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[鶴岡 徹](https://orcid.org/0000-0002-4322-4309)

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[原子層堆積法による高イオン伝導リチウムリン酸窒化物薄膜の作製](https://mdr.nims.go.jp/datasets/932117dc-e4fe-4b8e-9c9a-1af27e776838)

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1 原子層堆積法による高イオン伝導リチウムリン酸窒化物薄膜の作製  鶴岡 徹 物質・材料研究機構 ナノアーキテクトニクス材料研究センター 主席研究員   １．はじめに  リチウム(Li)固体電解質薄膜の研究は、過去数十年に渡り幅広い用途に拡大している。電池用途では車載用の全固体電池や薄膜型イオン電池への応用が期待されている。全固体電池は、航空機の動力システムやウェラブルデバイスなど、安全性が重視される用途にも有望である。しかし、固体中でイオンを高速で伝導されることが難しいため出力が上がりにくいという難点がある。実用化に向けては、高い伝導度を示し界面形成が容易な固体電解質の開発が重要である。また、Li 固体電解質薄膜は、エレクトロクロミック窓や電気化学ランダムアクセスメモリ(ECRAM)などの固体イオン素子への応用にも注目が集まっている。特に、ECRAM は高効率且つ低消費電力で動作するニューロモルフィックコンピューティングシステムの構成要素として期待されている 1,2)。  リン酸リチウムに窒素をドープしたリチウムリン酸窒化物(LiPON)は、室温で比較的高いイオン伝導性と大気中での安定性を示すため、代表的なLi 固体電解質材料の一つである。LiPON 薄膜の作製には一般的に高周波スパッタリングやパルスレーザー堆積法などが用いられる。しかし、これらの成膜技術で 3 次元マイクロ電池や集積化デバイス上に均一な薄膜を形成するのは困難である。近年、原子層堆積(ALD)法は複雑な構造上に原子レベルの精度でピンホールのない均一な固体電解質を成膜できる技術として注目されている。本稿では、LiPON の ALD 開発動向と、我々が進めているLiPONのALD成膜技術に関する最新の成果を紹介する。  ２．リチウム固体電解質の ALD 開発動向  ALD プロセスの基本シーケンスを図 1 に示す。通常、ALD の 1 サイクルは 4 ステップのシーケンスで構成される。まず、基板に有機金属原料プリカーサガスを投入し、表面反応が生じる(Step 1)。プリカーサと条件を正しく選定すれば、反応は自己制限(セルフリミット)的になる。次にキャリアガスをパージして、残存原料プリカーサと反応生成物を排出する(Step 2)。その後、反応性ガスを投入して表面反応により基板の表面配位子が除去される(Step 3)。最後に、再びキャリアガスをパージして、反応生成物が排出される(Step 4)。このサイクルを所望の膜厚になるまで繰り返す。Step 3 の反応性ガスとして H2O などの酸化剤を用いればサーマル ALD になり、O2プラズマなどの反応性ラジカルを用いればプラズマ ALD となる。ALD 成膜の可否は、プリカーサと反応性ガスの組み合わせと、プリカーサの種類や基板温度などの堆積条件によって決まる。 図 1 ALD プロセスの基本シーケンス  2  LiPON の ALD 研究の歴史は比較的新しい。2015 年に LiPON の ALD 成膜を最初に報告したのは、アメリカの Maryland 大学のグループだった 2)。彼らは、リチウム(tert-ブトキシド)(LiOtBu)とリン酸トリメチル(TMP)を用いて N2 プラズマプロセスにより LiPON の ALD 膜作製に成功した。これとほぼ同時期に、フィンランドの Aalto 大学のグループもLiPONのALD成膜を報告した 3)。彼らはリチウムビス ( トリメチル ) アミド(LiHMDS)と、ジエチルホスホリルアミド(DEPA)を交互供給するサーマルALDによりLiPON膜を作製した。一方、国内では(株)パナソニックのグループが LiOtBu とトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン (TDMAP)を用いたサーマル ALD によりLiPON 薄膜の作製を報告した 4)。いずれの ALD膜も室温で 1.6~6.6 × 10-7 S/cm のイオン伝導度が得られているが、300~500℃の高い基板温度を必要とする。今後、LiPON 系の Li 固体電解質薄膜を様々な用途に応用するためには、より高いイオン伝導度とより低い成膜温度を実現する必要がある。  ３．