨機(図19) は、のべユーザー数が1,600名を超え、極めて ニーズが大きいことが分かる。各装置とも、使 用者は年々増加傾向になる。手動研磨機は、 2010年度に更新の工事を行ったため、その期間 利用できなかったために、ユーザー数は減少し ている。 利用者が増加している理由の一つとして、短 期滞在者(インターンシップ、外来研究員、研 修生)の増加が挙げられる。問題点としては安 全対策であるが、試料作製室としては、適時、 技術教育と安全教育を行って対応している。さ らには、設備改善も行っている。 作業の完全依頼件数は年間100件以上を実施 している。広報室から依頼される年二回の高校 生サイエンスキャンプの対応、月一回のICYS ラボツアーの協力など、アウトリーチにも努め ている。 4.今後の進め方 世界最高の材料創製・加工に関する研究基盤 の整備と技術支援、外部共用化を行う。高エネ ルギー加工(溶接、溶射)にも力を入れてゆく。 NIMSの研究の高度化を支援するとともに、日 本の材料基盤技術のハブを目指す。 一方、高度な技術を維持発展させるためには、 (1)定期的かつ計画的なエンジニア職員の採 用と教育、(2)装置の定期的な保守と更新、新 規高度設備の導入、(3)研究者と一体となって の研究・技術開発が必要である。学問的バック グラウンドを有し、かつ、実機操業に基づく確 実な技術、経験と知恵を有する高い意識を持っ たエンジニアを保持、育成してゆく。 材料信頼性萌芽ラボの5年 ―次世代の材料信頼性研究の芽を育てる― 材料信頼性萌芽ラボ長 原田幸明 1.目的 「材料は使われてこそ意味をもつ」と言われ るが、そのためには「どのような使われ方が許 容できるのか」「いつまで安心して使えるのか」 を的確に把握できていなければ「使う」ことは できない。材料の信頼性は材料にとって必須の 課題である。この材料の信頼性を把握し、それ を向上させていくには、材料の本性を理解した 材料科学に基づく基礎的で基板的な取り組みが 重要になる。材料信頼性萌芽ラボは、そのよう な材料の基礎を理解し、その性能向上のための 知見を積み重ねていくとともに、次世代の材料 信頼性向上のためのプロジェクト的研究を準備 していく場を形成した。 2 .活動概要 一人一人の独創性を活かす視点から、個人、 チームの発案を重視して取り組んだ。研究は以 下のとおりである。 【塑性加工プロセス】民間との共同研究で超鉄 鋼部品を完成。【制震材料】酸素固溶原子とβ チタン合金の固溶元素間の相互作用の中性子散 乱による解明。【高マルテン鋼】NEDO資金最 終年度の目標(耐力100MPa)の達成。【高性 能銅合金】100テスラ級パルス磁場用導体の開 発【磁場中変態】各種鉄系形状記憶合金の磁歪 測定と大磁歪発生合金の開発。【3D4D組織解 析】4D-EBSD法の確立と鉄鋼組織変化への適 用。【hybridナノ構造物性】ナノ結晶合成と外 部研究機関との連携。【一次元ナノ材料】高強 度・高電導性CNTの作製方法の確立と希土類 ホウ化物単結晶ナノワイヤエミッタの高分解能 電界放射型陰極の応用。【高輝度電子線源】被 覆装置の完成と微小領域へのCs3Sbの被覆実 験。【非破壊評価】疲労・高温クリープ等での 材質劣化の非破壊診断基盤。【腐食解析】SCC 機構の解明と環境対応型新規めっき鋼板の開発。 【informatics】数式に関する知識の体系化とデ ータベース化。【強磁場中励起】簡単な分子の 高励起電子状態に対する外部磁場の影響の数値 計算。【金属化学】ナノマテリアル・エレクト ロスピニング繊維などの化学的計測法の開発。 3.研究成果 3-1都市鉱山開発のための基礎技術 我が国にある既利用資源をリサイクルで生か していく都市鉱山開発は天然資源に乏しい我が 国にとって重要である。しかし、これまで、破 砕や分離という基本操作に材料学的な視点から のアプローチは少なかった。基盤グループでは、 構造物の材料的弱さを利用して容易に破解する 「破解機」を開発し1)、「都市鉱石」2)の概念を 明確にした。 また化学的性質を活用した部品分離技術とし て携帯電話振動機部品から容易にタングステン を取り出す技術を開発3)した。これらは、つく ば市と協定を結び、市の小型家電リサイクルの 取り組みに協力している。 3-2革新的な非破壊評価技術の創出 非破壊評価グループは、材料開発及び材料信 頼性評価に関する研究領域において革新的な計 測・評価手法の開発による材質評価・材料劣化 検出及び、ロケットなどの極限環境下における 構造材料の欠陥検出・余寿命評価を目的に研究 を行ってきた。 材質評価・材料劣化検出の分野では、NIMS 内の材料データーシートや他の分野との連携に より専門領域の強みを生かした分野融合研究を 進めた。 極限環境下における構造材料の欠陥検出・余 寿命評価では、宇宙研究開発機構(JAXA)や 産業技術総合研究所(AIST)と、「非破壊信頼 性評価に関するNIMS-AIST-JAXA三機関連 携」を締結し、固体ロケット及び液体ロケット の実機を対象とした共同研究をすすめてきた。 1)非破壊計測・評価技術開発 高温や極低温環境における非接触弾性波計 測手法として、レーザ超音波法(LUT)、レー ザアコースティックエミッション法(LAE)や、 超伝導量子干渉素子(SQUID)や異方性磁気素 子(AMR)を用いた高感度磁気センサーによる 高感度渦電流探傷法(ECT)を開発している。高 温クリープ、超音波疲労、腐食・SCC等を開発 した非破壊による材料劣化・損傷評価、余寿命 評価法において分野融合型の技術開発を進めた。 2)革新的計測技術開発 テラヘルツ波帯域の高効率のアパチャーアレ イによるバンドパスフィルターを開発し、セラ ミックスコーティング等の界面欠陥評価法を開 発した。 3)波動伝播シミュレーション NIMSで開発した2段階差分法により超音波 伝播特性評価や、FDTD法を用いてTHz帯域 の波動伝搬特性評価やアパチャーやアンテナを 開発した。 3-3加工プロセスによる形質制御の構築 構造用金属材料の結晶粒微細化は、希少な合 金元素を使用することなく、加工プロセスによ る組織制御によって特性を向上できる効果的な 方法の一つである。本研究では、計算科学と実 験科学を結合した本研究手法により、ひずみ (量と成分)と組織の定量的な関係を構築した。 そして、その普遍的結果を用いて、数値シミュ レーションによる仮想実験によって大型棒鋼の 試作を試み、実機圧延機で実証した。主要な研 究トピックスを以下に示す。 (1)純アルミニウム(99.99%Al)を対象に、強 加工と焼鈍を工夫することで結晶粒径の異なる サンプル(粒径~6, 30,100 μm、ビッカース硬さ HV=31,25,25)を準備し、円柱圧縮試験(0.01/s、 室温)を実施した。圧縮加工で導入された相当 ひずみεeq は有限要素解析で予測し、圧縮後の samplesについて、HV測定と組織観察(EBSD、 TEM)を行った。その結果、εeqにおける硬さ HVの変化は、d0に強く依存した。d0が小さい ほど、最大HVおよびHV一定を示すεeqの値は 小さくなり、d0が微細粒組織創成に重要なパラ メータであることを明らかにした。また、この 硬度変化のd0依存性は、微細組織の形成過程の 違いによって引き起こされたことをEBSDによ る組織観察結果から明らかにした。なお、全て のsamplesに共通して、εeqの増加と共に結晶粒 は扁平となるが、1μm以下にはならず、軟化が 進むにつれ結晶方位の変化が観察された。また、 有限要素解析で算出されたεeqから試験断面上に おける硬度分布を予測したところ、実験後に測 定された硬度分布と良く一致した4)。 (2)低炭素鋼を対象に、温間域での1パス平面 ひずみ圧縮試験によって、ひずみと組織の関係 を明らかにした。また、組織微細化へのせん断 ひずみの影響についての検討も行った。その結 果、せん断変形が付与されたsiteの組織は、様々 なすべり系が活動し、結果的に大傾角化の割合 が高くなり、微細組織形成に有効であることが 分かった5)。 (3)低炭素鋼を対象に、個別の加工プロセスに 依存しない共通の物理量、物理現象に基づいた 微細粒組織形成のプロセスパラメータマップを 明らかにした。そのパラメータマップに基づき、 既存のスクエア孔型を有する溝ロール圧延での 微細粒棒鋼創成の問題点を数値シミュレーショ ンによって指摘し、これを改良した新しいフォ ーバル孔型を有した圧延パスを提案した。結果 的に、少ないパスで大きなひずみを材料に導入 でき、効率的に微細粒棒鋼を創成できることを 実証した6)。 3-4次世代ナノ構造冷陰極LaB6電子源の開 発 電子顕微鏡の分解能を向上させるには、明る く、細く絞れた電子線を放射する電子源の開発 が必要である。電子源の性能は、電子源に用い る材料と、電子放射方式に依存する。電子源材 料としては、電子を比較的低電圧で放射する六 ホウ化ランタンが、また、電子の放射方式は、 電界のみで電子を放射させる電界放射方式が最 適である。しかし、六ホウ化ランタンは高硬度 のため、ナノレベルの加工が困難で、電界のみ で電子を容易に放射させることが可能な先鋭な 電子源は開発されてこなかった。そのため、加 熱して熱電子を放射させる方式のみが使用され てきた。 我々は、高温でのガス反応により、径20~ 200nm、長さ数十μmの六ホウ化ランタンの細 い単結晶ファイバを基板の触媒微粒子上に合 成・成長させることに世界で初めて成功した。 一様なナノレベルの径のファイバが長く伸び て層状に成長している。この単結晶ファイバを 一本ピックアップし、電子源の耐熱金属支持針 に配置し、ファイバ上にカーボンを蒸着して固 定した。六ホウ化ランタンナノワイヤ電子源は、 加熱しなくても、電圧負荷だけで、明るく、細 く絞れた電子線を放射する。電界イオン顕微鏡 内でこの電子源に3 kVの電圧を負荷し、その 表面の汚れを電界蒸発させ、表面が清浄化され、 明瞭な原子像が電界イオン顕微鏡により得ら れた。また、電界蒸発により電子源先端が先鋭 化され、吸着原子、表面の汚れ、不必要な電界 放射が起こる高電界となるコーナー部分が除 かれる。電界蒸発の清浄化は望ましい結晶面か らの高輝度な電子線を放射するだけでなく、使 用中の劣化が極めて少ない清浄化方法である ことが示された。 我々は開発した六ホウ化ランタン単結晶ファ イバ電界放射電子源の電子源特性を詳細に調べ ているが、その特性は、現在、最も高性能であ るタングステンの電界放射電子源や六ホウ化ラ ンタンの熱電子放射電子源に比べ、桁違いに高 性能である。例えば、透過型電子顕微鏡の電子 銃として使われれば、電子顕微鏡の分解能を飛 躍的に向上させ、世界一の分解能とすることが できる。電子顕微鏡や電子線描画装置などの電 子線ビームを用いる計測機器に組み込み、その 性能を向上させることができるように、実用化 を目指した研究開発を進めている。 3-5ステンレス鋼の塩化物SCC機構の解明 オーステナイトステンレス鋼の応力腐食割れ (SCC)は50年以上前から非常に多くの研究 が行われてきたが、その割れ機構に関してはほ とんど知られてないのが現状であった。SCCの 研究中に偶然水素の挙動が表面電位計測により その場観察できることを発見し、電位分布を精 度良く観察するため、走査プローブ顕微鏡で表 面観察できる新しいSCC試験法を開発した(特 許取得)。その試験法を用いて開発した世界で1 台のスーパーケルビンフォース顕微鏡 (SKFM)を主体に各種測定手法を組み合わせ て研究を行った。活性なき裂のその場観察から そのメカニズムを把握することを目的として、 (1)SKFM観察と銀デコレーション後のEDX 分析の組み合わせによる表面電位が卑な領域に おける水素の存在の証明、(2)ケルビンフォー ス顕微鏡(KFM)観察における表面電位が卑な 場所にある物質の磁気力顕微鏡(MFM)によ る同定、(3)き裂が大気中で観察した後、試験 環境に戻すと再び成長することを利用して、水 素化合物の移動とき裂の成長の関係を調べた。 その結果、多量の水素がき裂先端近傍の表面電 位が卑な領域に存在すること、表面電位が卑な 領域には磁性を有する水素化合物が存在するこ と、水素の移動により水素化合物が元のオース テナイト相に戻る過程でき裂が形成されること を初めて証明した。この一連の研究成果により 腐食防食協会の材料と環境2011で岡本剛記念 講演者賞を授与されることが内定した。 3-6階層的3D4D解析による材料信頼性の向 上 各階層における三次元(3D)組織評価および 高時分割測定(合わせて4D)の重要性に着目 し、”Scale-bridging 3D4D characterization ” といった研究分野を推進し、材料の更なる信頼 性向上のための新しい材料組織学の妥当性を検 証した。おもな成果を以下に挙げる。これらの 成果は複数の論文誌に掲載され、報道発表した。 (1)定量3D計量形態学への挑戦 3D像を観察するにとどまらず、その定量化 が材料組織や特使絵の発現機構解明に必須であ ると考え、3Dのmetric特性値や、topology特 性値を微分幾何学、位相幾何学を取り入れて定 量評価する手法を構築した。従来評価されてき た体積率や、粒径などの加えて、連結性や、入 りくみ度といったより複雑な組織形態をオイラ ー評数、種数、ガウス曲率、平均曲率を使って 定量評価する道を開いた。これによって、鉄鋼 材料におけるパーライトや、二相組織鋼(フェ ライト・マルテンサイト)といった複雑な組織 形態を従来以上に定量評価することに成功した。 (2)全自動逐次研磨3D顕微鏡の開発 効率的に3D組織像を得るためには、セクシ ョニング像の自動取得が求められていた。そこ で、湿式懸案装置と光学顕微鏡装置を融合させ たまったく新しい全自動3D顕微鏡を開発した。 所定量の研磨、洗浄、エッチング、研磨料測定、 観察のルーチンを全自動で行うことができる。 100セクションの逐次研磨像を取得するのに、 手動では数カ月かかっていた工程を1日程度で 完了することができるようになった。 (3)弾性ひずみマッピング手法の構築 弾性ひずみマッピング手法と負荷中EBSD 測定ステージの開発を融合させ、多結晶材料に おける弾性ひずみの局所分布を評価することに 成功した。 4.今後の研究動向 材料信頼性研究として、「非破壊評価」「イン フォマティクス」および「腐食解析」は材料信 頼性評価Uとして展開し、「塑性加工プロセス」 「高マルテン鋼」、「磁場中変態」および「金属 化学」は元素戦略材料研究を進めている。また、 「ハイブリッドナノ構造物性」と「一次元ナノ 材料」は先端材料プロセスUへ、「3D4D組織 解析」は量子ビームUへと展開している。 参考文献 1)特許願2009-272126:廃棄物分解方法とそれ にて得られた廃棄物粉砕物 2)特許願2008-293284:電子機器粉砕物 3)特願2010-174945結合部材の分離法 4)T. Inoue, Z. Horita, H. Somekawa, K. Ogawa: Effect of initial grain sizes on hardness variation and strain distribution of pure aluminum severely deformed by compression tests, ACTA MATERIALIA, 56(2008) 6291-6303. 5)J.-H. Kang, T. Inoue and S. Torizuka: Effect of Shear Strain on the Microstructural Evolution of a Low Carbon Steel during Warm Deformation, Materials Transactions, 51(2010)27-35. 6)T. Inoue: Optimum Pass Design of Bar Rolling for Producing Bulk Ultrafine - grained Steel by Numerical Simulation, MATERIALS SCIENCE FORUM, 654-656(2010)1561-1564. 共 用 基 盤 部 門 BEM Ee so 共用基盤部門の5年 ―世界最高水準の大型施設,先端設備の機構内・外部への共用と基盤技術開発― 共用基盤部門長田沼繁夫 1.はじめに 我が国の物質・材料科学技術水準の向上を目 指す中核的機関として、高度な材料計測・創製 技術によるブレイクスルーの創出を目的とした 世界最高水準の大型施設及び先端設備の外部へ の共用と基盤技術開発を行っている。 このため、超高圧電子顕微鏡、強磁場マグネ ット、SPring-8内の専用ビームライン、分析 支援設備等の高度な施設及び設備の開発・整備 を行い、広く内外の研究者への利用機会を提供 している。さらに、物質・材料研究における主 導的役割を発揮するため、各種材料データベー スを整備し、最適な材料選択等のために必要と する材料情報を発信し、知的基盤の充実・整備 を行っている。 また、超高圧電子顕微鏡と強磁場マグネット、 NIMS専用ビームラインの3つのステーション は、ナノテクノロジー融合センターとともに NIMSナノテクノロジー拠点の中核を形成し、 文部科学省の先端研究施設共用イノベーション 創出事業ナノテクノ ロジーネットワークにおい て、重要な役割を果たしている。 2.共用基盤部門の組織構成と活動の概要 共用基盤部門は5つのステーションからなり, 国内外の利用者に対して下記のような活動を行 った。 国内外の利用者に対する施設利用機会の提供 1)超高圧電子顕微鏡 2)強磁場マグネット 3)SPring-8施設内の専用ビームライン 4)表面分析、化学分析支援 材料研究ガイドライン確立に向けた基礎データ の構築 5)各種材料データベースの計画的整備 6)標準化(VAMAS, ISO等)の推進 2-1超高圧電顕共用ステーション 本ステーション(HVEMS)は、「ナノテクノ ロジーと21世紀のための電子顕微鏡」を目指し、 装置規模が大きいために、一般の研究機関では導 入が難しい各種の透過型電子顕微鏡の技術開発 と共同利用を目的として設立された。技術開発で は、三次元観察のためのトモグラフィー観察手法 の開発、球面収差補正による空間分解能の向上、 分光的計測手法の高度化、通信回線を利用した遠 隔操作システムの開発等を行っている。 2-2強磁場共用ステーション 強磁場共用ステーションには、世界で2番目に 高い定常強磁場を発生できるハイブリッドマグ ネットを始め、各種評価専用の世界最高級マグネ ットが設置されている。マグネットはNIMS設 置法の趣旨に鑑み研究開発者への共用に供され ており、共同研究を行っている外部機関数は50 を超えている。定常強磁場の特長を生かして、超 伝導、半導体、磁性体、有機物などの材料評価と 物性研究並びに固体NMR分光による多彩な物 質の微視的構造解析が行われている。 2-3共用ビームステーション 大型放射光施設SPring-8内のNIMS専用ビ ームラインBL15XU (広エネルギー帯域先端材 料解析ビームライン/WEBRAM)は、文字通り 極めて広いエネルギー範囲にわたり高輝度単色 X線が得られ、結晶構造解析および電子構造解 析を一本のビームラインで実行可能にしている。 本ビームラインは多面的な手法を組み合わせた 実用ナノ材料の総合的な解析に適していると言 える。 2-4データベースステーション データベースステーションは、物質・材料に 関する世界最大級のデータベースをインターネ ットによって発信している。NIMS物質・材料 ナビゲーターとして、ユーザーのニーズをとら えたデータベースの設計・開発と情報発信等、 様々なサービスを提供し、新材料の開発、材料 の最適な使用、最適な材料の選択に役立つソリ ューション獲得を支援することを目標としてい る。 2-5分析支援ステーション 分析支援ステーションでは、新物質に対応で きる分析手法の開発を通じて、より信頼性の高 い分析情報を、NIMSにおけるすべての研究者 に提供している。さらに、ここで得られた成果 を基に、データの信頼性および再現性に関する 分析方法の国際標準化に向けた取り組みを積極 的に進めている。 3.共用基盤部門の主な成果 (1)金属性カーボンナノチューブの強磁場分光 測定1) NIMS強磁場共用ステーションの大型磁石を 使い、米国Rice大学のグループにより高分離精 製された種々のカーボンナノチューブの強磁場 直線偏光吸収測定を行うことで、これまで明ら かになっていなかった金属性カーボンナノチュ ーブの大きな磁気異方性の定量的評価に初めて 成功した。今回、ハイブリッド磁石(超伝導磁 石と電磁石との複合巨大磁石)の狭い磁場発生 空間でも使用可能な直線偏光吸収測定システム の開発を行い、最大35テスラの強磁場を印加す ることで、カーボンナノチューブを水溶液中で 自立配向させ、数種類のナノチューブの偏光吸 収測定を系統的に行った。その結果、35テスラ という非常に強い磁場下で、磁場に平行方向と 垂直方向の偏光による測定で大きな吸収の違い が現れることが分かった。これは磁場中でのナ ノチューブの配向度に関係しており、ナノチュ ーブの軸方向と径方向の帯磁率の差異によるた めである。2つの異なる偏光方向のデータの差か ら直線偏光二色性が計算され、個々のチューブ の配向度にかなり差があること、金属性と半導 体性のカーボンナノチューブで帯磁率の異方性 に2倍から4倍の違いがあることが初めて明ら かになった。(今中康貴、高増正、河野淳一郎) (2)TEMによる応力歪みとナノ溝の微細構造観察2) Micro-indentationにより、アモルファス SiO2(a-SiO2)基板表面にマイクロサイズの応力 場パターンを製作し、そこへ60 keV金属Cu+ イオンを注入し、イオン照射効果と応力場の相 互作用を利用し、Indentation痕近傍にナノサ イズの溝のパターンを形成・制御した。TEMに より、Indentation領域の応力歪みとナノ溝の 微細構造、析出したCuナノ粒子の分布状態な どを明らかにした。 (3)角度分解光電子分光法による価電子帯のバ ンド分散の測定 この手法は、従来真空紫外―軟X線領域の比 較的低いX線エネルギー領域で行われてきたが、 一方で高エネルギー励起が望まれている。それ は試料表面の汚染や、表面状態の影響なくバル クのバンド分散をみるためである。そこでWと GaAsについて30Kの低温でバンド分散測定 を行った。この実験によって得られたバンド分 散と終状態を自由電子的に取り扱った理論計算、 および第一原理計算を使った1段階モデルによ る光電子放出理論によって求めたバンド分散と を比較し、良い一致が得られている。 BL15XUはX線エネルギーを2.2keVまで低 くできるため、物質に合わせて励起X線エネル ギーを選択でき、バルク敏感バンドマッピング には非常に適した世界的に見ても比類のないも のであることが実証された。 (4)材料データベースの充実 「使われてこそデータベース」から「ユーザフレ ンドリーなデータベース」へ成長させ、多くのユ ーザに支持された。登録ユーザは141ヶ国、 16,730機関から国内外で54,500人以上となった。 (5)試料傾斜ホルダーを用いた超低角度イオン スッパタリングによる超高深さ分解能 オージ ェ分析法の開発 イオンの入射角を超低度にすることを可能 にする傾斜ホルダー回転法を開発し、Si/Ge多 層膜において、単原子層であるGe層をイオン スパッタリングを併用したオージェ電子分光法 で観測することを可能にした。 4.おわりに 当部門は世界最高水準の大型施設や先端設備 を開発・維持し,機構内外の研究者と共用する ことにより材料研究開発を促進し、さらに基礎 から応用に至るデータベースや基盤技術を構築 することにより我が国の知的基盤を支えてきた。 各ステーションにおける技術開発とその応用に 関する詳細は後に続くそれぞれのステーション 報告を参照されたい。 参考文献 1)T. A. Searles, Y. Imanaka, T. Takamasu, H. Ajiki, J. A. Fagan, E. K. Hobbie and J. Kono : Phys. Rev. Lett.105(2010)017403. 2)J. Pan et al.:Nanotechnology 19 (2008) 375306. 超高圧電顕共用ステーションの5年 ―最先端の電子顕微鏡によりナノ構造解析を支援― 前ステーション長 松井 良夫、ステーション長 田沼 繁夫 1.ステーションの目的 超高圧電顕共用ステーションは2台の超高圧 電子顕微鏡(桜地区のイオン照射型超高圧電顕 と並木地区の超高分解能電顕)を中心として、 これに最新鋭の分析電子顕微鏡、走査透過型電 子顕微鏡、ローレンツ電子顕微鏡などの先端電 子顕微鏡、更にイオン研磨装置、収束イオンビ ーム加工装置、電解研磨装置などの試料研磨装 置、イメージングプレート読取装置や電顕画像 シミュレーションシステムなどの総合的な解析 体制により、機構内のニーズに対応することを 目的とした。本ステーションの構成メンバーは、 更に文部科学省ナノテクノ ロジーネットワーク 事業にも積極的に参画して、外部研究者のニー ズに対応する共同研究にも精力的に対応するこ とを目的とした。 2.活動概要 超高圧電顕共用ステーションは、イオン注入 型超高圧電顕(桜地区)と、超高分解能超高圧 電顕(並木地区)の2台の特徴的な超高圧電顕 に加え、EDXやEELSなどの多様な分析機能 を装備した「分析電子顕微鏡」、ナノサイズに絞 った電子ビームを試料上で走査する「走査透過 型電子顕微鏡(STEM)」、レーザー顕微鏡と同 様の原理で三次元断層構造を観察するための 「共焦点型STEM」、磁性体の磁区構造を可視 化するためのローレンツ型電子顕微鏡などの多 様な電子顕微鏡群を有している。また高分解能、 高精度のデータを取得するために不可欠な「試 料研磨」のための一連の装置(イオンミリング、 集束イオンビーム加工装置(FIB)、電解研磨装 置、高精度機械研磨装置、高精度ダイヤモンド カッターなどの周辺機器類も豊富に備えている。 これらの機器は、NIMS第一期、あるいは更に 旧金材技研や無機材研時代に獲得したプロジェ クト(例えば超伝導マルチコアプロジェクト) にて長い期間をかけて整備してきたものである。 こうした背景のもとで、超高圧電顕共用ステー ションでは、これらの電子顕微鏡や周辺機器を 機構内部の物質・材料研究の進展に寄与させる べく、共同研究体制と、共同研究提案、審査の ためのWEB申請システム(ナノネットと共通) を構築して、ユーザーによる課題の申請、審査 担当者(通常3名)による公平な審査、テーマ 採択後の担当研究者、担当技術員の指名、支援 状況の把握、支援成果の取りまとめ、といった 一連の作業を行った。ただ予算の制約から、本 ステーションの構成員はステーション長も含め て全員が他のセンターからの併任であったため、 エフォートの制約もあり、必ずしも多くのテー マ数をこなすことができなかったことは今後の 課題といえる。 3.研究成果 3-1超高圧電子顕微鏡における三次元トモ グラフィーシステムの開発と応用 本ステーションでは主に既存の装置を材料研 究に活用することを念頭に置いたが、装置開発 としては、桜地区において、三次元観察のため のトモグラフィー1)や共焦点STEM2)の開発研 究を実行した。 透過電子顕微鏡(TEM, STEM)を用いた電 子線トモグラフィーは材料の三次元(3D)組 織・構造を高分解度観察することが可能なため、 注目されている。多くの場合に、TEM或いは STEMのゴニオメーターの回転機構を利用し て試料を回転させる。殆どの場合ポールピース の上下幅の制限を受けるため、試料の回転角度 は+/- 60度或いは+/-70度程度までしかできず、 3D情報の欠落は不可避である。 当グループは加速電圧1000kVの超高圧 TEM用、+/-90度以上回転できるトモグラフィ ー観察試料ホルダーを開発した3)。回転はホル ダー内部で実現し、TEMのポールピースの開 きに依存せず、±180度回転できる。また Missing wedgeがないなど下記の特徴を有する。 1.試料回転の最小ステップ : 0.36度、+/- 0.1度の精度。 2.静的分解能は通常のホルダーと遜色し ない。 3.構造の特徴から、JEM-200CX, 2000FX などの汎用TEMへも応用できる。 図1超高圧電子顕微鏡用に開発された3次元トモグ ラフィーホルダーの外観写真 さらに当ステーションでは、一般汎用型の加 速電圧200kVのJEM-2100F透過電顕用トモグ ラフィー試料ホルダーを試作したので、その概 要及び材料観察への適用を紹介する(図2)。試 料回転機構はホルダー内にあるため、電顕のポ ールピースの制限を受けず、+/-90度以上回転 できる。また、試料回転軸を補正するピエゾも 備え、約+/-30μmまでの軸ズレが補正できる。 JEOL製その他の200 kV及び300 kV透過電顕、 FIB試料作製装置の一部にも直接利用できる。 時効Al-Cu合金中のG.P. zone等試料の観察を 行った。 図2 200kV電顕用に開発したトモグラフィーホルダ ー、及び取得データの一例 3-2高分解能STEMによるサイアロン中の希 土類元素の直接観察 本研究は、ナノ計測センター(先端電子顕微 鏡グループ)で開発された、高分解能走査透過 型電子顕微鏡(STEM)を、ナノセラミックス センターの研究支援に適用した成果である。 走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscopy; STEM)による環状暗視 野(Annular Dark-Field; ADF)像観察は、元 素識別能が高いことや、構造の直視性に優れて いるなどの特長から、近年広く用いられている。 取り込み角度の内角を大きくしたADF像は、 装置関数と物体関数とのコンボリューションで 近似できるIncoherent imagingで有ると報告 され(Pennycook et al.,1991)、この近似は今 日まで広く受け入れられている。ADF像観察に おいてこのincoherent imaging近似が成り立 つことを前提とすれば、コンボリューションモ デルで得られる実験結果をデコンボリューショ ンする画像処理により、空間分解能や元素識別 能をさらに向上できることが期待される。先端 電子顕微鏡グループではADF像と同様にコン ボリューションモデルで記述される電子エネル ギー損失分光法に関して長年研究開発を進めて きた。それらの要素技術は、ADF像観察におい ても有効である。図3に装置の外観写真を示す が、振動防止機構の導入等による高分解能化を 実現した。 図3観察に用いられた高分解能STEM (Hitachi HD-2300) 我々はADF imagingによる結晶構造解析を 目標として、Euをドープしたβ-SiAlONに適 用を進めた。高いSNの画像を取得することに より、原子位置の10 ppmオーダーでの計測や、 原子番号のわずかな違いを識別できる。STEM では明視野(BF)像とADF像を同時に計測で きることから、より定量的な結晶構造解析が可 能である。特に図7、8に示したように従来の 低SN比観察では検出できなかった、β -SiAlON中の単原子Euドーパントを同定した4)。 このように、STEMによる現死蔵観察は、原子 番号(Z)に依存したコントラストが得られる こと、またTEMの高分解能観察に比べると、 動力学電子回折効果に伴う、画像への悪影響が 大幅に低減するなどの利点があるため、今後は その重要性がますます高まることが予想されて いる。 図4サイアロン構造の模式図 図5STEMによる、サイアロン中の希土類元素の観察 例 3-3極低温ローレンツ電顕による磁区構造 のナノレベル可視化 ローレンツ電子顕微鏡は、最近ではナノネッ トによる外部支援で、Fe0.5Co0.5SiやFeGeに誘 起される渦巻状のスピン配列(Skyrmion,スキ ルミオン)の観察結果が2010年のNature誌 に掲載される5)などの成果を挙げている。 本稿ではNIMS-ICYSへの支援成果の一例と して、ホールドープしたマンガン酸化物で観測 される超巨大磁気抵抗効果はキュリー点(Tc) 近傍における電子相の競合に関わる応用事例を 紹介する6)。ここで取り上げるLa0.69Ca0.31MnO3 においては、Tc (205 K)近傍に異方的な磁気抵 抗が現れることが報告されていた。そこで本研 究では、この異方的な磁気抵抗の起因を明らか にするため、透過型ローレンツ電子顕微鏡を用 いて、La0.69Ca0.3iMnO3の磁区構造、結晶構造お よびこれらの磁場依存性を調べた。 300kV ローレンツ電子顕微鏡(HF-3000L) による観察(図7)の結果ab面では、典型的な 180°磁区構造(図(a))が、bc面ではストライ プ磁区構造(図(b))が観察された。この結果は 容易磁化方向の異方性を示唆しており、c軸が 磁化困難軸であることが分かった。一方、Tc近 傍の200 Kではab面の電子回折パターンに特 徴的な散漫散乱が観察されたが、より低温95 K では散漫散乱は観察されない。これは、Tc近傍 で短距離の電荷整列によって絶縁相が存在して いることを示唆している。これらの観察結果か ら、Tc近傍では電荷整列相と強磁性相が競合し 合うことが明らかになった。また、観察された La0.69Ca0.3iMnO3での磁気抵抗は異方的な結晶 構造と磁気構造が関係して、生じていると考え られる。 図(a)ab面磁区構造(b)bc面磁区構造. 図7 La0.69Ca0.31MnO3の磁区構造観察事例 3-4 TEM-EDX による High-k 材料-La2O3/ HfO2/SiO2/Siのナノ構造観察 透過型電子顕微鏡にエネルギー分散型X線分 析装置(EDX)を搭載することにより、複雑な 微細構造や微細組織を有する材料の元素分布を ナノレベルで精密解析することが可能になる。 ここではその一例として、MANAファウンド リーと半導体材料センターに対する解析支援と して実行された、いわゆるHigh-k材料への適 用例を紹介する。CMOSに使われているゲート 絶縁膜であるSiO2では,その膜厚が薄くなるに つれて,物理的に絶縁膜としての機能を果たせ なくなる。トランジスタをオンしていない状態 でも,ゲート電極とSi基板の間に電流(ゲー ト・リーク電流)が流れてしまい,消費電力が 増加する。 これを防ぐため、SiO2より比誘電率が高い high-k材料としては,HfO2を用いる可能性が 高い。Cap-high-k (HfO2)CMOS半導体デバイ スVFB (フラットバンド電圧)を制御するため、 熱処理によって、CapレイヤLa2O3がhigh-k 層への拡散や、それに伴うhigh-k層の結晶性の 変化がVFBを制御する鍵であることが予測さ れている。 これを明らかにするため、高性能のEDXを 搭載した200kV透過型電子顕微鏡(JEM -2010F)を用いて、薄膜を面上から観察した例 を図8に示す。膜表面には円形あるいは棒状の コントラストが明瞭に観察されたことから、熱 処理過程で何らかの表面析出が生じたことが示 唆された。 図8 HAADF観察法による、High-k材料の微細構造の 観察.析出構造が明瞭にとらえられている 図9 EDXによる、ハフニウム(Hf)の元素マッピング 像.図8の析出物がHfリッチであることが明瞭に判る 以上の電顕像と元素マッピングから、アニー ルすることによって、 島状のHfO2層が形成さ れたことがほぼ明らかになった。また島状の HfO2層が形成された原因はcap-layerのLaの 拡散によるものと思われる。 なお、EDXに関しては、ナノ計測センターに て超伝導体を検出器とするマイクロカロリメー ター(別名TES)法の開発にも成功しているこ とを付記する。今後はこの高エネルギー分解能 EDXによる支援も本格化することが期待され る。 3-5 TEM-STEMによる、ワイドギャップ半導 体薄膜の構造解析 本研究は次世代太陽電池センターへの解析 支援として実行されたものである。ワイドギャ ップ半導体材料であるⅢ-Ⅴ族窒化物薄膜をSi (111)基板上に有機金属化学堆積法で成長させ た。Ⅲ-Ⅴ族窒化物薄膜とSi (111)基板との熱 膨張係数佐差が大きいために通常200nm以上 の膜厚では窒化物薄膜にクラックが生じる。こ の問題を解決するためにSi基板上にAlN/GaN (16nm/84nm)10ペアのスタック層を形成し た。この構造におけるAlN/GaNの界面および Si基板との界面について転位や化学結合の観 点から透過型電子顕微鏡で構造解析を行った。 図10にSi基板上GaN薄膜の断面TEMの全 体像を示す。基板近傍に見られる転位の多くは AlN/GaNスタックの層数が増えるにつれて AlN層で終端される傾向にあることがわかる。 図10 AlN/GaN系薄膜の断面TEM観察 一方、Si基板との界面付近に着目した場合、 GaにフォーカスしたZ-contrast像を図11に示 す。基板直上のAlN層はファセットが見られて 荒れた表面となっているが、GaN層を挿入する ことでその後のAlN層表面は平坦となる。また、 Si基板表面にアモルファス層が存在している こともわかった(図12のinset)。この層につ いて調べるために、insetのTEM像で示す各ポ イント(1~9)でEELS測定を行った。図3に示 されるように、基板領域に相当するポイント1 ~3ではSiのシグナルのみ検出されているのに 対して、アモルファス層に相当するポイント4 ~6ではSiとNに起因するシグナルが検出さ れた。これはNH3による高温窒化処理に伴って アモルファスSiN層が形成されたことを示唆 している。このSiN層は反応性の高いGaや Alに対してSi基板表面を保護する機能がある のでないかと考えている。また、AlN/GaNス タック層の層数を減らすとクラックが発生した ことから、このスタック層が転位の伝搬を抑え るだけなく熱膨張係数差を緩和していると思わ れる7)。 図11界面近傍のzコントラスト(HAADF)像の観 察例 図12界面近傍の電子エネルギー損失スペクトル (EELS)のデータ 火炎特有の発光を太陽光に影響なく検出す るためにはGaNではなく AlGaN薄膜が必要で ある。光電面デバイス特性とAlGaN薄膜との品 質との相関を検討するために引き続きTEMお よびEELSに関する実験を計画したい。 4.今後の研究動向 NIMSでは1970年代半ばから、超高圧電子 顕微鏡の高い加速電圧(短いドブロイ波長によ る高分解能かを進め、1990年ついに1オング ストロームの点分解能を達成した。超高圧電顕 は酸化物超伝導体や超巨大磁気抵抗体(CMR) をはじめとする、いわゆる強相関系酸化物の解 析に多大な成果を挙げ、これを活用して2002 年以降のナノテクノロジー総合支援プロジェク トや2007年からのナノテクノロジーネットワ ーク事業において中心的な役割を果たしてきた。 しかしながら、その後急速に注目を集めるにい たった、ナノシートやナノチューブ、有機材料 などの観察においては、高い加速電圧に起因す る電子線損傷(ノックオン)が深刻な問題とし て浮上し、それまでの高加速化による高分解能 の追求から、低加速電圧での高分解能化を目指 す研究が精力的に展開された。 このような背景化で、ドイツ・ダルムシュタ ット大学のRose教授、Haider博士 (後にCEOS 社を設立)の「球面収差補正技術」に注目が集 まったのは当然の成り行きといえよう。球面収 差は一般に凸レンズと凹レンズの組み合わせで ゼロに補正されるが、電子顕微鏡に使われる磁 界型レンズは凸レンズのみで凹レンズは実現不 可能、すなわち磁界型レンズ系では球面収差の 補正は事実上不可能と一般的に考えられてきた が、実際には円形対称性にこだわらなければ凹 レンズ作用を引き出すことが理論上は可能であ ることが知られていた。RoseとHeiderはこの 難問に長い年月をかけて、最新のコンピュータ ー制御技術も駆使することにより、ついに収差 補正を現実のものとして実現させたのである。 この画期的な技術はフィリップスを源流とする FEI社によりいち早く商用電顕に搭載されたこ ともあり、日本はNIMSも含め、この分野でや や遅れをとることになったのは事実である。し かし、2011年、NIMSには最新の収差補正技術 を搭載した2台の300kV電子顕微鏡がFEI社 と日本電子(株)により建設された。今後はこ うした中低圧電子顕微鏡が支援プログラムにお いても中核的な役割を果たすと予想される。 とはいえ、超高圧電顕の短い波長は、裏返せ ば長いエバルト半径、言い換えればエバルト球 がほとんど平面に近いことを意味する。すなわ ち散乱(あるいは回折)過程で、より細かな空 間分解能情報を取得することが原理的に可能な のである。いくら収差補正を施してもエバルト 半径を変えることはできないことは自明である。 超高圧電顕の有用性は短い波長よりもむしろ、 長いエバルト半径と限りなく平坦なエバルト球 にあるのである。 参考文献 1)古屋一夫、長谷川明他、「超高圧電顕用トモグラ フィーホルダーの開発」、日本顕微鏡学会第64 回学術講演会発表要旨集、(2008)p.122. 2)A. Hashimoto, M. Shimojo, K. Mitsuishi and M. Takeguchi: “Three-dimensional Imaging of Carbon Nanostructures by Scanning Confocal Electron Microscopy”,J. Appl. Phys.106(2009)0861011. 3)K. Kimoto, T. Asaka, T. Nagai, M. Saito, Y. Matsui & K. Ishizuka: “Element-selective imaging of atomic columns in a crystal using STEM and EELS”, Nature 450 (2007)702-704. 4)K. Kimoto, R.-J. Xie, Y. Matsui, K. Ishizuka, and N. Hirosaki: ”Direct observation of single dopant atom in light-emitting phosphor of B-SiAlON: Eu2+“, Applied Physics Letters 94 No.4, (2009) 041908. 5)X. Z. Yu, Y. Onose, N. Kanazawa, J. H. Park, J. H. Han, Y. Matsui, N. Nagaosa & Y. Tokura: “Real-space observation of a two-dimensional skyrmion crystal”, Nature 465(2010)901-904. 6)X. Z. Yu, Run-Wei Li, T. Asaka, K. Ishizuka, K. Kimoto, and Y. Matsui: “Possible origins of the magnetoresistance gain in colossal magnetoresistive oxide La0.69Ca0.31MnO3: Structure fluctuation and pinning effect on magnetic domain walls", Journal of Applied Physics (in print). 7)原徹、生田目俊秀、于秀珍、張偉珠、木本浩 司、松井良夫(未発表). 8)「Si(111)基板上AlxGa1-xN薄膜の硬X線光 電子分光」角谷正友、大橋直樹、加茂佑太 郎、竹口雅樹、吉川英樹、上田茂典、小林啓 介、中野貴之、福家俊郎:第56回応用物理 学関係連合講演会2009年4月1日 筑波大 学. 強磁場共用ステーションの5年 ―新たなステージを目指したチャレンジに着手― ステーション長木戸義勇 1.ステーションの目的 当該ステーションには世界では2番となる 40T級の定常磁場が発生できるハイブリッドマ グネットシステムを始め、このシステムの 15MW電源で励磁する30T級水冷銅マグネッ トシステムが大型マグネットとして設置されて いる。このほか、21.7Tの930MHz NMR分光 計、極低温発生装置と組み合わされている20T マグネット、並びに汎用の18T超伝導マグネッ ト、12T無冷媒マグネット等種々のマグネット が設置されている。ステーションの目的はこれ ら機構が保有する世界最高水準の機能を有する 強磁場装置の共用を促進し、外部機関との共同 研究の形態により毎年度平均で50程度の機関 に対して共用を行うことである。 2 .活動概要 個々のマグネットシステムの共用を円滑に行 うために、それぞれの運用に担当者を配置し、 運転、データ取得と解析などで共同研究を進め た。特に930MHz固体NMR分光計は本格化し た国際ナノテクノロジーネットワーク拠点の一 環で共用に供した。また、NIMSの大型マグネ ットシステムは運転操作が非常に煩雑で運転要 員を多数必要とする問題点に加えて、非効率な 超伝導マグネット用冷凍機と冷却性能の悪い冷 却水システムの改造が喫緊の課題であった。マ グネット冷凍機システムに対して環境省の補助 金を用いて、また、冷却水システムの間接冷却 型への変更と運転操作盤の改造は強磁場施設運 営費で行い、大幅な電力使用料削減と省力化を 達成した。これらの対応により、年平均で60 機関以上と80件以上の課題に対してマグネッ トを供用した。しかし、平成23年3月11日に 起きた地震により、930MHz NMRマグネット 分光計は深刻な被害を受けた。また、水冷銅マ グネット、冷却水システム冷凍機の一部は壊れ た状態にある。そこで、大胆な改良と回復を目 指して新たなチャレンジに着手した。 その他、強磁場共用ステーションのヘリウム 液化機を用いて桜地区から千現と並木地区への 液体ヘリウム供給体制を確立した。 3.研究成果 3-1超1GHz NMRマグネット内層コイル用 Bi-2223線材の評価 NMRマグネットは強磁場化によって感度と 分解能が向上する。現在は1GHz(23.5T)の NMRマグネットまで開発されているが、1GHz を大幅に超えるNMRマグネットの開発には、 酸化物超伝導線材(HTS)の使用が不可欠と考 えられている。そこで既存920MHz(21.6T) NMRマグネットのNb3Sn内層コイルを Bi-2223線材のコイルに置き換えることで 1.03GHz(24.2T)を発生することを目標に開発 を進めている。 この開発には使用する線材の強磁場での臨界 電流の評価が必要である。4.2mm幅のBi-2223 素線の両側を50μmのブロンズテープで補強し た線材について、その液体ヘリウム中での臨界 電流の磁場依存性を強磁場共用ステーションの 18T汎用超伝導マグネットおよびハイブリッド マグネットを使用して測定した。テープ面が磁 場に平行な場合の結果を図1に示す1)。 本測定の結果、すべての線材が1.03GHz NMRマグネット内層コイルとして使用可能で あることが確認できた。 本開発は、科学技術振興機構の産学イノベー ション事業【先端計測分析技術・機器開発】に よる成果である。 3-2 KOS2O6の電子構造研究 βパイロクロア酸化物KOs2O6の結晶構造を 見ると、KイオンはOsO6八面体によって作ら れるかごの中に閉じ込められているが、かごが 大きすぎるためKイオンはかごの中で大きく振 動することが出来る。そのような振動をラット リングと呼ぶ。 図1Bi-2223線材の臨界電流の磁場依存性 KOs2O6はTc=9.6Kの超伝導体であるが、そ の超伝導機構は通常の電子格子相互作用に基づ くものとは少し様子が異なり、Kイオンのラッ トリング振動が大きな役割を果たしていると考 えられている2)。 私たちは、ハイブリッドマグネットを使用し て35.3Tの強磁場まで、KOs2O6の磁気トルク の測定を行い、この特殊な超伝導体の上部臨界 磁場と電子状態について研究した。 まず上部臨界磁場が約30Tであることを確認 した。更に、この物質のdHvA振動を世界で初 めて観測し、伝導電子の有効質量が7.6倍もの 多体効果による質量増強を受けていることを明 らかにした。これは、KOS2O6より高いTcを持 つA15化合物、シェブレル相化合物、ホウ素炭 化物超伝導体、MgB2などにおけるせいぜい4 倍程度の質量増強と比べてはるかに強い質量増 強効果で、ラットリング起源の超伝導の特異性 の一端を捕らえていると思われる。 3-3 メソポーラスシリカの強磁場磁場配向 メソポーラスシリカ薄膜のメソチャネルの配 向を制御することは重要な課題であり、特にメ ソチャネルが垂直方向へ配向することで、超高 密度記録媒体としての展開をはじめ、触媒・高 感度センサーなど種々の応用につながることが 期待できる。