無機材質研究所十年史 昭和51年5月 科学技術庁 無機材質研究所 炭化けい素単結晶の微分干渉法による顕微鏡写真 本所 全景(昭和50年12月撮影) 無機材質研究所 初代所長 工学博士山内俊吉 井荻庁舎 (昭和41年~42年) 駒込庁舎本館 (昭和43年~47年) 駒込庁舎別館 (昭和42~47年) 筑波開所式 (昭和47年5月16日) 無機材質研究所運営委員会 運営委員会会議風景 皇太子殿下行啓 (昭和47年7月19日) 御到着 高圧力特殊実験棟の御視察 天皇皇后両陛下行幸啓 (昭和49年10月23日) 御到着 高圧力特殊実験棟の御視察 序 昭和41年4月に無機材質研究所が創立されてから,本年,10周年を迎えること になりました。その設立の理念は科学技術庁が,各界から強い要望のあった非金 属無機材質の基礎研究の推進を図ることにあって,その具体的な業務としては, 新材質,高純度材質の創製とそれらの物性の探求を取上げ,グループ研究,客員 研究官制度という,ユニークな研究態勢をとって鋭意研究に取組んできました。 まだ規模は小粒でありますが,所員一同の協力によって次第に業績が積み重なっ てきております。このことは,創立の当初よりの皆様方の一方ならぬ御尽力, 御支援の賜と心から感謝,御礼を申し上げる次第であります。 科学技術の進展の急速化は文字通り10年一昔の感が深いのでありますが,特に 激変が予想される1980年代に直面して,当研究所の知識集約をもって,一層有意 義な研究業務に励もうと思っておりますが,ここに過去10年間を振り返り,研究 所の歩みを記録して,改めて,国会,各省庁,大学,学協会,業界,各先輩の方 々に対し,かわらぬ御厚誼と御鞭撻を御願申し上げる次第であります。 昭和51年5月 科学技術庁無機材質研究所長 田賀井秀夫 創立10周年によせて 科学技術庁長官 国務大臣 佐々木義武 無機材質研究所は,昭和41年4月に,各界からの強い要望を受けて,非金属無機材質の 創製に関する研究を目的として誕生し,本年で満10年を迎えるにいたったことは,誠によ ろこばしいことであります。 この間,無機材質研究所は,発足にあたり研究グループ制度等の我が国においては初め ての研究体制を採用したほか,昭和47年3月には他の研究機関に先がけて筑波研究学園都 市に移転を行うなど、,進取に富んだ若々しい研究所として常に世の耳目を集めてまいりま した。また,創立以来各界の要請に応えて,研究施設等の整備に努めるとともに,非金属 無機材質の研究を強力に推進し,多くの優れた研究成果を収め,我が国科学技術の進歩発 展に貢献してまいりました。 申すまでもなく,材料に関する科学技術は,航空・宇宙,原子力,電子技術等先端的科 学技術の発展を支えてきたばかりでなく,工業製品から日常用具にいたるまで広範囲に応 用される基盤的な技術であります。とりわけ,近年注目を集めてきた非金属無機材質は, 極めて優れた特性を有する新しい材料として,今後の発展が大きく期待されるものであ り,無機材質研究所の果たすべき役割は今後一段と重要性を増すものと考えます。 私は無機材質研究所がこうした使命を十分認識し,過去10年の間に培ってきた優れた研 究成果を更に発展させ,我が国科学技術の向上,社会経済発展のために大いに寄与しうる よう要望する次第であります。また,関係各位におかれては,今後とも無機材質研究所の 発展のため,温かいご指導,ご支援を賜わりますようお願いします。 最後に,職員各位の今後のご健闘と無機材質研究所の一層の発展を祈ってやみ ません。 昭和51年5月 創立10周年を祝して 法務大臣稲葉 修 無機材質研究所設立10周年を迎えるに当り,当時,設立に参画した一人としま して,まことにご同慶にたえないところであります。貴研究所が多くの期待と希 望を担って,昭和41年4月に誕生,発足して以来,今日まで我が国の科学技術の 発展に多大の貢献をされて参ったことに対し,衷心からお祝い申上げる次第であ ります。 当時は,外国技術の導入が盛んに行われていたのでありますが,国家百年の計 に思いを致し,基礎的な研究,特に新しい無機材質の研究を強力に推進すること を痛感していた一人でありました。貴研究所は,設立の理念として基礎的な研究 を重視しておるので,そのユニークな運営を出すには是非総理府に設置すること が望ましいと山内俊吉氏,坪井誠太郎氏,末野悌六氏等といっしょに奔走した記 憶があります。又,新組織を発足させるということは,大仕事であり,予算の獲 得,国会における法案の審議などを通し応援もし,又,多くの人々のご協力を頂 いたことを思い出さずにはいられないのであります。 少人数から出発し,建物も東京駒込の仮庁舎から筑波研究学園都市に,移転第 1号機関として移転し,その後も関係者のご努力や周囲の皆様のご協力で次第に 成長し数多くの成果を収め,現在までに発展したと聞くことは大変嬉しい限りで あります。 今後共,関係者のご努力により貴研究所が益々発展しその成果をあげることに より我が国の科学技術の振興と産業経済の発展の一翼を担い,所期の目的を達す ることが出来るよう心から切に希望してやまない次第であります。 昭和51年5月 目 次 写 真 序 無機材質研究所長 田賀井 秀夫 創立10周年を迎えて 科学技術庁長官 国務大臣 佐々木 義 武 創立10周年を祝して 法務大臣稲葉 修 Ⅰ 概 況 1.設立の経緯 1 2.研究推進のための制度並びに運営 13 3.機構・予算 19 3.1組織 19 3.2人員 23 3.3予算 23 3.4 土地及び建物 27 3.5主要設備 30 3.6図書及び刊行物 34 3.7福利厚生 35 Ⅱ研究概要 総説 37 1.酸化物系無機材質 40 1.1酸化ベリリウム 40 1.2酸化バナジウム 45 1.3鉛ペロブスカイト 50 1.4酸化ジルコニウム 56 1.5酸化ニオブ 61 1.6酸化けい素 65 1.7酸化マグネシウム 69 1.8酸化アルミニウム 74 1.9酸化チタン 78 1.10イットリウムガーネット 83 1.11酸化レニウム 87 1.12複合ビスマス酸化物 91 1.13ペロブスカイト型化合物 94 2.窒化物系無機材質 99 2.1窒化アルミニウム 99 2.2窒化けい素 102 2.3窒化ほう素 105 3.硫化物系無機材質 109 3.1硫化鉄 109 3.2複合バナジウム硫化物 113 4.炭素及び炭化物系無機材質 118 4.1炭素 118 4.2 ダイヤモンド 122 4.3炭化けい素 125 5.硼化物系無機材質 130 5.1硼化ランタン 130 6.酸素酸塩系無機材質 135 6.1硫酸・燐酸カルシウム 135 7.ガラス質無機材質 138 7.1カルコゲンガラス 138 7.2アルミノ珪酸塩ガラス 142 Ⅲ研究業績一覧 1.学・協会誌等に発表された研究成果 147 2.無機材質研究所研究報告書 167 3.無機材質研究所研究資料 167 4.特許・実用新案 167 5.試料提供 170 Ⅳ回 顧 録 座談会(10年を顧みて) 173 井荻時代の思い出 中平光興 209 松原勝定 210 駒込時代の思い出 前田明男 213 田中高穂 214 上村揚一郎 215 筑波移転の思い出 寄水義雄 216 永田孝行 217 長谷川安利 219 福長 脩 220 結晶祭発足のころ 雪野 健 222 無機材研の建物を顧みて 碓井 求 224 Ⅴ無機材研に望む 無機材質研究所の将来について 飯田修一 229 無機材研の将来に望むもの 犬塚英夫 230 無機材研の将来に期待する 貴田勝造 232 無機材料の将来 桐山良一 233 新物質の創製を期待して 小泉光恵 234 想い出と望みと 斎藤進六 235 結晶の相転移と無機材質研究所の変態 定永両一 236 無機材研の将来に期待して 鈴木弘茂 237 無機材研に望む 坪井誠太郎 238 10周年を祝して 三宅静雄 239 追憶と希望 山内俊吉 240 無機材質研究所の将来に期待する 山口悟郎 242 資 料 1.科学技術庁設置法(抜すい) 245 2.無機材質研究所組織規則 245 3.無機材質研究所研究グループ設置規程 247 4.固体材質研究所(仮称)設立趣意書 248 5.無機材質研究所の育成について(要望) 251 6.おもな人事 252 7.海外出張者 255 8.表彰事項 257 9.おもな訪問者 257 10.年表 259 編集後記 261 Ⅰ概 況 I BI 1.設立の経緯 無機材質研究所は,科学技術庁の付属機関として昭和41年4月1日に発足して以来,既に10年の歳 月が過ぎた。この間に研究活動も次第に活発に行われるようになり,現在は非金属無機材質の目的基 礎研究分野の国立研究所としては独自の存在を示すに至っている。 しかし,10年前にはこの分野の研究に対する関心は薄く,当時の我が国の経済情勢などもからん で,決してすらすらと簡単に研究所が設立されたわけではなかった。その後10年の間に,新設された 国立研究機関がわずか数ヶ所に過ぎないことを考えれば,今更ながらよく設立されたものであるとの 感を深くする。 このためには,この分野の研究者の一致した熱意と,関係方面の努力と理解とが研究所を設立へと 導いたのであったが単にその研究目的,研究内容ばかりでなく,当時としては斬新な研究グループな どの特色ある研究体制を盛込み,国立研究機関の一つのモデルを作り上げようという意気込みも,そ の設立の大きな力となったのである。 一般に研究所は設立後10年も経つと次第に類型的になるといわれている。研究所の内容も時代とと もに変化するものではあるけれども,初めの理想は簡単に変えるべきではない。むしろその趣旨を実 現できないうちに内部の活力が失われることを注意しなければならない。この際設立時に掲げた理想 を再び思い起し,将来のより良き発展のために資すことが望ましく,ここに発端となった固体材質研 究所構想以来の研究所設立の経緯とその考え方を述べることとする。 無機材質研究所の設立には長い年月がかかっており,その間名称も当初の固体材質研究所から非金 属無機材質基礎研究所と変り,最後に無機材質研究所となった。これらの内容は一貫したものであ り,以下時代の流れにそって記すこととする。 1.1固体材質研究所 およそ科学技術の諸分野において,その優劣を決する最大の要因の一つは,これに使用される資材 の良否である。科学技術の格段の進歩は,それぞれの分野において目的に適する高性能の資材を得る ために,その科学技術の一般的基盤としての基礎研究を先行させることがどうしても必要である。 第二次大戦後,欧米諸国では,天然・人工の無機質非金属材料などの固体材質の基礎的研究が盛ん に行われ,その成果は科学技術の進歩に対して実に顕著な貢献をなしてきた。しかし当時我が国にお いては,この種の研究を目的とする総合的な独立の研究機関が皆無であったため,先進国に追随する ことすら困難な状態であった。諸外国におけるこの分野の代表的な研究所として考えられたものは , 米国 カーネギー研究所地球物理学実験所,ペンシルバニア州立大学鉱物工学部,西ドイツ マック ス・プランク珪酸塩研究所などであった。 このような現状を見るに忍びず,岩石学の坪井誠太郎氏(東京大学名誉教授),窯業工学の山内俊 吉氏(元東京工業大学長),鉱物学の末野悌六氏(小野田セメント株式会社)の三氏は,昭和37年5 月以後,非金属無機材料物質の将来の発展策に関したびたび会合し真剣に討議した。その結果,これ らの基礎研究機関の整備充実を図ることが急務であり,新しい研究所が何より必要であるとの結論に 到達した。そこで新研究所として固体材質研究所(仮称)の設置を三氏共同で計画し各方面に要望す ることとなった。 固体材質研究所は,固体材質の各種条件下における物理的,化学的,鉱物学的性質に関する基礎的 研究を行うことを目的としている。ここでいう固体材質とは天然・人工の無機鉱物質の材質の総称で あって,鉱物,岩石,人造鉱物,窯業製品,各種のニューセラミックスと呼ばれる無機質材料などを 指している。 固体材質研究所は,これらの固体の結晶学的状態,生成,変化などの究明を主とするもので,材質 を構成する物質種の構造及びその性質との関係,集合状態,組織及びその性質との関係,環境条件の 影響,高温高圧力下の反応,装置及び方法の研究などを行うことが計画されていた。 以上はそれ以後の無機材質研究所の設立計画の母体となった考え方であるが,研究体制としては研 究室制をとり,10研究室程度(各研究室は10名くらい)のものであった。 このような研究所は特定の応用研究のみを対象とせず,広く科学技術への適用を考慮して,その一 般的な基盤となる総合的な基礎研究を目的とする性格上,国の機関とし科学技術庁に所属するのが望 ましいと考えられた。 この計画を進めるにあたっては,内容の準備をするためのデータが必要であり,昭和38年になっ て,山内氏は鈴木弘茂氏(東京工業大学)を,末野氏は鈴木淑夫氏(工業技術院地質調査所)をそれ ぞれ推薦し具体的に行動してもらうこととなった。研究所の具体的な内容,規模などについては,科 学技術庁の梅沢邦臣氏(研究調整局)及び堀江寛氏(計画局)の意見をもとに人員,予算,建物など の計画を立て,固体材質研究所(仮称)設立案を準備し,要望書及び設立趣意書を作成して設立を推 進することとなった。 坪井,山内,末野の三氏は,このような基礎研究所設置の必要性を学界,財界,政界などを説きま わり,安藤豊禄,石坂泰三,植村甲午郎,茅誠司,倉田主税,柴田雄次,森本貫一,(アイウエオ順) の諸氏の賛同が得られた。そこで,坪井,山内,末野の三氏と合せて10名の要望を,佐藤栄作科学技 術庁長官に行うとともに清瀬一郎衆議院議長,重宗雄三参議院議長,池田勇人内閣総理大臣,田中角 栄大蔵大臣に協力方要望を行った。 ここに無機材質研究所の設立計画は大きく動きだすこととなった。昭和38年8月のことであった。 以下に,参考資料として科学技術庁長官あて要望書を付記する。 固体材質研究所(仮称)設置に関する要望について 科学技術の優劣を決する最大の要因の一つは,これに使用する資材の良否であることは明白であり ます。従来わが国に欠如していた非金属無機材質の基礎研究を行い,固体材質研究所(仮称)を設置 し,科学技術の急速な進展に対処されたく,別紙1,2注)を添えて要望いたします。よろしくお取 計らい下さるようお願いいたします。 昭和38年8月 科学技術庁長官 佐藤栄作殿 要望者(50音順) 安 藤 豊 禄 石 坂 泰 三 植 村 甲午郎 茅 誠 司 倉 田 主 税 柴 田 雄 次 末 野 悌 六 坪 井 誠太郎 森 本 貫一 山 内 俊 吉 別紙1. 固体材質研究所(仮称)設置に関する要望 最近急速な発展を遂げつつある原子力工学,電子工学,宇宙工学その他の諸分野における数多くの 実例が示しているように,科学技術の進歩は,それに使用される工業材料の品質,性能の向上に負う ところがきわめて大きい。従って前人未知の優秀な新材質を創製することは,科学技術の画期的進歩 をもたらす上に欠くことのできない要因である。 欧米の先進国では,金属材料だけでなく,つとに工業材料に深い関連をもち科学技術の進歩への一 般的基盤となる固体材質,特に非金属無機材質(以下固体材質と呼ぶ)の基礎研究に対しても,技術 界,産業界,ひいては一般社会が強い関心を寄せ,新製品の開発に力を入れ,すぐれた施設をもって いる。 ひるがえってわが国の現状をみると,固体材質の基礎研究に対する一般の関心は極めてうすく,国 としても,この種材質の創製を推進するに足る基盤となる,綜合的且つ基礎的な問題を取扱う有力な 研究施設を欠如している。このことが,新しいすぐれた固体材質の甚だしい立ち後れの原因ともなり, 科学技術の進歩に対し色々の支障を来しているのである。このような現状では,先進諸国に追随する ことすら困難である。 われわれは,すみやかにこれら材質の発展を押しすすめるために,必要かつ強力な研究機関を設け, これまでの遅れを取り戻し,さらに独自の創見による研究を進め,固体材質の急速な進歩開発の基盤 をつくることが緊要な段階にあることを痛感する。 注)別紙2については,資料の項4に記載しております。 固体材質研究の成果は,ひとり一般工業材料の面に限らず,原子力工学,宇宙工学,電子工学など の諸材料やその他のニューセラミックスの調整及び研究,実験装置に要する高性能特殊資材の供給, 天産物の本質及び成因に関する諸問題の解明等にも資するところ多く,これが広く科学技術の諸分野 にもたらす恩恵には測り知れないものである。 幸いに,わが国には,固体材質創製の基盤を培う研究に適する有能な研究者が多数あり,これらの うちには,かつて外国の研究機関においてこの種の研究に従事し,世界的に優秀な業績を挙げた体験 をもっている者も少なくない。また,現に外国に招かれてかかる研究に携わっている者もある。わが 国は,このようなすぐれた研究者を擁しながら,その能力を充分発揮させるに必要な研究機関を欠い ているのである。 われわれは,これらの有能な研究者を結集して固体材質の基礎研究を推進し,その成果の基礎の上 に科学技術の画期的な進歩をはかることを目指し,ここに固体材質研究所(仮称)の設置を要望す る。 このような研究所は,単に学術的研究のみを行う場ではなく,常に広く科学技術への適用を考慮して, 新しい固体材質の創製に対し,その一般的基盤となる研究を行なう機関であるので,科学技術の基盤 を綜合的に支えることを目的とする科学技術庁関係の国立研究所として設置されることが望ましい。 以上のとおり要望いたします。 1.2基礎研究第1パネル 昭和38年8月に提出された固体材質研究所設立の要望は科学技術庁において検討が重ねられた。 一方,これより以前に科学技術会議においては諮問第3号『国立試験研究機関を刷新充実するため の方策について』について審議が行われその答申がなされており,その中で,科学と技術を結びつけ る基礎研究の重要性が述べられていた。このようなおりでもあり,科学技術庁は,基礎研究の具体的 な推進方策を審議するため,その一つとして,非金属無機材質の基礎研究の必要性と研究所の設立に ついての検討を目的とした基礎研究第1パネルを設置した。 基礎研究第1パネルは昭和38年10月から39年5月にかけて12回にわたり活動を行い,その結果とし て研究所の設立が必要であるとの結論にたって,昭和39年5月に報告書『研究所の設立について (案)』をまとめて解散した。 第1パネルは科学技術庁計画局に置かれ,その委員は,坪井誠太郎,山内俊吉,末野悌六,中平光 興,境野照雄,斉藤進六,鈴木弘茂,鈴木淑夫,都竹卓郎,佐藤元昭の諸氏であった。 基礎研究第1パネルにおける結論は,基本的には固体材質研究所の思想とほぼ同様であって,研究 所の目的は,非金属無機材質について特定の応用のみを目的とせず広く科学技術への適用を考慮し, 科学技術上の特定事象の周辺を総合的,組織的に探求する基礎研究の強化をめざしている。更にこの 分野で広く国外にいる研究者も十分に活用できる体制を考えていた。 組織は,研究室制をとっており,それらの名称,(1)反応Ⅰ (合成),(2)反応Ⅱ (溶融),(3)反応Ⅲ (粉体),(4)構造Ⅰ (結晶質),(5)構造Ⅱ(非晶質),(6)構造Ⅲ (欠陥状態),(7)組織,(8)性質Ⅰ (結晶 質),(9)性質Ⅱ(非晶質),(10)超高温超高圧の10研究室を考え,その他に研究サービス部門,事務部門 を合せて合計342名の計画であった。 これらの固定研究者はそれぞれ経常研究を行っているが,経常研究に携わっている固定研究員と, 外部から招へいされた流動研究員とによってプロジェクト研究のチームが編成され研究を行うことが 考えられた。このようなプロジェクト研究は,大学附置研究所とは異なり,大規模な研究を行いやす くするために考えられたもので,この研究計画には所内外の学識経験者と産業界,行政機関代表をも 含めて委員会を作ることが考えられた。更に,研究が実施されて,その研究終了以前にその研究の評 価を行い,研究の継続の可否を審議する研究処理委員会も考えられた。 この研究所における研究員は,自分で研究のできる能力のあるものと考え,大学修士課程終了程度 の人は研究者の卵と見なして研究補助員と考えることとした。 各研究室に必要な研究設備について,具体的なものを挙げて予算をたて,全体の見積りを行った。 このように,基礎研究第1パネルにおいて考えられたものは,根本的には固体材質研究所のものと それほど変化はないが,その具体的な方策,特に研究組織については,プロジェクト研究の考えがだ されており,後の無機材質研究所の組織に似たものが現れてきている。 科学技術庁計画局は,基礎研究第1パネルの結論をもとにして,新しく非金属無機材質基礎研究所 (仮称)の設置を計画し,人員354名,10研究室,予算(人件費以外)35億円をもって昭和40年度予 算要求を行った。このときに将来(昭和41年度)は筑波研究学園都市に移転することとして計画され た。 この当時は我が国は,それまでの急速な成長が一段落し特に国立研究機関は拡張が極力押えられ, 新設はほとんど不可能と考えられていたときであったが,愛知揆一科学技術庁長官の強い推進と,科 学技術庁の関係者並びに側面からの稲葉修,佐々木義武,迫水久常,坪井誠太郎,山内俊吉,末野悌 六の諸氏の努力により,定員3名の非金属無機材質基礎研究所(仮称)設立準備室が,500万円の予 算で認められ,科学技術庁計画局に附置されることとなった。 昭和40年4月に設立準備室が認められたことによって,新研究所の規模その他の検討が更に進めら れることとなった。 1.3非金属無機材質基礎研究所(仮称)設立準備室 科学技術庁計画局では,基礎研究第1パネルの考え方の線でまとめた資料をもとにして,どのよう な研究所を設立すべきかという検討を行うため,設立準備研究検討会(座長坪井誠太郎氏)を組織 し,昭和40年3月に第1回の会議を行った。4月以降は設立準備室が取りまとめを担当し,1年にわ たって計6回の会議を行った。検討会に参加の各委員名は下記のとおりである。 非金属無機材質基礎研究所(仮称)設立準備研究検討会委員(50音順) 阿刀田徹三(理化学研究所) 坪井誠太郎(東京大学名誉教授) 犬塚英夫(東京芝浦電気(株)中央研究所) 中平光興(東京大学講師) 岩村霽郎 (科学技術庁金属材料技術研究所 科学研究官 ) 野口長次 (工業技術院名古屋工業技術 試験所 ) 大杉 治郎(京都大学教授) 野田 稲吉(名古屋大学教授) 貴田 勝 造(日本碍子(株)常務取締役研究所長)長 倉 三郎(東京大学教授) 黒田 正(東京工業大学教授) 広 根 徳太郎(東北大学金属材料研究所長) 国富 稔(山梨大学教授) 益 子 洋一郎(工業技術院東京工業試験所) 久保輝一郎(東京工業大学教授) 三宅 静雄(東京大学物性研究所長) 定永 両一(東京大学教授) 森谷太郎 (東京工業大学工業材料研究 所長 ) 末野悌六(小野田セメント(株)) 山内 俊吉(東京工業大学名誉教授) 田中 広 吉(工業技術院大阪工業技術試験所)矢 木 栄(千代田化工建設(株)副社長) 高橋 治男((株)日立製作所中央研究所) 渡辺 武男(東京大学教授) 新しい研究所案は,研究内容,組織ともにいろいろと問題が多く複雑であり,一方計画案は概算要 求に間に合せなければならないため,5月に入り小委員会を検討会内に設けた。小委員会委員長は森 谷太郎氏(東京工業大学工業材料研究所長),定永両一氏(東京大学教授),長倉三郎氏(東京大学教 授),鈴木弘茂氏(東京工業大学助教授)の四氏であった。 小委員会は,研究所設立の諸問題について取りまとめ,検討を加えた結果,7月に非金属無機材質 基礎研究所(仮称)計画案をまとめた。この案は更に研究検討会において審議検討され承認されたう えで検討会案としてまとめられ,新研究所の設立案として予算要求に持込まれることとなった。した がって,現在の無機材質研究所の大方針はこの案の内容が骨子となっている。 計画案の中の要点は次のとおりである。 研究所の主な任務は『特定条件の非金属無機材質の合成に関する研究,合成物質の解析研究並びに これと類似する天然物との比較研究を実施する。(特定の物理的及び化学的条件を,高度の精密さを もってみたす物質,例えば超高純度物質)』となっている。 この目的を行うためには次のことが考えられた。 (a)関係する諸専門分野の研究者がグループを作って協力し研究を推進する。 (b) 本研究所では,非金属無機材質の分野で純理,応用の区別にかかわらず基本的な事項を研究の 対象とする。(基本的な事項とは,それを研究することによって,より広範な現象の解明に役立つ事 項をいい,したがって新材質の創製,新用途の開発に役立ち,更に経済効果の向上に資するものであ る。) (c)研究に必要な設備の充実には特に意を用いる。 なお,この計画案は各方面にも説明が行われたが,その概要は次のとおりである。 (1)超高純度物質 上記の超高純度物質という語は議論の多い言葉で,これこそ最も重要なものであるという意見と, 研究目的を狭く限定しては困るとの意見があった。ここでは超高純度物質は化学組成のみの狭い意味 にはとらず,化学組成,結晶構造,物理的性質などのはっきりわかった物質の一つの例として超高純 度物質が考えられていた。 (2)研究グループ制度 非金属無機材質の研究分野ではグループ研究が重要であることは第1パネルの当時から認識されて おり,既にプロジェクト研究として経常研究と併記させて大規模な研究を行うことが計画されてい た。 しかし,検討会の審議の過程で,グループ研究そのものを組織として考えるという案が示されたと きにはすぐに賛成する委員はいなかった。その当時では異なった専門分野の集合体である研究グルー プという組織が,どのようなものになるかということを具体的に知る人はなく,すぐには評価できな かったからであろう。 将来の国立研究機関のいろいろの問題点を考えた場合に,その解決のための一つの方策として,あ らかじめ設定された計画に沿って研究を行い研究終了後解散するという研究グループの考え方は,新 しい研究所の姿としては必要なものであった。 この体制の理解を深めるため,縦軸に研究の専門分野をとり,横軸にそれぞれのグループをとった モデル図を作った結果,研究グループ体制の考え方がわかるとともに,非金属無機材質の研究にはむ しろこのようなグループ体制の方が効率的な研究が行い得るであろうという理解が,次第に検討会内 部で得られるに至った。 グループ体制は,期限をつけて終了後解散することを条件としている。研究所の人事の刷新を図る ため,すべて契約制として,グループ研究員をすべてやめさせ,次のグループでは改めて適当な人を 採用するという意見もあったが,現実には難しく,せめて所内だけでも流動することはプラスになる ものと考えられた。 研究員は,原則として,常に少なくとも一つの研究グループに参加し,その目的の研究を行うこと になるため,グループ解散の時点では,グループのみならず研究員の評価も可能となる。従来国立研 究所の研究者の中ではややもすると安易に流れるものがいるので,それぞれの責任を考えてもらうた めには,このような方法が良策と考えられた。 この討論の過程で,グループ研究にとらわれないで自由なテーマで研究を行ういわゆる基礎研究グ ループの発想もあったが,逆にどの研究グループにも入ることのできない研究者の溜りとなるおそれ が指摘された。 (3)運営会議 新研究所は,国立研究機関である性格上,その研究目標も広く国家的な立場から現代の要請に対処 してとらえられたものであることが望ましい。このために所長の諮問機関として運営会議を設けるこ ととした。運営会議は所外の無機材質研究とこれに関係する分野の学識経験者によって構成され,所 長を助ける一方研究所があまり所外からの影響を受けず,独自の研究がやりやすくなるようにすると いう性格も同時に考えられた。 この運営会議は,研究グループの研究題目の選定などの研究上の重要事項について審議し,更に研 究所と外部の大学,研究機関との協力体制を積極的に進める役割が期待された。 研究グループの研究題目を設定しグループを組織する場合には,次のような順序が考えられた。 (a)研究所における研究者は,それぞれの専門分野で研究を実施する。これらの研究者の発想になる 問題のうちで,グループ研究として適当と考えられる研究目標が所長の下に提出される。 (b)所長は,このグループ研究計画案を整理し運営会議に諮問する。 (c)運営会議は,所長から諮問された計画案を審議して,この研究が国として重要な科学技術の基本 的な問題で,かつ早急に解決が望まれているかどうかを検討したうえで,グループ研究計画を一応の 期限をきめて所長に答申する。 (d)所長は,運営会議の答申を尊重してグループリーダーを選び研究グループを設定する。 (e)グループリーダーは,所長,運営会議,所員等と有機的に連絡をとりつつ人選を行い,研究所内 外の研究者を集めて研究グループを組織する。 (f)研究グループは,広い研究分野の人々が同一場所において協力体制をとって研究できるように組 織され,目的とする材質に関しての合成研究,解析研究,比較研究などが実施されていく。研究の実 施の途中で新しく解決すべき問題が当然生じてくる。更に研究所内外からこの研究所で研究可能な範 囲の多くの問題が提案されるであろう。これらの研究すべき題目は,すべて所長の下に提出され整理 され運営会議に諮問され,再び上述の順序に従って新しい研究グループが組織される。 以上のような順序で研究グループが組織され,グループ研究が実施されれば,研究活動が活発にな ると期待された。この場合,その研究題目に関して研究能力に優れ,かつ全体を総合的に考えられる 人で,グループ研究の推進役として最も適当な研究者がリーダーとなることが重要である。研究グル ープは,多くの異なった研究分野の研究者の集りであることから,ある研究グループでは若いリーダ の下に経験豊かな能力ある研究者がいることも予想された。この場合,リーダーは身分制ではなく, グループが解散すればリーダーは次には別のグループ研究員となることもあり,外部から参加した研 究員は本来の研究機関にもどることが考えられた。 このような考え方が出され,このとき,現在の運営会議及び研究グループの制度の基本の形ができ あがった。 (4)研究の性格 新研究所は,いわゆる基礎研究を実施すべく計画されたものであるが,一部には応用研究をとの意 見もあった。その内容が各省庁間にまたがる性格上,その間にいろいの注文があり折衝が行われた。 工業技術院関係は応用研究を行っており,また,文部省関係は一般には基礎研究を行うものと考え られているが,この新研究所における材質研究は大学と同じ基礎的なものであるとの意見もあった。 結局,文部省関係は純粋基礎研究,科学技術庁は目的基礎研究,工業技術院は応用研究,企業は開 発研究などというように研究の性格付を行った。すなわち,この研究所では目標をもった基礎研究を 主眼としており,その基礎となる材質の研究を行うこととなった。 (5)流動研究員 研究グループを組織する場合に,固定研究員だけでは取扱い得ない分野は外部の研究者の応援を求 めなければならない。このために流動研究員の制度を考えた。このような制度について,積極的に外 部の大学,研究機関との人事の交流を推進し得るような体制を確立することが強く望まれた。 また,流動研究員を2大別し,ある期間研究所に専任として採用されるものを常勤とし,研究グル ープ解散後は本来の研究機関にもどることを考えた。これに対して一時的なものを非常勤流動研究員 と考えた。このような考え方では,常勤流動研究員は研究所の定員を用いて採用するので固定の研究 員と区別がつかないことになる。 研究所は,初めは理想的であっても次第に固定化してしまうので,将来この研究所が老朽化しない ためには人事の交流が大切であって,研究所の全部あるいは大部分を流動研究員とする案も検討され た。特に大学院博士課程修了者の一時的な研究の実地訓練の場として流動研究員の制度を活用すべき であるという意見も述べられた。 なお,非金属無機材質の研究には多くの大型の設備を必要とするので,将来この研究所に多くの設 備が備えられることとなる。そこでこのような設備を外部に開放するかどうかが検討されたが,従 来,設備の共同利用という意味での共同利用研究所では所員の負担が著しく増大することが知られて いるので,このような形では設備は所外の目的には開放しないこととした。しかし,流動研究員との グループ研究という形では所外研究者に提供されることとなった。 流動研究員の名称は後に客員研究官と変更された。 (6)筑波研究学園都市との関係 研究所は将来,筑波研究学園都市に建設が予定されており,そのうえで各種の議論がなされてい た。既に科学技術庁計画局では研究学園都市関係のまとめを行っており,この研究所は学園都市にお ける国立研究所のモデルケースとして他の移転機関もこれに見ならえるようなものとすべく考えられ ていた。 (7)設立へのつめ 以上のような昭和40年7月の案に基づき,設立準備室は,科学技術庁,特に計画局の全面的な応援 の下に設立計画を推進した。 当時の政府の方針としては,国立研究所の新設は極力制限している情勢であったが,新研究所の研 究体制の新鮮さなどは既に各方面の注目を集めていた。一方,その研究内容の説明が非常に難しかっ たため,国会でも大蔵省でも度重なる説明が必要であって,科学技術庁の関係者は甚だ多忙であっ た。 (8)設置法 以上に基づき,設立準備室は設置法の作成に入り,検討の結果,新しい無機材質研究所の設置法に おける業務については,次の3項にまとめられることとなった。 (a)非金属無機材質に係る超高純度材質及びこれに類する材質の創製に関する研究を行うこと。 (b)前号の研究に伴い得られた物を試料として提供すること。 (6)委託に応じ,第1項の研究を行うこと。 この第1項の中には『に係る』,『これに類する』,『これに関する』,という箇所があり,その理解 が難しいが,真の意味は前述の研究検討会の方針そのものである。表現としては別な角度からみてい ると解すべきものである。 すなわち,研究所の目的は材質(材料物質)の創製に関する研究である。ではどのような材質かと いうと,超高純度とか超高完全度あるいは化学組成,結晶構造,物性などが精密にわかったような高 度の研究を要する材質である。しかし,これらは当然な.まやさしいことでは得られないので,創製に 関する研究として,単に合成だけではなく,この目標を達成させるために,材質の合成に関する固体 反応,相平衡,結晶成長,極条件の開発などの研究とともに,合成物質の原子構造,格子欠陥,組織, 物性などの解析研究並びにこれと類似する天然物との比較研究などが行われなければならない。これ らの高度な研究を自ら行い,その基盤の上に目的とする材質の創製が可能であると考えられた。 つまり,国立研究所には当然その任務がある。新研究所の目標はある特定の物質の合成であるが, この目標を頂点としてこれに必要なあらゆる種類の高度の研究が行われることを想定したものであ る。 特定の研究グループに参加した研究者は,その目的を達成するためにいろいろの研究を行い,また 必要があれば各種の関連物質も取扱うことになるが,グループの研究目標には当然束縛されることと なる。しかし,そのグループ研究体制の中で,目的に達するための研究の発想は自由であり,自由な 環境の中で,自由な方法でそれぞれの研究を行うことはいうまでもない。すなわち,この研究所にお いては,研究グループに参加した研究者の目標は自由ではないが,その過程は自由であるという考え 方をとった。 このような目標として,新研究所においては,現在世の中にまだ存在しないような物質,つまり高 純度物質,高完全度物質,高精度に解析された物質,高精度の標準物質,新物質などの創製を目標と したことにより,広い専門分野の研究者がグループを組んで研究することができるであろうと考え, またこのような体制でなければ到達できないであろうと予想した。 このようなことから,研究グループの名称は初めから物質名がつけられていることはむしろ研究所 の特色とさえなっているが,物質をあまり扱かったことがなく,従来の考え方にとらわれている人に は奇異に感じたかも知れない。 なお,研究グループの活動には多数の優れた技術者が必要となるが,研究職と技術職を判然とした いとの要望が多かった。 (9)試料の提供 研究所の一つの業務として研究用標準物質などの試料を提供することは,国として重要な任務であ ることから設置法にのせることとなった。 しかし,既に述べたように,この研究所は物質の製造は行わないので,注文に応じて試料を合成す るわけではない。研究の結果当然物質が合成されるので,外部からの申込みが研究用の目的であれ ば,研究所にゆとりのある場合に限り試料を提供するということである。 (10)研究所の規模 研究所の将来構想は,総員400名,他に非常勤の流動研究員50名,研究グループ数15,機構は下図 のとおり取りまとめられた。 研究所設立準備研究検討会による将来構想 機構及び人員 所 長 運 営 委 員 研究グループ (グループ数15) 人員210名 研究連絡部 (25 名) 計画課 業務課 技術部 (105 名) 共通実験課 管理課 工務課 調査課 総務部 (59名) 庶務課 会計課 総 人 員 400名 他に非常勤流動研究員 50名 1.4無機材質研究所の誕生 このように多くの議論がなされた後,新研究所の設立案は科学技術庁から提出された。難しい時期 であったにもかかわらず,多くの関係当局の理解のもとに,非金属無機材質基礎研究所(仮称)の設 立は昭和41年度予算政府原案に組入れられることとなった。 一方,新研究所の名称については,坪井,山内,末野,梅沢の諸氏による『無機材質研究所』が最 適との原案が,昭和41年1月27日の設立準備研究検討会で検討の上決定された。 国立機関の新設ともなれば,政府機関ばかりではなく立法府に対しても種々説明が必要であった が,衆参両院では科学技術振興対策特別委員会を初め,愛知揆一,稲葉修,古池信三,迫水久常,佐 々木義武,重宗雄三,中曽根康弘,西村直巳,前田正男,山中貞則(アイウエオ順)の諸氏からは多 大の理解と援助があった。 無機材質研究所の設立案は,第51回国会で科学技術庁設置法一部改正案として提出された。昭和41 年2月15日内閣委員会において上原正吉国務大臣により提案理由の説明があり,更に3月1日同法案 について審議が行われ,3月16日可決された。 参議院内閣委員会には予備審議として2月17日上原国務大臣により提案理由の説明が行われ,3月 17日衆議院から送付後,3月22日に審議され,3月29日可決された。 いよいよ無機材質研究所が発足となり,初年度は何をグループ研究のテーマに採りあげるかを具体 的に検討した結果,SiC (炭化けい素)が適当なものとして選ばれた。 最も重要な問題は初代所長の任命であった。関係する人々が相談の結果,山内俊吉氏が最適任であ るということになったが,当の山内氏は極力辞退した。しかし,坪井,末野,梅沢氏等による度重な る説得の末,山内氏は初代所長を引き受けることとなった。 グループリーダーの名称は総合研究官と呼ぶことになったが,さしあたり山内所長が兼ねることと なった。 ここに各方面の理解と,非常な期待の下に,昭和41年4月1日,科学技術庁無機材質研究所が誕生 した。定員は所長,研究グループ(10名),企画室(3名),総務課(7名)計21名,予算66,346千円 で,とりあえず科学技術庁内の2室を用いて発足し,同年5月10日杉並区井草の仮庁舎に移るまでを 過した。 2.研究推進のための制度並びに運営 無機材質研究所の性格,研究体制,運営に関する構想は一朝一夕にして作られたものではない。既 に設立の経緯で詳述したように固体材質研究所(仮称)に始まり,基礎研究第1パネル,非金属無機 材質基礎研究所(仮称)設立準備研究検討会を通じて検討され,数年にわたる学識経験者の当時の英 智を結集し,斬新で特色のある研究所を創ろうという理想のもとに練られたものである。しかし,理 想が高ければ高いほど,現実の制約もまた厳しくなり,実際の制度並びにその運営には細心の配慮が 必要となる。 特に,グループ研究制度は従来の部課制や専門別にわかれた研究室制といった研究体制とは異なっ た全く新しい初めて試みる官制上の組織であった。そこでまず実行に移し,問題が起こるごとに本制 度の長所を伸し短所を補うための新しい慣行をつくり,職員の理解と努力によっておおむね創立時の 構想に近い姿で運営されるに至っている。以下に研究推進のための諸制度並びにその運営の概要につ いて述べることとする。 2.1グループ研究体制 グループ研究体制は,一つの研究課題に対して,必要な種々の専門分野の研究者を主体とするグル ープを組織し,グループ員はあらかじめ定められた共通の目標に対して自由な発想のもとに学際的に 連携,協力しながら研究を進め,一定の研究期間(原則として5年)以内に目標を達成するよう研究 活動を行う制度である。換言すると,従来の研究室制は,主として専門を同じにする研究者が集りそ の専門分野の中から課題を選んで研究しているのに対して,グループ制ではまず課題を決めその解決 に必要な各種の専門分野の研究者が課題を中心として集まる制度である。目標が達成されたときは当 該グループは解散し,新たな研究課題のもとに必要な研究者が集まって新たなグループが編成される ことになる。 グループの編成手順については既に設立の経緯で述べられており,現在これに準じた手続をとって いるので,ここでは主としてグループの解散,再編成の運営について述べることにする。 (1)グループリーダーは,研究期間満了となる前年の1月末までに,また期間満了以前に研究の終 了を希望する場合は毎年1月末までに,所長に研究の進捗��状況を報告する。所長は所員会議及び運営 会議に諮って解散すべきかどうかを決定する。 (2)解散が決定したグループがある場合には,解散予定の前年の7月末頃までに新しい研究課題を 全所的に求める。新課題の提案者は,研究課題,研究計画,必要な研究者の専門分野,研究予算など を含む研究計画案を所長に提出する。長期計画委員会は,提出された新課題について全所員に公開の 説明会を開いてその周知を図るとともに新課題を検討整理して所員会議に諮る資料を作成する。次い で所長はこれを所員会議及び運営会議に諮って10月末頃までに新課題を決定する。 (3) 一方,新グループに参加を希望する研究者は,11月末までに,意向調査表にその旨を記入して 所長に提出する。 意向調査はグループ解散の有無にかかわりなく,毎年1回行われるものであって,例えば自己の所 属するグループは解散以前であっても,グループの定められた目標について自己の専門分野での任務 を完了し,次年度からは他のグループの課題について研究したいという希望をもつ研究員などは,そ の旨を所長に申しでることができるようになっている。 (4)所長は,運営会議に諮って12月末までに新グループのリーダーを内定し,意向調査表及び新リ ーダーの意見を参照して新グループの研究員を1月末頃までに内定する。 (5)以上の手続きを経て,4月1日に新グループリーダー及び新グループ研究員等を発令して,新 しいグループが発足することになる。 本制度は,従来の専門別分野を中心にした研究室制などとは異なり,一定のプロジェクトを中心に していろいろの専門分野の研究者が集り,学際的に研究を進めるという点に特長があり,現在運営面 で改善すべき点も多少は残されているが,所内に十分定着し成果を挙げつつある。 2. 2研究設備の共通利用 グループ研究体制では研究組織が流動的であり,研究内容も一つの対象を各種の専門分野から攻略 することになるので,特定のグループが特定の機器を専有したのでは研究にはなはだ不便である。