リチウムリン酸窒化物 ALD 膜の開発事例  本節では、我々が進めている Li 固体電解質のALD 成膜技術の開発事例を紹介する。図 2 は、固体電解質用に開発したプラズマ ALD 装置の概略図である。プリカーサと反応剤のガスは Arキャリアガスによりシャワーヘッドを通して基板に照射される。堆積は基板温度 220〜300℃の範囲で行われ、成膜室全体とシャワーヘッドは反応生成物の付着を抑えるために 150℃に加熱される。反応ガスのプラズマは、シャワーヘッドと基板ステージの間に RF 電圧を印加するダイレクト方式で生成される。同時に基板ステージに別の RF 電圧を印加することにより、ラジカルのみが基板に照射される。一般的には基板表面の損傷を抑えるためにリモートプラズマ方式が用いられるが、高いRF電圧印加と長時間照射が必要になる。本装置は低いRF 電圧印加と短時間照射により、リモート方式の欠点を克服しつつ表面損傷の問題も回避している。  図 3 は、我々が構築したリン酸リチウムとLiPON の ALD シーケンスである。Liおよびリン(P)のプリカーサには LiOtBu と TDMAP を用いた。TDMAP は分子構造に 3 つの窒素を含有しており、リン酸リチウムに窒素を導入するのに適していると考えられた。ALDの1サイクルはLiOtBuを H2O で酸化する Li-O サブサイクルと TDMAPを O2プラズマで酸化ないし NH3プラズマで窒化する P-O(P-N)サブサイクルで構成される。NH3プラズマでは、NH3の投入量を 0〜20 sccm で変化させた(NH3流量がゼロの場合、Ar キャリアガスのプラズマプロセスに相当する)。1 サイクルに必要な時間は 70秒であるが、その大部分はパージ時図 2 プラズマ ALD 装置の構成 図 3 リン酸リチウムと LiPON の ALD シーケンス  3 間が占めており、さらに短くすることが可能である。本節で示す結果は、基板温度 300℃で堆積した ALD 膜のものである。  図 4a-4c は、O2プラズマと NH3プラズマを用いたプロセスの成膜挙動をまとめた。成長速度はLiOtBu 投入時間に対して飽和するセルフリミットが観測された(図 4a)。TMDAP や反応ガスに対しても同様の振る舞いが観測された。NH3プラズマの成長速度は O2プラズマよりも約 2倍大きく、基板温度の低下とともに上昇する傾向を示した(図 4b)。膜厚はプラズマ種に依らずサイクル数に対して線形に増加した(図 4c)。図 4d はトレンチ構造にパターンニングした Si 基板に 100 nm 堆積した ALD 膜の断面 SEM像である。トレンチ構造の側面および底面でも均一に成膜できており、良好なステップカバレッジ特性が得られた。  図 5a-5b は、堆積した ALD 膜の X 回折(XRD)測定の結果を示す。O2プラズマでは多結晶膜になるが、NH3プラズマではアモルファス膜になる。各プラズマ種に対して得られた原子間力顕微鏡(AFM)像を図 5c-5d に示す。O2プラズマで堆積した膜表面は結晶粒が重なり合った形状をしているのに対して、NH3プラズマはアモルファス膜に特有な平坦な表面形状を示す。  図 6 は、各プラズマ種で堆積した膜を硬 X線光電子分光(HAXPES)で測定した N 1s のコアスペクトルを示す。HAXPES は通常の X 線光電子分光よりも数〜10 倍程度深いバルクの結合状態を評価することが可能であり、薄膜の評価に適している。O2プラズマでは窒素に由来するピークは観測されないことから、TDMAP は完全に酸化されリン酸リチウムが堆積することが分かる。一方、NH3プラズマでは N 1s ピークが明瞭に観測され、二重結合窒素(P=N-P)と三重結合窒素(P-N<P2)に由来するピークに分離される。これは、窒素が P-O結合と Li-O結合を切断し、P-O-P結合と Li-O-P 結合や P=O 結合の酸素と置き換わることを示唆する。ピーク強度比から、窒素は主に二重結合しており、リン酸ユニットを架橋していると考えられる。HAXPES の定量解析から、O2 プラズマで堆積した膜の組成は Li3.3PO3.4と見積もられた。図 4 O2および NH3プラズマに対する成膜挙動(a-c)とトレンチ構造に堆積した ALD 膜の断面 SEM 像(d) 図 5 O2および NH3プラズマで堆積した ALD 膜の XRD パターン(a)と AFM 像(b-d) 図 6 ALD 膜の N 1s の HAXPES コアスペクトルと膜中の窒素導入量の NH3流量依存性  4 一方、NH3プラズマを用いると、NH3流量の増大とともに窒素導入量は多くなり、20 sccm の NH3流量で膜の組成は Li2.5PO1.9N0.8 と見積もられた。これは、膜中の窒素量が 13%に相当する。膜内に残留する炭素はリン酸リチウム膜で 1.4%、LiPON膜で 3%以下となり、不純物の少ない ALD 薄膜が得られている。  