最近、我々は強磁場中で界面活性 剤のリオトロピック液晶が磁気転移することに 着目し、シリカネットワークが形成されるメソ 構造生成段階で強磁場(12T)を印加すること により、メソポーラスシリカ薄膜中のメソチャ ネルの配向制御を報告してきた3,4)。しかしなが ら、本手法はブロックコポリマーのような比較 的大きな分子に対しては有効であったが、 CTABのような小さい分子に対しては効果が認 められなかった。一般的に、反磁性物質に対す る磁場効果は、磁場強度の2乗に比例する。小 さい分子に対しても高い磁場効果を得るために、 ハイブリッドマグネットが発生する30T級の超 強磁場を用いてメソチャネルの垂直配向を試み た5)。 実験としては,界面活性剤・水・エタノ ール・ シリカ源からなる前駆溶液を基板にキャス トし、 30T級の超強磁場下において乾燥させ、焼成す ることでメソポーラスシリカ薄膜を合成した。 合成時、磁場は基板に対して垂直方向に印加し た。界面活性剤としては、分子の大きさの異な るCTAB ・ Brij56 ・ P123をそれぞれ用いた。比 較として、ゼロ磁場と12T磁場を用いても同様 の前駆溶液から薄膜の合成を行った。 12T磁場中で合成した薄膜においては磁場効 果が全く認められなかったCTABとBrij56系の 場合、30T磁場を用いたところθ-2θXRDパタ ーンでの(10)面の回折ピークが大幅に減少し た。2D-XRDの結果からは、(10)面のスポット からアーク状に広がった回折パターンが得られ た。また、断面TEM観察により、基板から垂 直方向に配向したメソチャネルが存在する領域 もあることを確認した。以上の結果から、完全 ではないもののメソチャネルを基板に対して垂 直に配向させることができた。このように30T の超強磁場を用いることで、比較的小さな界面 活性剤に対しても磁場効果があらわれ、3nm程 度の比較的小さいサイズのメソチャネルを初め て垂直方向に配向させることに成功した5)。 一方、12Tでも磁場効果があらわれた比較的 大きな界面活性剤であるP123系においても、 30Tの超強磁場中で薄膜の合成を行った。 HR-SEM観察の結果、薄膜表面には全面にメソ 細孔のハニカム状の配列が確認され、12T磁場 と比較し更に高い磁場効果があらわれた。陽極 酸化ポーラスアルミナなどの制限された微細な 空間であっても、配向制御可能であった6)。今 後は、電気化学的手法を用いて磁性金属を埋め 込み垂直磁気記録媒体の基板材料としての応用 展開を目指す7)。 3-4金属性カーボンナノチューブの強磁場分 光 強磁場共用ステーションの大型磁石を使い、 米国Rice大学のグループにより高分離精製さ れた種々のカーボンナノチューブの強磁場直線 偏光吸収測定を行うことで、これまで明らかに なっていなかった金属性カーボンナノチューブ の大きな磁気異方性の定量的評価に初めて成功 した。単層カーボンナノチューブは、単層グラ ファイト、すなわちグラフェンを丸めて筒状に した構造を持ち、その丸め方によって金属的に なったり半導体的になったりすることが、理論 的にも実験的にも知られている。また磁場の印 加によっても電気伝導性の制御が可能であり、 磁場下での電子、磁気物性を明らかにすること は非常に重要である。 しかしながら、微小なカーボンナノチューブ の物性測定においては、電極の取り付けの問題 など様々な技術的制約も多いため、試料に非接 触で測定可能な光学測定は1つの重要な手段に なり得る。但し異方性が大きいカーボンナノチ ューブの光学測定を行うには、高配向度試料が 必要であるという難点があるため、これまでの ナノチューブの磁場中配向のダイナミクスの直 接観測や、定量的な異方性を評価はほとんど行 われていなかった。 今回、ハイブリッドマグネット(超伝導マグ ネットと電磁石との複合巨大磁石)の狭い磁場 発生空間でも使用可能な直線偏光吸収測定シス テムの開発を行い、最大35Tの強磁場を印加す ることで、カーボンナノチューブを水溶液中で 自立配向させ、数種類のナノチューブの偏光吸 収測定を系統的に行った。その結果、35Tとい う非常に強い磁場下で、磁場に平行方向と垂直 方向の偏光による測定で大きな吸収の違いが現 れることが分かった。これは磁場中でのナノチ ューブの配向度に関係しており、ナノチューブ の軸方向と径方向の帯磁率の差異によるためで ある。2つの異なる偏光方向のデータの差から 直線偏光二色性が計算され、個々のチューブの 配向度にかなり差があること、金属性と半導体 性のカーボンナノチューブで帯磁率の異方性に 2倍から4倍の違いがあることが初めて明らか になった8)。 3-5有機伝導体における磁場誘起超伝導の面 垂直磁場効果 2次元有機伝導体λ-(BETS)2FeCl4は、BETS (ビスエチレンジチオテトラセレナフルバレン) 分子が結晶のac面に配列しており、伝導面を形 成している。この系で、磁場を伝導面(ac面) に平行にかけると10Tで絶縁相から金属相に転 移した後、約15Tから42Tの磁場範囲で超伝導 を示す 9)。FeCl4は一価の負イオンであり、 BETS分子面の間に入り込んだ構造となってい る。Feイオンは三価の負イオンで局在3d電子 を5つ持ち、そのため、S=5/2の大きな磁気モ ーメントをもつことになる。この3d電子の磁気 モーメントが、交換相互作用を通して、BETS 分子面の伝導電子に大きな内部磁場をつくる。 この内部磁場が、この系で発現する磁場誘起超 伝導の原因となっている。 この磁場誘起超伝導相において、超伝導秩序 変数が空間的に変調した構造を持つ超伝導、 Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov (FFLO)状 態が実現している可能性が指摘されてきた。こ の超伝導転移を、幅広い温度―磁場領域で精密 に測定し(図2)、この系でFFLO状態が実現し ており、極めて狭い磁場方位の領域でのみ FFLO状態が安定すること、さらに臨界磁場の 特徴的な磁場方位の依存性を発見した10)。 3-6光ポンピング多重共鳴システムの開発 固体物質中に存在する原子核の磁気モーメン ト(核スピン)を、光により偏極・制御する技 術を開発した。偏極した核スピン(超偏極)は 先端計測・分析やスピントロニクスなど様々な 分野で有用性が認められており、その実用化が 期待されている。本技術はその基盤となる技術 である。 図3に本技術の中心をなす「光ポンピング多 重共鳴システム」の概要を示す。本システムで は、半導体の超偏極法である「光ポンピング」 と多重磁気共鳴を同時に、あるいは連続して行 うことができる。半導体の光ポンピング現象は 通常数十K以下で生じるため、この温度域にお いて、光を照射した状態で安定に稼働すること 図2層間抵抗の磁場変化.磁場を伝導層から少し ずつ傾けて測定している 図3光ポンピング多重共鳴システム がシステムの必須条件である。本システムでは、 試料冷却法として、この種の装置では初めて「真 空中での伝導冷却」を採用した。これにより、 以下のことが実現可能となった。 ①高周波共鳴回路を真空中に構築することで、 低温測定で問題となる冷媒ヘリウムガス中の 高周波放電を完全に駆逐、安定した強い高周 波パルスにより共鳴条件が大幅に向上した。 ②試料のヒートアンカーへの直接接続により、 光照射時の発生熱を速やかに除去、高光強度 による核スピン偏極度の増強を実現した。 本システムは、低温で安定に稼働する広幅用多 重核磁気共鳴システムとしても十分な性能を有 しており、さらに、汎用性や拡張性についても 考慮されている。 3-7量子ドット―2次元電子結合系の量子ホ ール効果異常 近年、半導体自己形成量子ドットの特性を利 用した量子ドットレーザーや量子メモリなどの デバイス化の試みが盛んに行われ注目されてい る。我々は量子ドットと2次元伝導チャネルが 隣接する量子ドット―2次元電子結合試料にお いて量子ドットの持つ離散的な電子準位が2次 元電子の輸送現象等に与える影響について強磁 場施設を利用した研究を行ってきた。サイクロ トロン共鳴測定の結果、量子ドットの電荷の変 化に伴い2次元伝導チャネル内に局在電子が増 減する一方、その影響の少ない高移動度の非局 在電子が存在することを見出した。これにより、 量子ドットがフローティングゲートとして2次 元伝導チャネルに与える影響を評価できた。ま た、輸送現象測定では、低磁場領域で2次元電 子に実現する量子ホール効果が明瞭に観測され るが、量子極限となる強磁場領域では量子ドッ トの電荷に伴い磁気抵抗値およびホール抵抗値 が共に抑制される異常な現象が観測された。こ の現象はこれまで報告されていない新現象であ るが、量子ドットのスピン状態が強磁場領域で スピン偏極した量子ホール効果領域にある2次 元電子系にスピン散乱を与えたため引き起こさ れるものと考えられる。 3-8鉄系合金における種々の固相/固相変態 に及ぼす磁場の影響 フェライト変態の場合、成長速度に対して磁 場は静磁エネルギーによる促進効果と炭素の拡 散の抑制による抑制効果の両方を持ち、これら の効果の兼ね合いにより成長速度が決まる。従 って温度により磁場効果は変化することが分か った。磁場中での成長速度について定量的に計 算した結果を実測と比較し、良い一致を得た。 また、拡散型か非拡散型か未だに決着がついて いないベイナイト変態を対象として変態 kinetics、変態温度、組織に及ぼす磁場の影響に ついて調べた。磁場印加により変態kineticsは 促進される。これを応力効果と比較すると 172MPa、1.52%のひずみ以上の効果となる。ま た変態開始温度も大きく上昇した。しかしなが ら磁場印加による組織配向は観察されなかった。 変態温度の上昇はラスマルテンサイト変態が進 行する18Niマルエージング鋼が最も大きい。 しかしながらこの場合も磁場印加による組織配 向は観察されなかった。今後は組織配向の有無 が、変態メカニズムが拡散型か非拡散型かとい うこととどのような関係があるかを調べていき たい。 3-9高性能低温工学材料とシステムの開発研 究 熱と磁性との関わりを調べ、強磁場中で磁性 材料が示す発熱・吸磁現象(磁気熱量効果)や 熱輸送特性を応用した実用材料やシステム機器 への応用を進めている。磁性体を用いる磁気冷 凍方式は、高い効率をもつ次世代の冷凍方式と して注目されている。NEDO水素革新技術プロ ジェクトに参画し、磁気冷凍による水素液化実 証システムの研究を行い、液化サイクルや予冷 サイクルに関する多くの知見を得た。また、室 温磁気冷凍や宇宙用超低温発生装置のプロジェ クトをさらに進め、磁性材料や冷凍サイクルの 研究を行っている。新開発された酸化物系磁性 材料は性能の要となっており、例えば、開発に 成功している酸化物磁性体Gd2O2Sは、超伝導 機器の冷却に不可欠な4K冷凍機の性能を飛躍 的に高めることが実証されており、実用機器に 使用されている。 3-10新しい超伝導マグネット作製技術の開 発- Nb3Alへの適用- 従来、超伝導マグネット作製のためには、長 尺の線材を製造する必要があり、そのプロセス 上の理由から適用できる物質が限定されていた。 本研究では、冶金学的な線材製造技術によらず、 多くの特性の良い超伝導材料による超伝導マグ ネット作製技術として適用可能と期待されるπ D法と呼ばれる新しい技術を検討した。πD法 では、直径Dの薄膜円筒基板上に超伝導体を ヘリカルな線状に形成することにより、一層分 のソレノイドコイルを作製し、この円筒コイル を同心円状に多層化することにより超伝導マグ ネットを構成する。必要な超伝導体形成技術は、 πD、すなわち、通常は数m以下程度の長さに 対するもので十分となる。実験では、Nb3Al超 伝導材料をターゲットとし、銅平板、および、 円筒基板上へNbとAl粒子をコールドスプレー により塗布した後、電子ビーム照射により超伝 導相を得る手法を採用した。NbとAlの粒子比 率や積層の順序をパラメータとして、数種のコ ールドスプレー試料を用意した。電子ビーム照 射は、電子ビームの送り速度を3および6m/s、 投入熱量は200~1200 Wとした。投入熱量が小 さいとビード痕と呼ばれる電子ビームによる溶 融部は確認できないが、投入熱量の増加に伴い 白い線状のビード痕が確認された。 短尺試料の臨界温度と臨界電流を計測したと ころ、送り速度と投入熱量がそれぞれ3m/sで 800 W以上、6 m/sで1200 Wのケースで超伝 導相が形成されていることが確認できた。円筒 基板への電子ビーム照射は、直径40 mm、長さ 50 mmの銅管を用いて実施した。この際、回転 ステージを用いることで、コイル状に照射を行 なった。このコイルに20.5 Aを通電することで、 2.7 mTの磁場発生を観測した。 本研究では、従来の冶金学的な線材化技術に よらないπD法により、Nb3Alの生成と単層コ イルでの磁場発生を確認できた。本方法は原理 的にはどのような物質にも適用が可能であるの で、より特性のよい超伝導材料に適用すること で、優れた性能を持つ超伝導マグネットの作製 が可能になると期待される。 なお、本研究は、東京大学と神戸製鋼、NIMS の共同研究により実施された。 4.今後の研究動向 強磁場は物質内の電子運動に大きく影響を与 えることから、物性研究には欠かせないツール であり続ける。特に定常強磁場を用いることで 精密な研究が行えることから、全世界的に強磁 場の装置開発が行われており、日本でもその必 要性は議論されている。また、強磁場はある程 度の大きさを持った構造体に対してはこれまで 無視されてきた反磁性や常磁性効果を通して配 向作用をもたらすことも知られてきた。これら の研究はこれから大きく進展すると考えられる。 更に、強磁場がNMR研究で重要な役割を担っ ていることは論を待たない。強磁場は物質内の 電子運動に大きく影響を与えることから、物性 研究には欠かせないツールであり続ける。NMR 研究を支える技術開発が超伝導線材の高度化で ある。今後も強磁場研究はこれらを全体的に進 展させるべく進むものと考えている。 参考文献 1)T. Kiyoshi et al.: IEEE Trans. Appl. Superconduct. 20(2010)714. 2)Y. Nagao et al.: J. Phys. Soc. Jpn. 78(2009) 064702. 3)Y. Yamauchi, M. Sawada, Y. Sakka and K. Kuroda et al.: J. Mater. Chem.15(2005) 1137. 4)Y. Yamauchi, M. Sawada, A. Sugiyama, T. Osaka, Y. Sakka and K. Kuroda: J. Mater. Chem.16(2006)3693. 5)Y. Yamauchi, M. Sawada, M. Komatsu, A. Sugiyama, T. Osaka, N. Hirota, Y. Sakka and K. Kuroda: Chemistry - An Asian Journal 2(2007)1505. 6)Y. Yamauchi, A. Sugiyama, M. Sawada, M. Komatsu, A. Takai, C. Urata, N. Hirota, Y. Sakka and K. Kuroda: J. Ceram. Soc. Jpn 116(2008)1244. 7)K. C.-W. Wu, X. Jiang and Y. Yamauchi: J. Mater. Chem., in press. 8)T. A. Searles et al.: Phys. Rev. Lett.105 (2010)017403. 9)S. Uji et al.: Nature 410(2001)908-910. 10)S. Uji et al.: Phys. Rev. Lett., 97(2006) 157001. データベースステーションの5年 ―NIMS物質・材料データベース MatNavi― ステーション長山﨑政義 1.ステーションの目的 データベースステーションは、2003年から世 界最大級の材料データベースである“NIMS 物質・材料データベース(MatNavi) ”をイン ターネットによって発信している。MatNaviは 物質の電子構造、結晶構造、状態図などの基本 特性、金属材料、ポリマーおよび無機材料の機 能特性、強度特性など新材料の開発、機器設計 における材料の最適な使用、最適な材料の選択 および機器のトラブルなどの原因究明に役立つ 情報を提供し、国内外の研究者および技術者を 支援することを目標としている。今期は「使わ れてこそデータベース」から「ユーザフレンド リーなデータベース」へ成長させることを目的 として活動した。 2.活動概要 今期の主な活動を以下に示す。 1)結晶基礎データベース(Pauling File)の 著作権を(独)科学技術振興機構から移管し て、データを拡充し、既存データを更新し た。また、システムを再構築して名称を無 機材料データベース(AtomWork)に変更 して新サーバで公開した。 2)基盤原子力材料データベース、圧力容器材 料データベースおよび構造材料FACTデー タベースを統合して金属材料データベース (Kinzoku)を開発し公開した。 3)界面熱伝達率データベース(ITC)を開発 して公開した。 4)半導体材料研究センターが開発した金属偏 析予測システム (SufSeg)をMatNaviか ら公開した。 5)高分子データの入力データシートを改良し て、文献からのデータの抽出方法の合理化 を行い、高分子辞書データ作成をシステム 化した。また、構造基礎名の自動命名シス テムを公開した。 6) 2010年7月にMatNaviシステムの全面的な 更新をしてサーバ群を目黒地区からつくば 地区へ移設し維持管理費の低減を実現した。 7)外部機関との連携は韓国の国家プロジェク トMaterials Bank参加機関とMOUを締結 した。そしてAsian Materials Database Committee (AMDC)を組織して Asian Materials Database Symposium (AMDS) を韓国および中国で開催した。また、MITS データベースシンポジウムを2006、2007、 2008および2009年に開催した。 8)これらの活動からユーザ登録数は5年間で 約2.5倍となり2011年3月で54,576人(国 内:38,909,海外:15,667人)となった。ア クセス数も増加して毎月120万件前後で、特 に無機材料、高分子、金属材料の利用が多 い。 3.成果 3-1MatNaviシステムの更新 データベースサーバの法定耐用年数が過ぎ 老朽化したためシステムを集約し、13台のサー バを3台に統合した。また、ユーザ登録システ ム、無機材料データベースおよび金属材料デー タベースを開発した。すべてのデータベースシ ステムは OS を Linux、DBMS (DataBase Manegiment System) を PostgreSQL に統一 した。ユーザ登録システムはユーザIDを利用 者のメールアドレスにするとともに仮パスワー ドを自動発行するシステムに改良した。 新 MatNaviのデータベースとアプリケーシ ョンを下記に示す。また、MatNaviのトップペ ージを図1に示す。 ■基礎物性 ・ 高分子データベース(PoLyInfo) ・無機材料データベース(AtomWork) ・電子構造計算データベース(CompES) ・ 中性子反応データベース(NeuTran) ・界面熱伝達率データベース(ITC) ・ 拡散データベース(Kakusan) ・超伝導材料データベース(SuperCon) ■エンジニアリング ・金属材料データベース(Kinzoku) ・ CCT線図データベース(CCTD) ・材料リスク情報プラットフォーム (MRiP) ・データシート資料集 ・金属組織データベース(Kinso) ■ NIMS構造材料データシートオンライン ・クリープデータシート(CDS) ・疲労データシート(FDS) ・腐食データシート(CoDS) ・宇宙関連材料強度データシート(SDS) ■アプリケーションシステム ・ 複合材料熱物性予測システム(CompoTherm) ・高分子物性推算システム ・金属偏析予測システム(SurfSeg) ・溶接熱履歴シミュレーション 図1新NIMS物質・材料データベース (MatNavi) http://mits.nims.go.jp 2011年3 月 31日 3-2無機材料データベース(AtomWork) 従来の結晶基礎データベース(Pauling file) を再構築しデータを拡充して無機材料データベ ース(AtomWork)を公開した。無機材料デー タベースは科学技術文献から抽出した無機材料 の状態図、結晶構造、X線回折および特性に関 するデータを収録している。独自のフェーズ認 識技術を用いて状態図、結晶構造、特性間の相 互リンクを実現している。既存材料各種データ の参照、新しい物質の探索、シミュレーション などに利用できる。2010年8月時点のデータ 数は、 状態図(phase diagram) 15,000 件 結晶構造(crystal structure) 82,000 件 X 線解析(X-ray diffraction) 82,000 件 特性(properties) 55,000 件 である。 次の3通りの検索が可能である。 ①Search material:化学成分系、化学式、物 質名、プロトタイプ、ピアソン記号、空間 群番号 ② Search materials having specified properties:材料特性を指定して材料を検 索 ③ Search phase diagram:成分系を指定して 状態図を検索 3-3金属材料データベース(Kinzoku) 基盤原子力材料データベース、圧力容器材料 データベースおよび構造材料FACTデータベー スを統合して主に構造用金属材料の密度、弾性 係数、ポアソン比、硬さ、靱性、引張特性、ク リープ特性、クリープ破断特性および各種疲労 特性が収録されている。JIS規格番号、ASTM 規格番号、材料名および素材形状などから検索 できる。経年劣化材を含む500材種、3,500ヒ ートについて82,700件のデータが公開されて いる。 3-4界面熱伝達率データベース(ITC) 界面熱伝達率データベースはフォノン散乱 モデル(Diffusion Mismatch Model)を用いて 計算した1,000種類以上の金属/非金属、非金 属/非金属界面の熱伝達率データと、界面両側 材料の結晶構造、物理特性などを提供している。 図2にITCのWebページを、図3に検索画面 の例をそれぞれ示す。 図2界面熱伝達率データベース h ttp://interface.nims.go.jp file://p://mits.nims.go.jp file://p://inte%E3%80%8Cfcice.nims.go.jp 図3界面熱伝達率から検索 3-5金属偏析予測システム(SurfSeg) 金属偏析予測システムは半導体材料研究セ ンターが開発したものでMatNaviから公開し ている。金属Aに別の金属Bが蒸着されている 試料をアニールした時に、AがB表面に濃縮 (表面偏析)するかどうかを予測するシステム である。機械強度や電気伝導性などのバルク特 性を変えることなく表面を制御して性能を発揮 する材料の探索に役立つ。51元素×51元素の 組み合わせに対応している。図4および図5に SurfSegのWebページを示す。 図5周期表からSubstrateとFilmの元素を選択して 計算ボタンを押すだけ 3-6外部機関との連携 韓国の国家プロジェクトMaterials Bank開 発が2006年にスタートした。金属材料データ ベース Metals Bank が Korea Institute of Materials Science (KIMS)、無機材料データベ ース Ceramics Bank が Korea Institute of Ceramic Engineering and Technology (KI CET)および有機材料データベース Chemical Materials Information Bank が Korea Research Institute of Chemical Technology (KRICT)が中核機関として材料デ ータベースの開発を進めている。当ステーショ ンはそれぞれの機関とMOUを締結し情報交換 を行っている。 また、複合材料熱物性の研究で中国華南理工 大学とMOUを締結した。これらの関係から Asian Materials Database Symposium の開催 が提案され、当ステーション、韓国Materials Bank、中国北京科学技術大学の共催でシンポジ ウムを開催した(図6)。 AMDS2008 Jan. 31,2008 Jeju Island, Korea 2nd AMDS Mar.10-14,2010 Sanya,China Asian Materials Data & Database Committee (AMDC)が組織された。 第3回は2012年日本開催予定である。 図6 AMDS 2008韓国済州島 当ステーションは材料データベースシンポ ジウムを MITS (Materials Information and Technology Solution) meeting として毎年主 催している。MatNaviユーザおよび他機関で 材料データベースを構築・発信している関係者 の意見交換の場となっている(図7)。 MITS 2006: January 18-19, 2006 Tokyo MITS 2007: March 16, 2007 Tsukuba MITS 2008: July 17-18, 2008 Tsukuba MITS 2009: November 13, 2009 Tsukuba 図7 MITS2008 世界材料研究所フォーラムのWGで材料デ ータベースに関する共同研究について議論した。 さらにMatNavi普及のため学協会などで発表 展示を行っているが高分子データベース PolyInfoが2007年度のオルガテクノ大賞を受 賞した。図8に受賞式の写真を示す。 図8高分子データベースがオルガテクノ大賞 3-7利用状況 MatNaviを利用するためにはユーザ登録を してパスワードを取得する必要がある。この登 録時の情報をもとにデータ収集およびシステム 開発にフィードバックするために何処の、誰が、 何のためにMatNaviを利用しているのかを集 計している。 登録ユーザは2011年3月末時点で141ヶ国、 16,500機関以上から54,576人に達した。2003 年公開時に比べて約10倍、5年前に比べて約3 倍に増加している。海外からのユーザ登録が増 えている。毎月2千人以上がパスワードを入力 し利用しており、リピーターが多い。表1に登 録ユーザ数、図9に登録ユーザ数の推移および 図10に年間の新規登録ユーザ数をそれぞれ示す。 2010年7月にシステムの全面的な更新を行 ってからアクセス数は毎月120万件前後あり、 MatNaviのトップページ、無機材料データベー ス、高分子データベース、金属材料データベー スへのアクセス数が多い。 表1MatNavi登録ユーザ数の推移(人) 年度 2003年3月 2006年3月 2011年3月 国内 4,842 15,651 38,909 海外 1,470 5,216 15,667 総計 6,312 20,867 54,576 図9 MatNaviの登録ユーザ数の推移 図10 MatNaviの年度別登録ユーザ数 図11MatNaviアクセス数の推移 (2008年 9 月―2011年3 月) 登録ユーザの3割は海外の研究者、技術者、 大学教員および院生・学生などである。米国が 約3,500人、中国が2,000人でドイツ、インド、 イギリス、韓国が500人を超えている。100人 以上の登録がある国と登録者数を図12に示す。 図12海外のMatNavi登録者数 登録ユーザがNIMS物質・材料データベース MatNaviを知ったきっかけは図13および図14 に示すように国内、海外とも40%のユーザが Google, Yahoo等の汎用検索エンジンからで、 23%が先生、同僚などからの口コミ、約16%が 他のホームページのリンクからMatNaviを見 つけている。 ユーザの職種は国内では70%が企業の研究 者・技術者が多く、材料・製品開発担当、材料 評価担当、機器設計および研究企画担当者であ る。海外は比較的教育機関のユーザが多く約 40%が教員および院生・学生である。図15お よび図16に国内、海外のMatNaviユーザの職 種を示す。 なお、ユーザの役職は国内では企業の役職な し、係長クラス、課長クラスで80%に達し、教 授、ポスドク、博士課程院生などの教育関係者 は併せても13%である。一方、海外では教育機 関のユーザが41%で特に博士課程が19%を占 める。 MatNaviの国内、海外ユーザの利用目的を図 17および図18に示す。国内では標準参照デー タ として 32%,レポート作成のため20%、材料 選択のため18%である。海外は材料選択と標準 参照データとしてそれぞれ約30%でレポート 作成のためが21%となっている。材料および製 品開発のためには国内が23%なのに対して海 外は9%となっている。 図13MatNaviを知ったきっかけ(国内ユーザ) 図14 MatNaviを知ったきっかけ(海外ユーザ) 図15国内ユーザの職種 図16海外ユーザの職種 図17国内ユーザの利用目的 図18海外ユーザの利用目的 4.今後の開発動向 物質・材料データベースには二つの大きな役 割がある。一つは材料科学の進歩に寄与すると ともに工学教育における材料知識の向上である。 二つ目は、様々な産業活動において安全・安心 で環境に配慮した持続可能な社会を築くために 材料開発や製品開発を効率的に進めなければな らない。また、製造業のグローバル化が進み材 料・部品調達の国際化が進んでいる現在におい て信頼できる材料情報を発信することである。 そのためには材料データベースの継続的な開発 が必要である。当面の課題として次の項目が挙 げられる。 1)高分子、金属材料および無機材料データベ ースのさらなるデータの拡充およびユーザ フレンドリーなシステムの開発を継続する。 2)レアアース・レアメタルの代替材料の開発 に寄与するため電子構造計算データを戦略 的に拡充してシステムを開発する。 3)半導体材料研究者と協力して半導体データ ベースを開発しMaterials Informaticsの 確立を目指す。 4)NIMS物質・材料データベースの横断検索 システム MatNavi Searchシステムの高機 能化。 5)国内外の材料データベース開発・発信機関 との連携を推進する。 6)各種データおよびシステムのライセンス供 与などによる収入を得ること。 共用ビームステーションの5年 ―NIMSの物質・材料研究のための高輝度放射光ビームライン― ステーション長小林啓介 1.ステーションの目的 共用ビームステーションはSPring-8におけ るNIMS専用放射光ビームラインBL15XU、お よびその実験ステーションを常に世界の先端的 位置に保ちつつ、NIMSの物質・材料研究の共 同研究的支援に供与し、先端的研究成果の輩出 を促進することを目的としている。 放射光の固体物理への本格的な利用は1970 年代にさかのぼることが出来る。その後1990年 代以降アンジュレーター光源を主とする第3世 代放射光施設が世界的に多数建設された。これ によって、放射光の物質科学への利用範囲は大 幅に広がった1)。放射光の品質(輝度、フラッ クス、エミッタンス、エネルギー範囲、コヒー レンシーなど) が飛躍的に向上して、X線回折、 X線非弾性散乱、X線磁気散乱、核共鳴散乱、コ ンプトン散乱、XAFS、XANES、光電子分光、 磁気円二色性、光電子顕微鏡、X線イメージン グ等々、実に多種多様な測定法が可能となった。 今日ではアンジュレーター放射光は物質・材料 科学における必須の研究手段となっている。 NIMSは1999年兵庫県にある世界最大の大 型放射光施設SPring-8に専用ビームライン BL15XUの建設を開始し、以来これを維持して いる。2005年4月からこの共用ビームステーシ ョンはNIMSの物質・材料研究の共同研究的支 援を積極的に行う態勢に移行した。さらに、文 科省の委託事業によるナノテクノ ロジー支援/ ナノネットプロジェクトを通じて外部ユーザー の共同研究的利用を進めて来た。 現在のNIMS専用ビームラインBL15XUは、 2.2 keVから36 keVにわたる極めて広いエネル ギー範囲の高輝度単色X線が得られ、粉末結晶 構造解析および硬X線光電子分光2)による電子 構造―化学結合状態解析を一本のビームライン で行うことが出来、物質・材料科学研究に特化 したビームラインとして世界に類を見ない先端 的な位置にある。 NIMSにおける物質・材料研究は近年ますま す多様性を増してきている。放射光が可能にす る実験手法は上述のごとく多種多様であるが、 これらの手法を一つのビームラインですべてカ バーすることは出来ない。異なった実験手法が 可能な他の専用ビームラインとの連携体制を構 築し、実験課題の相互乗り入れが必要となる。 そこで共用ビームステーションは2006年度以 来、広島大学放射光科学研究センター (HiSOR) および、兵庫県ナノテク研究所と共同研究契約 を締結し、必要に応じてNIMS研究者の実験課 題をこれらの機関の持つ放射光ビームライン、 施設で実験可能な体制を作ってきた。また(独) 日本原子力研究開発機構とも同機構が SPring-8に保有するビームラインでのNIMS実 験課題の実行が可能なように協力関係を構築し た。 共用ビームステーションはビームラインの 維持、高度化、新しい実験手法の開発及びその 応用研究を進めるとともに、上記の他機関との 連携を通じてより多彩な放射光利用を先導し、 NIMSの先端的物質・材料研究支援を推進して いる。 2 .活動概要 共用ビームステーションは2006年4月から、 SPring-8におけるNIMS専用ビームライン BL15XUの再構築を開始した。 このビームラインは1999年から旧無機材質 研究所が建設を開始し、2000年にはコミッショ ニングが終了した。2001年にNIMSが発足し それ以来、その専用ビームラインとして運営さ れてきた。このビームラインはリボルバー式ア ンジュレーターを備えており、4 keV以下のフ ォトンエネルギー領域では円偏光アンジュレー ターを、それよりも高エネルギー側では直線偏 光アンジュレーターを切り替えて使うようにな っている。当初ビームライン分光器は回転傾斜 配置Si111結晶とYB66結晶を使った二つの2 結晶分光器を切り替えて使うことで1.2 keVか ら20 keVまでの範囲をカバーする設計となっ ていた。また、実験ステーションとして、粉末 構造解析、平行平板結晶型X線発光分光器、二 つの回転可能なアナライザーを持つ光電子分光 実験ステーション、および硬X線領域の光電子 顕微鏡が配置されていた。これらの実験ステー ションはいずれも特色を持ったものであったが、 スループット、安定性、使い勝手などの点で NIMSの物質・材料研究支援を幅広く行うには 問題があり、2006年4月時点でのNIMS内ユ ーザーの利用は限られたものとなっていた。 2006年4月からNIMS内部利用の拡大と先 端的物質・材料研究における成果の輩出促進を 目標としてビームラインの再構築を開始した。 これを進めるに当たって、1)実験ステーショ ンを高スループット化、高安定化し、2) NIMS 内ユーザー利用の開発を進め、3)利用研究の 水準と幅を広げるために外部研究機関との連携 をすすめる、等を基本的な方針とした。 本ビームラインは高度な性能を持つため、操 作にも習熟が必要であり、放射光利用経験を持 たない物質・材料研究者が自分たちだけで実験 ステーションを使って実験およびデータ解析を 遂行することは不可能である。また、依頼分析 的な利用支援も実験装置と人的な体制をそれに 向けて整えない限り、現実的には不可能である。 可能であったとしても、これを主な利用支援形 態とすればビームライン高度化への動機が薄く なり、すぐにも陳腐化してしまう。これらの観 点から、すべての利用支援は共用ビームステー ションスタッフとユーザーの共同研究として行 うことを基本とした。 ビームライン再構築は、具体的には1)硬X 線光電子分光実験ステーションの導入、2)ビ ームライン分光器の液体窒素冷却化、3)粉末 結晶回折実験ステーションの自動化を進めた。 また同時にこれらの実験ステーションの特長を 生かした新しい実験手法の開発も積極的に進め てきた。以下にそのおのおのについて述べる。 3.研究成果 3-1硬X線光電子分光実験ステーションの 導入とその高度化 2006年度初めに広島大学HiSORと原子力研 究機構の協力を得て、硬X線光電子分光実験ス テーションを構築した。図1にこの実験ステー ションの配置を示す。ビームライン分光器の後 方にSiチャンネルカット結晶分光器を挿入し、 X線のバンド幅を50 meV程度にまで小さくし て、光電子の励起光として利用する。これは 2002年以来SPring-8において開発されてきた 光電子分光実験法で、従来の光電子分光に比べ 図1BL15XUにおける硬X線光電子分光実験ステ ーションの配置模式図 て検出深さが遙かに大きく、試料表面の影響を 受けにくいことが大きな特徴である。BL15XU ではチャンネルカット後置分光器のSi333反射 によって6keV、バンド幅約50 meVのX線を 得て真空槽内に導き、試料に照射してその表面 から放出される光電子を6 keV耐圧のVG SCIENTA R4000アナライザー(HiSOR所有) を使って分析した。現在ではその後10 keV耐 圧のアナライザーに置き換えて利用している。 硬X線光電子分光法においては検出深さが10 nm程度と大きいので、1)表面の汚染層の影響 が少ない、2)バルクの電子状態―化学状態の 解析を行うことが出来る、3)埋もれた層、界 面を見ることが出来る、等の従来の光電子分光 法では不可能であった測定が可能となる2-4)。 この特徴を生かすべく、ZnO系の薄膜半導体、 燃料電池電極触媒、抵抗変化記録材料薄膜など 様々な薄膜、多層薄膜、ナノクラスター材料の 電子状態-化学結合状態解析への利用開発を行 ってきた。 その一例として、電場印加下での抵抗変化記 録材料における固相界面電気化学反応の初期過 程を調べた結果を紹介する。図2にT. Nagata らによるPt/HfO2/Ptサンドウィッチ構造への 電場印加下での光電子分光測定の結果を示す3)。 この実験は抵抗変化メモリー素子の抵抗変化メ カニズムを明らかにする目的で行われた。図 2(c)に示すようにゼロバイアスでのスペクトル の光電子脱出角依存性から、HfO2スペクトルは 試料の内部の深い部分に存在し、表面敏感なス ペクトルにはわずかにしか認められない。同図 (d)に示す表面敏感スペクトルのバイアスによ る変化から、バイアスの方向にかかわらず試料 の表面近くではPtの酸化とHfO2の還元が起こ っていることがわかる。この結果によってバイ アス印加によって界面近くでHfO2が還元され、 図2 Pt/HfO2/Pt抵抗変化メモリー素子モデル試料 の電場印加硬X線光電子分光の結果 HfO2中に酸素欠損が生じ、これがHfO2中での キャリヤを発生させ抵抗が減少するという、抵 抗変化メモリーの初期過程が明らかとなった。 3-2ビームライン分光器の液体窒素冷却化 本来アンジュレーターX線はビーム発散が小 さいのが特徴である。しかし2006年度初頭に 上記の硬X線光電子分光実験ステーションの導 入を行っている過程で、テスト試料表面上でX 線スポットのサイズがアンジュレーター光源と しては異常に大きくなっていることが見出され た。ビームライン分光器の第一結晶への熱負荷 が水冷能力を超えて、Si分光結晶の表面の結晶 性が劣化することが原因であった。新しく導入 した硬X線アナライザーは電子レンズ系の構成 が試料上での小さなスポットサイズを必要とす るため、このビームの広がりは致命的であった。 当面はPEEM 実験ステーションに使っていた X線集光光学系を利用することで実用に耐える スポットサイズを実現した。一方でこの問題の 根本的な解決のために結晶分光器の液体窒素冷 却化を進めることにした。 当該ビームライン分光器はSPring-8におけ る標準型ビームライン分光器とは全く異なった 回転傾斜配置の計算機結合型分光器であったの で、この液体窒素冷却化には様々な困難が含ま れていた。1)液体窒素のフレキシブル配管を 分光器チャンバー内に格納する必要があり、2) 回転傾斜配置では液体窒素冷却は不可能で標準 的な平行平板結晶配置に変更する必要があった、 また、3) YB66 2結晶分光器は真空槽内の空間 的制限から除去せざるを得なかった。 YB66分光器を取り外した後もリボルバーア ンジュレーターによって広いエネルギー範囲を カバーするという本ビームラインの特徴を残す ために、Si111結晶とSi311結晶を並べて配置 し、並進操作によって切り替える構造を採用し た。これによって2.2 keVから20 keVの範囲 はSi111、20 keVから36 keVの範囲はSi311 でカバーすることが出来、世界的に見ても比類 のない広帯域特性を維持出来ている。回転傾斜 配置では高次光を分光器スリットで除去するこ とができたが、平行平板結晶配置ではこれが不 可能で、新たに高次光カットミラーを導入する ことになったので、これをベンダブルミラーに して粉末回折ステーションへの縦集光機能を持 たせた。 図3液体窒素冷却の場合と水冷の場合のビームライ ン分光器のロッキングカーブの比較 液体循環系を導入したことで、分光結晶の劣 化問題は解消し、ビーム発散の問題も解決した。 その結果、図3に示す様に分光器のロッキング カーブの幅は水冷時よりも改善されている。ま たベンダブル高次光ミラーの集光によって粉末 回折実験ステーションのスループットを改善す ることができた。その後、硬X線光電子分光実 験ステーションのために新しく集光ミラーを導 入し、現在は試料表面上で縦、横ともに30 μm のスポットサイズを実現出来ている。 3-3粉末X線回折実験ステーションの自動 化 2006年度から2009年度まではそれ以前から 使用されていた2軸粉末回折計を利用したユー ザー支援を行った。この回折計はカメラ半径 95.5 cmで、当初はボンズ・ハート型のアナラ イザー結晶とカウンターの組み合わせによる検 出を行っていた。これは2θ軸を回転させなが ら一点ずつデータを取り込む非常に低スループ ットの方式であった。これをイメージングプレ ート(IP)に変えて、さらにスリットを組み合 わせてIPに多数回露光可能な方式に変えた結 果、スループットは飛躍的に向上し、ユーザー 支援課題数は増加した。 図4にIP検出法によるNIMSユーザーの研 究成果の例を紹介する。強磁性相転移に伴う構 造相転移が観測されていない物質は多く存在す る。これらの物質は強磁性転移が起こっても構 造は普遍であるのか、それとも非常に変化の小 さな構造相転移が起こっているのかを判定する ことは難しい。NIMSの任グループはIPをつ かった高分解能粉末X線回折法によっていくつ かの化合物磁性体において強磁性転移に伴うき わめて微細な構造転移が起こることを明らかに し、TbCo2-DyCo2固溶体系においては、磁性転 移と相関した構造相転移を見いだし、図に示す ようにそのモルフォトロピック相境界を決める ことができた4)。 図4高分解能粉末回折実験によって決定された TbCo2-DyCo2固溶体系の磁性転移とモルフォトロ ピック相境界 このIPによる粉末回折パターンの取得には 1サンプルにつき2θを変えながら3回の露光に よって必要角度範囲をカバーできる。これに要 する時間は10分程度である。1枚のIPには10 回程度の露光が可能なので、数10分に一度IP を取り出し、データの読み出し、新しいIPを セットしなければならない。SPring-8は昼夜区 別なく連続的に運転されているので、ユーザー 課題の増加はステーションスタッフに極度の負 荷をもたらすことになる。 そこで、2009年度に予算を得て、粉末回折計 に試料自動交換ロボットと一次元半導体検出器 アレイを導入して完全無人運転が可能なシステ ムの構築をはかった。元々の回折計は2θ軸は構 造的に剛性が十分でなく、また架台の設計が不合 理であったので、この改造に際して回折計、およ び架台を取り替えることにした。図5に示すよう に、この自動化装置は試料バンク、ロボットアー ム、回折計、試料位置決めのためのCCDカメラ (2台)、位置決め試料ゴニオメータと試料連続回 転軸、2θ回転腕、からなっている。2 θ腕にはIP カセットと1次元半導体センサーアレイを取り替 えてつけることができる。1次元検出器アレイは ピクセルサイズ50 μm x 6 mmの、ピクセル数 1280のMYTHEN (DECTRIS社)を利用した。 図5全自動化粉末X線回折実験ステーション 表1にNIST (アメリカ国立標準技術研究所) のCeO2標準試料を用いたMythen検出器の性 能テスト結果を示す。リートベルト解析の信頼 度は現時点ではIPを使った場合よりも多少劣 るがその差は小さい。調整の精度を高めること でさらに向上するものと考えている。本検出器 アレイは60 mmの長さであるので、この自動 化システムは、試料交換、位置決め、測定、デ ータの取り込みと読み出し、検出器の2θ軸周 り回転移動、などの制御ソフトが搭載され、す でにその統合的動作テストも終了し、2011年前 半のビームタイムから、ユーザー利用への供用 を計画している。 表1リートベルト解析結果の検出器依存性 Reliability index (%) Mythen Imaging plate Rwp 4.91 3.53 Rp 3.72 2.72 RF 1.02 0.87 3-4その他の高度化と将来への展開 硬X線光電子分光に関しては以下のような装 置、手法開発を行ってきた。 ⅰ)硬X線光電子分光法についてはJST先端分 析機器開発プログラムの委託事業(2004-2009) によって単色化CrKa(5.4 keV)線源と広角対物 電子レンズを組み合わせた実験室装置を開発し た。この装置はビームラインにおける測定より も、スループットで2桁、分解能で2倍劣るが、 半導体ゲートスタック試料の多層膜の解析、膜 厚測定、光電子回折などへの応用によって十分 な実用性を持つことが示された5)。将来はビー ムラインと相補的に利用することが考えられる。 ⅱ)硬X線光電子分光法における新手法開発 世界に先駆けてダイヤモンド移相子を使って励 起X線の左右偏向を切り替えて、強磁性材料の 内殻光電子スペクトルの磁気円二色性測定を行 い、強磁性材料研究の有用な手段であることを 示した6)。 ⅲ)電場印加下の硬X線光電子分光測定手法と その応用を開発してきた7)。この手法はMOS トランジスタのゲート部分の界面状態の解析、 固相界面における電気化学反応の解析などに有 効であることが示された3)。 ⅳ) LBNL-ALS/Univ. California Davis の C. Fadleyのグループとの共同研究(文部科学省 ナノネット支援課題)により硬X線光電子分光 においても角度分解光電子スペクトル測定によ るバンド分散測定が可能であることを世界に先 駆けて示すことができた8)。 ⅴ)同上グループとの共同研究により、超格子に よるX線定在波発生を用いた、定在波X線励起 光電子分光法の開発を行った9)。この方法では 基板結晶の上に超格子構造を成長させ、その上 に観測したい試料構造を作り付ける。試料への X線入射角を変えることにX線定在波の位相を 制御して任意の界面におけるX線強度を強くす ることで、その界面からの光電子放出強度をエ ンハンスすることができる。 ⅵ)名古屋大学のグループとの共同研究によっ て同グループが開発したTEM用の環境セルを 応用して、ナノ環境プロジェクトの枠で環境セ ルによるambient硬X線光電子分光の開発を 行った。このセルは光電子の窓材に15 nmのア モルファスSiを使って、1.5気圧まで耐えられ ることが確認された。そこで、ⅰ)に述べた実験 室装置を使ってフロータイプのセルを作って、 セル内の圧力を0.1-10 Torrの間で変化させて 窓から3 mm下に置かれたAu試料のAu3d内 殻の強度を測定したところ、スペクトルの強度 の圧力依存性を測定することが出来た。このテ スト実験の成功を踏まえて固相―気相界面反応 などへの応用に進む予定をしている。また、ビ ームラインでの実験への導入を計画している。 ⅶ)硬X線光電子分光実験ステーションでは、 大気中の試料を超高真空の測定室に移送する作 業に熟練を要し、したがって原則的にビームラ インスタッフが行うようにしている。これがビ ームラインスタッフに大きな負荷になり、また 実験計画の融通性を制限している。