そ こで研究設備はすべて共用するという原則で運営している。 購入を希望する50万円以上の研究設備は,基本設備と一般設備に分類され,設備委員会においてそ の必要性,緊急性などが査定され,所員会議に諮って決定される。 基本設備とは,長期計画にのっとり,無機材質の研究を遂行する上になくてはならない基本的な設 備で,一般に汎用性の高いものが多い。一般設備は,これ以外のもので,研究グループの課題によっ ては汎用性は少ないがその研究遂行上是非とも必要な特殊な設備も含まれている。 高圧力発生機器(14,000トンプレス,2,500トンプレス,高圧発生セルなど)は,高圧力関係機器 運営委員会を設け,機器の責任者,整備計画,機器利用者の選定並びに使用時間の割当などを行って いる。また,X線,電子顕徴鏡関係の装置,電子計算機については,利用者会議を設けて共通利用の 円滑な運営を図っている。その他の機器については主務責任者を定め,一般利用者は主務責任者と話 合いの上使用することになっている。 特殊な合成装置のように,一旦他のグループで使用すると不純物が混入して後で使用できなくなる ようなものは,ほぼ独占に近くなるが,このような例は非常に少なく大体において機器は有効的に利 用されている。しかし使用頻度の高い機器は,待ち時間が長くなり,台数の増加を必要とするものも でてきている。 大型機器の主務責任者は,その分野を専門とする研究者が当っているので,グループが解散しても その都度機器を再分配するという手数はほとんどない。 なお,特定の機器例えばX線,電顕,電算機などは,受益者負担の原則により,使用料を使用する 研究者から徴集してこれを機器の消耗品費に当てている。 2. 3研究会制度 グループ研究を行っている過程で,課題の解決のために問題点が生じた場合にはその都度,自ら研 究を行っている所外の第一線研究者を加えた小人数の研究会を開催し,問題点を具体的に検討して解 決の手掛りを得るよう努力している。部外から参加をいただく研究者の方々には旅費,日当などを支 払う予算措置が講じられている。本制度は,研究を効率よく推進するために非常に有効な制度であ る。 2. 4客員研究官制度 グループを組織し学際的に研究を行うためには,種々の専門分野の研究者が必要となるが,所内だ けでは得られないケースがでてくる。そこで部外からの権威者を客員研究官として迎え,内部研究者 のみでは行い得ない分野の研究を分担していただくのが本制度である。この制度は研究遂行上の点は 勿論として,更に大学,国公立,民間などの研究機関との緊密な研究連絡,研究者の相互交流,若手 研究者の教育などにも大きな意義を有している。なお,客員研究官に対しては旅費,日当,宿泊費の ほか若干の研究費も予算措置がとられている。 2. 5研究懇談会 現在,グループは物質別に編成されており,各グループに合成を専門とする研究者や物性を専門と する研究者が分散している。 そこで専門を同じにする研究者が相互の啓もうや情報の交換を図るため,必要に応じて合成懇談 会,物性懇談会,焼結懇談会,結晶成長懇談会などの会合をもっている。 この懇談会は,研究者の自発的な活動であって会の開催,廃止は自由であり,研究所として制度化 しているものではないが,グループ制度を支える大きな柱となっている。 2. 6各種委員会 所の業務運営は,所員会議の審議及び重要事項については運営会議の答申を経て所長が行うが,運 営の円滑化を図るために各種の委員会などが設けられている。 (1)運営会議 運営会議の委員は,無機材質及びその関連分野の研究に関し,優れた識見を有する人の中から所長 が任命し,所の重要事項について所長の諮問に答申する。 (2)所員会議 所長,各研究グループの総合研究官,事務系統課長及び所長の指名する研究官(幹事会構成員から 2名)で構成され,所長が招集,司会して所の業務,運営事項について審議する。 (3)幹事会 名研究グループ並びに技術室の幹事及び事務系統各課長の指名する所員をもって構成し,グルー プ,室,課相互間の連絡を密にし,所内職員の意志の疎通を図ることを目的として必要事項について 打合せ又は連絡を行う。また,必要に応じて所員会議へ提案又は報告を行う。 (4)長期計画委員会 所長の指名した研究官,企画課長,総務課長をもって構成し,無機材質研究所の将来あるべき姿を 検討するために,庁舎建設の基本方針,内部組織のあり方,人員及び経費の年度別計画,研究テーマ の年度別計画,その他所長が諮問した事項など,各種の基本計画,年度別計画の原案をつくり,所員 会議に報告する。 (5)設備委員会 最初は長期計画委員会内の設備整備小委員会として発足したが,のちに独立した委員会である。所 長が指名する研究官,長期計画委員のうちから委員長が指名する研究官,企画課長,総務課長をもっ て構成し,研究設備整備の基本的事項,予算概算要求における研究設備の整備,実行予算における研 究設備の整備に関し所長に対する報告や助言を行う。 (6)人事委員会 各研究グループの総合研究官及び企画課長,総務課長をもって構成し,所長が招集し,研究職員の 採用に関する審議及び国家公務員上級研究職員等の採用面接試験を行う。 (7)図書委員会 企画課長を委員長とし,各研究グループ及び各課の長が指名した者によって構成され,購入図書の 選定,図書管理業務の年度計画などについて審議,決定する。 (8)部屋割委員会 研究用大型機器は,グループごとにまとめて設置せずに合成,解析,物性関係という分類によって まとめて設置されている。そこで実験室の割当,入換え,使用変更などの運営を適正かつ円滑に行う ために部屋割委員会が設けられている。委員長は所長が指名し,委員長の推薦する研究職員5名以 上,長期計画委員から2名以内,各課の長の指名する職員3名以内をもって構成し,部屋割の基本的 事項,部屋の新規割当,再編成に伴う部屋割,入換えなどについて具体案を作成し所員会議に諮る。 ただし,部屋の管理に関する業務は総務課が統一的に行っている。 (9)高圧力関係機器運営委員会 大型高圧力関係機器(推力300トン以上)及びこれに付帯する研究用機器を有効適切に運用するこ とを目的とし,高圧力関係機器の整備計画,機器使用希望者への使用機器の割当などを行っている。 委員会は,高圧力関係の実験を必要とする研究職員,その他の研究職員及び総務課,企画課の職員で 構成し,その委員は所員会議に諮って所長が決定する。 (10)健康安全委員会 所長の指名する委員長及び委員をもって構成し,所員の健康及び安全保持に関する基本的事項,健 康及び安全管理の実施状況,安全手帳の作成及び見直し,事故の原因及びその対策などについて調査 審議する。 なお,廃棄物処理検討委員会は実験室雑排水及び実験廃棄物による公害防止のため,これらの処理 装置の設計,建設並びに“実験室廃棄物処理の手引き”をつくり完壁に近い対策を樹立したのち健康 安全委員会に合併された。 (11)無塵室運営委員会 所長の指名する委員長及び委員をもって構成し,無塵特殊実験棟の無塵室の運用方針,使用規則及 び使用計画などについて審議する。 (12)その他の委員会 以上の他,実験棟の建設や大型機器の購入に際して必要に応じて建設委員会や購入委員会が臨時に 編成される。 2. 7研究サービス部門 研究に対する技術的サービスは,各研究グループの技術員及び企画課に属する技術室が担当してい る。 各グループに所属する技術員は,グループに特有な技術業務,例えば各種単結晶育成,薄膜の育成 などについて研究者の指導のもとに一定試料の作成などの業務を行っている。 また,技術室では所の全般的な技術サービスとして機械工作,ガラス細工,ヘリウム液化装置の運 転などをはじめ,各種X線による物質の同定,電子顕微鏡,走査型電子顕微鏡による写真の撮影,化 学分析,各種の機器分析などを行うとともにこれらの機器の保守管理に当っている。 しかし,現状では技術室の定員が不足しているため,ある程度グループの技術員を技術室に併任し て全所的な技術サービスを行う必要にせまられている。このため研究試料作成などグループ内での類 型的な仕事がはなはだしく犠牲になっおり,技術室の強化が強く望まれる。 2. 8研究成果の発表 研究過程で得られた論文はすべて,それぞれの専門分野に応じて最も適切な内外の学術誌に投稿す ることを原則としている。発表された論文については,適宜その題名,雑誌名,著者名を郵便はがき に印刷して関係方面に郵送し別刷の請求に応ずるとともに,毎年出版権者から転載の許可を得てこれ を集録し「無機材質研究所研究論文集」として出版し,関係方面に配布している。 また,グループが研究目標を達成して解散した場合にはその都度その研究内容を「無機材質研究所 研究報告書」として出版するとともに公開の研究発表会を開催して所内外の関係者に報告している。 その他「無機材研ニュース」は研究計画の内容紹介,興味ある研究成果の解説などを中心にして年 6回発行されている。 なお,研究過程で得られた特許や実用新案は審査の上,国有特許又は国有実用新案として登録さ れ,その工業所有権の使用は,特殊法人新技術開発事業団を通じて斡旋されている。 3.機構・予算 3.1組 織 当所は昭和41年4月1日に1研究グループ,1室1課で発足したが,研究の総合的,組織的な推進 を図るため,他にあまり例を見ないグループ研究体制,客員研究官制度等独自の体制をとっている。 また,当所の運営については,学識経験者からなる運営会議の制度を設け,研究の企画,立案,推 進などについての運営会議からの具体的提案を反映させている。 なお,研究の効率的推進を図るための体制強化と拡充を行った結果,昭和51年度現在において,15 研究グループ,1部2課の組織構成となった。 運営委員(昭和51年1月16日現在) 坪井誠太郎 日本学士院会員 伊藤伍郎 科学技術庁金属材料技術研究所科学研究官 井上弥次郎 工業技術院電子技術総合研究所長 犬塚英夫 旭ダイヤモンド工業(株)取締役研究所長 梅沢 邦臣 吉田科学技術財団理事長 尾野勇雄 旭硝子(株)技術顧問 桐山良一 大阪大学教授 斎藤進六 東京工業大学工業材料研究所長 末野悌六 末野研究所長 鈴木 平 東京大学教授 田代 仁 京都大学教授 内藤隆三 工業技術院名古屋工業技術試験所長 山内俊吉 東京工業大学名誉教授 機 構 推 *再編成グループ 昭和41年度 昭和42年度 昭和43年度 昭和44年度 昭和45年度 昭和46年度 所 長 所 長 所 長 所 長 所 長所 長 研究グループ (炭化けい素) 第1研究グループ (炭化けい素) 第1研究グループ 第1研究グループ 第1研究グループ第1研究グループ 第2研究グループ (酸化ベリリウム) 第2研究グループ 第2研究グループ 第2研究グループ第2研究グループ 第3研究グループ (酸化バナジウム) 第3研究グループ 第3研究グループ 第3研究グループ第3研究グループ 第4研究グループ (窒化アルミニウム) 第4研究グループ 第4研究グループ 第4研究グループ第4研究グループ 第5研究グループ (硫化鉄) 第5研究グールプ 第5研究グループ第5研究グループ 第6研究グループ (鉛ペロブスカイト) 第6研究グループ 第6研究グループ第6研究グループ 第7研究グループ (炭素) 第6研究グループ第7研究グループ 第8研究グループ 第7研究グループ第8研究グループ (酸化ジルコニウ ム ) 第8研究グループ (酸化ニオブ) 第9研究グループ 第10研究グループ第10研究グループ (カルコゲンガ ラス ) 第11研究グループ (酸化けい素) 企 画 室 企 画 室 企 画 課 企 画 課 企 画 課 企 画 課 総 務 課 総 務 課 総 務 課 総 務 課 総 務 課 総 務 課 1研究グループ 1課1室 4研究グループ 1課1室 6研究グループ 2課 8研究グループ 2課 10研究グループ 2課 11研究グループ 2課 移 表 昭和47年度 昭和48年度 昭和49年度 昭和50年度 昭和51年度 所 長 所 長 所 長 所 長 所 長 *第1研究グループ (酸化マグネシウム) 第1研究グループ 第1研究グループ 第1研究グループ 第1研究グループ *第2研究グループ (複合バナジウム硫 化物 ) 第2研究グループ 第2研究グループ 第2研究グループ 第2研究グループ *第3研究グループ (窒化けい素) 第3研究グループ 第3研究グループ 第3研究グループ 第3研究グループ 第4研究グループ *第4研究グループ (酸化アルミニウム) 第4研究グループ 第4研究グループ 第4研究グループ 第5研究グループ *第5研究グループ (ペロブスカイト型 化合物 ) 第5研究グループ 第5研究グループ 第5研究グループ 第6研究グループ *第6研究グループ (窒化ほう素) 第6研究グループ 第6研究グループ 第6研究グループ 第7研究グループ 第7研究グループ *第7研究グループ (酸化チタン) 第7研究グループ 第7研究グループ 第8研究グループ 第8研究グループ *第8研究グループ (ダイヤモンド) 第8研究グループ 第8研究グループ 第9研究グループ 第9研究グループ 第9研究グループ *第9研究グループ (アルミノ珪酸塩ガラス) 第9研究グループ 第10研究グループ 第10研究グループ 第10研究グループ *第10研究グループ (複合ビスマス酸化 物 ) 第10研究グループ 第11研究グループ 第11研究グループ 第11研究グループ 第11研究グループ 第11研究グループ 第12研究グループ (硼化ランタン) 第12研究グループ 第12研究グループ 第12研究グループ 第12研究グループ 第13研究グループ (イットリウムガー ネット ) 第13研究グループ 第13研究グループ 第13研究グループ 第14研究グループ (酸化レニウム) 第14研究グループ 第14研究グループ 第15研究グループ (硫酸・燐酸カルシ ウム ) 第15研究グループ 管 理 部 企 画 課 企 画 課 (技 術 室) 企 画 課 (技 術 室) 企 画 課 (技 術 室) 企 画 課 (技 術 室) 総 務 課 総 務 課 総 務 課 総 務 課 総 務 課 12研究グループ 2課 13研究グループ 2課 14研究グループ 2課 15研究グループ 2課 15研究グループ 1部2課 機 構 図 (昭和51年5月16日現在) 所長 工博田賀井秀夫 運営委員 客員研究官 第1研究グループ:酸化マグネシウム(MgO) (総合研究官工博白崎信一) 第2研究グループ:複合バナジウム硫化物(MV2 S4) (総合研究官理博川田 功) 第3研究グループ:窒化けい素(Si3 N4) (総合研究官工博田中広吉) 第4研究グループ:酸化アルミニウム(Al2 O3) (総合研究官理博山口成人) 第5研究グループ:ペロブスカイト型化合物(Pb1-x TiO3-x) (総合研究官理博岡井 敏) 第6研究グループ:窒化ほう素(BN) (総合研究官理博岩田 稔) 第7研究グループ:酸化チタン(TiO2) (総合研究官工博藤木良規) 第8研究グループ:ダイヤモンド(C) (総合研究官工博瀬高信雄) 第9研究グループ:アルミノ珪酸塩ガラス(RO-Al2O3-SiO2 Glass) (総合研究官工博長谷川泰) 第10研究グループ:複合ビスマス酸化物(Bi2O3-RmOn) (総合研究官理博後藤 優) 第11研究グループ:酸化けい素(SiO2) (総合研究官工博下平高次郎) 第12研究グループ:硼化ランタン(LaB6) (総合研究官理博河合七雄) 第13研究グループ:イットリウムガーネット(Y3X5O12) ((併)総合研究官工博田賀井秀夫) 第14研究グループ:酸化レニウム(ReO3) (総合研究官理博津田惟雄) 第15研究グループ:硫酸・燐酸カルシウム(Ca-SO4-PO4-H2O) (総合研究官理博上野精一) 管理部 (部長 碓井 求) 企画課 (課長平山量三郎) 主任研究官 専門職 企画係 業務係 情報図書係 技術室 物理分析係 化学分析係 超高圧電顕係 総務課 (課長松原勝定) 補佐 庶務係 人事係 予算決算係 契約係 用度係 管財係 3.2人 員 非金属無機材質に係る超高純度材質及びこれに類する特性づけられた材質の創製に関する研究推進 のため,人員及び機構の整備充実を図った結果,昭和51年度定員においては,指定職1名,行政職(一) 51名(うち技術員15名),行政職(二)8名,研究職110名となった。 また,研究の効率的推進を図る必要上,研究者の専門分野も別表のとおり多岐にわたっている。 研究員専門別(指定職と研究職)一覧表 (昭和51年5月16日現在) 理 学 系 工 学 系 計 物理 化学 地質鉱物応用化学 窯業 金属 鉱業 電気電子 計測 械機 15(7) 28(17) 14(9) 23(8) 12(9) 3(2) 4(4) 4 1 104 (56) (欠員6名) 注:()は学位取得者で内数 3.3予 算 昭和41年発足以来,研究体制の整備充実を鋭意図ってきた。 予算から見ると,研究員の増員のための人件費の増額を図るとともに,無機材質に関する研究にと って基本的に必要とされる研究設備(各種合成炉,各種高圧力発生装置,X線回折装置等組織解析設 備,磁気天秤等物性解析設備など)の整備等のための試験研究費及び研究本館の建設等施設整備のた めの施設整備費の予算化及びその増額化を行い,研究環境の整備充実に努めてきた。 特に,筑波研究学園都市への移転に伴い,情報図書の整備(1,200万円)及び高圧力特殊実験棟 (昭和43~44年度1億7,000万円),研究本館(昭和45~46年度7億1,000万円),高温合成特殊実験 棟(昭和47年度2億円),陽電子消滅特殊実験棟(同,1,500万円),無塵特殊実験棟(昭和48~52年 度 現在まで6億5,298万円),超高圧電子顕微鏡特殊実験棟(昭和50年度9,900万円)等の建物等 について順次整備を行った。 定 員 推 *昭和41年度は研究グループ **昭和41,42年度は企画室 昭和41年度 昭和42年度 昭和43年度 昭和44年度 昭和45年度 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 所 長 * 第1研究グループ 第2研究グループ 第3研究グループ 第4研究グループ 第5研究グループ 第6研究グループ 第7研究グループ 第8研究グループ 第9研究グループ 第10研究グループ 第11研究グループ 第12研究グループ 第13研究グループ 第14研究グループ 第15研究グループ 管 理 部 部 長 ** 企 画 課 (うち技術室) 総 務 課 2 2 6 1 指1 8 1 1 10 3 7 2 2 2 2 4 9 1 指1 8 7 7 7 1 1 10 9 9 9 5 10 2 2 2 2 2 2 4 12 2 指1 8 7 7 7 7 7 1 10 9 9 9 9 9 5 14 1 2 2 2 2 2 2 2 5 13 2 指1 8 7 7 7 7 7 7 7 1 1 9 9 9 9 9 9 9 9 6 15 1 2 1 2 2 2 2 2 2 2 5 14 2 指1 8 7 7 7 7 7 7 7 7 7 1 1 9 9 8 9 9 9 9 9 9 9 6 16 合 計 10 1 指1 9 21 21 1 指1 30 53 28 2 指1 44 75 33 2 指1 58 94 37 2 指1 72 112 移 表 昭和46年度 昭和47年度 昭和48年度 昭和49年度 昭和50年度 昭和51年度 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 行 (一) 行 (二) 研 計 指1 1 指1 1 指1 1 指1 1 指1 1 指1 1 1 8 9 1 8 9 1 8 9 1 8 9 1 8 9 1 8 9 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 2 7 9 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 2 7 9 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 2 7 9 2 7 9 1 7 8 1 7 8 1 7 8 1 7 8 2 7 9 2 7 9 2 7 9 1 7 8 1 7 8 1 7 8 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 1 7 8 1 10 11 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 1 7 8 1 7 8 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 2 7 9 5 15 12 1 6 27 6 18 12 1 7 30 9 (3) 18 12 1 10 (3) 30 10 (3) 18 11 1 11 (4) 29 11 (5) 18 10 1 12 (5) 28 30 1 12 (6) 17 8 8 1 1 39 1 13 (6) 25 39 12 指1 79 131 43 12 指1 86 142 47 12 指1 93 153 49 11 指1 100 161 50 10 指1 107 168 51 8 110 170 予 算 額 推 移 表 債 :国 庫 債 務 負 担 行 為 限 度 額 昭 和 41 年 度 昭 和 42 年 度 昭 和 43 年 度 昭 和 44 年 度 昭 和 45 年 度 昭 和 46 年 度 昭 和 47 年 度 昭 和 48 年 度 昭 和 49 年 度 昭 和 50 年 度 昭 和 51 年 度 無 機 材 質 研 究 所 に 必 要 な 経 費 (A ) 66 , 3 46 債 1 50 , 0 00 16 6, 94 5 25 3, 2 72 29 7, 17 9 34 4, 4 45 41 6, 49 6 51 2, 9 30 60 1, 77 4 債 1 78 , 7 00 69 1, 41 6 97 0, 19 7 97 5, 49 2 1. 人 件 費 14 ,7 69 40 , 9 50 64 , 8 71 92 , 2 33 12 4, 5 51 16 3, 7 54 22 0, 3 97 27 0, 18 9 32 7, 2 36 46 1, 61 0 54 0, 49 5 (1 )既 定 定 員 分 21 ,5 33 55 , 2 55 81 ,6 15 11 3, 5 38 15 4, 2 41 20 9, 42 7 25 8, 6 21 31 6, 5 36 44 8, 45 9 53 4, 72 8 (2 )新 規 増 員 分 14 ,7 69 19 , 4 17 9, 61 6 10 , 6 18 11 ,0 13 9, 51 3 10 , 9 70 11 ,5 68 10 , 7 00 13 ,1 51 5, 76 7 2 . 特 別 経 費 51 ,5 77 12 5, 99 5 18 8, 4 05 20 4, 94 6 20 9, 8 94 25 2, 74 2 29 2, 53 3 33 1, 58 5 債 1 78 ,7 00 36 4, 18 0 50 8, 5 87 25 4, 0 59 (1 )一 般 管 理 運 営 6, 8 70 18 , 3 75 16 , 7 94 18 , 2 45 25 , 6 82 54 ,3 00 37 ,6 68 41 ,4 69 39 ,0 47 45 , 4 06 47 , 2 23 (2 )各 部 門 運 営 4, 7 07 23 , 2 13 35 , 9 06 50 ,7 01 71 ,2 12 85 ,4 42 11 8, 8 65 14 4, 11 6 16 1, 63 8 19 2, 46 6 20 6, 73 6 (イ )研 究 部 門 運 営 4, 7 07 22 , 7 75 35 , 0 90 49 ,4 78 69 , 3 70 83 ,1 46 10 3, 5 02 12 8, 15 1 14 5, 6 43 17 5, 65 5 18 7, 2 62 (ロ ) 研 究 に 関 す る 基 礎 調 査 43 8 81 6 1, 22 3 1, 84 2 2, 2 96 2, 5 29 3, 13 1 3, 16 1 3, 9 77 4, 2 60 (ハ )研 究 文 献 図 書 の 整 備 12 , 8 34 12 , 8 34 12 , 8 34 12 , 8 34 11 ,8 72 (ニ )特 定 設 備 運 営 3, 3 42 (3 )研 究 設 備 整 備 40 , 0 00 債 1 50 , 0 00 84 ,4 07 13 5, 7 01 13 6, 00 0 11 3, 0 00 11 3, 0 00 13 6, 00 0 14 6, 00 0 12 7, 75 5 12 7, 7 55 12 0, 2 08 (4 ) 1 ,2 50 kV 超 高 圧 電 子 顕 微 鏡 の 整 備 債 1 78 , 7 00 35 , 7 40 14 2, 9 60 60 , 8 30 科 学 技 術 庁 試 験 研 究 所 施 設 整 備 に 必 要 な 経 費 ( B ) 債 1 48 , 2 00 17 , 8 53 15 5, 38 2 債 5 47 , 0 00 22 1, 19 0 49 3, 8 50 27 1, 39 2 21 2, 36 1 32 2, 9 84 22 2, 76 5 13 2, 93 4 小 計 (A + B ) 66 , 3 46 債 15 0, 0 00 16 6, 94 5 債 1 48 , 2 00 27 1, 12 5 45 2, 5 61 債 5 47 , 0 00 55 5, 63 5 91 0, 3 46 78 4, 3 22 81 4, 13 5 債 1 78 , 7 00 1, 01 4, 4 00 1, 19 2, 9 62 1, 10 8, 42 6 国 立 機 関 原 子 力 試 験 研 究 費 ( C ) 15 ,1 50 16 , 3 59 18 , 3 24 21 ,3 40 27 ,7 18 特 別 研 究 促 進 調 整 費 ( D ) 1, 70 1 2, 3 90 3, 8 73 11 ,0 33 合 計 (A + B + C + D ) 66 ,3 46 債 1 50 , 0 00 16 6, 9 45 債 14 8, 2 00 27 1, 12 5 45 2, 56 1 債 5 47 , 0 00 55 5, 6 35 91 0, 34 6 80 1, 17 3 83 2, 8 84 債 1 78 , 7 00 1, 03 6, 5 97 1, 22 5, 3 35 1, 13 6, 14 4 3. 4 土地及び建物 (1)井荻庁舎 当研究所設立に伴い,東京都杉並区井草4丁目18番2号にある機械振興協会技術研究所の建物を一 部借用し,業務を開始した。借用建物の内訳は次表のとおりである。 建 物 推 移 表 区 分 年 月 日 延面積(m2) 備 考 庁 舎 41.5.10 42. 5.10 169.9 △169. 9 機械振興協会から有償貸与 文京区本駒込へ移転のため返還 (2)駒込庁舎 昭和42年5月,東京都文京区本駒込にある科研化学(株)から土地及び建物を借用し,また庁舎手 狭になったため,昭和43年3月に前記住所の近くにあった大蔵省関東財務局所属普通財産の無償貸与 を受けた。土地及び建物の推移は次表のとおりである。 土 地 推 移 表 区 分 年 月 日 面 積(m2) 備 考 庁 舎 43. 3.1 45. 8.14 47. 3. 31 4, 214, 69 △ 950.00 △ 3, 264. 69 関東財務局から無償貸与 関東財務局に返還 筑波研究学園都市へ移転のため返還 建 物 推 移 表 区 分 年 月 日 延面積(m2) 備 考 庁 舎 42. 5.10 1,314 科研化学(株)から有償貸与 43. 3.1 1,849 関東財務局から無償貸与 44. 4.1 435 〃 44.11.1 963 〃 45. 8.14 △ 497 関東財務局に返還 47. 3. 31 △4, 064 筑波研究学園都市へ移転のため返還 (3)筑波研究学園都市庁舎 昭和43年度から筑波研究学園都市区域の本研究所予定敷地内に,高圧力特殊実験棟を初めとして研 究本館等の施設等の整備を行い,昭和47年3月に庁舎を移転した。昭和51年3月末現在までの土地及 び建物の推移は次表のとおりである。 土 地 推 移 表 区 分 年 月 日 面積(m2) 備 考 庁 舎 43.12.1 45. 4.1 46. 4.1 47.12.1 51年度以降予定 3, 500 19, 000 52, 500 56, 436 21,783 日本住宅公団から有償貸与 〃 〃 〃 合 計 153, 219 建 物 推 移 表 建物 番号 建 物 名 構造 建物面積(m2) 竣工年月日 備考 建面積 延面積 1 倉 庫 S-1 125 125 44. 6. 23 新 築 2 高圧力特殊実験棟 RC-2 969 1,761 44.12. 26 〃 3 給水ポンプ室 RC-1 82 82 〃 〃 4 研究本館 RC-3 2, 266 6, 056 46.10.12 〃 5 研究本館玄関ポーチ S-1 21 21 〃 〃 6 排水処理機械室 RC-1-1 38 64 〃 〃 7 冷却水戻りポンプ室 RC-1 9 9 46.11.12 〃 8 冷却水揚水ポンプ室 〃 9 9 〃 〃 9 厚生施設 S-1 519 519 47. 2. 4 〃 10 ヘリウム液化施設 〃 180 180 〃 〃 11 ガス炉室 〃 76 76 〃 〃 12 高圧力特殊実験棟用ボンベ室 〃 21 21 47, 3. 30 〃 13 廃棄物処理機械室 C B-1 15 15 47.10.13 〃 14 固形物貯蔵庫 〃 19 19 〃 〃 15 排水モニタ測定室 〃 20 20 〃 〃 16 高温合成特殊実験棟 RC-2 1,000 1,826 48. 3. 3 〃 17 陽電子消滅特殊実験棟 RC-1 168 168 〃 〃 18 ガス炉用ボンベ室 S-1 8 8 48. 3.15 〃 19 守衛・車庫棟 RC-1 139 139 49.11.18 〃 20 無塵特殊実験棟 RC-2 669 1,546 50.11.18 〃 21 倉 庫 C B-1 62 62 〃 〃 22 超高圧電子顕微鏡特殊実験棟 RC-1-1 209 412 51.3.15 〃 合 計 6, 624 13,138 配 置 図 1.高圧力特殊実験棟 2.研究本館 3.ヘリウム液化施設 4.厚生施設 5.排水処理施設 6.高温合成特殊実験棟 7.陽電子消滅特殊実験棟 8.汚染物質処理施設 9.排水モニタリング施設 10.無塵特殊実験棟 11.守衛所・車庫 12.危険物貯蔵庫 13.超高圧電子顕微鏡特殊実験棟 既設建物 50年度以降建設予定 3. 5主要設備 原子吸光分光装置(昭和42年度) 基底状態にある原子の光励起に伴う光吸収を測定することを利用した化学分析装置。試料の原子化 には通常化学炎を用い,目的元素の共鳴線を光源とし,炎中の基底状態の原子の光吸収を測定する。 ほとんどの金属元素の定量が可能であり,微量分析に適している。 エバート型回折格子型分光器 測定波長:1,860~10,000Å,分解能:±1Å 主としてアセチレン空気炎を使用(アセチレン亜酸化窒素炎の使用も可能)。 100KV電子顕微鏡(昭和43年度) 結晶,焼結体等の組織構造の解明,原子配列を示す格子像及び電子線損傷による欠陥の挙動の追求 などが可能である。なお付属装置として,高分解能電子回折ホルダー ・方位傾斜装置等がある。 (分解能4. 5Å 加速電圧25~100kV,倍率300~120,000) 電子回折装置(昭和44年度) 電子線の加速電圧を30kVから~250kVの間を数十秒で連続的に変化させることができる。 電子線の整流及び加速は,コッククロフトーウォルトン型,カスケード型2段加速法によって行わ れ,磁界型電子レンズを全く使用していない。 固体の結晶解析,誘電体解析,磁気解析等に応用。 遠赤外分光光度計(昭和44年度) 金属酸化物,硫化物などの結晶,ガラス状態の固体の遠赤外スペクトルを測定し,それらの物質の 構造,物性に関する研究を行っている。測定波数領域は400~30cm-1で,空気中の水蒸気による吸収 を除くため,測定中は光学系の部分を真空に保つようになっている。光源はグローバー及び高圧水銀 灯,検知器は熱電対及びボロメーターである。 常磁性共鳴吸収装置(E. S. R)(昭和44年度) 常磁性化合物における電子の磁場による共鳴吸収を測定するための装置であり,酸化物における遷 移金属原子の核外電子の運動及びエネルギー分布状態を明らかにすることができる 。 (温度20~25℃ ±1℃,湿度50%以下,3 相 200V 6. 7kW) 14, 000トンプレス(昭和45年度) この高圧力発生装置は,高圧力実験のためのプレスとしては世界最大級のもので,大型試料で10万 気圧前後,小型試料では20万気圧を発生できる性能を有している。 この他,2,500トン,1,000トン等のプレスが備えられている。 (3相220V,周波数50Hz,最大油圧3,750kg/cm2) 陽電子消滅測定装置(昭和46年度) 角度相関:陽電子と電子が消滅した時に発生する2本のγ線の角度分布を測定して,価電子の運動 量分布を知り,結合電子の空間分布を研究する手段として使用する。分解能0.1ミリラジアン以上で ある。 寿命測定:陽電子の寿命を測定して,価電子の空間分布を知る。時間分解能は300ピコ秒である。 高温熱分析装置(昭和46年度) 固体の熱変化(反応熱,転移熱,融解熱等),熱重量変化,熱膨張の量を定性的又は定量的に求め る装置である。本装置は示差熱分析部,重量分析部及び熱膨張計部よりなる。(シリコニット炉, 1,500℃まで)天秤の特徴は雰囲気を流した時,天秤のゆれ(誤差の因となる)が基本的に感知されな い機構になっており,熱膨張計の特徴は試料にかかる加重を任意に変えることができる。 黒鉛抵抗炉(昭和47年度) 黒鉛材を抵抗発熱体として,真空,不活性ガスまたは還元性ガス雰囲気中で試料を加熱し,単結晶 の育成,焼結,その他高温加熱処理を行うための炉である。特に,2,000℃以上3,000℃位までに加熱 する場合には,経済性,加工性の立場からこれに代る発熱体を見出すことは容易ではない。 フラックス法大型単結晶合成炉(昭和47年度) 白金ルツボに原料をフラックスとともに充塡して溶融し,精密温度制御下,過飽和状態で大型単結 晶を育成する。ルツボ受の回転,上下運動により炉内温度を均一化する機構をも有する。 (炉内温度1,300℃,ルツボ1.5ℓ,ルツボ受回転1~10rpm,上下ストローク700mm) 四軸型単結晶自動X線回析装置(昭和48年度) 単結晶による構造解析に必要な種々の測定を,小型電子計算機制御により自動化して精密かつ迅速 に行うもので,四軸とは結晶の方位を定める三軸(ω, χ, φ)とカウンターの回転軸(2θ)を指 す。ここで得られた測定値が,次の段階の位相決定や電子密度分布や原子座標を求める計算の基礎と なるものである。 この他に,回転対陰極X線発生装置(ラングカメラ等),X線発生装置(プリセッションカメラ, ワイゼンベルグカメラ等),X線強度測定装置,高・低温X線回折装置等がある。 螢光X線分析装置(昭和48年度) 種々の無機材質試料の構成成分の分析装置。試料にX線を照射し,各構成元素の定数及び定量分析 を行う。フッ素より大きな原子番号を有する元素の同時定量が可能。 (X線管安定度±0. 05%以内,測定元素範囲9フッ素~92ウラン) ライヘルト大型万能顕微鏡(MeF 2型)(昭和48年度) 明視野,暗視野,位相差,微分干渉,透過,反射両方の顕微鏡観察が可能である。特殊付属装置と して微小硬度計,干渉計,加熱ステージ等がある。 (最高到達温度1,800℃,10-5Torr真空度に10分以内到達可能,40倍反射対物レンズWD 8mm以上可 能,不活性・酸化・還元用ガスの炉内導入可能) 電子線マイクロアナライザー(昭和48年度) 非常に細く絞った電子線を試料表面に照射し,発生する固有X線から微小領域(約1μ2)中の化学 組成の定性及び定量分析を行う装置である。その他,反射電子,吸収電子,二次電子を検出して試料 表面の凹凸の状態及び定性的な組成分布を知ることができる。 (分解能250Å以下(二次電子像)5,000Å (X線像)1,000Å (反寓電子像),走査像倍率300~40,000, 測定元素範囲5B~92U,測定波長範囲0. 87~89Å) メスバウワースペクトル測定装置(昭和49月度) メスバウワー効果は核γ線共鳴吸収効果であるが,線源と吸収体を適当に選ぶことによって,結晶 中のイオンの化学結合,イオンの周囲の電場勾配及び磁気的性質についての有用な知見が得られる。 性能―速度範囲は最大300 mm/sec,振動可能な線源の重量100grまで。二つの試料の同時測定可能, 500~4,000チャンネルのマルチチャンネル使用。4~1,000°Kの任意の温度で測定可能。 双頭型超高真空蒸着装置(昭和49年度) 蒸着基板温度が室温~1,200℃の間で,窒素中でのグロー放電による薄膜の作成とともに,真空 度,ボンバード電流・電圧,蒸着速度,基板温度及び電極とする金属の種類等の条件変化により絶縁 薄膜の結晶及びその成長過程を調べることができる。 (5000/sのゲッターイオンポンプ,到達圧力10-10Torr,排気特性10-5Torrまで5時間,ベルジャー 内経400mm,高さ500mm) 赤外線集中加熱単結晶製造装置(昭和49年度) 各種酸化物の単結晶を融点1,800℃まで比較的短時間で簡単に育成するための,赤外線集中加熱方 式による単結晶製造装置である。 (加熱系:1,500Wハロゲンランプ,反射鏡:回転双楕円面鏡,最高温度:1,800℃) 電子放射測定装置(昭和49年度) 低速電子回折(LEED)及びオージェ電子分光(AES)を使用し,物質の表面状態と表面付近 の元素分析を行い,表面状態を知り,同時に電子放射を測定することにより,化合物の電子放射特性 を解明する。 LEED, AESは10~1,000eVのエネルギーの電子ビームを試料表面にあて,弾性及び非弾性散 乱された二次電子を4枚グリッド系に用い,空間的,エネルギー的に分析し,解析を行う。 (イオンポンプ,サブリメーションポンプにより5×10-10Torr以下の真空が得られる。固体表面 数~数+オングストローム領域の元素を1/100単原子層の感度で検出。 到達圧力5 ×10-10Torr,排気時間760Torrから10-7Torrまで90分,保持時間5 ×10-10 Torr以下 を3日以上) レーザーラマン分光光度計(昭和49年度) 遷移金属硫化物等の結晶の格子振動,分子振動,結晶中の不完全中心の振動,その他各種励起に伴 14, 000トンプレス 酸化物単結晶引上装置 光電子分光装置 電子回折装置 四軸型単結晶自動X線回折装置 陽電子消滅装置 う散乱の研究及びこうした測定を用いての各種相転移の研究に用いる。 (測定可能波数範囲31,000~10,000cm-1,分解能0.18cm-1,分光器0.85mツェルニーターナー,f/7. 8 ダブルモノクロメーター,液体ヘリウム温度から1,200℃付近まで測定可能) ADL型高温高圧単結晶合成装置(昭和49年度) 常圧下では分解して融けないもの,転移点が融点以下にあり,常圧下で溶融体から合成できないも のも圧力をかけることにより単結晶育成を行う装置。この装置は融液からの結晶合成の三方法,浮遊 帯域法,チョクラルスキー法(引上げ法),ブリッジマン法のいずれの方法も行える多目的炉である。 (高周波加熱,最高温度4,000℃,最高圧力100kg/cm2) 溶融電解装置(昭和49年度) 不活性ガス雰囲気中において,ルツボ中で適宜組成の溶融塩を電解して化合物を合成する。 (最高温度1,150℃,常用温度1,000℃,到達圧力10-2Torr,電極回転速度0~10rpm) 走査型電子顕微鏡(昭和49年度) 結晶成長表面,破断面,焼結体表面等の細微構造観察,微粒子,微細結晶の形態観察,表面の定性 的分析等が可能である。 (二次電子像分解能70Å, 加速電圧0~50kV,倍率20~14,000) 酸化物単結晶引上装置(昭和49年度) 種々の酸化物の良質大型単結晶の育成に適した高周波導加熱を用いた外熱型の引上装置である。 (出力40kWの高周波発振器と精密な温度制御装置を備えている。最高温度2,200℃,引上速度0.1~ 9mm/hr,シード回転速度12~120rpm) 光電子分光装置(ESCA)(昭和50年度) 固体あるいは液体の結晶電子,伝導電子および内殼電子のエネルギー状態の知識を得て,固体の電 子状態と結合様式を明らかにすることができる。さらに,固体表面の電子状態,吸着分子,原子,ト オンと表面との相互作用をも調べることが可能である。本装置の特徴は,10-11 Torrの超高真空下 で,光電子スペクトル異方性の情報を知ることができる。試料チャンバーを大きくしてあるため,他 の実験手段を合わせて行うことができ,多角的に研究を進め得る。 3. 6図書及び刊行物 (1)図 書 当所の図書業務については,企画課(昭和41,42年度は企画室)が所掌しているが,図書の整備計 画及びその運営の基本的事項については,図書委員会を設けて審議を行い,図書業務の適正円滑化を 図っている。 当所の蔵書は,無機化学,結晶学,物性物理等の分野を中心にして充実ををっており,昭和46年度 の筑波研究学園都市移転に伴って,積極的な整備充実を行ってきた。 製本雑誌等(昭和51年3月末現在) 区 分 冊 数 単 行 本 3,424 製本雑誌 4,706 計 8,130 定期刊行物(昭和51年度計画) 区 分 件 数 国内雑誌 75 外国雑誌 208 計 283 (2)刊行物 当所の研究活動状況並びに所掌業務を広く紹介し,また研究成果の普及を図るため,下記の刊行物 を発行している。 なお,当所から学会等に発表されている論文についても,チェックカードを関係機関,関連民間会 社等に広く送付し,その研究成果の活用に努めている。 (a)無機材質研究所年報 年度内における研究業積の概要を収録したもの (b)無機材質研究所研究報告書 研究終了に伴う研究実績についての報告書 (c)無機材質研究所研究論文集 学会等に投稿した研究論文について集録したもの (d)無機材質研究所研究資料 研究対象物質別の研究成果を収録したもの (e)無機材研ニュース 研究成果のトピックス,研究内容,施設・設備等の紹介 (f)無機材質研究所要覧(和文,欧文) 研究業務の概要及び組織等の簡単な紹介 3. 7福利厚生 (1)健康安全管理 当研究所における職員の福利厚生業務については,健康安全管理面では年2回の定期健康診断のほ か,特定有害業務に従事する職員に対しては特別健康診断を実施している。 日常的には,所内医務室において毎週1回,健康管理医による内科を主とした診療及び健康相談, 指導等を行い疾病の早期発見に努め効果をあげている。 また,毎年行われる国家公務員の健康週間及び安全週間には,職員の安全及び保健に関する意識向 上を図るため,講演会等を開催するとともに,全所的に職員による自主点検,管理者による点検パト ロール等を実施し,積極的に職場の環境整備,改善に努めている。 (2)食堂,理髪室 福利厚生の一環として,食堂,理髪室を設け,適切な衛生管理のもとに,その運営が行われ,職員 の利便を図っている。 (3) レクリエーション 職員のレクリエーション施設としては,グランド,テニスコート,バーレーコートを有し,年間ス ケジュールにより各種目の所内対抗戦を実施し,職員の体位向上及び職員間の融和を図っている。 また,職員の趣味に応じて結成されたサークル(野球部,テニス部,バーレー部,サッカー部,卓 球部,水泳部,スキー部,囲碁部)に対して部員の自主制によるクラブ活動(対外試合,合宿等)を 助成するよう努めている。 Ⅱ研究概要 総 説 この10年史がカバーする1966年から1975年に至る10年間は,我が国が高度経済成長期から低成長期 に入った時期に相当する。したがって本期間,人員,予算は順調に伸長したが,今後は困難が予想さ れる。しかし,この伸長の度合も当初の計画に比べれば半分以下でしかないことは,設立の経緯の項 で記されているごとくである。 一方,材料科学の見地からは,この期間は低成長期と見て差し支えないであろう。正しいことは今 少し時が経過してからでないと結論できないかも知れないが,今ここで材料科学の歴史を振返る余裕 はないが,今世紀に入ってから量子力学の完成によって材料科学に大きな変革がもたらされた。1940 年頃以降を考えると,核分裂現象の発見は,第二次大戦をはさんで,原子力材料という新しい分野を 創出した。また重合反応の研究に由来する高分子材料は,今や我々の日常生活に深く侵入している。 降って1950年頃を頂点とする半導体の研究は,電子工業の今日の隆盛を導いた。半導体の研究は,不 純物の存在によって覆い隠されていた材質の本来の性質を引出すことによって大きな成功を収めた。 この事実は当研究所の設立趣旨にうたわれている「高純度物質」という思想に大きなかかわりをもつ ものと考えられる。 今世紀半ばのこの多彩さに比べれば,1960年以降材料科学の分野にはあまり目立ったものは現われ ていない。すなわち,飛躍期の後の沈静期と解すべきであろう。しかし,この沈静期に次の飛躍期に 備えての努力を怠ると,飛躍期がきたときにはるかに後方に取残されることになる。次の飛躍をなさ んとするための模索と,飛躍の機会を逃さぬための日頃の研さんとが今日の我々研究所に課せられた 使命であろう。 上述のような時代的背景のもとに,新しいグループ研究体制をもって発足した当研究所が,最初の 10年間にどのような研究体制を作り上げ,どのような研究成果を収めたかは,そこで行われた研究内 容を分析することによって得られるであろう。以下に述べられるグループ別の研究概要は,その資料 を提供するものである。その書き方は必ずしも上手ではないが,読者はその成果をたどるだけでな <,その目指するところを読み取って頂きたい。 低成長期になされる仕事のやり方として,高度成長期になされた仕事のすき間を埋めながら次の飛 躍に備える方向と,飛躍をするためにいろいろと模索を試みる方向とがある。実際の研究の場合はこ の二つの要素が複合されているが,前の要素が強ければ堅実型で,資料は多くそろうことになり,後 者の要素が強ければ,冒険的で研究が空振りに終る恐れがある。 当研究所の研究を概観すれば,当然堅実型が圧倒的に多いが,次の飛躍をねらった野心的な研究も 含まれているものと信じる。この判断の正否は時の経過とともに明らかになるであろう。 大きく発展している時期には,その時期の主流の方向を指摘することは比較的容易であるが,停滞 期にはどれが主流でどの方向を向いているかを指摘することは容易でない。 当研究所において行われている研究は多種多様であるが,そのなかから多くの研究者の関心を集め ている方向を探ってみる。第一に指摘できることは,物質の静的な構造の解明から動的な性質の解明 へと関心の重点が移りつつある。静的な結晶構造は基本的なものであるから,より精密な解明も重要 な問題ではあるが,それだけでは理解しがたい現象を構造の動的な変化で捕えようという方向であ る。結晶成長や相転移,更に進んで化学反応等を動的な面で解明しようとする試みである。 このような変化は,結晶の表面又は界面の一点で始まり,まず面内に広がってから体内に伝わって いく例が多い。したがって表面の状態やその変化を解析することが盛んに試みられている。 光子を含むいろいろの粒子線を用いるいろいろの組合せの装置がたくさん工夫され,既に商品化さ れているものも少なくない。例えば電子回折,ESCA, IMA等数十種類を数え上げることができる。 当研究所でもこの種の装置が着々と整備され,活動を始めているが,今後もこの種の装置を使った研 究は盛んになるものと思われる。 表面の研究に際して,薄膜を使うことも有力な手段である。これは清浄な表面を得ることができる こと,薄膜の場合,容積的な効果が抑えられて,表面による効果が相対的に強くでることなどの理由 による。当研究所においても薄膜を利用して研究を行っている者の数が増えつつあるのが現状であ る。 第二の方向として,環境条件の拡張がある。我々が使用している温度,圧力,磁気,電場等の範囲 を更に広げることによって,新物質の合成が可能になったり,新しい特性の出現が発見されることが 期待される。 高圧力の発生は,当研究所創設以来重点的に取上げられたテーマである。したがって予算の相当の 部分を高圧力関係機器の整備にあて,高圧力研究に携わる者の数も少なくない。昭和44年筑波研究学 園都市に高圧力特殊実験棟が完成し,高圧力関係機器の整備に本格的に着手して以来,鋭意(1)安定し た高圧力の発生,(2)より高い圧力の発生,(3)より大きい圧力空間の発生を目指して努力してきた。本 格着手以来5年間を経過して,関連技術,資材も次第に整ってきて,安定した条件のもとで実験が行 えるようになったので,(1)高圧力下での物質の特性の測定,(2)高圧力を用いての新物質の合成に関す る研究の進展が期待できる機運になってきた。 環境条件について従来看過されていたものに,室内の空気や実験用水中に浮遊する埃の問題があ る。埃の測定器やフィルターの発達により,埃を管理する技術が確立した結果,精密機械工業や電子 工業,特にICやLSIに関する部門へのクリーンルームの導入が目覚しい成果をあげることができ た。ベアリングやシリコン単結晶の面上に付着した目に見えない埃がいろいろと悪い影響を与えてい たのが,埃の管理によって取り除かれた結果である。当研究所での研究に相当な部分を占める結晶成 長や薄膜の研究に埃の存在が大きな障害を及ぼしていることは当然予想される。クリーンルームの設 置は,研究所創設当時から計画されていたが,昭和50年度に無塵特殊実験棟が完成をみたので,その 効果が徐々に現われてくるものと期待される。ちなみに国内でもクリーンルームの効果の大きいこと に気付いて,大幅の拡張を行うとともに,主要実験室の埃の管理に乗り出した研究所があると聞いて いる。 研究グループ制を採用して当研究所が発足してから10年を経過した今日,この制度に対するある程 度の評価がでてもよいころである。15研究グループ,1グループ15名を5年計画で達成するという当 初計画は,10年で研究グループ数だけは達成できたが,研究グループ人員数は60%にしか達していな い。研究グループの研究期間は5年間で,研究期間終了後は研究グループを解散再組織する。この 際,少なくとも研究グループ員の3分の1以上を入替えるという原則を守るためには,少なくとも3 研究グループは同時に解散することが望まれる。このような運営を円滑に行うためには,少なくとも 15研究グループが必要になる。また研究グループの今一つの特徴として,いろいろの専門分野の研究 者が協同して研究にあたることになっている。研究者はいろいろの年代の者がおり,研究者の養成と いう見地からも年輩の研究者の指導のもとに若い研究者が仕事をするような態勢が好ましい。現在の 1研究グループの研究者の人員が7名というのは,研究推進に必要な専門分野の研究者をそろえて上 記の態勢を取るためには少なすぎる。このことは,研究概要を通観してやや物足りなさを感じる一つ の原因でもあろう。ただ多すぎても能率が落ちるので最適の人員というべきものがあるであろう。 研究グループのテーマについてであるが,現在までのところ例外なしに物質名をテーマにしてい る。テーマを物質名に限ることに対する議論は,所内において絶えず繰返されている。グループ研究 の幅を広げるためにも,今後,物質名に限らず適当なテーマを積極的に取上げるべきであろう。 研究期間を約5年とすることも大いに論議の対象となっている。期限の切迫による心理的,物理的 圧力の功罪障壁となり得るか,これらの問に対する答は制度の運用の問題もあり,もろもろのケース を積上げて検討されねばならないので,結論を得るまでには今少し時間が必要であろう。ただ研究の 場合は制度による要素よりは,人による要素がより多く成果に影響すると考えられるので,研究概要 からこの問題に対する見解を引出すことは難しい。 以上,当研究所の研究が生み出される背景において,概説したが,この研究成果が無機材質研究所 において占めるべき地位を世界的あるいは国内的見地からどのように判断されるか述べるべきであろ うが,現時点で客観的判断を下すことは困難なのでこれを避けて,読者の判断にゆだねるほかにない であろう。 1.酸化物系無機材質 1.1酸化ベリリウム (昭和42年度~46年度) はじめに ベリリウムBeは,周期律表第Ⅱ属中最も原 子量の小さい金属元素であり,その酸化物であ るBeO (ベリリア)は融点が高く(2,570±30 ℃),非常に安定な化合物で,極めて特異な優 れた多くの性質を持っている。 すなわち,(1)比重が小さく,X線や極超短波 を非常によく透過し,(2)高速中性子の減速能が 大きく,熱中性子の吸収が著しく小さい。(3)硬 度がかなり高く,機械的強度が大きい。(4)高温 になっても蒸気圧が十分小さく,炭素と接触し ていても容易に還元されない。(5)特に興味深い ことは,酸化物中最大の熱伝導度(常温付近で 約0. 55 cal/cm. sec. ℃で金属アルミニウムよ りわずかに大)を持ちながら電気絶縁体であ る。(6)その他,耐食性,熱ルミネッセンス特性 など数々の特性がある。 したがって,従来から,高級な電気,電子材 料,耐火耐熱材料あるいは宇宙開発用や原子炉 用材料として要所に使用されているが,今後, 科学技術の進展に伴って,更に幾多の用途が開 (注)参考文献はⅢ.1.項を参照のこと。 けてゆくものと考えられる。 このような酸化ベリリウムの興味ある特性 と,工業的価値及び将来性が背景となり,更に BeOが現在極めて高価な原料であり,かつその 粉末が強い毒性を有し,それを取扱うためには 十分な設備と高度の訓練を必要とするために国 立研究機関において研究することが好ましいと 考えられたことなどが理由となって酸化ベリリ ウム研究グループが設置されるに至ったものと されている。 次にこの研究グループの目標であるが,上記 の各特性は,BeO自体の特性であるために純 度が高ければ高いものほど一層それが強調され ると考えられ,更に,それは完全な大きな単結 晶,高密度な焼結体,あるいは薄膜のような形 において実用価値を生ずるという観点から,ま ず高純度品の調製(精密な分析方法の開発を含 む)からはじめ,それを用いて焼結体の製造方 法を確立し,できれば単結晶や薄膜を育成し, 他方,当時極めて難しいとされていた高温にお ける熱伝導度の精密測定方法を開発し,クリー プその他機械的特性等にまで手を染める ことと した。特に強調しておきたいことは,化学的に 十分純度の高いBeO原料を調製し,それを十 分制御された状態の焼結体等として広く国内の 研究者に信頼できる試料として供給できるよう にする点に目標の重点を置いたことである。こ のようにすることによって,その過程において 得られる無機材料科学上の貴重な知見(これ はBeOに類似性をもつ他の多くの酸化物系無 機材料に関する科学技術の進展に広く活用でき る)とともにBeOに対する物性物理学や材料 科学の発達にも寄与し得るはずであるからであ る。 1.高純度酸化ベリリウムの調製 精製効果を確認するために,まず,BeO中 の微量不純物の精密な分析方法の研究から着手 した。次にその方法を活用して従来より一層高 純度のBeO粉末を得る方法を開発した。 (1)微量不純物元素の分析 極微量共存する元素イオンを,まずイオン交 換法あるいは溶媒抽出法で分離,濃縮し,次に これらイオンに各種有機配位子を加え,錯体を 形成させると顕著に発色し,吸光光度法により 高い感度で定量し得ることを見出した。また交 流ポーラログラフ法によって好成績を収め得る ものもあることがわかった。実際には,Ni, Cu, V, Cl-, Br-等についてμg量の定量が容 易にできることを確かめた。 (2)連続溶媒抽出法による精製 上記分析法において目的とするイオンを分 離,濃縮するために溶媒抽出法を研究したが, これを応用して従来の再結晶あるいは再沈澱法 の限度を越えた高純度Be(Ⅱ)を得ることに成 功した。例えば,不純物金属元素のいんぺい剤 としてEDTAを用い,アセト酢酸エチルを Be(Ⅱ)のキレート化剤とし,それをケロシン 相に抽出する方法で十分高純度の硫酸ベリリウ ム溶液を得て,これから更に均一沈澱法により 高純度Be(OH)2を得ることもできた。この溶 媒抽出法は操作中に空気中の塵埃などの混入を 防ぐために密封した容器内で連続的に行い,シ ーケンスプログラム制御をつけて運転するよう にした。この方法は本邦及び米国の特許とな り,新技術開発事業団を通して某社で工業化さ れるに至った。得られたBeOはCa, Mg, Fe, Ti, Zn, Mn, Ni, Cu などは1 ppm以下 に,Alは1ppmまで,減少させることができ たが,Siは約10ppmが残留し,4ナインの純 度が達成された。 (3)塩化物蒸留法 化学蒸着法(CVD法)で用いるためにBeCl2 の高純度晶を得ようとして減圧(5~50mmHg) 下で350℃以下で蒸留する方法を研究し,Mg とSiが10ppm以上になるが,他は10ppm以下 になし得ることを確かめた。蒸留の容器を選べ ばSiなど更に減少し得ると考えられた。 2.易焼結性BeO粉末の調製 一般に金属酸化物粉末の焼結性は,その製造 履歴によって非常に変化するがBeOもその好 例であり,硫酸ベリリウムを適当に仮焼して得 られるBeOは極めて焼結性が良く,水酸化ベ リリウムからのものは焼結し難いことがよく知 られているので,更に,硫酸ベリリウムを調製 する際のpHの相違による化学組成,熱分解過 程への影響,加熱速度と分解溶融及び母塩の形 骸の残留につき調査し,水酸化ベリリウムにつ いては無定形,α晶,β晶の脱水過程を調べ た。更に,仮焼に伴うBeO粉末粒子形態の変化 につき,水蒸気分圧,温度,時間を変えて,結 晶子の成長速度,比表面積の減少を目安として 詳しく調べた。仮焼温度が700~1,000℃間で は,BeO微結晶は主として表面拡散あるいは蒸 発―凝縮機構によって成長し,水蒸気分圧が高 くなると結晶子径が十分大となるが,粉体嵩の 収縮は少なく粒子間に気孔が残りやすい。1050 ℃以上で仮焼すると微結晶子は多分内部拡散に よって一層成長するが,そのため粉体嵩は大き く収縮し,かつ多くの結晶子が焼結結合し見掛 の粒子径が増大する。興味あることは,この際 水蒸気分圧が高い雰囲気中では,結晶子の成長 は飽和傾向を示し粉体嵩の減少も小さい。これ は水蒸気の焼結を妨げる作用として受止められ る。更に仮焼粉末をポットミルで粉砕しその影 響を調べた結果,硫酸ベリリウムを1,200℃で 乾燥空気中で仮焼した粉末を約200~500時間粉 砕することによって最も焼結性の高いBeO粉 体が得られた。1,000℃以下で十分乾燥した雰 囲気で仮焼すると結晶子が極めて小さく粉砕の 効果も大きくなくて充塡密度が小さく,十分な 焼結性が得られないこともわかった。 しかし,易焼結性のよってきたる原因に関し, この段階ではまだ十分な情報を得ることはでき なかった。 3.易焼結性BeOの焼結過程と焼結機構 ここに得られた易焼結性BeOは化学的に十 分高純度でありながら,約1,500℃までに十分 焼結が進行するから,これがどのような機構に より,なぜ焼結しやすいかということは学問的 に見て極めて興味深いことである。それでまず 等温収縮と顕微鏡による観察等を行って動力学 的解析を試みた。 従来,一般の高純度高融点酸化物の焼結にお いて定説化されつつある空孔等の粒界,あるい は内部拡散に基づくネックの成長では,この場 合の現象は説明できなくて,まず,粒子が再配 列して充塡密度が高くなり,続いて温度によっ て決まるある大きさまで粒子が急速に合体成長 を繰返してゆき,その間に粒間の気孔が除か れ,粒子は多面体化するという現象を確かめ た。これらはともに粒表面における一種の滑べ りと,粒子の塑性変形(応力推進格子拡散によ る)によるち密化という機構が支配的と思われ る。この仮説は学会においても次第に受け入れ られつつある。 それではなぜ再配列が起り,塑性変形による 合体が起こるかということが,次に問題となる。 それに対しては,焼結性のよくないBe(OH)2 からのBeO粉末を加え,履歴の異なる各種粉 末を試料として,まず結晶格子内の歪量や金属 不純物量の測定を行ったが,明りょうな差は認 められなかった。 それで次に,湿潤熱,等温吸着及び脱ガスの 種類,及び量など表面に関係の深い諸性質の測 定を行って,微粉の特性把握につとめた。そ の結果,粉末粒子の表面で発達している結晶面 の種類,吸着ガスの種類や量,その脱着量と脱 着温度などに,易焼結性粉末と難焼結性粉末と の間に差のあることがわかった。一般に粉体表 面は各種の吸着ガスで覆われているが,温度を 高めてゆくとそれはさまざまな形で脱着してゆ く。仮焼時に残留するガスも温度を高めてゆけ ば,特に真空中で加熱すれば,ある温度から放 出されてゆく。以上の各現象を組合わせること によって,履歴の異なるBeO粉末の焼結性の 難易に関し理由の説明ができ,その作用機構も おおよそ明らかにされた。そして再配列と粒子 の塑性変形による合体がなぜ起こり得るかとい うこともある程度説明できるようになりつつあ る。 以上のような易焼結性粉体の焼結機構は,他 の例えば,Al2O3やMgOについても適用する ことができそうであり,MgOについて最近成 功している透明焼結体の調製もこのような原理 から大体説明できると考えられている。したが って本研究の成果はまだ各種の高融点,高純度 セラミックスの焼結に適用することができ,そ の方面の科学技術の進歩に貢献してゆくものと 信じている。 4. BeOのホットプレス ホットプレスによって一層高密度の試料を作 ることは,クリープや熱伝導度の測定のために 必要である。この間の機構を解明することも勿 論,基礎科学的に重要である。 まず,易焼結性BeO粉末を約300kg/cm2の 圧力下で1,400℃に加熱することにより,密度 98%以上の焼結体が得られた。更にこの際のち 密化の機構を検討するために,同一直径球体の 充塡体を加圧したときにできる多面体をモデル として,数学的な解析を進め従来よりも実態に よく合致する理論焼結速度式の誘導に成功して いる。そして更に得られた焼結体の組織を数値 的に表現する方法の研究を行った。トポロジカ ルな解析により平均角数が5角形になることを 導出し説明している。 5. BeOの薄膜及び単結晶の育成 薄膜は,その形成過程が一種の二次元的焼結 と見なされるから焼結理論の研究の一助として 興味が深く,かつ各種の測定を行う試験体とし ても好適である。更にもし立派な薄膜(薄膜, 厚膜を一緒にしてここでは,単に薄膜と呼んで いる)が得られれば実用上の価値も高いと考え られる。それで二つの方法で作成を試み,一部 その構造を研究した。 単結晶についても,同様に,測定試料とし て,また,実用上からも極めて価値の高いもの であると考えられるからやはり2種の方法でそ の試料を行った。 (1)スパッタリング法によるBeO薄膜の作 成 高周波二極スパッター装置を用い,直径60m mの焼結BeO板をターゲットとし,Ar圧 1×10-2Torr,天然黒鉛の(001)壁開面及び 真空蒸着したカーボン膜を基板とし周波数13 MHz,電圧1,500Vでスパッターした。基板の 温度を400℃とし,約20分で粒径200Å程度,厚 さ140Åの均一性のよいBeO薄膜が得られた。 この膜はc軸が基板面に垂直構造をしていた が,150℃以下では非晶質となった。基板の種 類,温度と結晶の大きさや配向性の関係,Ar 圧力,電圧などの影響も調べ,これらによって も膜の構造が変化することを認めた。 (2) 化学蒸着法によるBeO膜の作成 前述の蒸留法で精製した高純度BeCl2を加熱 し,蒸発させ,水素をキャリアガスとし,これ を高温部に運び,炭酸ガスと熱間で混合するこ とによってアルミナ基板上にBeOを化学蒸着 し,各種の条件を変え,得られる膜における結 晶の大きさ,配向性,形態及び全体としての組 織を調べた。基板単位表面積当り0.2~0.9g/ cm2, hrのBeCl2供給量で,600~1,300℃間 でち密な膜が得られた。CO2/BeCl2比,基板温 度なども重要な影響を与え,1,300℃以上では 微結晶が成長し蒸着中に膜が焼結し,局部的に 収縮するために逆に気孔率も増すことも認めら れた。全圧の影響も一部調べ,沈積機構につき 考察した。 (3)単結晶の育成 まず,Li2MoO4-MoO3系フラックスにBeO を溶解し,これを徐冷する方法で予備的に研究 し,次に温度傾斜法により各種形状(晶癖)の BeO単結晶を得た。温度,同傾斜率により結晶 の形状がプリズム,ピラミッド,板状などと変 化すること,その成長速度,逆の極性をもつ双 晶の影響などを明らかにした。フラックスの組 成とBeOの溶解度,粘度の温度変化等も測定 し,種結晶を用い温度傾斜法で実施すれば,十大 分大型の単結晶が得られる見通しを得たので, 型フラックス炉とるつぼを準備したが,時間的 制約のために巨大結晶を得るに至らなかった。 更に,水熱法による育成にも注目し,その基 礎的知見を得るために,フラックス法で得た単 結晶を用いて,NaOH (3. 9~13.1mole %),熱 水溶液中への高圧下でのBeOの溶解度を測定 し,かつ器材の耐食性その他についても調査し た。溶解度は250~600℃間,500~1,500barの 圧力下では温度及びアルカリ濃度とともに増加 するが,圧力には大きな依存性を示さなかっ た。溶解機構につき熱力学的検討を加えたが, やはり時間切れとなって大きな単結晶を得るこ とはできなかった。 6.高温熱伝導度の測定 高温物性として熱伝導度はBeOの場合,特 に重要であることは前に述べたとおりである。 しかし高温における熱伝導度の測定は従来非常 に困難で,多大の時間を費し,かつ精度も十分 高いものが得難い状況にあったので,まず新し 酸化ベリリウム単結晶 LiMoO4-MoO3を用いたフラックス温度差法 によって合成した(育成温度1,200℃前後) い測定装置と技法の開発から着手した。そして 電子ビームによる周期的温度変動法によって, 小型試料を用い,十分高温度(1, 200~2,000℃) で,短時間に,個人差なくデシタルに高い精度 の測定ができるようになった。BeOは電気絶 縁的であるので表面にタングステンを薄く蒸着 し導電性を与え,かつBe原子のスペッターを 防護して高温下の測定に成功した。それによれ ば従来の文献値よりもやや高い値が得られた。 なおこの装置によって,各種炭素材料やAlNに ついても1,900℃付近までの測定を行いつつ満 足すべき結果を得た。 7.その他 高温物性としては,更に熱間クリープの測定 につき研究した。まず圧縮クリープにつき測定 し,次に曲げクリープに着手した。前者は試料 の関係で十分高精度のデータが得難く,後者は 時間的に未完了となった。 おわりに ベリリアに関する研究グループは,はじめに 記述した目標に対し,約5ケ年にわたりそれぞ れの分担項目を熱心に研究し,かつ相互に協力 して総合的にも一応の成果を収め得たものと思 っている。特に高純度BeOの調製方法,同分 析方法,易焼結性BeOの調製方法とその焼結 機構の解明,高温熱伝導度の測定装置及び技法 などは,特記さるべき多くの新規性を有してお り,かつ他の多くの酸化物系高融点材料の関連 事項の今後の研究に援用しすれば興味深く,有 益なものが少なくないと思う。時間などの都合 で十分な新しい成果を収め得なかった他の項目 に関しても,それぞれ基礎的知見を得,装置の 根幹は完成したものが少なくないから,いずれ どこかで誰かが引継いで近い将来結実するもの と期待している。BeOは高温材料としても優 れたものであるから,それと最近の情勢を考え あわせると,深く入ることができなかったけれ ども,クリープ耐熱衝撃性,疲労などのような 破壊に関連する高温の機械的性質につき今後研 究されることが望ましいと思う。 まだ,将来期待される事項等について,書く べきことがたくさんあるが,与えられた紙面も かなり超過しているので,詳細は当研究所研究 報告書第2号(酸化ベリリウムに関する研究, 1972)の65~69頁に記載してあるからそれを参 照されたく,ここでは省略する。 1.2酸化バナジウム (昭和42年度~46年度) はじめに 高等学校で周期表を教わるとき,アルミニウ ム,マグネシウム,あるいはアルカリ金属等と は違って遷移金属という一連の金属が一つのグ ループを作っていることを教わる。どう異なる のかというと,前者では,原子の一番外側を占 める電子はsとかpとかいうもので,安定な化 合物の中で,そのイオンはもうそれ以上他の電 子の授受ができない状態にあるが,後者では, 一番外側がd電子で,化合物の中では,更に電 子の出入りができる余裕をもっていることであ る。これは大変な違いで,学校の教室で先生か ら「物質の化学的な性質はそれを作っている原 子の一番外側の電子の働きによる」と教わるが 正にそのとおりで,マグネシウム等はそのイオ ンにはもうそれ以上電子の出入りがないから, その原子価は唯一種類に限られるが,遷移金属 イオンは,更に電子の出入りがある程度できる からいろいろの原子価をもつことができる。バ ナジウム(V)はこの遷移金属の一つである。だ から前者の酸化物は,例えばMgOと限られる がバナジウムでは,VO, V2O3, VO2, V2O5等 々がある。 もう一つの大きな違いは,前者のイオンは磁 性はないが,後者にはそれがあって磁性イオン とも呼ばれる。(我々になじみの深い磁石,そ れは鉄やコバルト,ニッケル等遷移金属の合金 である。)これはやはり上述の最外殼電子のあり 方の違いに由来している。モデル的にいうとこ れらの電子は,我々の住む地球と同じように原 子核の回りを回っているだけでなく,自転して おり磁気能率をもっている。上述のもはやそれ 以上電子を受入れられない充満した状態とし、う のは,こうした電子がすべて二つづつその自転 軸をお互いに逆向きにした対を作っていて(そ のため磁気能率は帳消しになる),対を作らず 孤立した余分の電子がないということであり, 遷移金属イオンのように電子の出入りがなお可 能だということは,こうした対を作っていない 電子があり,それだけの磁気能率をもっている ということである。 まずこれだけのことを頭において,我々の日 常生活を振り返ってみよう。その中では,通信 機その他いろいろの所謂弱電を利用した機器が 欠かされない。そうしたもので化合物をその電 磁材料として使っているものには,この遷移金 属を含んだものが非常に多い。これは上述のd 電子が,MgOの中のs, p電子のように身動 きできないように縛られているわけでなく,こ うした化合物の中でいろいろ違った働きをして くれて人間が目的に応じてそれをうまく利用し ているのである。ここで欠かせないことは,我 々は弱電を利用しているだけでなく多くの場 合,それと組合ってその材料の磁性をも同時に 利用しているということである。それにもま た,磁性イオンと呼ばれるこの遷移金属イオン がもってこいというわけなのである。同じよう な原因で遷移金属化合物はいろいろの反応の触 媒としても有効であるがそれは今ここで省くと しても,こうした化合物の基礎的な研究がいろ いろの目的をもった電磁材料の開発のためにど のように必要かということがわかるのである。 もう一度高等学校の化学教室に返ってみよ う。定比例の定律というのがある。それは化合 物ではそれを作っている各元素原子の数の比は 一定で簡単な整数比となっているというのであ る。例えばMgOのようにMgとOの数の比 は1:1でありMgO1.05といったような端数は ないというので1790年後半に至って化学の法則 として一般に認められるようになった。ところ がベルトーレ等はいやそうではない,同じ化合 物でもある範囲で比は多少変ってもよいのだと 強く主張してきた。そして実際そうしたものが たくさんみつかってきた。それでこうしたもの を上のMgOのような定比化合物に対して不定 比化合物というようになった。例えばVO2はそ の構造(結晶内でのイオンの並び方)は変化し ないでVとOとの比が1:2より多少ずれたもの もある。つまり結晶の中のあちこちにイオンの 抜けた穴ができても安定に存在できるのであ る。遷移金属を含んだ化合物にはこうした不定 比のものが多く,その一寸した組成の違いがそ のものの物理的性質を大きく変えるのである。 これから述べるV-O系の化合物の多くもこの 不定比化合物である。 こうみてくるとV-O系の化合物の研究をど こに焦点を絞ってやったらよいかがおのずとわ かってくる。まずVO, V2O3, VO2等はどの 温度でどの範囲の不定比性をもっているか,つ まりV-O系の相平衡の決定,それらの欠陥構 造,そしてそれらに影響されて物理的な性質が どのように変るかなどそうしたお互いに相関連 して一本の筋をたてた目標に向って本研究は進 められたのである。以下その内容を要約する が,こうした研究を通じてより一般的に強く訴 えたことは一口にいって「物質殊に遷移金属化 合物の物理的性質の研究は化学組成並びに構造 的(欠陥を含む)によく特徴づけられた合成物 について行われなくてはならない」ということ を実際の例を示して主張したことである。これ は当り前のことであるが従来とかくなおざりに されていたことなのである。 1.VO2 これについて中心的に行ったことは,1500 K での相平衡と不定比の範囲の決定,それぞれの 組成のものの相転移の過程での結晶学的な構造 変化,そして更にそれに対応した電気伝導性の 変化の研究である。 VO2の単結晶 化学輸送法によりVO2単結晶を育成。結 晶育成条件は,高温部1,000℃,低温部900℃。 キャリアガスは四塩化テルルを使用した。 VO2は約70℃付近で突然の電気伝導性の変 化があり,それより高い温度では金属的(電気 抵抗が温度の上昇とともに増大する),低い温 度では半導体的(電気抵抗が温度の上昇ととも に減少する)ということがよく知られている。 この際結晶学的にも高温側の正方晶系のルチル 型から低温側の単斜晶系の変形ルチル型に転移 する。こうした現象は温度のスウィチング・エレ メントとして利用されるであろうが,固体物性 の研究の上で金属-非金属転移という興味ある 現象として大きく取上げられているのである。 ところが我々の「よく化学的に規定された物質 の合成」という立場から行った仕事は従来のそ れにかなりの改訂が行われなければならないこ とがわかった。従来典型的なVO2はこの転移に 際して104倍程度の伝導度の変化があるという 通説は,実は非常に不定比性の大きい,つまり VO2の中にかなりのV5+イオンを生じている ものがそうなのであって,定比のVO2ではそれ がたかだか10倍程度であるとわかったことなど はその一例である。これを簡単に下表に示す。 遷移金属の酸化物はそれを作るときの雰囲気 の酸素の量つまり分圧によってどんな原子価を とるか,V2O3なのかVO2なのかなどがきま るから,下の表では1500Kという温度のときの この酸素の平衡分圧をPo2と示してある。また 同じ試料で昇温降温を連続して3回繰り返して あるが,これから所謂ヒステリシスがわかり, 定比のものはほとんど室温まで高温型が続く。 試料 -log Po2 化学組成 (VOxのx) 転移温度(℃) 転移のときの 伝導度のとび (Ω-1) 活性化 エネルギー(eV) (低温型)昇温時 降温 時 a 4.1 2. 00 63 ~64 1.3×10 0.17 b 3.5 2. 03 62 ~63 62 ~63 62 ~63 54 ~55 50 ~51 49 ~50 1×103 0. 34 c 3.3 2. 05 67 ~68 65 ~66 65 ~66 57 ~59 55 ~56 55 ~56 5×103 0. 22 d 2.9 2. 07 71~72 67 ~68 67 ~68 63 ~64 59 ~60 59 ~60 2×104 1.0 こうした研究を通じてわかったことはV5+を 生ずるような不純物の混入と同様,不定比の場 合にもこの金属―非金属転移に先だって一種の 結晶学的な転移があり単斜晶系あるいは三斜晶 系の中間相を生じ(電気的には半導性),これ が表のTcで金属相(正方晶系)に移る。そし て定比のものではこの双方の転移点が一致す る。したがって従来VO2の転移について考え られていたことはもう一度吟味される。 不定比の程度によって電気的な性質が大きく 変化することは表でわかるが,これは目的に応 じて化学組成的にはっきり規定されたものが合 成されなくてはならないということである。殊 にVO2-Cr2O3, VO2-Nb2O3等の固溶体を利用 しようというとき,こうした注意は欠くことが できない。 2. V2O3 これの相平衡は既に東工大の桂教授等によっ て確立されていたので我々はそれを利用するこ ととした。これは1600KでVO1.500+xとして 10-6.5―10-9.0mmHgの酸素分圧の下でx= 0. 000~0. 055程度の範囲で安定で,コランダム 型構造をとる。 上述の金属―非金属転移にはいろいろの場合 があって,そのうちしばしば見られるものには 一つは結晶学的な周期が倍になる場合,またも う一つは磁気的なそれ,つまり常磁性的なもの から反強磁性的なものへの転移がある。前述の VO2はこの前者に当るがこのV2O3はこの両 方が同時に起る。定比のV2O3では約160Kに転 移点がありそれより上では金属的な電気伝導を 示すが,それより下では非金属的であり磁性的 にも常磁性から反強磁性に移る。このときの帯 磁率の変化も急速で大きい。しかしながら上に 述べた不定比の程度が大きくなるにつれてこの 帯磁率の変化の程度は小さくなり且つ転移温度 も下ってくる。例えばVO1.015では約100Kで 転移する。V2O3はこの磁気的な転移に伴って 結晶学的にも六方晶系のコランダム型から単斜 晶系のものに変る。この2種類の転移は密接に 相関連しており上の磁気的転移が不定比の程度 が大きいともはやなくなる(例えばVO1.534) のに伴って後者の結晶学的な転移も行われない のである。 我々の上述のような化学組成―不定比性と物 理的性質との関連性の研究においては一つの相 (それの定比,不定比はとわない)が酸化ある いは還元されてそれに隣接する相にかわるとき どのような過程を経るだろうかということの一 例をみることができる。それを簡単に要約して みよう。V2O3の不定比性は定比のそれが次第 に酸化される過程で増大して行くのだがあると ころまで酸化されると(例えば1600Kで大体 VO1.555)もうそれ以上の酸化ではコランダム 型のV2O3は安定でなく V3O5という化合物に 移るのである。V2O3の酸化ということはV3+ の一部がV4+となることだがこれに伴って結晶 の格子点に空孔ができる。こうして不定比の V2O3の中にはこのような電子的な欠陥(V3+→ V4 + )と原子的な欠陥(V3+の空孔)が含まれ ている。我々の不定比性と格子定数の変化の研 究,V2O3単結晶のV3O5への酸化の研究等よ り考えて不定比V2O3では欠陥の数が少ない間 はそれが結晶内全体に無秩序にばらまかれてい るが,それが多くなるとそれらがある程度集ま って結晶内のあちこちにそうした核を作ること がわかった。そしてこの核はV3O5の構造の単 位と同様のものでV2O3の酸化の過程でこうし た隣りのV3O5の芽をあちこちにつくって行く ということがわかる。熱力学的にいって一つの ある相の安定性はその両隣りの相との関係でき まるのであるが,上の例はこのことを結晶学的 に示したものといえる。 3. VO これは上記二つの化合物と比べて不定比の範 囲の極めて大きいもの(VOxと書いておよそ x=0.9~1.2程度)であるがその平衡酸素分圧 は非常に小さく,例えば一番酸化されたVOx とその隣りのV2O3とで固体電池を作って計っ た結果はその組成でPo2≒10-23atm (l,000℃) であり,前2種類のもののように平衡圧を決め て合成するということは実験的に不可能であっ た。それでV2O3と金属バナジウムとをVOxの 望みの組成になるように混ぜ合せてアルゴン中 でアークメルトして反応させそれを真空封入し ていろいろの温度で平衡にもたらされた。VO は食塩型の結晶であるがこの不定比性は前の2 種類と違ってバナジウムだけでなく酸素イオン も格子点から抜けている型のもので,例え定比 のVOという組成のものでもV2+とO2-がそ れぞれ約15%も抜けているのである。電気的に はバナジウムが酸素に比べてはるかに多い還元 側の極限近くで金属的だが,それ以外では半導 体的で抵抗はVOxのxが大きくなるにつれて 大きくなる。 VOの研究は従来かなり多くされているので それと重なる点はここでは省略して,こうした 不定比性の物理的性質への影響で大きな役割を つとめる欠陥の分布状態ということについてこ こで簡単に要約しておこう。熱力学的にみて一 つの結晶の中の欠陥は温度が高いと,あるいは 欠陥の濃度が低いと,それは結晶内に無秩序に 分布するが温度が低いか濃度が濃くなるとそう した欠陥同志が凝集して行くか,それとも一定 間隔を保って規則正しく並列するようになる。 V2O3は前者の例で欠陥の凝集したものが大き くなるとそれが相分離でV3O5相が分離する。 VOの場合は後者の例で低温では前述の欠陥が 規則正しく並んだ所謂規則格子を作る。例えば 1,000℃ぐらいのところではどれも欠陥は無秩 序に分布しているが750℃ではx=0.93~1.24 の範囲のもので短距離の秩序化(結晶内のあち こちでの非常に狭い範囲の秩序化)が起って おり,また700℃ くらいではx=1.15~1.24の ものは結晶全体にわたって体心正方格子をもっ た規則格子を作り,その単位胞は基本の食塩型 のものに比べてa =11.75Å,c=8. 25Åと約18 倍の容積となっている。 おわりに これで一応VO2, V2O3, VOについて我々 はどのようなことをしたかを,その主なものに ついて要約した。全体を通じていえることは単 にこうした物質だけでなくても,ある一つの物 質の物理的性質の理解,あるいは再現性のある 合成等のためにはその与えられた物質の組成及 び構造(欠陥の分布状態を含めて)についての 特徴を知っていなくてはならないということで ある。こうした特徴を記載すること,つまり 「与えられたある物質の物理的性質の理解や再 現性ある合成等にとって意味のある――一義的 に関連する――その物質の組成と構造(欠陥を 含めて)の記載」,これがその物質の所謂“キ 1.3鉛ペロブスカイト (昭和43年度~47年度) 構造型 d電子 の数 配位数 構造型 d電子 の数 配位数 構造型 d電子 の数 配位数 構造型 d電子 の数 配位数 構造型 d電子 の数 配位数 食塩 スピネル コランダ ム ルチル TiOx ←→ 2 6 Ti2O3 → 1 6 TiO2 ← 0 6 VOx ←→ 3 6 V2O3 → 2 6 VO2 → 1 6 V2O5 ← 0 5 MnOx → 5 6 Mn3O4~ 4,5 6,4 Mn2O3~ 4 6 FeOx → 6 6 Fe3O4 → 5.6 6.4 Fe2O3 ← 5 6 ャラクタリゼーション”であり,我々はV-O系 の研究を通じてその重要性を認めたのである。 こうして我々は第1シリーズの遷移金属酸化 物の一例としてバナジウムを取上げたが,一方 その研究を通じてこのシリーズ全体の相互の関 係にも着目してきた。そしてこうしたものの不 定比性ということを一つの表にまとめたのでそ の一部をここに示しておこう。こうしたd電子 をもったイオンはその回りの酸素イオンからの 電場の影響をいろいろうけd電子の数によって 回りに正八面体的に6個の酸素イオンがあった 方が安定か(6―配位),正四面体的に4個の酸 素イオンがあった方がよいか(4-配位)が決 まる(所謂配位子場の影響)が,表の中でスピ ネル構造と書いたものはこの4―, 6―配位双方 をもったものでバナジウム酸化物にはこのスピ ネルはない。表中矢印の範囲が不定比の範囲で |印のところが定比のところである。表でみて わかるがFeOxには常圧では定比のFeOは存 在しないのである。 はじめに 鉛ペロブスカイトPbMO3はペロブスカイト 型化合物ABO3のA位置に鉛Pbを持つもので ある。ペロブスカイトABO3は図に示すよう に,非常に対称性の良い結晶構造を持ち,陽イ オンA, Bと酸素イオンとから成立っている。 ペロブスカイト型化合物のうち,最も有名なも のはチタン酸バリウムBaTiO3であるが,鉛を 含むものとしても,チタン酸鉛PbTiO3,ジル コン酸鉛PbZrO3などが良く知られており,い ずれも誘電材料である。 ペロブスカイト型結晶構造 鉛ペロブスカイトを研究対象に取上げたの は,まず,高圧合成の立場からであった。ペロ ブスカイト構造は図に見たように稠密構造であ り,これは高圧合成に適していると考えられ る。それに,鉛のような高い蒸気圧をもつ元素 を含む場合は,その元素を逃さないためにも, 高圧は有利なのである。 ところで,ABO3のA位置にPb2+イオンが 入ると,誘電体になりやすい。これはPb2+イ オンの電子構造(5d)10 (6s)2が周囲の酸素と 6s2-6p型の混成軌道を作り,強誘電的なイオ ン分極を伴って安定化するため,と考えられて いる。 さて,PbMO3型ペロブスカイトは,新しい 誘電材料の発見という見地から興味あるもので あるが,Mは単一の元素である必要はなく,複 数個(M,M',……)であってよい。この際, 考慮しなければならない条件は,電気的中性の 条件だけであるから,PbM2/35+ M'1/32+O3,PbM1/25+ M'1/23+O3, PbM1/26+ M'1/22+O3, PbM1/36+M'2/33+O3 … …(2+, 3+, 5+, 6+は価数),のようなた くさんの組合せが考えられる。M, M'は主と して遷移金属であるが,事実,多くの組合せに よる合成が試みられることになった。 以上は高圧を手段とする研究であるが,常圧 下で製法に工夫を加えることによって,特徴あ る性質,組成を持ったペロブスカイト型化合物 が得られないであろうか、,ということが検討さ れた。通常,ペロブスカイト型化合物の合成は 乾式固体間反応によるものであるが,まずPb TiO3について,湿式合成が試みられた。その結 果,普通に得られるPbTiO3とは違った性質が 見出され,ついでそれが欠陥構造に由来するも のであることが突き止められ,この方向の研究 が進展することとなったのである。 1.