図 7 は、各プラズマ種で堆積した ALD 膜のフーリエ変換赤外吸収分光(FTIR)スペクトルである。O2プラズマで堆積した膜は、ピロリン酸(P2O7)のPO32-ユニットに対応する振動ピークが観測された。NH3プラズマでは PO32-ピークに加えて、N-P-O 結合に由来する振動モードが高波数側に現れる。この振動モードの強度は NH3流量の増加とともに PO32-ピークよりも大きくなる。また、P-N-P結合に由来する振動ピークも観測された。これらの結果はリン酸骨格への窒素の導入を示唆しており、HAXPES の結果とも一致する。一方、Li-O結合に由来する低振動数側の振動ピークは窒素の導入とともにブロードニングする。これは Li イオン周囲の結合状態が無秩序化することを示唆する。  堆積したリン酸リチウム膜と LiPON 膜のイオン伝導度を電気化学インピーダンス分光(EIS)により評価した。図 8 は、EIS結果の解析から得られた各プラズマ種で堆積した膜のイオン伝導度のアレニウスプロットである。O2プラズマで堆積したリン酸リチウム膜は室温で 1.75 × 10-9 S/cm のイオン伝導度を示した。この値は報告されているALD 膜やスパッタ膜の伝導度と同程度である。一方、Ar プラズマや NH3 プラズマで堆積すると、イオン伝導度は著しく上昇する。伝導度は NH3流量の増加とともに上がり、20 sccm では室温で1.65 × 10-6 S/cm を示した。この値は、これまでに報告されているLiPONのALD膜の中で最も高い伝導度である。活性化エネルギー(Ea)はリン酸リチウム膜の 0.91 eV から LiPON 膜の 0.66 eV に下がる。この活性化エネルギーの低下は、窒素の導入により室温での Li イオン伝導度が高くなることを説明する。堆積温度を下げるとイオン伝導度はやや低下するが、220℃でも 5 × 10-7 S/cm となり、これまでに報告されている他の ALD 膜と同程度である。一方、直流分極の測定から、LiPON膜の電子伝導度は 2 × 10-12 S/cm以下であった。これらの結果は、本 ALD 法で堆積した LiPON 膜が高いイオン伝導性と低い電子伝導性を持つ優れた固体電解質であることを示唆する。  NH3プラズマによる高いイオン伝導度は、以下のように説明できる。O2プラズマでは、配列したピロリン酸から成る多結晶リン酸リチウム膜が形成される。NH3プラズマを用いると、窒素がリン酸骨格中の酸素を置換しリン酸窒化物となり、無秩序化してアモルファス膜となる。一方、X 線反図 7 O2および NH3プラズマで堆積した ALD 膜の FTIRスペクトル 図 8 O2および NH3プラズマで堆積した ALD 膜のイオン伝導度のアレニウスプロット  5 射率の測定結果から、膜密度が窒素の導入とともに約 17%低下することが分かった。したがって、窒素導入によって無秩序化したリン酸窒化物骨格に形成された空隙が Li イオンの伝導パスになり、伝導度が上がると考えられる。以上のように、ALDは堆積する膜の組成と構造を精密に制御して、高イオン伝導性の Li 固体電解質薄膜を実現するのに極めて有望な成膜技術と言える。  ４．まとめ  本稿では、リチウム固体電解質の ALD 開発動向を述べた後、リン酸リチウムおよびリチウムリン酸窒化物の ALD 成膜技術の開発事例を紹介した。我々が開発している ALD 技術は、様々な固体電解質材料系に適用できる可能性を秘めており、同様のプロセスでリン酸マグネシム 6)とマグネシウムリン酸窒化物 7)の ALD 成膜にも成功している。今後、ALD 技術は全固体電池や固体イオン素子の開発に重要な役割を果たすことが期待される。そのためには、装置メーカーおよび材料メーカーとの密接な連携と知見共有が益々重要になると思われる。  参考文献 1) E. J. Fuller et al., Adv. Mater. 29, 1604310 (2017) 2) S. Mallik, ACS Appl. Mater. Interfaces 15, 47184 (2023). 2) A. C. Kozen et al., Chem. Mater. 27, 5324 (2015) 3) M. Niula et al., Chem. Mater. 27, 6987 (2015) 4) S. Shibata, J. Electrochem. Soc. 163, A2555 (2016) 5) T. Tsuruoka et al., Chem. Mater. 36, 6193 (2024) 6) J. Su et al., Chem. Mater. 31, 5566 (2019) 7) J. Su et al., Angwe. Chem. Int. Ed. 62, e202217203 (2023)