そこで粉末 回折ステーションと同様に測定の自動化を計画 し、そのためのハードウェア(実験架台と試料 自動搬送装置)の製作を進めた。またこの自動 測定を制御するための統括ソフトウェアの開発 を行った。この自動化システムは2011年度に 立ち上げ調整を行う計画である。 X線開発における新手法開発については、 ⅷ)集光X線を用いて平板法粉末回折法の開発 を行い、キャピラリー法と同程度の分解能のデ ータが得られることがわかった。この方法は試 料への電場印加などが行いやすいので、デバイ ス構造の試料への適用など新しい応用が考えら れる。 ⅸ)ガンドルフィーカメラ(回転カメラ)の開 発を行い、これを「はやぶさ」が持ち帰った微 結晶の構造解析に応用した。 ⅹ)兵庫県ナノテク研究所の協力をえて、8軸回 折計をビームラインに導入した。この装置は将 来薄膜回折への応用展開を見込んでいる。 3-5残された問題 環境セルをビームラインで利用する時には 真空ハザードを引き起こすリスクが考えられる。 硬X線光電子分光実験ステーションをタンデム 構成にして用途に応じて使い分けることとすれ ば、この場合にもビームタイムスケジュールへ の影響を少なくできる。また、異なった実験配 置への変換のためのデッドタイムを減らすこと も出来る。3-4で述べた硬X線光電子分光実験 ステーションの自動化システムは、既存のステ ーションに独立して作成しているので、アナラ イザーを追加すれば、タンデム配置を実現でき る。 X線回折については兵庫県との連携で導入し ている回折計を薄膜解析に応用する方向で進め るべきである。これによってNIMS内の新しい 利用を開発することが出来るものと期待される。 3-6ビームライン利用状況および研究成果 の輩出状況 図5にビームラインの利用状況(実験課題数) の変遷を示す。2008A-2009A期の課題数減少は ビームライン分光器の液体窒素冷却化工事とそ の後の調整のためである。図6に論文輩出、研 究発表の増加状況を示す。実験課題数の増加に したがって発表論文数は順調に増加し、2009 年度頃から飽和の傾向にあることが判る。 図5ビームラインにおける実験課題数の推移 図6発表論分数の推移 2010年度の論文が掲載された主な論文誌は Angewandte Chemie International Edition (1), Journal of the American Chemical Society (2), Physical Review Letters (3) Applied Physics Letters(3), Physical Review B(4), Applied Physics Express(2), Journal of Applied Physics (3), Journal of Physical Chemistry C (1), Langmuir(2),等である。(括 弧内は論文数) 4.今後の動向 以上述べたごとく第二期中期計画の終了時 点でのNIMS専用ビームラインは、物質・材料 科学のためのビームラインおよび実験ステーシ ョンとしては世界的に類のない高度な状態に整 備されつつある。したがって次の段階では NIMSの戦略に沿ったビームライン利用の開発 を考えて行くステージに入る。このためにはエ ネルギー環境、低炭素などの中長期的戦略的テ ーマに寄与できる利用開発を積極的に進めてい くべきである。 計算科学と合成手法の進歩によって物質・材 料研究開発は新しい時代に入ろうとしている。 NIMS専用ビームラインは物質の電子構造・化 学結合状態と結晶構造・価電子密度分布を一つ のビームラインで測定することが出来るという、 他に類を見ない特徴を持つ。この特徴を生かし て第一原理計算に基づく物質・材料のデザイン ―合成―評価の間にフィードバックをかけなが ら新しい機能材料を探索する方向に進むことが 共用ビームステーションの担うべき新しい役割 の一つと考える。 放射光利用は常にビームライン、実験ステー ション装置、手法の高度化の努力を続けなけれ ば陳腐化によって世界的な先端水準から落ちこ ぼれてしまう。したがって高度化努力をNIMS 全体の戦略に合わせて絶え間なく進めて行くこ とが必要である。 参考文献 1)A. L. Robinson: X-RAY DATA BOOKLET, Center for X-Ray Optics and Advanced Light Source, p. 2-21 (Sep. 2009). 2)K. Kobayashi et al.: Appl. Phys. Lett. 83 (2003)1005. 3)T. Nagata et al.: Appl. Phys. Lett. 97(2010) 082902. 4)S. Yang et al.: Phys. Rev. Lett.104(2010) 197201. 5)M. Kobata et al.: ANALYTICAL SCIENCES FEBRUARY 26(2010)1. 6)S. Ueda et al.: Applied Physics Express 1 (2008)077003. 7)Y. Yamashita: e-Journal of Surface Science and Nanotechinology 8(2010). 8)C. Fadley, S. Ueda, and K. Kobayashi, SPring-8 Research Frontiers 2009, p.72-73. 9)A. Grey et al.: Phys. Rev. B 82, 205116. 分析支援ステーションの5年 ―幅広い材料に対応した分析情報の提供とその基盤となる分析技術標準の開発― ステーション長田沼繁夫 1.ステーションの目的 物質・材料の分析技術、分析情報は物質・材 料の開発・改良を行うための研究基盤として必 要不可欠なものであり、それらのキャラクタリ ゼーションを行う際の中核技術である。当ステ ーションはNIMSのすべてのセンター、ステー ションと密接に連携して幅広い材料に対応した 分析情報の提供、分析技術に関する指導、分析 機器の維持・管理を行なっている。また、より 信頼性の高い、正確で精密な分析法の開発・整 備を目指し、当ステーションの成果を基に分析 技術の国際標準化へ向けた取り組みを積極的に 進めている。具体的には以下の業務を行ってい る。 1.物質・材料評価に関する分析情報の提供(分 析の受託,共同研究) 2.物質・材料の分析に関する技術支援、各種 分析機器の維持・管理(ユーザーに対する 分析技術の教育) 3.新しい分析手法の開発・研究(高度分析技 術開発) 4.分析法にかかわる標準・トレーサビリティ ー確立の推進(分析技術の高精度化・標準 化、VAMAS、ISO、JIS等への参画と普 及) 2.活動概要 当ステーションは材料開発の支援的な役割 とその評価技術の開発・研究的な要素の2面性 を持つために、多くのメンバーは支援と研究の 両方の業務を行っている。現場における分析支 援と現場で使える実用的な分析法(技術・理論) の開発を進めている。同時に、これらを基礎と した分析技術の標準化を進めている。 カバーする分野は広い意味での「化学分析」 全般を目指している。しかし、実際には装置的・ 人的な制約もあり、次のような業務を3セクシ ョン体制で行っている。 1)化学分析セクション 伝統的な湿式化学分析、無機化学分析(原 子吸光法AAS、ICP発光法、ガス分析等)。 2)表面・微小領域分析セクション 表面化学分析(オージェ電子分光法AES、 X線光電子分光法XPS、超軟X線分析法)、 微小領域分析(波長分散型電子線マイクロ アナライザー WD-EPMA、走査型電子顕 微鏡等SEM)。 3)X線回折セクション X線単結晶構造解析、粉末X線回折。 この他、国内の分析に関連したJIS (日本工 業規格)の活動や、ISO (International Organization for Standards)や VAMAS (The Versailles Project on Advanced Materials and Standards)といった分析法の国際標準化活動 についても積極的に関与し、いくつものプロジ ェクトを提案し、そのリーダーや国際・国内幹 事等として積極的に参画している。 3.研究成果 3-1化学分析セクション(SH:伊藤 真二) 3-1-1依頼分析概要 化学分析セクションでは千現地区(主として 金属分析)および並木地区(主としてセラミッ クス分析)において、物質・材料の完全依頼分 析並びに共通分析機器・設備の保守に関する業 務を行っている。2006~2010年度の化学分析 支援の実績を表1に示す。 表1第2期中期計画期間における 化学分析支援の延べ元素数 年度 千現*1 並木 2006 2,570(291) 1,192 2007 2,655(317) 1,929 2008 1,725(224) 1,203 2009 2,444(295) 2,298 2010 2,039 (188) 1,267 *1カッコ内はガス形成元素(H, C,N, O, S)数 表1に示すように、千現地区及び並木地区の依 頼分析の延べ元素数はそれぞれ2,500および 1,200程度で推移しているが、並木地区の2007 年度および2009年度の延べ元素数は大幅に増加 し、その50%近くは、それぞれナノセラミック スセンターおよびMANAからの依頼であった。 依頼分析に持ち込まれる分析試料は材料開 発研究の動向を見る上で重要であり、2006年度 は軽量高比強度材料であるマグネシウム合金の 合金元素および微量不純物元素分析の依頼が多 かった。構造用材料の製造プロセスや材料評価 に関連する成分分析やガス形成元素分析が減少 し、セラミックス粉末、単結晶物質や薄膜等の 微少量試料中の主成分から微量不純物分析を行 う、分析依頼が増加したのも大きな変化を表し ている。 2007年度の特徴として、引き続きマグネシウ ム合金分析が多かった。また、ホイスラー合金 および強磁性体薄膜等の微少量試料中の主成分 から微量不純物分析が分析対象となってきた。 2008年度は2007年度と同様な材料に加えて、 特に“都市鉱山”と呼ばれる希少金属元素の回 収実験に関して、全元素定性分析を行った後に 定量分析を行う試料が多数あり、かなりの労 力・時間を費やした。 2009年度は共同研究分担をしている“極限高 純度めっきプロセスによるCu配線”に関する 研究に関して、ガラス基板上のメッキ膜中の超 微量不純物20数元素の定量分析が要望された。 試作したTa製マスクを用いるHeグロー放電質 量分析法により対応することができた。 中期計画最終2010年度はCo系ホイスラー合 金やマグネシウム合金の分析依頼が多くあった。 また、生体材料関連で溶液試料も多くあった。 特に並木地区ではPbZrTiO3など酸難溶性の試 料や数mgの微少量試料の主成分分析を行う、 分析依頼が増加した。 3-1-2標準化活動 中期計画期間中に行った標準化に関する活動 としては、千現地区においては日本鉄鋼連盟・ 標準化センター標準物質委員会の鉄鋼標準物質 (JSS)の製作および認証値の決定に参画した。 国内11カ所の試験所の分析結果を同委員会で 統計処理・審議し、国内外で頒布するJSSの認 証値を決定した。5カ年で行った分析試料数は 銑鉄1種、高純度鉄1種、低合金鋼3種、炭素 鋼5種、高速度鋼3種、ステンレス鋼1種、炭 素分析専用鋼5種、硫黄分析専用鋼4種、微量 元素分析用鋼1種、鉄鉱石4種およびガス管理 試料4種であった。 並木地区においてはセラミックス協会原料部 会分析研究会において、共同実験データを報告 すると共に審議に参画し、ファインセラミック ス用炭化ケイ素微粉末中の環境影響成分の化学 分析方法を定めた日本セラミックス協会規格 (JCRS110-2007)を作成した。続いてファイ ンセラミックス用窒化ケイ素微粉末中の環境影 響成分の化学分析方法(日本セラミックス協会 規格JCRS111-2008)の作成にも参画した。 これらの標準化活動に参加することで技術 の確認やスキルアップに資することができた。 3-1-3各種分析法の開発・改良 各種の物質・材料の主成分から微量不純物等 の分析では湿式化学分析法による前処理をして、 ICP発光分析法、原子吸光分析法、ICP質量分 析法および吸光光度法で定量している。特に、 酸難溶性のルチル(TiO2)単結晶やセラミック ス基板等の分析では、テフロン製密閉容器を用 いたマイクロウエーブ加熱法によって酸溶液を 用いて分解し、ICP発光分析法またはICP質量 分析法による分析を可能とした。また、この試 料分解法は気密性が高く、初期設定の酸溶液量 を保てるため、少量溶液定容化が行え、少量試 料分析に適用できた。さらに、酸濃度が保たれ るため、各種機器分析法に用いる検量線作成用 標準溶液との酸濃度差がなく、その影響を無視 できる等の理由により、高い分析精度が得られ た。また、形態別分析法では鉄鋼中のppmオ ーダーの微量ホ ウ素について酸 可溶性・酸不溶 性の分別定量を 行った。この方 法は高度な技術 と長時間を必要 図1放電前後のダミー陰極(開 口径 5mmφ) 図2グロー放電痕周囲のX線スペクトル 試料:SrTiO3、 Heグロー放電80分 とする蒸留分離/ICP発光分析法(または、ICP 質量分析法)で行った。 固体試料直接分析において、グロー放電質量 分析法(GD-MS)により超難溶性なサイアロン (SiAlON)試料中の微量不純物元素分析を検 討した。プレス加工した非導電性試料の前面に 5mm程度の開口のあるタンタル製補助電極(ダ ミー陰極、図1参照)を取り付け、ヘリウムグ ロ ー放電によって試料構成元素の高効率なイオ ン化を達成できた。さらに超難溶性なチタン酸 ストロンチウム(SrTiO3)試料および高配向熱 分解黒鉛中の微量不純物元素分析にも適用し、 良好な結果を得た(図2参照)。 また、GD-MSによるガラス基板に電解析出さ せた高純度Cu薄膜の微量不純物分析について 検討した。電解析出した試料の前面に12mmφ の開口のある、タンタル製補助電極(ダミー陰 極)を取り付け、導電Cuテープでガラス基板 に固定した。これにより、ヘリウムグロー放電 が少なくとも20分程度安定持続し、ビームの調 整、質量マーカーの測定などの操作を含めて、 20元素程度の定量分析が行えることを確認した。 さらに、薄膜分析ではファンダメンタル・パ ラメータ(FP)補正法を用いた蛍光X線分析 法により、基板上に蒸着させた、厚さ500nm 程度のNd-Fe-B薄膜の合金の組成分析等を行 った。組成および膜厚に関しても良好な結果を 得た。 3-2 X線回折セクション(SH:貝瀬 正次) 3-2-1分析の概要 X線回折セクションは、それまでの分析ステ ーションの中にあった金属系分析グループとセ ラミックス系分析グループのX線解析部門が独 立し、2006年4月に新組織として発足した。 並木地区と千現地区にそれぞれ分かれてX線回 折装置を保有しているが、一つのセクションと して機構全体の支援を受け持つことになった。 千現地区には粉末X線回折装置4台、微小領 域専用X線回折装置2台、そして単結晶ラウエ カメラ用X線発生装置1台ある。並木地区には 粉末X線回折装置5台、ラウエカメラ1台、薄 膜用X線回折装置1台そしてCCD型単結晶X 線回折装置1台ある。両地区ともX線装置の利 用方法は原則装置貸しとしているが、CCD型単 結晶X線回折装置については、装置管理者によ る依頼分析を受け付けている。 表2に2006年度から2010年度までの装置 利用状況を示す。この結果を見ると、X線装置 1台当たり平均で年間1000時間以上稼働して いることがわかる。しかし、利用時間は2007 年度までは長かったが、2008年度からは減少し ている。この理由は利用者の安全を第一に考え、 夜間および休日の装置利用を原則禁止にしたた めである。当初、利用者側から反発も出たが、 職員のみならず外来研究員の安全はすべてに優 先すべきことである。2010年度は、他の年度に 比べ著しく利用件数、利用時間が減少している。 これが現在のX線回折セクションの問題点を表 している。それは、装置の老朽化により故障の 発生頻度が増して修理に経費と時間がかかり、 稼働率が全体として低下していることである。 2009年度に千現地区の粉末X線回折装置が1 台更新されたが、装置の半数以上は10年以上 も前の装置である。今後の第三期中期計画にお いて、装置の更新が最大の課題であることは間 違いない。 表2年度別支援状況(装置貸し、分析依頼) 千現地区 装置貸し 並木地区 装置貸し 分析依頼 2006 1550 件、 2200 件、 23件 年度 5400 h 11600 h 2007 1550 件、 2150 件、 41件 年度 5400 h 11000h 2008 1500 件、 1600 件、 36件 年度 4700 h 7000 h 2009 1800 件、 2100 件、 44件 年度 4800 h 9000 h 2010 1200 件、 1600 件、 30件 年度 3800 h 7000 h 2006年度から分析支援ステーションX線回 折セクションは、装置利用者および分析依頼者 に対して研究成果報告書の提出をお願いしてい る。これは、研究者の研究発表(誌上・口頭) において、X線回折セクションの支援がどの程 度活用されているか調べるためである。それに よると、装置利用者及び分析依頼者の60%以上 の研究者が、研究発表にX線回折セクションの 支援を受けて発表していることがわかった。報 告書を提出しなかった短期外来研究者を除くと、 さらに利用率は高くなるものと思われる。X線 回折による構造解析は、材料研究の基盤である ことが今も昔も全く変わらないことを示してい る。 図3にCCD型単結晶X線回折装置を用いた 構造解析の一例を示す。装置管理者が独自の発 想で市販の解析ソフトを改良し作成した結果、 未知の材料の構造をこれまでより正確・精密に 評価できるようになった。高い知識と豊富な測 定経験を生かして成し得たものであり、研究者 の研究遂行に多大な貢献をしている。 図3 ロタキサン分子のORTEP図 (試料提供:池 田太一博士) 3-3表面・微小領域分析セクション (SH:荻原俊弥) 3-3-1分析の概要 表面・微小領域分析セクションは、2006年4 月、第二期中期計画のスタートとともに発足し たセクションであり、表面分析・微小領域分析 に関わる分析支援、分析基盤技術の研究、分析 技術の標準化を3大ミッションとして活動を行 ってきた。分析支援では、電子線マイクロアナ ライザー (EPMA)、X線光電子分光装置(XPS)、 オージェ電子分光装置(AES)、走査電子顕微 鏡(SEM)などの物理分析装置を用いて依頼分 析に対する高度分析情報の提供とこれら分析機 器の維持・管理を主な業務として行ってきた。 分析基盤技術の研究では、開発された新しい物 質・材料の分析法の確立と社会ニーズに対応し た評価法の研究開発に取り組んだ。そして、分 析技術の標準化については確立された分析法や 分析に関わる基盤技術を整備するため,JISの 活動やISO、VAMASといった国際標準化活動 に参画した。以下にこれらに関する内容を述べ る。 3-3-2分析支援の概要 2006年4月の発足当初、当セクションでは 透過電子顕微鏡(TEM) 4台、フォーカスドイ オンビーム装置(FIB) 2台、超軟X線分光分 析装置(USXMA)1台、SEM6 台、EPMA 3 台、XPS1台、AES1台を管理していたが、2008 年4月に電子顕微鏡クラスターが設立されたこ とに伴い、TEMおよびFIBの管理はそちらに 移行された。その後、2009年度には高分解能 SEM (日立SU-8000)とクロスセクションポ リッシャー(日本電子SM-09002)が導入され た。2009年度の分析支援件数は、依頼分析につ いては EPMA : 48 件、XPS : 51件、AES : 6 件(装置利用は10件)、SEM :11件であり、 装置利用支援に関するSEMの利用は1148件で あった。 3-3-3分析基盤技術の開発 (1)超軟X線分光分析装置の実用化 第1期の後半で開発した超軟X線分光分析装 置(USXMA)の実用化に向けた検討に取り組 んだ。本装置を用いて、40 eV以上の領域の超 軟X線の高分解計測法について調べ、実試料分 析の最適条件を明らかにすることにより、3次 元非破壊化学結合状態分析の可能性について検 討した。まず、Alの標準試料でAl-L特性X線 のエネルギー分解能を評価した。さらに、実用 材料の状態分析の可能性を評価するために、分 析試料としてAl-Cu接合界面を用い、金属間化 合物として、θ、ηおよびγ相のAl-L特性X線を 測定し評価した。すべての測定条件は電子線加 速電圧10kV、ビーム電流3.7×10-7Aである。 図4に開発したUSXMAで収集したAl-L2,3特 性X線のスペクトルを示す。 図4 Al試料のAl-L線のピークプロファイル 青で示したC. Curry1)のデータよりも微細構 造が鮮明に観察されている。フェルミ端の立ち 上がりで比較してみると、C.Curryのデータの 0.9eVに対して0.6eVと明らかに我々の測定結 果は高分解能であることを示している。 図5にAl-Cu接合界面に生成したθ、ηおよび γ相のAl-L特性X線を示す。金属間化合物相と Al標準試料から得られたAl-L特性X線では明 らかに形状が異なっている。すなわちAl標準 試料のスペクトルはピークが1つであるのに対 して、化合物ではスペクトルのピークが2つと なっており、さらにそれらのピーク強度比も化 合物ごとに異なっている様子が観察された。し たがって、超軟X線分光は対象とする元素の直 上の最外殻電子の情報を与えるために、金属間 化合物等の従来の手法では評価の難しい材料の 状態分析に最適であると考えられる。 図5 Al-Cu金属間化合物相のAl-L線のピークプロ ファイルの化合物相による変化 (2)精密角度分解計測法の開発とSi/Geデル タドープ多層膜の分析への応用 固体表層部に存在する元素の3次元非破壊分 析を実用的な分解能で測定可能な計測法につい て検討するために、弾性散乱電子の精密角度分 解計測用傾斜試料ホルダーの試作を行った。こ の計測法では入射電子の角度を一定に保ち、弾 性散乱電子の脱出角度を可変とするため、傾斜 試料ホルダーと試料回転機構を組み合わせた弾 性散乱電子の計測システムである。試作した傾 斜試料ホルダーは土台となるベースとベース中 央にセットされるブロックから構成され、ブロ ックはベースに対して45度傾斜した状態であ る。この45度傾斜試料ホルダーを用いること により電子の入射角度を一定に保ったまま、脱 出角度を自由に変えて、弾性散乱電子を計測す ることが可能である。 この精密角度分解法において、AES信号の強 度を上げるために電子線入射角度を試料法線か ら85度以上とする傾斜試料ホルダーを作製し、 図6 85度高傾斜試料ホルダー 図7Geデルタドープ層のデプスプロファイル オージェ深さ方向分析によるGeデルタドープ 層の検出について検討した。作製した試料ホル ダーを図6に示す。分析結果を図7に示す。図 7より、Ge-LMMはGeの単層構造を反映した 深さ分布を明瞭にとらえている。電子線の入射 角度を高角度にしたため、試料面に対して5度 以下の浅い角度で電子が入射し、これによりオ ージェ電子の発生領域が電子のIMFP以下に押 さえられるため、バックグランド強度が大幅に 減少したことが主因であると考察している。 4 .今後の研究動向 最初に述べたように、機構内における物質・ 材料研究におけるキャラクタリゼーションに必 要不可欠な分析情報を提供するとともに、材料 分析法・評価法の開発や標準化を積極的に行い、 NIMS外(国内外)に対しても分析技術情報を 幅広く提供することを分析ステーションは目的 としている。 材料のキャラクタリゼーションに必要な分析 情報として、 ・物質・材料を構成する主成分元素その種類と 組成およびその3次元的な分布 ・共存する微量・超微量成分の定性・定量分析 およびその存在状態と分布 ・表面・界面における原子や分子の状態(元素 分布、化学状態、電子状態など) 等があげられる。FE-EPMA、超軟X線分光装 置、TOF-SIMSやHe-GDMS等の新規装置の 導入・開発や分析法の開発・改良(超高深さ分 解能AES)で少しでも目標に近づくことを考え ている。しかし、物質・材料開発の高度化に伴 い、さらなる分析法の高感度化、高精度化、高 速化が必要である。さらに高位標準物質作製・ 評価およびその普及に関連して分析値の信頼性 やSIトレーサビリティーがますます重要にな ると予想される。その意味では未だ不十分であ り、知的基盤としての化学分析法・計測法に関 する継続的な研究や標準化を行うと共にシミュ レーション技術の活用も今後は検討する必要が ある。 4-1化学分析 2011年度は化学分析千現地区の研究業務員3 名が継続勤務し、機構内のみならず、標準化関 連の業務も遂行することが可能であるが、この 状態は従前と変わらず、技術の伝承をするべく、 人員の補充が不可欠である。 これらの情勢を鑑み、2010年度には微小部蛍 光X線分析装置を導入し、当該装置のユーザー 解放のための講習会を行ってきた。今後は高い 精確さを必要とする分析以外は、このようなユ ーザー利用による化学分析支援を導入しなけれ ば成り立たないと思われる。ICP発光分析装置 のユーザー解放についても、試料分解で使用す る試薬、標準溶液およびビーカー、フラスコ、 ピペットなど器具の管理や操作の安全性確保な ど、種々検討する必要がある。 今後は千現地区では、金属分析の経験が豊富 な人員が補充されない限り、依頼分析はガス分 析および固体試料分析のみとなる公算が強い。 金属分析については、育成・指導している派遣 職員による比較的簡易なICP発光分析で対応 できるもの以外は外注してもらう等の方法を検 討する。必要であれば、ユーザーへの試料分解 等の化学操作の教育を別途考える。 同様に並木地区では2010年度まで定年制職 員2名で対応し、機構内の完全依頼分析と共に 機構外の標準化関連の業務について毎年着実に 実績を積み上げてきたが、2011年度からは1 名が千現地区に移動するため、効率的な業務を 図る必要がある。機構内の完全依頼分析につい ては試料を限定し、時間を要する分析法は極力 避ける。ICP発光分析装置など適宜ユーザー解 放して負担の軽減を図ることを検討するが、千 現地区と同様な問題を含む。また、機構外の標 準化関連業務は縮小する。今後、総合研究棟の 完成に伴い、化学分析支援は、一段と増加する と推測され、外注も視野に入れながら総合的に 考えて行かなければならない。 4-2 X線回折 今後ともX線回折セクションは、研究の基盤 である構造解析実験を支援するため、X線回折 装置を効率良く管理運営し、材料開発研究に寄 与していくことを目指す。 4-3表面・微小領域分析 従来からの表面分析手法であるAES、XPS に加えて、有機材料等の表面分析が可能である TOF-SIMSを拡充し、総合的な表面・界面分析 を目指す。さらに、電子線励起超軟X線分光装 置およびEPMAでは状態分析より微小な分析 を目指して、シミュレーションと一体化した運 用を考える。 一方、標準化については、ISO、VAMASで は TOF-SIMS、XPS、AES、EPMA について は国際幹事やエクスパートなどとして積極的に 関与し、より精確でより使いやすい標準規格作 成を目指す。 参考文献 1)Derek J. Fabian Ed., “SOFT X-RAY BAND SPECTRA” Academic Pres.(1968) 国 際 ナ ノ ア ー キ テ ク ト ニ ク ス 研 究 拠 点 ( M A N A ) MANAのあゆみ ―人類の未来を支える材料開発の新パラダイムを拓く(ナノアーキテクトニクス)― 拠点長青野正和 「はじめに(MANAとはなにか) 文部科学省は、世界の優れた研究者がぜひ 参加したいと願う、世界トップレベルの研究 水準と魅力的な研究環境をあわせもつ新しい タイプの研究拠点をいくつか形成し、そこに 優れた研究者が集まり協力しあう場をつくり、 科学と技術の研究を飛躍的に促進する目的から、 2007年に「世界トップレベル研究拠点形成促進 事業」(WPIプログラム)を発足した。私ども の「国際ナノアーキテクトニクス研究拠点」 (MANA)は、このWPIプログラムによって 選ばれた5つの研究拠点の一つである(6つ目 の研究拠点が2010年に新設された)。MANA はその重責を果たすとともに、大学以外に設け られた唯一のWPI研究拠点としての立場を 生かし、ユニークな運営を試みている。すな わち、外国人研究者の割合が半数以上という 著しい国際化を達成するとともに、若手研究者 の育成、融合研究の促進などに特別の力を注い でいる。 21世紀の人類はこれまでに経験したことの ない深刻な状況に直面している。エネルギー、 資源、食糧、水、情報通信、輸送、医薬、治療 などにかかわる爆発的な需要の増大とそれが 生み出す多くの問題が、限られた地球の環境を 脅かしつつある。これを乗り越えるには、さま ざまな技術イノベーションが必要不可欠である が、それは「もの」(材料)と「ちえ」(科学) の高度な融合によって実現される。私どもの MANAは、そのような技術イノベーションに 積極的な貢献をすべく設立された。とくに 「もの」(材料)の開発に重点を置き、そのため に、最近の四半世紀に目覚ましい発展を遂げた ナノテクノロジーを有効に利用するだけでなく、 むしろ従来のナノテクノロジーを革新して、 材料開発に新しいパラダイムを拓こうとして いる。私たちはそれを「ナノアーキテクトニク ス」(nanoarchitectonics)の語で表現し、それ に必要な各種のキーテクノ ロジーを開拓する ことによって、革新的な新材料の開発に挑戦 している。 2. MANAの研究の方向、目標、ミッション 最近の四半世紀にナノテクノロジーが目覚ま しい発展をとげ、それは材料開発の方法論の 重要な柱となったが、ナノテクノロジーがその 真価を発揮するためには、さらに革新が必要で ある。その革新とは、ナノスケールの世界を 「分析的」に見るこれまでの視点から、ナノ スケールの構造要素が互いに連携して単独では 見せなかった新機能を発現することに目を向け た「総合的」な視点へ目を転じ、それに必要な キーテクノロジーを再構築することである。 MANAではその革新を「ナノアーキテクト ニクス」の語で表現している。 我々は、このナノアーキテクトニクスの実現 を、5つのキーテクノロジーすなわちⅰ)制御さ れた自己組織化、ⅱ)化学的ナノ構造操作、ⅲ) 外場を利用した材料制御、ⅳ)新しい原子・ 分子操作、 ⅴ)理論的モデル化・設計、の再構築 によって進めている。そして、このナノアーキ テクトニクスを駆使して、各種の革新的な 新材料の開発を1)ナノマテリアル、2)ナノ システム、3)ナノグリーン、4)ナノバイオの 4つの研究分野において進めている(図1)。 図1ナノアーキテクトニクスと4研究分野 3. MANAの組織構成とその特徴 MANAは2007年の発足当時はキーテク ノロジー別の研究分野体制をとっていたが、翌 2008年から目的別のナノマテリアル、ナノ システム、ナノグリーン、ナノバイオの4分野 体制に移行して、現在に至っている(図2)。 図2 MANAの組織 MANAの人員構成を図3に示す(2010年9 月現在)。それが示すように、研究者における 外国人研究者の割合は56 %で、我が国における トップクラスの国際性をもった研究拠点と なった。 2010年9月1日現在 種別 人数 外国籍 女性 主任研究者(NIMS) 21 5 1 主任研究者(サテライト) 7 4 0 MANA研究者 44 7 5 独立研究者 14 3 1 ICYS-MANA研究員 16 10 1 MANAリサーチアソシエイト 63 56 19 大学院生 26 22 6 事務・技術職員 35 1 21 総計 226 108 54 外国籍研究者比準:56% 図3 MANAの人員構成 MANAの研究を主体として遂行するのは20 数名の主任研究者(Principal Investigator; PI) とその共同研究者である。PIは、発足時から 流動的に変更しており、2010年9月の時点 では図4に示した28名であった。 MANAはまた若い研究リーダーの育成に力 を注いでおり、そのために独立研究者の制度を 設けている。彼らは特別に選考された30歳代 以下の十数名の優れた研究者で、研究の予算や スペースについて特別の配慮を受ける。 また、より若い研究者の育成のために、特別 図4 MANAの主任研究者(PI) に選ばれた優れた十数名のポスドク研究員の 制度(ICYS-MANA制度と呼ばれている)を 設けている。 MANAのもう一つの特徴として、研究サテ ライトを国内に2つ(筑波大学、東京理科大 学)、国外に4つ(英国ケンブリッジ大学、米 国UCLA、米国ジョージア工科大学、フランス CNRS- CEMES)置き、グローバルな研究活動 を活発に展開していることがある(図5)。 図5 MANAの研究サテライト さらに、MANAは2人のノーベル賞受賞者 を含む5名の優れたアドバイザー、ならびに10 名の優れた研究者からなる評価委員会を独自に 置き、常に適切なアドバイスやコメントを受け ている。 上で述べた国際性がきわめて豊かな研究環境 が実現できた裏には、全員が英語に堪能である 事務部門および研究支援部門を実現したことが あったことを述べておく。 4. MANAの研究成果 4研究分野すなわちナノマテリアル、ナノ システム、ナノグリーン、ナノバイオ分野の それぞれの研究成果を以下4頁にわたって記す。 4-1ナノマテリアル分野の研究成果 本分野ではナノメートル領域のサイズ、形状 に由来して現れる新機能、現象を求めて、有機 ~無機の様々なナノスケール物質を創製するこ と、さらにはケミカルな駆動力を活用して、こ れらをナノレベルで組織化、異種物質と複合化 することにより(ソフト・ナノアーキテクトニ クス)、次世代エレクトロニクス、環境・エネル ギー分野に役立つことが期待される新材料、新 技術の創出を目指して研究を推進した。代表的 な成果について以下に示す。 1次元ナノ物質に関しては、高純度BNナノ チューブの大量合成法を確立するとともに、 ZnO, ZnS, CdS, Siなどの半導体ナノチューブ、 ナノ ロッドなどの合成を達成した(図6)。 図6合成された代表的1次元ナノ物質 またTEMとプローブ顕微鏡を組み合わせた 先端的ナノ解析技術を駆使して、ナノチューブ 1本の物性測定を行い、チューブの湾曲によっ て電気的特性が変化することなど、これまで知 られていなかった特性や現象を見出した。図7 はその一例として電気的制御により多層カーボ ンナノチューブがナノのピペットとして機能す る様子を示したデータである。すなわちCuIを 内包したカーボンナノチューブとAu電極間に 電圧を印加することにより、10-12gという極微 量単位でCuIをチューブ内から取り出せること を初めて示した。 図7カーボンナノチューブナノピペット 2次元物質については、層状酸化物、水酸化 物をソフト化学的に単層剥離することにより、 分子レベルの薄さ、マイクロメートルレンジの 横サイズを特徴とする様々なナノシートを創製 し、組成、構造に依存して多様な機能を発現す ることを明らかにした。図8はTiサイトに磁 性元素を置換した酸化物ナノシートの合成例で あり、置換量のみならず、Co, Feを同時に置換 するなど、多様な組成のナノシートが合成でき ることを示した。得られたナノシートは透明磁 石として機能し、特にCo, Fe共置換酸化チタン ナノシートは紫外~可視の広い波長域にわたっ て105 deg cm-1を超える巨大な磁気光学特性を 示すことを見出した。 図8強磁性ナノシート またナノシートが液媒体中に単分散したコ ロイドであることを利用して、交互吸着法やラ ングミュア・ブロジェット法をベースとしたプ ロセスを適用することにより、ナノシートをレ イヤーバイレイヤー累積して、多層ナノ薄膜や 超格子薄膜を形成できることを示した。得られ たナノシート膜はナノシートの特性、膜構造に 依存して誘電、光触媒、光電変換など様々な機 能を発現することを明らかにした。 さらに有機材料をベースとした研究開発につ いても、主に超分子的視点での材料創製を進め、 多くの成果が得られた。例えば分子認識能を狙 って両親媒性の配位子分子を設計して合成し、 これを水面上で集合させてナノ薄膜を形成した。 手動操作で得られた薄膜にかかる表面圧力を変 化させることにより(図9)、構造が類似した2 種類の有機分子(図中)に対する認識能を制御 できるという興味深い挙動を見出した。 図9手動操作による分子認識能の制御 4-2ナノシステム分野の研究成果 a)革新的なデバイスの開拓への挑戦 今日のコンピューター技術を支えている半導 体“CMOSデバイス”に限界が見えてきた 現在、“ CMOSデバイスを超える”革新的な デバイスの開発が不可欠である。それなくして は、21世紀の超巨大容量の情報通信を実現する ことはできない。超微細(原子・分子スケール)、 超高速(量子情報処理を含む)、省電力(超伝導 デバイスを含む)などをキーワードとして、原 子スイッチ、分子デバイス、超伝導量子情報デ バイス、無機・有機複合デバイス、グラフェン・ デバイス、 さらには太陽光を有効に利用するナ ノアンテナ集合デバイスなどについて、基礎か ら応用にわたる研究を進めた(図10)。 図10革新的デバイスの開拓 b)脳神経網的な計算回路のための材料開発 今日のコンピューターは目覚ましい発展を とげ、情報通信に革命がもたらされたが、プロ グラムにしたがって演算記憶を実行する今日の フォン・ノイマン型コンピューターのアルゴリ ズムは、半世紀の歴史を経て革新が求められて いる。脳のようにプログラムなしで創発的に 演算記憶するコンピューターを、既存のデバイ スの組み合わせやソフトウエアーなどに頼らず、 図11脳神経網的な計算回路の開発に向けて ナノスケールの物質/材料だけからなるシス テムによって実現することは可能だろうか。 その新しい試みにナノアーキテクトニクスの 概念を駆使して挑戦した(図11)。 c)ナノシステムの理論科学 ナノアーキテクトニクスにおいては、ナノ システムの特異な新機能を理論的に正しく解釈 すること、また新しい機能をもつナノシステム を理論的に開拓すること、この2つの側面の 理論的研究がきわめて重要である。我々は第一 原理計算によるさまざまなナノ機能の解析、新 しい量子物理学的現象の予言などを行なってき た(図12)。 図12ナノシステム機能の理論的探索 d)ナノシステム新計測法の開発 今日のナノテクノ ロジーの発展が走査トン ネル顕微鏡(STM)の発明をきっかけとしても たらされたように、ナノテクノロジーの将来の 発展も新しい計測法の不断の開発なくしては 実現できない。とくにナノアーキテクトニクス においてその重要性は著しい。世界に先駆けて 多探針走査トンネル顕微鏡(STM)を開発した 実績をもとに、操作性がきわめてよい4探針 原子間力顕微鏡(AFM)を実現するとともに、 ナノスケールの高空間分解能をもつ単分子検出 法、超並列の高感度分子検出法、新しいナノ磁 性計測法などを開発した(図13)。 図13多探針走査プローブ法などの開発 4-3ナノグリーン分野の研究成果 ナノグリーン分野は2008年10月にMANA の元々のメンバーであった葉PI、新たにNIMS に所属した韓PIに加えて、サテライトPIの魚 崎(北大)、冨重(筑波大)の4名で、太陽エネ ルギーの燃料(光触媒=葉、光電気化学=魚崎) および電気(色素増感太陽電池=韓)、燃料から 電気(燃料電池触媒=魚崎)、さらにバイオマス の燃料および有用物質(バイオマス変換触媒= 冨重)への高効率変換を目指してスタートした。 その後、イタリアよりTravelsa PI (固体酸化 物燃料電池)、NIMSより高田PI (二次電池)、 および MANAナノマテリアル分野よりYaghi サテライト(UCLA) PI (分子配列基盤)が参 画し、魚崎がサテライトPIから専任のPIとな った。一方、冨重サテライトPIが転出し、2011 年3月末現在当分野は5名のPIと1名のサテラ イトPIで構成されており、太陽から電気と燃料 および燃料から電気への変換、と電力貯蔵に関 する基盤的研究を行っている。いずれの場合も 界面での反応制御が鍵であり、そのためには原 子・分子を固体表面の所望の位置に構造を制御 して配列させる手法が不可欠である。つまり、 本分野では表面ナノアーキテクトニクスを共通 概念として研究を展開している(図14)。以下代 表的成果を示す。 図14ナノグリーン分野の現在の研究方向 a)光エネルギー変換 色素増感太陽電池、光触媒、および光電気化 学の各分野において、先導的成果を上げた。近 赤外領域領域での高い量子収率を示す色素増感 太陽電池太陽電池用色素の開発1)、可視光照射 下での高い水の酸化能力を持つ新規光触媒 (Ag3PO4)2)および二酸化炭素の還元能力を持つ メゾポーラスZnGa2O43)の室温合成法を開発 した。また、シリコン表面に電子移動機能を持 つ分子層と触媒機能を持つ白金錯体を多層集積 することによる光電気化学的水素発生の高効率 化4)と金表面にポルフィリン(光励起)―フェ ロセン(電子移動)結合分子をチオールを介し て固定し、その上に金ナノ粒子を表面固定する ことによって、近赤外領域での光アンテナとし て機能させ、可視光誘起電子移動の効率向上に 成功した5)。 b)化学エネルギーの変換と貯蔵 表面ナノアーキテクトニクスに基づき、物理 的・化学的手法を駆使して、燃料電池関連機能 性物質相の創製を行っている。具体的にはパル スレーザー析出法により、高い特性を示す固体 酸化物燃料電池用電解質6)およびリチウムイオ ン電池用カソード7)と電解質8)の成長に成功し た。また、燃料電池用電極触媒の自在合成を目 指した金属―有機物アレイの固相合成法9)およ び多核金属錯体を原料とする合金触媒調製法 10)を確立した。 c)新規界面計測法の開発 表面ナノアーキテクトニクスの具現化に不可 欠なその場界面構造決定法の開発を進めている。 参考文献 1)S. Gao, A. Islam, Y. Numata, and L. Han: Appl. Phys. Exp. 3(2010)062301. 2)S. Yan, S. Ouyang, J. Gao, M. Yang, J. Feng, X. Fan, L. Wan, Z. Li, J. Ye, Y. Zhou and Z. Zou: Angew. Chem. 49(2010)6400. 3)Z. Yi, J. Ye, N. Kikugawa, T. Kako, S. Ouyang, H. Stuart-Williams, H. Yang, J. Cao, W. Luo, Z. Li, Y. Liu, and R. L. Withers: Nature Mat. 9(2010)559. 4)T. Masuda, K. Shimazu, and K Uosaki: J. Phys. Chem. C 112(2008)10923. 5)K. Ikeda, K. Takahashi, T. Masuda, and K. Uosaki.: Angew. Chem. Int. Ed. 50(2011) 1280 (Highlighted in the frontispiece). 6)D. Pergolesi, E. Fabbri, A. D'Epifanio, E. Di Bartolomeo, A. Tebano, S. Sanna, S. Licoccia, G. Balestrino, and E. Traversa: Nature Mat. 9(2010)846. 7)T. Ohnishi and K. Takada: Appl. Phys. Exp. 4(2011)025501. 8)T. Ohnishi, B. T. Hang, X. X. Xu, M. Osada, and K. Takada: J. Mat. Res. 25(2010)1886. 9)P. Vairaprakash, H. Ueki, K. Tashiro, and O. M. Yaghi: J. Am. Chem. Soc.133(2011)759 (Highlighted in C&EN 89(2011)8). 10)H. Uehara, Y. Okawa, Y. Sasaki and K. Uosaki: Chem. Lett. 38(2009)148. 4-4ナノバイオ分野の成果 配向連通多孔質ヒドロキシアパタイトからな る人工骨が開発された。生体骨のナノ、マイク ロ構造を模倣し、なおかつ氷をテンプレートと して連通孔を効果的に構築しており、2009年に 厚生労働省薬事承認を取得し商品化された。こ のテーマはさらに生体骨を模倣したヒドロキシ アパタイト―コラーゲンのハイブリッド材料へ 展開されている(図15)。 図15連通孔を有するヒドロキシアパタイトからな る人工骨 また、再狭窄を効果的に防ぐ薬物放出型ステ ントの開発研究も生体材料システム化グループ で行われた。心筋梗塞の原因となる冠動脈の狭 窄を改善するのに、ステントを用いた治療が効 果的である。しかし、血管を拡張後も再狭窄が 問題となることが多く、ステント留置部の組織 の肥厚を抑制する必要がある。 そこで、肥厚化を抑制する薬剤を徐放し、さ らにステントの生体組織適合性を改善した材料 開発が成功した。健常の血管の表面と見間違う ほどの組織が安定に形成されることが確認され、 長期間にわたって再狭窄を抑制することが動物 実験で実証された。 図16センサー細胞が微量薬物を検知して発光する 様子 一方、先端医療材料グループでは、細胞機能 を直接コントロールして、センサー細胞が作ら れた。(図16)。細胞は大変秩序立った機能を発 揮するいわば超精密機能ユニットである。大変 敏感に環境変化をキャッチできる事ができるこ とから環境変化に応答して蛍光発光するタンパ ク質を発現する遺伝子を組み込んだセンサー細 胞が作られた。この細胞は、周りの環境変化に よって細胞が発光することから、薬物やナノ材 料の毒性試験には好適である。 図17フェニルボロン酸誘導体を用いたグルコース 濃度測定バイオトランジスタ デバイスの構築においては、糖分子を特異的 に捉える機能性分子としてフェニルボロン酸化 合物を利用してトランジスタのゲート表面にナ ノ構造を構築し、糖分子の反応場を創製した。 刺激応答性高分子の体積相転移に伴うゲルの誘 電率変化を利用して、中性分子であるグルコー スを検出するバイオトランジスタを提案し、動 作原理を確認した高分子を用いた研究において も大きな成果が得られた(図17)。 第三期でのナノバイオ領域では、自己の持つ 自然治癒力を高め、病的部位を治していくとい う発想に基づき、細胞を用いず、材料そのもの が半持続的に生体組織治癒効果を促す“マテリ アルセラピー”を可能にする材料創出を目指す。 ナノアーキテクトニクスに基づいて合目的な材 料設計を行い、材料自身がが主役となる検査、 診断、治療システムの構築を進めていく。 MANAにおける研究のあゆみ ―新規無機系ナノスケール物質の創製と評価― 主任研究者板東義雄 1.目的・課題 ナノアーキテクトニクスの要素技術である 化学的ナノ構造操作を用いて、無機系の新規な ナノチューブやナノワイヤー等のナノスケール 物質を探索・創製し、革新的な電磁気的・熱的・ 光学的性質の新機能の発現を目指す。特に、BN ナノチューブの持つ優れた絶縁性や高熱伝導性 を活かして、ポリマーとのナノコンポジット膜 を創製し、IC等の放熱基板への応用の展開を図 る。また、ZnSやZnOなどのワイドギャップ 半導体ナノワイヤーの高純度合成法を開発し、 紫外線センサー(320~400nmの波長領域)や 電界放射材料への応用展開を目指す。 2.研究成果 2-1絶縁性高熱伝導体の創製 炭素を出発原料に用いないカーボンフリーな CVD法を開発し、直径が約20~50nmで長さが 数ミクロンのBNナノチューブを高純度・大量 合成に成功した1)。さらに、MgOの代わりに、 低融点のLi2Oを触媒として用いると、図1(左) のような4層から成る小口径のBNナノチュー ブ(直径約10nm以下)が合成できることが明 らかとなった。高含有量(約30wt%以上)の BNナノチューブをポリマーに添加・分散する 新規なプロセッシング法を開発し、ポリスチレ ンなどの4種類のポリマーとのナノコンポジッ ト膜を創製した。ポリマー単独に比べて、ナノ コンポジットの熱伝導率は最大で約20倍も増 大することが明らかになった(図1右)2)。 