複合ペロブスカイトの高圧合成 高圧合成を進めるにあたって,まず行ったの はPb-O, Cr-O, Mn-O等基本系の相平衡的 研究である。これはCr4+, Mn4+状態をもつ ペロブスカイトの高圧合成のため,あるいは 2PbO2=Pb2O3+1/2O2の反応で得られる高酸 素圧を用いるときの基礎となるからである。 この種の高圧合成のために新たに技術が開発 された。上記の系は本質的には閉じた系におけ る固―気相反応である。それゆえ試料と反応し ない物質で完全に試料を封じる必要がある。金 属―酸素系において,この条件を満たす容器は 白金である。その溶封カプセルを固体圧縮の高 圧容器の中に入れ,高温高圧状態が保たれた。 この試料周辺の圧力媒体にはパイレックスガラ スを使うなど,工夫はいろいろなされた。な お,最初のころの温度,圧力範囲は1,400℃, 40Kbarであった。 Cr4+がCrO2のようなルチル型構造の中に6 配位で安定である範囲は,常圧中では比較的低 温でしか許されないが,高圧下ではかなり高温 まで可能である。Mn4+についても同様である。 これらの研究は最初,PbCrO3などの合成のた めの基礎研究であったが,PbCrO3はグループ 発足後間もなく,外国で高圧合成されたことが 発表され,その意味では目的を達しなかった。 しかし,PbCrO3の安定領域は,CrO2の安定 域の中に含まれており,この例でも明らかなよ うに,金属―酸素系の高温高圧下の相平衡図は 合成実験の指針として重要なものであることが わかる。 高圧合成された複合鉛ペロブスカイトをいく つか挙げると,Pb2M2+W6+O6 (M=Mn, Fe, Ni, Zn), Pb3M23+WO9(M=Fe, Cr, In, Sc) などがある。これらはいずれもピストンシリン ダー装置により,40kbar,1,200℃付近までの 比較的容易な条件で合成されたものである。 この複合鉛ペロブスカイトは最初のねらいか らいって,強・反強誘電性が期待されたし,ま た遷移金属を含んでいるため,磁気的にも種々 の特性が現れることが予期された。測定の結果, 例えばPb2NiWO6は誘電的転移温度が290 K の反強誘電体で,かつ56Kに磁気的転移温度を もつ反強磁性体であることが示された。この磁 気的相互作用については,Ni2+-O2--W6+-O2-- Ni2+型の長距離の超交換相互作用に基づくもの であることが推定されている。 Pb2ZnWO6も130℃に反強誘電転移温度をも つ,新たに合成された複合型ペロブスカイトで ある。この物質が高圧下で始めてペロブスカイ ト構造を持つのは,おそらく,Zn-Oの結合も 関係しているからであろうが,それは次のよう に説明される。 ZnOは常圧下では,ウルツ構造を有し,Zn2+ は4配位でPb-O結合とともに,共有性が強 い。高圧下では食塩型に転移し,Zn2+は6配 位をとるようになるが,ペロブスカイト構造中 のZn2+も6配位―高圧下でとりやすい配位― なのである。一般的に,共有性の高いイオンを 多く含むこのようなペロブスカイト型化合物の 合成には,高圧が有利であろう。 2.ペロブスカイト型化合物の相転移 それでは結晶化学的な問題として,ペロブス カイト構造を含む結晶構造相互間の安定性はど うなっているのであろうか。構成元素を変えて いった場合,結晶構造がどう変るかの変化を示 す例として,Sr1-xPbxRuO3がある。この固溶 体の一端SrRuO3はペロブスカイト,他端Pb RuO3はパイロクロアである。そして圧力を加 えるとパイロクロア領域が減少することも示さ れている。そこでパイロクロア型の安定性が広 く調べられることになった。これは,ある組合 せ,ABO3が常圧でパイロクロア型として得ら れれば,高圧合成によりペロブスカイト型とし て得られるであろう,という見通しを与えるこ とになるからである。 一般式A2B2O7で示される立方型パイロクロ ア構造は,8配位のA陽イオンと6配列のB陽 イオンからなり,7個の陰イオンは2種類の4 配位構造をとる。うち6個は各2個の陽イオン に隣合い,残りの1個はA又はB陽イオンとの み隣合う(8a, 8b位置)。ペロブスカイトAB O3に対応するのは,実はA2B2O6型の欠陥パ イロクロア構造であって,この場合は上記(8 a), (8b)位置のO陰イオンは欠陥となり,A 陽イオンの配位数は6にまで減少している。 PbMO3がこの欠陥パイロクロア構造をとる のは,あるいは容易であるかもしれない。それ は異方性に富んだPb-Oの結合にとって,上に 説明したA-Oの位置は好都合だからである。 しかし,高圧下では,一般にこのような格子ひ ずみのエネルギーが高くなり,6s2はより稠密 な,しかもひずみの少ない構造の中で安定化す る方向に働くであろう。したがってパイロクロ ア―ペロブスカイト転移は当然高圧下で起り得 る転移,とも考えられるのである。 パイロクロア―ペロブスカイト転移は数多く のPbMM'O6について確かめられた。Pb2InNb O6, Pb2CrTaO6, Pb2MnTaO6, Pb2FeTaO6… など。すなわち,これらは新しく合成された複 合鉛ペロブスカイトであるが,転移は極めてゆ るやかであった。例えばPb2MnTaO6 (パイロ クロア)を44kbar,1,000℃で1時間程度反応 させても,ごくわずかの量しかペロブスカイト に転移せず,2PbO+1/2Mn2O3+1/2Ta2O5→Pb2 MnTaO6 (ペロブスカイト)の反応では,28 kbar, 850℃, 30分程度の条件でも大部分転移 が起る,といった結果であった。 なおPb2MSb5+O6では,いまだペロブスカ イト相が生成しなかったが,おそらく,より高 圧で実現するものと思われる。 3.欠陥型チタン酸鉛 欠陥を多量に含むPbTiO3が得られたのは, 最初,次に述べるような湿式合成法によってで あった。 強アルカリ性の酢酸鉛水溶液(例えばPb (CH3COO)2・3H2O 38g, NaOH 120g, H2O 100 cc)に4塩化チタン水溶液(例えばTiCl4 : H2Oが容積比で1:3)を添加すれば,黄白色 のX線的非晶体が生成される。これを十分洗浄 した後,熱処理すると多結晶体のチタン酸鉛が 得られるが,湿式合成時での“Pb溶液”と “Ti溶液”のモル比を変えることによって, 種々の組成のものとなる。組成式はPb1-xTi O3-x,もしくはPb1-xNay TiO3-x+y/2である が,化学分析の結果,例えばPb0.77Na0.0052Ti O2.23のごとくであった。 しかし,このような組成式は各原子の比率を 与えているだけで,どのような欠陥構造を含む かについての情報を与えているわけではない。 欠陥構造についての“巨視的”情報は,いろい ろな欠陥構造を想定して,単位胞容積と化学分 析結果とから計算される理論密度と,実測密度 とを比較してみることであろう。これを行った 結果,湿式合成体はPb位置とO位置に欠陥を 含み,Ti位置には含まれないことがわかった。 また,得られた試料にはPb0.43Na0.22TiO2.68, Pb0.24Na0.54TiO3のように,多量のNa+の存 在によって安定化しているものもある。 今まで,ペロブスカイト型化合物についての 不定比性や欠陥構造についてはいくつかの研究 が行われてきたが,その欠陥量は極めて小さい ものであった。したがって従来このような“非 平衡的”欠陥チタン酸鉛が安定に存在すること についての報告がないだけに,いま得られた試 料についてはいろいろな観点から確実に特徴づ けておく必要がある。 まず第一に明らかになった特徴はこの欠陥ペ ロブスカイトは非常に大きな微視的組成変動を もつ,ということであった。これはX線の回折 線の広がりから求めることができる。勿論,結 晶子の大きさの変化による広がりを除去しなけ ればならないが,このようにして得られた結果 は,Pb位置の平均欠陥量の増加とともに格子 常数の変動量も増加する,というものであっ た。一方,Pb位置の平均欠陥量の変化による, 結晶格子の大きさの変化も求まっている。した がってこの二つの関係から,ある平均欠陥量を もつ試料に対して,欠陥変動量が求まったので あった。この値は非常に大きいものである。欠 陥量の上限値下限値を列挙するなら,(0.37~ 0. 07), (0.42~0.17), (0. 87 ~0. 44)のように 予想以上の広い分布である。なお,比較のた め,PbO TiO2との等モル混合物を1,000℃, 2時間固相反応させることによって,化学量論 組成のPbTiO3を合成し,上述の方法で欠陥量 を見つもってみたが(0.00~0.00)であった。 この大きな組成変動は,温度変化させたとき の格子パラメ ーターの変化をよく説明するもの である。PbTiO3は490℃に転移温度をもつ強 誘電体であり,結晶学的には常誘電相で立方 晶,強誘電相では正方晶であり,低温になるほ ど正方歪は増大する。また転移は1次であるか ら,転移点において正方歪は不連続的に生じ, 単位胞容積も不連続変化する。しかし湿式合成 で得られた欠陥チタン酸鉛の試料では,転移点 で単位胞容積が見掛上連続しており,正方歪の 温度変化は多かれ少なかれ,拡散している。こ れは,欠陥ペロブスカイトの試料が非常に幅広 い組成変動をもっていて,非常に広がった転移 点の変動があることを考えれば容易に理解でき るものであり,定量的にも説明することができ た。 この欠陥チタン酸鉛の転移温度は平均欠陥量 の増加に伴い,欠陥のない場合の転移温度490 ℃から下っているが,この転移温度は前述の “下限値”の欠陥量をもつ“組成変動のない” 均一欠陥チタン酸鉛に対応するものであろう。 したがって,転移温度以下でも試料中に立方相 が存在することが推論されるが,事実,X線回 折パタンからこのことは確認された。 このような結果が欠陥ペロブスカイトの欠陥 量と相関していると考えるのは自然であるよう に見えるが,従来PbTiO3やBaTiO3の常温で の正方歪の“異常”や誘電率の“異常”が微粒 子の物性としてのみ理解されてきたため,この 点についても,再検討がなされた。例えば,常 温で正方歪と組成パラメ ーターの間には実験的 にはっきりした関係が求められるのに,正方歪 と結晶子の大きさ,もしくは粒径との間には全 く相関が認められないことなどが再確認され た。なぜ,従来粒径との関係によって物性の “異常”を説明することが可能であったのであ ろうか。例えば焼成温度を変えることにより粒 径結晶子の大きさは変る。しかし,ルチルを遊 離させることにより,非平衡欠陥の欠陥量も変 っている。したがって,従来のいわゆる“微粒 子の物性”としての立場は,場合によっては, 見掛けの現象に着目しているだけに過ぎないと も考えられるのである。 さて,Pb1-xTiO3-x,Pb1-xNayTiO3+y/2 の非 平衡的生成は,当初湿式合成に特有なものとし て理解されていたが,単純な乾式固体間反応に よっても生成可能であることが逐次明らかにな った。 従来一般に複酸化物の単純酸化物からの乾式 合成過程において,このように多量の欠陥量を 簡単に導入できる,といった事実はなかった が,今や,いわゆる“平衡条件下”に置かれた 固体が実際に,理想的な平衡組成,平衡欠陥濃 度を示し得るか,といった疑問が生じたといえ よう。以下,湿式合成欠陥チタン酸鉛の特性と の関係において,乾式合成欠陥チタン酸鉛の基 礎的特性をみていくこととする。 乾式合成欠陥チタン酸鉛は,出発物質PbO, TiO2, Na2Oの混合比を変え,所定温度に焼成 して得られた。Naを含まない試料に関しては 10%程度のPb欠陥をもつものまで,またNa を含むものに関しては非常に多くの欠陥をもつ ものが,X線的にペロブスカイト一相で得られ ていて,湿式合成体の場合と同様,含有する Na+でペロブスカイト構造は安定化される。な お乾式合成の場合も,空孔モデルを用いた欠陥 ペロブスカイトの計算比重と実測比重とは実験 誤差の範囲で一致していて,乾式固相反応によ っても湿式合成体と同じ型の欠陥ペロブスカイ トが生成可能であることが結論された。試料の 化学式は例えば,Pb0.90TiO2.90, Pb0.77TiO2.77, Pb0.41Na0.21TiO2.52などである。この結果か ら,従来固相反応によってPb1-xTiO3-xを生成 しないとした平衡図は部分的に修正される必要 があるようにみえる。 乾式合成体試料の格子パラメーターを温度の 関数として求めると,その変化,及び転移点が 求まるが,転移温度は欠陥量が変ってもほとん ど変化せず,ほぼ490℃となる事実は特に注目 される。この事実をより明確にするために,平 均欠陥量と転移温度及び正方歪の関係を湿式, 乾式合成体の場合に求めると,別々のカーブが 得られ,同一の組成パラメーターに対して,合 成法の違いにより少なくとも二つの物性値が対 応するのである。この事実は,このような物性 値が,一つの“平均組成”に対して無数に存在 し得る,という状態を予想させるものである。 乾式合成体試料の組成変動も湿式の場合と同 様にして求められた。欠陥量の下限値は一定の 転移温度,490℃に対応してゼロであるが,変 動の幅は極めて広く,例えば,(0.0~0.20), (0.0~0.45), (0.04~1.00)にも達する。こ の値は当然,同じ組成で比較した場合,湿式合 成体のそれをりょうがしているが,差はどのよ うにして生じたのであろうか。 固体間反応において,PbOの拡散がTiO2粒 子の表面から内部へと起るとした場合,もし, 生成したPb1-xTiO3-xのxの値によってその自 由エネルギーがそれほど依存しないとすれば, 拡散過程で認められるTiO2粒子の表面から内 部にわたるPbOの濃度勾配はそのままの形で 凍結されるであろう。これに対して湿式合成法 による生成過程では,その過程が非平衡的に起 ることは事実であっても,沈澱の生成開始時と 終了時で,供給されるTi4+溶液とPb2+溶液の 相対比はそれほど変化せず,組成パラメーター の分布も従って比較的狭いのであろう。 このNaで安定化した欠陥ペロブスカイトの 誘電率は測定周波数の減少とともに急激に増大 する事実が観測されるが,測定機器の限界によ って,より低い周波数で観測されるはずの“平 衡値”はとらえられなかった。なおPb0.43Na0.21 TiO2.53試料においては,測定可能限界周波数 30Hz,温度400℃での誘電率は100,000以上に 達するものであった。 上記の研究はチタン酸バリウムについても同 様になされた。チタン酸鉛との細かい違いはあ るが,やはり欠陥を含むペロブスカイト構造 が,例えばBa0.75 Na0.02TiO2.74のように得ら れる。そして湿式合成によっても,乾式合成に よっても,欠陥ペロブスカイトが生成されるの は,チタン酸鉛の場合と同様であった。Naが ペロブスカイト構造を安定化することも,同じ ように調べられている。具体的に例をあげる と,Naを添加しないBa1-xTiO3-x系において は,ペロブスカイト単一相を保つのはx =0. 01 までであるが,4 atm%Na添加ではx=0. 25ま で完全なペロブスカイト構造であった。欠陥の 増加に伴う格子定数,転移温度の変化など,チ タン酸鉛の場合と同傾向であり,他のペロブス カイト型化合物にも当然,同じ結果が現れるは ずである。 おわりに 高圧合成の対象を鉛ペロブスカイトに限れ ば,現在得られる温度圧力範囲では,ほぼ研究 は完了したといえよう。しかし,ここに述べな かったけれども,いろいろな高圧合成が試みら れ,また高圧合成の立場から,ペロブスカイト 構造始め,他の種々の構造における格子容積と イオン半径の関係が求められるなど,これらは 新しい高圧合成へと発展してゆくものである。 そして,それを技術的に支えるための高圧装 置,例えば均質な容量の大きい圧力空間を得る ための大型装置なども種々工夫されている。 ペロブスカイト型複酸化物に,Pb1-x TiO3-x のような新しい型の点欠陥を非平衡的に導入で きることが明らかにされ,またこの種の化合物 の特異な物性,構造,反応が見出された。そこ で次のステップは当然,新しい関係化合物,新 しい現象を一つ一つ丹念に検討してゆくことと なろう。特に非平衡相,多結晶粒界,結晶転移 点での結晶相,平衡圏での境界層などのいわば “非平衡状態”に注目し,そのものの示す特異 な物性や反応性を積極的に利用することによ り,一段と優れた無機材料の開発が期待される のである。 1.4酸化ジルコニウム (昭和44年度~48年度) はじめに 科学技術の発展には高い温度を必要とするも のが非常に多いが,温度が2,000℃ くらいにな ると,高温度に耐える材料が限られてくる。特 に空気のような酸化雰囲気の中でも変化せずに 存在する物質は,高温になると非常に限定され てしまう。このような高温の酸化雰囲気に耐え る物質の一つにZrO2があり,更にこの物質は 高温で優れた電気伝導性を示すなどの著しい特 徴をもっている。 しかし,ZrO2は室温から温度をあげていく と,1,100℃前後で結晶構造が急に変化し,常 温で安定な単斜晶系の構造から,高温で安定な 正方晶系の構造へと変化する。このような相転 移現象は更に高温の2,000℃前後でも起り,正 方晶系から立方晶系へと変化することが知られ ている。このような変化は,温度を下げると元 の状態にもどり,室温では再び単斜晶系の構造 となる。 この場合,特に単斜―正方晶系の相転移の際 には9 %もの大きな体積変化が伴われるので, 結晶全体にひずみが入り,ついには破壊するた め,ZrO2そのものは耐熱性であっても材料と しては使用できない。これを防ぐため,CaO, MgO, Y2O3など約15%をZrO2に添加する と,立方晶系の高温型がそのまま室温でも安定 に存在するので,これを安定化ジルコニアと呼 び,既に多くの工業材料,耐熱材料として使用 されている。しかし,これも材料としての寿命 があり,長時間使用すると次第にCaOが蒸発 して使用に耐えなくなる。 安定化ジルコニアは高温では電気伝導性が 良く,特に酸素イオンが安定化ジルコニアの内 部を移動して電気を運ぶイオン伝導現象を示す ことが知られている。ZrO2そのものは室温で は絶縁物であり,ZrO2の電気的性質を明らか にすることは,興味深い問題が多い。 ZrO2についての相転移及び安定化の機構を 明らかにすることは,材料として考える場合に 基本的に重要な問題であり,更に電気伝導機構 の解明なども含めて,このような目的の下に第 8研究グループが昭和44年5月発足し,ZrO2を グループ研究の中心題目として研究活動を行っ た後,昭和49年3月一応の成果を得て解散し た。 1.研究の方法 ZrO2の研究では,まず化学成分が最も簡単 なものとして,Zr : 0が1:2の比率で,でき るだけ不純物を含まない高純度のZrO2を対象 として扱うこととした。高純度の物質を使用す ることによって,ZrO2の本来の性質が明らか になることが期待できる。 また,物質の表面はその内部とは異なったい ろいろな性質を示すので,このような表面によ る性質の変化をできるだけ防ぐためには,でき るだけ大きな単結晶を使用して研究を行うこと が望ましい。 以上のような理由から,ZrO2の研究では高 純度の試薬を用いて大型単結晶を育成する研究 から始めることとした。 2.単結晶育成 大型単結晶を育成することは一般になかなか 難しい問題で,従来から数多くの物質について 研究が行われているが,ZrO2の単結晶育成の 報告はあまり多くない。 単結晶を作る方法の中で,溶融体からの育成 法は一般によく用いられており,引上法はその 代表的なものである。ZrO2の溶融温度は約 2,700℃である。この温度で結晶を育成させる ことは容易ではないが不可能ではない。しかし ZrO2の場合は,結晶をこの温度で育成しても 室温に下げる間に相転移を起し,せっかくでき た結晶が破壊するので,約1,100℃以上の高温 で結晶を育成する方法は使用できない。 1,000℃前後あるいはそれ以下の温度でZrO2 の結晶を育成する方法としては,ZrO2の原料 にフラックスを添加して高温で溶液とし,それ から結晶を析出させるフラックス法と,高温高 圧力の水溶液にZrO2を溶解させ,その溶液か ら結晶を析出させる水熱育成法とを用いるこ ととした。その結果いずれの場合も数mm程度 の長さの良質なZrO2単結晶を得ることができ た。フラックス法では10mmに達するものも育 成することができ,この大きさは今までに報告 された中では最も大きなものである。 (1)フラックス法 フラックス法で単結晶を育成する場合には, どのような育成方法がよいかということと,ど んなフラックスが適当であるかということの二 つの問題をまず考えなければならない。 ZrO2を育成するためのフラックスには,従 来はPbF2がよく用いられているので,研究に 先だってPbF2-ZrO2の相関係を明らかにした。 この関係は既にアントニーとロックが1951年に 発表しているが,今回の実験ではやや異なった 結果が得られた。 同じフラックスを用いても方法により結果が 異なるので,いろいろな方法について比較検討 を行った。PbF2のフラックスで実験を行った 結果,良質の大きい結晶を育成するためには試 料容器の一部を冷却して容器内に温度差をつけ る方法が最も効果的であり,次いで,容器全体 を徐冷する法あるいはこれらの二つの方法を組 合せたものなどが比較的よいことがわかった。 ZrO2単結晶 Na2B4O7-KF系フラックスを用いて局部冷却 温度差法で育成した フラックスとしてはPbF2のみならずNa2 B4O7, B2O3, V2O5などが試みられたが,これ らは粘性,溶媒能力などに問題があり,KFあ るいはNaFを添加して混合系フラックスにす ると良い結果が得られた。 どのような結晶がどのように成長したかとい うことを知るために,ZrO2の結晶を光学顕微 鏡,X線回折装置,X線マイクロアナライザー などを用いて調べた。 PbF2フラックスで作った結晶にはその表面 にうず巻成長層が現れるが,それ以外のフラッ クスの場合には成長丘ができる。フラックスの 性質によりそれぞれの場合の過飽和度とか成長 速度などが異なり,成長機構にも細かい変化が 起るものと思われる。一般にフラックスで成長 させた結晶の内部には不純物は入りにくし、が, フラックスによる結晶の表面では,成長の前線 にPbが吸着されている。その他のフラックス の場合もSnやBiを添加すると,できた結晶 表面にはうず巻成長層が見られそこにSnやBi が吸着されていることがわかった。このような うず巻成長層の形成には不純物の吸着が影響し ているものと考えられるが,組成と対応させた 結晶成長の研究はあまり多くはなく,今後この ような研究が必要であろう。 (2)水熱育成法 水溶液に1,000気圧程度の圧力をかけ高温に 熱した場合には,常圧下では溶解しにくい物質 でもかなり溶解させることができるので,部分 的に温度差をつければ結晶を成長させることが できる。このような水熱育成法をZrO2につい て行い,0.7 mm程度の良質な単結晶が得られ た。 溶液としては,従来クズネゾフ等によって報 告されていたNH4Fの水溶液ばかりではなく, HFの水溶液も有効であることがわかった。育 成に最適な条件は,これらの溶媒では800~ 1,000気圧,500~550℃程度である。NH4Fも HFもいずれの水溶液でも温度の高い側に結晶 が成長する逆溶解現象を示すことは興味深いこ とである。 水熱育成法では原料と水溶液を一緒に貴金属 類のカプセルに封入して高圧力ボンベの中に入 れ,外側から加熱して高温高圧力とするが,カ プセルの中で一方の側においた原料が他方の側 に移動して結晶が成長する。この場合に原料の 供給があまり多いと結晶の数と量は増えるが, 大きくて良いものが得にくいので,一般には途 中に障害となる板などを入れて原料の供給を制 御する。ZrO2の水熱育成では,使用した容器 が小さいので二重カプセル法を新たに考案して 良い結果を得た。 3.相転移 従来からの知識では,ZrO2の単斜晶系から 正方晶系への相転移は,一定の温度で全部が相 転移を起さず,100℃ くらいの温度範囲で次第 に相転移が完了すると考えられてきた。つま り,単斜晶系のZrO2を加熱すると約1,100℃ ぐらいで正方晶系ができはじめ,温度をあげる に従って正方晶系の量が増加し,約1,200℃で 全部正方晶系となる。この正方晶系のものを冷 る却すと約1,000℃で単斜晶系ができはじめ, 約900℃ですべて単斜晶系となる。このように 昇温と降温の場合に相転移の温度が異なってお り,このとき転移した量は普通の場合とは異な り時間にはあまり依存せず主に温度に依存して いる。 以上の結果はZrO2の粉末や焼結体などの多 結晶体を使用して得られたものであるが,ZrO2 グループでは長さ数mmの良質なZrO2単結晶 が得られているので、,これを用いて相転移を調 べたところ,従来とは全く異なった結果が得ら れた。 単結晶の一粒ごとに,加熱冷却による表面変 形の観察,熱天秤,示差熱分析などの熱分析, 相転移温度における電気抵抗の変化などの測定 を行った結果を総合すると,ZrO2の単結晶で は一粒一粒が異なった相転移の温度を示すこと がわかった。また,一粒の結晶における転移現 象は温度幅をもたずに瞬間的に転移が完了し, 一粒の中には正方晶系と単斜晶系とは共存しな いことがわかり,従来考えられていたような 100℃にもわたる広い温度範囲は示さない結果 が得られた。 従来のZrO2についての研究は粉体や焼結体 について測定されたものが多く,これらは数多 くの結晶の集合体である。単結晶の一粒ごとに 転移温度が異なるということを考えると,多結 晶体の場合は数多くの異なった転移温度の集ま ったものとなり温度幅を理解することができ る。単結晶と多結晶体とでは,このように異な った性質を示すものがあり注意を要する。 4.準安定なZrO2 ZrO2を共沈ゲルから作り,これを水熱条件 下で結晶化させると常温でも正方晶系のものが 存在する。これは,本来は安定ではないものが 準安定に存在していると考えられるので,その 原因の解明を行った。 水熱条件下で結晶化させたものは,大きさは 50~500Å程度の大きさのそろった単結晶的な 微粒子で,正方晶系である。この微粒子をめの う乳鉢で摩砕すると単斜晶系に変化する。これ らの微粒子について電子顕微鏡,X線解析によ る内部構造の測定と,各種の分析機器を用いて 不純物の測定を行った。 これらの結果を総合すると,一個の正方晶系 単結晶微粒子は極わずかな機械的刺激によっ て,室温で瞬間的に一個の単斜晶系単結晶微粒 子に転移することがわかった。それにもかかわ らず常温で正方晶系のものが存在するのは,微 粒子になると体積に比べて表面積が大きくなる 影響と従来は考えられていた。しかし今回の研 究結果では原因は単にこれだけではなく,微粒 子の中には格子のひずみが少なく,またOH- やCl-イオンが不純物としてあるため転移が起 りにくくなり,高温で安定な正方晶系のものが 常温でも準安定に存在するものと考えられる。 5.単結晶の電気的性質 純粋なZrO2は室温では1×1013Ωcm以上 の高い電気抵抗を有しているが,高温では伝導 性をもつようになり周囲の酸素分圧とも関係が 深い。ZrO2の電気抵抗は700℃以下ではイオン 伝導を示し,700~1,000℃の範囲では電子伝導 が主であると考えられているが,伝導機構の詳 細は明らかにされていない。 イオン伝導の場合は,その両端に電位差を与 えると酸素イオンがZrO2の中を移動する。安 定化ジルコニアではこの現象が著しいので,そ の両端に酸素の濃度差を与えると,酸素イオン が移動しその際両端に電位差を生ずる。この原 理を用いて継続して電流が得られるようにした ものが燃料電池である。 純粋なZrO2の単結晶を用いて,相転移の温 度付近における電気抵抗の変化を観測した結 果,相転移温度での電気抵抗変化は試料ごとに 異なり,増大するものも減少するものもある。 これらを解析した結果,結晶では非常に速く転 移が起きて,その転移した領域が緩慢に結晶内 を伝播して拡がって行くものと考えることがで きる。 6.陽電子消滅法によるZrO2の結合形式 いろいろな物質の性質はその電子構造に関係 があり,特に相転移などは結合電子の状態に深 い関係をもっている。一般に電子状態の測定に は,極低温にするとかあるいは純粋な物質を選 ぶなどできるだけ条件を制限して精密な実験が 行われている。しかし,相転移の場合には高温 のままでその変化を測定する必要があり,陽電 子消滅法はある程度そのような目的に適してい る。このような考えのもとにZrO2グループで は陽電子消滅法を無機材質の研究方法の一つと して取上げることとし,その設備の充実に努め た。 陽電子が物質中に入るとエネルギーを失って ほぼ熱平衡状態に到達した後,電子と対消滅を して2本あるいは3本のガンマ線となる。この 陽電子消滅を利用した方法に角度相関法と寿命 測定法があり,これらの方法により得られた電 子状態から結晶構造や結晶の転移の解明を試み た。この方法は比較的新しく発展してきたもの であるため,イオン結晶における系統的な研究 の積重ねが非常に乏しいので,ZrO2について の測定を行うとともに一般的な各種のイオン結 晶などについても系統的に調べそれらの比較検 討を行った。 おわりに ZrO2研究グループは純粋なZrO2の単結晶 を用いて結晶成長と相転移の研究を中心に行い 一応の成果を得たが,多くの問題は未解決のま ま残されている。特に,化学成分と諸現象との 関係,相転移現象における単結晶と粉末体との 差異などの研究には未解決なものが多い。 ZrO2については,純粋な組成で単結晶とい う単純な物質から研究をはじめたが,現実の物 質では考慮しなければならない要素が非常に多 い。今後は特に多成分,多相,多結晶体につい ての知識が必要であり,このような複雑な問題 についての研究が望まれる。 1.5酸化ニオブ (昭和45年度~49年度) はじめに Nb-O系は典型的な遷移金属酸化物の一系で あって,NbO, NbO2, Nb2O5 の他,NbO2 と Nb2O5との中間の組成領域に,Nb12O29, Nb22 O54, Nb25O62など一群のホモロガス酸化物を含 んでいる。これら酸化物の物理,化学性は金属 性―半導体性―絶縁体性というふうに広く変化 し,学術的にも材質利用の面でも極めて興味あ る研究材料を提供している。本研究グループは 昭和45年に,主としてNb-O系の各種化合物の 合成,精製,結晶成長,構造解析の研究及び基 礎的物性の測定を行い,それら基礎的研究を通 じて本系の材質開発,特に誘電体,絶縁体,感 熱素子材料としての利用を期待するという目標 をもって発足した。 研究発足の当時においては本系はまだ所謂 “未周知物質”のカテゴリーに属すべきもので あって,その合成法,結晶育成法,精製法等に 関する知識も断片的なものであり,また多くの 化合物について相平衡の知識が不十分であっ た。したがって研究は合成的研究及び各種構造 特性の解明におかれ,特にNb2O5及びその周 辺のホモロガス化合物群Nb2O5-xの結晶化学 的研究に重点を置いて進展された。これらの研 究は,最近発展の著しい電子顕微鏡による格子 観察に対しNb2O5やNb2O5-xが好適の材料で あったという理由もあって,世界的な研究動向 と歩調を合せた順調な進展を見ることができ た。この反面,NbOやNbO2などの低次酸化 物については,単結晶育成の成功以外に研究の 進展がなかったし,また物性研究上見るべき成 果を得なかった点を反省している。以下研究成 果の概要を紹介する。 1.Nb2O5-xブロック構造群の相平衡 Nb2O5-xといった化学記号は一般に不定比化 合物の表示に用いられるものである。事実1960 年以前にはNb2O5は還元側に,Nb2O5-x (x= 0~0. 2)で表される広い不定比領域を持つもの と考えられていた。1960年になってマグネリ及 びノーリン,続いてゲートハウス及びワズレー により,この組成領域は連続的な不定比域では な く,Nb12O29, Nb22O54, Nb47O116, Nb25O62 及 びNb53O132という,非常に似通った構造の,か つ複雑ではあるがそれぞれ特有のNb : O比を 持ったホモロガス酸化物によって占められてい ることがわかった。 我々が行った最初の研究はこれらホモロガス 酸化物群の相平衡関係を確立し,同時にこれに 熱力学的解釈を与える仕事であった。この方面 の研究は先にシェファー,ベルグナー及びグリ ューンの行ったものが唯一つだけ報告されてお り,我々はこの研究を再吟味する意味で手掛け たわけであった。結果はシェファー等と大差の ないものであったが,それでもいくつかの新し い,かつ非常に興味ある事実が発見された。そ れはNb12O29の平衡組成が,わずかではあるが 明らかに,正しい化学量論性から酸化側にずれ ている事実,またNb22O54が還元側に広い不定 比域を示す事実などである。他の酸化物Nb25 O62やNb28O70=Nb2O5が還元側にやはり広い 不定比域を示すことはシェファー等が指摘した とおりであった。この研究によって得られた均 質組成域(不定比域)の知識,及び組成と構造 の正確に特性づけられた実験試料は,後にこれ らホモロガス酸化物群の欠陥構造を研究した 際,不可欠な,かつ極めて重要な資料となっ た。我々がこの相平衡研究に関して行ったもう 一つの貢献は,実験結果を各ホモロガス相の結 晶構造と関係づけるための熱力学的取扱いを試 み,ほぼこれに成功したことである。実験結果 によると,例えば1,300℃においては,Nb12O29 の平衡酸素圧は10-12.13気圧以下であり,Nb22 O54 では10-12.13~10-11.42, Nb470116では10-11.42 ~10-10.98, Nb25O62 では10-10.98~10-9. 84, Nb53 O132では10-9.84~10-9.40,及びNb2O5では10-9.40 以上である。これらの数字は各ホモロガス相の 結晶を構成する酸素原子の活性度に従属するは ずである。ブロック構造は一般に複雑で,その 中では酸素原子は,MgOやCaOの結晶など におけるようにすべて等価の位置を占めている わけではない。しかし我々は酸素原子に直接配 位するニオブ原子の数を目安に,ブロック構造 を構成する酸素原子を4種類に分類し,各ホモ ロガス相におけるそれぞれの酸素原子の濃度を 算出した。いま仮にこれらを〔1O〕,〔2O〕, 〔3O〕及び〔4O〕とすると,非常に興味深いこ とに,ブロック構造の特色から,すべてのホモ ロガス相においてそれぞれの濃度の間に の関係が成立することがわかった。このことは 一つのホモロガス相例えばNb22O54が酸化,あ るいは還元反応によって他のホモロガス相例え ばNb47O116やNb12O29に変る場合にも上式の 関係が保たれねばならないことを意味する。つ まり酸化や還元は, の濃度関係を保って行われなければならぬはず である。このルールを満足する数種の基本式を 設定し,これに各酸素濃度の算定値と,与えら れた2相の共存する場合の平衡酸素圧を代入し て平衡恒数Kを求めると,その値はNb12O29⇄ Nb22O54, Nb22O54⇄ Nb47O116, Nb47O116⇄ Nb25 O62等についてほぼ等しいものになる。つまり, すべてのホモロガス相間の酸化還元反応を通じ て上記のルールは通用されると見られ,我々の 取扱いの正当性が確かめられたわけである。 2. Nb2O5-x群における欠陥構造 Nb2O5-xの各ホモロガス酸化物がそれぞれ多 少の不定比域を持つことが相平衡実験によって 明らかとなった。またNb12O29, Nb47O116及び Nb53O132は不定比域を持たないが,それらの平 衡組成は理論的な化学量論性から若干ずれてい る。特にNb12O29の場合はその組成のずれが酸 化側にある点が他のすべての酸化物と異なる点 である。このような理論組成からのずれの原因 は1960年代から持続し,最近になって特に活発 な論議を呼んでいる非常に興味のある研究対象 である。平衡組成の理論値からのずれが,結晶 の中の原子の配列の何らかの乱れによるもので あることは明らかである。問題はそれがどんな 乱れなのか,つまりどんな欠陥構造がNb2 O5-xの結晶構造に実在しているのかという点 にある。Nb2O5-xの諸結晶が,その特有のブロ ック構造に由来するワズレー欠陥という面状の 欠陥を持っていることは,1964年にゲートハウ ス及びワズレーがこれらの構造を解析して以来 明らかになっていた。そして,Nb2O5-xの諸酸 化物の不定比性や理論組成からのずれが専らこ のワズレー欠陥によるものと考えられた時期が 続いた。しかし1970年代になって,ワズレー欠 陥だけでは,これら酸化物の平衡組成の理論値 からの大きなずれは説明できないということが 明らかになってきた。このような検討が可能に なったのは,最近電子顕微鏡の解像力が著しく 増大し,少なくともワズレー欠陥のような拡が りを持つ欠陥は,その分布が鏡下で直接観察さ れるようになった結果である。つまり観測され るワズレー欠陥の濃度から算出した組成のずれ は一般に実際のずれよりもはるかに小さいので ある。明らかに,ワズレー欠陥以外に,電子顕 微鏡では観察できない欠陥,恐らく点欠陥が存 在し,実際の組成のずれに主として寄与してい るのはこの点欠陥であろうと推定される。この 点に関する研究は昭和47~48年にわたって本研 究グループの主要研究の一つになった。我々は アリゾナ州立大の飯島博士,カウリー教授等の 協力を得て,先に相平衡研究に用いた諸試料を 電顕下で観察し,Nb12O29試料に特異な黒点の 散在するのを認めた。下記の写真に丸印で囲ん だ黒点がそれである。Nb12O29の平衡組成がわ Nb12O29に見られる点状の欠陥 ずかながら理論値より酸化側にずれていること は前に述べたが,この試料の組成もNbO2.419で 理論値NbO2.417より酸素過剰になっており, しかも電顕下でワズレー欠陥は全く認められな かった。つまり,この試料の組成変化に寄与し ているのはワズレー欠陥でなく,むしろ上述の 黒点状の欠陥ではないだろうかと推定された。 我々はこの黒点の濃度や,特に黒点が試料の薄 い部分で濃度が低く,厚い部分で高いという観 察事実に基づいてこれを点状の欠陥と推定し, 最も可能性の高い欠陥構造として2個のニオブ 原子の変位を伴う酸素過剰型の点欠陥とした。 これが所謂K.I.G.モデルであって,少なくと も点状の欠陥を映像として捕えた世界で最初の 例となった。次にNb22O54やNb25O62など平 衡組成が還元側にずれている試料の平衡欠陥と して別の型の点状欠陥の存在を明らかにした が,その欠陥構造のモデルは同時にアンダーソ ン等の提出したものと大いに異なっていた。先 のNb12O29の場合のK.I.G.モデルが種々の傍 証によって支持を高めているのに対し,後者の 還元型モデルについては,その正当性を検討す るために我々の行った種々の吟味が,おおむね 我々の提案したモデルを自分自身で否定する結 果になった。 以上の諸欠陥はいずれもニオブ原子の位置の 変位を伴う構造を持ち,そのゆえに電顕による 観察が可能な欠陥である。しかしニオブ原子の 位置に変化がなく,単に酸素原子だけが抜出し た型の欠陥,すなわち酸素欠損点は電顕で捕え ることができぬ。この種の欠陥は別の方法,例 えば電気伝導度の測定や,重量変化の測定結果 をクルューゲル流の平衡式を用いて解析せねば ならぬ。この方面の研究においても,よく平衡 状態に達し,かつ組成や構造が十分特性づけら れた試料を我々が持っていたことが大きな利点 となり,過去の同種研究に比し説得力の高い提 案を行うことができた。我々の結果によれば, 還元側に組成のずれるNb22O54, Nb25 O 62ある いはNb28O70 (=H-Nb2O5)は1個の電子をト ラップした酸素空位点を平衡欠陥として含むこ とになる。種々の証拠によりこの結論の確実性 は非常に高い。 以上を総合すると,Nb12O29のように平衡組 成が酸化側にずれるものはK.I.G型の酸素過剰 型点欠陥を主要な平衡欠陥として含み,ワズレ ー型欠陥もまた多少の寄与をなしている。Nb22 O54やNb25 O 62など還元側に不定比域をもつ ものでは,組成のずれに寄与するものとしてア ンダーソン型のニオブ過剰型点欠陥,+1に荷 電した酸素空位点,ワズレー欠陥の三つが考え られる。そのいずれの寄与が主で,いずれの寄 与が従なのかは未だ結論の段階ではない。この 点に関しては我々自体の中ですら満足な一致は 得られていないのである。 3. Nb2O5の多形 Nb2O5は八つの多形を持っている。一化合物 がこれほど多くの多形を持つことは他に例を知 らない。この意味で多形の研究はグループ発足 と同時に多くの研究者の関心と意欲の対象とな った。当時これらの多形については,個々の生 成条件が断片的に記述されているのみで,相互 の安定関係,すなわち相平衡関係の知識は全く 確立されていなかった。八つの多形はドイツ学 派流の命名法によれば,H, B, T, T・T, M, N, P, Rであるが,当時はこのうちH⇄Bの 転移温度が約700℃で,Hが高温相,Bが低温 相であるというぐらいしかわかっていなかっ た。また,TやT・Tのようにまだ結晶構造の 明らかにされていない多形もあった。 我々はまず,化学輸送法により,これらの多 形の生成条件を比較することから研究を進め た。同時に構造や比重などの既存のデータを基 にし,可能性の高いと思われる相図を想定し た。この仮想の相図によれば,H相は1,000℃ 付近の温度において加圧すると,H→T→Bと 転移するはずであった。この推定は高圧力実験 で確められ,この三相に関する相図が確定し た。常圧付近での各相の安定関係は,生成条件 の実験で得られた種々の多形のそれぞれ二つづ つを組合せて一定温度に保持し,そのどちらの 相が存続し,どちらの相が消滅するかという相 平衡実験で確めた。また種々のニオブ酸素ハロ ゲン化合物,例えばNb3O7Clを熱分解すると, その過程でNb2O5のいろいろの多形が現れ, 時間とともにより安定な多形へと転移する現象 を認め,この知見から各多形の相対的安定度を 評価した。現在のところ,八つの多形のうち, P, R, B, H, Tの五つに関してほぼ相図上の 安定域が明らかになっている。また準安定相で あるMやT・Tの本質についても,かなり説得 力のある解釈がなされている。 多くの多形の相図上の位置が明らかになった ため,それらの多形をそれぞれの安定領域に保 持しつつ,結晶成長させることが可能になっ た。こうして今まで結晶育成のできなかったT 型相の純粋な単結晶が高圧下で育成され,その 結晶構造が解析された。T型の結晶は他のニオ ブ酸化物には認められない7個の酸素に配位さ れたニオブ原子を含むこと,及びその化学組成 がNb16.8O42で,0.8個のニオブ原子を真性の 格子間原子として含むなど,結晶化学的に極め て興味ある知見を提供するものである。またT 型多形の構造解析の結果から,これと類似の構 造を持つと推定されるT・T相の構造的,結晶 化学的認識がより確かになった。 4.結晶育成その他の研究 NbO, NbO2及びNb2O5の各多形の単結晶育 成が主として化学輸送法,一部水熱溶液法で行 われた。