熱伝 導率 ポリマー ポ リ マー 単独 (W/mK) ポリマー ナノ コンポジット 膜 (W/mK) 拡 大 PVB 0.24 ±0.03 1.81 ±0.08 7.5 PS 0.18 ±0.01 3.61 ±0.21 20.1 PMMA 0.15 ±0.03 3.16 ± 0.26 21.1 PEVA 0.17 ±0.04 2.50 ±0.05 14.7 図1小口径BNナノチューブ(左)とポリマー ・ナノ コンポジット膜の熱伝導率(右) 2-2 BNグラフェン BNナノチューブをポリマーに包含し、アルゴ ンイオンによるプラズマエッチングにより、チ ューブ壁を開口させることによりBNナノシー トを創成することに成功した。グラフェンに対 比して、単層のBNナノシートをBNグラフェ ンと命名した。BNグラフェンのⅣ-特性を測 定すると、BNナノチューブの絶縁体から半導体 に特性を変化させることが明らかとなった3) (図 2)。 図2プラズマエッチングによるBNグラフェンの創 製(左)とⅣ-特性(右).絶縁体から半導体に変化 3.今後の研究動向 無機系のナノスケール状物質はバルクにな い優れた特性を持ち、新物質探索の宝の山であ る。新規ナノチューブやナノワイヤーに元素ド ーピング、コアセル化、コンポジット化などの 高度なケミカルプロセッシング技術を施すこと により、多機能で且つ優れた特性を持つ新材料 の創出や新デバイスの創製が期待できる。当該 グループの持つ高度なTEM観察技術の強みを 巧みに用いて、省エネルギーや省資源に対応し た革新的な新材料の創出を目指したい。 参考文献 1)C.Zhi, Y.Bando et al: Mater. Sci & Eng. R-Reports: 60(2010)92. 2)C.Zhi, Y.Bando et al: Adv. Funct. Mater.19 (2009)1. 3)H.Zeng, Y.Bando et al: Nano Letter,10 (2010)5049. MANAにおける研究のあゆみ ―2次元ナノシートの創製と機能開拓― 主任研究者佐々木高義 1.目的・課題 本研究では層状化合物を層1枚にまでばらば らに剥離するというユニークなプロセスにより、 厚さ1ナノ メートル前後のセラミックス系ナノ シートを合成するとともに、得られたナノシー トをビルディングブロックとして集積化、複合 化することにより、多彩なナノ構造材料を創製 し、次世代エレクトロニクス、環境・エネルギ ー関連技術に役立つ新機能、応用を創出するこ とを目標とした。 2.研究成果 2-1機能性ナノシートの創製 各種層状遷移金属酸化物を合成し、層間に嵩 高い4級アンモニウムイオンをインターカレー ションすることで単層剥離して、多様なナノシ ートを合成した。得られたナノシートは組成、 構造に依存して多彩な機能を示すことが明らか になった。例えばTiサイトを磁性元素で置換し た酸化物ナノシートTi1-xMxO2 (M=Co, Fe, Mn)は巨大な磁気光学効果を示すことを突き 止めた。またペロブスカイト構造を持つNb, Ta 系酸化物ナノシートを合成し、組成のチューニ ングにより、誘電機能や蛍光特性を付与できる ことを示した1) (図1左)。 一方、酸化物ナノシートと反対の正電荷を帯 びたナノシートの前駆体として、陰イオン交換 性の層状ホストに着目し、均一沈殿法や独自に 開発したトポタクティック酸化法を駆使して、 遷移金属から構成される新規層状複水酸化物や、 図1蛍光特性を示すペロブスカイト型酸化物ナノ シートと希土類水酸化物ナノシート.AFM像と紫 外光照射による発光 新物質である層状希土類水酸化物の合成に成功 した。これら化合物の層間を修飾した後、ホル ムアミドなどの適切な溶媒で処理することによ り、新規水酸化物ナノシート(図1右)を合成 した2)。 2-2機能開拓と応用展開 ナノシートがユニークな2次元機能ブロック として液媒体中に分散したコロイドとして得ら れることを利用して、静電的自己組織化法やラ ングミュア・ブロジェット法を適用してレイヤ ーバイレイヤー累積できることを明らかにした。 その結果、ナノシートの厚み単位での精密なナ ノ構造の制御が可能となり、これらの特徴を活 かして形成されるナノ薄膜、界面を活用した機 能開発を行った。代表例としてはペロブスカイ ト型Ca2Nb3O10ナノシート膜が厚さ5~20 nm の極薄領域でも非常に優れた誘電、絶縁機能を 示すことを見出した3)。 観測された200を超え る比誘電率は、他の誘電体の性能を大幅に上回 る値であり、電子機器のさらなる高性能化、軽 量化、小型化のために強く求められているナノ レベルの薄さで機能する次世代High-k材料と して有望であることが明らかになった。 3.今後の研究動向 グラフェンの大ブレークに見られるように2 次元ナノ状態は斬新な材料機能を産み出す魅力 に富んだ舞台である。層状化合物には多種多様 な物質が知られており、今後も様々な機能を持 ったナノシートの合成が期待される。さらにこ れらをナノレベルで配列制御して、集積化、複 合化するプロセスには無限と言ってよい可能性 があり、これを用いた機能開拓、応用開発を目 指す研究はさらに活性化していくと予想される。 参考文献 1)T. C. Ozawa, K. Fukuda, K. Akatsuka, Y. Ebina, T. Sasaki, K. Kurashima, K. Kosuda: J. Phys. Chem. C 112 (2008)1312. 2)R. Ma, K. Takada, K. Fukuda, N. Iyi, Y. Bando, T. Sasaki: Angew. Chem. 47(2008)86. 3)M. Osada, K. Akatsuka,Y. Ebina, H. Funakubo, K. Ono, T. Sasaki: ACS Nano 4(2010)5225. MANAにおける研究のあゆみ ―TEM内におけるナノチューブ・エンジニアリングと物性その場測定― 主任研究者Dmitri Golberg 1.研究の目的と内容 ナノチューブは、その構造と機能に基づいた特 異な物性を持ち、驚くべき可能性を秘めている。 しかし、電気伝導、質量輸送、弾性、延性、強度 など、基本物性のほとんどは、ナノレベルで十分 わかっているとは言えず、明確な実験的検証はい まだになされていない。透過電子顕微鏡(TEM) は、優れた空間分解能を持ち、原子レベルでの実 験にふさわしい装置であることから、我々は、ピ エゾ素子によるSTM、AFM機能を備えたTEM 用試料ホルダーを開発し、ナノチューブの物性を 明らかにすることを目的として研究を進めてきた 1,2)。 これまで、C、BN、GaN、ZnO、MgO、SiO2 といった無機ナノチューブのマニピュレ-ション、 加工に成功し、これらの電気的、機械的物性を明 らかにした。これらは、電気的な結合形成、電気 スイッチ、誘電シールド、質量輸送コンベヤ、電 界放出源、点電子源、熱感知プローブといった実 用的な応用が期待できることを示してきた。 2.研究成果 2-1カーボンナノチューブピペット STM-TEMホルダーを用いて、CuIのような低 融点無機化合物を封入したカーボンナノチューブ に、適度な電圧・電流パルスを印加することで、 Cu液滴を必要に応じて特定の場所へ高い空間分 解能で放出する、ナノピペットとして機能させら れることを見いだした(図1)3)。これは、先進的 なドラッグデリバリーシステムとして応用が可能 である。 図1CuIを封入したカーボンナノチューブ(左)と、短い電圧パ ルスを印加することで、小さなCu液滴を放出した状態(右)を 示す 2-2 TEM内におけるナノチューブの張力測定 MEMSによるカンチレバーを搭載したAFM- TEMホルダーを用いて、TEM内において、単層 Cナノチューブと多層BNナノチューブの引っ張 り強さと伸びを、直接測定することに初めて成功 した(図2) 。ナノチューブの両端は、独自に開 発したナノ溶接技術を用いて固定され、クランプ 部を動かすことで、ナノチューブが切れるまで引 っ張り、そのときの力を測定した4)。 図2一本の多層BNナノチューブの張カテスト(左).ナノチュ ーブは、鉄鋼材料の50倍に相当する33GPaという強靱な引っ張 り強さを示した.また、右図に示した応力-歪み曲線から、ヤン グ率はダイヤモンドに匹敵する900GPaであることがわかった 3.今後の研究予定 2010年のノーベル物理学賞は、グラフェンの発 見に対して贈られ、機能性ナノ材料の新たな幕開 けが示された。単原子層物質が持つ斬新な物性が 発見されたことにより、新しい高機能フラットパ ネルディスプレイや大画面タッチパネル、超高速 電子量子デバイスといった、新しい市場が開拓さ れると思われる。しかし、グラフェンの他、BN、 MOS2、WS2、SiCなど層状物質からなる無機単原 子層物質の個々の電気、熱、機械特性は、これま で明らかにされてはいない。基礎特性が理解され ていないが故に、グラフェンが将来の最新技術に 活用されうるか否かは、不透明で不確かなものに なっている5)。 我々は、これまで、1次元の無機ナ ノ構造物質に対して、その場TEM観察手法とプ ロ-ビング技術を用いて先駆的な実験を行ってきた が6)、今後は、同様な技法を、将来展望のある2 次元物質、さらには、1次元-2次元複合物質へ応 用展開する予定である。これにより、応用展開の 可能性が鮮明となるであろう。 参考文献 1)D. Golberg et al.: Nano Lett. 7(2007)2146. 2)D. Golberg et aL: Adv. Mater.19(2007)1937. 3)P. Costa, D. Golberg et aL: Nano Lett. 8(2008)3120. 4)X.L. Wei, D. Golberg et aL: Adv. Mater. 22(2010)4895. 5)D. Golberg: Nature Nanotech. 6(2011)200. 6)http://www.nims.go.jp/nanotube/index-e.html http://www.nims.go.jp/nanotube/index-e.html MANAにおける研究のあゆみ ―超分子材料の開発と新しいナノテクノ ロジーへの取り組み― 主任研究者有賀克彦 1.目的・課題 これまで、ナノテクノロジーは大きな素材を 様々な微細加工技術によって削っていき、ミク ロスケールやナノスケールの微細機能構造を作 製することによって成し遂げられてきた(トッ プダウン型のアプローチ)。しかしながら、その アプローチには、構造精度や生産性の点から 様々な限界があると言われている。それを解決 するものとして、原子、分子、粒子などの単位 から構造を組み上げていくボトムアップ型のア プローチが期待されている。我々は、これらの 単位を自己組織化過程やそれに人為的制御を加 えた過程で機能構造を組み上げることができる 超分子化学の手法によって、ナノテクノロジー に資する物質・材料の開発を行った。 2.研究成果 2-1超分子材料の開発 我々は、有機物質や無機物質にかかわらず、 自己集合過程によってさまざまな機能性素材を 生み出してきた。それは、少数の分子やナノ物 質の集合構造1-6)、ナノからマイクロにいたる機 能構造7-12)、ナノ構造の特徴を有しながら目で 見える大きさの機能物質13-19)の開発を行った。 例えば、物質を精密に分離したりセンシングで きる炭素材料8,9,12,14)、自動的にON/OFFド ラッグデリバリーできるカプセルフィルム7)な どの作製に成功した(図1)。 図1ドラッグデリバリー用カプセル構造 2-2新しいナノテクノロジー また逆に、分子の世界をマクロな世界からコ ントロールするものとして、新しい新技術 「Hand-Operating Nanotechnology(手で操 るナノテク)」を開発した。これは、動的界面と いう場を用いて、横方向にマクロスコピックな 変位を加えながら、界面内に存在する分子マシ ンの機能をコントロールするものである。この 技術を用いて、実効的には手で押すのと同様な 力で分子を掴み放出することを実現し、アミノ 酸の不斉識別を行うこと20)、核酸塩基の精密識 別を行うこと21)に成功した。 3.今後の研究動向 以上で開発された物質・材料および技術を用 いて、ナノテクノロジーを先端技術の枠にとど めず日常動作のような簡易な仕組みで利用でき る汎用技術にすることが今後の課題である。 参考文献 1)T. Nakanishi et. al.: J. Am. Chem. Soc.128(2006) 6328. 2)S. Acharya et. al.: J. Am. Chem. Soc.130(2008) 4594. 3)A. Shundo et al.: J. Am. Chem. Soc.131(2009) 9494. 4)S. Acharya et al.: J. Am. Chem. Soc.131(2009) 11282. 5)F. D'Souza et al.: J. Am. Chem. Soc.131(2009) 16138. 6)N. Pradhan et al.: J. Am. Chem. Soc.132(2010) 1212. 7)Q. Ji et al: J. Am. Chem. Soc.130(2008)2376. 8)K. Ariga et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 47(2008) 7254. 9)Q. Ji et al.: J. Am. Chem. Soc.131(2009)4220. 10)M. Sathish et al.: J. Am. Chem. Soc.131(2009) 6372. 11)R. Charvet et al.: J. Am. Chem. Soc.131(2009) 18030. 12)Q. Ji et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 49(2010)9737. 13)T. Michinobu et al.: J. Am. Chem. Soc.,128(2006) 10384. 14)K. Ariga et al: J. Am. Chem. Soc.129 (2007) 11022. 15)K. Ariga et al.: Coord. Chem. Rev. 251(2007) 2562. 16)S. Alam et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 48(2009) 7358. 17)K. K. R. Datta et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 49 (2010)5961. 16)S. Mandal et al.: J. Am. Chem. Soc.132(2010) 14415. 19)K. Ariga et al.: Adv. Drug Deliv. Rev., in press. 20)T. Michinobu et al.: J. Am. Chem. Soc.128(2006) 14478. 21)T. Mori et al.: J. Am. Chem. Soc.132 (2010) 12868. MANAにおける研究のあゆみ ―ナノスケール強誘電体ドメインエンジニアリングによる新規デバイスの開発― 主任研究者北村健二 1.目的・課題 NIMSで開発した転位密度を制御した定比ニ オブ酸リチウム(SLN)、定比タンタル酸リチ ウム(SLT)は、分極反転電圧が著しく低いた め、単結晶中の分極方位を走査プローブ顕微鏡 を用いて局所的にナノスケールで反転すること ができる。一方、ニオブ酸リチウム、タンタル 酸リチウムのような強誘電体材料は、大きな圧 電、焦電、光起電力、非線形光学効果等を示し、 反転したドメインを利用することにより、新規 あるいは集積化した機能を材料にビルトインす ることがきる。 本グループでは、このナノ~マイクロスケー ルでドメインを制御する技術を活かし、ワシン トン大学、および韓国Advanced Photonic Research Centerとの連携を中心に、以下の共 同研究課題を推進した。①強誘電体の多機能性 (圧電、焦電、光起電力効果等)と表面電荷制 御からドメイン構造を活かしたテンプレートの 開発。②周期的分極反転の非線形光学効果を利 用した紫外、赤外、テラヘルツ域波長変換光源 の開発。 2.研究成果 2-1ドメインパターン上の表面電荷制御に よる分子マニピュレーション 分極反転構造を形成したLN基板にUV光を 照射すると、光起電力効果からプラスドメイン 表面では溶液中の金属イオンを還元して、プラ スドメイン表面だけにナノ金属粒子を析出する ことができる1)。 本方法を精密化することにより、析出する金 属粒子(銀等)のサイズを精度よく制御するこ とができる。このナノ金属粒子を析出した基板 は表面増強ラマン分光用基板としてすぐれてお り、有機、生体分子等の分光解析に有用である ことを示した。(分子同定) また、配列分布されたナノ金属粒子に、特定 タンパク質を定着することも可能で、すでに蛍 光、特定分子吸着機能をもつよう設計されたペ プチド2)の固定に有効であった。(分子固定)ま た、金属粒子がない基板でもマイクロ流体中で は、特定生体材料が特定ドメイン上にトラップ されることも実証した。 2-2短パルスレーザー照射による焦電効果 焦電電流は、結晶表面の温度変化速度に比例 し、生じる電界は温度変化量に比例する。ここ では、短パルス(10ns)、高出力(ピーク時8x105 W)波長(532nm)のレーザーをFe添加LN に照射し、照射条件と電流値を評価した。 通常、ヒーターを用いた温度制御では、100nA 程度の電流値しか計測できないが、短パルス高 出力レーザー照射ではわずかに0.2℃程度の試 料温度上昇から20mA (通常の105倍)の大き な電流値が計測された3)。また、表面電界の計 測では、10℃程度の加熱(ヒーター使用)で数 100Vの電界が発生し、放電のない限り空気中 でも長時間電界が保存されていることを観察し ている。これらの結果から、焦電効果により生 じる電界から新たな機能素子の開発が期待でき る。 2-3周期的分極反転構造による非線形光学 効果を応用したテラヘルツ光源の開発 近年、市販化が進むフェムト秒レーザーを用 いて、パルス状のテラヘルツ波(THz波)を発 生する研究が世界中で展開され、材料、食品、 農業、医療、セキュリティーといった幅広い分 野に応用が期待されている。 このような背景から、定比タンタル酸リチウ ムの周期的分極反転構造を用い、フェムト秒レ ーザーを照射し、疑似位相整合による差周波発 振から、THz波光源の開発を行ってきた。 本方法では、材料の吸収によるTHz波の減衰 が大きいことが認められたが、液体窒素冷却程 度で、十分減衰が抑えられ 4)、 大開口デバイス を用い、高出力、高効率、狭バンド幅、広発振 波周波数広可変性の実現をもとに、ナノデバイ ス評価、分子分光等へのTHz波応用を目指して いる。 参考文献 1)X.Liu et al.: Appl. Phys. Lett. 91(2007)044101. 2)M. Sarikaya et al.: Nature Materials 2(2003) 577. 3)K. Kitamuraet al.: Appl. Phys. Lett. 97(2010) 082903. 4)N-E.Yu et al.: Appl. Phys. Lett. 93 (2008) 041104. MANAにおける研究のあゆみ ―新しいナノシステムを構築しかつその機能を計測する新方法の開発― 主任研究者青野正和 1.目的・課題 MANAの研究部門は4分野からなり、その 中のナノシステム分野は6グループで構成され、 その中の一つが我々のグループである。この グループは、ナノシステム分野の他のいくつか のグループと不可分とも言える密接な協力に よって研究を進めてきたが、ここでは我々の グループが主体となって進めた研究のみを記す。 研究の目的・課題は、興味深く有用な特性を 示すナノ構造を適切に配置せしめてそれらの間 の相互作用を有効に利用する“ナノシステム” のさまざまな可能性を開拓し利用することに あった。そのために、そのようなナノシステム の構築法と構築したナノシステムの機能計測法 の2つの方向において研究を進めた。 2.研究成果 2-1新しいナノシステム構築法の開発 〈機能分子への導電性高分子鎖による配線〉 分子エレクトロニクスの実現にとって有用 な、機能性分子へ導電性高分子鎖を配線する 方法を開発した(図1)。ここで重要なことは、 配線の接点において化学結合が自動的に形成さ れることである(“化学的ハンダづけ”)。 図1機能性分子への“化学的ハンダづけ”をと もなう導電性高分子鎖の配線 〈ナノワイヤーセンサーシステムの構築〉 ZnOなどの金属酸化物のナノワイヤーとAu 粒子を組み合わせたガスセンサー(図2)を構 築し、その優れた機能を確認した。 図2 ZnOナノワイヤーガスセンサー 2-2新しいナノシステム機能計測法の開発 〈走査トンネル顕微鏡像における元素分析〉 走査トンネル顕微鏡(STM)と放射光X線の 組み合わせによって、STM 像の任意場所での 元素分析を初めて可能にした(図3)。 図3放射光X線の照射が可能なSTM 〈タンパク質の力学特性の新計測法の開発〉 タンパク質の力学特性の詳細測定のための 新方法として、原子間力顕微鏡を用いた水平 伸張方式を開発した(図4)。 図4タンパク質分子の力学特性の 水平伸張方式による測定 参考文献 1)Y. Okawa et al.: Soft Matter 4(2008)1041. 2)Y. Okawa et al.: J. Am. Chem. Soc.(印刷中) 3)S. Mandal et al.: ACS Nano 5(2011)2779. 4)M. Sakurai et al.:Nanotechnology 20 (2009)155203. 5)K. W. Liu et al.: J. Phys. Chem. C 114 (2010)19835. 6)Y. G. Wang et al.: Nanotecjnology 19(2008) 245610. 7)M. Sakurai et al.: Surf. Sci. 602 (2008) L45. 8)A. Saito et al.: Surf. Interface Anal.40 (2008). MANAにおける研究のあゆみ ―革新的な機能性材料・デバイス開発に向けたナノ機能システム化技術の開拓― 主任研究者中山知信 1.目的・課題 ナノスケールの材料や構造を有機的に結合 してシステム化する事が、今後の革新的な機能 性材料やナノデバイスの開発に求められる。 我々は、そこで必要とされるナノ加工技術とナ ノ計測技術の開発、それらを駆使したナノ機能 構造の創製を目的として研究を推進してきた。 以下では、この5年間で得られた成果から、 独自開発を進めている走査マルチプローブ顕微 鏡の新展開、フラーレンC60分子間の重合・解 重合反応を高い空間分解能で自在に制御する手 法の開発について述べる。 2.研究成果 2-1走査マルチプローブ顕微鏡の新展開 我々が開発を進めている走査マルチプローブ 顕微鏡(MSPM)1,2)によって、シリコン表面 上の様々なナノワイヤーの電気特性を、一本一 本計測 し、 ナノ構造の興味深い電気特性を明ら かにしてきた。このMSPMは走査トンネル顕 微鏡(STM)と同等の探針制御を基本としてお り、簡潔な装置構成によって高い分解能を得や すい反面、探針と試料との間に電流を流さねば ならず、絶縁体基板上では電気特性計測ができ ない。この制約を取り除くために、MSPM計測 に適した原子間力顕微鏡(AFM)用の自己検知 型探針3)を新開発し、AFMモードとSTMモー ドを自由に切り替えたり選択したりできる MSPMを実現した。これにより、SiO2絶縁体 基板上のグラフェン片に対して、4本の金属ナ ノプローブをAFMモードで位置決めの上van der Pauw計測を実施し、その性能を確認した。 MSPMのAFM化は、バイオマテリアルのナノ スケール物性計測でも威力を発揮するであろう。 2-2単分子レベルのデータストレージ技術 フラーレン分子C60の超薄膜表面上の狙った C60分子とその下層にあるC60分子との重合・解 重合反応を自在に制御する方法4)を発見した。 これは、STMの探針と超薄膜との間に適切なバ イアス電圧を印加して、探針直下のC60分子を 正や負にイオン化させつつトンネル電流を流す 方法であり、探針直下のC60分子を負イオン化 すれば重合反応が誘起され、正イオン化すれば C60重合体の解重合反応が誘起される。この重 合反応は超薄膜の厚み方向に進行し、超薄膜表 面の狙ったC60分子一つを下層のC60分子と重 合させると、最表面のC60分子一つが物理的に 沈み込む。もちろん、解重合反応によってその 凹みは完全に解消され、この重合・解重合反応 は同一の最表面C60分子に対して何度でも繰り 返すことができる。これを利用して、C60超薄 膜をメディアに用いた単分子レベルのデータス トレージ技術を提案し、190 Tbit/in2の超高密 度記録を実現した。(下図参照) 3.今後の研究動向 MSPM技術や局所的な化学反応制御技術を 駆使して、ナノ機能を有機的に結合させたナノ システムの構築とその評価に取り組んでいく。 また、MSPMによる計測対象を神経細胞ネット ワークに拡げて、これまでの半導体回路には無 い柔軟性と機能性を学ぶとともに、類似の機能 を人工無機構造に付与していく。 参考文献 1)O. Kubo et al.: Appl. Phys. Lett. 88(2006) 254101. 2)S. Higuchi et al.: Rev. Sci. Instrum. 81 (2010)073706. 3)S. Higuchi et al.: Rev. Sci. Instrum. 82 (2011)043701. 4)M. Nakaya et al.: Adv. Mater. 22(2010) 1622. MANAにおける研究のあゆみ ―原子エレクトロニクスの開発― 主任研究者長谷川剛 1.目的・課題 科学者の長年の夢であった個々の原子の観 察は、電子顕微鏡や走査トンネル顕微鏡の開発 によって実現された。さらに近年では、個々の 原子を操ることも可能になった。本研究プロジ ェクトでは、それをさらに発展させ、原子の移 動や酸化・還元反応を制御することで動作する 新しいエレクトロニクス素子の開発とそのシス テム化を目指している。 2.研究成果 2-1原子スイッチの実用化研究 ナノスケールの間隙を有する電極間において 金属フィラメントの形成と消滅を制御して動作 する原子スイッチ1)は、半導体素子を超える微 細化とその超低消費電力動作から、次世代素子 として期待されている。例えば、素子サイズが 小さくてオンオフ比も高いという原子スイッチ 固有の特徴を利用すると、ひとつのチップであ らゆる機能を実現しうる新しいタイプのプログ ラマブル演算素子を開発できる。企業等との共 同研究を推進した結果、その主要技術であるス イッチング回路の開発と動作実証に成功した2)。 さらに、コンピュータの心臓部である論理演 算回路に応用すべく、トランジスタ動作をする 原子スイッチの開発にも取り組んだ。その結果、 半導体トランジスタよりも低い消費電力で動作 する3端子型原子スイッチ「アトムトランジス タ」3)の開発に成功した。図1に、その動作模 式図を示す。 これらの原子スイッチは、いずれも半導体素 子と互換性のある材料とプロセスで作製されて いることか ら、半導体 素子との混 載が容易で あり、早期 実用化が期 待される。 図1アトムトランジスタ 2-2新しい原子スイッチの開発 原子スイッチには、学習機能やセンサー機能 など、オンオフ動作以上の様々な機能がある。 固体電解質電極内部での金属イオンの拡散とそ の表面析出を制御する原子スイッチでは、例え ば、材料と素子構造の最適化によって、一定の 信号入力(経験)を経て初めてオンオフ動作す るモードを実現できる(図2) 4)。これは、固体 電解質電極内部における金属イオンの分布変化 として「経験」を蓄積できるという原子スイッ チ特有の動作原理に基づく。 図2学習に基づく a)記憶とb)忘却の動作 原子スイッチの動作(酸化・還元反応)には、 微弱な電流が必要である。電極間に光導電性分 子を配置すれば、光電流で酸化・還元反応を誘 起できる。この原理(図3)に基づき、光が照 射されたときのみ動作する「光原子スイッチ」 の開発とその動作実証に成功した5)。 図3光原子スイッチの動作模式図 3.今後の研究動向 素子単体での高性能化や高機能化に加えて、 システム化研究にも力を入れる。例えば、脳型 回路への応用では、ニューロンやシナプスとし て動作する原子スイッチ回路を開発する。 参考文献 1)K. Terabe et al.: Nature 433(2005)47. 2)T. Tada et al.: IEDM2009 Tech. Dig. p. 943. 3)T. Hasegawa et al.: APEX 4(2011)015204. 4)T. Hasegawa et al.: Adv. Mater. 22(2010) 1834. 5)T. Hino et al.: Small 6(2010)1745. MANAにおける研究のあゆみ ―ナノスケールで繰り広げられる新奇な超伝導ジョセフソン現象― 主任研究者古月暁 1.目的・課題 テラヘルツ電磁波は通信、遺伝子病理検査、 物質内の高速な電子運動の観察等、多くの重要 な分野でその応用が期待されている。しかし、 強力でコンパクトな光源は確立されていない。 超伝導ジョセフソン効果によるテラヘルツ電磁 波励起は周波数可変等の利点がある。1986年の 銅酸化物高温超伝導発見を受け、その層状結晶 構造が織り出す固有ジョセフソン接合系を利用 して強力なテラヘルツ電磁波を発振させる研究 が盛んに行われてきた。2007年にNIMSゆか りの銅酸化物高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8 (BSCCO)を用いたコヒーレントなテラヘルツ 電磁波の発振実験が成功した。ジョセフソン効 果の発見から最新のブレークスルーまで、この 研究分野は物性研究のホットスポットの一つに なっている1)。 2007年の実験ではBSCCO単結晶のメサ構 造にc軸方向の電圧が印加されている。強いエ ネルギーを伴う放射電磁波の波長はメサを共振 器とみなす場合の固有モードの波長に一致し、 またその周波数は印加された直流電圧と交流ジ ョセフソン関係で結ばれている。これらの現象 はそれまでの理論では説明できなかった。しか し、より強力な発振を行い、実用可能なテラヘ ルツ光源開発に導くためには、超伝導内部での 物理現象への理論的理解が必要不可欠である。 2.研究成果 高温超伝導体BSCCOは層状構造を持ち、超 伝導を担うCuO層と、その間に挟まれた絶縁 層からなるジョセフソン接合の積層とみなすこ とができ、固有ジョセフソン接合系として知ら れている。絶縁層の厚さは1nm程度で、ロン ドン磁場侵入長(400nm程度)と比べて、非常 に小さい。このため、ジョセフソン接合間の磁 気的相互作用が極めて強い。 固有ジョセフソン接合系の物理特性を理解す るためには連立サイン・ゴルドン方程式を解く 必要がある。実験で使用されている高さ1マイ クロメートルのメサでは、メサ側面の磁場接線 成分が非常に小さく、Neumann型境界条件を 採用しなければいけない。接合間の強い磁気的 相互作用と、直流ジョセフソン効果に含まれて いる超伝導位相差の正弦関数に由来する非線形 がこの系の重要な特徴である。 我々はNIMSに設置されているスーパーコ ンピュータを用いて、超伝導位相のダイナミク スに関する大規模かつ高精度なシミュレーショ ンを行った。その結果、パイ・キンク状態と呼 ばれる新しい超伝導状態を世界に先駆けて発見 した1,2)。メサ中央に現れる超伝導位相のパイ・ キンクは、一様な直流印加電流とメサ内の共振 器モードを結合させる。このため、共振器モー ド周波数の対応する電圧の元で、メサ内部にジ ョセフソンプラズマ共鳴が起こり、直流ジョセ フソン効果の非線形性を通じて大きな直流電流 エネルギーがジョセフソンプラズマに注入され る。そのエネルギーの一部がメサの端からテラ ヘルツ電磁波として放射される。 パイ・キンクには右ひねりと左ひねりがあり、 c軸方向に交互に配列している。この配列によ り、接合間の巨大な磁気的相互作用は引力とし て働き、パイ・キンクの自己エネルギーに打ち 勝って、系の全エネルギーを下げる1)。巨大な 磁気相互作用を生みだすナノスケール超伝導現 象が本質的に重要であることが分かる。 パイ・キンク状態が励起できる最大なテラヘ ルツ電磁波強度は2000W/cm2と見積もられ1)、 十分に強い光源になりえることも判明した。 3.今後の研究動向 この一連の研究は超伝導位相のナノスケール でのダイナミックな制御に新しい光を当てた。 今後、新規な超伝導位相量子効果の発見や応用 研究が大いに進展すると思われる。 参考文献 1)X. Hu and S.-Z. Lin: Supercond. Sci. Technol.23(2010)253001. 2)S.-Z. Lin and X. Hu: Phys. Rev. Lett.100 (2008)247006. MANAにおける研究のあゆみ ―原子薄膜グラフェンの伝導研究― 主任研究者塚越一仁 1.目的・課題 半導体電子素子は微細化が進み、素子の最小 加工寸法がいずれ10ナノメートル以下になる と言われている。更なる微細化では電流制御が 従来の半導体材料では十分に行えず、『微細化の 限界』が議論されている。解決法の1つとして、 極薄の伝導チャネルを用いた電子素子実現が期 待されている。その材料として、グラフェンの 電気伝導が広く注目されている。しかし、グラ フェンは次世代エレクトロニクス材料と大きな 期待を受けていながらも、金属特性を有する原 子薄膜であることから、バンドギャップがない ことが問題となっていた。この問題に対して、 2層のグラフェンに垂直電界を印加することで、 グラフェンにバンドギャップを導入でき半導体 的な特性が得られるはずであることが理論的に 指摘され、光学的研究によって存在が示されて いた。しかし、電子素子として最も重要な電気 伝導特性においては、明瞭に観測することがで きず、Missing Gapとされ、要因に関して世界 中で議論されていた。 2.研究成果 2-1原子薄膜のバンドエンジニアリング 我々は独自開発した最も効率的に電界印加を 可能とするゲート絶縁膜自己形成法を用いてグ ラフェンに垂直電界を印加した(図1)。これに よって、極めて効率よくグラフェンに電界を加 えることができ、素子特性を明瞭に調べること ができるようになった。さらに従来極低温のみ に研究が集中していたが、液体窒素温度から室 温付近の電気伝導の振る舞いに初めて注目した。 図1グラフェン素子の光学顕微鏡写真 この温度特性から、バンドギャップを有する伝 導体に特有の特性を見出した。さらに、Missing Gapの出現に必要な物理要因を見出すことに 成功した。この成果によって、バンドギャップ を有する素子を選択的に作り出すことができる ようになり、バンドギャップ制御可能な原子素 子の検証研究へと発展が可能となった。 2-2原子薄膜ロジック素子 バンドギャップ制御可能な原子薄膜素子を用 いて基礎的なロジック素子(インバータ)を試 作し、グラフェンの潜在的な特性を見出す研究 を試みた。同回路の入力信号電圧に対する出力 電圧の変化から得られる電圧ゲインは、従来グ ラフェン素子研究では極めて小さく 0.044程度 が限界であった。我々は、独自素子構造を実現 してバンドギャップ制御を行い、素子動作を検 証した。この結果、バンドギャップが素子の低 電圧領域での動作を可能とし、ゲイン7を達成 し、従来最大より150倍向上させることに成功 した。 3.今後の研究動向 グラフェンの本来の電気特性は金属的であり、 本研究によって半導体的特性の制御を可能とし た。さらに、p型もしくはn型伝導体、ならび に絶縁体としての特性も電界印加のみで制御す る可能性を追求している。つまり、原子薄膜だ けで伝導物質全ての特性を実現できるようにな る。そのうえ、炭素原子薄膜に金属化合物原子 薄膜との複合化を行って、新たな原子スケール 物質創成に挑む。 参考文献 1)H. Miyazaki, K. Tsukagoshi, A. Kanda, M. Otani, S. Okada: Nano Letters 10(2010) 3888. 2)S.-L. Li, H. Miyazaki, A. Kumatani, A. Kanda, K. Tsukagoshi: Nano Letters 10 (2010)2357. 3)S.-L. Li, H. Miyazaki, H. Hiura, C. Liu, K. Tsukagoshi: ACS nano 5(2011)500. MANAにおける研究のあゆみ ―薬物ターゲティングを指向したスマートポリマーによる温度応答性ナノ構造体― 主任研究者青柳隆夫 1.目的・課題 スマートポリマーは様々な物理的、化学的刺 激に応答してその性質を大きく変化させる材料 である。我々は、その中でも典型的なポリ(N- イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAmと略 す)をベースにした新規な構造を有するポリマ ーを設計・合成し、バイオマテリアルとしての 応用を検討している。 ガン治療には抗ガン剤の患部へのみの送達が 期待され、多くのアプローチが行われてきてい る。中でも高分子の集合体からなる薬物キャリ アが特に注目されている。そこで我々は、刺激 応答性高分子の設計により、コアに疎水性の核 を、シェル部に血中安定性、ターゲティングを 目的とした分子認識能、組織への親和性など複 数の機能を同時に持たせた、高機能の高分子ミ セル型薬物キャリアの設計に関する研究を遂行 した。 2.研究成果 2-12段階の温度応答性を示すブロックコポ リマーの設計 PIPAAmは32℃にLCSTを有し、加温によ って水溶液中で沈殿を形成する。さらに親水性、 疎水性モノマーとの共重合によって,それぞれ LCSTが高温、低温にシフトすることが知られ ている。 そこで我々は、LCSTの異なる連鎖を持つブ ロックコポリマーにおいては2段階の温度応答 性を発揮すると予想した。 図1設計したブロックコポリマーの温度変化に応答 した構造体形成挙動 そのブロックコポリマーは、合成の簡便性を考 慮し、PIPAAmホモポリマーの連鎖とIPAAm 構造が類似した親水性あるいは疎水性のアクリ ルアミド型のモノマーとの共重合体を調製した。 モノマーの構造類似性はランダム性の高い共重 合体を得るのに極めて重要である事を既に報告 している。図1にブロックコポリマーの構造体 形成の模式図を示した。 2-2温度応答性高分子ナノ構造体の挙動 疎水性モノマーとしてN-ブトキシメチルア クリルアミドとIPAAmとの共重合体P(NcoB) とIPAAmP(N)の2種類のセグメントを有する ブロック共重合体のサイズ変化を追究した1)。 25℃付近で会合体を形成、30℃付近で凝集挙動 が観察され、2段階の温度応答性が確認された (図2)。系統的な研究から、それぞれのセグメ ントの温度応答性は自由に調製できる事も明ら かにした。 図2温度変化に応答した構造体のサイズ変化 3.今後の研究動向 共通の疎水性核を有し、構造の異なる連鎖を 有する異種のブロックコポリマーの混合によっ て複数の機能を極めて簡便に持たせることがわ かってきており、今後優れた薬物キャリアの設 計を継続する。 参考文献 1)Y. Kotsuchibashi, M. Ebara, K. Yamamoto, T. Aoyagi: J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 48, 20(2010)4393. MANAにおける研究のあゆみ ―全固体リチウム電池の研究― 主任研究者高田和典 1.目的・課題 固体電解質を用いた電池の固体化には、副反 応を抑制し電池の高寿命化するものとして、さ らにリチウムイオン電池においては安全性を飛 躍的に高めるものとしての大きな期待も寄せら れてきた。特に後者の特徴は、深刻化する環境・ エネルギー問題の解決のための電気自動車の普 及や再生可能エネルギーの導入が喫緊の課題と なっている現在において、開発が急がれている 大型リチウムイオン電池の実現につながるもの と目されている。 2.研究成果 2-1全固体リチウム電池の高出力化 全固体リチウム電池の実用化を妨げてきた最 大の問題点は、出力性能の低さにあった。その 原因は長らく固体電解質の低いイオン伝導性に あったが、10-3 S·cm-1を超えるイオン伝導度を 有する固体電解質が開発されてもなお、その出 力性能が向上することはなかった。 NIMSでは、全固体リチウム電池の出力律速 過程が正極活物質と固体電解質の界面にあるこ と、その高抵抗成分がリチウムイオンの欠乏し た空間電荷層であることを見出した。さらに、 この空間電荷層の形成を抑制する独自の界面設 計を導入することで、図1に示したように不燃 図1新しい界面設計導入による全固体リチウム電池 の出力性能向上 性の固体電解質を用いながらも有機溶媒電解質 を用いたリチウムイオン電池と同等の出力性能 を達成した1)。 2-2高容量電極反応の実現 エネルギー密度の向上は電池に対して常に要 求されてきた項目であるが、車載用途では搭載 可能な空間や重量の制限から特に飛躍的なエネ ルギー密度の向上が求められている。それを可 能とする高容量負極反応には、コンバージョン 反応や合金化反応などが知られている。しかし ながらこれらは活物質結晶構造の大きな変化を ともなうため、充放電の繰り返しで電極形状が 変化しやすく、長期信頼性などに難があるもの であった。 固体電解質の大きな特徴の一つは、リチウム イオン以外がほとんど移動しないことである。 したがって、全固体電池中ではこのような電極 形状の変化を抑制することができ、高容量電極 反応を安定化することが可能である。NIMSで は、固体電解質の使用に加え、気相合成法の導 入により導電材の均一分散を達成することで、 コンバージョン反応から合金化反応にいたる一 連の高容量逐次反応を安定かつ可逆的に進行さ せることに成功した2)。 3.今後の研究動向 全固体電池の研究は、これまで固体電解質に おける高イオン伝導の発現など、各電池部材を 対象としたものが中心であったが、部材間の接 合界面をはじめとしたデバイス化研究に研究の 主流が移りつつある。 参考文献 1)N. Ohta, K. Takada, L. Zhang, R. Ma, M. Osada and T. Sasaki: Adv. Mater.18 (2006)2226. 2)B. T. Hang, T. Ohnishi, M. Osada, X. Xu, K. Takada and T. Sasaki: J. Power Sources 195(2010)3323. MANAにおける研究のあゆみ ―表面ナノアーキテクトニクスによる高効率エネルギー/物質変換界面相の創製― 主任研究者魚崎浩平 1.目的・課題 化学者/材料科学者にとって最も挑戦的な課 題は高効率でのエネルギー/物質変換システム の構築である。当研究グループは2008年10月 にサテライトとしてMANAに参画、2010年4 月にはNIMSに異動し、固体表面に金属、半導 体、分子を原子、分子レベルの分解能で制御し て配列(表面ナノアーキテクトニクス)するこ とによる、主として固液界面における高効率エ ネルギー/物質変換のための界面物質相の構築 法の確立と、そのために不可欠な固液界面での 原子・分子分解能での新規測定法(走査プロー ブ顕微鏡、和周波発生分光法、表面X線散乱な ど)の開発を並行して進めている。具体的には 1.固体表面への原子の制御配列による触媒機 能界面の創製、2.固体表面への分子層の構造 制御成長による光エネルギー変換界面の構築、 3.固液界面におけるその場構造決定と電子移 動過程の追跡、を実施している。 2.研究成果 2-1固体表面への原子の制御配列による触媒 機能界面の創製 化学反応を効率的、選択的に進行させるため に触媒が用いられるが、多段階反応の場合は合 金触媒が必要である。しかし一般によく用いら れる、複数種の金属塩を化学的、電気化学的に 還元させる、という手法では相分離が起こり、 原子レベルで混合した合金の作製は困難である。 本研究では、金属間距離および金属組成比が制 御されている異種金属多核錯体を固体表面に構 造を制御して配列させ、熱処理することによっ て、原子レベルで混合した合金触媒(Pt-Ru、 Pt-Niなど)を作製し、そのメタノール酸化反 応に対する高い電極触媒活性を確認した1)。ま た、高度な燃料電池システムを実現するための 合理的電極触媒調製を目指して、マイクロファ ブリケーションの適用についても検討した。 2-2固体表面への分子層の構造制御成長によ る光エネルギー変換界面の構築 太陽エネルギーを利用した水からの水素発生 と二酸化炭素の還元による有用物質製造は非常 に重要である。光エネルギーを高効率に利用す るためには光励起、電荷分離、反応の各段階を 担う原子や分子を表面ナノアーキテクトニクス の概念に基づいて固体表面に配列する必要があ る。水素終端Si表面に電子移動を司るビオロー ゲン分子層を構造制御して構築し、その中に水 素発生触媒として機能する白金錯体を分散固定 することで高効率な光電気化学的水素発生を実 現した2)。さらに錯体の種類を選ぶことで二酸 化炭素の還元にも成功している。また、すでに 報告済みの、金表面にポルフィリン(光励起) ―フェロセン(電子移動)結合分子をチオール を介して固定したシステムでの高効率光誘起電 子移動系に、金ナノ粒子を表面固定することに よって、近赤外領域での光アンテナとして機能 させ、効率の大幅向上に成功した3)。 2-3固液界面におけるその場構造決定 固体高分子形燃料電池反応の鍵である界面水 の構造決定4)や水―分子層界面における分子 構造のその場決定5)に成功した。 3.今後の研究動向 これまでの研究をさらに展開するとともに、 貴金属フリー触媒、光エネルギー変換システム などより挑戦的な課題に取り組む。 参考文献 1)H. Uehara, Y. Okawa, Y. Sasaki and K. Uosaki: Chem. Lett. 38(2009)148. 2)T. Masuda, K. Shimazu, and K Uosaki: J. Phys. Chem. C 112(2008)10923. 3)K. Ikeda, K. Takahashi, T. Masuda, and K. Uosaki.: Angew. Chem. Int. Ed. 50(2011) 1280 (Highlighted in the frontispiece). 4)H. Noguchi, K. Taneda, H. Minowa, H. Naohara, K. Uosaki: J. Phys. Chem. C 114 (2010)3958. 5)K. Uosaki, H. Noguchi, R. Yamamoto, and S. Nihonyanagi: J. Amer. Chem. Soc.132 (2010)17271. MANAにおける研究のあゆみ ―ナノ・原子スケールプラズモンの解明と材料応用― 独立研究者長尾忠昭 1.目的・課題 金属中には自由電子が同期して振動するプ ラズモンと呼ばれる現象が生じる。この振動の 周波数やバンド幅は、金属材料がナノスケール 化し、サイズ、形状、間隔を調整することによ り変化させることが可能である。本研究ではま ずプラズモンが原子スケールからナノ・メゾス ケール構造体に閉じ込められた際の基礎物性を 解明し、機能物性制御における指導原理を確立 する。その知見に立脚した上で、続いてナノ加 工技術や自己組織化を用いて精密に調整された ナノ構造体を製作し、光機能のコントロールさ れたナノ材料の創出を目指した。 2.研究成果 2-1原子ワイヤ、ナノワイヤのプラズモン 当研究チームで開発した電子散乱分光装置 (JSTさきがけによる)を用いて、金属原子ワ イヤの中のプラズモンを世界で初めて測定に成 功した1)。貴金属だけでなく、インジウムなど の原子ワイヤーの中にもプラズモンが存在する ことを発見し、パイエルス転移などの相転移に 応じてプラズモンが生成消滅すること等を明ら かにした。電子分光実験のみならず、光学吸収 スペクトル測定も行った結果、有限サイズの原 子ワイヤの中に生じる定在波プラズモンの計測 にも成功し(図1)、プラズモニクス分野におけ る原子スケール材料研究への道を開いた2)。 図1原子スケールのナノワイヤ(幅1nm)の中を伝 搬する赤外プラズモンを発見。定在波モードのプラ ズモンも見出した 図2ナノアンテナの局在表面プラズモンによる共振 器スペクトルとフォノンの増強振動シグナル ナノ ロッドのアンテナ共鳴を用いて超薄膜の 格子振動(フォノン)の検出を行った。