特にNbOについては単結晶育成の有 効な方法についての報告はほとんどなかったの で,最大径0.5mm程度の育成に成功した我々 の研究は有用なものと思う。Nb2O5の多形の育 成では水熱溶液法によるR型の合成が注目すべ きものであろう。この多形相は1966年にグリュ ーンが別の方法で最初に合成して以来,合成例 の新しい報告がなく,我々も最近まで合成し得 なかったのである。この他にはニオブの有機化 合物,例えば種々のアルコレートの合成と,こ れらを利用したニオブ金属の精製法に関する基 礎的研究や,触媒的応用を期待したNb2O5の表 面吸着や表面電導の研究等が行われた。 おわりに Nb2O5を含むNb2O5-xホモロガス群の結晶 化学,特に各種の欠陥や多形の問題については, これまで明確に解決されていなかった多くの問 題を解決でき,あるいは,新しい知見を得て解 決に貢献した。しかし酸素点欠陥やワズレー型 欠陥,特にワズレー欠陥の相互作用による安定 化の問題,及びこれらと密接に関連する表面化 学的問題は諸般の事情によって研究の進展が遅 れ,研究資料の整理検討になほ若干の日時を要 する。重要で興味ある知見が得られているの で,別に報告の機会を得たいと考えている。 1.6酸化けい素 (昭和46年度~継続) はじめに 酸化けい素(SiO2)は珪砂や水晶などの比較 的純粋な形で天然に広く産出し,古くから人々 に親しまれてきた物質である。 酸化けい素を考察の対象とした研究は広い専 門分野にまたがり,その数も極めて多い。それ らの成果を基礎にして実用上さまざまの応用が 行われ,広範囲の需要を満たすために各種の純 度のシリカ粉末や合成水晶あるいは高純度のシ リカガラスなどが工業的に製造されている。 酸化けい素(以後シリカと呼ぶ)質材料ほど 多様な形態をとり得るものは少なく,現在のと ころ確認された相の数は20余あるといわれ,し かも地球上に無尽蔵にあることから,その活用 は極めて重要な課題である。 歴史的に振り返って見ると,近年に至るま で,シリカの結晶相としては石英が最も代表的 なものであり,他の同質多像相であるクリスト バライト,トリジマイトはめ極て珍しい博物館 的鉱物として知られていたにすぎなかった。そ の後,これらの相が珪石煉瓦中に極めて普通に 存在するものであることが発見され,それらの 存在はそれ以来普遍的なものとなった。 シリカの同質多像の平衡関係の研究は,はじ めフェンナーにより注意深く行われ,その結果 は今日なお,大概の窯業,鉱物及び物理,化学 などの教科書で標準的な知識と見なされてい る。しかしながら彼の得た平衡関係は転移の際 の容積変化や転移熱などを考慮してギブスの相 律に基づいて作成された仮想的なものである。 最近十数年間における研究技術の長足な進歩が このような古典的常識に大巾な改革を加えよう としている現況である。 このように,これまでのシリカ相の研究は新 しい相の発見とその相平衡関係及び結晶構造の 決定に向けられてきた。しかしながら本質的に 構造が複雑であることが原因で,今もって確定 的な結論が得られていない点が多い。 たん白石やめのうもシリカ相の変種といえ る。前者は非晶質の加水珪酸(SiO2・H2O)で あり,後者は微細な石英粒子が集合してできた 繊維組織状集合体である。 特にめのうは硬度が高いので,乳鉢や軸受な どに使われているが,その工業的利用に役立つ ような基礎的研究はあまりない。宝石として珍 重されるたん白石は最近その微細構造が解明さ れ,成因の推定に基づいた合成研究も開始され ようとしている。 研究対象物質としてシリカを選んだとき,上 述のような各項目をすべて網羅することは不可 能なことはいうまでもない。そこで現在学問的 に最も注目を集めているところや基礎科学的解 明が社会的に要請されている個所などに重点を 置いて研究することにした。勿論,各課題の選 定はグループを構成する各研究員の専門によっ てある程度制約を受けざるを得ないことはいう までもない。 1.シリカの合成 グループ発足以来,合成部門の主要な努力は まず高純度シリカガラスを製造し,これが高純 度であることを分析により証明し,これを出発 原料としてシリカのトリジマイト相を純粋な結 晶として得ることに向けられた。 結晶を得る手段として高温水熱合成法を採用 し,それに使用する内熱式圧力容器の試作と改 良に鋭意努力した。 その結果,装置は所期の性能を達成し,順調 に稼動し,これによって精密なX線構造解析に 用い得るトリジマイト単結晶の合成に成功し た。そしてこれらの結晶に含まれるナトリウム 及び水酸基はおのおの5ppm以下であることが 判明した。 これらの一連の合成研究から得られた新しい 知見を列挙すると次のようである。 (1)高純度の合成石英ガラスと純水のみから なる系ではクリストバライトのみが生成し,ケ ネディー等のシリカ―水系の相図におけるトリ ジマイト安定領域に長時間保持してもトリジマ イトは生成しない。 (2) NaClやNa2CO3などの添加により合成 石英ガラスから直接トリジマイトが生成する。 このトリジマイト生成に要するナトリウム濃度 は水溶液中Na2Oとして50ppm以下で十分であ る。したがって上述のケネディーの結果は不純 物の介入によるものと推定した。 (3) 高純度合成石英ガラスと純水からなる系 に水素ガスを共存させると,トリジマイトが生 成することを発見した。更に,このようにして 得られたトリジマイトを低水素分圧下に数時間 置くとクリストバライトに転移する事実を認め た。 (4) Na2CO3の添加により合成石英ガラスか ら得たトリジマイトは,更に長時間そのままの 条件 (1,100℃, 500kg/cm2)で保持すると, ほぼ全量が石英に転移することを見出した。 したがって,フェンナーの相図は勿論ケネデ ィー等の相図も再検討を要するものと結論され た。 (5)高純度のシリカ―水系にナトリウムを添 加してトリジマイトや石英を得る場合,ナトリ ウムはこれらのシリカ相には事実上固溶しない ことが判明した。(≾5ppm) また水酸基もトリジマイト相には全く存在し ないことが明らかとなり,フレルケやホルムキ スト等の推論及び実験結果の解釈とは明確に異 なる。 (6)シリカ―水系に微量のアルミナを炭酸ナ トリウムとともに共存させた場合,Al/Na=1/1 の割合でシリカ相に固溶し,その結果トリジマ イト相は安定化されて石英に転化しなくなる。 このとき安定化に要するアルミニウムの濃度は 100ppm程度であると推定された。 (7)アルミニウムを固溶したトリジマイトを NaHCO3水溶液とともに,1,100℃, 500kg/cm2 の条件で保持すると,一部分が石英に転化す る。この結果は,固溶したアルミニウムイオン がシリカ系外に溶出する可能性を示唆してい る。 2.トリジマイトの構造 トリジマイトの同質多形な関係や,トリジマ イトの各相自身の基本構造について明確に記載 されたものは現在のところ見あたらない。トリ ジマイトがシリカ相の一つとして,はたして純 粋な相であるか否かの問題はさておき,実際の ところ,その高温型に対してギブスがP63/mm cという空間群を与えている。またドラッセ, ホフマン等により,低温相や,低温―高温相間 に存在すると思われる各相について空間群を決 めているが,これらはポリタイプや双晶の問題 をかかえたままで研究しており,しかも220℃ の相のみに一応原子位置を与えているにすぎな い。 前述の合成研究で得られたトリジマイト単結 晶から双晶のない良質のものを選出し,主とし てプリセッション,ワイゼンベルグ写真装置, 並びに四軸型自動回折装置などを用いてその構 造を明らかにしてきた。 最初に,トリジマイト構造を考える上での一 つの見方である 多形とい う 概念から種々 の型の 結晶を分類し,4種類の多型を見出し,その内 の一つは低温型における最も基本的な型の多形 であり,精密構造解析に有効に利用できると思 われた。また別の種類の多形の中に,c軸方向 に6倍,a軸方向に3倍の長周期をもつ構造の ものを確認した。 更に不純物イオンがトリジマイトの構造変化 にどのような影響を及ぼすか検討するために, 試料を加熱しながら電圧を加える装置を試作 し,これを偏光顕微鏡に取付けて50kV/cmの 電界中で400℃まで加熱し,トリジマイトの転 移を肉眼観察した。これらの結果を基にしてト リジマイトの相転移を高温X線法で研究する。 3.変位型相転移 固体には温度を変えるだけで結晶構造が変化 するものが,しばしばみられる。これらの中で 原子のわずかな変位によって構造が変る変位型 相転移を起す物質が数多くある。これらは実用 上非常に有用なものが多い。典型的な物質に強 誘電体であるチタン酸バリウム(BaTiO3),圧 電体である水晶(SiO2)等がある。BaTiO3の 構造であるペロブスカイト型構造をもつ物質に は相転移を起すものが多く,強誘電性がこの相 転移と密接に関係していることはよく知られて いる。これらの性質を理解するためにいくつか の相転移の理論が考えられてきた。本研究では 新たな理論を提唱し,それによって従来の理論 では説明できないいくつかの現象の説明を試み た。 変位型相転移は通常高温相で結晶の対称性が 高く,低温相ではわずかな変位によって対称性 が低下する。この対称性を下げる変位は,オー ダー パラメータ ーと 呼ばれている。 水晶の場合 を例にとり結晶構造の投影図で説明しよう。紙 水晶のα-β転移の際の変位 面に垂直な方向がc軸(6回回転軸)で,βが 高温相,α1,α2が低温相の原子の位置を表す。 この場合βからα1あるいはα2 方向への変位が オーダーパラメーターである。温度を上げてい くとα1あるいはα2位置にあった原子は,次第 にβ位置に近付き573℃以上ではβ位置にくる。 これが石英のα-βの転移である。 この相転移に伴って他の種々の物理量が相転 移温度近くで特異な振舞いをすることが知られ ている。相転移点近くの特異な現象は,通常結 晶のエネルギーがオーダーパラメ ーターの6次 関数であるとして,その係数の温度変化を適当 に仮定することにより説明されるが,この理論 で説明できない現象も多い。その理由は実際の 原子が図に示した位置に静止しているのではな く,そのまわりに振動しているためである。こ の振動は,オーダーパラメ ーターのゆらぎと呼 ばれている。このゆらぎの効果を考えることに より従来の理論で説明できない次の現象を説明 することができる。すなわち高温相の相転移温 度近くでの弾性率の減少,高温相での比熱の増 大である。チタン酸バリウムでは以上の他高温 相の相転移点の誘電率ピークの圧力依存性,オ ーダーパラメ ーターの4次の係数の温度依存性 が説明できる。そのほかに従来の理論ではオー ダーパラメ ーターの6次関数を考えて説明する 低温相での種々の物理量の振舞いが,4次関数 で説明できることがわかった。 このように,オーダーパラメ ーターのゆらぎ が変位型相転移では大きな役割を演ずる。変位 型の相転移は理論的にも実験的にもかなりよく わかってきたが,液体から固体への相転移等ま だよくわからない相転移に対する示唆が,変位 型相転移の研究から得られることが期待され る。相転移の理論は,統計物理学に残された大 きな問題の一つである。 この理論の発展によって将来広範囲の未解決 の問題が解明されることを期待したい。 4.石英の欠陥構造 石英相への燐の固溶についての報告は見られ ないが,天然の珪石にはしばしば数10ppm程度 含有されていることが知られている。水熱条件 下で燐が石英相に固溶する条件を検討し,得ら れた燐を含む単結晶についての点欠陥構造を解 明することにした。 まず金管に精製四塩化けい素を加水分解して 得られた二酸化けい素粉末と所定濃度の燐酸水 素ナトリウム溶液を溶封し,800℃,1,500気圧 の水熱条件で石英微結晶を得た。 化学分析により結晶中の燐濃度を求め,それ がある組成比の燐酸水素ナトリウム溶液のとこ ろで最大値を示すことが判明した。更にこれら の結果をもとに,弱酸性溶液を用いて通常の水 熱育成で使用される二重カプセルを備えた金管 に原料,種結晶,溶液を溶封し,高温型石英安 定領域及び低温型石英安定領域において石英単 結晶の育成を行った。そしてこのような弱酸性 溶液でも十分に早い成長速度で良質な単結晶を 得ることができた。 燐を含む点欠陥の構造については,光吸収, 常磁性共鳴吸収,誘電損失などの測定により検 討がなされようとしている。 5.無定形シリカの構造 玉髄系鉱物のうちまずたん白石について,電 子顕微鏡とX線で構造を調べた結果,非晶質シ リカ球(直径約0.3ミクロン程度)の最密充塡 構造であり,光彩はそれらの規則的配列による 白色光のブラッグ反射に起因することが明らか となった。また予備実験で0.2ないし0.3ミクロ ン程度の直径のシリカ球は珪酸エステルの加水 分解によって容易に得られ,しかも均一な大き さのものになることが判明した。粒径及び粒径 分布に及ぼす加水分解の条件を明らかにし,得 られたシリカ球の高温変化について検討した。 おわりに 限られた期限で研究する対象物質としては, シリカはあまりにも困難な問題が多すぎ,5年 間でどの程度の研究成果が挙げられるか危ぐの 念を禁じ得ない。過去50年以上も研究され,そ の間研究技術は長足の進歩を遂げたのに未解明 の部分が多いのには何に由来するのであろう か。天然に普遍的に存在する以上,我々の最も よい教師は自然かも知れない。未解決のまま取 残されてきた諸問題を解明するには,最新の実 験技術の駆使と従来の説にとらわれない独自の 発想を原点とした進展が必要であろう。ともあ れ我々は石英,トリジマイト及びクリストバラ イト間の相平衡関係をより明確なものとし,ト リジマイト及びクリストバライトの基本構造の 確定に意欲を燃やしている。 1.7酸化マグネシウム (昭和47年度~継続) はじめに MgOは高融点耐熱材料及び電子工業材料と して広く利用されており,資源的にも豊富で, その利用度はますます拡大されようとしてい る。 MgOの研究内容は三つに大別できる。第一 に焼結,クリープ,固体間反応などの固相反応 の動力学的性質を,関与する固体の自己拡散係 数の測定値に立脚して検討していこうとするも のである。第二の動向は,上記材料として実用 に供する場合に必然的に要求される高密度もし くは透明焼結体を,加圧焼結の方法及び加圧焼 結の方法によらず達成せんとするもので,後者 の場合はMgO粉体をフッ素もしくは有機化合 物によって処理し,真空焼結することによって ほぼ初期の目的を達成している。一方,固体特 に多結晶体の反応性や物性に関して,構造敏感 な特性を示すことは良く知られているが,その 成因について系統的な研究がない。構造敏感な 特性の原因は極めて微量の不純物の介在の結果 としてみることができるが,固体における広義 の非平衡状態の存在に関係している場合が多 い。MgO及びMgを含む化合物の非平衡状態 の特徴づけ及び物性との相関性について検討し た結果,その成果は将来に期待をもたれる現状 にある。 1.焼結,クリープと拡散 (1)粒境界拡散 酸素の自己拡散係数はO18を含む酸素と金属 酸化物中の酸素との交換反応法によった。粒子 径の異なる多結晶MgOの見掛けの酸素の拡散 係数は,拡散速度式に現れる固体半径aに粒子 半径を与えた場合には,使用した粒子の大きさ に依存して変化するが,固体半径aにグレーン の半径を与えた場合には,使用した粒子の大き さによらず一定の拡散係数を与える。この事実 から多結晶MgO中での酸素の粒境界拡散は体 積拡散に比較して十分早いことが結論された。 一方多結晶MgOにCa2+, Fe3+, Si4+など の不純物を微量添加した場合には,固体半径a に粒子半径を与えた場合に粒子半径の増大に伴 って見掛けの拡散係数は増大し,またaにグレ ーン半径を与えた場合には粒子粒径(グレーン が集合した粒子の半径)の増大に伴って見掛け の拡散係数は減少する。この事実から,これら 不純物添加MgO多結晶体においては,粒境界 拡散は体積拡散よりやや大きい程度であること が結論された。この事実は体積拡散係数の増大 によるものか,粒境界に折出した第二成分の介 在の結果によるものかについては目下検討中で ある。 (2) 酸素の自己拡散に及ぼす不純物添加効果 MgOの自己拡散は知られている限り,実用 温度範囲において不純物制御領域に属してい る。したがって純粋のMgOの拡散特性を完全 に理解するためには,各種不純物の添加効果を 理解する必要がある。勿論この場合,このよう な不純物添加の役割はそれ自身研究テーマにな り得る。実際にMgOに限らず金属酸化物の酸 素の自己拡散に及ぼす不純物添加効果について ほとんど研究成果が見当らない。 (a) Li+添加の効果 多結晶MgOにLi+を添加した場合は,純 粋のMgOの場合と同じようにaにグレーン半 径を与えた場合に使用した粒子径によらず一定 の拡散係数を与え,粒境界拡散は十分早い。 Li+の添加量とともに体積拡散係数の大きさは 増大し,その活性化エネルギーは減少する。こ の結果からMgOの位置を置換したLi+はフェ ルウェイー流の原子価制御によって酸素空孔の 増加の原因となる。またLi+添加量の増大に伴 う拡散の活性化エネルギーの減少する事実は, 頻度因子とエネルギー因子との補償効果の結果 とみることができる。 (b) Fe+++添加効果 0. 3%Fe3+添加試料,1.0%Fe3+添加試料を, 1,350℃で,1日十分焼結して得,拡散実験に は所定のメッシ粒子(48~60,60~80,80~115, 115~200各メッシ及び0. 5~1.0,1.O~2. 0cm 径)に粉砕したものを用いた。Fe3+添加試料で はa=粒子半径として計算した場合の見掛けの 拡散係数は粒子径が増大するにつれて増大する ことが知られる。次にこの試料についてaの値 としてグレーン半径を与えた場合は,粒子半径 の増大とともに見掛けの拡散係数は減少する。 この結果からa=粒子半径を与えた場合の直線 関係〔log D~log (粒子径)〕を(粒子半径) =(グレーン半径)のところまで補外すること により,各温度でのその試料に対する体積拡散 係数を計算することが可能である。その結果, 体積拡散係数はFe3+の添加量とともに増大 し,同時に活性化エネルギーも増大する。この 事実はMgOにFeが2価もしくは3価として 固溶したとしても従来のフェルウェイ流の原子 価制御機構を考える限り説明できない。一般に ペロブスカイト化合物などにおいて陽イオン空 孔の導入によって格子の化学結合性が変化して 酸素が解離しやすくなる事実が知られている。 この事実に基づいて考えた場合,MgOにFe3+ を添加した場合も,(mg2+Fe3+□) Oが生成し, この欠陥体は純粋のMgOに比較して酸素を解 離しやすくなり,その結果大きい拡散係数もし くは高い活性化エネルギーを示すものと推定さ れた。このような固体中の点欠陥もしくは不純 物介在による格子力学的性質,化学結合性の変 化については,目下メスバアウアースペクトル における化学シフトや無反跳分率などのパラメ ーターを通して検討中である。 このような新しい事実が,従来報告されたク リープや焼結のデータとどのように関係づけら れるかについて検討してみることは興味があ る。Fe添加効果のデータが十分焼結された試 料についての結果であることにかんがみ,MgO の定常クリープに及ぼす添加の効果と対比する ことは妥当である。テンパー等はFe添加量 0.05~5. 3%,応力 26~270kg/cm2,温度1,250 ~1,450℃,酸素分圧1~10-9気圧の範囲で MgOの定常クリープを詳細に検討し,この分 野での仕事として代表的なものになっている。 定常クリープ速度Σ=J0aNにおけるストレス べきNは≈1.0で,この実験範囲では粘性クリ ープとみなし得る。2.65%Fe添加の場合,ク リープ速度の酸素分圧依存性において,Po2≤ 10-2atmではクリープ速度はPo2に対して敏 感に変化するが(∝Po21/6), Po2≥10-2atmでは クリープ速度はPo2に対して比較的鈍感にな る。Fe添加量が少なくなればこの鈍感な範囲 は消滅し,Fe添加量が2.65%以上になると鈍 感な範囲は更に低酸素分圧側にまで延長され る。0.53%Fe添加試料のクリープの活性化エ ネルギーはPo2に関係なく115~135 kcal/ mole, 2.65, 5. 3%Fe添加試料ではPo2の高 いところで73~86kcal/mole, Po2の低いとこ ろで96~121kcal/moleである。いづれの添加 濃度でもクリープ速度はPo2の減少とともに減 少する領域があり,Po2が減少すればFe3+濃 度が減少し,したがって陽イオン空孔が減少す ると考え,拡散クリープはMgイオンの拡散律 速として進行すると仮定できるとしている。こ の仮定に基づき,ナボロヘリング式からMgの 体積拡散係数を算出している。このデータと前 記Fe添加MgOの酸素の自己拡散特性との 類似性から,クリープの体積拡散が,考えられ ているようなMgの拡散律速として進行するの ではなく,酸素の拡散律速として進行する可能 性がある。Mgの自己拡散の活性化エネルギー が,テンパーのクリープ実験の活性化エネルギ ーとかなり異なっていることも上記可能性を支 持している。一方Po2分圧に鈍感な低い,活性 化エネルギーの領域は,酸素の粒界拡散が律速 であると推定したテンパー等の考え方は前記酸 素の自己拡散データと矛盾していない。すなわ ちFe添加量の増大とともに,Po2に鈍感なク リープ速度領域は低Po2側に広がるが,これ はFe添加量の増大とともに粒界拡散が律速に なるとした私共のデータと一致している。また 高いPo2領域でのクリープ速度がグレーンの大 きさが大きいほど減少するとしたテンパー等の 結果は,グレーンの大きさが大きいほど一定の 添加量でも粒界に濃縮するFeの量が増大し, したがって粒界拡散が遅くなることと良い対応 を示している。 (3)焼結過程での酸素拡散 一般に金属酸化物の拡散は,良く焼結された 多結晶もしくは単結晶について実測されるのが 通例で,これらのデータによって固相反応の動 力学的性質を検討できるかどうかはいささか疑 問がある。 私共は低温焼結で得られたMgO多結晶の拡 散特性が,上記良く焼結された多結晶体の特性 とどのように異なるかを検討した。その結果多 結晶体の単結晶グレーンに対する酸素の自己拡 散係数は,不純物領域においては,良く焼結さ れた試料に比較して低温焼結試料はかなり小さ な値を示すことが明らかになった。この場合低 温焼結体では,約100kcal/moleの高い活性化 エネルギーを与える高温領域が存在し,この領 域と不純物制御領域の境界温度は,この試料の 焼結温度とほぼ一致する事実を確認した。また 低温焼結試料の高温領域の最高の拡散係数は, 良く焼結した試料の拡散係数を決して超えるこ とのない事実が認められた。以上の一連の結果 から,低温焼結試料での小さい拡散係数を与え る低温領域は,MgO格子への不純物の溶解が 不十分であること,高い活性化エネルギーを与 える高温領域では拡散焼結過程で当該不純物の 溶解,それに伴う酸素空孔の発生が同時に起る ことが推定された。酸素欠陥の生成に有効な不 純物はフェルウェイ流の考え方に従えば,一価 陽イオンであってよいが,(2)で概説したよう にFeイオンであっても良く,このことについ ての最終的結論は更に実験を重ねる必要があ る。いづれにしても,焼結途上での酸素の自己 拡散係数は完全に焼結された試料のそれに比較 して小さく,焼結の顕著に起る温度範囲での拡 散の活性化エネルギーは最高約100 kcal/mole に及び,これは焼結,クリープなどから間接的 に求まる活性化エネルギーとほぼ同じ結果を与 える。 2.高密度及び透明焼結体の合成 焼結機構の研究と併行して,ち密焼結体を合 成する仕事は,その実用性のゆえに常に大きな テーマと考えられてきた。現在では各種金属酸 化物(BeO, Al2O3, MgO, PLZT)のち密な 透明焼結体が主としてホットプレスの方法によ り作られているが,私共は高温,高真空下の焼 結によって透明焼結体が得られるようになって きている。 (1)F-添加法による透明焼結体の合成 適当にMgO粉末の粒径を制御した試料に F-かCl-をMgF2もしくはMgCl2の形で添 加した試料を高真空下で焼結すると十分高密度 の焼結体が得られる。4.0%MgF2と4.0%Mg Cl2を同時に添加した場合良好な結果が得られ, この場合に得られる試料はほぼ透明とみてよ い。1.0mole%MgF2添加試料の加熱時での MgF2の含量変化を追跡した結果から,MgF2 含量が急激に減少する温度は焼結の顕著に起る 温度と良い対応を示す。この事実からFの系外 の離脱に伴う焼結性の増大,すなわち活性化焼 結が,その機構と考えるのが妥当であろう。 (2) 有機溶媒処理法によるち密焼結体の合成 MgO粉末を芳香族炭化水素及び脂肪族炭化 水素によって処理したのち焼結させると極めて 高密度の焼結体が得られる。有機溶媒の中で誘 電率の高いものや官能基を有するものは焼結の 促進効果は比較的小さい。アルコール及び飽和 脂肪系炭化水素について炭素数nと焼結体の蒿 密度とはある関係があり,n>4ではnの増加 とともに蒿密度は減少するが,n≦0ではnの 増加とともに蒿密度は増加する。真空加熱中,圧 粉体に遊離の炭素が形成されるが,いずれの試 料でもnが多くなると遊離炭素が増大し,MgO の焼結性を抑制する傾向がある。現在まで,有 機溶媒の効果の原因が明確にはわかっていない が,MgO表面に存在する活性な炭素が表面の 固体酸素と反応して一酸化炭素もしくは炭素ガ スを発生することは間違いないようで,この結 果,粒表面に非平衡的に発生する酸素空孔が焼 透光性マグネシヤ焼結体 結促進に重要な役割を示すものと考えている。 3.非平衡構造 一般に固体のべルクの組成がきまり,かつ粒 界に濃縮した不純物の配置がきまれば,固相反 応特性や材料の性質が一義的にきまるかという と,そう簡単にはいかない。可能な限り同じ条 件で焼結体を作っても,かなり異なった特性を 示すことはセラミックの分野に携っている研究 者のひとしく遭遇することである。製造履歴に 敏感な性質の成因は,不純物効果をも含めて非 平衡構造の存在に由来する場合が多い。 MgO-V2O5系の反応はいろいろな非平衡状 態を経て最終的にMgV2O4を生成する。低温 で短時間反応させた試料と,高温で長時間反応 させた試料のX線回折実験結果から,低温焼成 試料には格子の乱れが顕著に認められ,更に {222}からの回折強度の計算値からのずれと, {111}回折プロファイルが非対称になることが 観察されることから,格子の乱れが特にボディ ダイヤゴナルに集中していることが予想され た。更に格子定数の測定結果では,平衡に達し た試料が非平衡状態の試料に比較して大きく, 平衡に近づくに従って格子定数が増大する事実 が認められた。このことは非平衡体が非平衡型 ショットキー欠陥Mg1-xV2-yO4-zをもつもの として説明された。 このような非平衡欠陥をもつ複化合物は,多 くのペロブスカイト化合物にも認められ,非平 衡欠陥の分布の不均一性や非平衡欠陥量と物理 的,化学的性質との相関についてはっきりした データが得られている。このことにかんがみ Mgを含むスピネルの非平衡状態と磁気的性質 の相関性について検討中である。 おわりに 現在までの研究過程においての問題点を羅列 しておくこととする。 (1)MgOに不純物を添加した場合,単純な 原子価制御機構が作用し得るか否かは,固体物 理,固体化学の分野で大きな問題で,現在,例 えば母体陽イオンが高い原子価をもった陽イオ ンによって置換された場合,ひとまず陽イオン 空孔の導入によって電気的中性条件が満足され ると考えている。したがってこのような不純物 添加効果は,このような欠陥構造の格子力学 的,化学結合性の変化に帰結できるかもしれな い。 (2)複酸化物では各原子比を一定に保たれて いるが,その真比重が異常に小さな非平衡体が 得られているが,MgOの 製造履歴に敏感な特 性もこのような型の非平衡構造に由来している かどうかが問題点として示される。 (3)透明もしくは高密度MgO焼結体の生成 過程は,有機溶媒もしくはFの離脱過程での活 性化によるものか,これらの離脱による非平衡 酸素空孔の発生に伴う物質移動のしやすさによ るものかが問題である。 (4)低温焼成MgO多結晶体の酸素拡散特性 が高温焼成体のそれと異なる原因が,含まれる 不純物の挙動に帰せられたが,その不純物の種 類を確認することが必要である。このために, “純粋”のMgOに含まれる不純物を定量し,各 不純物の組成比を変えないでその量を増加させ た試料を作り,その酸素拡散特性を検討する。 (5) 各種不純物及びその結果導入される点欠 陥の存在時でのMgO多体としての化学結合性 を検討するために,メスバアワースペクトルの 化学シフトや無反跳分率を測定する。 1.8酸化アルミニウム (昭和48年度~継続) はじめに アルミナ,マグネシア及びシリカは窯業にお ける三本柱である。したがって,アルミナとそ の周辺は無機材質研究所において常に新しく取 上げられねばならない物質である。 アルミナは多様な応用面をもつ。特に,負の 絶対温度を具体化するルビー結晶がレーザー発 光体となった現象は,近代物性論の最大の成果 の一つである。また,粉体アルミナは触媒ある いは助触媒として応用化学において不可欠の無 機材料である。その他に,研摩材としてのコラン ダム,表面酸化されたアルミニウムにおけるア ルミマイト等は広い応用面を見出しつつある。 無機材質研究所の酸化アルミニウム研究グル ープは,新しい酸化アルミニウム,例えば亜酸 化物の合成,その構造,物性等を,またルビー の誘電特性,研摩材としてのアルミナ一般をテ ーマとして昭和48年度以降研究を続けている。 1.亜酸化アルミニウム 不完全に酸化したアルミニウムを電子線回折 法によって観察すると,金属アルミニウムと酸 化アルミニウムとの混在が同定される。しか し,試片の状況に対して適当にコントロールさ れた加速電圧でもっての電子回折を応用すれ ば,AlにもAl2O3にも属さない反射を観測す ることができる。これらの反射は,完全に酸化 された試片の場合には消失する314)。したがっ て,この反射に対応する物質は,AlがAl2O3 にまで酸化される際の中間段階に相当すること が推論される。問題の反射は,Alからの回折 班点のサテライトとして現れ,それに相当する 面間隔は4. 06~4. 30Åの間でばらついている。 すなわち,Alの結晶格子が膨張した状態とし て,問題の中間段階は実在している。Alは価 電子を3個もっているから,Al2O3の他にAl2O 及びAlOの生成の可能性がある。これらの亜 酸化物が,金属アルミニウムとその表面に生成 した安定なAl2O3との間の境界に生成している ものと実験結果は解釈された。 AlO-Al2O3系は,この場合AlともAl2O3と も部分的に固溶していることが,電子線回折模 様から推定された。このように,亜酸化アルミ ニウムはAlと安定なAl2O3との間の接着剤 の役を果している285)。一般に知られているよ うに,アルミニウム表面に生成した安定酸化膜 不完全に酸化されたアルミニウムからの電 子回折模様 Al単結晶からの斑点及びAl2O3からの環の 他に多数のサテライト斑点が現れている。 これらのサテライトが亜酸化アルミニウム Al2O3-AlOに相当する。電子線の波長: 0. 0434 A。カメラ長:50cm。陽画2. 3倍拡大。 が良好な地金への固着性を示す現象は,この亜 酸化物の存在によって説明される。 2.太陽光吸収板としてのアルマイト シリコンを数パーセント含むアルミニウム板 を一定の条件下で電解酸化した表面を水熱処理 して得られるアルマイトは,無光沢な黒色をて いする。この表面層は,アルミニウムの亜酸化 物,酸化物及び水酸化物からなっている。これ らの物質の粒子は,いずれも約100Åであって, これらの粒子によってスポンジ状態が形成され ている。 太陽光吸収板として実用化されている銅の無 光沢黒色表面及び黒色白金海綿を電子回折法に よって観察すると,いずれも約100Åサイズの 粒子の分散状態が結論され,黒色アルマイトと 相似である。この粒子のサイズは,太陽光線の 波長よりも小さいので,入射光はアルマイトの 表面で反射されないで,回折を起して内部へ回 り込む。 この現象をプランクの黒体輻射のモデル実験 を用いることによってシミュレートすることが できた。その先端のデイメンションが太陽光の 波長と比肩的な市販の縫針を多数集積すること によって得られる針束の表面は,太陽光の下で 真黒く見える。入射光は針束の表面で全く反射 されないで,針の先端で回折現象を起して針束 の内部へ進行する。内部に進んだ光線は針の側 面で反射を繰返えすときに針に完全に吸収され てしまう。すなわち,針束の内部には光線に対 して迷路が存在する。この迷路が黒色アルマイ トのスポンジ層に対応する。 黒色銅板の下部に置かれた液体は,直射日光 の下で約130℃まで加熱される。黒色アルマイ トはそれには及ばないが,100℃近くまで加熱 し得る熱効率をもっている。特に強調されるこ とは,アルミニウム材料が銅及び白金材料に比 べて低廉かつ軽量であることである。 3.ルビーの誘電体構造 ルビー結晶の空間群はC3-mであるから,対 称の中心をもち,したがってピロ,ピエゾ電気 を示さない。しかしながら,ルビー結晶体が極 端に強い電場(1O4kV/cm)中に浸漬されたと きには,対称の中心が消失してピロ電気を示す ようになった。この場合の印加静電場は,結晶 体に電子を荷電することによって実現された。 試片はこのとき強い静電ひずみをうけて絶縁破 壊を示すことがあった。このようにひずんだ状 態からの電子回折模様は,擬等軸型としてのル ビーの〔110〕軸に沿って長周期(約80Å)が出 現することを証明した。 ルビーは擬NaCl型結晶と見放すことができ る。この結晶構造では,Al2O3分子がNa及び Clのかわりに,対称体をなして配置している。 その結果,Al2O3分子の双極子は互いに相殺し 合い,結晶内で「内部消却」が行われている。 したがって,ルビー結晶は極性を示さず,ピロ 電気体ではない。しかし,外部から強い電場が 印加されると,〔110〕方向でAl2O3分子の双極 子能率はアンバランスとなり,外部に向って極 性を示すようになる327)。 このようにして,ルビー結晶に誘電ひずみを 起させることによってそれをピロ,ピエゾ電気 性にすることができ,また結晶内の双極子分子 の配向を探索することができた。この方法はル ビーと同一空間群に属する方解石にも応用され た。 強く静電ひずみをうけているルビー結晶に対 して電子線を照射すると,そのところからレー ザー光に似た約7, 000Å波長の赤色光が輻射さ れた。この波長は入射電子線のエネルギーに, 50~200kVの間では,無関係であった。この 赤色光が単なる螢光かレーザー光かの決定はま だ行われていない。 4. 研摩材としてのルビー 合成されたルビー粉体の水懸濁液による18-8 オーステナイト不銹鋼のコロイド化学的研摩が 有効であった。Cr-Ni鋼(Cn :18, Ni : 8)の 表面を,乾燥状態で機械的に研摩すると,表面 は地の組織オーステナイトとは異なったマルテ ンサイト変態組織となる。この変態はV2A鋼 の最大の欠点の一つである。この欠点をおさえ るために,ルビーによるコロイド化学研摩が行 われた。 ルビー懸濁液による研摩法で仕上げられた鋼 試片の鏡面は電子回折反射法によって精査され た。撮影された回折模様の解析結果によれば, ルビー粉体が鏡面中で一様に分散され埋め込ま れていた。コランダム型ルビーの他に尖晶石型 を示す(Fe, Ni)O, (Al,Fe, Cr)2O3 に相当 する酸化物が認められた。このことは,研摩を 行っている間に地金と研摩剤との間で化学反応 Fe+Al2O3+H2O→F eOAl2O3+H2 が起ることを意味した。事実,研摩液は研摩操 作の後にアルカリ性となった。すなわち,水素 ガスが放出されて研摩液のpHが高くなった。こ のように,このところでは摩砕(Tribo)反応 が起っている。 Cr-Niオーステナイト鋼の表面を研摩すると きには,表面層は非磁性状態から強磁性マルテ ンサイトへと構造及び磁気変態を起す。このよ うな磁気変態が起る条件下で固体反応が触媒作 用的に促進される現象は「ヘドヴァル効果」と して知られている。本研究でマルテンサイト変 態を応用することによって行われた摩砕反応は 典型的なヘドヴァル効果の証明である。 ルビー懸濁液で研摩された不銹鋼の鏡面は, 機械的な乾燥研摩によって得られるそれに比較 して良好な耐食性を示した。例えば,含臭素ア ルコールに対んる耐食テストにおいてこのこと が証明された。コロイド化学的摩砕反応を経た ビールビー層が耐食性のスピネル型酸化物から なっていることが,18-8不銹鋼の劣化を防いで いる。 含クロム不銹鋼は大気中で研摩される際,そ の表面に含クロム酸化物が生成する。この場合 に,クロムを含むコランダムすなわちルビーを 研摩材として用いると,クロムの酸化物間の親 和性によって安定な酸化ビールビー層の形成が 考慮されている。 5.アルミナ研摩による誘電磁性鏡面の作製 ガンマ型アルミナの懸濁液を研摩剤として非 磁性オーステナイト鋼の表面を鏡面に仕上げ た。この鏡面を電子回折反射によって精査し た。その結果によれば,鏡面にはスピネル型酸 化物(粒子の大きさ約50Å)が均一に分散し, 同時に地金に埋め込まれていた。 当該鏡面の磁気及び誘電解析が電子線反射法 によって行われた228)。乾燥状態で機械的に研 摩されたマルテンサイト強磁性層の磁束密度 が,まず測定され,それを規準として問題の鏡 面のそれが比較された。両者の磁束密度の大き さは比肩的であった。すなわち,鏡面における 残留磁気として130ガウス測定された。 試片鏡面を電子回折反射法によって観察する 際には,鏡面における電子の荷電が起り,その ために回折模様は鏡面における静電場の影響を うけた。この効果の解析から,鏡面の誘電率約 3 CGSが計算された。 以上のように,オーステナイト不銹鋼の表面 を磁性と誘電性を同時にもつ鏡面を作製するこ とができた。この鏡面は光線を強く反射するこ とができるから,ファラデー及びカー効果を示 すことが予想される。 6.歯科用陶材としてのアルミノ珪酸塩 アルミノ珪酸塩K2O・Al2O3・nSiO2 (リユー サイト)は歯科用陶材として,貴金属材料と歯 との間の接着その他の目的のために用いられ る。本研究ではこの種の陶材の歯科医学におけ る役割を解明することが目的であった。 アルミノ珪酸塩が,少量のシリコン(0.4パ ーセント)を含むAu-Pt基合金と接着するこ とが歯科では要請される。この合金を使用する 場合には,つねに空気中1,000℃で加熱脱気さ れねばならない。このように加熱処理された合 金表面を電子回折反射法によって観測すると二 酸化けい素(アルファ型クリストバライトSi2O) が合金表面を一様に被覆していることが結論さ れた。多成分合金(An, Pt, Si以外の成分: Pd, Ag, Ph, Ir)の表面酸化物としてSiO2の みが生成する現象は,「選択酸化」の典型的な 実例であった。 このようにシリカで被覆された合金は,SiO2 を拡散物質としてアルミノ珪酸塩リューサイト と良好に接着することができる。また,合金表 面に生成したシリカは口腔内で唾液に触れて水 を吸収してコロイド状となって生体と順応す る。 7. 触媒体としてのアルミナ 触媒及び助触媒として応用されるアルミナは 常に欠陥スピネル型すなわちガンマ型である。 その粒子のサイズ50-100Åのガンマ型アルミナ に1パーセント以下の白金を分散させた触媒体 は,「プラットフォーマー」と呼ばれる石油化 学触媒である。この触媒を電子線又はX線回折 で観測してみると,約10Åの白金粒子がアルミ ナの中に均一に分散していることが認められ た。この場合には,Ptが触媒で,Al2O3が助 触媒である。Pt以外の遷移金属は,ガンマ型 アルミナ中で分散を行わずに,自身の間で粒成 長をしてしまう。 スピネル型アルミナの格子定数は7. 90~7. 96 Åの間でその製法に依存して変動する。その空 間群はFd3mであるが,酸素原子の配列に関 する限りでは等軸面心型Fm3mである。一方, 白金も等軸面心型原子配列Fm3mをもち,そ の格子定数は3.92Åである。したがって,3.92 Å×2=7. 84Åはアルミナの格子定数に近似す る。このようにして,ガンマアルミナとPtと の間では,「格子整合(Lattice Fit)」が起る。 アルミナ―Pt間に働くこの種類の引力は非常 に弱く,ファンデルワールス力に比肩的か,あ るいはそれよりも小さし、。しか、し,この引力が 存在するためにAl2O3粉体中にPt微粒子は一 様に分散することができる。 更に,このAl2O3―Pt分散系に対しては, 熱力学第二法則に関するギブスの逆理が適用さ れる。それぞれ分離されて存在する酸素ガスと 窒素ガスとのエントロピーの和は,それらが混 合したときのエントロピーよりも2kNln2 (k : ボルツマン定数,N :気体分子の数)だけ小さ い。すなわち,両気体が混合していないときよ りも,拡散的に混合した状態の方が熱力学的に より安定である。しかし,混合状態でも窒素と 酸素の性質は保存されている。同様な考察が, Al2O3―Pt混合系にも適当される。すなわち, Al2O3とPtとが分離しているときよりも,両 者が一様に分散しているときのほうが安定であ り,それでいてAl2O3とPtとの特性は保た れている。 おわりに 当研究所の酸化アルミニウム研究グループは 昭48和年度に発足し,現在まで約2年半を経過 した。なお,この研究は昭和53年度まで続けら れる予定である。そこでの研究テーマのスケジ ュールとしては次のものを考えている。 (1)無機顔料テナール青の合成,構造及び物 性 (2)亜酸化アルミニウムの真空蒸着法による 合成 (3)テナール青の磁性理論 これらの題目中には既に成果を得ているものが ある。 1.9酸化チタン (昭和49年度~継続) はじめに チタン元素は1791年イギリスの牧師ウィリア ム・グレゴールによって酸化物の中から発見さ れ「メナチニット」と名付けられたが,1795年 クラプロスにより再確認され神話の名をとって 「チタン」と改名された。チタンはクラーク数 で比較すると地球上に0.46wt%含まれ,Mgや Hに次いで多く,Cuの約50倍,Znの約400倍 もあり,第10番目に多い元素である。天然には 主にルチル(TiO2),イルメナイト(FeTiO3) ペロブスカイト(CaTiO3)などの鉱物として産 する。 TiO2の工業的用途で一番多いのは無機顔料 であり,特に白色顔料の王様といわれている。 それは光の屈折率が大きいのでよく輝き,化学 的に安定なために変色しないことなどにより優 れているからである。自動車や家庭電化製品の 白色塗料はほとんどTiO2である。その他,建 築の塗料,印刷用インキ,美術印刷用高級紙, 合成樹脂成型品,有機反応触媒,セラミックス 用としては陶磁器,コンデンサー,ホーロー, 溶接棒などに利用されている。人工のルビーや サファイアーなどと同様に火炎溶融法で大きな 単結晶を作り,ブリリアンカットに研摩する と,光の屈折率が大きいのでダイヤモンドと見 分けがつけ難いほど美しく輝いた宝石となり珍 重されている。