2nm程 度のシリカ膜を伝搬するフォノンのシグナルを 増強して検出することに成功した(図2)。 2-2高感度検出可能なナノギャップ材料 ブロードバンドかつ電場増強効果の高い材 料を実現するための、ランダム・ナノギャップ 膜を開発した。オクタデカンチオール単分子層 や15塩基DNAオリゴマーなどの分子振動シグ ナルを大幅に増幅でき、これを応用した病原酵 素や湖沼汚染物質の微量検出を行った3)。 3.今後の研究動向 5年の期間内に、世界に先駆けた基礎現象の 発見など多くの学術成果を上げることができ、 国内外で高く評価された。今後は基礎に留まる ことなく、材料開発を多角的に進め、これまで に得た知見・計測技術を最大限に活用すること で、ナノ材料をベースとした新規な機能材料・ デバイスの開発に展開できるものと考えている。 参考文献 1)T. Nagao, S. Yaginuma, T. Inaoka and T. Sakurai : “One-Dimensional Plasmon in an Atomic Scale Metal Wire” Phys. Rev. Lett. 97(2006)116802. 2)T. Nagao: “Low-dimensional plasmons in atom sheets and atom chains,”Dynamics at Solid State Surfaces and Interfaces, Part I, Edited by. U. Bovensiepen (2010)pp189-211. 3)長尾忠昭:“原子スケール・ナノスケール金属材料のプラ ズモン” CMC出版新材料・新素材シリーズ 金属ナ ノ ・マイクロ粒子の形状・構造制御技術(2009)pp10-27. MANAにおける研究のあゆみ ―エレクトロクロミック材料の開発とデバイス応用― 独立研究者樋口昌芳 1.目的・課題 電子ペーパーは電源を切っても表示が続く ため、将来新聞や雑誌の替わりを果たす次世代 ディスプレイとして期待されている。その表示 方式は多様であり、電気泳動方式、液晶方式、 粉体移動方式、化学反応方式などがある。その 多くは白黒表示を基本としているため、現在、 カラー化が克服課題となっている。カラー表示 に関しては、エレクトロクロミック方式が注目 されている。エレクトロクロミック方式は、物 質の電気化学的な色変化(エレクトロクロミッ ク)に基づいて駆動するため様々な色を表現す ることができるため、カラー化しやすい。しか し、この方式は電子ペーパーの表示方式として はそれほど活発に研究されてこなかった。それ は、この方式が、用いるエレクトロクロミック 物質の性能によってデバイス性能が決まってし まうという、極端に「材料に依存した」方式で ある一方で、「使えるエレクトロクロミック物 質」の開発が遅れていたためである。 2.研究成果 2-1新エレクトロクロミック材料 我々は、配位部位を2ヶ所有する有機モジュ ールと金属イオンの錯形成により「有機/金属 ハイブリッドポリマー」を開発し、このポリマ ーが発色性と安定性を兼ね備えた極めて優れた エレクトロクロミック特性を示すことを発見し た1-5)。得られた有機/金属ハイブリッドポリマ ーは、金属イオンから有機配位子への電荷移動 吸収により発色し(鉄ポリマーの場合、紫色)、 主鎖に金属イオンを含むために電気活性である。 ITO上に作成したこのポリマーフィルムを電極 として用い、電解質を含むアセトニトリル溶液 中で2Vの電圧を印加すると、この紫色のフィル ムが透明に変化した(エレクトロクロミック変 化)。これは、ポリマー中の鉄イオンが電気化学 的に3価に酸化され、電荷移動吸収が消失した ために生じる。このエレクトロクロミック変化 は可逆であり、4000回程度発色と消色を繰り返 しても応答性に変化はなかった。また、ポリマ ーに複数の金属イオン種を導入すると、一枚の ポリマーフィルムで、電圧を変えることにより、 3種類以上の色を表示できることを見出した。 2-2デバイス応用 ITOを蒸着したガラス板に本ポリマーをキャ ストし、過塩素酸リチウム・プロピレンカーボ ネート・ポリメタクリル酸メチルの混合物から なる高分子ゲル電解質を間に挟んで重ね合わせ ることで、エレクトロクロミック固体デバイス が作製できることを発見した(下図)。さらに、 加工したITO電極を用いることで、本ポリマー を用いたデジタル表示ディスプレイの作製に成 功した。通常の液晶ディスプレイと異なり、表 示を維持するために電力を必要としないこと (メモリー性があること)から、カラー電子ペ ーパーとして機能することを見出した。 3.今後の研究動向 電子ペーパーのカラー化に向けて、エレクト ロクロミック材料の研究が今後一層進むと考え られる。また本材料は、スマートウインドウな ど省エネ部材への応用も期待される。 参考文献 1)M, Higuchi and D. G. Kurth: Chem. Rec. 7 (2007)203. 2)F. Han, M. Higuchi and D. G. Kurth: J. Am. Chem. Soc.130(2008)2073. 3)M. Higuchi, Y. Akasaka, T. Ikeda, A. Hayashi and D. G. Kurth: J. Inorg. Organomet. Polym. Mater.19(2009)74. 4)M. Higuchi: Polymer J. 41(2009)511. 5)J. Li and M. Higuchi: J. Inorg. Organomet. Polym. Mater. 20(2010)10. MANAにおける研究のあゆみ ―酸化還元・励起反応の第一原理計算手法開発と触媒・電池系への応用― 独立研究者館山佳尚 1.目的・課題 我々のメインターゲットは(1)電子移動・ プロトン移動・光励起反応・表面界面反応とい った物理化学反応を取り扱うための密度汎関数 理論(DFT)ベースの新しい第一原理計算手法 の開発・確立を行うこと、(2)そしてそれらを 用いて光触媒、新型太陽電池、燃料電池内の微 視的反応メカニズム明らかにし、その変換効率 向上に向けた指針を提案することである1)。 図1我々の研究ターゲット 2.研究成果 2-1酸化還元反応の自由エネルギーに対す る新規第一原理計算手法の開発2) 酸化還元電位など電子移動過程に関する自由 エネルギーを計算するため、Marcus電子移動 理論とDFT分子動力学(MD)法を組み合わせ た新規第一原理計算手法を開発した。さらに化 学結合変化を取り扱えるようBlue-Moonアン サンブル法を組み合わせ、一般的な酸化還元反 応の第一原理自由エネルギー計算を可能にした。 図2水分解酸化還元反応(RuO4-+ H2O + e- ←→ [RuO3(OH)2]2-)の自由エネルギー曲面 その実証計算として遷移金属酸化物イオン の水分解酸化還元反応を取り上げ、計算精度を 実証するとともに水分解反応メカニズムを明ら かにした。 2-2固液界面の第一原理MD解析3) 触媒、電池の酸化還元反応の主要舞台である 固液界面を扱うための第一原理MD解析方法を 確立した。実証例として光触媒系のTiO2アナ ターゼ/水界面を解析し、水に浸かった界面に おける分子吸着構造、水素結合ネットワークの 特徴を明らかにし、光触媒反応メカニズムに対 する知見も得た。 図3 TiO2アナターゼ/水界面の微視的構造 2-3光励起ダイナミクスの記述に向けた第 一原理計算手法の開発・確立4) 時間依存DFTフレームワークの下、励起状 態ダイナミクスを追跡する手法や励起状態から の非断熱遷移を記述する手法を開発・確立した。 図4励起状態の非断熱結合係数の新定式 3.今後の研究動向 我々の第一原理計算手法を次世代スパコン上 で実行し、光触媒・太陽電池らのより実際的な 系を取り扱うことにより、そのメカニズム解明 と高効率化設計を実現する。 参考文献 1) NIMS group home page: http://www.nims.go.jp/group/nscs/ 2)Y. Tateyama, J. Blumberger, T. Ohno, M. Sprik: J. Chem. Phys.126(2007)234605. 3)M. Sumita, C. Hu, and Y. Tateyama: J. Phys. Chem. C, 114(2010)18529. 4)C. Hu, O. Sugino, H. Hirai, Y. Tateyama: Phys. Rev. A 82(2010)062508. http://www.nims.go.jp/group/nscs/ MANAにおける研究のあゆみ ―半導体ナノワイヤの成長制御とドーピングによる機能発現― 独立研究者深田直樹 1.目的・課題 現行の平面型MOSFETに代わる次世代の縦 型立体構造を有するMOSFETの実現に向けて、 1次元構造を有する半導体ナノワイヤに重点を おいた研究を行った。課題としては、1)サイ ズ・構造制御、2)不純物ドーピング技術と評 価法の確立、3)ドーパント濃度の制御、4)ド ーパント不純物の挙動の解明等が挙げられる。 本研究では、分光学的手法によりドーパント不 純物の結合・電子状態を詳細に調べ、それをナ ノワイヤの構造制御に反映させた1-3)。 2.研究成果 2-1Siナノワイヤの成長制御と機能化のため の不純物ドーピング 高真空CVD装置によりSiナノワイヤの成長 を行い、成長軸方向に径の均一なSiナノワイヤ の成長を実現することができた(図1)。直径は、 5 - 50nmの範囲で制御することができた。 図1CVDにより成長したSiナノワイヤの (a) SEM, (b) TEM,および(c) HRTEM像 Siナノワイヤの成長中に不純物ドーピング を行った。顕微ラマン散乱測定を行った結果、 Bの局在振動ピークを観測することにBをドー プしたSiナノワイヤにおいて初めて成功した (図2)。さらに、そのSi光学フォノンピーク に、高濃度Bドーピングによって生じるファノ 効果による非対称ブロードニング(Fano効果) を観測することにも初めて成功した3)。Pドー ピングを行った試料では、電子スピン共鳴 (ESR)測定により、伝導電子シグナルの観測 に初めて成功した3)。 以上の結果は、Bおよび PがSiナノワイヤ中のSi置換位置にドープさ れ、活性化していることを分光学的に初めて証 明した結果となっており、p型およびn型のSi 図2 (a) BドープSiナノワイヤおよび未ドープSiナノワイ ヤのラマンスペクトル.(b) B局在振動ピークの拡大図 ナノワイヤを生成することができたといえる3)。 Siナノワイヤ内の不純物分布について調べ た結果では、不純物はナノワイヤの中心よりも 表面に分布しやすいことが分かった1)。 2-2 Geナノワイヤの成長制御と機能化のた めの不純物ドーピング Geナノワイヤの成長および不純物ドーピン グを行った。その結果、BおよびPの局在振動 ピーク、Fano効果の観測に初めて成功し、不 純物ドーピングによるp型、n型制御に成功し た2)。Bドーピングの場合、ドーピング濃度上 昇に伴って成長軸方向にテーパー構造を持つナ ノワイヤとなった。そこで、1)未ドープGeナ ノワイヤ成長、2)高濃度B含有Ge層の形成、 3)アニールのプロセスにより、Bをドープし たp型Geナノワイヤにおいても成長軸方向に 均一な直径を得ることができた。 3.今後の研究動向 単元素からなるナノワイヤでは、不純物ドー ピングによる不純物散乱の影響は避けられない。 そこで、SiとGeのコアシェル構造からなるナ ノワイヤを形成し、不純物のドーピング領域と キャリアの輸送領域を完全に分離した高移動度 チャネルを形成する。 参考文献 1)N. Fukata et al.: NANO Lett.11(2011)651. 2)N. Fukata et aL: ACS NANO 4(2010)3807. 3)N. Fukata: Adv. Mater. 21(2009)2829. MANAにおける研究のあゆみ ―光応答性培養基板の開発― 独立研究者中西淳 1.目的・課題 表面に細胞付着性がパターン化された培養 基板では、生体を模倣した細胞配置が可能であ るため、組織工学分野や薬剤評価系の開発、生 物学研究において重要である。さらに、外部刺 激によって基板表面の細胞付着性を変化させる ことができると、複数種類の細胞のパターニン グや、移動・増殖など細胞の動的挙動の解析な ど、用途が一層拡大する。本研究では、光応答 性分子を修飾した基板を作製し、基板表面の細 胞付着性を光制御する手法を開発した。 2.研究成果 開発した光応答性培養基板の一例を図1に示 す。この基板では、光分解性の2-ニトロベンジ ル基を介して、細胞の付着を抑制するポリエチ レングリコール(PEG)が固定化されている(図 1a)。これにより、はじめは基板全面が細胞非 付着性であるが、2-ニトロベンジル基の光分解 により、PEGが表面から解離すると、表面が細 胞付着性になる(図1b、c)。 利用した2-ニトロベンジル基の光分解は、反 応の過程で有害な副生成物が生じず、しかも有 機溶媒による洗浄を要さない。したがって、培 養の最中にも上記プロセスが進行し、細胞付着 領域が新設・拡張できる。実際、光照射位置を 変えながら、随時細胞を添加することで、異種 細胞アレイの作製に成功した(図2a)1)。また、 アレイ状に配置した単一細胞の近接領域を光照 射して当該細胞の移動を誘導することに成功し た(図2b) 2)。通路幅を変化させて細胞の移動 図1光照射により細胞付着性が変化する培養基材 (a)原理.(b)光照射に応じた.(c)細胞のパターン化 速度を精細に調べたところ、予想に反して細胞 が幅の広い通路上の方を速く移動することを見 出した。同様に、アレイ中の特定細胞を選択的 に増殖させること(クローニング)にも成功し た(図2c) 3)。形成されたコロニー中の細胞は、 全て同一の細胞に由来するクローンであるため、 この技術は、ヘテロな細胞群から、特定細胞を 単離増殖する技術などへの展開が期待される。 図2光応答性培養基板を用いた動的パターニング (a)異種細胞のパターン化共培養.(b)細胞移動の誘導. (c)細胞クローニング 3.今後の研究動向 開発した基板は、基材が通常のカバーガラス であるため、高分解能での蛍光観察に最適であ り、時空間を制限した細胞内シグナルの発生と その解析など、生物学的な課題の取り組みにも 有用である。また、アミノ基終末材料での同様 の手法を実現しており4)、これを基に、タンパ ク質性材料での組織化培養など、より生理適合 的な培養系の構築が期待される。 参考文献 1)Y. Kikuchi, J. Nakanishi, H. Nakayama, S. Inoue, K. Yamaguchi, H. Iwai, Y Yoshida, Y. Horiike, T. Takarada, M. Maeda: Langmuir. 24 (2008)13084. 2)J. Nakanishi, Y Kikuchi, S. Inoue, K. Yamaguchi, T. Takarada, M. Maeda: J. Am. Chem. Soc.129(2007)6694. 3)Y Kikuchi, J. Nakanishi, H. Nakayama, T. Shimizu, K. Yamaguchi, Y. Yoshida, Y Horiike: Chem. Lett. 37(2008)1062. 4)S. Kaneko, H. Nakayama, Y. Yoshino, D. Fushimi, K Yamaguchi, Y. Horiike, J. Nakanishi: Phys. Chem. Chem. Phys.13(2010) 4051. MANAにおける研究のあゆみ ―新規バイオインターフェースを目指して:高分子材料の高次構造制御― 独立研究者吉川千晶 1.目的・課題 生体材料(人工材料)は今日の医療において、 欠くことのできないものであるが、生体適合性 が理想的ではないため、使用期間や性能には限 界がある。このため、材料の生体適合性を向上 させることがこの分野の重要課題となっている。 材料の生体適合性は、表面とバルク特性の総 和として表現される。多くの場合、表面特性は 初期的な適合性として現れ、バルク特性は長期 的な適合性として現れることが多い。しかし、 一般的に材料の多くは生体成分と直接接触して 用いられるため、初期的な適合性を決める界面 は特に重要となる。なぜなら、バルクとしての 材料寿命がどれだけ長期に発現できたとしても、 表面適合性が悪ければ異物反応で短期間しか使 えないためである。本研究では、表面特性の重 要性に鑑みて、構造制御された高分子表面を用 いることで表面適合性の向上を試みてきた。 2.研究成果 表面の生体適合性(生体不活性) 表面グラフト法のひとつ、表面開始リビング ラジカル重合法により得られる「濃厚ポリマー ブラシ(CPB)」の構造・物性における新規性 に着目し、生体相互作用ゼロ(生体不活性)界 面を目指して、CPBをバイオインターフェース へ応用するための基礎研究を行ってきた。 CPBは図1に示すように、良溶媒中で伸び切 り鎖に匹敵するほど高度に伸張しており、従来 法で作製される準希薄ポリマーブラシ(SDB) とは構造が異なる。この特殊な高伸長構造がタ 図1濃厚ポリマーブラシ ンパクや細胞との相互作用に大きく影響すると 考え、まず、バイオインターフェースとして最 初に重要となるタンパクとCPBとの相互作用 について系統的に調べた1)。その結果、親水性 の濃厚ブラシでは、同種キャスト膜やSDBに 比べてタンパクの吸着が飛躍適に抑制されるこ と、またそれが濃厚ブラシの特異なサイズ排除 効果、すなわち、ブラシ隙間の距離を閾値とし て、それより十分大きいタンパクはブラシ層へ の侵入が阻害されるために吸着が抑制されるこ とを確認した。更に、CPB表面では細胞接着も 著しく抑制されることを明らかにした2)。これ らの結果は表面構造の制御、つまりCPB構造 が生体不活性において効果的であることを示唆 する。CPBはバイオイナート表面として、タン パクや細胞の接着抑制が必要とされる様々な生 体材料への応用展開が期待される。 現在はCPB表面のタンパク・細胞抗接着の メカニズム解明に取り組んでいる。また、実材 料への展開を目指し、海外企業との研究プロジ ェクトが進行中である。 3.今後の研究動向 最近、電界紡糸高分子ナノファイバー表面に CPBを付与するとともに、その短線維化に成功 している3)。現在、この短繊維をビルディング ブロックとして用い、その高次構造化を試みて いる。表面構造に加えて、バルクの高次構造も 制御することで、トータルで優れた生体適合性 材料が実現できると期待している。 参考文献 1)C. Yoshikawa: J. Polym. Sci. Part A(2007). 2)C. Yoshikawa, Y. Hashimoto, S. Hattori, T. Honda, K. Zhang, D. Terada, A. Kishida,Y. Tsujii, H. Kobayashi: Chem. Letters 39 (2010)142. 3)C. Yoshikawa, K. Zhang, E. Zawadzak, H. Kobayashi: STAM 12(2011)1. MANAにおける研究のあゆみ ―鉄系超伝導、特に鉄カルコゲン化合物に関する研究― 独立研究者津田俊輔 1.目的・課題 昨今のエネルギー問題に対するひとつの解 決法として超伝導の利用がある。しかしこれま で開発されてきた超伝導材料に関してはある程 度の実用化がなされてきてはいるが、多々改善 の余地がある。そこでより使いやすい材料を得 るための探索・開発を目的とした。さらに新規 材料は基礎的な特性が未解明であり、応用への 可否や特性改善を施す上でも重要な知見が不足 している。このため、基礎物性の解明を目的と した。 2.研究成果 2-1FeSe超伝導体の物性 鉄系超伝導体は総じてカチオン(Fe)からな る層がアニオン(AsやSe)からなる層に挟ま れた構造を含む。様々な構造が知られているが、 もっとも単純な構造を持つFeSeとその関連物 質についての研究を行った。 鉄系超伝導は超伝導転移温度が外部圧力に 敏感であることが知られている。FeSeにおい てはその中でもきわめて大きな圧力効果を示し、 常圧で約13Kであった超伝導転移温度が約 1.5GPaで30K近くまで上昇することを見出し た1)。後に約4GPaで30Kを越えるまで上昇す ることが報告された2)。 FeSeを含めた鉄系超伝導体全般に関して、 超伝導転移温度がアニオン層とカチオン層の距 離によく相関することを見出した3)。この結果 は鉄系超伝導物質群の超伝導転移機構に局所構 造が深く関わっていること、また一連の物質で 共通の物理が存在することを示唆するものであ る。 2-2 KxFe2-ySe2超伝導体の物性 KxFe2-ySe2はFeSeの層間にKを挿入したよ うな構造をとる。Feサイトが一部欠損した組成 で超伝導が発現することが報告された4)。この 物質に対して、試料の純良化と電気抵抗より上 部臨界磁場を求めて報告した5)。 非超伝導組成の試料においては欠損の秩序 化が生じ4回対称性が破れ2回対称性が現れる ことが報告されている。一方で超伝導組成の試 料では秩序化は顕著には現れない6)。 ラマン分 光より、4回対称性が保たれていることを見出 した7)。 3.今後の研究動向 鉄系超伝導物質の超伝導転移機構は普遍的 に局所構造に密接な関係があることを明らかに してきた。一方で電子状態と超伝導機構の相関 を指摘する声も強い。また現在の転移温度は最 高でも55K程度であるが、実用化を目指す場合 転移温度が液体窒素温度(77K)を超えること が求められる。したがって学術的にも応用化の 上でも転移温度上昇への処方箋を得ることが必 要であろう。 参考文献 1)Y. Mizuguchi, F. Tomioka, S. Tsuda, T. Yamaguchi and Y. Takano: Appl. Phys. Lett. 93(2008)152505. 2)S. Masaki, H. Kotegawa, Y. Hara, H. Tou, K. Murata, Y. Mizuguchi and Y. Takano: J. Phys. Soc. Jpn 78(2009)063704. 3)Y. Mizuguchi, Y. Hara, K. Deguchi, S. Tsuda, T. Yamaguchi, K. Takeda, H. Kotegawa, H. Tou and Y. Takano: Supercond. Sci. Technol.23(2010)054013. 4)J. Guo, S. Jin, G. Wang, S. Wang, K. Zhu, T. Zhou, M. He and X. Chen: Phys. Rev. B 82 (2010)180520(R) 5)Y. Mizuguchi, H. Takeya, Y. Kawasaki, T. Ozaki, S. Tsuda, T. Yamaguchi and Y. Takano: Appl. Phys. Lett. 98 (2011) 042511. 6)W. Bao, G. N. Li, Q. Huang, G. F. Chen, J. B. Chen, J. B. He, M. A. Green, Y. Qiu, D. M. Wang, J. L. Luo and M. M. Wu: arXiv:1102.3674. 7)S. Tsuda, Y. Mizuguchi, H. Takeya, T. Yamaguchi and Y. Takano: submitted. MANAにおける研究のあゆみ ―新しい白金ナノ構造の合成とその応用― 独立研究者山内悠輔 1.目的・課題 触媒として高い活性を持つことが知られて いる白金は、現在まで電池などの電極や工業触 媒(自動車の場合は排気ガスの浄化触媒)とし て広く用いられている。白金の表面積を大きく すると、露出している白金の表面積が増加する ため、触媒としての機能が活性化することが期 待できる。ナノ構造化することで、通常の粉末 よりも大幅に表面積を広くすることが可能にな る。希少元素の使用量を減らす最近の社会の動 きからも、少量の白金で大きい表面積を実現し、 高い触媒活性を示す新たな白金ナノ材料の開発 が求められてきている。このような背景の中、 メリポーラス物質合成の技術を適用し、ナノフ ァイバー、ナノチューブ、ナノ粒子、メソ(ナ ノ)ポーラス物質などの様々な白金ナノ材料の 合成に成功してきた1~6)。 2.研究成果 メソポーラス金属は、骨格が金属のみから形 成されており電気伝導性の高いメソ多孔体であ り、従来の無機酸化物系メソポーラス物質とは 異なる応用が期待される。近年、界面活性剤か らなるリオトロピック液晶を直接鋳型として用 いる方法が提案され、溶媒揮発法と電気化学プ ロセスを組み合わせることにより、一段階で高 規則性のメソポーラス金属を合成することがで きるようになった。まず、界面活性剤、金属イ オン種、水、揮発性有機溶媒からなる前駆溶液 を作成し、導電性基板上にキャストする。その 後、有機溶媒が揮発するにつれ、溶液内の界面 活性剤濃度が高くなり、リオトロピック液晶相 が形成する。この液晶中において金属イオンを 電気化学的な手法(化学還元法、無電解析出法、 電析法)により還元析出を行うことにより、金 属メソ構造体を合成し、最後に溶媒抽出で界面 活性剤を除去することによりメソポーラス金属 が得られる。 最近では、分子サイズの大きなブロックコポ リマーで液晶を作成することで、これまでにな い10nmを超える大きなメソ孔径を有するメソ ポーラス白金の合成に成功している。今までの メソポーラス金属の孔径は、3nm程度に限られ ており、大きな分子の取り込みや物質の拡散を より良くするためには細孔が小さすぎていた。 最近では、低濃度界面活性剤の水溶液からで も、還元剤を添加するだけで、高い表面積を有 する金平糖状のナノ構造を有する白金ナノ粒子 (白金ナノ金平糖と名づけた)を高速で合成で きることがあきらかになった。還元剤を投入し てから、およそ10分間でナノ粒子を大量に合成 でき、白金イオンの収率も100%であった。更 に、還元剤の量を制御することで、均一な粒子 径を実現し、ナノ粒子が完全に分散した溶液と しても得ることができる。生成物の表面積は55 m2/g以上あり、今までに報告されているすべて の白金ナノ材料中で最も高い表面積を示した。 高分解の透過電子顕微鏡の観察から、生成物は fcc構造に配列しているPt原子に起因する格子 縞が確認され、各々の金平糖ナノ粒子は高い結 晶性を有していた。このように高い結晶度を有 しているため、ナノ構造の耐久性は250度まで あり、従来のPtナノ粒子では不可能であった高 い熱的安定性も実現している。 3.今後の研究動向 上記に示した合成技術は、様々な金属・合金 系に適用でき、組成・形態の両面から用途に合 った電極材料を今後テーラーメイドでデザイン できる。実際の応用も見据え、第一段階の応用 ターゲットとして、環境負荷低減・省エネルギ ーのための次世代エネルギーデバイス用電極の 開発は緊急の課題である。 参考文献 1)L. Wang, Y. Yamauchi: J Am Chem Soc, 2010,132(39), 13636-13638. 2)A. Takai,Y. Yamauchi, K. Kuroda: J Am Chem Soc, 132 (1)(2010)208-214. 3)L. Wang, Y. Yamauchi: J Am Chem Soc, 2009;131 (26): 9152-9153. 4)Y. Yamauchi, M. Komatsu, M. Fuziwara, Y. Nemoto, K. Sato, T. Yokoshima, H. Sukegawa, K. Inomata, K. Kuroda: Angew Chem Int Ed, 48 (42) (2009) 7792-7797. 5)Y. Yamauchi, A. Sugiyama, R. Morimoto, A. Takai, K. Kuroda: Angew Chem Int Ed, 47 (29)(2008) 5371-5373. 6)Y Yamauchi, A. Takai, T. Nagaura, S. Inoue, K. Kuroda: J Am Chem Soc,130 (16)(2008)5426-5427. MANAにおける研究のあゆみ ―グラフェン材料を用いた量子デバイスの開発― 独立研究者森山悟士 1.目的・課題 本研究では、2次元ナノカーボン電子系であ る単一原子層グラファイト(グラフェン)を量 子ナノデバイス構築材料として利用するデバイ スプロセス技術を開発する。そして実際に基本 素子を作製して単電子エレクトロニクス、さら には量子情報処理システム応用のための基礎技 術、デバイスの量子物性を明らかにすることを 目的とした。グラフェンはsp2結合した炭素原 子がハニカム状に並んだ、単原子層からなる2 次元構造であり、特異な2次元電子系を形成す る。最先端の半導体微細加工技術によるトップ ダウンプロセスを用いて、直接その2次元構造 をナノレベルに加工することにより、量子細線、 量子ドット等のナノデバイス構造を作製するこ とができる。特に2次元的に広がったシート構 造の特徴から、単体ナノデバイス素子同士の結 合やインターフェースの形成を同じグラフェン シート上に作製することができるため、単体基 本素子の動作が実現できれば、これまで実現が 困難であった「集積化した」新機能デバイスシ ステムの構築に大きく近づけると考えられる。 2.研究成果 2-1デバイス作製プロセスの開発 クリーンルーム環境下における超微細加工技 術・リフトオフプロセスを駆使してグラフェン 量子デバイスの作製プロセスを確立した。基板 材料であるSiO2/Si基板にグラフェンを取り付 けた後に、ラマン分光測定法を用いたグラフェ ンの層数の識別を行った。そして、ナノメート ルサイズの微小電極を電子線ビームリソグラフ ィと真空蒸着技術を用いて作製し、グラフェン に対してオーミック接合をとる。さらに、電子 線リソグラフィと反応性イオンエッチング技術 を組み合わせた超微細加工技術を用いてグラフ ェンシートを直接加工することによってナノ量 子構造素子を作製することに成功した1,2)。 2-2グラフェン結合量子ドットの実現 基本的な量子デバイスとして、量子ドットを2 個連結した2重結合量子ドット構造を作製して その電子輸送特性を調べ、単一電荷状態制御と ドット間のトンネル結合の制御に成功した。図 に作製したグラフェン2重結合量子ドット素子 の電子顕微鏡写真を示す。図の濃い灰色部分が3 層グラフェンであり、デバイス作製プロセスに よって加工され、削りとられた部分である。点 線で囲まれた三角形の部分が量子ドットに相当 し、2つ直列につながっている。極低温(30 mK) での量子輸送現象の測定から、量子ドット内の 電子数の制御、量子ドット間の結合の制御が全 て電圧によってコントロールできる、チューナ ブルな結合量子ドット素子を実現した1-3)。 3.今後の研究動向 今回作製されたグラフェン結合量子ドット素 子は、最も基本的な集積化ナノデバイスであり、 グラフェンシートの2次元的に広がった構造を 活かして、さらなる大規模な量子ドット集積回 路の作製、さらには単一スピン状態の生成と制 御等の量子ドット素子の機能性向上へと研究を 進めていく。 参考文献 1)S. Moriyama, D. Tsuya, E. Watanabe, S. Uji, M. Shimizu, T. Mori, T. Yamaguchi, and K. Ishibashi: Nano Lett. 9 (2009) 2891. 2)S. Moriyama, Y. Morita, E. Watanabe, D. Tsuya, S. Uji, M. Shimizu, and K. Ishibashi: Sci. Technol. Adv. Mater.11 (2010)054601. 3)森山悟士、石橋幸治:パリティ25(2010)40. MANAにおける研究のあゆみ ―高圧技術を用いた新しい強誘電体材料、磁性材料、およびマルチフェロイック材料の探索― 独立研究者 Alexei A. Belik 1.目的・課題 マルチフェロイック系において(反)強誘電体、 (反)強磁性、および強弾性のうちの2つまたは3 つすべてが同一の相に観察される。これらの系 は、磁場による電気特性の制御および電界によ る磁気特性の制御ができるので、幅広い技術用 途を持つ可能性がある(図1)。こうした用途に は、例えば、マルチプルステートメモリーエレ メントが含まれる。マルチフェロイックスは、 先進的な調製と技術の特性づけによって、近年 において再び関心を引き起こし、固体および材 料の研究の最前線に戻ってきた。しかしマルチ フェロイック材料の分野では、次の2つの大き な問題が依然として存在している。すなわち、 (1)室温(RT)および室温以上で行われるマル チフェロイック特性を用いた材料の調製、(2) 異なるオーダーのパラメータを強く結合した材 料の調製である。 本研究は、先進的な高圧合成技術を用いて、 室温でペロブスカイト型構造の新マルチフェロ イック材料を開発することを目的とする。また、 強誘電体特性およびマルチフェロイック特性 (これらの特性は、既知の材料と比べて優れた 特性を備えるであろう)を備える環境に優しい 新しい無鉛材料を発見して開発することを期待 している。これらの材料の最も魅力的な用途は、 不揮発性強誘電体ランダムアクセスメモリー (FeRAM)エレメントである。 図1強誘電体/強磁性ヒステリシス・ループ:多くのメ モリーエレメントの基礎 2.研究成果 2-1室温(RT)付近での新マルチフェロイッ クスの開発1,2) 高圧を用いて新しいペロブスカイト材料 (In1-xMx)MO3 (M = Mn および Mn0.5Fe0.5)を調 製することができた。これらの材料は、RT付近 で自発的分極および磁気を有するマルチフェロ イックに変化した。この成果は、RTでのマルチ フェロイックスの開発に有意義な貢献をしてお り、薄膜研究やIn系ペロブスカイトの将来の改 良に対する広範な可能性を切り開いている。本 研究の成果はまた、ペロブスカイト型材料の調 製のための新しい方法も提示している。 (In1-xMx)MO3は、ペロブスカイトAサイトで Mn2+イオンを含み、プロブスイトBサイトで Mn3+およびMn4+イオンを秩序化したことによ って、非常に特異なまったく普通ではない材料 である。 2-2マルチフェロイックBiMnO3の構造的お よび物理的特性に及ぼす酸素含量の影響の 調査2) BiMnO3の強誘電体特性は依然として議論の 的となっている。我々は、BiMO3+δの構造的お よび磁気的特性に及ぼす酸素含量の影響を理解 しようと試みた。BiMnO3+δにおける3の変化は、 強磁性絶縁体からスピングラス絶縁体への変化 に帰着する。すなわち結晶構造は、C2/c(Ⅰ)か らC2/c(Ⅱ)へ、さらにP21/cからPnma(Ⅱ)へと 変化する。 2-3最高のTcを備えた新しい半導性強磁性 体Bi3Mn3O11.6の発見3) 高圧で調製できるBi3M3O11+δへの酸素含量 の影響を検討調査した。この相は興味深い磁気 特性を示している。特に、Bi3Mn3O11.6が、半 導性強磁性体材料に対して最高の強磁性転移温 度を示すことを発見した。 3.今後の研究動向 興味深い磁気特性を備えるBi3M3O11+δ族型 材料およびマルチフェロイック材料のような Sc系ペロブスカイト族に研究を拡大する。 参考文献 1)A.A. Belik, T. Furubayashi, Y. Matsushita, M. Tanaka, S. Hishita and E. Takayama-Muromachi: Angew. Chem.: Int. Ed. 48(2009)6117. 2)A.A. Belik, Y. Matsushita, M. Tanaka and E. Takayama-Muromachi: Angew. Chem.: Int. Ed. 49 (2010)7723. 3)A. A. Belik, K. Kodama, N. Igawa, S. Shamoto, K. Kosuda and E. Takayama-Muromachi: J. Am. Chem. Soc.132(2010)8137. 4)A.A. Belik and E. Takayama-Muromachi: J. Am. Chem. Soc.131(2009)9504 and 132(2010)12426. MANAにおける研究のあゆみ ―多官能性ナノ多孔質材料― 独立研究者Ajayan Vinu 1.目的・課題 ナノ多孔質材料は、高比表面積、大きな細孔 比容積、化学的不活性、および優れた化学的お よび機械的安定性など注目すべき特性を持つの で、近年では非常に注目を集めてきた。すなわ ち、吸着、触媒作用、分離、浄化プロセス、光 学、およびエレクトロニクスなどへの応用が可 能なナノ多孔質材料である。ナノ多孔質材料は、 水素化、水素化分解、水素化脱硫、ヒドロキシ ル化、アルキル化、アシル化、一酸化窒素還元、 一酸化炭素酸化を含む多様な触媒として幅広く 使用されてきた。ベンゼン、トルエン、四塩化 炭素をはじめとする水銀、ヒ素、カドミウム、 亜鉛、鉛といった複数の有毒元素の吸着特性に 関する広範な研究も行われた。しかし残念なが ら、現在までの研究の進捗は、多孔質シリカ材 料だけに限られている。これらの材料には、水 の安定度および機械的安定度が低いという欠点 がある。それゆえこの研究では、シリカ以外の 材料、特に窒化物と炭化物のナノ多孔質材料を 開発するという難題に取りくんだ。 2.研究成果 過去5年間で、多孔質窒化物などの新しい研 究を行い、異なるテクスチャー ・パラメータお よび多機性の新しいナノ多孔質材料を作製する 新しいコンセプトを提示した。それらの構想概 念の一部を下記に列挙する(図1を参照)1-8)。 1.作製可能な細孔構造をもつ世界初のナノ多 孔質窒化物材料およびテクスチャー・パラメー 図1 過去5年間に我々のグループ内で作製された多 元素と多機能を備えた種々のナノ多孔質材料 タ(同パラメータにより新しい研究分野が創出 された)の発見。 2.炭素ナノケージ、炭素ナノクープ(nanocoop)、 フラーレンを含む複数の新しいナノ多孔質炭素 基材料の発見、およびそれらの材料の燃料電池、 吸着、分離への応用。 3.世界初のナノ多孔質窒化ホウ素、窒化炭素ホ ウ素、窒化ホウ素バッキーボール、フラーレン の合成のための新しいコンセプトの導入。また 異なる官能基を持つ多孔質炭素の機能化、およ びこれらの材料をセンサーとして使用するため の自己積層化LBLによる自動組立ての初めて の実証。 3.今後の研究動向 巨大表面積、大きい細孔直径、および均一な 細孔径分布をもつ金属リン化物または窒化物を 含み、細孔チャネル内が金属および/または金 属酸化物ナノ粒子で修飾されたナノ多孔質半導 体を開発し、CO2を燃料へ転換することに応用 する計画を立てている。こうした計画は、極め て革新的で挑戦的なものである。 参考文献 1)A.Vinu, K. Ariga, T. Mori, T. Nakanishi, S. Hishita, D. Golberg, and Y. Bando: Adv. Mater.17(2005) 1648. 2)A.Vinu: Adv. Func. Mater.18(2008)816. 3)K. Ariga, A. Vinu, M. Miyahara, J.P. Hill, and T. Mori: J. Am. Chem. Soc.129(2007)11022. 4)K. Ariga, A. Vinu, Q. Ji, O. Ohmori, J.P. Hill,S. Acharya, J. Koike, S. Shiratori: Angew. Chemie Inti. Ed. 47(2008)7254. 5)Qingmin Ji, Itaru Honma, Seung-Min Paek, Jonathan P.Hill, A. Vinu, and Katsuhiko Ariga: Angew. Chemie Inti. Ed. 49(2010)9737-9739. 6)K.K.R. Datta, B.V. Subba Reddy, K. Ariga, and A. Vinu: Angew. Chemie Inti. Ed. 49(2010)5961-5965. 7)A. Vinu, P.Srinivasu, D.P. Sawant, T. Mori, K. Ariga, J.S. Chang, S.H. Jhung, V.V Balasubramanian, and Y.K. Hwang- Chem. Mater.19(2007)4367. 8)X. Jin, V.V Balasubramanian, S. T. Selvan, D.P. Sawant, G.Q. Lu, and A.Vinu: Angew. Chemie Inti. Ed. 48(2009)7884. MANAにおける研究のあゆみ ―量子閉込め金属酸化物ヘテロナノ構造体の水性設計、電子構造、およびサイズ依存効果― 独立研究者 Lionel VAYSSIERES 1.目的・課題 本研究は、費用効果が高い大規模な作製技術 による、再生可能エネルギー、環境、および健 康1)向けの多機能性ヘテロナノ物質とデバイ ス創製を目ざして、ナノスケールおよび量子閉 込め現象を用いた新世代のクリーンな金属酸化 物材料を開発することを目的とする。すなわち、 量子閉込め金属酸化物ヘテロナノ物質をベース とする構造体とデバイス作製を目的とする。水 中での化学的な成長による低コストかつ大規模 な材料製造化学から、太陽光水素生成、光電装 置、センサ、およびナノ毒性学的の研究を行い、 量子ドットと表面制御ナノ粒子によって一連の 新規な材料を開発している。 2.研究成果 垂直配向した量子ロッドアレイで構成される 新規な可視光活性酸化鉄ベース半導体の電子構 造、および構造的、光学的、光電気化学的な基 本特性を総合して評価した。ドープしたものと しない量子ドットにより、束状になった酸化鉄 量子ロッドは感光性をもつようになった(図1、 右)。これらのドットは、中間バンド効果によっ て、完全に可視スペクトルを吸収すると同時に、 中性pHでの直接水分解により得られる。唯一 の電解液として、地球上で最大で無料の天然資 源である海水が利用可能になる。効率的で低コ ストの太陽光水素生成のため電解質といえるだ ろう2)。さらに、垂直配向物質を追加すると、 光電効果3)、またはガスセンサ4)として首尾よ く応用できるようになる。 一方、この研究の別の側面として、界面活性剤 を用いないで、したがってその表面の酸性度と特 性を制御することをしないで、組織やサイズを調 整して量子ドットをも作成した。また、そのモデ ル化にも関わった。金属および半導体の物理特性 および電子構造へのサイズの影響は、一般に、す でに文献であきらかにされている。しかし材料の 化学的特性、および特に水和金属酸化物の表面化 学への量子ドットサイズの影響はほとんど報告 されなかった。そのような影響は、構造と特性の 基本的理解に、あるいはナノ毒性学の研究に大い に関係していると考えられる。表面特性のモデル 化の最新の進歩によると、理論と実験が素晴らし く一致し、その結果、スピネル酸化鉄の構造依存 性の活性表面が開発された5)。 最近では、界面活性剤を使用しないで、大量 のアナターセ型粋純TiO2量子ドットが合成さ れた。熱力学的および動力学的に安定したTiO2 の様々な濃度の水性懸濁液が得られた。この液 から、超遠心分離によってTiO2粉末が抽出で きた。図1(左)に、低温にて水中で合成され たアナターセ型TiO2の安定した典型的な水性 懸濁液の高分解能透過型電子顕微鏡画像を示す。 3.今後の研究動向 今後の開発では、電子軌道および界面工学に よる最大限の可視光活性半導体の合成技術と、 大規模な作製技術とを結合することを行う。こ の特別の目的のために合成する新しい種類の半 導体ヘテロナノ接合を検討する。海水およびオ プトナノエレクトロニクスの光酸化だけでなく、 大光電力発電(第三世代太陽電池)についても 低コスト利用を可能にするであろう。 図11-2nmの量子ドットで構成されるアナターセ型TiO2 の安定した水性懸濁液のHRTEM(左)画像および量子ロッ ドとドットで構成される酸化鉄ベースヘテロナノ構造体 の垂直配高アレイの高分解能走査電子顕微鏡画像 参考文献 1)F. Rosei, L.Vayssieres, P. F. Mensah: Adv. Mater. 20(2008)4627. 2)L.Vayssieres:「直接的な太陽光水素生成のための量 子閉込め可視光線活性ナノ構造体」,『太陽光水素 およびナノテクノロジーについて』,L.Vayssieres 編(Wiley, 2009)Ch.17, pp. 523-558. 3)L.Vayssieres 他:Adv. Mater.17 (2005)2320; L.Vayssieres and M. Graetzel, Angew. Chem. Int. Ed. 43(2004)3666. 4)L.Vayssieres and X.W. Sun: Sensor Lett. 6 (2008)787; C.X. Wang 他:Nanotechnology 17 (2006)4995. 5)L.Vayssieres, Langmuir:招待論文,投稿中 (2011). MANAにおける研究のあゆみ ―グラフェンの特異なナノスケール効果の解明― 独立研究者若林克法 1.目的・課題 ナノ炭素物質では、炭素原子骨格が作るπ電 子ネットワークの幾何学的な構造が、系の電 子・スピン物性を強く支配する。 本研究では、グラフェンにおけるナノサイズ 効果や端の形状効果などの原子スケールでの構 造効果と、電子輸送現象、磁性、ラマン分光特 性などの物理特性や電子物性との相関を理論的 に解明する。さらに、将来のナノグラフェンを 活用した電子デバイスを実現するための基盤と なる基礎理論を整備することである。 2.研究成果 2-1背景 ナノサイズ炭素系物質は、フラーレンや炭素 ナノチューブの発見以来、物性物理学、化学、 材料科学、電子工学の各分野で大きな関心を呼 び、ナノテクノロジー/ナノサイエンスを基本物 質として脚光を浴びている。これらの物質では、 炭素原子骨格が作り出すπ電子ネットワークの 構造が、フェルミ準位近傍の電子状態を支配し、 系の電子物性を特徴づける。 しかし、ナノスケールサイズのグラフェン(以 下、ナノグラフェン)では、端の環境にある炭素 原子とバルクの環境にある炭素原子の数が同等 であるため、端の効果を無視することはできず、 端の形状がフェルミ準位近傍の電子状態に強い 影響を及ぼす。グラフェンには、『アームチェア 端』と『ジグザグ端』の2種類の特徴的な端の 形状がある。特にジグザグ端は、電子が端に局 在した非結合性分子軌道状態(『エッジ状態』) を形成する。そのため、フェルミ準位近傍にほ とんどフラットなバンドが現われ、非常に大き な状態密度のピークを与える。単層のグラフェ ンでは、フェルミ準位での状態密度はゼロであ ることから、ナノグラフェン/ナノグラファイト の電子物性は、バルクグラファイトとは大きく こと異なり、全く新規な電子・スピン物性を有 する可能性を持っている。また、それらの機能 を活用した新しいデバイスが創製される可能性 がある。 2-2電子輸送特性の解明 ナノグラフェンリボンの量子輸送特性について、 大規模数値計算によって解析を行い、ナノカー ボ ン電子スピン素子を設計するために必要とな る基礎物性を明らかにした。 (1)ナノグラフェンの電子物性は、端の形状に よって大きく変化することが知られている。特 に、ジグザグ端があると、エッジ状態がフェル ミ準位近傍に形成され、ほとんど分散のない平 坦なバンドが現れる。このエッジ状態に起因す るサブバンドのため、バレー間散乱が抑制され る状況では、ジグザグ端をもつグラフェンナノ リボンは、一方通行チャンネルをもつ量子細線 となることを指摘した。この一方通行チャンネ ルの存在によって、ジグザグ型エッジを有する ナノリボンでは、長距離型不純物に対して電子 伝導の影響を受けにくく、完全伝導チャネルを 有することを示した1)。 (2)リボンの幅が異なる二つのナノリボンを接 合する系について、そのコンダクタンスの振る 舞いを調べた。ジグザグ端におきるエッジ状態 にために、低エネルギー領域に、コンダクタン スがゼロになる反共鳴状態が現れる。この反共 鳴状態の出現条件とジャンクション形状の関係 を示した。エッジ形状を制御することによって、 低エネルギーでの伝導特性が制御可能であるこ とを示した2)。 3.今後の研究動向 グラフェンのフェルミ準位近傍の電子状態は 質量ゼロのディラック方程式で記述されること から、グラフェン中の電子はディラック電子と も称される。ディラック電子状態は、ある種の 有機導体や、トポロジカル絶縁体でも出現する と考えられており、今後これらの分野と交流も 活発なると考えられる。 参考文献 1)K. Wakabayashi et.al.: New J. Phys.11 (2009)095016. 2)M. Yamamoto, K. Wakabayashi:Appl. Phys. Lett. 95(2009)082109. MANAにおける研究のあゆみ ―レーザー励起光電子を用いた新規表面分光法の開発― 独立研究者荒船竜一 1.目的・課題 光もしくは電子をプローブとした分光学的 アプローチで表面現象および表面物性を調べ、 得られた知見と技術の工学的活用法を探ること を目的として研究を進めている。特に新奇な表 面分析手法を開発し、これまで「見る」ことが できなかったエネルギー、時間領域における表 面現象を観測することを目指している。 現在、光電子の非弾性放出現象を利用した表 面・界面の振動情報をプローブする手法を開発 する研究に注力している。波長可変レーザーを 励起光として、放出される超低エネルギー光電 子を高エネルギー分解能、高波数分解能、高時 間分解能で分光し、表面吸着種における低エネ ルギー振動モードのダイナミクス、物質界面の 電子状態等を明らかにし、その応用への道筋を つけたいと考えている。 2.研究成果 2-1二光子光電子分光による表面鏡像共鳴 の分散関係 レーザー等によって効率的に励起される超 低速光電子が表面振動素励起との散乱断面積が 高いことをこれまでの研究で見いだしている1)。 しかしながら、その詳細なメカニズムは解明さ れてはいない。系統的な測定、解析によって励 起されるフォノンの波数ベクトルが光励起され た電子の波数ベクトルと一致すること、そのた めに、非弾性励起過程においては、真空準位近 傍に非占有準位が必要であり、双極子・衝突散 乱ではなく共鳴散乱が支配的であると考えてい る2)。しかしこれも推論にすぎず実験的な検証 が必要である。これらの推論を決定づけるため には、固体表面における真空準位近傍の電子構 造の詳細を明らかにする必要がある。しかし非 占有準位を詳細に調べた研究例は少なく振電相 互作用の観点から行われたものはない。 そこで、二光子光電子分光を用いた固体表面 上に形成される非占有準位の電子構造を観測す る研究を開始した。図1に測定結果を示す。試 料はCu(110)表面である。まだ予備的なデータ であるが、非占有鏡像共鳴に由来するピークが 現れていることがわかる。注目すべき点はその 幅がCu(001)表面(この表面では光電子の振動 励起が起こらない。)に現れる鏡像準位のピーク 幅3)にくらべ10倍以上広いことである。この 広いピーク幅は鏡像共鳴が固体表面の電子状態 との混成が強いことを意味しており、この強い 混成が光励起状態における強い電子-格子相互 作用につながると考えている。 図1Cu(110)表面の二光子光電子スペクトル 3.今後の研究動向 今回は金属単結晶表面という解析の容易な系 を選んだが、本質的にはこの手法は試料系を選 ばない。多様な試料に対して本手法を適用する ころによって、励起された電子準位における電 子-格子相互作用を明らかにしていく。 参考文献 1)R. Arafune, K. Hayashi, S. Ueda, Y. Uehara, and S. Ushioda: Phys. Rev. Lett. 95(2005)207601. 2)R. Arafune, M. Q. Yamamoto, N. Takagi, and M. Kawai: Phys. Rev. B 80 (2009) 073407 3)U. Höfer et al.: Science 277 (1997)1480. 元 素 戦 略 セ ン タ ー Ries NA — 元素戦略センターのあゆみ ―我が国の活力源素材技術を支える元素戦略の構築に向けて― 元素戦略センター長 原田幸明 1.目的 限られた資源・地球環境の中で、我々がどの ように資源を利用し物質・材料を使っていくか は、日本だけでなく世界の持続可能性に大きな 影響を与える問題である。またこの問題は、地 球温暖化のためのイノベーションが希少な資源 の逼迫感を強めたり、資源の微小利用につなが るナノ物質化が多くのエネルギーを必要とする など、複雑なトレードオフ関係の中にある問題 でもあり、資源利用や材料開発にはそれらを考 慮した戦略性が求められている。元素戦略セン ターでは、資源利用、材料開発の戦略を構築す るためのもととなる、資源リスクの現状や、そ の評価指標、物質・材料の使われ方やフロー、 蓄積量など現在の状況を把握するためのデータ や情報を整備し発信してきた。 2.活動概要 元素戦略センターのセンターとしての活動は 2009年からであるが、それ以前から「元素戦略 クラスター」として、NIMS内部での元素戦略 関係の横断的連絡組織として活動をしてきた。 センター以前の活動として重要なものは「元 素戦略アウトルック」の作成であり、そこでは、 資源の現状に対しての総括的な情報を整備する とともに、「減量」「代替」「循環」の元素戦略研 究におけるNIMSのポテンシャルを明らかに した。 以降、研究成果に述べるような元素戦略に関 わる資源情報の分析、発信とともに、外部有識 者を組織して元素戦略の次のフェイズのカギと なる事項の検討を進めた。それは 「ベッセマー+200: 2050年の鉄鋼技術」 「希土類磁石のリサイクル技術」 「有機・ナノ ・冶金融合レアメタルの新抽出 技術」 の3つの委員会である。これらは、元素戦略の 調査分析統括ともども、第三期中期計画におい ても元素戦略材料研究センターの活動として継 続される予定である。 3.研究成果 3-12050年の金属消費 世界の資源需要が急増する中でその増加傾向 を予測することは元素戦略にとって不可欠であ る。そこで、図1に示すように、一人あたりの 金属の消費を同じく一人あたりのGDPと関係 づけることによりパターン化し1)、それに基づ いて2050までの金属需要の予想2)を行った。 図1GDPと金属消費の関係のパターン化 図2は、その結果を現有埋蔵量を基準にまと めたもので、多くの金属が現有埋蔵量をはるか にしのぎ、さらに経済限界下の鉱量である埋蔵 量ベースをもしのぐ消費予測になることを明ら かにした。 図2現有埋蔵量に対する2050年の各金属の消費予想 3-2我が国の都市鉱山蓄積 リサイクルを資源確保の観点で位置づけるた めにはリサイクルで確保可能な資源量の把握が 必要である。その第一歩として、国内流入から 海外流出を差し引くという簡単な形での蓄積量 推定を行った。従来は製品としての海外流出量 が見積もれなかったものを、産業連関分析と貿 易統計分析を結びつけることでそれを行った3)。 図3がその結果の一例であり、様々な形で蓄 積されている資源をうまく活用できれば、資源 国の埋蔵量に匹敵する量の金属が国内に分散し ていることが示された。 図3各金属の日本の都市鉱山蓄積ポテンシャル この蓄積ポテンシャルを「鉱山」としていく ためにはより詳細な分析が必要であり、その一 つと して電子製品中のレアメタルの分析を進め た。図4はその一例であり4)、いくつかの金属 の天然鉱山の鉱石品位も図中に示しており、個 別製品においても天然鉱山より優れた資源とな りうる可能性を示している。 携帯電話機の元素構成と天然資源との比較 3-3活力源としての素材産業の重要性を指 摘 世界的な中での我が国の素材産業の位置をつ かむために、国際的なトレードフローと各国の 貿易構造の分析を行った5)。 その結果、図5に示すように20世紀末の我 が国の国際競争力を牽引してきた電子や機械が 低迷する中でこれからどの領域がそれに代わる 役割を果たすかが将来を見通す大きな議論とな っているが、貿易動向の分析の中から、工業素 材(Engineering Material)が1990 年代から 輸出に占める割合を着実に伸ばし、いまや20% 台を超えて機械、電子を凌ぐ割合に達している ことを明らかにした。これは、従来、鉄、非鉄、 化学などに分散していた工業材料関係の分類を 工業素材として整理しなおしたもので、ターゲ ット材、光ケーブルなどとともに非鉄素材など もこれらの伸びに関係している。また図に示す ように、2008年の経済ショック以降も輸出占有 割合という点ではむしろ増加傾向であり、今後 の日本経済にとって“工業素材”が果たす役割 が大きいことを意味している。 図5輸出シェア率の推移 図6国ごとの素材の輸出と輸入 3-4都市鉱山開発の戦略 都市鉱山の開発において、むやみに目の前に あるものをリサイクルするだけでは戦略的対応 はできない。都市鉱山の開発においては、 ①分散の壁 ②廃棄物の壁 ③コストの壁 ④時代の壁 の4つの壁があるとして、その解決の技術およ びシステム面での方向性を明らかにしてきた。 その具体的な取り組みのひとつが、つくば市 とNIMSの協力によるつくば市の小型家電回 収である(図7)。これは、①分散に対する分散 型の処理システムを地域で構築するとともに、 ②安価な分離技術をNIMSが提供指導し、さら に業者との連携の際に問題になる③廃棄物を減 量してリサイクル業者に引き渡すシステムであ る。 図7つくば市の小型家電リサイクルヘのNIMSの協 力6) さらに、サプライチェーンの中で都市鉱山を 位置づけることが、高機能素材を活力源とする うえで必須であることの提言を続けている。 図8サプライチェーンとしての都市鉱山開発7) 3-5代替戦略 代替戦略は、減量、循環とならぶ元素戦略の 重要なアプローチであるが、従来は当面の回避 策として低く見られてきた。それに対し、NIMS の先端研究を結集した「元素戦略アウトルック」 の作成を通じて、“電子・原子構造に基づく機能 代替”という“抜本的代替”の方向を明確にした。 その代表的なもののひとつが、図9のラティス エンジニアリングである。 図9ラティスエンジニアリングの基本概念8) さらに、「動き出したレアメタル代替戦略」を 出版し、元素代替技術の方向性と可能性を広く 明らかにした。 図10動く出したレアメタル代替戦略9) 3-6元素のサステイナビリティ指標 元素戦略を考えるうえで、各元素の現状を把 握できるようにしておくことは不可欠である。 図11はそれを周期表の形でまとめたサステイ ナビリティ周期表である。 図11サステイナビリティ周期表10) この中でも特に重要なものが「資源端重量」 である。資源端重量は関与物質総量(TMR: Total Material Requirement)とも呼ばれ、あ る物質を1kg得るのに何kgの地球資源(その 多くは鉱山の掘削量)を使ったかを表す量であ る。この資源端重量を使うと50gの携帯電話の 中のたった7mgの金が7.7kgもの物質を掘って 得られたものであることがわかり、今後資源採 取の環境コスト等が顕在化してくる中で、リサ イクルの優先度などを決めていく上での重要な 指標となる。この指標は世界でもドイツの Wuppertal研究所とNIMSが算定結果を公表 しており、金属元素を覆っているものはNIMS だけである。 なお、この「資源端重量」をはじめこれまで 公表した材料環境情報データの日本語版は以下 のようになっている。 No.1 金属元素の製錬・精製段階における環境負荷算定 に関する調査 No.2 鉛マテリアルフロー作成のための基礎調査 No.3 我が国における自動車用白金族触媒のリサイク ル動向 No.4 鉄スクラップの消費動向とその拡大技術シナリ オのLCA的検討 No.5 我が国のアルミニウムマテリアルフロー調査 No.6 バイオマスの利活用に関する調査 No.7 中国の非鉄金属リサイクルの動向 No.8 「鉱物資源使用カテゴリー」の特性化係数 No.10 関与物質総量(TMR)の算定-資源および工業材料 の TMR- No.12社会蓄積量の把握に関する専門家意見調査 No.13 Ni,Co,V,REEの現状に対する考察 No.14ナノテクノロジーの倫理・社会影響に関する調査 報告書 No.15 中国のリサイクル・資源利用調査報告 No.16 マテリアルリース社会システムのグランドデザ インの検討 No.17 社会インフラとしての鋼構造物のハイバネーシ ョンストックとしての評価 No.18 資源端重量 4.今後の研究動向 ものづくり・素材技術を経済の活力源として いる我が国にとって元素戦略とそのための情報 の整理・分析は不可欠の要素である。まして、 震災・原発事故という厳しい現状の中で、世界 のサプライチェーンとしての復興が求められる 中、その重要性はますます増している。 その観点から、本研究は、実際の材料開発研 究と結びついた元素戦略材料研究センターのも とで、元素戦略の調査・分析・統括として発展 的に継続される。 参考文献 1)K. Halada, M. Shimada, K. Ijima: ”Decoupling Status of Metal Consumption from Economic Growth” Mat. Trans. 49, 3 (2008)411-418. 2)K. Halada, M. Shimada, K. Ijima:” Forecasting of Consumption of Metals up to 2050” Mat. Trans. 49, 3(2008)402-410. 3)原田、片桐、島田、井島:「都市鉱山蓄積ポ テンシャルの推定」日本金属学会誌、73, 3 (2009)151-160. 4)原田:「地球環境を考慮した元素戦略と都市 鉱山」、応用物理、79, 7(2010)593-598. 5)原田、井島、片桐:「トレードフローでみる 日本素材産業の位置」日本金属学会誌、73,3 (2009)161-170. 6)NIMS記者発表 2011年1月26日 7)原田:「都市鉱山と資源リサイクル」経済同 友会産業懇談会資料2010.12.07 8)『元素戦略アウトルック』NIMS(2007). 9)『動き出したレアメタル代替戦略』原田、河 西:日刊工業新聞社(2010). 10)原田:「資源リスクとサステイナブルな資源 利用への道」日本LCA学会2011講演集、 基調講演(2011). 拠 点 国際ナノテクノロジーネットワーク拠点のあゆみ ―イノベーションにつながる成果の創出を目指した研究施設共用ネットワーク― 拠点長野田哲二 1.はじめに 文部科学省ナノテクノロジー総合支援プロ ジェクト(ナノテク支援;2002~2006年)に 引き続き2007年より文部科学省研究施設共用 イノベーション創出事業ナノテクノロジーネ ットワーク(ナノネット)が、委託事業として 開始された。先のナノテク支援ではナノテクノ ロジーの研究開発で多くの研究者が必要としな がら容易に取り組むことのできない高度な計測 技術や極微細加工技術、分子・物質合成評価技 術を、14の機関が有する最先端の大型施設等を 共用施設として支援してきた。後継のナノネッ トでは、さらに進めて、研究施設・設備の共有 化により、異分野融合、人材育成さらにイノベ ーションにつながる成果の創出を目指している。 また、日本国内どこでもナノテクの研究を可能 にするため、全国の26研究機関が13拠点を形 成して(図参照)、高度な技術支援を提供してい る。 2.組織構成 NIMSは、ナノテクノロジーを活用する物 質・材料研究を効率的に推進するためにナノネ ット事業の受託に合わせて設立した「ナノテク ノロジー融合支援センター」と既存の、「超高圧 電顕共用ステーション」、「強磁場共用ステーシ ョン」とが中心となり、「国際ナノテクノロジー ネットワーク拠点(ナノテク拠点)」を組織し、 外部の研究者へ施設共用、融合的なナノテクノ ロジー支援を実施している。「ナノテクノロジー 融合支援センター」は、東洋大学と協力して多 種類の材料を扱える施設としてシリコンに加え て、化合物半導体材料、有機・高分子材料、生 体材料、さらには磁性金属等も含めた新物質創 製や高性能材料を狙った幅広いマテリアル開発 を行う超微細加工拠点を目指している。「超高圧 電顕共用ステーション」では1000kVの電子顕 微鏡を中心に各種の分析電子顕微鏡によるナノ 計測・分析、「強磁場共用ステーション」では世 界最高性能を有する930MHz-NMR等を極限環 境共用設備として提供している。また、播磨の 共用ビームステーションはSPring-8の日本原 子力研究機構拠点に参画して高輝度光による材 料の構造、組成解析評価を支援している(図参 照)。2009年の利用実績は、大学が85件、公 的研究機関が122件、企業が21件の合計228 件、延べ日数は4785日であった。そのうち共 同研究は169件、装置利用が59件、技術代行 が0件と、共同研究と装置利用がほとんどを占 めた。 更に「拠点運営室」は、ナノテク拠点の取り まとめとともに、ナノネット全体のセンター機 能を役割として、ナノネット総会や成果報告会 開催等の参画機関の連絡・調整および13拠点 のとりまとめ、ポータルサイトとしてのホーム ページ等を活用した各種情報発信、ならびに研 究者の交流促進、人材育成およびシンポジウム 開催などを行っている。 3.主な成果 3-1ナノネット情報拠点としてのホームペ ージ:NanotechJapan ナノテクポータルサイトの役割は、ネットワ ーク参画機関内の情報共有とともに、新たなユ ーザの発掘にある。2010年には英語版サイトの 充実も図った。また、ナノテク情報誌として発 刊しているメールマガジンについては、ナノテ ク支援の JNNB を Nanotech Japan Bulletin にリニューアルし、隔週、国内外に発信してい る。特に、2年わたって特集したグリーンナノ 記事を本にまとめ、2011年2月に「グリーンナ ノテクノロジー(日刊工業出版)」として出版し た。現在、主要成果についても「フォーカス26」 として取りまとめているところである。 3-2研究者交流の場提供としてのシンポジ ウム・ワークショップ開催 毎年2月のナノウイークには、ポスター展示と ともに、総合シンポジウムを開催している。2011 年2月18日の第9回ナノテクノロジー総合シン ポジウムでは「省エネ・環境・資源問題にナノテ クが挑む」の題で、国内外の研究リーダーに先端 研究の動向について講演していただき、約800 名の聴衆を得た。国内外のシンポジウム、ワーク ショップ、研究報告会では、ナノテクノロジー成 果報告会(東京ビッグサイト(2007年度)、九州 大学(2008年度)、北海道大学(2009年度)、京 都大学(2010年度)に加えて、日韓ナノフォー ラム、日瑞ナノバイオ WS、International Nanotechnology Conference (INC)ならびに各 地区での活動等に共催または協力している。つく ばを含む関東地区では、2010年9月に東大にお いてナノテクビジネス協会との合同で、関東地区 参加6機関のナノテクネットワーク紹介を行っ た。さらにイノベーションつくば、埼玉SATEC、 群馬研究センター技術セミナーなどでのシンポ ジムに協力した。 3-3国際交流事業、人材育成 国際交流事業、人材育成に関しては、米国NSF との間での若手研究者交流、米国のナノテク支 援ネットワークである NNIN (National Nanotechnology Infrastructure Network) と の 間での共用施設を利用した学生交換プログラム、 および26機関の支援従事者、特に若手の学術 的・技術的レベルの向上を目標とした拠点間交 流事業を実施している。2010年度のNSFとの 若手交流事業では、「Nanomanufacturing」を テーマに2010年10月3日から10日間、日本 側から15名、米国イリノイ大、ノースウエス タン大、ウイスコンシン大、カルフォニアバー クレー校を訪問し、シンポジウム、施設訪問等 を通じての交流を行った。同年12月4-11日に は米国から10名の研究者がNIMS、東京大学、 京都大学、大阪大学を訪問し交流を深めた。米 国NNINとの施設を利用した学生交流は2008 年から始まり、2010年には米国から9名が NIMSに、日本から5名の学生がジョージア工 科大学、ミシガン大学、テキサス大学にそれぞ れ、夏季約10週間滞在し、最先端ナノテク研 究の研修を行った。さらに、ナノネット参画機 関の支援従事者の技術レベルの向上を促進する ため、2010年度には18名の支援従事者の交流 事業を26機関間で相互に実施している。 4.今後の動向 ネットワークの利用は毎年1000件を超えて おり、2009年度の利用実績は、26機関全体で 1343件、そのうち大学が886件、公的機関が 172件、企業が285件であった。また、得られ た成果として原著論文654件、解説記事56件、 特許出願65件である。26機関の各種情報、研 究成果については、ナノテクポータルサイト 「Nanotech - Japan (https://nanonet.mext.go.jp/)」 から発信されている。平成20年に文部科学省 による中間評価を受け、共用施設が国際的に見 て遜色ないかの検討、支援成果の研究開発加速 への寄与の詳細な追跡の必要性などの指摘も受 けたが、支援活動に関して高評価を得た。ナノ ネットは、参加機関間の緊密の連係のもとにナ ノテクノ ロジー研究支援を効率的かつ効果的に 行ってきた。NIMS拠点は全体運営の中核的役 割を果たしており、2011年3月の東日本大震災 の際においてもネットワークを利用してユーザ に対して素早いバックアップ体制を講じ、シー ムレスの支援を提供している。ナノテク支援か らナノネットにわたって培われたネットワーク は、今後の研究施設共用ネットワーク構築(新 研究システム)のモデルケースともいえる。 文部科学省研究施設共用イノベーション創出事業ナ ノテクノロジー ・ネットワーク参加の13研究拠点 26機関 国際ナノテクノロジーネットワーク拠点 %25ef%25bc%2588https://nanonet.mext.go.jp/%25ef%25bc%2589%25e3%2580%258d ナノ材料科学環境拠点のあゆみ ―計算・計測の基礎・基盤技術に支えられたグリーンイノベーション― 拠点長潮田資勝 1.はじめに ナノ材料科学環境拠点は、文部科学省「ナノ テクノ ロジーを活用した環境技術開発プログラ ム」に応募し採択された課題を実施するために、 2009年度にNIMS内部組織として発足した拠 点(以下、GREENと呼ぶ)である。 GREENは、環境エネルギー問題へのインパ クトが直接的でかつ大きい、太陽光エネルギー から出発するエネルギーフローに関わる一連の 材料技術である太陽光発電、光触媒による燃料 製造、電力貯蔵用二次電池、及び燃料電池を出 口側の対象として、開発指針を与える基礎とな る計算科学手法、及び高度その場解析技術を駆 使して、出口課題の実用化に向けて必要なブレ ークスルーのための共通基盤課題である表面・ 界面現象の理解と制御技術を確立し、飛躍的な 効率向上、安全性改善等の課題解決を目指す。 GREENは、連携の中核機関としてプロジェ クトを統括し、上記環境エネルギー技術の革新 的ブレークスルーを実現する材料基盤技術を確 立するために、次の事業を行う。 大学および産業界からは指導的な研究者を 招聘、NIMSからは新規採用も含めて若手研究 者を中心に集結させ、強力なドリームチームを 形成しつつ、研究開発・人材育成の中心となる 場を整備・提供する。 また、オープンラボ事業として、外部の研究 者がGREEN (一部NIMS)のインフラを共用 することによって、上記革新的ブレークスルー に寄与できる提案を広く募集し、拠点事業のオ ールジャパンへの展開を図る。 研究面では、環境エネルギー材料の機能が発 現する実環境を模擬し、作動・環境条件下での 物質機能を、計算、計測、材料の観点から総合 的に解明する材料基盤技術を確立する。具体的 には、(1)共通基盤課題においては、ナノ界面計 算科学分野では、高度な計算科学的手法を駆使 して、ナノ表面・界面における構造・物性・機 能を原子スケールからメゾスケールまでマルチ スケールに高精度に解析・予測する計算手法を 構築し、エネルギー変換システムにおける普遍 的な動作原理の解明を目指す。また、表界面そ の場ナノ解析分野では、環境エネルギー材料の 機能が発現する環境場を計測解析空間に創製し、 表面・界面における現象を原子レベルからマイ クロスケールに至るマルチスケールで“その場” 計測解析する技術を開発し、ナノ表面・界面現 象の解明を目指す。(2)出口課題においては、電 池材料分野では、最先端電池を対象に、材料間 の接合ナノ界面におけるイオン伝導現象を解 明・制御し、ナノ界面設計によるイオン伝導の 高速化、電池の高効率化を目指す。太陽光利用 分野では、物質による光吸収、材料間のヘテロ 界面における電子移動機構を解明・制御するこ とにより、太陽光利用材料の信頼性向上、低コ スト化を目指す。また、エネルギー変換効率の 飛躍的な向上が期待できる新物質探索を行う。 2.組織構成 NIMS-GREENを中核拠点として、国立大学 法人北海道大学、国立大学法人名古屋大学及び トヨタ自動車株式会社が共同で業務を実施する。 理事長が拠点長を務め、担当理事が副拠点長 を務める。また、海外との連携を睨んでスイス EMPA前理事長を海外連携担当の副拠点長と して招聘している。 研究推進の全責任は拠点マネージャーが負 い、拠点運営総括室長が日常事務管理を行って いる。 GREENの研究組織は、分野毎にコーディネ ータを置いて、分野ごとに設置するグループを 集団指導している。グループリーダーの約半数 は大学などとの兼職、企業等からの転籍をもっ て充てている。 3.主な成果 3-1実システムにおけるナノ表面・界面のモ デル化 TiO2などの水との固液界面における水分子 の振舞い、光励起キャリアの捕捉準位等の光触 媒機構の解明に重要な知見を得た。 Liイオン電池の正極活物質材料として期待さ れるオリビン型酸化物中におけるLiイオンの 拡散過程に関する第一原理解析を実施しLiイ オン空孔による欠陥準位の拡散過程への効果等 を調べた。 3-2表面・界面のその場ナノ解析 高温/ガス雰囲気における原子分解能そ の場表面ナノプローブ計測の開発のために、 光照射場を導入した高分解能STM/STS表 面計測装置を立ち上げた。 TEMその場観察技術として、ガス雰囲気 でのナノスケール材料反応を解析する試料 ホルダーを導入した。 フェムト秒レーザーを光源として可視励 起・近赤外プローブ過渡吸収分光測定シス テムを構築した。これを用いて、ルテニウ ム系色素/TiO2薄膜における電子注入過程 による過渡吸収を測定することに成功した。 3-3高光捕集の色素材料の設計・開発 シアナート単座配位子(NCS-)に対し、 シクロメタル二座配位子を有する新規錯体 色素を、適正なHOMO-LUMO準位をシミ ュレーションによって計算することで、設 計・合成した。本色素は可視光波長領域に おいて、高い外部量子収率を有することが 分かった。 3-4理論計算を取り入れたバンド構造の 設計・制御による新規光触媒の開発 植物の光合成の量子効率に迫る画期的な 酸化力を誇る新規可視光応答型材料光触媒 Ag3PO4の開発に成功した。この材料は 420nmの可視光照射において、水から酸素 を発生する量子収率が90%にも達し、従来 材料の活性を大きく凌いだ。また、理論計 算からはこの材料の高活性が特異なバンド 構造に起因することを明らかにし、今後の 高機能光触媒材料の開発に重要な指針を与 えた。 3-5エピタキシャル成長による固体電解 質 Li3xLa1-xTiO3 基板温度と製膜室内の酸素分圧などを最 適化することにより原子レベルで平坦な表 面をもつLi3xLa1-xTiO3薄膜を作製するこ とに成功した。また、エピタキシャル成長 用基板として、SrRuO3をエピタキシャル成 長させたSrTiO3単結晶基板の作製にも成 功した。 3-6燃料電池材料の電極反応解析 放射光施設内に設置したその場XAFS装置を 用いて、Pt表面上に5nm程度の厚みをもつセリ ア膜を形成した電極の界面反応を解析した。金 属・セリアヘテロ界面では、セリア中のCe3+が Ce4+へと電気化学的レドックスを行い、Ptの身 代わりに酸化されることで、Pt表面の酸化を防 ぎ、カソード反応を向上させることを明らかに した。 3-7プロジェクトの総合的推進 研究ニーズの把握のため、主要企業を招 いたニーズ抽出会議を開催したほか、個別 セミナー等を開催している。 情報発信・交換のため、拠点内でセミナ ーや公開シンポジウムを開催している。こ れらでは、拠点活動を宣伝しつつ、外部と の連携を促進するための工夫を図っている。 オープンラボ事業では初年度の2010年 度では民間企業からの応募2件を含めた6 件を採択し実施した。 ドリームチームの招聘に不可欠となる実 験室等の整備のために、外部施設の借用を含め て整備を進めている。 4.今後の研究動向 2010年度に周辺状況の変化にも対応して、組 織の在り方を見直し、研究の進め方をより柔軟 でより強化するように再編した。詳細は上に述 べたとおりである。 2011年度からは、研究テーマも編成し直し、 外部から第一線の研究者を本格的に招聘する。 したがって、同じ研究分野において、より多様 なアプローチが複数同時並行的に追究され、い わば切磋琢磨し合う環境が現出する。 オープンラボ事業も規模を拡大し、相当数の 外部研究者を短期間招聘するようになることが 期待される。 また、2011年度には新棟が竣工し、2012年 度からは、文字通りUnder-One-Roofで共創場 が実行に移される手筈である。 今後は、つくばイノベーションアリーナ (TIA)のナノグリーン領域の中核機関として も事業展開も課せられ、しかもNIMS内の広範 な先端的設備の共用が進められることで、オー プンイノベーションの一層の展開が期待されて いる。 低炭素化材料設計・創製ハブ拠点の1年 ―2009年度文部科学省低炭素化研究ネットワーク基盤整備事業― 拠点長潮田資勝 1.はじめに 近年、集中豪雨による洪水、湖や緑地帯の砂 漠化、珊瑚礁や氷河の急激な減少、海面上昇に よる陸地の水没、平均気温や海水温の上昇に伴 う生態系の変化等々、地球規模の異変、異常気 象が恒常的に発生し、地球上のあらゆる生物に 脅威をもたらしている。こうした異常気象や 様々な自然災害は、地球温暖化が大きな原因に なっていると考えられ、その温暖化をもたらす 要因として、大気中の二酸化炭素(CO2)の増 加が指摘されている。このため、CO2排出量の 削減(低炭素化)は、世界各国の喫緊の課題と なっている。 2009年度の文部科学省補正予算により、低 炭素化研究ネットワーク基盤整備事業が時宜を 得てスタート致した。本事業では、低炭素化に つながる種々の研究分野で、先進的且つ独創的 な技術シーズを保有する15の大学・独法研究 機関と、これら15拠点を始めとする大学や企 業の低炭素化に関わる研究をサポートする3つ のハブ拠点とからなる低炭素研究ネットワーク (LCnet)を構築し、各拠点における研究を加 速推進することを目標にしている。また、従来、 各研究機関でそれぞれ個別に導入していた装置 を3ハブ拠点に集約し、一連の研究を効率的に 進めることにより、研究設備投資の削減、研究 開発の効率化とスピードアップなどが期待され ている。 NIMSは「低炭素化材料設計・創製ハブ拠点」 として、様々な材料の創製並びに合成、加工、 評価、設計を積極的に支援すると共に、全18 拠点間の研究協力、情報交換、人的交流などの ネットワーク機能の推進においても中核機関と しての役割を果たすことを使命としている。 具体的には、低炭素社会の実現に向け、エネ ルギー再生(創エネルギー)及び省エネルギー を高効率で実現する革新的な物質・材料の開発 が求められている。NIMSでは、LCnetのハブ 拠点として、最先端の物質・材料創製装置群を 整備し、日本全国に展開する15のLCnetサテ ライト拠点を始め、国内の低炭素化に関わる研 究を積極的に支援する。支援内容には、技術相 談から共同研究まで、様々な形態を揃え、利用 者の要望に応えていく。更に、NIMSハブ拠点 では、低炭素研究ネットワーク全体のコーディ ネーターとして、東京大学環境材料・先端ナノ 計測ハブ拠点、京都大学 次世代低炭素ナノデバ イス創製ハブ拠点と共に、全18拠点の研究ネ ットワーク化を推進していく。 2.組織構成 図1に、低炭素化材料設計・創製ハブ拠点 の組織図を示す。潮田拠点長、曽根拠点マネー ジャーの基に運営委員会、更に小出副拠点マネ ージャーの基に、低炭素研究ネットワーク運営 室、材料創製・合成グループ、材料加工グルー プ、材料評価グループ、材料設計・シミュレー ショングループが設置されている。低炭素研究 ネットワーク運営室は、鈴木室長を中心に LCnetのコーデイネートを担当し、各4つのグ ループには森、小出、三谷、および広崎グルー プコーディネーターが配置されている。各装置 担当研究者・エンジニアへのコーディネート役 を担っている。 図1低炭素化材料設計・創製ハブ拠点の組織図 3.主な成果 3-1NIMSハブ拠点装置群の整備 表1にNIMSハブ拠点に整備した装置群を示 す。材料設計・創成拠点として申請するA.材 料創製・合成、B.材料加工、C.材料評価を 実施するための28の装置群を整備を完了した。 また、広範囲な「創エネルギー」・「省エネルギ ー化」材料を含む課題が含まれ、また2010年 度は新規導入装置類の整備と、共用・支援のた めの装置類の本格稼動準備を主に実施した。 3-2プロジェクトの総合的推進 NIMSハブ拠点として最適な運営を行うため、 拠点マネージャーおよびグループコーディネ ーターを中心とした運営委員会を組織して、ハ ブ拠点全体の運営の管理、支援に関する技術的 課題の検討などを行った。2010年度は、グルー プ間の情報共有を促進させ、サテライト拠点の 研究者や外部利用者が手軽に安心して利用で きる拠点作りについて検討を行い、NIMSハブ 拠点の運営に資した。低炭素社会実現に向けた 革新的「創エネルギー」・「省エネルギー化」材 料の設計・創製研究拠点構想において得られた 成果については原則公表とし、今後の拠点事業 の運営に反映させる予定である。 表1低炭素化材料設計・創製ハブ拠点に設置した装置群 材料創製・合成装置群(A装置群) No. 装置名称(ホームページ用) メーカー 型式 担当研究者 1 A1 MBE量子井戸薄膜創製装置 (株)エイコー EV-100 森孝雄 2 A2 放電プラズマ焼結創製装置(高温、高パワー) 双日マシナリー(株) SPS-1080 森孝雄 3 A3 炭素系材料気相成長装置 セキテクノトロン(株) AX5200-S 小出康夫 4 A4 高純度窒化物気相成長装置 (株)エピクエスト SH2001-HTA 小出康夫 5 A5 磁性多元合金スパッタ装置 (株)エイコー 1EK500 三谷誠司/ 宝野和博 材料加工装置群(B装置群) 6 B1 ナノマニピュレーション用電界放出形走査電子顕微鏡 日本電子(株) JSM-7001F/TTLS 宮崎英樹 7 B2 集束イオンビーム加工観察装置(FIB) (株)日立ハイテクノロジーズ NB5000 宮澤薫一 8 B3 電子線描画装置 日本電子(株) JBX-6300FS 三谷誠司 9 B4 微細組織三次元マルチスケール解析装置 エスアイアイ・ナノテクノロジー SMF-1000 津崎兼彰 10 B5 酸化膜ドライエッチング装置 住友精密工業(株) MUC-21 RV-APS-SE 津谷大樹 11 B6 無損傷電子顕微鏡試料薄片化装置 (株)ニューメタルスエンドケミカ ルスコーポレーション Fischione Instruments Model 1040 NanoMill 三留正則 物質・材料創製を補助する材料評価装置群(C装置群) 12 C1 マイクロフォーカスX線CT装置 (株)島津製作所 SMX-160CT-SV3 渡邊誠 13 C2 単結晶X線構造解析装置 ブルカー AXS Smart Apexll Ultra 廣崎尚登 14 C3 顕微ラマン測定装置 (株)フォトンデザイン Jupiter 渡邊賢司 15 C4 機能材料電子スピン共鳴装置 日本電子(株) JES-FA100 松井(新倉)ちさと 16 C5 温度変調型熱分析装置/熱重量-示差熱分析-質量分析同時測定装置 TAインスツルメント Q2000/Q600 川上亘作 17 C6 極低温比熱・電気抵抗測定装置 ロックゲート(株) BF-LD250 平田和人 18 C7 パワーデバイスアナライザ アジレント・テクノロジー(株) B1505A 小泉聡 19 C8 表面・界面物性解析装置 (株)三ツワフロンテック NN―O 4W 後藤真宏 20 C9 飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS) アルバック・ファイ(株) PHI TRIFT V nanoTOF 岩井秀夫 21 C10 実動環境対応ナノ物理分析TEM 日本電子(株) JEM-ARM200F 竹口雅樹 22 C11 蛍光体発光特性評価装置 大塚電子株式会社 MCPD 9800 廣崎尚登 23 C12 ナノ材料評価用カソードルミネッセンス測定装置 (株)日立ハイテクノロジーズ SU6600cL(予定) 関口隆史 24 C13 蛍光寿命測定装置 堀場製作所 FluoroCube UltraFast-3000U 竹内正之 25 C14 走査型ヘリウムイオン顕微鏡 カールツァイス(株) ORION Plus 藤田大介 26 C15 3次元測定レーザー顕微鏡 オリンパス(株) LEXT OLS4000 津谷大樹 27 C16 高圧ガス/蒸気吸着量測定システム 日本ベル(株) BELSORP-HP/BELSORP-max 佐光貞樹 28 C17 触針式表面形状測定器 日本真空(株) Dectak 150 土佐正弘 若 手 国 際 研 究 セ ン タ ー HHP BERS ER NA — 若手国際研究センター ― NIMS の国際化の一翼を担うユニークな若手研究者組織― センター長三浦登 1.はじめに 若手国際研究センター(International Center for Young Scientists,略称 ICYS)は NIMSの国際化の一層の推進を図るため、2003 年度に、文部科学省の戦略的研究拠点育成プロ グラム(Super-COE)のプロジェクトとして発 足した。その目的は世界各国から独創性に富ん だ卓越した若手研究者を集め、画期的な研究成 果をあげようとするものである。ICYSの最大 の特徴は、個々の若手研究者が独立した研究者 として、NIMSの優れた研究施設や環境を利用 しながら、自ら立案した研究テーマ、研究方針 に基づいて主体的な研究を行うことである。そ のためにNIMSは英語に堪能な技術員、事務員 によって技術的、事務的な支援を行う他、年間 一定額の研究費を支給する。これらのサポート によって独立した研究が可能になるが、さらに 研究者が必要とする場合にはNIMS研究者の 中からそれぞれに定められたメンターのアドバ イスを受けることができる。 このような独立した若手研究者の集団の大 きな利点は、異なる国籍、バックグラウンド、 専門、考え方をもつ優れた研究者が一堂に会し 互いに切磋琢磨して、新しいアイデアを創出 し、画期的な成果を生み出すことができるとい う点である。このような研究環境はしばしば Melting pot (溶融るつぼ)と表現され、 “International”, ”Independent”, “Innova- tive”, “Interdisciplinary” という”In” から始ま る4つのキーワードによって特徴づけられてい る。 さらにICYSからは毎年NIMSの正規研究員 が選抜され、キャリア形成プログラムとしての 役割も果たしている。 ICYSは発足以降、非常な成功を収め多くの 成果を生み出したが、2008年度に5年間にわ たるSuper COEプログラムとしてのICYSは 一応終了した。このユニークな研究組織を存続 させるために2008年度からは並木地区の ICYS-MANAと千現地区のICYS-Sengenから 成る新ICYSがスタートした。 2.活動概要 ICYSでは、時によって多少の増減はあるが、 並木地区に14名、千現地区に12名の研究者が 在籍し、研究を行っている。これらの研究者は 年2回の公募によって選ばれる。2008年度か ら2010年度の公募における国別応募者数と採 用実績は表1の通りである。 表12008-2010年度の公募における応募者数と採用 者数 応募者の国籍 国籍 人数 アメリカ 2 イタリア 4 イギリス 2 インド 57 韓国 14 中国 57 チェコ 1 ドイツ 2 日本 37 フランス 6 ロシア 6 その他 48 合計 236 採用実績 募集 応募者数 採用数 2008 105 16 2009 47 5 2010 84 10 合計 236 31 これらの研究者によって多くの成果が得ら れているが、活動実績の指標となる2008-2010 年度の研究発表論文数、特許出願数、インパク トファクター (IF)は表2に示す通りである。 表2 2008-2010年度のICYSの発表論文数、IF値、 特許出願件数、国際会議発表件数 年度 論文数 平均IF値 特許出願 件数 国際会議 発表件数 2008 61 2.967 3 34 2009 51 3.592 5 44 2010 72 3.797 7 39 計 184 3.452 15 117 表3は2003年から2010年までにICYSから NIMSの正規研究員に採用された研究者の数で ある。 表3 ICYSからNIMSの正規職員に採用された 研究者数 年度 人数 2006 4 2007 1 2008 10 2009 2 2010 1 計 18 ICYSでは隔週に行うICYS研究員によるセ ミナーと外部客員研究者による特別セミナーを 開催している。また毎年合宿形式のワークショ ップを行っている。2009年度には水上で、2010 年には万座で開催した。これらの会合では研究 員が互いに研究の狙いや成果を発表し合い、専 門を超えた広い見地からの討論を行っている。 さらに毎年3月にはMANA国際シンポジウム をMANAと共同で開催している。 3.組織構成 ICYSの組織構成は下図の通りである。ICYS 研究員は千現地区、並木地区のそれぞれにおい て支援スタッフから研究遂行上、事務上の支援 を受けることができる。これまでにICYSに採 用された研究員の国別の人数を表4に示す。 図1ICYSセミナー風景 図2万座におけるICYSワークショップ (2011年1月) センター長 (全体総括) 副センター長 千現地区2名、並木地区1名 (ICYS研究員総括) ICYS研究員 千現地区12名、並木地区14名 (それぞれのテーマに従った自主・独立研究) 外国人研究者チーム長 (外国人研究者チーム総括/ 並木地区マネージ) 国際専門職 (外国人チーム国際化対応/ 千現地区マネージ) 千理ICYS研究員対応 業務補助スタッフ 千現ICYS研究員 研究支援スタッフ 並木ICYS-MANA研究員対応 業務補助スタッフ 並木ICYS-MANA研究員 研究支援スタッフ 図3 ICYSの組織図 表4 ICYSに採用された国別研究者数 国籍 2003-2007 2008 2009 2010 計 アメリカ 3 1 4 イギリス 7 1 8 イタリア 3 3 イラン 1 1 インド 4 3 7 ウクライナ 1 1 カナダ 1 1 2 韓国 4 1 5 スイス 2 2 スウェーデン 3 3 スペイン 1 2 3 台湾 1 1 チェコ 2 2 中国 12 5 3 3 23 ドイツ 1 1 トルコ 1 1 日本 4 3 1 4 12 ハンガリー 2 2 ネパール 1 1 フランス 3 1 4 マケドニア 1 1 ヨルダン 1 1 ロシア 1 1 合計 58 16 5 10 89 4.研究成果 ICYS研究者の研究成果は多岐にわたってい るが、ここでは参考のために代表的な研究4編 を選んで紹介する。 4-1 Spray deposition of CIGS nanoparticles for cheap and efficient solar cells By Jesse Williams (USA) We are studying ways to produce Cu(In,Ga)Se2 (CIGS) solar cells through wet bench processing. Previously, there has been considerable research towards wet bench CIGS films, but the film composition and microstructure have limited the performance of these cells. We intend to solve these problems by creating CIGS nanoparticles with controlled stoichiometry, and then spray depositing these nanoparticles with a technique that forms dense thin-films. We fabricate CIGS nanoparticles using a thermal reflux process where CuCl is mixed with In, Ga, and Se powders in tetraethylene glycol. The process is very simple and the reaction is completed within 24 hours. Since no residual reactants or second phases are present after the reaction, the stoichiometry of the nanoparticles is dictated from the ratio of reactants. The nanoparticles are then spray deposited via aerosol deposition. Aerosol deposition uses an inert carrier gas to deposit the nanoparticle with high velocity. Densified films are formed through a process called room temperature impact consoli­ dation. Thermal reflux for nanoparticle synthesis combined with aerosol deposition for thin- films is a convenient route to low cost CIGS solar cells since both methods are scalable, while still maintaining control over the film stoichiometry and morphology. 