最近注目されている新しい用途 としては,固体水酸化チタンが無機イオン交換 体として海水中の有用金属,特にウランを抽出 するのに有望視されている。またTiO2の電気 伝導特性は禁止帯の幅が3. 0eVであって,太陽 光線の300~2,500mμの波長範囲のうち415mμ 以下のエネルギーの高い光線を受けると励起さ れて半導体化するので光触媒として期待されて いる。この応用は太陽エネルギーの利用として 水を酸素と水素に光分解するときの電極材料に 有望である。 さて,TiO2には同質多形,すなわち化学組 成が同じでも結晶構造の異なる4種があり,ル チル(正方晶系),アナターゼ(正方晶系),ブ ルーカイト(斜方晶系)及びTiO2(Ⅱ)(斜方 晶系)がある。同じ正方晶系や斜方晶系であっ ても原子の配列の対称性が違うのである。基本 的な構造はいづれもTiO6でTi原子は八面体 の隅に位置する6個の酸素原子に取囲まれてい る。ルチルではこの八面体の2稜が他の八面体 に共有された連なりであるが,アナターゼは4 稜,ブルーカイトは3稜,TiO2(Ⅱ)は2稜が 共有された八面体の三次元的連なりが特徴であ る。一般に稜の共有が増すほど八面体の構造が ひずむので,それによって結合性に変化を生じ ている。したがって,4種の多形の間で化学的 性質,物理的性質,相の安定性などが異なって いる。TiO2(Ⅱ)は高圧相で,約15,000気圧以 上で合成されており,温度は研究者により非常 に差があり,圧力と温度で決定される安定領域 はまだ不明である。特に重要なのは,常圧下で 存在するルチル,アナターゼ,ブルーカイトの 安定関係である。これらは天然にいづれも産す るが,ルチルに比較すれば他の2相は非常に少 ない。従来,アナターゼはルチルの低温安定相 であるとされていたが,現在,常圧下では熱力 学的考察からブルーカイトとともに準安定相で はないかと考えられており,相の安定関係がは っきりしていない。これを明確にすることは工 業的にも重要な意義がある。例えば,イルメナ イト原料を用いた硫酸法による顔料製造工程の 中で,最初に生成してくる相はアナターゼであ るが,ルチルの方が耐候性などで顔料として優 れているので,焼成工程で調整剤を用いてアナ ターゼからルチルへ相転移させている。これは 顔料性を決定する重要なポイントの一つとされ ている。このルチル化の条件は,実はその前の 溶解工程で生成した硫酸チタニル(TiOSO4) の加水分解の反応条件で決定されるとされてお り,このような顔料性を支配する重要なポイン トがほとんど経験的に管理されているため,工 程の連続性が阻害されている。 TiO2グループの研究の主要課題は,このよ うな背景から生れている。したがって,種々チ タニル錯体の加水分解反応に基づく多形各相の 生成機構,アナターゼ及びブルーカイトの安定 化の機構,ルチルへの相転移の機構などが明ら かになれば製造工程においても効率よく,連続 性を高めた合理化へ寄与することができるであ ろう。以上のことは結局,多形各相の安定関係 を明らかにする研究ということになり,具体的 には多形各相の合成,熱現象,構造解析,光特 性などの研究を通して総合的に安定関係を調べ ることである。まず,合成では多形各相の素性 の明らかな単結晶及び多結晶を合成して相安定 関係の研究試料とする。単結晶を育成する際に は,その最適育成条件や結晶成長に関する諸問 題を検討する必要がある。アナターゼや,ブル ーカイトのように安定化剤を用いないと合成が 困難な相は,安定化剤の選択とその合成条件を 明らかにすることが急務であり,これらの合成 反応を通して安定化機構を明らかにすることが 重要な目標の一つである。一方,水溶液中のチ タンの加水分解反応によってTiO2水和物のゲ ル化及び結晶化が起るとき,もとの水溶液中の 共存イオンにより結晶化したTiO2相が異なる 多形を示す。この反応過程を調べて生成機構を 明らかにすることは,TiO2の化学性を知るの みならず,アナターゼ,ブルーカイトの安定化 の問題解決の鍵であると考えられる。熱現象で は多形各相の安定関係と転移現象を熱力学的立 場から明らかにするのが重要な目的である。従 来,温度と圧力で示された各相の安定関係,安 定領域は根本的に再検討する必要がある。結晶 の構造解析と光特性的研究では,特にアナター ゼ,ブルーカイトの安定化の機構をはじめ,各 相の転移現象など構造的及び光特性的立場から 解析するのが目的である。 1.TiO2多形各相の単結晶育成と結晶成長 単結晶の育成方法はフラックス法,水熱法及 び化学輸送法である。 フラックス法では現在ルチル単結晶の最適育 成条件と結晶の成長過程,不純物の影響による 結晶の形態変化,特に結晶面の組合せがどのよ うに変化するかなどを調べている。基本フラッ クス(溶融剤)にLi2WO4粉末を用いて,これ に結晶成分のTiO2粉末と不純物としてWO3 粉末を混合したものを出発原料とした。結局, WO3成分を系統的に添加することにより,結 晶の形態はその添加量に応じて針状→短柱状→ 粒状へと変化し,面の組合せは4種類に変化し た。この形態変化に伴って,結晶の色や格子定 数がほぼ連続的に変化した。色は黄金色から暗 黒色まで変り,格子定数はcよりもaが大きく 増大した。したがって,単位容積は増大し,密 度は減少する。また,結晶中のW含有量を調べ た結果,WO3の添加量に応じて0. 2wt%から1.5 wt%までほぼ連続的に増大し,結晶中で均一に 分布している。次に特定結晶面の発達の機構を 知るためには結晶と不純物との化学的相互作用 を調べる必要があり,その一つとしてTiO2成分 のフラックスに対する溶解度がWO3添加によ りどのように変化するかを調べた。その結果, WO3の添加量に応じて溶解度が大きく増大す る傾向を示した。以上のことからTiO2はWO3 と錯形成により溶解することが明らかとなっ た。これは非常に重要で,結晶の特定面発達に よる形態変化の機構は,その特定面の表面で TiO2とWO3が二次元錯体を形成するために その面の化学的結合性が変化し,表面エネルギ ーを減少させ,相対的に他の面に比べて成長速 度が遅くなり,その面が最後まで残ることが明 らかとなった。 水熱法とは,高圧下で水溶液が100℃以上に 過熱された状態から結晶を育成したり,物質を 合成したりする方法である。水熱状態では著し く化学作用が促進される特徴がある。安定化剤 にK2HPO4を用いたKF-K2HPO4系水溶液 からアナターゼ単結晶の育成条件を検討してい る。装置は試験管型圧力容器を使用し,反応容 器は主として金カプセルを用いた。金カプセル 内の一方の高温部でTiO2粉末が水溶液に溶解 し,その溶質が対流で他方の低温部へ輸送され 過飽和となって結晶を析出する。KF単独の水 溶液ではルチルしか成長しないが,上記安定化 アナターゼ単結晶 5%KF-5%K2HPO4系水溶液を用いて 600℃,1000atm, 240時間の条件で育成した 剤を0.1~5. 0wt%添加すれば625℃以下の温度 と広い圧力範囲にわたり,アナターゼが成長す る。現在,約1mm前後の大きさまでは簡単に 育成できる。得られた単結晶は{101}, {103}面 からなる正方両錐形を示す。この結晶の発光分 光分析で不純物含量を調べたが何も検出されな かった。これらの結果はリン酸イオンがアナタ ーゼ格子中に入らなくても安定化の役割を果し ていることを暗示しており,今後,安定化機構 を解明していくうえでの一指針となる。なお, HF, NH4Fなどの水溶液によるアナターゼ単 結晶の育成を検討中である。 化学輸送法では反応容器に石英管を用い,封 管法で予備実験を行っている。原料にはTiO2 粉末を使用し,輸送剤にNH4Clを用いたとき はルチル,Cl2の場合はアナターゼが成長する ことがわかった。この場合のアナターゼは面の 発達した板状結晶であった。 引続き,高温でもアナターゼやブルーカイトが 育成できる輸送剤の選択や成長条件について検 討する。 2.TiO2多形相間の安定性 (1)合成による相の安定性 水熱法によりブルーカイトの合成と安定 性について研究している。まず,原料には TiO2・nH2O非晶質を用いて陰イオンの安定化 に対する効果を調べた。従来,NaOH水溶液を 用いた場合にブルーカイトが合成できることが 知られているので,陽イオンとしてはNaを含 む各種化合物の水溶液について実験した。その 結果,NaFとNaCO3の水溶液が有効であり, NaCl,NaNO3,Na2SO4, HCOONa, CH3COONa, Na3PO4,Na2MoO4などは全く効果がなかっ た。NaOH水溶液では,必ずチタン酸ナトリ ウムが一緒に合成されることがわかった。次に 陽イオンの安定化に対する効果を調べた結果, Na+ Ca2+が有効であり,Li+, K+, Mg2+, Sr2+, Ba2+, Cd2+, La3+, Ce4+ などを含む化 合物との反応系では効果がなかった。なお,ブ ルーカイトはpH依存性が強く,上述の陰イオン 及び陽イオン効果を含めて中性からアルカリ性 領域でのみ合成される。ブルーカイトの単結晶 育成は今後の課題である。 (2)合成相の構造的解釈 水熱法でTiO2・nH2O非晶質とNaOH水溶 液を出発原料にしてブルーカイトを合成すると 必ずチタン酸ナトリウムが一緒に生成すること は前に述べたが,この場合に,Na量,温度, 圧力により合成されるチタン酸ナトリウムの組 成と構造が異なる。これらのチタン酸ナトリウ ムは,NaxTiO2 (0ブルーカイト> TiO2(Ⅱ)>アナターゼとなる。この関係は温 度により変化しないのでルチルだけが安定相で ある。また,一定温度下では高圧になるとルチ ルよりもTiO2(Ⅱ)が安定相となる。 3. TiO2水和物の生成機構 塩素イオンを対陰イオンとして用い,「定イ オン濃度」{2M(H, Na)Cl水溶液}に保った溶 媒中からのTi4+の水和反応を基準に選び,水 素イオン濃度電極の起電力の測定を行い,生成 するTi4+のヒドロキソ錯体の組成を調べてい る。結果として,Ti4+はまずTiO2+に変化し たのち(TiO)q(OH)q(2q-p)+の形の多核ヒド ロキソ錯体を形成し,最終的に水和物ゲルTiO (OH)2・nH2O 又は{Ti(OH)4・nH2O}を形成す ることが明らかとなった。 おわりに 研究の主目標がTiO2多形各相の安定性を明 らかにすることであるが,その結果として各相 の化学的性質,物理的性質をはじめ,相の安定 化機構,相転移機構などが明確になる。原料製 造工程が無機工業製品中で最も長く複雑である とされているのは重要なポイントの経験的工程 が多過ぎるためである。上記諸性質の解明によ り工程の連続性を向上させ合理化が望める。準 安定相の安定化及び相転移の研究は,このよう な相の生成促進又は生成抑止が可能となり,そ の応用は顔料製造に役立つのみならず,広く一 般の化学工業に利用される期待がある。また, Ti4+を含む水溶液からTiO2水和物の生成機 構や種々不純物との反応性が明らかになれば TiO2の精製による高純度化が可能で無機系誘 電材料などのTiO2の製造に貢献できる。な お,単結晶育成に対する不純物の役割が明らか になれば結晶成長機構の解明をはじめ高純度単 結晶の創製へ発展できる。 1.10イットリウムガーネット (昭和48年度~継続) はじめに イットリウムガーネットは鉱物としてはざく ろ石の仲間で,化合物の分類では酸化物であ る。ざくろ石は天然鉱物としていろいろな火成 岩や変成岩中に美しい結晶形をもって産出す る。最近では地球深部物質の一員として研究の 対象にもなっている。宝石としても知られてい て一月生れの人の誕生石である。宝石になると いうことは産出がまれで美しいというだけでな く,新しい工学材料としての諸性質をも兼備し ていることにもなる。すなわち,機械的強度に 優れ,化学的に安定であり,物理的性質も,比 重,屈折率,熱伝導など,並外れたものである ことが多い。これらの優れた諸性質は,ガーネ ット結晶が有している結晶構造と,それを構成 している原子の性質に基づいている。 事実,ガーネットの結晶はすべての晶族中で 最も対称性が高い等軸系完面像晶族に属してい て,天然結晶には粒状で面が多数あるものが多 い。この等方性はガーネットを工学的に利用す る場合に種々の利点をもたらしている。その内 部の原子配列は,しっかりした骨組みをもって いて,ポーリングのイオン結晶に関する経験則 の好例になるほど,イオンの同形置換も容易で ある。このことは,ガーネットの結晶構造をも ちながら,化学組成の異なった結晶が種々存在 することを意味する。これは更に,結晶の単位 胞の大きさをいろいろに変化させることができ ることを暗示している。このような特徴は単結 晶を新しい材料として応用する場合に有利に作 用する。 このようにガーネットの結晶構造は融通がき くものなので,天然に,複雑な化学組成の中で 成長すると,その複雑さをそのまま反映した組 成のガーネット結晶が生れることになる。した がって天然ガーネットには極端に純粋な端成分 のものは発見し難い。ほとんどの天然ガーネッ トは固溶体である。しかも,天然には珪酸SiO2 が至るところにあるため,天然ざくろ石は例外 なく珪酸塩ガーネットとなっている。化学式は 3R2+O・R23+O3・3SiO2 (R2+:Mg2+, Ca2+, Mn2+, Fe2+など の2価の陽イオン) (R3+:Al3+, Cr3+, Mn3+, Fe3+ など の3価の陽イオン) で表現される組成をもっている。ここに純粋な 組成をもった人工ガーネットの育成の意義があ る。 1950年,米国のヤッフェが,天然のマンガン ざくろ石中に,Y2O3が2. 6%も含まれているこ とを見出し,このざくろ石ではMn2+・Si4+が Y3+・Al3+に一部置換されていると予想した。 この報告を見た,同じ米国のヨーダーとケイス はY3+Al3+の3価の陽イオンのみでガーネッ トが合成できるはずだと気付き,直ちに合成に 着手した。その狙いどおり,SiO2を全く含まな い,純粋の端成分ガーネットの一つY3Al5O12 を合成することに成功した。1951年のことであ る。この結晶は最初の,イットリウムを含んだ 端成分ガーネットだったのでイットロガーネッ トと呼ばれた。その後イットリウムと鉄でもガ ーネットが合成されたので,Y3 Al5O12をその 頭文字をとってYAG (ヤグ),Y3Fe5O12をY I G(イグ)と略称で呼ぶようになった。YA Gは融点が1,850℃以上(1,970℃というデータ もある)とされ,モース硬度で8. 5,比重4. 2, 屈折率1.83程度の結晶である。 1956年には,新しい磁性材料を探索していた フランスのベルトー等と,米国のベル研究所の ゲラーとギレオ等がそれぞれ独立に,YIGの 合成に成功したことを報じた。 YAGは現在,レーザーのホスト結晶として 用いられている。YAGの結晶中にネオジム Nd3+をドープした単結晶棒を用いた固体レー ザーは室温で連続発振し,波長10,600Åの赤外 線を出す。このレーザーの応用はいろいろ考え られている。そのままでも熱線なので高出力レ ーザーで高融点の物質を溶融することができ る。ある種の結晶と組合せて第2高調波を作る と5,300Åの緑色の光が得られる。大気汚染の 測定や,海中での光通信などはその応用の一つ であろう。また,ガラス中を透過する際の減衰 が小さいので,グラスファイバーの光通信用と して期待されている。 YIGは,マイクロ波領域でのエネルギー損 失が少ないため,その方面での優れた磁性材料 として用いられている。最近ではこの研究をも っと進展させて,複雑な組成のCVGガーネッ ト(Bi3-2xCa2xFe5-xVxO12)などの合成がなさ れている。 更に下地結晶としてのGGG (Gd3Ga5O12) ガーネット単結晶の利用が,あわ磁区に関連し たデバイスで研究されている。これは格子定数 のわずかに異なるガーネット間で,本来,等軸 結晶であるものに一軸性を作り出そうというね らいである。GGGはもともと磁性をもたな い。そのうえに磁性を有するY I Gの薄膜を一 定量つけ,YIGを一軸化し,この膜に垂直に 磁界を加えてあわ磁区を作る。このあわ磁区は いろんな方法で動かすことができ,シフトレジ スターなど演算回路を作ることができる。コン ピューターの素子としての応用が期待されてい る。 いずれのガーネットも,これを新しい材料と して応用するには,一定の大きさが必要とさ れ,化学的に一定の組成をもち,内部の欠陥が よくコントロールされた均質な結晶が要求され る。工業的にはこれらを再現性よく育成できな ければならない。これは容易なことではない。 現在までに,この方面の結晶作りは,単体であ るシリコンでかなりのところま で成功 してい る。ガーネットのような多成分の化合物ではま だ未解決な点が多く残されている。このような 結晶作りを一つの表現にすると「キャラクタラ イズされた単結晶を再現性よく育成する」とい うことになる。 我々は,応用に先だち,このキャラクタライ ズされた単結晶を再現性よく育成することが重 要で,最初に解決されるべき問題であると考え た。そこで,現在までに大型単結晶を作成する 方法として用いられた手段を検討し,その中か らまず,引上法(チョクラルスキー法)とフロ ーティングゾーン法を取上げ,大型単結晶育成 につながる研究を行うこととした。 更に,育成された結晶を,光学,X線,電子 線を用いる手段で観察・測定し,結晶のキャラ クタリゼーションを行い,そのことから次の育 成条件の改良へとフィードバックすることを基 本方針とした。 イットリウムガーネットは前述のごとく,い ろいろな組成のものがあり,その性質も多様で ある。この中から我々は,透明であること,分 解溶融しないこと,育成法が同じGGG単結晶 もあることなどから,YAGを主たる目標結晶 とした。 1.引上法 自作のモリブデン炉を用い,簡易な引上装置 を使ってKClやNaClなどの低融点結晶で引 上法による育成を試み,形のコントロール,引 上軸と結晶面,引上速度,回転速度などの間の 関連について知見を得た。第2年度には融点が 少し(高いLiNbO3の大型単結晶,直径15mm 長さ30mm)を育成した。これまでの経験をも とに,いよいよYAGの引上法による育成に取 り掛り,直径30mm,長さ180mmの大型結晶 を得た。しかし,これはノンドープの結晶であ り,しかも欠陥のコントロール,化学量論比など に不完全な点が多く,目標にはほど遠い。第3 年目の昭和50年現在,これまでの経験から,コ ンピューターによるデータ集積と,それによる 引上法の自動化を早急に完成することに力を集 中することにしている。現在までに,結晶の重 量を刻々測定し,高周波加熱炉の電源の出力の コントロールによる自動的径制御には一応成功 をみた。特にLiNbO3は形のコントロ ールが難 しい結晶であるが,自動径制御によって非常に 外形が整った結晶を得ることができる。また, KTaxNb1-xO3 (KTN)単結晶もこの径制御で 引上法により育成し,外形のコントロールに成 功した。 2.フローティングゾーン法 ハロゲンランプを用いた赤外線集中加熱炉に より,Y I G (Y3Fe5O12)と関連した組成をも つイットリウムオーソフェライト(Y3FeO3)の 単結晶育成から取り掛った。この方法の要点 を,いくつかのプロセス(粉末調製,プレス, 焼結,ゾーンメルトなど)ごとに明らかにし た。特に原料調製の初期の手順で,最終的な単 結晶の良否が左右されることがわかった。これ まで,良品ができないとされていたものも,こ の方法でいくつか良い単結晶が得られた。現在 までに直径5mm,長さ5cm程度のYFeO3や, Y(Al, Fe)O3, (Y,Nd)FeO3, SmFeO3, Nb2O5 の単結晶育成に成功している。 3.フラックス法 フラックス法は,比較的低温で高融点を有す る単結晶を育成することができる。しかも,単 結晶に特長的な低指数面が発達するので酸化物 単結晶はすべての結晶育成に先だってまずフ ラックス法で合成しておくことが望ましい。 PbO-PbF2-B2O3系フラックスを用いて,徐冷 法により,透明なYAG単結晶(径5mm~20 mm)を得た。成長機構と欠陥との関連を明ら かにする上で重要な知見を得た。 4. キャラクタリゼーション この目的は,前節で述べたとおり,均質な大 型単結晶を再現性よく育成するために,各種の 手段を用いて,組成・構造・組織・形態などに 関する情報を集め,育成条件の検討を行うこと にある。 YAG単結晶(主としてフラックス法で得ら れたもの)を対象として,光学的暗視野,偏 Y AG単結晶の透過暗視野照明写真 フラックスから育成したもので,大きく発 達した{110}面とそれにほぼ垂直に伸びる 線状欠陥が見えている。結晶の核形成は最 初右下偶の部分で行われたと推定される。 線状欠陥は不純物でデコレイトされている ためコントラストがよく出ている。 光,位相差,微分干渉,二光束干渉,多光束干 渉などを用いて,結晶表面と内部の構造の対比 から,欠陥と形態の関連を見出した。 EPMA (電子線マイクロアナライザー)と 偏光顕微鏡の観察とから,YAG-Y I G固溶体 の光学異常が,FeのAlの分配によって生じる 結晶格子の部分的ミスマッチによるひずみに起 因することが明らかとなった。また,X線回折 顕微法により,結晶内部のセクター成長の消長 を明らかにした。 おわりに 当研究所には直径数cm,長さ十数cmといっ た大型単結晶育成を主目標とする研究グループ はこれまでなかったため,装置の下調べから研 究を開始した。途中結晶成長国際会議(第5 回)が東京で開催され,世界の研究の流れを見 るにつけ,自動化が時代の要請であることが痛 感された。工業生産面と研究面とでは引上法一 つをとってもそのアプローチはかなり違うが, 我々がこのような研究を行うに際してはその連 結を目指すのがよいという判断に立ち,現在コ ンピューターによるデータの集積と,再現性の 高い結晶引上育成法に力を注いでいる。これに 成功すれば,将来,コングルエント溶融する結 晶ならば,最初の引上条件解折さえできれば, 自動的に要求する単結晶が一応育成できること になるであろう。また更に,分解溶融する結晶 (YIGなど)はカイロポーラス法又はトップ シーディング法などで,.大型単結晶を得ること ができる。更に赤外線吸収効率の良い結晶で は,フローティングゾーン法による単結晶も得 られ,物性測定用の試料供給が可能となるだろ う。 単結晶育成全体を通じて,常にその基礎とな るものは正確な相図である。相図は結晶育成に おける地図であり,これなしの結晶育成は盲目 の試行錯誤となり,到底,新しい材料の基礎と なる単結晶育成は行えない。このことは,現在 までの単結晶育成の歴史を見れば一目りょう然 である。したがって,単結晶育成の成否は常に 正確な相図が手中にあるか否かで左右される。 我々は,既存の相図を一応頼りにはするが,思 わしくない結果が得られたならば直ちに相図の 検討も行う予定である。事実,現在までに,G GGの相図やYIGの相図で既存のデータに疑 いをはさむ余地が生じている。 以上のようにキャラクタライズした大型単結 晶を得ることは,体系的な知識と経験の積重ね が必要であり,数年間チームを組んで研究すれ ば終るといったものではない。今後,場合によ っては,より単純化した条件でのモデル実験 や,シミュレイションが並行して進められるこ とが要求される。そこまで徹底してはじめて, 無機材質研究の支えとなる単結晶を手中に収め ることができるのである。 1.11酸化レニウム (昭和49年度~継続) はじめに 90以上の元素が作り出す数多くの化合物はさ まざまな性質でもって我々の生活を豊かにして いますが,それらの示す性質のうちいわゆる物 理的な性質,すなわち力に対する反応性,光に 対する反応性,電場や磁場に対する反応性等は それぞれの立場から詳しく研究されていて,今 ではほとんどの現象は一応うまく説明されるよ うになっております。ある物質が与えられて, それに関するゲータがでてきますと,それはこ ういうせいであるというようなことはまずいえ るわけです。しかし,その物質を構成する元素 名とその割合だけをいって,それのみから,そ れの持つ性質を予測するとこれは大変で実際上 は不可能に近いありさまです。勿論そうしたい と思って多くの研究者が努力しているわけです が現在の科学水準ではそこまではいっていない のです。そういう意味で我々はまだ物質を手玉 にとってうまく利用できるような状態にはない のです。この状態はいわゆる化学反応を研究し ている分野でも同じであろうと思います。 原子が集まって物質を作ると,原子内で外側 に分布していた電子は一つの原子の上にのみい れなくなって,数多くの原子の上に同時に分布 するようになります。そして物質はこれらの価 電子と,それ以外の重い原子核と内殼電子の集 合体とみなされます。いろいろな物理的な性質 や化学的な反応はこの価電子の振舞いと,重い コアの振動の様子から説明されていきます。こ の価電子がどういう状態にあるかはそれの持つ エネルギー分布と,実際に空間にどのように分 布しているかその空間分布を調べればよいので すが,前者については多くの理論及び実験の展 開があり主としてそのせいでいろいろな性質が 説明されるようになったのですが,後者につい ては一部を除いてあまり大きな進展はなかった のです。それは一つには価電子が全体の電子の 数に比して少ないのと,もう一つは,原子が集 まって固体を作っても,その価電子の空間分布 は,数こそ違え,あまり大きく変化しないから 実験的に研究するのが困難だったからです。 私達はこの点について研究を進めることが, 物質を手玉にとれるためには必要不可欠だと考 え,次のような手段でそれを進めることにしま した。一つは,陽電子消滅法を利用すること, 一つは,コムプトン散乱を利用すること,一つ は,X線の回折を利用すること,一つは,X線 (紫外線)電子分光を利用すること,更に一番 大事なことは理論家の十分な協力を得ること。 以上のうちいくつかは現在進展中です。 物質としては何が一番最適であろうか。エネ ルギーギャップの大きな絶縁体では,イオンは ボールのようなものであると考えることが割合 よい考え方になります。イオン半径が経験的に 与えられていて,その和は格子間隔をけっこう 正しく与え,そのため,物質合成の上で重要な 指針となっています。そしてその半径の意味も ある程度明らかになりつつあります。したがっ てまずこの比較的簡単な方からせめるべきか。 一方ではナトリウムのように最も純粋な意味の 金属があります。また,その中間にイオン結晶 であってかつ価電子が相当にひろがり,電流も 運べるが,展性にも延性にも欠けるような一群 の物質があります。金属は我々の研究の対象外 でありませんから他の方にやって頂くとして, 前述のような価電子の空間分布を調べるという 立場からは,その中間に位置するイオン結晶性 の電気伝導体から取り掛れば特徴的なことが見 出しやすかろうと考え,その最も典型的なもの として三酸化レニウムReO3を選びました。 ReO3は鮮紅色をしたもろい結晶で,電気伝導 度は銀よりも秀れた典型的なイオン結晶性伝導 体です。更にReは7価までの価数をとり得て 化学的にも反応性の大きな元素です。我々は結 合電子の分布の研究を第1の目標としますが, それとともに,この元素のもつ価数の多様性に も着目して,Reを含む新物質の合成や表面に おける融媒反応の研究にも着手する予定です。 これらは一見無関係にみえるかも知れません が,実は全てがうまくいけば統一的に結びつく であろうと予想しています。 1.単結晶の育成 まず大きな単結晶を作る必要があります。私 達は,写真に見えるような5mm近くの単結晶 を作るのに成功しています。世界最大だとはい えませんが,これより大きなものもあろうとは 思えません。更に大きくする必要がありますの で目下試行錯誤中です。この単結晶は,次のよ うにして作りました。まず金属Reを酸素気流 中で,300℃以上に熱しますと,Re2O7とな り,その薄片状の黄色結晶が温度の低いところ に生成されます。これを一酸化炭素中で300℃ 以下で還元すると暗赤色のの粉末ができます。 その粉末をI2とともに真空中に密封して片方 の温度を380℃,中央を360℃,他端を360℃よ り上に設定しますと,2~3週間で写真のよう Re3O単結晶 な単結晶ができます。 2.キャラクタリゼーション (1)不純物 後に述べるように不純物はできるだけ少ない ほうがよいのですが,1.で述べた方法で作りま すと,それは同時に精製過程になっていて,単 結晶は原料のReより高純度になります。一番 多い不純物Siについてみますと,Re金属で 3000ppm くらい含まれていたものが,ReO3粉 末では1000ppm, ReO3単結晶では500ppm く らいになります。操り返せばますます高純度に なりますから,私達は何回かReO3の粉末を真 空中でI2をつかって片方から他端へととばすこ とにしています。Si以外の不純物ではNa, K, Ca, Mgのようなアルカリ,アルカリ土類が単 結晶中に10ppm以下,Al,Crが1~20ppm程 度入っています。 (2)正規組成 不純物と同程度に重要なのがRe : Oが正確 に1:3になっているかということです。特に Reが不足しますと,後に述べるように困った ことが起るので防ぎたいわけです。最終的な結 果ではありませんが,化学分析の結果では,粉 末はRe1.04O3.0,単結晶では,Re1.007O3.0 くら いになっています。特に単結晶の密度を測って みますと,23℃で7.42±0.02になりますが,こ れは格子定数からだした理論値7.424に十分一 致していますから,かなり正規組成に近いもの だといえます。 3.電気的性質―ほんとにイオン結晶か― (1)電気抵抗 電流を運ぶ電子は特殊な状態を除いては,特 にその伝導度が高いものは,一つの原子の周囲 にいるのではなく結晶中に広がっているもので す。しかし,原子核の近傍例えばイオン半径よ り内側では,多分に原子内の電子と同じように 振舞うはずで,問題はその範囲がどれくらいか ということになります。金属的といわれるもの はその範囲が小さくて一番極端な場合には,電 子の雲の内に核が浮んでいると思ってもよいほ どになり,このような状況では,周囲と異なっ た電荷を持ったものは,1Åぐらいでたちまち スクリーンされてしまい中性にみえます。もう 一方の極では,ほとんど一つの原子に束縛され たようになり,熱的に隣の原子へ飛び移って電 流を運ぶようになります。この場合は伝導度は 非常に小さいのが普通ですし,電荷の分布も (+)(-)(+)(-)とイオン結晶と変ったところ がなくなります。さてReO3単結晶の電気抵抗 を測ってみますと,私達の試料ではまだ十分に 高純度でないので,30°K以下では不純物によ る抵抗が効いて温度変化せずほぼ10-7Ω-cmで すが,それより高温では温度とともに抵抗が大 きくなり300°Kで10-5Ω-cmになります。この 温度変化が高温で光学的フォノンによる電子の 散乱を考慮することにより説明できるというこ とがわかりました。つまり,ReとOが何らか の(+)と(-)の電荷を持っていて,それが互いに反 対方向に動いて,それにより電子が散乱される というわけです。このことは,ReO3が少なく ともイオン結晶であることを示めしています。 しかしその価数がどの程度であるかはまだわ かっていません。 (2)格子振動 (1)で述べた電気抵抗から,価数を知るために は,格子振動の様子や,伝導電子による(+) (-)のスクリーニングがわかっていなければな りません。格子振動は中性子線を使えばわかり ますが,それは種々な点から極めて困難な実験 になります。私達はせめてその一端でもわかれ ばと思い,赤外線の吸収及び弾性定数の測定を 行っています。これらのデータは長波長極限の 結果を与えるわけですが,それによると,905 cm-1と315cm-1のところに赤外吸収がみられ, それがどのような振動によるのかがわかってい ます。また弾性定数は室温でC11=5.58, C12= 0. 97, C44=0. 69(×1012dyne/cm2)で,これらか らReO3分子内の力定数を求めますとほぼ一致 した値を出して,例えばRe-Oの伸縮運動の力 定数は2. 7, O-Oのそれは0. 7, O-Reの角度の 変化による振動の力定数は-0.5 (単位105dyne /cm)です。これらの結果に,有効電荷や伝導 電子がどのように効いているのかは今後の問題 です。 4.陽電子消滅法による価電子の研究 (1)角度相関:運動量分布 陽電子が固体中に入りますと,価電子と衝突 してγ線になります。これのでてきかたから価 電子の運動量分布ひいては空間分布がわかりま す。このためには大きな単結晶が必要なので私 達は今どんどん作って貯めているのですが,ま だ(100)面を使った測定しか終了していませ ん。 一つの測定に半年以上かかるのです。これま でにReO3の粉末を使った測定を行いました。 多結晶から得られるデータはあまり多くを語れ ないのですが,これをWO3と比較してみまし た。WO3はReO3によく似た構造を持ち,電 子の数が一つ少ないだけの絶縁体です。さて, 前述したように電流を運ぶ電子が,核から十分 離れたところでは一様に分布していて,そう考 えてよいのが結晶中の大半をしめている場合に は,その運動量分布には大きな運動量成分がな くなりますが,WO3との比較ではそのような ことはなくてあたかもReO3はWO3より一つ d電子の多い絶縁体であるかのごとくにみえま す。多結晶だけでは決定的なことがいえません が,このようにイオン結晶性を帯びた伝導体の 電流を運ぶ電子は,一つの核からみた場合ほと んどその核に属するがごとくにみえるような分 布をしているということはいえそうです。 私達は絶縁体のAl2O3,NiO, CoO等の単結 晶を使ってその運動量分布を測定し,それらの 価電子(後者では3d)がReO3のそれ(5d) とどのように異なるかも調べています。Al2O の場合異方性はあらわれませんが,NiO, CoO の場合には異方性が現れ,その結果はコムプト ン散乱から求めたものとは大部異ります。それ は陽電子の異方的な分布のせいだとも考えられ ますが,Al2O3で異方性が現れなかったことか ら,その可能性は小さいとしますと,これらの 結果を陽イオンと陰イオンの電子の共有結合性 に帰することもできます。そのように解釈しま すと,Niではσ結合に9 %,π結合に0 , sに 0 %という結果がでています。Fe3O4について 適用すると,八面体位置のFeについてσ=10 %, s =0.3%,π=4 %,四面体位置のFeに ついてはσ = 1%,π=3%とすると実験にあ ってきます。また同時にOやFeについてどの ような電子分布をとればよいかということもわ かります。これらのことは,陽電子消滅法が結 合電子の状態を調べるのに極めて有効だという ことを示めしています。 (2)寿命測定 (a)伝導電子の影響 ReO3の伝導電子の分布はあたかも絶縁体の 価電子に近いといいましたが,このことは陽電 子の消滅確率の測定からもいえます。ReO3中 では3. 7×109sec-1の確率で,WO3中では4.2× 109sec-1の確率で消滅し,伝導電子の効果はほ とんど認められません。同じようなことがV2O3 の金属―絶縁体転移で消滅確率がかわらないこ とからもいえます。ただしこの場合絶縁体とい ってもギャップが非常に小さいという問題はあ ります。更に金属的なNiSと絶縁体のNiOで の消滅確率を比較しても特に伝導電子の効果は みとめられません。以上のことは,これらのイ オン結晶中の伝導電子が大半の領域で原子所属 電子のごとくに振舞っていて,一様に広がって いる領域ははなはだ小さいだろうことを示めし ています。 (b)点欠陥の影響 陽電子が格子欠陥に極めて敏感であることは よく知られていますが,私達はイオン結晶中の 点欠陥がどのように効くかを酸化物,硫化物, その他の化合物について調べています。一般的 に酸化物ではほとんど効果はなく,硫化物では 金属的なもの以外では非常に大きな効果を持っ ています。また1価の化合物や炭化物,窒化物 でも大きな効果を持っていますが,実際に点欠 陥をppm程度までコントロールした試料を作る のが困難で,まだ点欠陥を検出する実用的な手 段としてまでは完成できていません。現在は上 記の分類の他,結晶構造による分類も試みよう としています。 5.新しい化合物を作る試み 新化合物を作るということは非常に大きな価 値があります。まだReを含んだ化合物に着手 していませんが,周期律表上同じ族に属する Mnについて新化合物と思える物が何種類かで きており,同じ方法をReについても適用しま す。Mnを含む化合物の前には,それと同じよ うな方法でY,希土類と鉄の酸化物で数種の新 化合物ができており,興味ある性質が見出され つつあります。 おわりに 私達が今後すすむべき道は次のようなもので す。一つは,最初に述べたような価電子の構造 をイオン性のより小さくなる化合物,例えば炭 化物,硫化物について調べてイオン結晶と金属 の橋渡しをする。またいろんな化学的な知識に 対応させていくことです。二つは,Reのもつ 多様な価数に着目した界面物性触媒的な研究を スタートさせることです。三つは新しい化合物 をできるだけたくさん作っていくことです。 私達は既にこれまででも,数多くの所外の人 人と協同し助けられて研究をすすめておりま す。厚く感謝致します。 1.12複合ビスマス酸化物 (昭和50年度~継続) はじめに Nb-O研究グループ(旧第9研究グループ) が昭和50年3月に解散,再編成されて新しく第 10研究グループが発足した。その研究物質とし て選ばれたのが複合ビスマス酸化物である。こ のものはペロブスカイト構造あるいはReO3構 造の中に層状のBi2O3構造を周期的に介在させ た層状構造の酸化物群で,その化学式はBi2O3 Mn-1RnO3nで表される。ここでMはペロブス カイトのAサイトを占める金属イオン例えば Bi3+, La3+, Y3+, Pb2+, Ba2+, Sr2+, Ca2+, K+, Na+その他の1~3価金属イオンであり, RはBサイトを占める3~6価の金属イオン, 例えば Fe3+, Cr3+, Ti4+, Nb5+, W6+ 等であ る。つまり上記の化学式のBi2O3の部分が層状 のビスマス酸化物,Mn-1RnO3nの部分がペロ ブスカイトの構造の部分に相当する。ペロブス カイト構造の化合物群と同様,各サイトの金属 イオンを原子価補償的に置換することにより, 数多くの化合物を得ることが予想されるが,事 実オーリビリアス(1950)によって初めてBi2Ca Nb2O9, Bi4Ti3O12,及び Bi4BaTi4O15 が発見さ れて以来,既に50種を越える酸化物が報告され ており,更にほぼ同数の新化合物の合成が可能 と考えられている。 これらの層状ビスマス酸化物はいずれも強誘 電体に属し,またBi4Ti3O12の675℃ Bi2Ca Nb2O9の625℃など,比較的高いキューリー点 を示すものが多い。したがって高温誘電材料と しての利用がまず期待できよう。最近ではこれ ら物質の結晶をレーザー光線などの変調素子に 利用したり,大量の情報を一時に平面上で並列 処理できる大容量光メモリーなど,電子光学面 における利用への期待も高まりつつある。ある いは極微弱な赤外線輻射に敏感に感応する焦電 素子といった材質の開発もあながち不可能でな いかも知れぬ。とにかく材質利用の面で非常に 新味のある物質系ということができる。 以上のような応用面の期待から,複合ビスマ ス酸化物は,その発見が比較的遅いにもかかわ らず,最近10年ばかりの間に精力的な開発的研 究の対象になった。しかしそれらの研究は,合 成面においては,先に述べたように予想される 酸化物群のうちの約半数を合成したにすぎず, また物性の面ではTcや誘電率,一部について 電気光学性等の通覧的な測定が行われたにすぎ ない。つまり研究はいまだ多分に探査的な面が あり,材質の総合的基礎研究の段階にまで浸透 していないと思われる。 再編成グループのための新テーマの選定が常 にそうであるように,本テーマもまた種々の要 素を慎重に検討した上で採用されたものであ る。応用面での期待が大きく,同時に学術的に も興味ある多くの未解決領域を残していること は上に述べたとおりである。更に本テーマが, 本研究所における過去の研究成果を有効に生か し,かつ発展させ得るという期待もまた選定の 理由の一つとして挙げることができよう。複合 ビスマス酸化物の構造の基幹がペロブスカイト 構造であって,原子価補償的に多数の同系化合 物が得られる点がペロブスカイト群の合成と非 常によく似ていることは既に触れた。この意味 で鉛ペロブスカイトの研究によって蓄積された 成果が本研究に有効に生かされることが大いに 期待される。新第10研究グループには旧第9グ ループでNb-O系を研究した研究者の多くが移 行している。Nb-O系の酸化物特にNb2O5や その周辺のホモロガス群が示すReO3構造のブ ロックを基幹とするブロック構造は,複合ビス マス酸化物の構造と多くの点で類似している。 したがってNb-O系の研究において得られた 成果,特に結晶化学的成果もまた新グループの 研究に重要な貢献をするに違いない。 研究方針の概要 この物質の利用面を考えると,良質の結晶を 育成するということが重要な研究項目になろ う。このことは物性の正確の測定のためにも不 可欠の要求であることは明らかである。利用面 から要求される良質な結晶は,光の吸収が少な <,電気光学的効果が高く,またスイッチング の繰返しになる疲労が少ないなどの基本物性の 良さを備えると同時に,結晶がへき開や割目を 持たず,加工に適する晶相,強度を有するな ど,結晶学的特性も優れたものでなければなら ぬ。またこれらの諸条件が満たされていても, そのような結晶を育成することの技術的難度が 問題である。複合ビスマス酸化物の多くは,そ の層状構造に由来するへき開ができやすいこと や,キューリー温度以上で晶出した結晶が冷却 過程でキューリー点を通過する際に微細な双晶 群の発生,また物によっては破壊を促すことが 多い。またビスマス酸化物が比較的蒸発しやす いため育成過程で融体の組成が徐々に変化した り,ビスマスを含む融体が一般に化学的に活性 で容器が侵されるなどの問題がある。つまり, 結晶学的特性と育成技術について種々の難点を 持っているわけである。これらの問題点は,特 にBi2WO6のようなタングステン系の化合物に おいて重大であるように思われる。 本研究グループの研究対象は単一物質に限定 されておらず,Bi-Ti-O, Bi-W-O系等比較的 広い範囲に選定されているが,これは良質で且 つ育成技術上の難点の少ない複合ビスマス酸化 物を見出すという開発的な目標と,また同系の 正確な理解のためには同系に包含される広汎な 化合物の比較研究を欠かすことができないとい う学術的要求に基づいている。育成技術そのも のの研究も非常に重要である。同系の系統的合 成によって,育成技術上難点の少ない物質を見 出すのが一方の目標なら,当然他方では育成の 難しい結晶をどうしたらより容易に育成できる かという研究が並行して行われねばならぬ。結 晶育成の主眼はキューリー温度以下での育成に 置かれているが,これは先に述べたとおりキュ ーリー点以上で育成した結晶が同点を通過して 冷却する際に微細な双晶構造をとるのを防ぐた めである。この目的に合う育成法としてフラッ クス法や水溶液法が考えられ,また溶融電解法 を応用した育成が有望と思われるので目下鋭意 研究中である。 Bi4Ti3O12の単結晶 複合ビスマス酸化物のうちの最も典型的な 化合物 おわりに 以上の研究目標はいくらか物質開発的及び技 術開発的な色彩を帯びているが,このような若 干開発指向的研究は常により基本的な研究によ って支えられねばならないことは明らかであ る。合成の基礎としての相平衡研究は,対象と する総ての系について実施,あるいは再吟味さ れることになっている。結晶育成についても, 溶融体からの結晶成長機構のより正確な理解に 裏付られた育成技術の発展が望まれ,そのため には溶融体の構造や物性の研究が必要である。 この方面の主としてX線観察による研究は本グ ループの重点研究の一つである。その他の重点 研究の中には結晶における強誘電体→常誘電体 転移,融体→固体転移の研究,電気光学的基本 物性の測定等が含まれている。 1.13ペロプスカイト型化合物 (昭和48年度~継続) はじめに 旧鉛ペロブスカイト研究グループではPb1-x TiO3-xあるいは,Naで安定化したPb1-xNay TiO3-x+y/2型などの欠陥ペロブスカイトが合成 され,そのユニークな特性が明らかにされた が,この研究から金属酸化物中の非平衝欠陥の 問題がクローズアップされ,反応,物性におけ る構造敏感性の解明が要請されている。本研究 グループではこのような非平衡状態の他,相境 界,非晶質に特に注目し,新しい現象を一つ一 つ丹念に検討すると ともに, 研究手段として今 まで手懸けてきた高圧力を積極的に使おうとす る立場から発足したものである。 1.欠陥ペロブスカイトの合成と物性 (1)希土類添加BaTiO3の物性 BaTiO3に3価の希土類を添加すると,簡単 に半導体化する。例えばBaTiO3にLa3+, Y3+ などを添加すると,その添加量が約0.3at%ま では,添加量の増加とともにその抵抗が減少す るが,添加を更に続けると抵抗は再び増大し, 結局0. 5at%程度の添加によって絶縁化する。 この半導体化の機構について,今まで決定的な 説明はなされていなかったが,これを解明する 研究が次のようになされた。 BaTiO3 に La3+を添加した Ba2+0.9La3+xTi4+ O3+δを作ると,系は0.10≦x≦0.14の組成範囲 で一相である。このときの構造を考える場合, 電気的中性条件の他に,ペロブスカイトABO3 のA位置とB位置の位置数が等しくなければな らない。この二つの条件のもとで計算したA位 置空孔の数は組成パラメーターの増大とともに 減少し,x=0.135でA位置空孔は消滅する。 A位置空孔をもたない希土類添加物は高温で焼 成しても酸素は解離せず半導体化しない。また A位置に空孔があっても,酸素が解離するくら いの高温で焼成しない場合は半導体化しない。 以上の事実から希土類添加物の半導体化は,A 位置空孔の存在によってTi-O6八面体の化学結 合が変化し,高温熱処理によって酸素を解離し やすくなり,その結果残された酸素空孔にトラ ップされた電子がドナーになり起るもの,と理 解された。 電気伝導及びESR (電子スピン共鳴)の結 果もこれに対応する。還元又はGd3+添加して 半導体化した試料の電気抵抗の温度変化から, 活性化エネルギーが0.12eVと求まる。つまり この試料の伝導帯から0.12eV下のレベルに捕 獲されている電子が熱的に励起されて伝導帯 に上り,それが電気伝導にあずかっている。一 方,還元した試料に観測される酸素欠陥(Fセ ンター)のESRの強度も温度変化し,活性化 エネルギーは0.12eVである。そしてGd3+のE SRの強度は温度によってほとんど変化しない ので,少なくともGd3+は電気伝導に関与して いないといえよう。したがって,還元した半導 体チタン酸バリウムでも,不純物添加のチタン 酸バリウムでも同様に酸素欠陥(Fセンター) が電気伝導に関与しているものと思われる。 この希土類添加で半導体化したBaTiO3のう ちのあるものはPTCR効果(BaTiO3の転移 温度以上で電気抵抗が急に数桁増える現象)を 示すが,添加する希土類の種類によってこの性 質がでてくることが明らかにされた。希土類添 加多結晶BaTiO3の,酸素の粒境界拡散係数が 体積拡散係数より十分大きい場合にはPTCR効 果を示し,両拡散係数がほぼ等しい場合には PTCR効果を示さないのである。 半導体化した多結晶BaTiO3の粒境界にBi, Cuなどを熱拡散させると,見掛け比誘電率 50,000にも及ぶ,いわゆる和久型誘電体を得る ことができる。これに対して,ここではBaTiO3 に希土類を十分に添加した試料を空中で焼成し た後,単に空気中で徐冷することにより,和久 型誘電体に匹敵する誘電率と周波数特性をもっ た境界相型誘電体を作り得ることを示した。見 掛け誘電率は希土類の添加量を制御することに より,簡単に制御することができる。 (2) PZT (PbZrxTi1-xO3), Pb1-xTiO3 の組 成変動 ペロブスカイト化合物をエレクトロニクセラ ミック材料として使用する際,性能を“拡散し た形”で要求される場合と“シャープな形”で 要求される場合とがある。磁気コンデンサーと して使用する場合には常温附近での誘電率の温 度変化ができるだけ小さいことが望ましく,こ れは前者の場合であり,PZT系圧電体のよう に,PbTiO3-PbZrO3固溶体の正方相⇄菱面体 相間の昇面組成附近で極大を示す電気機械結合 係数を利用する場合は,後者の問題である。 さて,これまで固体反応でPbO,Ti2,ZrO2 等から得られたPZTでは,X線回折線の広が りからみた組成変動値は必ずしもゼロでない。 これは非平衡欠陥をもつペロブスカイト(Pb1-x □x)Ti(O3-x□x)の研究から新たにわかったこ とであるが,この研究から出発して組成変動を もたないPZTを作成した。まず湿式的にTiO2 とZrO2との固溶体を作り,更にこれとPbO とを固体間反応させてPZTを作ると,得ら れた試料はほとんど組成変動をもたないのであ る。そしてこの試料の界面組成での電気機械結 合係数は,従来方式によって得たPZTの値よ りもかなり大きいものであろうと思われる。 PZT焼結体 共沈法-乾式法を組合せて作製した Pb(ZrxTi1-x)O3の焼結体。左からx =0. 3, 0. 5, 0.8の組成。組成変動が 極めて少なく相界面組成(x=0.5)の ものは電気的特性に優れる (3)その他の研究 格子欠陥と磁気的性質との関係を調べるため に,寄生強磁性を有するランタンオルソフェラ イト(LaFeO3)が取上げられた。試料はLa3+ とFe3+の共沈水酸化物を空気中でいろいろな 温度で焼成したものである。焼成温度が600℃ 以下では非晶質であり,700℃以上で焼成する と結晶性の悪い立方ペロブスカイト構造が得ら れ,更に焼成温度が高くなるとGdFeO3型構 造の斜方晶に変るが,ここに述べるのは1,100 ℃以下で得られた熱的に不安定な結晶について である。 化学分析及び密度の測定から,この不安定な 相中には,ランタン,鉄,酸素のすべての成分 元素の欠陥があり,組成的に La1-xFe1-xO3-3x と表記できることがわかった。また結晶には大 きな格子ひずみも存在する。磁気的性質につい ていえば,磁化率が大きく,転移点が低く,自 発磁化は小さく,更に欠陥を持たないLaFeO3 に比較して反強磁性→常磁性転移のときの磁気 異常ピークが広がっている,などの特徴をもつ ものである。これら一連の結果は,Pb1-xTiO3-x の強誘電的性質の研究において認められた,転 移点の低下,転移点での誘電異常ピークの変化 などと,見掛け上よく似た現象である。しかし 非平衡相のLaFeO3に関して得られた磁気的特 性を解釈するためには,欠陥濃度及びその変動 のみならず,格子不整の存在,あるいは微粒子 (1,000Å以下)による効果なども,あわせて考 える必要があろうと思われる。 最後に欠陥ペロブスカイトの焦電性の研究を 述べておこう。焦電材料は例えば,焦電型赤外 線検出器として使われるものであるが,それに は焦電係数が大きいこと,誘電率が小さいこと などが要求される。そしてこの観点から欠陥ペ ロブスカイトを考えてみると,それらは組成変 動を含んでおり,2次転移的になり,焦電係数 が大きくなり,また焦電圧も欠陥量によって制 御し得ることが予想されるなどのことから,新 しい焦電材料の開発が期待できると思われるの である。基礎研究として,厚さ制御をしたゲル マン酸シリコン酸鉛(Pb5Ge3-xSixO11)単結晶 の焦電特性の測定を行い,この物質が焦電材料 としても十分実用に供されるほど優れているこ とを明らかにしている。 2.非晶質の結晶化とその物性 これは超高圧力を主な研究手段とする立場か ら取上げたものである。最近非晶質が注目を集 めているが,高圧の立場からも興味のある事柄 が見出されている。それは非晶質InSb, Ge, Siなどが高圧下では結晶の場合に比べて低い圧 力で金属化する,という現象である。 結晶のInSb, Ge, Siはいずれもダイヤモン ド構造であるが,これらは23,100,150kbar ですべて,白錫構造に変り金属化する。これに 対して非晶質のInSb, Ge, Siは金属化の圧力 が約60%程度に下り,それぞれ13, 60,100kbar で転移する,というものである。しかも結晶構 造的に金属化前後の挙動は必ずしも同じではな い。高圧下のX線回折によると転移の前後で非 晶質構造を変えないもの(Si),転移が2段階に 起り,2段目の転移を終えると結晶の場合と同 じ挙動を示すもの(Ge), NaCl構造を析出する もの(InSb)等,非常に多様である。 そこでこの点を詳しく調べるために,高圧を 加えた後回収して電子線回折測定ができるよう に整えた薄膜試料が作成され。た試料は,InSb, Geであるが,これが始めに非晶質であること は,電子線回折から調べてある。そして,半導 体―金属転移圧以上の高圧を加えた後取出した 薄膜に,やはり電子線回折の測定を行ったとこ ろ,まずわかることは,加圧による結晶化は高 圧をかけたものほど,著しいということであ る。そして結晶化は一様でなく,結晶化領域の 近傍には非晶質のままの部分も存在した。また この結晶化は多くの場合,ある限られた空間領 域で方位をそろえて起り,その結晶構造はダイ ヤモンド構造,白錫構造,既知のSi Geの高密 度相(BC8, ST12)とは異なる新しいもの であった。非晶質の高圧による結晶化はこのよ うに複雑であって,構成元素が更に変った場 合,また新しい問題が起るであろうと十分予想 される。このことを調べるためには,より高圧 が必要でもあろう(例えば結晶GaAs, GaPの 転移圧はそれぞれ180, 240kbar)。あるし、は,上 記の実験に用いたブリッジマンアンビルの一軸 性が結果を左右しているとも考えられる。とす ると,より静水圧性の高圧容器が必要にもなろ う。いずれにせよ,高圧装置の研究を同時に並 行して進めることが望まれるのである。 3.超高圧力の発生 圧力発生をなるべく系統的に行うために,圧 力媒体の性質を調べることから始められた。固 体圧力媒体の一つの主な役割は封圧であるが, それを最も純粋な形で使っているのはブリッジ マンアンビルである。これは上下押しの単純な アンビルで,その間に圧力媒体(パイロフィラ イト)が入り,アンビルの荷重に伴って圧力媒 体が塑性流動状態になり中心の高圧を支える, というものである。力のつり合いとしては,中 心の高圧が,塑性流動状態になった圧力媒体の 剪断応力で支えられ,平衡状態が実現している のである。 ブリッジマンアンビルで圧力を発生させ,発 生圧力,荷重,加圧時の圧力媒体の厚さ,取出 した後での圧力媒体の厚さなどの量を組合わせ ると,圧力媒体の剪断強度が圧力の関数として 求まる,ということが見出された。それを用い て解析すると,ブリッジマンアンビルの中心発 生圧力100kbarまではパイロフェライトはほぼ 一定の大きさの剪断強度 (104kgcm-1)を持つ が,その後は塑性流動せず,荷重によってアン ビル面が平均に加圧されるのである。 しかしこの結果はアンビルの大きさに無関係 に成立するのであろうか。上に述べた剪断強度 を求めるときの関係式では,幾何学的な相似則 が成立することが示されているが,このことを 確かめるために,3倍の大きさのブリッジマン アンビルが作られた。そしてこの大型アンビル について同様な実験を行った結果,やはり幾何 学的な相似則が成立していることが得られたの である。 そこで,より高い圧力を準静水圧的に発生さ せるために選ばれた装置―6-8アンビル(第 1段6個のアンビル,第2段8個のアンビルの 多段式多重アンビル装置)での圧力発生の研究 が,今までのデータをもとにして進められるこ ととなった。装置はブリッジマンアンビルに比 べると,ずっと複雑であるが,部分部分の圧力 媒体のはみ出しはすべて塑性流動であるため, すべて同じ考えで進められるはずである。しか し,ブリッジマンアンビルでの結果は半ば使え ないものであった。例えばパイロフェライト が,中心発生圧力100kbar以上では塑性流動 しなくなるのは同様であるが,ブリッジマンア ンビルの非分割の円板の結果は,分割された封 圧板や崩れて流出す媒体等の場合には使えな い。見掛けの剪断強度は非常に小さくなってお り,その事実の上に立って研究を系統的に進め つつある状態である。 その他高圧を用いた研究として,物性に関す るものと合成に関するものを,以下一つづつ述 べることにする。 ペロブスカイト型化合物のチタン酸ストロン チウムSrTiO3は110Kで相転移する。Tiを囲 む酸素の正八面体が低温で回転を始めるのであ るが,とにかく低温相で対称性が悪くなるので ある。圧力をこれに加えたら,対称性を悪くす るほうへいくかどうかは,結晶化学的に興味の ある問題であるが,30kbarまでの実験の結果 では,高圧下で対称性が悪くなりやすい,とい うものであった。のみならず,転移温度が圧力 を増すとともに非線型的に上昇するのである。 これは単純な相転移の機構では起り得ないこと である。例えば,上記正八面体が非常に固く, 縮みにくいために,単位胞の収縮に伴って回転 を起こすとすれば,転移温度は圧力に比例して 変化するのみである。もし高圧で光学測定が行 われ,格子振動の圧変化と組合わすことができ れば,相転移を引き起している力の性質が理解 されるものと思われる。なお同じ種類の相転移 をするKMnF3についても,高圧下の挙動は同 じであった。 高圧合成で現在,興味が持たれているのはA BO4の高圧相転移である。これまで知られてい るようなものを一,二挙げると,AlAsO4は常 圧では水晶型の構造であるが,高圧下ではルチ ルになり,CrVO4は斜方晶系からルチル型に, NiMoO4はCoMoO4型からウオルフラマイト 型に,ThSiO4はジルコン型からCePO4型に, またHoVO4は同じジルコン型からシーライト 型に転移を起している。ところで,これらの転 移によって得られる高圧相はいずれも常圧でも 今まで知られていたような結晶形であったが, 常圧下でシーライト型の構造をもつBaWO4と PbWO4に圧力を加えたところ,今まで知られ ていなかった新しい構造が得られた。すなわ ち,常圧型のシーライト相では,Baの周辺の 酸素の数は8個で,Wの周辺では4個であるの に対し,高圧形ではそれぞれ9個又は8個と6 個,というように陽イオンのまわりの酸素の数 が増加しており,安定なより稠密な構造が見出 されたのである。 おわりに 当研究グループでは非平衡状態の新しい現象 を一つ一つ丹念に検討することを目的としてお り,組成変動に焦点をあてた研究から,逆に組 成変動のほとんどない材料を開発したのであっ た。この方面の研究は今後も続けられる予定で ある。また非晶質の高圧下での結晶化により, 常圧で得られない新しい結晶構造が作られた が,おそらくこの手法はⅣb族Ⅲb-Ⅴb族に限 らず,他の組成にも適用範囲が広げられるもの と思われる。 2.窒化物系無機材質 2.1窒化アルミニウム (昭和42年度~47年度) はじめに 窒化アルミニウムは高温での強度が高く,化 学的耐性にも優れているので,耐熱材料として 有用と思われる。また熱伝導性の高い電気絶縁 体なので電子工学材料としても有望と考えられ る。 しかし,今までのところあまり実用されてい ない。これには種々の理由があろうが,結局は 製品の価格に見合うような用途が開発されてい ないためである。 本研究は窒化アルミニウムの応用方面開拓の 基礎資料を提供するため,まずなるべく純粋な 試料を合成し,ついで良質大型の単結晶を育成 し,その物性を測定することを目標に,薄膜, 焼結の問題も併せて研究を進めることとした。 本研究は高純度の窒化アルミニウムを得るこ と及びその特性を調べることを主眼点として進 められた。 高純度窒化アルミニウムの合成法としては特 に純度の高い試料を得るためのアーク法と経済 性を考慮したセルペック法とが主に研究され た。 単結晶の育成及びその形態に関する研究では 主に昇華再結晶法で結晶の育成を試み,結晶の 育成条件,不純物の存在などが,結晶の成長速 度,形態に及ぼす影響を詳細に調べた。 高純度窒化アルミニウムの高密度焼結体を得 るため,上記の実験で得られた試料を中心に研 究が行われた。 高純度粉末試料及び単結晶を用いて光物性, 特に紫外吸収,螢光などの測定が行われた。 ち密な窒化アルミニウムの薄膜を作製しその 電気的特性,特に負性抵抗の出現についての研 究が行われた。 当研究グループが作製した試料によって, ESR,熱伝導,X線のコンプトン散乱などの実 験が,所内外のメンバーによって遂行された。 また当期間中,当グループのメンバーによっ て窒化アルミニウム以外の物質を対象にした研 究も若干行われ,X線トポグラフィーによる水 晶の研究,硫化錫の螢光の研究,硫化亜鉛の共 鳴ラマン効果の研究などで成果が得られた。 以上の研究に対する詳細は無機材質研究所報 告書第4号に記載されている。なおこの報告に は窒化アルミニウムに関する資料及び文献目録 もⅢ.1.の項に印刷されている。 1.高純度粉末の合成 我々が研究を開始した昭和42年に,我が国で は既に東芝セラミックス及び日本電工の二社 が,窒化アルミニウムの粉末を市販していた。 我々はこれらの粉末を購入して実験に使用した が,純度は必ずしも満足すべきものではなかっ た。 当初どのような合成法を採用するかについて いろいろ検討した結果,主として電弧法を採用 した。 これは生産量が少ないという欠点はあるが製法 が簡単で純度が高いものが得られると考えられ たからである。 後で振り返って見れば,生産量の少ないこと に悩まされはしたが,純度の高い試料を使うこ とができたことは研究を進める上で好都合であ った。 研究の進展につれて,窒化物に含まれる不純 物酸素がその性質に重要な影響を持つことが明 らかになったが,化学分析で酸素を定量するこ とはあまり容易ではない。幸いにして高速中性 子(14MeV)による放射化分析法が酸素の定量 に好適であることを知り,これを採用した結果 研究が大いに進展した。この分析は主に大工試 の中根博士にやって頂いた。記してここに謝意 を表したい。 空気中に放置された窒化アルミニウム粉末は 通常2~3 %の酸素を含む。窒素気流中で熱処 理すれば0. 2 %程度まで減らすことができるの が限度である。したがって酸素含量を0.1%以 下にするためには空気との接触を極力少なくす る必要がある。単結晶の酸素含有量は装置の関 係で測定できなかったのは残念である。 酸化アルミニウムと炭素を窒素気流中で加熱 して窒化アルミニウムを作るいわゆるセルペッ ク法は価格の安い原料の製法として適している と考えられるので,これについて研究し焼結体 の原料として十分使用できることを示した。 2.単結晶の育成 単結晶の育成は物性の研究上も是非必要なの で,当初から精力的に研究が進められた。まず 最初の成果としてしばしば得られる針状結晶の 主な成因は,原料又は炉材の不純物として含ま れていた鉄を液体要素とするVLS機構による ことが発見された。その他結晶育成条件と結晶 形態との関係が調べられ,例えば一酸化炭素ガ スの存在が結晶の形態に大きな影響を有するこ とが明らかにされた。 窒化アルミニウムは圧電結晶なので,超音波 電気の変換器として使える。しかし生成条件に よっては圧電気の観測されない結晶ができる。 この原因についても考察を加えた。 3.焼結 焼結の研究においては高密度焼結体を得るこ とを目的として加圧焼結法が採用された。ほぼ 理論密度に近い高密度の焼結体が得られたが, このものはかなりの量の酸素を含み,酸素量を 減らすと密度が下る。この点が高純度高密度焼 結体を得るための問題点として残された。 薄膜の研究はち密な絶縁性窒化物薄膜を得る こと,その電気的性質を調べることに集中され た。化学蒸着法や活性スパッタリング法ではち 密な膜は得難いので,蒸着アルミニウムの表面 を窒化する方法が試みられたが,窒素ガス中に 微量(10-6Torr)の水蒸気が混入すると窒化物膜 が生成されないことが明らかにされた。超高真 空を利用することにより,ち密な窒化物薄膜が 得られるようになり,それが示す負性抵抗特性 を測定した。 4.光物性 光物性の研究は粉体の螢光の測定から着手 し,順次分光器,クライスタットなどの整備に 伴って,低温での光の吸収,螢光などの測定が 可能になった。これと併行して単結晶も得られ るようになったので実験が本格的になって行っ た。しかし結晶の質の問題,不純物の付与の技 術など改善を必要とする点も多い。 X線回折顕微法(ラング法)によって結晶の 完全性を調べることは窒化アルミニウムの結晶 に限らず,いろいろな結晶の特性や成長機構を 調べる際の有力な手段である。本装置を設置 し,その調整段階で調べた人工水晶で,転位の 存在,不純物の偏折等の確認に役立つことを立 証した。窒化アルミニウム結晶については,結 晶の大きさ,完全性等の関係で十分機能を発揮 するまでには至らなかったが,実験方法等に更 に工夫を加えると有力の武器となるであろう。 〔註〕VLS機構とは結晶成長の機構の一つで Vapor (気体)の分子がLiquid (液体)の溶媒 に溶けて,そこからSolid (固体)の結晶とし て析出すような過程をたどって行われるものを いう。代表的な例としてSiの気体がAu液体 に溶けてSiの針状結晶が成長する。 おわりに 窒化アルミニウムの研究を開始して以来,研 究終了に至る6年間に,かなりいろいろなこと が明らかになったが,問題点は明らかになった が,力及ばずして未解決に終った問題も少なく ない。 これらの中から二つだけを挙げることにす る。第一は不純物酸素の問題である。窒化アル ミニウムの粉末を空気中に放置すると酸素が入 込む。一旦入った酸素は加熱処理等の手段を尽 くしても0.1%程度はどうしても取切れない。 不純物酸素が窒化アルミニウムの性質に大きな 影響を持っていることは,焼結単結晶育成,薄 膜の生成の各実験で明らかになっているが,詳 しいことは明らかにできなかった。この事実は 窒化アルミニウムに限らず他の窒化物にも共通 の問題であるので,窒化アルミニウムグループ の終了に次いで発足した他の窒化物の主要関心 事として引継がれている。 第二は薄膜の示す負性抵抗の問題である。絶 縁物の薄膜は窒化物に限らずこの負性抵抗を示 すものは多いが,この機構は明らかになってい ない。ただ窒化アルミニウムの場合,薄膜がち 密で特性のバラツキが少ない。この事実は負性 抵抗現象の解明には有利な条件で,窒化アルミ ニウム薄膜による実験データが問題解決の端緒 になることを期待している。 この問題も他の絶縁性窒化物薄膜と併せて研 究が進められている。 AlNの単結晶群 レリー法によってAlNのるつぼの内部に成長した AlNの単結晶群。 大きいものは長さ50mm以上に達し,AlN単結晶と しては世界最大級である。 2.2窒化けい素 (昭和47年度~継続) はじめに 窒化けい素(Si3N4)は地殼中には存在しない 物質で,前世紀の中頃デビレとウイラーによっ て初めて合成されたといわれている。ただし酸 窒化けい素(Si2ON2)はパキスタンのシンド地 方に落下した隕石の中から極微量が発見され, シノイトという鉱物名が与えられている。 窒化けい素に関する研究は,従来は単なる科 学的興味で行われていたが,近年新材料の開 発,特に宇宙工学,原子力工業,電子工業材料 の研究が進むにつれて (1)高温度(1,300~1,600℃)に耐え,焼結 体は高温での機械強度が大きく,また硬度 も非常に高い (2) 熱伝導率が大きく,熱膨張率が小さいの で急熱急冷によく耐える。 (3)電気絶縁性が大きく,化学薬品にも侵さ れにくい。 (4)溶融した非鉄金属に対する耐食性が強 い。 などの優れた性質が明らかになり,耐熱材料, 電子材料として注目されはじめている。 現在窒化けい素は,炭化けい素質耐火物の結 合材に利用され,また溶融アルミニウムの汲出 用ポンプの部品やアルミニウム溶解炉のライニ ングなどに使用されているが,その量はわずか である。 しかし最近,最も有望視されている用途とし ては第1に,耐熱合金の使用限度を越た高温度 で使用するガスタービンの耐熱翼や多目的高温 ガス原子炉の熱交換器などのいわゆる耐熱構造 材料の分野である。 非金属無機質材料を金属のかわりに,高温高 応力構造材料として使用する試みは,今から約 20年ほど前にジェットエンジンのタービンブレ ードとしてサーメット(非金属無機材質粉末と 金属粉末の焼結体)が研究されたが,これは結 局“もろい”性質のために失敗に帰した歴史が ある。 窒化けい素を上記目的に使用する研究は第2 回目のチャレンジであり,これが成功するか否 かは今後の研究にまつところが大きい。アメリ カのナショナル・アカデミー・サイエンスの予 測では1982年ごろまでに大略のメドが得られ, 試作をほぼ完了するのではないかと報告してい る。 第2の利用分野は,窒化けい素薄膜の半導体 工業に対する応用である。Si3N4薄膜はSiO2薄 膜よりもアルカリ不純物の拡散に対して強い抵 抗を示すので,IC回路における不純物拡散マ スク,表面安定化保護膜,また極最近ではMIS 電界効果トランジスター,MNOS メモリ素子 などとしての開発も期待されている。 以上のように窒化けい素の用途は将来に対し て非常に大きく開いているが,本格的研究は極 めて最近開始されたばかりであるので,未解決 の問題が非常に多い。 まず各種物性に関するデータのほとんどが工 業的に製造された不純物の多い試料についての 測定値で,真の値とはほど遠い。真の性質を調 べるためには大形の単結晶が必要であるが,窒 化けい素は大形単結晶の合成が非常に難しく, 現在では数ミリメートル程度の単結晶さえ得ら れていない。 次に窒化けい素には低温型のα-Si3N4と高温 型のβ-Si3N4の二つの多形が存在しているが, 両者間の転移の機構が不明で,合成の際にこの 両者が混在し,単相のみを合成することが困難 である。最近α-Si3N4は窒化けい素の多形の一 つではなく て Si11.5O0.5N15 という組成を有する 酸窒化けい素の一つであるという説も有力にと なえられている。 更に窒化けい素粉末だけを焼結しても多孔質 のものになりやすく,理論密度近くまでに焼き しまった強度の強い焼結体がなかなか得にくい ので,焼結促進剤を加えて焼結している。しか し促進剤の添加量が多くなるとせっかくの窒化 けい素の良い性質が損なわれてしまう。 そこで以上の諸点を考慮して,窒化けい素研 究グループでは,窒化けい素利用の基礎的問題 を解決することを目的として昭和47年4月から 5年計画で,研究に着手した。 1.高純度Si3N4粉末の合成 高純度の窒化けい素粉末を得るために主とし て二つの合成方法について研究を行った。 一つは高純度シリコン粉末を窒素中で1, 400 ℃付近に加熱して直接シリコンを窒化させる方 法である。本法は,α-S3N4とβ-Si3N4の混在 は避けられないが,多量の粉末を得るのに適し ている。 現在シリコン粉末がどのような過程で窒化さ れるのかについては疑問な点が多いので,まず この点について検討を進めた。その結果,まず シリコン粉末の表面が窒化されてSi3N4膜が形 成され,次いでこの膜が300~500Å (オングス トローム,1Åは1億分の1cm)程度の厚さに 達すると膜にき裂が発生したりはく落を生じた りして新しいシリコン面が露出し,これがまた 窒化されるという過程を繰返すものと推察され た。また生成した窒化けい素粉末中でのα型と β型の混合割合は,窒化雰囲気中の酸素の分圧 が大きくなるとα型の割合が多くなることも明 らかとなった。 次にα型のみの高純度粉末を得る方法とし て,SiCl4とNH3を反応させて得られるシリコ ンジイミドを窒素中で熱分解してα-Si3N4粉末 を合成する方法について検討を加えた。本法は 不純物として酸素を含みやすいので,この点に 注意して加熱雰囲気中の酸素分圧を10-12atm 程度におさえることによって,酸素含有量が2 %以下で,Al, Mg, Niなどの不純物がレーザー ・マイクロ ・スペクトル分析でこん跡程度の高 純度α-Si3N4粉末を得ることができた。 2. α-Si3N4単結晶の合成 α-Si3N4が窒化けい素の1種であるのか酸窒 化けい素の1種であるのかの論争に判定を下す ためには,精密結晶構造解析が可能な大きさの 高純度単結晶を合成することが必要である。現 在単結晶が合成されていないために粉末試料を 用いて議論を行っている。しかし粉末のα-Si3N4 は前記したように不純物として酸素を含みやす いので,粉末試料からは正当な判断を下すこと は不可能である。 そこで各種の単結晶育成方法について実験を 進めた結果,約1年がかりでSiCl4-N2-H2系ガ スを用いる気相反応合成法によって,大きさ約 0. 2~0. 5mm程度で六角柱状の自形を有する高 純度α-Si3N4単結晶の育成に成功した。単結晶 の酸素含有量は14MeV中性子放射化分析で 0.05~0.09%,その他の不純物はレーザー ・マ イクロ・スペクトル分析及びイオンマイクロ分 析でこん跡量のFe, Mg, Ca,Clが検出される程 度であった。現在純度とし、い,大きさといい世 界でも最高級のものである。これによって後述 するように前記論争を一挙に解決することがで きた。 α-Si3N4単結晶 気相反応法によって合成されたα-Si3N4 3. α-Si3N4結晶の精密構造解析 上記α-Si3N4単結晶について四軸型X線単結 晶回折計を用いて精密構造解析を行った。その 結果Si-N原子間距離は平均1,743Å近傍の狭 い範囲内にあり,Si-O結合と考えられる異状 に短い原子間距離は認められなかった。同様の 傾向はN-N原子間距離及び結合角についても 認められ,また原子位置の占有率も1.0からの 大きな偏差は認められず窒素原子の位置に酸素 原子が置換していると見なされる事実は認めら れなかった。 以上の解析の結果及び単結晶の酸素含有量が 0.05%であるという事実から,α型窒化けい素 はSi3N4の組成を有する窒化けい素の多形の一 つで, Si11.5O0.5N15の組成をもつ酸窒化けい素 とは認められないことを明確にした。 4.焼結 Si3N4焼結体を得る方法としては,現在反応 焼結法とホットプレス法が主流をなしている。 反応焼結法はシリコン粉末に少量の結合剤を 加えて希望の形状に成形し,窒素ガス中で1,200 ~1,450℃に加熱してSiとN2を反応させてSi3 N4焼結体を作る方法で,複雑な形状のものを 寸法精度よく焼結することができる。しかし焼 結体が多孔質で,強度がホットプレス法よりも 弱いという欠点がある。本方法に対する基礎的 研究として,シリコン粉末の窒化過程,粉未の 粒度と窒化速度の関係を明らかに,した。また焼 結体の開孔に溶融シリコンを含滲させることに よって,焼結体の1,400 ℃までの耐酸化性を著 しく向上させる方法を開発した。 ホットプレス法は,Si3N4粉末を黒鉛型中で 加圧しながら窒素雰囲気中で1,600~1,900℃の 高温に加熱して焼結させる方法であるが,Si3N4 粉末だけでは気孔が残り高密度の焼結体が得に くい。そこで各種の焼結促進剤について,その 種類,添加量,添加による各種性質の変化など を検討中である。 Si3N4の焼結方法としては,他の材料に広く 使用されているプレシュアーレス・シンタリン グ法は不適当である。その理由は,プレシュア ーレス・シンタリングでは一般に焼結温度を高 くすると気孔の少ないち密な焼結体が得られる が,Si3N4の場合はl,650℃以上に加熱すると, Si3N4が一部分解してかえって気孔が増大し密 度が低下するためである。 そこで,焼成雰囲気を大気圧以上にしてSi3N4 の分解をおさえ,ホットプレスと同様に1,600 ~1,900℃の高温で焼結させる新しい方法を考 えた。現在10気圧の窒素雰囲気中で,少量の MgOその他の焼結促進剤を添加したSi3N4成 形体を1,800℃で加熱することによって,理論 密度の95%に遠する高密度の焼結体を得てい る。本方法によれば,ホットプレスのように高 価な黒鉛型や高圧のプレス装置が不要になる。 5.薄膜の育成 SiO2-C-N2系及びSiH4+NH3+N2系の気相 反応によるSi3N4薄膜の育成並びに真空蒸着法 によるSi3N4及びAlNの薄膜について検討を 加え,特に金属―絶縁体―金属型ダイオードの 電圧―電流特性を明らかにし,負性抵抗素子と しての特性について検討を加えている。 6.高温特性 窒化けい素は常圧下では溶融せず分解する性 質を示すので,耐火材料としてはその分解温度 が問題となる。過去において分解温度として, 平衡蒸気圧と温度の関係から推定した値及びそ の他の方法によって測定された値が発表されて おり,1,820~2,000℃付近の間に分散してい る。そこでSi3N4-C(黒鉛るつぼ)-N2 (一気圧) 系について直接法によって分解温度を測定し 1,839±14℃の値を得た。 またSi3N4焼結体は,空気中又は微量の酸素 の存在する雰囲気中で使用されることが多いの で,使用中どのような変化を受けるのか,また 焼結体中に不純物として微量のSiO2の存在は 避けられないので,Si3N4とSiO2が共存した条 件下で上記雰囲気中でどのような変化を受ける かを知ることが大切である。 そこでSi3N4及びSi2ON2を窒素雰囲気(ただ し酸素<0.5ppm,露点<-60℃)中で1,630~ 1,730℃に加熱してその変化を調べた。α-Si3N4 はこの条件下ではβ-Si3N4に変化し,もしSi3O2 が共存すればSi2ON2も生成する。しかしSi2ON2 は開放条件下では高温でSiOとN2を放出して β-Si3N4に変化することを明らかにした。 更にα-Si3N4とβ-Si3N4では,いずれか高温 酸化を受けやすいかについて検討し,1,200~ l,400℃の温度ではβ型の方が耐酸化性が強い 結果を得た。 なお合成したSi3N4中のN2の化学分析方法 についても検討し,従来よりも精度及び再現性 よく定量する方法を開発した。 おわりに 研究は現在続行中であるが窒化けい素利用の 基礎的研究として問題になっていた点のうちで (1)α-Si3N4の単結晶を育成しその精密構造の 解析及び(2)Si3N4の高温加熱による変化などを 明らかにすることができた。 今後に残された大きな問題としては,いかに して高温強度が大きく,熱衝撃にも強い焼結体 を得るかについての基礎的研究として,焼結促 進剤の探索,新しい焼結方法の開発,脆性材料 の破壊機構の解明などがある。今後できるだけ これらの点についても取組む予定である。 2.3窒化ほう素 (昭和48年度~継続) はじめに 窒化ほう素は構造・性質など炭素と類似した 点の多い化合物で,低圧型六方晶のhBNは構 造が黒鉛と似ている。性質も白色で電気絶縁体 である点を除けば似ている点が多い。したがっ て固体潤滑材,離型材に多く使われたり,成型 品は機械加工が可能なので,高精度の耐熱絶縁 部品として利用されている。 高圧型はダイヤモンドと同様な構造の立方晶 のcBNとウルツ型構造のwBNがあり,硬度 が極めて高いので研摩研削材として有用であ る。 窒化ほう素に関する研究は既に多数発表され ているが,いろいろな点で未だ不明確なことが たくさんある。 窒素と硼素はそれぞれ元素の周期表の一番上 の行に位置する元素で,この両者の化合物であ る窒化ほう素はある意味では化合物の一つの原 型と考えることもできる。したがってこの化合 物の諸性質を明確にすることの意義は小さくな い。 本研究の目的はこのように未だ明確にされて いないいくつかの点を明らかにすることによっ て,無機化合物に対する知識を広げるととも に,窒化ほう素の応用面を広げるための基礎と なる資料を提供することである。 なお本研究は炭素の研究と相補う点も多いの で,関連グループとも良く連携して研究を進め ている。 1.低圧型窒化ほう素の合成及び単結晶の育成 低圧型窒化ほう素(hBN)は黒鉛と同様二次 元網面の積重なったような構造を有するが,二 次元網面間の結合が弱いため,積層構造が乱れ やすく,よい結晶が得難い。規則正しい積層構 造を持った結晶を作ることはhBNに関するい ろいろの測定を行う上で必要であるばかりでな く,cBN合成の原料としても重要である。 具体的には(1)BCl3-N2-H2系による減圧下で の気相合成,(2)昇華法による単結晶の育成,(3) シリコンフラックス法による大型良質単結晶の 育成を進めている。今までのところ,昇華法に よる結晶の電子顕微鏡観察で種々の形態のもの が見られ,結晶成長機構を考察する上で有力な 手掛りになるものと思われる。またフラックス 法でl/2mm程度の結晶が得られている。なお フラックスから析出させる方法はhBNの精製 にも利用できる。 2.高圧力型窒化ほう素の合成及び焼結 高圧力型窒化ほう素はダイヤモンドのように 極めて硬く,不純物を含まないものは伝熱性が 常温で銀の数倍に達するものと期待される。特 殊鋼に対する研削材としてはダイヤモンドをし のぐといわれて既に実用されているし,伝熱性 の高い点に着目して電子部品の伝熱材料として の用途も期待されている。 高圧力型窒化ほう素の合成はダイヤモンドの 合成とほぼ同一の装置を用いて行われる。ただ しダイヤモンドの場合,合成触媒としてはニッ ケルを代表とする遷移金属が主に用いられ,そ の作用機構もある程度明らかになっている。し かし窒化ほう素の場合は主に窒化マグネシウ ム,窒化リチウム等が用いられ,その作用機構 もダイヤモンドの場合ほど明確にはされていな し、。この触媒作用を明らかにするとともにより 効果的な触媒を得ることに努めている。ウルツ 鉱型窒化ほう素(wBN)は衝撃波を用いて,低 温高圧力下で合成される。hBN, cBN, wBNの 三者はそれぞれどのような温度,圧力下で安定 に存在し得るものなのか,その境界はあいまい なところが多い。日本油脂KKで衝撃波法で作 られたwBNを出発原料として,この三者の安 定領域を確立する実験を行っているが,いくつ かの新しい知見が得られている。 強固なcBNの焼結体は実用価値が大きいの で,高圧力下の焼結で強い焼結体を得るため, 出発原料,触媒等に対して検討を加えている。 上記の諸実験を行うに当って,高圧力装置に 種々工夫を加えて,100kb (10万気圧)1,600℃ 程度の実験を安定して行える目途をつけ特許出 願中である。また大型の装置は実用化の段階で 重要な意味を持つと考えられるので,鋭意その 実現に努力している。 フラットベルト型超高圧力発生装置 アンビル(左)先端径14mm,シリンダー(右) 内径14mm,アンビル傾斜角18℃のフラットな ベルト装置。8φ×5mmの試料を100kb以上の圧 力に加圧できる。 アンビル及びシリンダーの形状及び積層ガスケ ットの効果で著しく超硬部材の耐圧性が増して いる。 前方は加圧後の積層ガスケットである。 合成触媒の作用機構や不純物の合成に及ぼす 影響を知るためには,合成条件をいろいろ変化 させて見るだけでなく,得られたcBN結晶等 を種々の手段で観察することが重要である。 光学顕微鏡や電子顕微鏡による観察は最も基 本的な手段である。cBNは通常八面体結晶と して生成する。極性を有するため,極性面であ る(111)と(111)との間には表面構造には大き な差が見られる。前者は直線的なステップから なる面であり,後者は不規則な曲線的図形をも つ面である。またエッチピットの観察により前 者には線状欠陥が後者には点状の欠陥が比較的 多く存在することが見出されている。 Mg3N2触媒を用いて合成したcBN結晶の表 面は不純物の酸素が多く存在すると,触媒との 反応で生成したMgOの作用で荒れた状態を呈 する。美しい結晶を得るためにはこのような不 純物の混入を防ぐことが必要である。 また光の吸収,螢光,ラマン効果等による測 定の結果からも手懸りが得られるものと期待し ている。 3.光物性 hBNは層状化合物の一典型と考えられる。 このように強い異方性を有する層状化合物の光 学的物性を理論的,実験的に解明する。この結 果は他の物性の解明にも大きく寄与することと なろう。 なお前述のごとく hBNの単結晶の良質のも のは得難いので他の層状化合物例えばSnS2等 を用いての実験も行っている。 最近購入されたレーザーラマン測定装置を用 いてZnS-Mn螢光体のMn不純物による共鳴 ラマン散乱の研究を行いこの装置が固体研究の 有力な武器たり得ることを確かめた。 4.薄膜 硼素は電気伝導性を持たないので,窒化アル ミニウムに用いた薄膜の製法はそのまま適用し 難い。しかし反応性スパッタリングにより窒化 ほう素の薄膜の作成に成功し,電子線回折,赤 外線反射等により,窒化ほう素の薄膜であるこ とが確認できた。 窒化アルミニウム薄膜と同様にM-I-M素子 を作って,電気的測定を行った結果,負性抵抗 の発現を確認できたが,特性値はかなり異な る。 おわりに 今後hBN, cBNの良質の結晶が得られるに 従って,現在得られているより精度の高い光物 性の資料を整備するとともに,合成機構等を解 明する手懸りを得ることに努める。薄膜に関す る研究においては更に研究を進めて負性抵抗の 出現する機構の解明に努めるとともにこのよう な素子の応用面の開拓も努力する。 3.硫化物系無機材質 3.1硫化鉄 (昭和43年度~47年度) はじめに 自然鉱物としても合成品としても既知であっ た磁鉄鉱Fe3O4のOをSで置換した硫化鉄Fe3 S4の存在は,百年以上も前から追求され,時 折よい接近があった。しかしFe3S4の合成,結 晶構造及び磁性観測は1960年になって始めて山 口及び桂井によって行われた。その後,1964年 に米国カリフォルニア州の地層中に同一の硫化 鉄が発見され,続いて日本を含めて世界の各地 で地質鉱物学的にまた合成化学的に研究されて 今日に至っている。スピネル型磁性硫化鉄の鉱 物名はグレーギットと呼ばれている。