4-2 Nanomechanical Membrane-type Surface Stress Sensor By Genki Yoshikawa (Japan) Highly sensitive nanomechanical membrane- type surface stress sensor (MSS) has been developed based on a comprehensive optimization of a piezoresistive cantilever sensor, breaking the bounds of common practice of “cantilever”. The MSS is not a simple “cantilever”,rather it consists of an “adsorbate membrane” suspended by four piezoresistive “sensing beams”,composing a full Wheatstone bridge. The analyte-induced isotropic surface stress on the membrane is efficiently transduced onto the piezoresistive beams as an amplified uniaxial stress. Experimental evaluation of a first prototype MSS demonstrates a high sensitivity which is a factor of more than 20 higher than that obtained with a standard piezoresistive cantilever and comparable with that of optically read-out cantilevers. Furthermore, the finite element analyses indicate its high potential for further enhancement in sensitivity up to several orders of magnitude just by changing the dimensions of the adsorbate membrane and sensing beams. Since the MSS measures surface stress which is basically induced by steric repulsion of adsorbed analyte molecules, it can detect virtually any kinds of molecules under various conditions including liquid, gas, and vacuum environment. In addition, it can be miniaturized and integrated with a multi-dimensional array by batch fabrication with its CMOS compatibility, and can be also used in opaque liquids, such as blood. Therefore, it is expected to open a new era of sensors for various fields including medical, biological, security, and environmental applications. 4-3 Element Strategies to Reduce the Use of Platinum in Functional Protective Coatings by Nano-oxide Substitution and Computational Design By Rudder Wu (Canada) At ICYS, I have been applying both experimental based approaches and First Principles Molecular Dynamics (MD) simula­ tions to reduce or substitute the use of platinum group metals (PGMs) in high temperature materials and coatings. I have successfully developed a low-Pt coating and a Pt-free equilibrium coating to suit different industrial applications. Under standard testing conditions, both coatings have ex­ hibited excellent oxidation-resistance and interfacial adhesion properties, exceeding many of the current industrially-used coating materials. Fundamental knowledge acquired from this work has been published in both scientific journals and a co-authored book (Thermal barrier coatings, Woodhead Pub­ lishing United Kingdom). Precious metals such as Platinum group metals (PGMs) are widely used in high temperature and func­ tional coatings to achieve high energy­ conversion efficiency (up to 62 %) in advanced power-generation gas turbines and aero­ engines systems. However, it should be realised that the extraction and refining of platinum require high energy consumption, induce environmental damage and produce significant amount of CO2. With the Pt-free coating developed at ICYS, it is possible now to achieve high energy conversion efficiency while avoiding the use of rare-earth and precious metals in the applications mention­ ed above. 4-4 Revolutionize electron microscopy with nano-structured LaB6 field emission point source By Han Zhang (China) I have developed a new type of field emission electron point source for use in the next generation electron microscopes. My research started from “growing” LaB6 nano-meter sized needles (nanowires) using a chemical method. The electron source is built with a W needle at the tip of which a single LaB6 nanowire is “welded”. The apex of the LaB6 nanowire tip has been “machined” to form a facet with a few tens of La atoms at the outmost layer. Because these La atoms have a very low work function (almost half as compared to W), they generate an electron beam with higher brightness and lower energy spread as compared to the convention­ al W-based field emitters. The electron beam from this novel nano-facet emitter is highly localized with good efficiency like in the case of Schottky emitters. Unlike Schottky emitters, the LaB6 nano-facet emitter does not require high temperature heating, which sacrifices source brightness and beam mono­ chromaticity. The unique nanometer-sized geometry also helps to inhibit adsorption migration on the emitter body, which gives much better emission stability as compared with conventional W cold field emitters. 5.今後の展開 ICYSは最初にスタートしてから8年を経た 今日では、組織としても定着し、ICYS研究者 はもとよりNIMS全体にその理念がよく浸透 していると思われる。ICYS研究者があげてい る研究成果はたいへん立派なものであり、また 多くの若手研究者がICYSを経てNIMS本体を 始め世界中の一流研究機関に迎え入れられてい ることは、ICYSが非常に成功していることを 物語っている。この制度が世界的にもよく周知 されてきて、毎年2回の頻度で行われる公募に は非常に多数の優れた応募者を得ていることは 真に喜ばしいことである。 今後の課題として上げられることは、応募者 の国別の分布に若干偏りが見られることである。 真に国際化や多様性を目指すには、より多くの 国から優秀な研究者を集めることが望ましい。 そのためには、NIMSとつながりの深い研究機 関や、国際連携に熱意のある優れた研究機関と の連携を深めていくことが重要である。いった ん海外にいくつかの拠点ができれば、ここから さらに協力の輪が広がり、国際的な研究ネット ワークが構築できると期待される。また各国で 活躍中のICYSのOB/OG研究者との協力もこ のような国際協力には不可欠と思われる。 今後ともNIMS本体やMANAとのより緊密 な連携を強化してNIMSが誇るこのユニーク な組織を強化発展させていきたい。 ク ラ ス タ ー OX NnK A= 腐食クラスターのあゆみ ―世界腐食ネットワークをめざして― マネージャー篠原正 1.はじめに 腐食クラスターは、グループやユニットを超 えて腐食専門家の知見を結集することによって、 各プロジェクト研究で直面する腐食に関わる問 題を解決するとともに、各人の研究も活性化さ せることを目指して、2007年から準備をはじめ て、2008年4月に設立された。 2.組織構成 腐食クラスターは、発足当初(2008年4月) 14名でスタートし、2011年3月末時点では材 料信頼性センター(3名)、材料信頼性萌芽ラボ (2名)、新構造材料センター(2名)、ハイブ リッド材料センター(1名)、次世代太陽電池セ ンター(1名)、生体材料センター(2名)、国 際室(1名)で、腐食・防食に関連する研究に 携わるメンバー12名で構成されている。この人 数は、一つの研究機関としては国内でも有数の 規模である。 3.主な成果 3-1大学・研究機関との交流 米国ヴァージニア大学(UVA)およびタイ金 属・材料技術研究所(MTEC)とMOUを締結 した。これらを含め、マックスプランク金属研 究所、北京科学技術大学(National Center for Materials Service Safety: NCMS)、北海道大 学と研究者の交流(ワークショップやシンポジ ウムの開催)を積極的に行った(表1)。また、 それら大学・研究機関を含めて、海外の学生を 研修生として積極的に受け入れた。 表1大学・研究機関との交流の例 集 会 開催時期 NIMS-UVA Workshop '08年1月 '08年12月 NIMS-MTEC ACM Sensor Workshop ’08年7月 NIMS-Max-Plank Coating Workshop '09年3月 NIMS-NICMS Corrosion Seminar '10年3月 '10年10月 NIMS-北海道大学 腐食シンポジ ウム '10年12月 ’11年1月 3-2アジア地区での大気腐食(各国からの統 一規格化されたデータ収集) アジア地域の多くは、高温多湿な気候にあ り、金属の腐食劣化問題は非常に深刻なもの である。近年、アジア各国においては、橋梁、 ビル、鉄道等の鉄鋼構造物の建設が急ピッチ に進められており、これらの腐食劣化対策が急 務となっている。そのためには、各環境におけ る腐食劣化の進み具合を標準化された方法で調 べる必要がある。環境腐食性分類法は、現在、 ISO 9223で規定されているものが主流となっ ており、これは、全世界52箇所で実施された直 接暴露試験(雨がかかる状態で、南斜め上向き に暴露)結果をもとに、各種金属の腐食量を6 段階に分類する手法である。しかし、暴露場は ヨーロッパ地域が中心になっているため、アジ ア地域に適した評価・分類法の規格化が強く望 まれている。そこで、アジア各国で大気腐食の 研究に携わっている研究者と連携を図り(図1)、 各国の大気腐食に関する情報交換を行い、アジ ア地区での大気腐食ネットワークを構築しよう としている。アジア各国で共同暴露試験を開始 し、タイMTECとの暴露試験はすでに3年を経 過している。また、2008年よりワークショップ を年1回ずつ開催しており、2010年11月には8 つの国と地域(中国:2名、台湾、ベトナム、イ ンド、タイ、フィリピン、ネパール、日本)か ら9名の研究者による発表があった(図2)。 3-3腐食クラスター・ワークショップ 腐食は、種々の環境中で、様々な形態(遅れ 破壊、すきま腐食、応力腐食割れ、腐食疲労、 など)を伴って生じる。こうした腐食劣化に対 して、水素および水素イオンは重要な役割を果 たしている。しかし、水素の検出・測定法が限 られているため、その役割は詳しく論じられて こなかった。こうした中、材料信頼性萌芽ラボ・ インテンス研究グループから、 表面電位測定に より水素分布を実時間的に測定できる画期的な 技術が提案された1)。 そこで、そのような水素 および水素測定技術に再度着目し、腐食反応、 材料劣化に及ぼす水素および水素イオンの役割 解明を通じて、腐食劣化に関する余寿命予測を 理論的に行う基盤技術を確立しようとしてきた。 こうしたNIMS内での研究動向と海外研究機関 との情報交換を行うため、表2のようなワーク ショップを開催した(表2中1.)。 一方、NIMSでは、ボイラーやエンジンなど の高温で使われる金属材料やそれを守るための コーティング、あるいは機能性材料としての電 気・電子材料の研究が多くなされており、これ ら研究者に向けての腐食劣化に関するワークシ ョップを企画した(表2中2.および3.)。 表2開催した腐食クラスター・ワークショップ 1.水素に着目したもの Effect of Hydrogen Localized Corrosion '08年7月 ’09年9月 2.高温腐食 High Temperature Corrosion and Protection ’09年4月 3.電気・電子材料 Environmental Deterioration of Electronic Devices '10年1月 3-5腐食に関する相談への対応 当腐食クラスターの構成員は12名と多く、ま たその研究対象分野(材料、環境、防食対策、 など)も広いので、研究成果を含めた腐食に関 する知識をもとに、腐食損傷に関する事例解析、 事故調査にも積極的に関わってきた。そうした 中には、海外の新幹線での腐食事例調査、腐食 環境調査の依頼があり、現地調査、再現試験等 を行った。 4.今後の研究動向 省資源、省エネルギーが世界共通の目標とな った現在、腐食挙動を把握しその予寿命を正確 に推定すること、あるいはその情報をもとに適 切な防食手段を講じて腐食による損失を防止す ること、が一層重要となっている。水素は腐食 損傷の中で重要な役割を果たしているので、こ れに着目した研究が重要になってきている。 アジア各国における社会資本の整備に伴い、 これらの腐食劣化対策のために、大学、研究所 に事例解析の研究室を設置するところが増えて いる。そうした事例解析研究室との連携を強め、 研究者の受け入れだけでなく、現地へ出向いて 実験手法等の指導を行うことは、我々の研究活 動の活発化にもつながっていくと考えている。 参考文献 1)NIMS NOW, Vol.8, No.7(2007)p.7. 日本国内:1.NIMS 2.韓国 中国:3.金属研究所、 4.北京科技大 5.台湾、 6.フィリピン(フィリピン腐食学会) 7.ベトナム(材料研究所)、 8.タイ(MTEC) 9.ネパール、 10.インド(Anna大学) 11.サウジアラビア(King Abdulaziz大) 図1アジア地区との連携(国と地域もしくは機関、 赤:連携、青:共同暴露試験実施) 図 2 “Corrosion Cluster Workshop on Atmospheric Corrosion in Asian Area” (2010 年11月)の 集合写真 電子顕微鏡クラスターのあゆみ ―TEM関連研究・材料応用研究を国際的トップレベルにする体制を目指して― マネージャー竹口雅樹 1.はじめに 電子顕微鏡クラスターは、NIMSにおける透 過型電子顕微鏡(TEM)関連研究・材料応用研 究を国際的トップレベルにすることを目的に、 TEMの共用装置および先端装置の整備、運営 および材料研究への応用・支援を行うため2008 年04月01日に発足した組織である。 2.組織構成 電子顕微鏡クラスターは、NIMS内TEM専 門定年制研究職員とTEM専門定年制エンジニ ア、派遣職員、任期制職員(研究業務員と事務 業務員)から構成された。研究職員は全て併任 所属であり、発足当初で5名、2010年度途中 で6名となった。研究職員のうち1名が全体を 統括するマネージャー職にあたった。エンジニ ア職は3名で、発足当初は千現地区担当2名、 並木地区担当1名であったが下述の単原子分析 電子顕微鏡導入にあたって2010年度に千現地 区担当エンジニア1名が並木に移った。研究職 員は超先端電子顕微鏡(単原子分析電子顕微 鏡)の開発と電子顕微鏡クラスター運営方針協 議、電子顕微鏡クラスターへの依頼分析や技術 相談に関するコーディネータ業務を行った。エ ンジニア職員はユーザー講習や装置維持管理、 依頼分析対応業務などを行った。派遣職員と研 究業務員はエンジニア職員の様々な業務の補助 を行った。すなわち日常的な共用TEM維持管 理・運用はエンジニア職・派遣職員・研究業務 員であたった。 3.経緯と成果 TEMは原子レベル分解能構造観察・分析・ 物性評価を同時に行いうる唯一の計測評価技術 である。そのためTEMのイメージング・分析・ 解析技術の向上は、物質・材料の新しい知見の 探求と密接にリンクしており、材料研究・ナノ 研究・バイオ研究分野で必要不可欠であり最も 広く用いられているツールの一つである。 NIMSが「物質・材料の研究」において世界の トップであり続けるためには、TEM技術は常 に最先端・世界一である必要がある。金属材料 技術研究所・無機材質研究所時代から現在に至 るまで、NIMSのTEM研究グループでは、TEM の基盤技術・要素技術の研究開発を世界レベル で展開してきた。 しかしながら、電子顕微鏡クラスター発足以 前の状況として、2002年以降NIMSでは材料 研究者とコラボレーションできるような共通的 な使い方に耐えかつ世界トップデータを出せる ような超先端TEMが導入されておらず、世界 を見渡して見劣りするようになってきていた。 また共用装置としての汎用TEMは、TEMの 専門家ではない材料研究者が管理業務を行って いたが戦略的・効率的な導入や運用ができる体 制になっていなかった。また、高度解析手法を 適用可能な共用TEMはさらに少なく、あった としても材料研究者自身ではそれらのデータを 出すことができない場合がほとんどであったに も関わらず、それを実施する枠組みもできてい なかった。 一方、世界の趨勢はTEMを中心とした先端 計測機器のセンター化であり、資金と人員、技 術の集中・効率化が進められ、センターには収 差補正型の超高性能TEMが導入され、材料研 究者とのコラボレーションによってトップデー タが得られていた。そこでNIMSとしては2007 年7月に電子顕微鏡委員会(竹口 ・木本・原) を立ち上げ、海外・国内の電顕センターの動向 調査(国内外10機関)、NIMSの現状調査、将 来像の素案検討を行った。そしてTEM関連研 究・材料応用研究を国際的トップレベルにする 体制を作るべく、2007年10月に総合戦略室下 の組織として電子顕微鏡クラスター準備チーム (竹口 ・木本・原・三石・三留)を作り、世界 の動向調査とNIMS将来像に関する報告書を とりまとめるとともに電子顕微鏡クラスター設 立準備を行った。 2008年に電子顕微鏡クラスターが発足する と、共用TEMの新規整備(2台)・廃棄(1台) を行うとともに千現地区のTEM試料作製室を 整備した。また超先端電子顕微鏡(単原子分析 電子顕微鏡)の開発をスタートさせた。2009 年には千現の収束イオンビーム試料作製装置の 更新を行い、また並木地区にある超高圧電子顕 微鏡を廃棄して単原子分析電子顕微鏡の導入準 備を進めた。そして2010年には単原子電子顕 微鏡が設置され(図1)、NIMSはこの世界最高 レベルの超先端電子顕微鏡によって、材料研究 者にトップレベルのデータを提供できる体制を 持つことができるようになった。 共用TEMに関しては、新規共用TEMの運 用が始まると利用ユーザー数はうなぎ上りに増 加し2008年度末で約100名、2009年度末以降 は約200名となった。ほとんどのTEMは稼働 率が90%近い状況が続いており、上級ライセン ス保持者も増加している。 それ以外にも人材育成にも力を入れ、2009 年1月および2011年2月にNIMS内研究者を 対象に電子顕微鏡クラスターの案内とTEM基 礎講座・ TEM応用研究事例紹介などのワーク ショップを開催した(図2)。2011年2月は人 材開発室との共催で行い、初心者へのTEM・ 試料作製の実習も行ってNIMSの材料研究者 へのTEMスキル習得のきっかけ作りも行った。 4.今後について 本電子顕微鏡クラスターは、本中期計画後半 の3年(2008年度から2010年度)でその役目 を終え、2011年度からは、主に外部共用・支援 を行う組織であった超高圧電子顕微鏡共用ステ ーションと統合し、新たに電子顕微鏡ステーシ ョンとして、最先端電子顕微鏡技術・手法開発 研究を行うと同時にこれら開発技術・手法を生 かすべく NIMS内部研究者と外部研究者に対 して共同研究から共用・支援までを一括して行 う組織となる計画である。 図1単原子分析電子顕微鏡(2010年導入) 図2人材育成TEM研修(実習)の様子 Learning from Natureクラスターの2年8ヶ月 ―自然から学ぶナノテクノロジー― マネージャー細田奈麻絵 1.はじめに 新素材開発から見た天然素材や生物の魅力 は独特な微細構造が生み出す機能や環境負荷の 低い物質を無駄のないプロセスでつくる手法な どにある。こうしたしくみは、ナノテクノロジ ーに大きなヒントを与え、環境低負荷技術開発 のブレークスルーになるだろう。本クラスター は、自然から学ぶことをテーマに、異分野の研 究者によるネットワークを通じて、その基礎を 究め、新しい材料科学を探索することを目標に 2008年に設立された。農学分野との融合を目指 したコラボレーションや世界の著名な科学者を 交えてのワークショップ、社会への発信を目的 に科学雑誌に特集号を企画編集し、生物や天然 素材の材料工学的データベース構築化への取り 組みをスタートし、webを通しての情報発信な どを行っている。 2.組織構成(19名) ① 垣澤 秀樹(ハイブリッド材料センター) ②河原林薫(ハイブリッド材料センター) ③菊池正紀(生体材料研究センター) ④ 小林尚俊(生体材料研究センター) ⑤齋藤 紀子(センサ材料センター) ⑥ 重藤 暁津(ハイブリッド材料センター) ⑦下村政嗣(アドバイザー/東北大学) ⑧田口哲志(生体材料研究センター) ⑨ 武田 浩太郎(国際ナノアーキテクトニクス 研究拠点) ⑩田村 堅志(光触媒材料センター) ⑪中澤弘基(フェロー) ⑫中西尚志(ナノ有機センター) ⑬中山知信(国際ナノアーキテクトニクス研 究拠点) ⑭ 不動寺 浩(光材料センター) ⑮ 細田奈麻絵(ハイブリッド材料センター) ⑯ 森本 和也(光触媒材料センター) ⑰ 山田裕久(光触媒材料センター) ⑱吉川千晶(国際ナノアーキテクトニクス研 究拠点) ⑲渡邉克晃(ナノ計測センター) 3.主な成果 3-1セミナー、ワークショップの開催 自然界のアイデアを学び技術に結びつける セミナー、ワークショップを開催した。 取り上げたテーマと講師 ① Biologically Inspired Design. Prof. Jeannette Yen, Director, Center for Biologically-Inspired Design, Georgia Institute of Technology ② Development of Tissue Adhesive for Biomedical Applications. 医学応用のための組織接着剤の開発 Assoc. Prof. T.Taguchi, Biomaterials Center, NIMS (3) Activation of bone-related cells cultured on bone-like hydroxyapatite/ collagen nanocomposite. 骨類似水酸アパタイト/コラーゲンナノ複 合体上で培養した骨系細胞の活性化 Dr. M. Kikuchi, Biomaterials Center, NIMS ④ Toughening of ceramics base materials inspired by nature. 真珠層に学ぶセラミックス基材料の高靭化 Dr. H. Kakisawa, Composites and Coatings Center, NIMS ⑤ Biologically inspired joint. 生物から学ぶ接合 Assoc.Prof. N.Hosoda, Advanced Nano­ Materials Laboratory, NIMS ⑥ Biologically-inspired materials: A biologist's perspective. Prof. Marc Weissburg, Co-Director, Center for Biologically- Inspired Design, Georgia Institute of Technology ⑦自然科学に学ぶ 畑田賢造博士 代表取締役、(株)アトムニ クス研究所 ⑧ カイコの遺伝子組換えによる絹タンパク 質改変 小島桂博士、(独)農業生物資源研究所絹 タンパク素材開発ユニット ⑨ 生物から学んだセラミックの低温合成 齋藤紀子博士、(独)物質・材料研究機構 センサ化学ブループ ⑩バイオミメティック・エンジニアリング と自己組織化マテリアル 下村政嗣教授、東北大学多元物質科学研 究所 ⑪混合層粘土鉱物の産状と成因 井上厚行教授、千葉大学 ⑫ 四国の層状マンガン鉱床の産状とその成 因 中川昌治教授、高知大学 ⑬生物の水中接着物質を考える 紙野圭博士、(独)製品評価技術基盤機構 ⑭ 発電所の付着生物被害とその対策 野方 靖行博士、(財)電力中央研究所 環 境科学研究所生物環境領域 ⑮フジツボに対する抗付着ゲルの創製 室崎喬之博士、北海道大学大学院先端生命 科学研究院 ⑯地球史的生命の起原の話 中澤弘基博士 (独)物質・材料研究機構 ⑰珪藻の殻の作られ方 真山茂樹教授東京学芸大学生物学教室 ⑱バイオミネラルにならう材料合成 緒明佑哉准教授、慶應義塾大学理学部応用 化学科 3-2異分野交流(見学会) ・(独)農業生物資源研究所 絹タンパク素材 開発ユニット (小島桂博士、カイコの遺伝子組換) ・秋田県立大学生物資源科学部応用生物化学科 (岡野桂樹教授、キプリス幼生の付着機構) 3-3社会に発信1 生物や天然素材をヒントにしたものづくり の推進を目的に、クラスターでは科学専門誌 STAM (Science and Technology of Advanced Materials)の特集号として自然から学ぶ新素 材開発の編集企画を行っている。 特集号で扱うテーマ ①環境修復ジオマテリアル ②バイオミメティックアプローチによる構 造色 ③生体の構造と力学特性 ④生体のもの造り(骨) ⑤バイオミネラル ⑥接着及び生体と被着体の界面 3-4社会に発信2 ①ホームページを作製し情報発信 アドレス:http ://www. nims. go.j p/lfn. cluster ② 生物や天然素材の材料工学的データベー ス構築の取り組みをスタート。 3-5個別の研究課題 8つの個別テーマを行なった。 ① 魚や虫の体色から学ぶ構造色(新しい構造 色、魚の変色構造を利用した歪センサーの開 発) ②アワビの真珠層の構造から学ぶ無機・有機 複合構造(高靭性材料の創製) ③バイオミネラリゼーションに学ぶセラミッ クス合成(セラミックスの低温合成) ④生物的プロセスで骨を作る(有機無機複合 構造) ⑤細胞間の接着剤 ⑥落葉・虫・爬虫類から学ぶ可逆的接着(循 環型ものづくりへ貢献) ⑦脳を創る ⑧ 生物的プロセスで骨を作る(有機無機複合 構造) 4.今後の研究動向 今後のエネルギー不足、気候変動、環境汚染 の対策として、バイオミメティクスを基本とし た環境低負荷技術開発は今後益々重要となる。 日本におけるバイオミメティクスの産業への展 開には生物や天然素材の材料工学的データベー ス化は不可欠でありクラスターでの取り組みを 今後も進めるとともに、具体的な研究課題(3-5 参照)を推進し、材料科学と農学を融合した新 分野を切開く取り組みを行う。 個別研究課題の対象生物と天然素材 構造材料国際クラスターの2年 ―構造材料研究者間の連携強化と原理原則に基づく材料設計への回帰を目指して― マネージャー大村孝仁 1.はじめに 構造材料国際クラスター (International Cluster for Structural Materials: iSM)は、構 造材料研究に携わる15名の若手研究者で構成 され、2009年6月に発足した。多様化・高度 化する材料開発へのニーズに応えるためには、 異種材料の組み合わせや、従来の経験則から脱 却した原理原則に基づく材料設計が必要であり、 高性能材料を具現化する新たな指導原理が求め られている。対象材料、特性、手法の異なる研 究者間の連携を深めることにより、構造材料研 究の新機軸を確立して、次世代の材料研究に貢 献することを目指して活動を行った。 2.組織構成 クラスターマネージャーを含む15名のメン バーはすべて併任であり、本務所属組織は、新 構造材料センター(4名)、材料信頼性センター (4名)、ハイブリッド材料センター(3名)、 ナノセラミックスセンター(1名)、材料信頼性 萌芽ラボ(2名)、環境・エネルギー材料萌芽ラ ボ(1名)である。クラスターに助言を与える メンターを3名配置し(環境・エネルギー材料 領域長井領域コーディネーター、新構造材料 センター 津﨑センター長、データーシートス テーション木村ステーション長)、的確な指針 を示しながら活動を展開した。 3.主な活動成果 3-1定期コロキウム、セミナーの開催 構造材料研究者の相互理解と連携強化を目的 として、NIMS研究者を主な講演者とするコロ キウム(談話会)を毎月1回程度の頻度で計15 回開催した。また、国内外の著名な研究者を招 いて開催するセミナーを不定期に8回開催した。 セミナーへの招聘者は以下のとおりである。 2010/5/7: Prof. J.W. Morris, Jr. (UC Berkeley) “Mechanical Behavior at the Limit of Strength” 2010/7/9: Prof. D. Brandon (Israel Institute of Technology) “Meeting great men -Cambridge, 1955-1965-“ 2010/7/20: Prof. T. Nakamura (State University of New York at Stony Brook) I. “Investigation of I-35W Minneapolis Bridge Collapse” II. “Direct-Write Sensors to Monitor Fiber-Reinforced Composites Damage” 2010/7/29: 中尾航助教(横浜国立大学) “自己治癒材料研究の現状と今後の展望” 2010/10/28: Prof. D. Young (University of new South Wales, Australia) “Current Challenges in High Temperature Oxidation and Corrosion” 2010/11/12: Prof. R. Thomason (Loughborough University) “Microstructural Evolution in High Temperature Steels and Coated Superalloys for Power Plant Applications” 2011/1/31: Dr. W.C. Oliver (Nanomechanics.,Inc) “Mechanical Properties Mapping: Fact and Fiction” 渋谷陽二(大阪大学教授) “Nanoindentation as Inspection Tool of Defects Interaction” 平方寛之(大阪大学准教授) “Fracture in thin films, nanocolumns and their interfaces” 高木秀有(日本大学助教) “Creep Characterization of Power-Law Materials using Instrumented Indentation Testing Method” 2011/2/25: 田村学(防衛大学名誉教授) “耐熱鋼における微細析出物” 3-2 MOUの締結 主要な海外研究機関との連携強化を目的とし て、以下の3機関とMOUを締結し、相互交流 の活動を行った。 (1)National Center for Materials Service Safety (国家材料服役安全科学中心: NCMS) Univ. Sci. Tech. Beijing (北京科学技術大 学:USTB), China テーマ:Fundamental studies on the microstructures and mechanical properties of structural materials 締結日:2009年7月11日 (2)Materialprüfungsanstalt Universität Stuttgart (MPA), Germany テーマ:Optimisation, characterisation and processing of advanced structural steels 締結日:2009年10月8日 (3) Centro Sviluppo Materiali S.p.A. (CSM), Italy テーマ:Evaluation of mechanical property and microstructure of advanced structural materials 締結日:2009年10月12日 3-3ワークショップ・シンポジウムの開催 (1)第1回 NIMS-USTB Workshop on Materials Performance and Safety 日時:2010年3月8, 9日 場 所:USTB, Beijing, China データシート、データベースの整備に関する NIMS-USTB二者間の連携の場として開催した。 (2) 8th NIMS-MPA-IfW Workshop 日時:2010年3月24, 25日 場所:NIMS千現地区 耐熱鋼の最新技術の情報交換、研究開発の議論 の場として、定期的にNIMS-MPA二者間で開 催しているワークショップをクラスター主催で 行った。 (3)構造材料国際クラスター第一回シンポジウム 日 時:2010年4月26, 27日 場所:NIMS千現地区 本シンポジウムは、学協会・産業界とNIMS の若手構造材料研究者、双方で最新の研究成果 やその産業応用などに関する議論と交流を深め、 我が国の構造材料研究の一層の活性化を目的と して、(社)日本金属学会、(社)日本鉄鋼協会 など国内8学協会が協賛して開催した。 NIMSでは、「構造材料」に関する研究が数 多く推進されているが、それらの内容が同一の 機会に発表されるのは初めての試みであり、31 件の講演に加えて19件のポスター発表(30歳 前後の若手研究者による)が行われ、2日間で 158名(NIMS外参加者45名)の参加者を迎 えて活発な議論が行われた。 ポスターセッションでは、力作ぞろいの中から、 優秀ポスター賞3編と学生・院生ポスター賞2編 が選ばれた。受賞者と発表内容は以下の通り。 【優秀ポスター賞】 小島真由美:応力分配からみた加工硬化 Zhang Ling : In-situ observation of deformation by nanoindentation in TEM 長田俊郎:タービンディスク用Ni-Co基鍛造超 合金の粒成長機構 【学生・院生ポスター賞】 関戸薫子:鋼の変形挙動における固溶Cの影響 小山元道:Fe-Mn-Si-C形状記憶合金の金属組 織に及ぼすSiの影響 多くの参加者を集めた講演会場 3-4広報誌の発行 (1)パンフレット 構造材料研究者の研究 内容を紹介するパンフレ ットを発行した。様々な 専門を持つ42名の若手 研究者が、それぞれの研 究テーマについてわかり やすく説明している。 (2)NIMS NOW特集号 NIMS NOW 誌の 2010 年9月号に構造材料研究 の特集が組まれた。10編 のトピックス紹介と2編 の研究ハイライトが紹介 された。 有機デバイスクラスターのあゆみ ―何が課題かを理解した。次は解決への段階― マネージャー堀池靖浩 1.はじめに NIMSでは、今後重要度が増すと考えられる 研究分野について、様々な振興策を通じて活性 化する一環として、「有機デバイス」と題した 新たなクラスターが2009年9月に組織された。 対象とする研究領域としては、太陽電池を除く 有機物を使った電子デバイスや光デバイスなど に関する研究である。具体的には、グラフェン、 導電性高分子等に関しての基礎研究、有機トラ ンジスタ、OLED、有機EL、液晶、電子ペー パー といったデバイスなどの応用を見据えた研 究などを想定し、その発展に不可欠な基礎の確 立を目指した。以上の研究分野におけるNIMS 内の研究は分散気味に進められていると認識さ れており、クラスターを組織することによりシ ナジー効果を高めるのが、今回の組織化におけ る最も大きな目的である。 2.組織構成と専門分野 坂本謙二 *1有機デバイス 杉安和憲 *1有機合成 竹内正之 *1有機合成 澤田勉 *2 コロイドフォトニック結晶 不動寺浩 *2 コロイドフォトニック結晶 古海誓一 *2 オール有機材料レーザ 和田芳樹 *2 有機一次元光物性 若山裕 *2 有機量子デバイス 安田剛 *3 有機トランジスタ、有機太 陽電池 塚越一仁 *4 有機トランジスタ、グラフェン デバイス 樋口昌芳 *4 フォトクロミック表示素子 三成剛生 *4 有機トランジスタ 森山悟士 *4 グラフェンデバイス 若林 克法 *4 グラフェン物理 *1:ナノ有機材料センター、*2 :光材料センター、 *3 :環境エネルギー材料萌芽ラボ、*4 : MANA 3.主な成果 3-1研究成果 ①多色エレクトロクロミックディスプレイ(樋 口):ビステルピリディンとFe(Ⅱ)とRu(Ⅱ) の金属イオンからなる有機/金属ハイブリッ ド吸収を基に種々の発色により多色表示素。 ②全ポリマーフォトニック結晶レーザ(古海): 発光媒質をコロイド結晶で挟んだプラスチ ックレーザと液晶を挟んだポリマー体の過 冷却による光路長を連続可変でチューナブ ルレーザーの創製。 ③コロイドフォトニック結晶:周期構造の高精 度制御(澤田)。 ④コロイドフォトニック結晶:大面積化と安 全・安心応用(不動寺)。 ⑤ポリマー配向制御(坂本):光配向性ポリイミ ド(Azo-PI)膜の光分子配向制御、及びペンタ センの分子配向制御。 ⑥有機トランジスタ用ポリマー膜(安田)のp/n 制御:CF3-OPVでn型を開発し、移動度の長 期安定化を実現。 ⑦π共役有機材料(竹内):非共有結合性の架橋 分子を用い、共役ポリマーのナノレベルの配 列。 ⑧超分子による新機能発現(杉安):オリゴチオ フェンやペリレンなどの光・電気化学的に機 能性の分子がπ・πスタッキング集積した一 次元超分子を合成し、太陽電池の機能を実証。 ⑨分子デバイス(若山):絶縁高分子ゲート膜中 にポリフィリンを埋め込み、単電子光スイッ チ素子やクーロンブロッケイド島による二 重トンネル接合、ペンタセン誘導分子ワイヤ を用いた多チャンネルトランジスタによっ て多値スイッチング素子の開発。 ⑩グラフェン量子ドットデバイス(森山):グラ フェン2次元量子ナノ構造を作製し、クーロ ンブロッケイドと共鳴トンネリングを観察。 ⑪有機トランジスタ(三成、塚越):有機有機半 導体と金属の高抵抗の起源は、有機膜のでの トラップ、及び金属の正孔の注入の難易さと 明確化し、有機膜基板への疎水化、親水化を 制御し、有機半導体の自己組織化により大面 積アレー化に成功。 ⑫グラフェントランジスタ(塚越):グラフェン の両極性を活かし、二重層グラフェンに電界 を印加してギャップを開け、CMOSインバー タを開発。 ⑬グラフェン理論(若林):グラフェンのバンド 構造とエッジスピンで発現する磁性や電子 輸送特性を研究。 ⑭非線形光学効果(和田):Pt-Br系有機無機複 合高分子結晶の二光子吸収を研究し、非線形 性の発現機構を解明。 3-2活動記録、定例ミーティング、外部有識 者講演会等 ・ 2009 年 10月1日第1回ミーティング(三成、安田) 11月4日第2回ミーティング(坂本、若山) ・ 2010 年 1月12日講演会 瀧宮和男教授(広島大学) 「有機半導体の開発における複眼的 アプローチの重要性」 2月3日第3回ミーティング(塚越、若林、 森山) 2月9日 講演会 久保園芳博教授(岡山大学) 「ビセン結晶へのアルカリ金属原子ドーピン グによる超電導特性」 3月12日第5回ミーティング(竹内、杉安) 4月26日講演会下谷秀和氏(東京大学) 「電解液を用いた低電圧・高キャリア濃度 制御トランジスタ」 5月11日第6回ミーティング(古海、和田) 6月14日第7回ミーティング(若山、樋口) 7月22日第8回ミーティング(朱、藤田) 8月11日 講演会 外谷栄一氏(コバレントマ テリアル(株))(KISHグラファイト) 10月19日第9回ミーティング(安田、三成) ・ 2011 年 3月8日 講演会 吉田郵司氏(産業科学総合 研究所) 「有機薄膜太陽電池の開発動向と残された課題」 3-3 Graphene Workshop in Tsukuba NIMS主催で東京工業大学と筑波大学の協力 を得て、グラフェン国際ワークショップ2011 (Graphehe Workshop in Tsukuba 2011)が開 催された。 一炭素原子層からなるグラフェンに関し、電 子の超高移動度を有するため次世代エレクトロ ニクスに革新をもたらし、また巨大芳香族が新 機能を発現する化学のプラットフォームになる 期待が高まる中、選択的、大面積、無欠陥のグ ラフェン膜の作製の探索と応用展開が議論され た。200名以上の参加者のもと、2010年度のノ ーベル物理学賞に輝いた英マンチェスター大の ノボセロフ教授、カーボン研究では世界的に著 名な米MITのドレッセルハウス教授、グラフ ェンの化学的応用を研究しているマックス・プ ランク研のミューレン教授と国立シンガポール 大のロー教授、及び米コロンビア大のキム教授 の研究を担っている博士課程のヤング氏の5名 の基調講演を行い、我が国の本分野での第一線 の研究者が15件の最新の結果を発表し、活発 な質疑応答が繰り広げられた。サテライト会議 でも約100人の若手研究者が参加し、ノボセロ フ教授らも加わり、極めて高度な討論が行われ た。参加者の多くから時機を得た会議の開催と 高く評価された。 4.今後の研究動向 1年9カ月の多くの会議を経て、今後の有機 デバイスの研究・開発を阻む基礎的課題の概略 を理解したので、今後は、その解決にどのよう にアプローチするかの討議を経て、本分野が大 きく発展すると期待される。 2011年1月17日~18日、オークラフロンティアホテルつくばで開かれたGraphehe Workshop in Tsukuba 2011での記念写真.真中の女性はMITのドレッセルハウス教授 原子力材料クラスターの1年 ―材料科学の専門家集団として,原子力エネルギーの安全かつ平和的な利用に貢献する― マネージャー木村一弘 1.はじめに 主要なエネルギー源として利用されている 現在の原子炉あるいは将来の核融合炉、さらに は放射性廃棄物処理処分に使用される材料には 高温、照射など過酷な環境条件に耐えることと、 長期間にわたる信頼性が求められる。当機構に おいては、原子力用材料に関する先端的な高性 能材料開発とともに、安全性、信頼性に関わる 研究を推進してきた。しかしながら、これまで は組織的な対応、さらには、主研究開発機関で ある日本原子力研究開発機構との連係は個々の 研究者の活動にゆだねてきた。そこで、原子力 材料に関わる研究者間の情報を密にするととも に、日本原子力研究開発機構との組織的な連係 協力を視野に入れて、2009年12月1日に原子 力材料クラスターを立ち上げた。 2.組織構成 発足時のスタッフ数は15名であり、クラ スターのマネージャー及びメンバーは以下の 通りである。 クラスターマネージャー データシートステーション:木村一弘 クラスターメンバー 材料信頼性センター:澤田浩太、篠原 正 新構造材料センター:津﨑兼彰、大村孝仁 材料信頼性萌芽ラボ:足立吉隆、片山英樹 量子ビームセンター:北澤英明、大沼正人 環境エネルギーラボ:永川 城成、山本 徳和、 村瀬義治 計算科学センター :大野 隆央、阿部 太一 超伝導材料センター :竹内孝夫 3.主な成果 3-1NIMS-JAEA研究交流会 日本原子力研究開発機構(JAEA)との原子 力用材料分野における研究協力体制の構築を目 的として、2010年1月29日に日本原子力研究 開発機構において、第1回NIMS-JAEA研究交 流会を開催した。第1回研究交流会では、原子 力材料およびビームを利用した材料研究等に関 する相互の研究アクティビティについて理解を 深めることを目的として、JAEAから6件、 NIMSから7件の研究紹介を行うとともに、今 後の研究協力等についての総合討論及び意見交 換を行った。さらに、J-PARCの見学を行った。 JAEAとNIMSが行った研究紹介の内容は以下 の通りである。 日本原子力研究開発機構 ・核燃料再処理環境での金属材料の劣化に関 する腐食科学的課題、山本正弘 ・軽水炉構造材料の照射誘起応力腐食割れ (IASCC)、計算科学的手法による原子力材 料モデリングの現状と課題、加治 芳行 ・高速炉増殖炉用材料に関する研究開発の現 状と課題、浅山泰 ・核融合炉用構造材料に関する研究開発の現 状と課題、實川資朗 ・高温ガス炉材料に関する研究開発の現状と 課題、沢和弘 ・高純度(EHP)合金の開発の現状と課題、井 岡郁夫 物質・材料研究機構 ・ NIMSサイクロトロン施設における材料照 射研究、山本徳和 ・核融合炉用超伝導材料、竹内孝夫 ・塩化物環境におけるステンレス鋼局部腐食 について、篠原正 ・高速炉・核融合炉用フェライト鋼、木村一 弘 ・ CALPHAD法による状態図解析と構造材料 への適用、阿部太一 ・小角散乱法による9Cr系ODS鋼の微細組 織解析、大沼正人 ・階層的3D4D解析に基づいた材料信頼性向 上への挑戦、足立吉隆 3-2セミナー、ワークショップ 原子力材料クラスターの活動の一環として、 以下の関連するセミナー及びワークショップの 開催に協力した。 1)中性子利用促進研究会2010年度第1回研究 会 ~小角散乱の基礎~、物質・材料研究機 構、2010年8月23日 2)第1回SCCモニタリング研究会、物質・材 料研究機構、2010年12月7日 3)第2回SCCモニタリング研究会、物質・材 料研究機構、2010年12月15日 4)KIT - EMPA - NIMS - MPIMF Workshop on Materials Science for Energy Technologies, Karlsruhe, Germany, Jan. 11-12, 2011. 5)Neutron as a tool for Nano-science and Technology, NIMS, March 28, 2011. 3-3外部活動 2010年7月6日に日本原子力学会に新型炉 部会が設立された。新型炉部会の目的は、第4 世代原子炉ならびに将来の原子力エネルギーシ ステム及び周辺核燃料関連技術に関する研究活 動を支援し、その開発発展に貢献することであ る。NIMSからは木村クラスターマネージャー が新型炉部会運営小委員会委員に就任し、研究 小委員会委員を担当することとなった。 4.今後の研究動向 原子力材料クラスターは2009年12月1日に 設立され、第二期中期計画における活動期間は 1年4ヶ月である。その活動の端緒についたば かりであり、今後の展開を充実化させる段階に ある2011年3月に東日本大震災が発生し、福 島第一原子力発電所において重大な事故が発生 した。我が国だけでなく、世界中で原子力発電 プラントの新規建設や新型原子炉の研究開発を 大きく見直す必要に迫られており、今後のエネ ルギー源の確保が重大な問題である。 原子力に関わる物質材料研究としては、現在 稼働中の原子力発電プラントの健全性・安全性 をより一層高いレベルで維持するための材料研 究や、放射性廃棄物の安全かつ確実な処分技術 の高度化に貢献するとともに、物質材料研究の 新たなツールとしてのビーム利用研究等を推進 する。 デ ー タ 集 ih — BD 組織連携図 第二期中期計画開始時(2006年4月) 理事長 監事 理事 フェロー アドバイザリーボード 領域コーディネータ ナノテクノロジー基盤領域 ・ナノシステム機能センター ・ナノ計測センター ・計算科学センター ・量子ドットセンター ・量子ビームセンター ナノスケール物質領域 ・ナノスケール物質センター ・ナノ有機センター ・ナノセラミックスセンター 情報通信材料研究領域 ・半導体材料センター ・光材料センター ・磁性材料センター 生体材料研究領域 ・生体材料センター 環境・エネルギー材料領域 ・超耐熱材料センター ・燃料電池材料センター ・超伝導材料センター ・光触媒材料センター ・新構造材料センター 材料信頼性領域 ・材料信頼性センター ・コーティング・複合材料センター ・センサ材料センター 萌芽ラボ ・ナノ物質ラボ ・材料ラボ 共用基盤部門 ・超高圧電顕共用ステーション ・強磁場共用ステーション ・共用ビームステーション ・データシートステーション ・データベースステーション ・ナノファウンドリーステーション ・材料創製支援ステーション ・分析支援ステーション 物貿・材料工学専攻 ナノテクノ ロジー総合支援プロジェクトセンター 若手国際研究拠点 秘書室 監査室 総務部 IT室 総合戦略室 連携推進室 国際・広報室 企画調査室 人材開発室 第二期中期計画終了時(2010年3月) 生体材料研究領域 ・生体材料センター ・生体材料研究萌芽ラボ ・生体組織再生材料プロジェクト 環境・エネルギー材料領域 ・超耐熱材料センター ・燃料電池材料センター ・超伝導材料センター ・光触媒材料センター ・新構造材料センター ・次世代太陽電池センター ・環境・エネルギー材料萌芽ラボ ・LED蛍光体プロジェクト ・全固体リチウム二次電池プロジェクト ・白金族金属材料プロジェクト ・発電用熱電材料プロジェクト 材料信頼性領域 ・材料信頼性センター ・ハイブリッド材料センター ・センサ材料センター ・データシートステーション ・材料創製支援ステーション ・材料信頼性萌芽ラボ ・非破壊評価プロジェクト ・次世代耐熱鋼プロジェクト 共用基盤部門 ・超高圧電顕共用ステーション ・強磁場共用ステーション ・共用ビームステーション ・データベースステーション ・分析支援ステーション 元素戦略センター 若手国際研究センター 国際ナノテクノロジー ネットワーク拠点 大学院室 ・連係大学院 ・筑波大学 〈物質・材料工学専攻〉 ・北海道大学 〈化学専攻〉〈生命科学専攻〉〈量子理学専攻〉 ・早稲田大学 〈ナノ理工学専攻〉 ・九州大学 〈物質創造工学専攻〉〈材料物性工学専攻〉 ・国際・国内連携大学院 情報通信材料研究領域 ・半導体材料センター ・光材料センター ・磁性材料センター ・情報通信材料研究萌芽ラボ NIMS 独立行政法人物質・材料研究機構 組織連携図 理事長監事 理事 名誉フェロー/フェロー NIM S顧問/名誉顧問/特別顧問 理事長(特別)補佐 審議役 監査室 秘書室 安全管理室 男女共同参画デザイン室 環境技術研究開発センター等建設室 つくばイノベーションアリーナ推進室 外部連携組織 ・筑波大学物質・材料工学専攻事務室 ・ ロールス・ロイス航空宇宙材料センター ・NIMS-UW海外業務拠点 ・NIMS-トヨタ次世代 自動車材料研究センター ・バイオマテリアル メディカルイノベーションラボ ・NIMS-Leicaバイオイメージングラボ ・NIMS-EMPA海外業務拠点 ・NIMS-サンゴバン 先端材料研究センター ナノスケール物質領域 ・ナノ有機センター ・ナノセラミックスセンター ・ナノスケール物質萌芽ラボ ・分子センシング材料プロジェクト ナノテクノロジー基盤領域 ・ナノ計測センター ・計算科学センター ・量子ドットセンター ・量子ビームセンター ・ナノテクノロジー融合センター ・ナノテクノロジー基盤萌芽ラボ ・ナノ材料の社会受容プロジェクト 国際ナノアーキテクトニクス 研究拠点(MANA) ・ナノシステム分野 ・ナノマテリアル分野 ・ナノグリーン分野 ・ナノバイオ分野 ・MANAファウンドリ ナノ材料科学環境拠点 低炭素化材料設計・創製ハブ拠点 クラスター/分野融合クラスター ・電子顕微鏡クラスター ・構造材料国際クラスター ・腐食クラスター ・自動車用将来材料クラスター ・自然から学ぶ ナノテクノロジークラスター ・環境浄化クラスター ・有機デバイスクラスター ・原子力材料クラスター 企画部 ・戦略室 ・企画調整室 ・評価室 ・国際室 ・広報室 ・人材開発室・連携推進室 ・科学情報室・IT室 総務部 ・総務課・人事課・経理課 ・契約課・施設課 沿革 1956(昭和31)年07月 科学技術庁の付属機関として東京都目黒区に金属材料技術研究所(金材技研) 設立。 1966(昭和41)年04月 科学技術庁の付属機関として東京都杉並区に無機材質研究所(無機材研)設立。 1967(昭和42)年05月 東京都文京区に移転。(無機材研) 1972 (昭和47)年03月 筑波研究学園都市に移転。(無機材研) 1979 (昭和54)年03月 筑波支所開設。(金材技研) 1995 (平成07)年07月 筑波研究学園都市に移転。(金材技研) 2001(平成13)年04月 独立行政法人物質・材料研究機構法の施行により、金材技研と無機材研を統 合し、独立行政法人物質・材料研究機構が発足。 研究部門は、3研究所(物質研究所、ナノマテリアル研究所、材料研究所)、 事務部門は、1室2部(企画室、総務部、研究業務部)体制になる。 2001(平成13)年10月 企画室を廃止し、運営5室(総合戦略室、研究資源室、評価・国際室、産学独 連携室、広報・支援室)を新設。 生体材料研究センター、超伝導材料研究センター、計算材料科学研究センター、 材料基盤情報ステーションを新設。 2002(平成14)年04月 超鉄鋼研究センター、分析ステーション、エコマテリアル研究センター、強 磁場研究センターを新設。 2002 (平成14)年06月 ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンターを新設。 2003 (平成15)年09月 若手国際研究拠点を新設。 2004(平成16)年03月 ナノ分子フォトニクス共同研究施設の廃止。 2004(平成16)年05月 超高圧電子顕微鏡ステーションを新設。 2004(平成16)年08月 運営5室(総合戦略室、研究資源室、産学独連携室、評価・国際室、広報室) 及び研究業務部技術展開室を、運営5室(総合戦略室、知的財産室、評価室、 国際・情報室、広報室)に改編。 2004(平成16)年12月 研究業務部、情報技術課、技術支援課を廃止。業務推進課及び施設課を総務 部に移管。 2005(平成17)年10月 国際・情報室を国際室に変更。 2006(平成18)年04月 第二期中期計画の開始に伴い、事務部門は、運営6室(総合戦略室、連携推進 室、国際・広報室、企画調査室、人材開発室、IT室)に改編し、また、千現 地区業務室、並木地区業務室、桜地区業務室及び目黒地区業務室に名称変更し、 総務部に移管。 また、研究部門は、新たに6領域(ナノテクノロジー基盤領域、ナノスケール 物質領域、情報通信材料研究領域、生体材料研究領域、環境・エネルギー材 料領域、材料信頼性領域)に20センター(ナノシステム機能センター、ナノ 計測センター、計算科学センター、量子ドットセンター、量子ビームセンター、 ナノスケール物質センター、ナノ有機センター、ナノセラミックスセンター、 半導体材料センター、光材料センター、磁性材料センター、生体材料センター、 超耐熱材料センター、燃料電池材料センター、超伝導材料センター、光触媒 材料センター、新構造材料センター、材料信頼性センター、コーティング・ 複合材料センター、センサ材料センター)、萌芽ラボに2ラボ(材料ラボ、ナ ノ物質ラボ)及び共用基盤部門に8ステーション(超高圧電顕共用ステーショ ン、強磁場共用ステーション、データシートステーション、データベースステー ション、共用ビームステーション、ナノファウンドリーステーション、材料 創製支援ステーション、分析支援ステーション)を設置。 2007 (平成19)年02月 運営7室(総合戦略室、連携推進室、国際室、広報室、企画調査室、人材開発 室、IT室)に改編。 2007(平成19)年04月 科学情報室を新設し、運営8室に改編。 ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンターを廃止し、NIMSナノテク ノロジー拠点を新設。ナノファウンドリーステーションの廃止。 2007(平成19)年09月 評価室を新設し、運営9室に改編。 2007(平成19)年10月 事務部門を2部5室(企画部、総務部、秘書室、連携推進室、科学情報室、企 画調査室、IT室)に改編。 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点を新設。 2008(平成20)年04月 企画調査室を廃止し、企画部に理事長室を新設及び総合戦略室を企画調整室 に改組。連携推進室、科学情報室、IT室を企画部に移管。安全管理室を新設し、 事務部門を2部3室(企画部、総務部、秘書室、安全管理室、監査室)に改編。 また、各地区業務室を廃止。 クラスターを新設。若手国際研究拠点を廃止し、ICYS-IMAT及びICYS- MANAを新設。 2008(平成20)年10月 ナノシステム機能センター及びナノスケール物質センターを廃止。 2008(平成20)年12月 ICYS-IMAT及びICYS-MANAを統合し、若手国際研究センターを新設。 2009(平成21)年03月 男女共同参画デザイン室を新設し、事務部門を2部4室に改編。 次世代太陽電池センターを新設。 2009 (平成21)年04月 研究部門は、NIMSナノテクノロジー拠点を国際ナノテクノロジーネットワー ク拠点に、また、コーディング・複合材料センターをハイブリッドセンター に名称変更。ナノテクノロジー融合センター及びMANAファウンドリを新設。 共用基盤部門からデータシートステーション及び材料創製支援ステーション を理事長直轄組織に移管。非破壊評価クラスター、サステナビリティクラス ター、太陽光発電システム材料クラスターを廃止。9プロジェクト(ナノ材料 の社会受容プロジェクト、分子センシング材料プロジェクト、生体組織再生 材料プロジェクト、LED蛍光体プロジェクト、全固体リチウム二次電池プロ ジェクト、白金族金属材料プロジェクト、発電用熱電材料プロジェクト、非 破壊評価プロジェクト、次世代耐熱鋼プロジェクト)を新設。 また、事務部門は、総務課にコンプライアンスチームを新設。企画部理事長 室を戦略室に名称変更。総務部に各地区(千現、並木、桜、目黒)研究支援 室を新設。 2009(平成21)年05月 材料ラボ、ナノ物質ラボを廃止し、各6領域に萌芽ラボを設置。環境技術研究 開発センター等建設室を新設。 2009(平成21)年06月 構造材料国際クラスター、環境浄化クラスターを新設。元素戦略クラスター を廃止し、元素戦略センターを設置。若手国際研究センター大学院チームを 廃止し、大学院室を新設。 2009(平成21)年08月 新設した有機デバイスクラスター含む5クラスターを分野融合クラスター、他 2クラスターをクラスターとして改編。 2009 (平成21)年11月 ナノ材料科学環境拠点を新設。 2009 (平成21)年12月 原子力材料クラスターを新設。 2010(平成22)年01月 MANAナノマテリアル分野の2グループ(ソフトイオニクスグループ、ネッ トワーク錯体グループ)をナノグリーン分野に移動し、ソフトイオニクスグ ループを二次電池グループに名称変更。 2010(平成22)年03月 第三期中期計画共用基盤部門準備室を新設。 2010(平成22)年04月 MANA事務部門にアウトリーチチームを新設。 2010(平成22)年07月 NIMS ― EMPA海外業務拠点を新設。 2010 (平成22)年09月 MANAナノバイオ分野に複合化生体材料グループを新設。NIMS―サンゴバ ン先端材料研究センターを新設。 2010(平成22)年12月 低炭素化材料設計・創製ハブ拠点を新設。 収入 注)2010年度の数値は見込み額です。 職員 事務職 研究職 エンジニア職 キャリア形成職員(事務職、研究職、エンジニア職) 研究者受入 研究者受入(非常勤職員特別研究員) 研究者受入(非常勤職員若手国際研究拠点) 研究者受入(非常勤職員NIMSジュニア研究員) 研究者受入(非常勤職員客員研究員) 研究者受入(非常勤職員外来研究員) 各種制度による学生受入 連係大学院学生数 連携大学院学生数 連携大学院 派遣 大学への講師派遣 研究者派遣 連携推進活動 特許出願 特許登録 実施許諾 業務実施契約 実施料収入 業務実施料収入 連携推進室共同研究 受託事業収入 学術発表 論文 口頭発表 プロシーディングス 著作、解説・総説 論文被引用数ランキング(材料科学分野) ※本ランキングは,2010年3月のトムソンサイエンティフィック社のESI データベースをもとに作成 研究集会参加 広報活動 プレス発表 見学 NIMSフォーラム イベント 相談対応 主なプレス発表 2006年度 1)単一アトム移送による1次元量子井戸の創製に成功 2006/05/15 2)室温で液状のフラーレン 2006/07/25 3)液中分子ジェットで有機分子のナノオーダー配列固定に成功 2006/09/08 4)歪ガラス合金に形状記憶効果を発見2006/12/01 5)電気伝導率の高いカーボンナノチューブの簡便な合成法の発見 2007/03/15 2007年度 1)わが国の都市鉱山は世界有数の資源国に匹敵2008/1/11 2)結晶中の原子列を元素別に可視化2007/10/26 3)薄さ2mmのエレクトロクロミック表示デバイス 2007/10/25 4)共振器なしで高出力緑色レーザーを発生2008/3/25 5)衝撃に強い1500 メガパスカル級低合金鋼の開発に成功 2007/8/27 2008年度 1)超微細結晶粒鋼の靭性の逆温度依存性を発見2008/5/22 2)‘生命の起源’有機分子は隕石の海洋爆撃によって生成した! 2008/12/8 3)人手をかけずに使用済電子機器から「都市鉱石」を製造2008/11/26 4)電子ペーパーのマルチカラー化に成功 2008/4/14 5)希土類フリーによる準結晶粒子分散マグネシウム合金の創製に成功2009/3/24 2009年度 1)超多孔性ナノシートを用いて有機分子の超高速濾過を実現2009/04/19 2)一つのクリープ試験が、開始から40年を突破! 2009/06/16 3)白金ナノ金平糖:微細構造を持つ白金ナノ粒子の開発に成功2009/06/23 4)六方晶窒化ホウ素を用いた遠紫外線面発光素子の試作に成功2009/09/18 5)都市鉱石からコバルト、さらに金を回収することに成功 2010/03/02 2010年度 1)重希土類元素ジスプロシウムを使わない高保磁力ネオジム磁石 2010/08/30 2)従来材料比10倍:熱凝集耐性排ガス触媒の開発に成功2010/10/05 3)人工光合成の実現に大きく 一歩前進 高活性光触媒材料を発見2010/06/07 4)有機分子層における脳のようなコンピューティング2010/04/26 5)クリープ試験データの世界最長記録を更新2011/02/24 理事長賞 区分 研究内容 氏名 第1回(2006年度) 研究功績賞 ナノシートの創製と機能性材料合成への 応用 佐々木高義 研究奨励賞 高分子ナノ空間におけるヘテロ金属イオ ンの動的集積制御とデバイス応用 樋口昌芳 研究奨励賞 液中ナノジェット分子注入法を用いた有 機分子ナノ構造体の創製 後藤真宏 実用化功績賞 不定比欠陥制御による強誘電体単結晶の 光応用分野における実用開発 北村健二 知的基盤功績賞 ガラス工作技術による先端研究装置の開 発 宮代寛 知的基盤功績賞 NIMS物質・材料データベースの新規構 築と発信 山崎政義 貢献賞 多様なアウトリーチ活動への貢献 宗木政一 貢献賞 施設の適正な保全及びライフサイクルコ ストの低減への貢献 加藤利勝 第2回(2007年度) 研究功績賞 水のポリアモルフィズムに関する実験的 研究 三島修 実用化功績賞 金属磁性材料に関するナノテクノロジー の先駆的研究 中谷功 知的基盤功績賞 多目的パターンフィッティング・ 3D可視 化統合システムの開発 泉富士夫 貢献賞 イルミネーション製作によるNIMSの地 域との交流に貢献 藤塚正和、住吉英志、永井秀雄、小菅通雄、 湯山道也、小森 和範、大西 桂子、内田直哉、 江村聡、佐藤守夫 第3回(2008年度) 研究功績賞 実用化功績賞 サイアロン蛍光体の実用化 廣崎尚登 研究奨励賞 新たな高温熱電材料の開発原子ネット ワーク物質の制御 森孝雄 研究奨励賞 リサイクル・低環境負荷な高分子を基盤 材料にした高効率レーザーの研究開発 古海誓一 研究奨励賞 太陽エネルギーの有効利用のためのナノ 炭素材料の創製 若原孝次 知的基盤功績賞 長時間高温強度試験と設計基準への寄与 木村一弘、藤塚正和、横川賢二、金丸修、 久保清、大場敏夫、九島秀昭、本郷宏通、 宮崎秀子、渡部隆、田淵正明、澤田浩太 貢献賞 NIMSの国際化に貢献 小林美智子、納冨健文、荻野誠、上村揚一 郎 区分 研究内容 氏名 第4回(2009年度) 研究功績賞 原子列を元素毎に可視化する先端電子顕 微鏡法の研究 木本浩司、松井良夫、長井拓郎 研究奨励賞 低温ほど強くて壊れにくい鉄鋼材料の開 発 木村勇次 研究奨励賞 新しい分子エレクトロニクス素子:ナノ ブレインの発明 Anirban Bandyopadhyay 研究奨励賞 原子間力顕微鏡を用いた単原子ペンによ るナノパターニングの実現 Oscar Custance 知的基盤功績賞 高精度光学鏡面研磨装置の設計製作 増田安次 貢献賞 超分子研究分野の国際的貢献 有賀克彦 第5回(2010年度) 研究功績賞 原子スイッチの発明からその基礎研究な らびに実用化研究までの顕著な貢献 長谷川剛、寺部一弥 研究奨励賞 精密にモルフォロジー制御された革新的 自己組織化構造材料の創製 中西尚志 実用化功績賞 照明用蛍光体実用化、NIMS過去最大の 特筆すべき成果 廣崎尚登 知的基盤功績賞 事故、事件などのNIMSの知的基盤技術 の展開 篠原正、竹内悦男、蛭川寿、木村一弘、田 沼繁夫、古谷佳之、伊藤真二、小野寺秀博、 田原晃、緒形俊夫 貢献賞 NIMSの広報活動に貢献 小森和範、宗木政一、横川忠晴、小川一行、 佐藤守夫、戸田佳明、阿部太一、大場敏夫、 小野嘉則 貢献賞 物質・材料研究最先端~NIMS研究者紹 介~編集に寄与 青木芳夫 第6回(2011年度) 研究功績賞 超分子科学に関する卓越した研究業績並 びに同分野における優れたレビュー論文 の出版 有賀克彦 研究奨励賞 高性能で化学的に安定な酸化物プロトン 伝導体の開発 Emiliana Fabbri, Daniele Pergolesi 研究奨励賞 医学応用に向けた生体組織界面接合材 料・技術の創製 田口哲志 知的基盤功績賞 資源問題の現状分析、将来予測及び希少 元素のリサイクルに関する先駆的業績 原田幸明 貢献賞 Science and Technology of Advanced Materials (STAM)の発展と地位向上へ の卓越した貢献 谷藤幹子、田中高穂、目義雄 主なイベント 2006年度 小坂憲次文部科学大臣 ご視察(2006年8月30 日) 大韓民国副首相Dr. Kim Woo-Sik ご視察(2006年7月11日) ロールス・ロイス航空宇宙材料研究センター設立(2006年6月30日) 2007年度 松浪健四郎文部科学副大臣ご視察 (2007年2月18日) 2008年度 野田聖子科学技術政策担当大臣ご視察 (2008年8月12日) 尾身幸次衆議院議員(元科学技術政策担当 大臣)ご視察(2008年3月24日) 環境・エネルギー材料研究展(NIMS主催)に おける鳩山由紀夫衆議院議員(民主党幹事長) ご視察(2008年5月30日) NIMS-トヨタ次世代自動車材料研究センター開設 (2008年7月18日) 2009年度 川端達夫文部科学大臣ご視察 (2009年12月2日) 大泉ひろこ衆議院議員ご視察 (2010年1月13日) つくばイノベーションアリーナ発足 (2009年6月17日) 2010年度 玄葉光一郎国家戦略担当大臣ご視察 (2011年1月29日) NIMS―サンゴバン先端材料研究 センター設立(2010年7月1日) nano tech 2011NIMSブース 主なご視察者 笹木竜三文部科学副大臣 林久美子文部科学大臣政務官 川端達夫衆議院議員(前文部科学大臣) 谷垣禎一衆議院議員(自由民主党総裁、中)と 林芳正衆議院議員(左) タイ国科学技術大臣 Dr. Virachai Virameteekul 奥村直樹総合科学技術会議議員 普及啓発活動 サマーサイエンスキャンプ2007 (2007年7月30日~8月1日) 茨城県中学生ミニ博士事業 (2007年8月1日~3 日) 一般公開における青少年特別行事 (2010年4月18日) つくば科学フェスティバル出展 (2009 年12 月19 日、20 日) NIMSフォーラム (2010 年10 月 20 日) nano tech 2011出展 (2011年2月16日~18 日) 主な発行物 タイトル 冊子発行日 ウェブ版公開年月 2020 NIMS Policy Paper (英語版) 2007/06/01 不明 NIMSのビジョン 日本語版 2008/09/01 ― NIMSのビジョン英語版 2008/12/01 ― 世界最高峰の物質・材料研究所をめざして 2007/10/01 ― 独立行政法人化をバネに世界の中核機関へと飛躍 2007/12/01 ― 持続可能社会の実現を導く環境・エネルギー材料 2008/04/01 ― 2006年物質材料研究アウトルック 日本語版 2006/08/01 2006/08 2006年物質材料研究アウトルック 英語版 2007/06/10 2006/08 元素戦略アウトルック 2007/08/01 2007/08 環境・エネルギー材料アウトルック 日本語版 2008/06/01 2008/06 環境・エネルギー材料アウトルック 英語版 2008/07/04 2008/06 物質材料アウトルック別冊 2009/06/25 2009/06 NIMS21日本語版 2006/08/01 2006/08 NIMS21英語版 2006/11/01 2006/08 NIMS研究成果2006年度 日本語版 2007/08/01 2007/08 NIMS研究成果2007年度 日本語版 2008/06/01 2008/06 NIMS研究成果2007年度 英語版 2008/10/01 2008/06 NIMS研究成果2008年度 日本語版 2009/06/01 2009/06 NIMS研究成果2009年度 日本語版 2010/07/20 2010/07 物質・材料研究最先端2008~NIMS研究者紹介~ 2008/09/01 2009/03 物質・材料研究最先端2009~NIMS研究者紹介~ 2010/01/04 2010/05 物質・材料研究最先端2009英語版 2011/01 2010/06 他に、英文学術誌「Science and Technology of Advanced Materials (STAM) 」 を定期的に発行: オンライン出版、オープンアクセス、日本語紹介サイトあり、月2万件を超える閲覧数。 所属長および定年制職員一覧 【理事長】岸 輝雄(2001年4月~2009年6月)、潮田資勝(2009年7月~) 【理事】上原 哲(2005年9月~、北川 正樹(2006年4月~2008年3月)、野田 哲二、(2005年4月~2011年3 月)、馬越 佑吉(2008年4月~2010年3月)、木村 良(2008年4月~2010年3月)、曽根 純一(2010年4月~)、 室町英治(2010年4月~) 【監事】渡辺 遵(2006年4月~2010年3月)、渡辺 久恒(2006年4月~2007年3月)、浅川 潔(2007年4月~ 2009年3月)、芳賀 研二(2009年4月~)、岸本 直樹(2010年4月~) 【NIMS顧問】岸 輝雄、【名誉顧問】齋藤 鐵哉、加茂 睦和、浅川 潔 【特別顧問】馬越佑吉、渡辺遵、北川正樹、鯉沼秀臣、岡野光夫、志田憲一 【審議役】榊原 裕二、須田秀志、岩瀬 公一 【フェロー】潮田資勝、青野正和、猪俣浩一郎、北村健二、榊裕之、佐々木高義、立石哲也、中沢弘基、板 東義雄、宝野和博、堀池靖浩、三島修、室町英治、山本昭二 【理事長特別補佐】小野寺秀博、長井寿、板東義雄、宝野和博、室町英治(2007年度のみ) 【理事長補佐】有澤俊一、木本 浩司、鈴木博之(2007年度のみ) ナノテクノロジー基盤領域 【領域コーディネーター】青野正和、岸本直樹、藤田大介 ナノ計測センター 【センター長】藤田大介 【定年制職員】Anirban Bandyopadhyay、 Oscar Custance、石岡邦江、石川信博、大木忍、大西桂子、北島正 弘、木村隆、木本浩司、後藤敦、鷺坂恵介、清水禎、竹口雅樹、田沼繁夫、丹所正孝、中村明子、端健二 郎、橋本綾子、長谷川明、長谷宗明、原徹、福島整、藤田大介、古屋一夫、松井良夫、吉川英樹 計算科学センター 【センター長】大野隆央 【定年制職員】Igor V Solovyev、阿部太一、新井正男、井上純一、大出真知子、小野寺秀博、片桐昌彦、木野日 織、楠克之、河野昌仙、小林一昭、小山敏幸、佐々木泰造、下野昌人、末原茂、館山佳尚、田中秋広、中田 悦夫、奈良純、西野正理、野々村禎彦、古月暁、前園涼、宮崎剛 量子ドットセンター 【センター長】小口信行、迫田和彰 【定年制職員】井上純一、今中康貴、岩長祐伸、大竹晃浩、落合哲行、川津琢也、黒田隆、榊裕之(招聘研)、 佐久間芳樹、高澤健、高増正、竹端寛治、田中美代子、野田武司、間野高明、三井正、三石和貴、宮崎英 樹、矢田雅規 量子ビームセンター 【センター長】岸本直樹、藤田大介 【定年制職員】雨倉宏、石井真史、泉富士夫、上田茂典、江場宏美、大沼正人、大吉啓司、加藤誠一、北澤英 明、倉橋光紀、河野健一郎、小林啓介、櫻井健次、鈴木拓、鈴木博之、武田良彦、田中雅彦、辻井直人、寺 田典樹、中沢弘基、長谷正司、間宮広明、道上勇一、門馬鋼一、山内泰、山本昭二、吉川英樹 ナノシステム機能センター (2006年4月~2008年10月、以後国際ナノアーキテクトニクス拠点) 【センター長】青野正和、中山知信 【定年制職員】Huabing Wang、有沢俊一、石井明、宇治進也、内橋隆、大川祐司、久保理、櫻井亮、新ヶ谷 義隆、高野義彦、鶴岡徹、寺嶋太一、寺部一弥、長尾忠昭、長岡克己、根城均、長谷川剛、羽多野毅、矢ヶ 部太郎、山口尚秀 ナノテクノ ロジー融合センター 【センター長】野田哲二、【副センター長】花方信孝 【定年制職員】池田直樹、杉本喜正、津谷大樹、箕輪貴司 ナノテクノロジー基盤萌芽ラボ 【萌芽ラボ長】井上悟 【定年制職員】Huabing Wang、有沢俊一、石井明、関根利守、羽多野毅、宮澤薫一、若原孝次 ナノスケール物質領域 【領域コーディネーター】室町英治、佐々木高義 ナノ有機センター 【センター長】一ノ瀬泉 【定年制職員】Jonathan P.Hill、Jianguo Huang、 Jian Jin、Mi-Jeong Kim、Xinsheng Peng、相見 順子、荒川 秀 雄、有賀克彦、池田太一、坂本謙二、佐光貞樹、杉安和憲、竹内正之、田代健太郎、中尾秀信、中西尚志、 樋口昌芳、三木一司、三井圭太 ナノセラミックスセンター 【センター長】目義雄 【定年制職員】張炳國、金炳男、李継光、解栄軍、石垣隆正、井上悟、打越哲郎、岡田勝行、奥山秀男、亀 井 雅之、白幡 直人、鈴木 達、武田隆史、田中英彦、西村 聡之、平賀 啓二郎、廣崎尚登、廣田憲之、古海 誓 一、森田孝治、吉田英弘 ナノスケール物質センター (2006年4月~2008年10月、以後国際ナノアーキテクトニクス拠点) 【センター長】佐々木高義 【定年制職員】Dmitri Golberg、RenzhiMA、Chengchun Tang、Chunyi Zhi、井伊伸夫、海老名保男、長田実、 小澤忠、倉嶋敬次、左右田龍太郎、高田和典、板東義雄、三留正則、森孝雄、渡辺明男 ナノスケール物質萌芽ラボ 【萌芽ラボ長】井上悟 【定年制職員】相澤俊、安藤寿浩、井伊伸夫、宇治進也、大谷茂樹、川村史朗、小林敬道、下村周一、菅家康、 鈴木 芳治、瀬川 浩代、竹村 謙一、谷口尚、寺嶋太一、中野智志、橋爪 秀夫、速水 渉、藤井和子、三重野 正 寛、矢ヶ部太郎、遊佐斉 情報通信材料研究領域 【領域コーディネーター】堀池靖浩 半導体材料センター 【センター長】知京豊裕 【定年制職員】陳君、阿部英樹、今井基晴、色川芳宏、梅澤直人、川喜多仁、小松正二郎、佐久間芳樹、関 口隆史、高見誠一、長田貴弘、深田直樹、松井ちさと、柳生進二郎、山下良之、吉武道子、若山裕 光材料センター 【センター長】大橋直樹 【定年制職員】Taras Kolodiazhnyi、Encarnacion Antonia Garcia Villora、 安達裕、北村健二、栗村直、坂口 勲、 澤田勉、島村清史、竹川俊二、谷口尚、轟眞市、中村優、不動寺浩、古海誓一、和田芳樹、渡辺賢司 磁性材料センター 【センター長】宝野和博 【定年制職員】猪俣浩一郎(招聘員)、大久保忠勝、葛西伸哉、介川裕章、高橋有紀子、林将光、古林孝夫、 三谷誠司、木村秀夫、眞岩幸治 情報通信材料研究萌芽ラボ 【萌芽ラボ長】堀池靖浩 【定年制職員】木村秀夫、眞岩幸治 生体材料研究領域 【領域コーディネーター】立石 哲也、岡野 光夫、青柳 隆夫 生体材料センター 【センター長】立石 哲也、宮原 裕二、青柳 隆夫 【定年制職員】Martin Pumera、生駒 俊之、荏原 充宏、奥田順子、貝塚 芳久、片岡知歩、川上 亘作、川添 直 輝、菊池正紀、小林尚俊、坂田利弥、白井暢子、末次寧、田口哲志、谷口彰良、陳国平、花方信孝、廣本祥 子、丸山典夫、山崎智彦、山本玲子、吉川千晶 生体材料研究萌芽ラボ 【萌芽ラボ長】青柳隆夫 環境・エネルギー材料領域 【領域コーディネーター】長井寿 超耐熱材料センター 【センター長】原田広史 【定年制職員】川岸京子、北島具教、小泉裕、小林敏治、坂本正雄、平徳海、谷月峰、鉄井利光、湯山道也、 横川忠晴 燃料電池材料センター 【センター長】西村 睦、【副センター長】森利之 【定年制職員】金済徳、Ajayan Vinu、許亜、Fei Ye、片田康行、小林清、古牧政雄、出村雅彦、平野敏幸、 宮澤薫一、鷲頭直樹 超伝導材料センター 【センター長】熊倉浩明 【定年制職員】Alexei A Belik、何東風、Taras Kolodiazhnyi、浅野稔久、飯嶋安男、磯部雅朗、伊藤喜久男、 内田吉茂、大井 修一、川嶋 哲也、菊池 章弘、北口仁、木吉司、黒田恒生、小森 和範、櫻井 裕也、高野 義彦、 竹内孝夫、竹屋浩幸、立木実、橘信、中根茂行、西島元、伴野信哉、平田和人、藤井宏樹、松本真治、松 本明善、宮川仁、室町英治、茂築高士、山浦一成、山口尚秀 光触媒材料センター 【センター長】葉金花 【定年制職員】Hem Raj SHARMA、梅澤直人、小澤清、押切光丈、加賀屋豊、加古哲也、菊川直樹、下田正 彦、砂金宏明、田村堅志、松下明行、山田裕久 新構造材料センター 【センター長】津﨑兼彰 【定年制職員】Alok Singh、秋山英二、足立 吉隆、阿部 冨士雄、荒金 吾郎、江村 聡、大沢 嘉昭、大村 孝仁、木 村勇次、小山敏幸、櫻谷和之、染川英俊、高森晋、塚本進、戸田佳明、中村照美、西村俊弥、萩原益夫、 平岡和雄、本田博史、皆川和己、向井敏司、宗木政一、村山光宏、目黒奨、渡邊育夢 次世代太陽電池センター 【センター長】韓礼元 【定年制職員】Ashraful Islam、川喜多 仁、後藤 真宏、佐藤 宗英、角谷 正友、新倉ちさと、野田武司、安田剛、 柳田真利 環境・エネルギー材料萌芽ラボ 【萌芽ラボ長】原田幸明 【定年制職員】Sherif A.El-Safty、阿部晴雄、磯田幸宏、今井義雄、江頭満、木本高義、小林幹彦、今野武志、 篠原嘉一、関戸信彰、田中秋広、長井寿、沼澤健則、御手洗容子、村瀬義治、安田剛、山瀬博之、山本徳 和 材料信頼性領域 【領域コーディネーター】香川豊 材料信頼性センター 【センター長】小野寺秀博、緒形 俊夫 【定年制職員】邱 海、阿部孝行、荒木弘、小野嘉則、笠原章、木村一弘、木村 恵、後藤 真宏、小林一夫、澤 田浩太、篠原正、鈴木裕、住吉英志、竹内悦男、田原晃、田淵正明、土佐正弘、鳥塚史郎、長島伸夫、花 村年裕、早川正夫、蛭川寿、古谷佳之、細矢雄司、本郷宏通、宮原健介、山口弘二、由利哲美、渡部隆 ハイブリッド材料センター(コーティング・複合材料センターを2009年4月に名称変更) 【センター長】黒田聖治 【定年制職員】Susan Farjami、郭樹啓、Christopher Mercer、井誠一郎、江村聡、垣澤英樹、川喜多仁、香川 豊、岸本哲、京野純郎、黒田聖治、重藤暁津、下野昌人、田中義久、土谷浩一、内藤公喜、長沼環、細田奈 麻絵、村上秀之、渡邊誠 センサ材料センター 【センター長】羽田肇 【定年制職員】Meiyong Liao、石田章、大垣 武、神田久生、小泉 聡、小出康夫、齋藤 紀子、佐藤 守夫、角谷 正 友、寺地徳之、中村真佐樹、菱田俊一、任暁兵、渡辺明男 データシートステーション(2009年4月に共用基盤部門から材料信頼性領域に移管) 【ステーション長】木村一弘 【定年制職員】阿部孝行、磯部次郎、大場敏夫、緒形俊夫、小野嘉則、金丸修、木村恵、九島秀昭、久保清、 小林一夫、近藤正人、澤田浩太、篠原正、下平益夫、住吉英志、竹内悦男、田原晃、田淵正明、長島伸夫、 早川正夫、蛭川寿、福沢安光、藤塚正和、古谷佳之、細矢雄司、本郷宏通、前田芳夫、松本文明、簑口正 雄、宮崎秀子、村田正治、山口弘二、由利哲美、横川賢二、渡部隆 材料創製支援ステーション(2009年4月に共用基盤部門から材料信頼性領域に移管) 【ステーション長】片田康行、鳥塚 史郎 【定年制職員】荒金吾郎、岩崎智、川崎昌彦、黒田秀治、小松誠幸、高橋弘光、中里浩二、檜原高明、平出貞 夫、増田安次、宮代寛 材料信頼性萌芽ラボ 【萌芽ラボ長】原田幸明 【定年制職員】Oleg Vasylkiv、足立 吉隆、井島清、井出邦和、井上 忠信、殷 福星、大塚 秀幸、片山英樹、坂 井義和、澤口孝宏、志波光晴、唐捷、名嘉節、中根茂行、長谷川信一、升田博之、山口仁志、山脇寿、芳 須弘 共用基盤部門 【部門長】古屋一夫、田沼繁夫 超高圧電顕共用ステーション 【ステーション長】古屋一夫、松井 良夫、田沼 繁夫 【定年制職員】石川信博、竹口雅樹、木本浩司、田中美代子、長谷川明、原徹、三石和貴 強磁場共用ステーション 【ステーション長】木吉司、木戸義勇 【定年制職員】浅野稔久、伊藤喜久男、今中康貴、宇治進也、大塚秀幸、大木忍、木吉司、小菅通雄、後藤敦、 佐藤明男、清水禎、高澤健、高増正、竹端寛治、丹所正孝、寺嶋太一、永井秀雄、二森茂樹、沼澤健則、 端健二郎、廣田憲之、松本真治、松本文明、湯山道也 データベースステーション 【ステーション長】山崎政義 【定年制職員】木村一弘、清水 順也、徐一斌、田中秀雄、村田正治 共用ビームステーション 【ステーション長】小林啓介 【定年制職員】泉 富士夫、上田茂典、大沼正人、岸本 直樹、北澤 英明、櫻井 健次、田中雅彦、松下能孝、山 下良之、吉川英樹 分析支援ステーション 【ステーション長】田沼繁夫 【定年制職員】井出邦和、伊藤真二、岩井秀夫、小黒信高、貝瀬正次、木村隆、倉嶋敬次、小須田幸助、佐 藤晃、竹之内智、堤正幸、荻原俊弥、長谷川信一、福島整、矢島祥行、山口仁志、和田壽璋 ナノファウンドリーステーション(2006年4月~2007年3月) 【ステーション長】三木一司 【定年制職員】清水順也 ナノ物質ラボ(2006年4月~2009年4月、以後各領域萌芽ラボ) 【ラボ長】室町英治、井上悟 【定年制職員】Alexei A Belik、 Jonathan P.Hill、 Huabing Wang、相澤俊、有賀克彦、有沢俊一、安藤寿浩、 井伊伸夫、石井明、磯部雅朗、井上悟、宇治進也、内田吉茂、大谷茂樹、川嶋哲也、小谷和夫、小林敬道、 櫻井裕也、重藤暁津、下村周一、菅家康、鈴木芳治、瀬川浩代、関田正實、関根利守、竹村謙一、谷口尚、 寺嶋 太一、長岡 克己、中西 淳、中野 智志、橋爪 秀夫、羽多野 毅、速水 渉、藤井 和子、細田奈麻絵、三重野 正 寛、三島修、宮澤薫一、森泰道、矢ヶ部太郎、山浦一成、遊佐斉、若桑睦夫、若原孝次 材料ラボ(2006年4月~2009年4月、以後各領域萌芽ラボ) 【ラボ長】原田幸明 【定年制職員】David Andrew Head、 Sherif A.El-Safty、 Oleg Vasylkiv、足立吉隆、阿部晴雄、井島清、磯田幸 宏、井出邦和、伊藤海太、井上忠信、今井義雄、殷福星、江頭満、大塚秀幸、小川一行、片山英樹、木村秀 夫、木本高義、小林幹彦、今野武志、坂井義和、澤口孝宏、篠原嘉一、徐一斌、志波光晴、新野仁、関戸信 彰、田中秋広、土谷浩一、唐捷、名嘉節、長井寿、永川城正、中根茂行、中村博昭、二瓶正俊、沼澤健則、 長谷川信一、馬場晴雄、林将光、眞岩幸治、升田博之、御手洗容子、村上秀之、村瀬義治、安田剛、山口仁 志、山瀬博之、山本徳和、山脇寿、芳須弘 元素戦略センター (2009年6月~) 【センター長】原田幸明 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点MANA (2007年10月新設) 【拠点長】青野正和、【最高運営責任者】板東義雄、【事務部門長】藤田高広 【定年制職員】Alexei A Belik、Andreas Doenni、Emiliana Fabbri、Dmitri Golberg、Jonathan P.Hill、 Renzhi MA、 Daniele Pergolesi、Chengchun Tang、Lionel Vayssieres、Ajayan Vinu、Chunyi Zhi、安達裕、荒川秀雄、荒船竜 一、有賀克彦、池田直樹、内橋隆、海老名保男、大川祐司、大西剛、大橋直樹、長田実、小澤忠、川本直 幸、久保理、河野昌仙、坂口勲、鷺坂恵介、櫻井亮、櫻井裕也、佐々木高義、目義雄、清水順也、白幡直 人、新ヶ谷 義隆、左右田龍太郎、高田和典、田代 健太郎、館山佳尚、田中雅彦、田中秋広、塚越一仁、津田俊 輔、津谷大樹、鶴岡徹、寺部一弥、冨中悟史、長尾忠昭、長岡克己、中西淳、長沼環、中山知信、生田目俊 秀、名雪哲夫、野口秀典、長谷川剛、樋口昌芳、廣田憲之、深田直樹、藤田大介、古月暁、宝野和博、松本 信介、三留正則、三成剛生、箕輪貴司、室町英治、森 孝雄、森山悟士、山内悠輔、葉 金花、吉川 千晶、若林 克法 ナノ材料科学環境拠点(2009年11月新設) 【拠点長】潮田資勝、【拠点マネージャー】長井 寿 【定年制職員】久保 佳実、小林由佳、白井 康裕 ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター(~2007年3月) 【センター長】岸 輝雄、【副センター長】米倉 実、小嶋 典夫 【定年制職員】平原 奎治郎 NIMSナノテクノロジー拠点(2007年4月~2009年3月) 【拠点長】岸 輝雄、潮田資勝、【副拠点長】古屋一夫、【運営室室長】平原 奎治郎 【定年制職員】池田直樹、内田直哉、小嶋典夫、小出康夫、清水順也、杉本喜正、知京豊裕、津谷大樹、花 方信孝、箕輪貴司 国際ナノテクノロジーネットワーク拠点(2009年4月に名称変更) 【拠点長】野田哲二、【副拠点長】古屋一夫、【定年制職員】内田直哉 電子顕微鏡クラスター (2008年4月) 【マネージャー】竹口雅樹、【定年制職員】北見喜三、木本浩司、倉嶋敬次、長井 拓郎、原 徹、三石和貴、三 留正則 戦略室(2009年4月~) 【室長】中村和夫、【定年制職員】内田直哉、門平卓也、佐久間芳樹、澤口孝宏、多田正広、松室寛治、峯田元、 渡邊英一郎 企画調整室(2008年4月~) 【室長】小野寺秀博、村川健作、【定年制職員】大縄豊、大村孝仁、河西純一、片山英樹、木村勝利、小泉聡、 小林清、近藤潤紘、島根義幸、末原茂、立木実、長岡克己、西本健司、不動寺浩、峯田元、森孝雄、吉野雄 介 評価室(2007年9月~) 【室長】小野寺秀博、黒澤景、【定年制職員】高橋和弘、西本健司、吉野雄介 国際室(2007年2月~) 【室長】神田久生、竹村 誠洋、【定年制職員】Andreas Doenni、小池一成 広報室(2007年2月~) 【室長】村川健作、兵藤知明、【定年制職員】阿部孝行、今村直樹、小森和範、佐藤守夫、宗木政一、渡邊義 和 人材開発室(2006年4月~) 【室長】中村和夫、片田康行、黒澤景、【定年制職員】阿部太一、板倉明子、佐藤 哲治、志田憲一、丹所 正孝、 納冨健文、松本信介、御手洗容子、村川健作、柳生進二郎 科学情報室(2007年4月~) 【室長】谷藤 幹子、【定年制職員】David Andrew Head、大塚 真吾、高久 雅生、中島裕子、中村 孝広、棒田富 美子 IT室(2006年4月~) 【室長】赤羽 隆史、【定年制職員】瀬川剛、長島隆、中村 孝広、簑口正雄 連携推進室(2006年4月~) 【室長】中野義知、村川健作、青木芳夫、【定年制職員】阿部好夫、飯島東江、石井伸幸、今村直樹、大和田恵 子、奥村佳奈、河西純一、梶山沙織、川野昌寛、川畑太吾、木村隆、小綿龍太、近藤潤紘、佐々木良宜、菅 谷貴久世、杉田浩二、田中英彦、轟眞市、長井寿、中野恵介、西本健司、野村弘子、畑田史孝、原龍雄、 平野敏幸、細貝浩一、堀川亮、本田博史、松本広樹、宮田仁、森菌繁光、八木晃一、谷中剛、吉田重信、 渡辺明男、渡邊義和 国際・広報室(2006年4月~2007年1月、国際室と広報室に改編) 【室長】神田久生、【定年制職員】川野昌寛、川端 千賀、竹村誠洋、谷藤 幹子、渡邊義和 総合戦略室(2006年4月~2008年3月、企画調整室に改組) 【室長】藤田高弘、【定年制職員】内田直哉、鯨井脩、近藤潤紘、清水 卓雄、杉本 喜正、高橋和弘、中村 孝広、 長山由孝、松本信介、峯田元、大橋直樹、長谷正司、竹口雅樹、生駒俊之、花方信孝、加藤誠一、松下明 行 企画調査室(2006年4月~2008年3月) 【室長】米倉実、小嶋典夫、【定年制職員】門平卓也、黒澤景、兵藤知明、松本信介 理事長室(2008年4月~2009年3月、戦略室に名称変更) 【室長】小嶋典夫、【定年制職員】内田直哉、川喜多仁、門平卓也、多田正広、峯田元 秘書室 【室長】村川健作、【定年制職員】浅野広子、阿部好夫、荒井直樹、今西祐子、徂徠春子 安全管理室 【室長】藤塚正和、赤羽隆史、【定年制職員】荒木弘、飯田孝夫、石井一夫、大和田孝、国井清人、小菅通雄、 永井秀雄、中村由喜夫、養田満成 男女共同参画デザイン室(2009年3月~) 【室長】平野 敏幸、【定年制職員】板倉明子、梅田美希、奥村 佳奈、中村 孝広、野村 弘子、御手洗 容子、柳生 進 二郎、横山政人 監査室 【室長】青木秀夫、保坂正己、阿部好夫、【定年制職員】飯塚直幸、多田正広、田中恵美 総務部 【部長】根本光宏、横山治良、大柴満、【参事役】奥津光、大柴満、永井國博、真明俊宏 総務部総務課 【課長】杉山弘、田中恵美、古川 絶不、【定年制職員】浅野広子、飯塚 直幸、磯部 次郎、稲葉 良徳、岡崎 厚治、 奥村佳奈、木村阿紀子、新満道子、菅谷武志、高野薫、中島裕子、野仲哲史、古谷知美、棒田富美子、簑口 正雄、柳田治行、横山政人 総務部人事課 【課長】大友専治、黒澤弘義、【定年制職員】朝隈歩、浅野広子、荒井直樹、石井伸幸、海老澤直紀、小田部宜 子、川中智貴、神田俊一、菅谷武志、竹澤孝子、友常治平、中野恵介、野村弘子、福智啓、堀川亮、堀口嘉 樹、松本広樹、三浦貢、横山政人 総務部経理課 【課長】草壁和秀、木曽明雄、、佐藤司、飯島東江、【定年制職員】海老澤直紀、大縄豊、岡野正男、神松圭、 小綿龍太、佐藤泰司、白川欣希、菅谷貴久世、曽根有希子、高田烈将、田口裕二、店曲孝仁、抜井章、根岸 佳典、福智啓、細貝浩一、松元貴徳、吉野雄介 総務部契約課 【課長】成島泰久、青木秀夫、岡野正男、【定年制職員】小田部宜子、柏木亮、金子忍、神松圭、川中智貴、 木村 勝利、木村 阿紀子、小綿 龍太、斉藤 広好、白川 欣希、鈴木 晋、高田烈将、田口裕二、野仲 哲史、畑田史 孝、林 元基、広兼 篤志、保坂 正己、細貝 浩一、谷中剛、飯島東江、大和田恵子、小綿 龍太、菅谷 貴久世、渡 邊義和 総務部施設課 【課長】柘植 政夫、保坂 正己、【定年制職員】飯田孝夫、石井一夫、大平 幹雄、片岡公、関川 重芳、高橋 弘光、 田中正博、中島一徳、名取一明、宮下博文、山口修樹、養田満成 千現地区研究支援室(2009年4月~) 【室長】金子忍 並木地区研究支援室(2009年4月~) 【室長】浅野広子、【定年制職員】斉藤広好 桜地区研究支援室(2009年4月~) 【室長】小池洋二、【定年制職員】磯部次郎、広兼篤志 目黒地区研究支援室(2009年4月~) 【室長】簑口正雄、磯部 次郎 千現地区業務室(2006年4月~2008年3月) 【室長】野口和子、【定年制職員】稲葉良徳、大和田孝、宮下博文 並木地区業務室(2006年4月~2008年3月) 【室長】北見喜三、【定年制職員】大縄豊、大平幹雄、古谷知美 桜地区業務室(2006年4月~2008年3月) 【室長】岡野正男、【定年制職員】岡崎厚治、広兼篤志、宮下博文 目黒地区業務室(2006年4月~2008年3月) 【室長】近藤 正人、簑口正雄、【定年制職員】関谷紀子、田中正博、峯田元 大学院室(2009年6月~) 【室長】井上悟、【定年制職員】徂徠春子、納冨健文 若手国際研究拠点(2003年9月~2008年3月) 【センター長】板東 義雄、【定年制職員】Alexei Belik、 Jian Jin、池田 太一、石井 真史、色川 芳宏、梅沢 直人、 大垣武、片岡知歩、小池一成、河野健一郎、後藤真宏、小林清、櫻井裕也、澤口孝宏、重籐暁津、介川裕 彰、関戸信彰、武田隆史、橘信、津田俊輔、寺地徳之、寺田典樹、唐捷、長田貴弘、中西淳、中西尚志、 納冨健文、樋口昌芳、宮崎英樹、村瀬義治、森山悟士、山内悠輔 ICYS-IMAT (2008年4月~2008年11月、ICYS-MANAと統合され若手国際研究センター新設) 【センター長】潮田資勝、【副センター長】藤田大介、土谷 浩一 ICYS-MANA (2008年4月~2008年11月、ICYS-IMATと統合され若手国際研究センター新設) 【センター長】板東義雄 若手国際研究センター (2008年12月~) 【センター長】潮田資勝、三浦登、【副センター長】藤田大介、土谷浩一、菱田俊一、【定年制職員】納冨健文 NIMS 5年の歩み 第二期中期計画(2006~2010年度) 独立行政法人 物質・材料研究機構 発行日:2011年6月30日 発行人:独立行政法人物質・材料研究機構 企画部門広報室 兵藤知明 〒305-0047茨城県つくば市千現1-2-1 電話:029-859-2026 FAX: 029-859-2017 E-mail: PR@nims.go.jp http://www.nims.go.jp/ ◆本書に関するご意見・お問い合わせは上記担当部署までお願いいたします。 Ⓒ 2011 National Institute for Materials Science Printed in Japan 本書の複製権・翻訳権・上映権・譲渡権・公衆送信権(送信可能化権を含む)は、 物質・材料研究機構が保有します。 mailto:PR@nims.go.jp http://www.nims.go.jp/