天然物と してのグレーギットの最大の沈積は,ソビエツ トロシアの黒海沿岸である。風が吹いて波立つ ときに海が黒く見えることから,黒海の名称が 由来するのであるが,その沿岸の干潟の黒色沈 積体はメルニコヴァイトと呼ばれ,非晶質の磁 性硫化鉄からなっていることは古くから知られ ていた。この硫化物が,進歩したX線-電子線 の高分解能回折法によって,スピネル型硫化鉄 と同定された(1970年)。そのために,ソ連科 学者はスピネル型磁性硫化鉄をグレーギットで はなくて,メルニコヴァイトと呼ぶことを主張 している。 以上のような発見の経緯をもつグレーギット は,1960年代の後半から1970年代の前半にかけ て世界中で新化合物として取上げられ,その合 成,物性,構造等が追跡された。無機材質研究 所の硫化鉄研究グループもまたグレーギットに 関する問題を中心テーマとして,昭和43年から 48年まで内外のグレーギット研究者群に伍し た12)。 それの発見が遅れたグレーギットの合成に は,特別にコントロ ールされた条件が必要であ った。化学的に沈澱させられた硫化鉄の水熱処 理によってグレーギットが生成するが,この場 合に急冷法が不可欠であった。また,鉄板を電 気化学的に腐食することによってグレーギット を生成する場合には,電解液のpHがコントロ ールされねばならなかった。 人工的に合成されたグレーギットは,その結 晶粒の小さいせいもあって空気に触れると容易 に酸化される。グレーギットの発見の遅れた原 因がこのところにもある。各グレーギット粒子 を合成樹脂で包むマイクロカプセル法によっ て,その酸化を防止することができた17)。 合成 グレーギットの酸化されやすい性質に着目し て,それを化学合成における還元剤として応用 することが考えられた。 グレーギットは強磁性体である。その飽和磁 化は,鉄の硫化物中で最高であって,フェライ トに比肩的である。しかし,フェライトと異な って残留磁気の小さい軟磁性体としてグレーギ ットは特徴的である。 グレーギットの結晶は機械的ひずみを受けや すい。スピネル型格子の3回軸に平行に伸びや すく,その結果として,グレーギットにピロタ イト様の格子をもつようになる。 合成の条件によって,Fe3S4で表式されるよ うな完全スピネル型のグレーギットが生成され るが,異なった合成条件では欠陥スピネル型グ レーギットが得られる。磁性は両者の間でほと んど差がないが,還元性は欠陥型の方が強い。 1.グレーギットの合成法 硫酸第一鉄の水溶液に硫化ソーダのそれを加 えることによって得られる黒色硫化鉄の懸濁液 を封管中で190℃まで加熱し,その後ただちに 封管を水中に投ずることによって急冷する。こ のような水熱処理を経た硫化鉄はシキソトロピ ーを示すのみならず,外部からの小磁石片に敏 感に応答する強磁性体となっている。この強磁 性硫化鉄を電子線あるいはX線の回折によって 分析すると試料は空間群Fd3m,格子定数9. 85 Å,スピネル型構造をもち,また回折強度の観 測値から,その化学式はFe3S4である36)。 鉄板を電極として硫化水素を電解するときに は,陰極に硫化鉄の黒色沈澱が生成する。この 場合の液温は80℃,電流密度:0. 6mA/cm2, 得られた沈澱は,スピネル型硫化鉄グレーギッ トに相当する電子回折模様を与える。 以上のグレーギット合成湿式法の他に,蒸着 合成グレーギットの電子回折模様 スピネル型。格子定数:9. 87Å,電子線の波長: 0. 0320Å.カメラ距離:50cm. 法,電子線照射法等が行われ成功している。 2.鉄鋼の腐食生成物としてのグレーギット 関門海峡の海底トンネル中のコンクリート壁 上に,グリーギットの黒色沈澱が見出され た183)。コンクリート壁は鋼材によって補強さ れており,この鋼が硫酸還元菌によって硫化鉄 にまで腐食される。この場合の腐食のメカニズ ムとしては,海水からくる硫酸イオンによっ て,まず硫酸鉄が生成し,それをバクテリアが 硫化鉄にまで還元すると推論される。約20℃に 保たれている海底トンネル内はバクテリアの活 動に適した環境である。この場合のグレーギッ トの生成条件は,黒海沿岸のそれに近い。 常温におけるグレーギットの生成は,分散媒 の酸性を,すなわち硫化水素ガスの発生を意味 する。トンネル内にグレーギットが検出された 場合は,その場所は人体に有害危険である。し たがって,グレーギット及びその周辺のバクテ リア集落は,ただちに除去されねばならない。 このように,グレギットは有毒ガス発生のイン ディケーターとして応用されうる。 3.グレーギットの結晶成長の問題 結論として,グレーギットの単結晶育成は不 可能に近い。現在までのところ天然物としても 合成品にしてもグレーギット結晶の大きさは高 々500Åである。また,結晶体の外形はハビッ トを示さない球形であることが,電子顕微鏡に よって証明された。 グレーギットの水懸濁液を190℃で数時間, 熟成するときには,なるほど結晶粒は成長して 1ミクロン程度になるが,この結晶はもはやグ レーギットではなくして,六方晶磁硫鉄鉱に変 態している81)。すなわち,グレーギットがピ ロタイト結晶成長の核の役割をしている。グレ ーギットの水熱合成に際して急冷法を必要とし たのは,この結晶成長にともなわれるピロタイ ト変態を阻止するためである。このようにして グレーギットは300Å程度の球状粒子としての み安定で,結晶成長し難いことを理解すること ができる。事実,天然のグレーギットは常に非 晶質に近い。このことがグレーギットの発見を 遅れさせた原因の一つである。 以上の実験結果は,天然物であれ鉄の腐食生 成物であれ,その中にピロタイトが検出された 場合には,そのオリジンはグレーギットかもし れないことを示唆している。 4.グレーギットの格子歪 グレーギットの結晶は弱い外力の作用によっ ても容易にひずむ。例えば,一定方向の静電場 (強度:860ボルト/cm)内に置かれたグレーギ ット粉体を電子線回折によって観測すると,グ レーギット結晶格子は3回軸の方向に伸長して いる。このことはグレーギット格子がスピネル 型からピロタイト型にひずみやすいことを意味 する。このひずんだグレーギットはキュリー点 が約100℃の圧電体の挙動を示した。 現在までに異なった研究者によって異なっ たグレーギット試料について測定されたグレー ギットの格子定数は9.81―9.91Åの間でばらつ いている。このことは,グレーギットのひずみ 容易性に基づくものと解釈される。また,グレ ーギットを結晶成長させるとピロタイトに変態 ことも,このひずみ容易性によって理解され る。 スピネル型Fe3S4は結晶成長し難いけれど も,FeをNi, Coで置換したりネイト型硫化鉄 例えばNi2FeS4は単結晶として実在する161)。 ひずみやすいFe3S4にNi, Coを固溶すること によって,それが硬質になる現象は延展性の純 鉄が他元素の添加によって硬くなるそれにシミ ュレイトされる。 5.グレーギットの磁性 単結晶の育成されたグレーギットの磁性,例 えば磁気異方軸の決定は困難であったが,特別 に工夫された方法によって等軸晶グレーギット の磁化容易軸を粉体試料を用いて観測すること ができた。その観測結果によれば〔100〕軸方向 が磁化容易軸に対応した40)。この磁化軸は電子 線を応用して決定されたのであるが,中性子回 折による方法によって更に裏付けされねばなら ない。しかし,まだ現在までにそれは成功して いない。 スピネル型Fe3O4の磁化軸は〔111〕である。 グレーギットのそれも3回軸が物性論的にも予 想された。このことはグレーギットがマグネタ イト同様なフェリ磁性体ではないことを意味し ている。 グレーギットの残留磁気はゼロに近い特性を 示した。この性質もフェライトの磁性とは異な っている。グレーギットの磁気キュリー点は観 測されない。約300℃で熱分解が起るからであ る。しかし,キュリー点が300℃以上であるこ とは確かである161)。 6.欠陥スピネル型グレーギット 高温アルカリ性水熱反応によってではなく, 常温酸性反応によって生成される硫化鉄は磁性 を示し,等軸型結晶であるが,欠陥スピネル型 構造をもっていた。欠陥スピネル型化合物の典 型であるガンマ型 Al2O3からの電子回折模様 が,ここで新しく見出されたガンマ型Fe2S3の 同定に役立つた。この場合,AlとOとの原子 番号の比13 : 8がFeとSとの比26 :16に等し いことに注目された。 正常スピネル型グレーギットと欠陥型グレー ギットの電子回折模様の相異は,(440)と(333) との回折強度の比に在る。前者の強度比は1に 近いが,後者のそれは4に近い。この点に注意 してこれまでに発表された異なる研究者等によ るグレーギットの回折強度を再検討すると, Fe3S4の生成は稀で,固溶体Fe3S4-Fe2S3の生 成が圧倒的に多数である。このことは天然物グ レーギットについても言える。したがって,天 然グレーギットは,酸性の環境において地質学 的に生成したものと推論された191)。 Fe3S4とFe2S3とでその磁性に関してはほと んど差がない。しかし,化学的性質は両者で異 なっている。欠陥スピネル型Fe2S3の方が酸化 されやすい。このことは,ガンマ型アルミナが その欠陥構造のためにアルファ型アルミナより も化学的に活性であることと同様に解釈され る。鉄の酸化物,硫化物及びアルミナのアルフ ァ型,スピネル型及びガンマ型の関係は以下の 表のようになる。 アルファ型 スピネル型 ガンマ型 Fe2O3 (ヘマタイト) Fe3O4 (マグネタイト) Fe2O3 (マグヘマイト) ― Fe3S4 (グレーギット) Fe2S3 Al2O3 (コランダム) ― Al2O3 欠陥構造を示すアルファFe2O3, Al2O3を参 照することによって欠陥型グレーギットの構造 式は であることが結論された222)。 7.可変電圧電子回折法 回折実験に用いる入射電子線の加速電圧を30 キロボルトから200キロボルトの間で連続に変 化させることのできる装置を製作した。市販の 100ボルト60サイクルを真空管式発振器によっ て20キロサイクルに変換し,10―50キロボルト を4段型コッククロフトーウオルトン加速器に よって昇圧整流を行った。 回折装置における電子線の加速は,2段カス ケード方式によって行われた。電子線の収束は ウェーネルト管によって静電的に行われ,磁界 レンズを全く使用しなかった。 約500Å大の結晶粒からなる粉体試料を,30 ―200キロボルト可変電圧電子回折によって観 察するときには,30キロボルト電子線は試料粒 子の表面に関する情報を,200キロボルト電子 線は粒子の内部に関するそれを与える。 グレーギットの発見は,この方法が成功した 一例である。天然物にしても合成品にしてもグ レーギット粒子の表面は通常汚染されているの で,比較的硬い電子線の回折によってその存在 が明瞭になる。合成グレーギットの結晶の表面 は,しばしば正方型硫化鉄(マキナワイト)に よって被覆されている26)。 与えられた粉体試料の電子回折的同定のため には,30―200キロボルト可変加速電圧法が用 いられるべきことが強調される。 おわりに 化学的問題としては合成グレーギットは強い 還元性を示すので,化学における還元剤として 応用されるであろう。特に有機合成用に,欠陥 型グレーギットが用いられることが期待され る。 物性論の問題としてはグレーギットの磁化容 易軸は,スピネル構造の3回軸に平行であると する電子線磁気解析の結果は,なお中性子回 折,その他の磁気解析法によってチェックされ る必要がある。 グレーギットは良電導性を示す。特に低温に おいては,その挙動は金属性である34)。超電導 性を示す材料であるか否かの観測は残された問 題である。 地学的問題としては現在までに報告されてい るデータによれば,天然グレーギットはFe3S4 よりもむしろFe2S3に近い。このことは天然グ レーギットが酸性,常圧下で生成したものであ ることを意味する。アルカリ性,高圧下で生成 したFe3S4の産地の地学的環境の研究が期待さ れる。 3.2複合バナジウム硫化物 (昭和47年度~継続) はじめに チタンやバナジウムなどのいわゆる第一遷移 金属元素を含む化合物には電気的,磁気的に興 味ある性質を示すものが多い。このような性質 は遷移金属原子が有しているd電子と関係して おり,化合物を作るときの相手の陰イオンによ って異なってくる。我々は,これらの酸化物に ついて,グループテーマとして取上げ,研究を 行ってきたが(昭和42―46年度,酸化バナジウム グループ),これらのカルコゲン化物について, 遷移金属とカルコゲンの化学結合を理解する道 として,複合バナジウム硫化物を取上げた。こ の化合物の研究のためには,まず基礎となるバ ナジウム硫化物の相図及び物理的性質を理解し たうえで三成分系に移るのがよいと考え,はじ めに,V-S系に重点をおき,続いてそれに鉄を 加えた系を研究しつつあり,更にチタンを加え た系の研究にも着手している。 遷移金属カルコゲン化物には多くの不定比化 合物が知られているが,バナジウム硫化物もい くつかの相において不定比性を有する。これら の相平衡関係の確立,はつきりした組成の単結 晶の育成,結晶構造の解析,電気的,磁気的, 分光学的性質の解明が当面の目標である。 我々のグループでは主にVS-VS2の間のバナ ジウム硫化物を探求しているが,結晶系はVS では斜方晶系,それよりイオウの量が増すに従 って六方晶系,V3S4で代表される単斜晶系, V5S8で代表される単斜晶系となり,それぞれか なりの幅の不定比領域を有している。VS2に近 い領域は常圧では合成できず,高圧下で始めて 合成された。これらの結晶構造は,NiAs型を 基本としており,VS2に近い領域ではCdI2型 を基本としている。Fe-V-Sの三成分系の研究 は(Fe,V)3S4の領域について行われている。ま たチタンの硫化物の研究も化学輸送法により行 われている。 1.V-S系の相平衡 V-S系の相図を確立するために,イオウ分圧 と温度を制御して,二つの方法で相平衡実験を 行った。イオウ分圧の制御は,硫化水素と水素 を混合し,平衡反応によって一定のイオウ分圧 を得る方法を用いた。 (1)急冷法 制御されたイオウ分圧の雰囲気中で,一定の 温度の下でV-S系の粉末試料を平衡状態にな るまで反応させた後急冷する。この試料の化学 分析及びX線粉末法による格子定数の測定を行 い,縦軸にイオウ分圧の対数,横軸に組成をと った等温曲線を求めた。温度を1,217℃,1,050 ℃, 888℃ととったとき,V3S4の組成比で安定 な相が存在することが確認されたが,その不定 比領域の決定においてはさまざまな問題が提起 された。この実験方法によってVSxのxが大 体1.05~1.45の領域が追求されたが,NiAs型 VS相と,V3S4相との境界が急冷試料ではVS1.18 付近にあるのに対して,高温ではVS1.27付近に あるとみられる。VS-VS2系の各相は,NiAs 型構造を基にしてバナジウム空位が存在し,そ の空位の秩序化によって種々の相ができるもの であるが,試料の冷却過程で空位が容易に動く と考えられるので,急冷試料の構造は高温での 構造と異なっている可能性がある。高温での平 衡実験を注意深く行うことによって,高温状態 での状態図を決定できた。 (2)熱重量法 制御されたイオウ分圧,温度の下で化学平衡 状態にあるバナジウム硫化物の重量変化を測定 することにより,組成の変化を知る方法を熱重 量法という。重量変化の測定は細い透明石英 のスプリングでできた一種のバネばかりを用 い,バネの伸び縮みをカセトメーターで測る。 この方法によれば,反応している高温状態にお ける相の存在を直接知ることができる。VS1.33- VS1.54の組成領域について1000Kで注意深い実 験を行ったところ,V2S3という組成の新しい相 の存在が確認された。 2. Fe-V-S系の相平衡 この研究は,鉄,バナジウム,イオウの三成 分からなる系の相平衡実験を行って,相図を作 成すること,Fe-S系の化合物とV-S系の化合 物相互間の固溶関係と構造変化の相関関係を調 べることを目的としている。出発物質のFe-V -S系化合物を制御された温度,イオウ分圧の もとで反応させ,平衡に達せしめた後急冷す る。イオウ分圧の制御は,イオウ蒸気を水分及 び酸素を除去した窒素を担体として反応炉に導 く方法を用いたが,この方式は常圧に近い圧力 のイオウ分圧を制御しうるという利点がある。 急冷した試料について化学分析,X線測定など を行って相図に関する知見が得られた。700℃ での実験結果から,Fe-V-S系ではVに対して Feの量が増すに従って,同一相が出現するた めには高い平衡イオウ分圧が必要であること, VをFeで置換していくとFe : V=1:1まで広 い固溶体系列があることなどが明らかになって きている。 3.高圧下におけるV1+xS2相の合成 VS2相の化合物の合成はいままで成功した例 がなかったが,我々のグループでは高圧グルー プの協力を得てVS2に近い組成の化合物の粉末 結晶を得ることに成功した。合成はVS4を出発 物質とし,700~800℃で20kbの高圧をかけて行 った。合成された硫化物の組成はVS1.8~1.9と 推察される。またX線により結晶構造を調べて みると,結晶系は三方晶系でほぼCdI2型と呼ば れるものに近いがz=1/2のところに若干バナジ ウム原子が残っていることが明らかになった。 4.化学輸送法による単結晶の育成 (1)単結晶の育成 出発物質と輸送剤を石英管中に封入し,温度 勾配をつけて結晶を成長させる方法が化学輸送 法である。我々のグループではこの方法により 1.の実験で得られた粉末状のV-S系の化合物 からV3S4及びV5S8相のバナジウム硫化物の単 結晶を得ることに成功した。得られたV5S8の 単結晶を写真に示す。チタン硫化物についても V5S8の針状及び板状結晶 化学輸送法により育成したもの 同様な方法でTiS2相の単結晶を得ることがで きた。輸送剤としては,塩素,ヨウ素,四塩化 テルル,四臭化テルル等が使用されるが,おの おの輸送速度,輸送反応を異にし,成長する結 晶の質も異なってくる。V5S8の場合は輸送剤 として塩素を用いると板状結晶が,ヨウ素を用 いると針状結晶が成長し,輸送剤によって成長 する結晶の晶癖を制御することに成功した。と ころでバナジウムやチタンの硫化物のように不 定比性のある化合物を化学輸送する場合の輸送 機構,原料と成長した結晶の組成関係等に関し ては不明な点が多い。そこでV3S4相を塩素で 化学輸送した場合及びTiS2相をヨウ素で化学 輸送した場合について,これらの問題点の解明 に努力した。その結果,不定比化合物を化学輸 送する場合,輸送剤と反応して生じたイオウは 固相に吸収され,系内のイオウ分圧は,その温 度での固相の平衡イオウ分圧に保たれることが 判明し,出発物質と生成した結晶の組成関係, 化学輸送の機構を統一的に説明することができ た。 (2)輸送されるガスの分子種 化学輸送によって結晶を育成するとき,どの ような化学反応によって結晶が成長するかとい うことを理解するには,どのような分子種が輸 送に関与しているかを知る必要がある。このた めには実際に反応が起っている高温状態で,輸 送ガス中に存在する分子種を何らかの方法で同 定しなければならない。我々は分光学的手段 (可視紫外吸収及びラマン散乱)を用いてこれ を同定することを試みた。気体状態の分子の紫 外可視吸収スペクトル,あるいはラマンスペク トルを測定すると,おのおのの分子種に特有の バンドが観測できる。したがってこれを解析す れば存在する分子種を同定できる。この方法の 利点は,反応している系には,全く影響を及ぼ さずに測定でき,直接気体分子の状態を知り得 るということである。出発物質及び輸送ガスを 封入した石英セルを入れ,温度を制御して分光 測定を行う装置を試作し,V3S4相に塩素を加 えた系及びTiS2相にヨウ素を加えた系につい て,いろいろな温度で測定した。その結果,前 者においては四塩化バナジウムが,後者におい ては四ヨウ化チタンが存在していることがわか り,V3S4+6Cl2=3VCl4+2S2 及び TiS2+2I2= TiI4+S2という化学反応が起っていることが明 らかとなり,化学輸送反応の機構が理解でき た。 5.結晶構造解析 以上述べたような方法により合成された結晶 について種々の物性測定を試み結晶化学的見地 からの研究を行ったが,精密な結晶構造を知る ことがまず最も基本となる。そこでVS1.47 (冷 却した状態でV3S4相)及びVS1.64(V5S8相)の 単結晶のX線回折強度を四軸型単結晶自動X線 回折装置で測定し,結晶構造解析を行った。 VS1.47は単斜晶系,空間群はI2/m(No. 12),格 子定数はa=5.831(1), b=3. 267(1), c=11. 317(2) Å, β=91.78(1)°で単位格子中にV3S4として2 個の化学単位を有する。VS1.64は同じく単斜晶 系,空間群はF2/m(No.12)格子定数はa = 11,396(11),b =6,645(7), c =11,293(4)Å, β =91. 45(6)°で単位格子中にV5S8として4個の 化学単位を有することが明らかになった。(格 子定数の誤差は最小の桁の単位で括弧内に示し た。)両者共に,NiAs型を基本とする構造が少し ひずんで単斜晶系になっている。硫黄はほぼ六 方最密充塡をしており,バナジウムはその間の 八面体配位の位置に入るが,バナジウムの層だ けに着目してみると,すべての位置が満たされ た層と空孔を有する層が一層おきに重ってい る。元来,遷移金属カルコゲン化合物において は,構造の安定性は,これをイオン結晶と考え たのでは説明できず,金属原子とカルコゲン原 子(S,Se,Te)の原子軌道の重りによる方向性 のある結合,金属-金属間の結合を考慮しなけれ ばならない。結晶構造解析の結果得られた原子 間距離を検討してみると,V-S間の平均的距離 は2. 40ÅまたV-V間は2. 91~3. 04Åのように 短い原子間距離を有し,構造内に一種のV-V クラスターを作っているが,これはV-S及び V-V結合の実証になっていると考えられる。 6.高温における原子及び欠陥の分布状態 V-S系の各相の存在及びその不定比性は,バ ナジウム原子層の中の原子と欠陥の秩序-無秩 序分布状態によるところが大きい。上述のよう にV3S4, V5S8等では,バナジウム原子の層は,一 層おきに空孔を有する層が積重っているが,室 温においては,面内,面間共に空孔の配列は秩 序立っている。このような空孔及び原子の配列 が高温でいかに無秩序化して行くかを解明しよ うと試みた。特殊な小型炉を試作して,VS1.64 (V5S8相)の単結晶をキャピラリーの中でイオ ウ雰囲気中に保って熱しながら白色X線を照射 し,一連の回折点をエネルギー分散型半導体検 出器で検出し,多重波高分析器でこれらの回折 点の強度の変化を追った。これらの回折点のう ちには,面内無秩序に選択的に影響されるもの と,面間無秩序に選択的に影響されるものとが あり,温度を変化させながらこれらの挙動を検 討した結果,面内及び面間の無秩序はともに起 るが,約800℃のところで面内の無秩序が完了 することが明らかになった。これはこの結晶の イオウ平衡圧の測定結果と合致する。 7.電子顕微鏡による格子像の観察 VS1.155という組成の試料について100kV高 分解能電子顕微鏡による格子像の直接観察を行 い結晶の構造に関する知見を得た。すなわち, この化合物は室温においては4 C型(NiAsを 1C型とした場合)とよばれる構造が多くを占 めるが,それらにはいくつかの双晶関係が存在 することが判明した。また,電子線照射による 加熱によってこれが3 C型構造に変化すること が明らかになった。 8.電気的,磁気的及び分光学的性質 バナジウム硫化物の電気的,磁気的性質は, 組成的にイオウが多くなるにつれて変化する。 帯磁率についてみると,VS相はほとんど温度 に依存しない常磁性帯磁率を示すが,V3S4相 では次第に温度依存性を示しはじめ,V5S8相 では高温ではキューリー・ワイスの法則に従う 温度依存性のある帯磁率を示すが,40Kより低 温では局在磁気モーメントが反強磁性的秩序を 示す。我々は特にV5S8相の化合物(VS1.64)の反 強磁性状態につき,詳しく研究した。帯磁率, トルクの測定結果から反強磁性の容易軸がほぼ c軸に近いこと,液体ヘリウム温度において容 易軸にほぼ平行に高磁場を印加して行くと約42 kOe付近でスピンフロップとよばれる磁気的 相転移を起すことなどが明らかになった。これ ら磁気測定とともに電気抵抗,ホール効果,磁 気抵抗の測定も行われた。その結果ホール係数 の符号が温度降下とともに150Kにおいて正か ら負へと反転することがわかったが,電気伝導 に関与するものとして動きやすい電子と動きに くい正孔があるとしてこの現象を説明できた。 また液体ヘリウム温度で磁場をかけて電気抵抗 を測定した結果は,上述の磁気的相転移と関連 して興味深い現象を示すことが明らかになっ た。 このような物理的性質と関連して,固体内の 化学結合について理解するために,チタン,鉄, バナジウムの硫化物の分光学的性質が,紫外か ら遠赤外の波長領域について測定解析され,知 見が得られた。 おわりに 我々はかつて行った遷移金属酸化物の研究に よって得られた知識の上に,更に遷移金属カル コゲン化合物の,相平衡,単結晶育成,結晶構 造,種々の物理的性質に関する総合的な知見を 得るために,V-S系を中心とした複合バナジウ ム硫化物を選んだが,この系の研究を確立する ことによって,将来遷移金属カルコゲン化合物 全体を理解する足がかりを得ることを目標とし ている。またこれらの広い範囲の物質の物理的 性質を,化学組成,構造という観点から,統一 的,系統的に理解することが,有用な材料開発 のための指針となることを期待している。 4.炭素及び炭化物系無機材質 4.1炭素 (昭和44年度~48年度) はじめに 炭素の単体元素よりなる固体材料には三次元 的格子を持つダイヤモンド,黒鉛から非晶質炭 素といわれるガラス状炭素まで多種多様で,そ の特性は結合様式によって顕著な差異を示す。 ダイヤモンドはその語源アダマスが示すように 最高の硬さを有し,一方グラファイトは柔軟性 を示す。単体の元素よりなる固体材料で,この ように著しく性質が異なる物質は非常に少なく ない。最近,鎖状結合を持つカルビンあるいは カオアイトなどの新しい炭素の結晶が発見され ており,まだ未開拓の分野が多く残されてい る。 炭素材料は電極材料,耐火材料,化学機械材 料として広く用いられている工業材料である が,近年,多くの新しい高分子材料が開発され るに伴って,これらを出発物質とし,従来の炭 素材料とは異なる特性を有する炭素材料,例え ば炭素繊維,ガラス状炭素などが開発されてい る。一方ダイヤモンドは研削材のみならず,半 導体素子として,あるいは半導体レザー,ガン 効果素子などの熱吸収材としての利用が期待さ れている。 炭素材料を合成するには有機化合物を熱分解 して炭化する操作と,これを2,000℃以上の温 度で熱処理して黒鉛化する操作とが基本となっ ている。炭素材料の性質を理解し,その材料を 発展させるためにもこの炭化,黒鉛化の二つの 過程における構造,組織の変化を把握すること が重要である。黒鉛化についてはこれまでに多 くの知見が得られているが,炭化はその過程が 複雑多岐にわたり有効な研究手段に乏しいこと が原因して未知の部分が多く残されている。 炭素材料の特性は出発原料の種類と加熱処理 条件に依存するといわれてきたが,近年有機化 合物が炭化する初期段階で形成される炭素の前 駆体,メゾフェーズ(光学的異方性相)の構造 組織が炭素材料の特性に関与することが認識さ れるようになってきた。したがって有機化合物 の加熱過程の構造,組織の変化を追跡し,その 知識を蓄積し,体系化することは炭素材料を発 展に資するところが大であろう。 ダイヤモンドの合成は高温・高圧を安定に維 持できる装置の開発と金属触媒の発見によっ て,GE社で初めて成功したことは有名であ る。それ以後衝撃加圧による合成,気相合成な どの方法が開発されているが,金属触媒法は単 結晶を合成する確実なる方法である。炭素の研 究グループが発足した当時,高圧合成に適した 14,000トンプレス,2, 500トンプレスが当研究 所に設置されることになっており,ダイヤモン ド合成研究はこれらの高圧発生装置を開発する ための対象物質として適切であると考えた。 炭素研究グループは発足以来,炭化機構の解 明と,高圧発生装置の開発,並びにダイヤモン ド単結晶の育成に重点を置いて研究を行った。 1.炭化黒鉛化機構 (1)ピッチの分析法の検討 炭素は黒鉛化のしやすさによって,易黒鉛化 性炭素と難黒鉛化性炭素とにわけられる。この 易黒鉛化性炭素を与える出発原料,例えば石油 ピッチ,コールタール・ピッチ等を加熱してい くと,炭化初期過程の400~500℃付近で,光学 的に等方性であるピッチ中に異方性を示す“メ ゾフェーズ”と称する液滴が生成する。それは 加熱温度の上昇とともに合体成長する。この液 滴は多環芳香族化合物が層状に積重なったもの で,光学的に等方性であるピッチに比べ,各種 溶媒に対する溶解度は極端に小さく,その化学 的構造については分子量にして約800程度のも のであろうという推定がなされているくらい で,それを解析する有効な研究手段がないこと もあって不明な点が多い。この解明にあたって は液滴自身について検討するとともに,それに 至るまでの加熱過程,すなわち炭化初期過程を 詳細に調べることによっても明らかになる点が 多い。 ピッチの炭化過程の研究にあたって,まず適 切な分析法を確立することが第一と考え,クロ マトグラフィーを主体に,これまでの分析法の 追試と新しい分析法について検討を行った。そ の結果,真空昇華分析法はピッチの組成を検討 する上で有効なることを見出した。この手法は 分離性においてはクロマトグラフィーに劣る が,量的に多量に扱うことが可能で,操作が簡 単で,一度の操作でいくつものフラクションに 同時に分別できることが他の方法に優る点であ る。留意すべき点は昇華中に試料が反応もしく は分解することのないように昇華温度を設定す ることである。 (2)ポリ塩化ビニールの炭化 ポリ塩化ビニールは脂肪族系化合物であり, 後述のアセナフチレンは芳香族系化合物で,対 照的な構造を持っている。いずれも不活性雰囲 気で炭化する易黒鉛化性炭素を生成し,炭化収 率が高いので,この2種類の化合物をモデル出 発物質として選び,メゾフェーズの生成する温 度近傍での炭化過程について調べた。 実験方法は炭化によって得られるピッチ状試 料の顕微鏡観察からメゾフェーズ生成の様子を 調べ,更に380~415℃で調製したピッチを真空 昇華分別法により分画し,各分画物の炭化過程 について検討した。 その炭化過程を要約すると次のとおりであ る0ポリ塩化ビニールは―(-CH2-CHCl-)n― で表される鎖状高分子である。分解初期におい ては脱塩化水素反応により塩素を失い,360~ 370℃において溶融状態となり,次第に黒色ピ ッチ状物質となる。380℃におけるピッチ成分 はクラスター状分子と呼ぶべきもので,4環前 後のベンセン環をもつ芳香族炭化水素が脂肪族 鎖で多数結合した構造を持ち,まだ出発物質の 構造の特徴を残している。380~400℃の温度領 域で脂肪族鎖の開裂によるクラスター状分子の 低分子化が起る。またこの反応と同時に環縮合 反応による芳香化が開始する。クラスター状分 子は415℃ではほとんど消失し,更に縮合反応 が促進される。415℃でわずかながらメゾフェ ーズが生成し,この温度で平均9~10環前後の ベンゼン環をもった芳香族炭化水素が生成して いるものと推定された。440℃でメゾフェーズ 化はほぼ完了し,この間に平均分子量は縮合反 応によって,分子量は増大し,より大きな芳香 族化合物が生成するものと推定された。その炭 化過程の特徴はメゾフェーズの生成から完了ま での温度領域が非常に狭く,またその生成する 前駆現象として低分子化が起ることなどが明ら かとなった。 球体の光学的異方性相 ポリ塩化ビニールを415℃で熱処理したピッチ 中に生成したメゾフェーズ (3)アセナフチレンの炭化 ポリ塩化ビニールで用いた手法に従って,メ ゾフェーズ生成の初期段階における生成物の検 討を行った。メゾフェーズ化の挙動は他のピッ チ類とやや異なる点はその生成は400℃であ る。温度上昇とともに球体が大きくなり合体す る点では他の物質と同様であるが,500℃で処 理してもメゾフェーズ化がまだ完全でなく,そ の生成初期から完了までの温度が他の多くのピ ッチに比べてかなり広い点に特徴がある。 アセナフチレンは加熱処理により200℃以下 で重合を開始し,300~400℃の温度領域で解重 合し,多成分のピッチ状物質となるが,その主 成分はデカシクレンであり,この他,微量の10, 11-(ペリーナフチレン)フルオランテンの存在 を確認した。デカシクレンは温度上昇とともに 減少するが,500℃の高温度においても残留し, メゾフェーズ化の完了を妨げる作用のあること が推測された。 (4)石油ピッチの炭化 石油系ピッチについて炭化初期過程における 挙動を検討した。ポリ塩化ビニール,アセナフ チレンのように構造的特徴を把握するには至ら なかったが,メゾフェーズの生成機構と関連す る興味ある結果を得た。 原料の石油ピッチは加熱により溶融し400℃ 付近からメゾフェーズの生成が始まり,440℃ でほぼメゾフェーズ化は完了し,試料全体が光 学的異方性を示す。この原料ピッチをベンゼン 不溶分,可溶分に分別し,おのおのの性質を調 べると,ベンゼン可溶分は原料ピッチとほぼ同 様な挙動を示す。しかしベンゼン不溶分は溶融 状態を経ずに炭化し,したがってメゾフェーズ 化せず,生成炭素は難黒鉛化性となる。しかし この不溶分に少量の可溶分を加えるとメゾフエ ーズ化が起る。この実験事実からベンゼン可溶 分はそれ自身がメゾフェーズ化する能力をもつ と同時に不溶分に対する溶媒ないしは分散媒と しての機能をもつことが明らかとなった。 この実験結果から微細な組織を持つ高密度黒 鉛材料を得る方法を考案し,その予備的な実験 を行った。ベンゼン不溶分にクリセンを加え炭 化処理を行うと,その組織は数ミクロン以下の 比較的粒径のそろったものが無秩序に集合した もので,原料ピッチのメゾフェーズに比べては るかに微細である。420~460℃で炭化処理した 試料は黒鉛化処理によって良好な焼結性を示 し,かさ比重1.82~1.93g/cm3の高密度黒鉛成 形体が得られた。 (5) 高圧力下における熱硬化性樹脂の炭化 フェノール樹脂,ララン樹脂は常圧で炭化し た場合,難黒鉛化性炭素となりガラス状炭素と なる。この2種類の熱硬化性樹脂を選び,炭化 過程における圧力が生成炭素の構造,性質に及 ぼす効果について検討した。 常圧では難黒鉛化性炭素を生成するこれら樹 脂は炭化過程のある段階において,圧力が配向 化に顕著な効果をもつことを見出した。圧力効 果の見られる試料の予備加熱温度(450~500℃ ) がピッチなどのメゾフェーズが生成,発達する 温度領域に近いことは興味ある事実である。こ の炭素を2, 700℃の温度に熱処理した試料は容 易に黒鉛化され,かさ比重1.98~2. 05g/cm3の 高密度黒鉛材料が得られることが明らかとなっ た。 (6)炭酸塩を出発物質とする合成 黒鉛及びダイヤモンドの結晶は熱力学的安定 領域において,容易に合成することは不可能 で,黒鉛結晶はピッチを出発原料とした場合, 2,000℃以上の高温で熱処理することが必要で ある。一方ダイヤモンドは静的高温・高圧で炭 素を直接転換するためには13万気圧,3, 000℃ 以上の高温・高圧力を必要とする。ウェントル フは種々な形態の炭素,有機化合物を出発物質 として用い,ダイヤモンドの生成について検討 し,出発物質の構造が重要なる因子の一つであ ることを認めている。 この研究においては炭酸塩を出発物質とし, 高温・高圧で炭素の結晶育成,並びにその析出過 程について検討した。二重カプセル方式を用い, NaCO3-Al2O3-2SiO2, NaCO2-K2CO3-Li-CO3 などの系を出発原料として実験を行い,それぞ れ2万気圧,850℃, 2万気圧,600℃の条件で 黒鉛単結晶の薄膜を合成し得た。炭酸塩を出発 物質とした場合,かなり低温度で黒鉛結晶の合 成が可能なることを明らかにした。この研究の 最終目的は炭酸塩を出発物質としてダイヤモン ドを合成することであるが,まだ合成するまで には至っていない。 2.ダイヤモンドの合成 (1)高圧発生装置の開発 金属触媒法によるダイヤモンド合成におい て,まず高温・高圧を安定に維持できる高圧力 発生装置を開発することが第一の課題である。 当研究所に設置された2,500トンプレスに付属 する六方押しアンビル型高温・高圧装置の開発 調整を行い,2, 000℃, 6万気圧の高温・高圧 領域まで安定に稼動するまでに達した。更に一 次油圧の圧力効率を高めるためアルミナ磁器の 増圧板を揷入した特殊高圧セルを開発し,圧力 効率を高めるとともにアンビルの損傷を著しく 軽減することができ,またダイヤモンド合成の 研究を進展することが可能となった。 (2)ダイヤモンド単結晶の育成 ダイヤモンド育成に関してはGE社の研究業 績をトレースから始めるため,Ni-C系を主体と して育成を行い,合成条件と育成した結晶のマ クロ的な形態について検討した。その関係はボ ーベンカーク等の報告と同様,高温で育成した 結晶の基本的な成長面は{111}面であり,低温 では{100}面,その中間では両者が共存する。 人工ダイヤモンドでは{110}面の発達した結晶 は極めて稀であるが,ニクロムシリコン系の金 属触媒を用いて,{110}面で構成された結晶を 得ることができた。 (3)高温・高圧下におけるエッチング トライゴント呼ばれる模様は天然ダイヤモン ドの{111}面に普遍的に観察される三角形のへ こみで,八面体結晶の三角形とは逆方位を示 す。このトライゴンの成因に関して多くの論争 がなされている。 この研究においては天然,人工ダイヤモンド を高温・高圧で水熱,酸素エッチングを行い, その表面の微構造を追跡し,トライゴンの成因 について検討した。その結果,天然,人工ダイ ヤモンドともに高温・高圧下の水によるエッチ ングでトライゴンが形成されることが明らかと なった。 おわりに 炭化機構の解明に関する研究において,ピッ チ中に含まれる低分子化合物が果す重要な機能 について知見を得た。すなわち低分子成分が不 溶融性分の溶媒あるいは分散媒としての役目を もち,生成炭素の性質を決定していることが明 らかとなった。今後更に分子量,化学構造等の 基本的な問題について実験的研究が必要であ る。メゾフェーズの生成過程を含む炭化初期に おける反応機構の解明は工業的に利用される各 種ピッチのより明確な特性づけ,目的に応じた 改質などについて資するところが大きいものと 期待される。 ダイヤモンドの合成に関しては,高温・高圧 下の水がダイヤモンドに対して溶解作用を示す ことは興味ある現象で,この事実はダイヤモン ドが水熱合成によって育成可能なことを秘めて いると思われる。また炭酸塩出発物質とし,高 温・高圧下での炭素の結晶の合成においてはダ イヤモンドを育成するまでに発展させることが 今後の問題である。 4.2ダイヤモンド (昭和49年度~継続) はじめに ダイヤモンドは第4族に属する炭素元素から なる結晶で,共有結合によって1個の炭素原子 が4個の炭素原子と結合し,正4面体格子を形 成し,シリコン,ゲルマニウムと同様にダイヤ モンド型という共通の結晶構造をしている。そ の特性は最高の硬さを有し,機械的強度に優 れ,化学的に安定で,熱的には熱膨脹係数は非 常に低く(0.7~1.18-6/℃),熱伝導率は銅の 数倍の値を持ち(9~26Wdeg-1cm-2),また電 気的には優れた絶縁体である。 現在ダイヤモンドは工業用として研摩粒や加 工,切削用工具の刃先として大量に使用され, その総需要量の70%は人工ダイヤモンドで占め られ,天然ダイヤモンドを駆逐しつつある。最 近,超硬材料の切削工具材の利用を指向して, 加圧焼結による焼結ダイヤモンドの合成に関す る研究が米国,ソ連などで強力に推進されてい る。また優れた熱伝導率の性質は発熱を伴う半 導体レザー,ガン効果素子の温度上昇を防せぐ ための熱吸収材として用いられはじめている。 更にダイヤモンドはシリコン,ゲルマニウムと 同じ結晶構造を持っており,これらと同様半導 体となる素質を持っている。事実,天然ダイヤ モンドの物性を研究する過程で,半導体的性質 を持つダイヤモンドが発見された。このダイヤ モンドは,ブルーの色調をもち宝石として珍重 されているが,非常に稀産である。最近,ダイ ヤモンドの合成技術が進展し,ボロンをドープ したP型半導体を合成することに成功してい る。しかしまだN型半導体は天然にも発見され ず,また合成方法も確立されていない。 エレクトロニクスの分野で,高周波領域で高 出力を得るトランジスターが要望されている。 周波数を高めることは素子を小さくすることで あり,また高出力を得ることは素子を大きくす ることで,この矛盾を解決するため高い温度で もトランジスターの性質を失わない半導体が必 要となる。これらの要望に答える材料としてダ イヤモンド,シリコンカーバイト,化合物半導 体などがある。 これらのことが背景となって,ダイヤモンド 合成に関する研究は金属触媒法による高純度単 結晶の合成と,ダイヤモンドの準安定領域下, すなわち常圧以下の圧力下での気相合成に向け られている。その生成過程を究明し,その合成 方法を確立することはダイヤモンド半導体を発 展させるための第一の課題である。その合成物 は物性面からも興味ある現象を含んでいるもの と考えられる。 1.単結晶育成 高純度単結晶の合成,あるいはアクセプタ ー,ドナー不純物を導入した半導体単結晶を合 成するためには5~6万気圧の圧力,1,700℃ 程度の温度を長時間にわたって,安定に発生す ることが必要である。この研究においてはこの 目的に適した分割ガードル型高温・高圧発生装 置の開発研究を行っている。内径15mmφ,40 mmφのガードル型高圧発生装置で種々の圧力 発生試験を行い,圧力発生に最も重要なガスケ ット機構の解明を行うとともに実用装置として 有効に働く多段ガスケットを開発した。これに よってダイヤモンド合成に必要な6万気圧を得 ることが可能となった。 2.気相合成 ダイヤモンドの熱力学的安定領域下での金属 触媒法,直接変換法による合成はいわばオーソ ドックスな合成法である。これに対して常圧以 下の圧力下,すなわちダイヤモンドの準安定領 域下で気相反応法,VLS法,イオンビーム蒸着 法等の技術を用いて合成する方法が開発されて いる。これらの合成法は一部では成功している が,まだ不明な点が多く確立されていない。こ れらの合成法を確立することはダイヤモンド半 導体素子を開発するために必要であり,またそ の薄膜は興味ある物性と応用が期待されてい る。 まず合成装置の検討から始めた。ダイヤモン ド準安定領域下での気相合成において留意すべ きことは反応ガスとして用いるメタンなど炭化 水素が気相中で解重合を起し,高分子化するこ とを避けることである。この研究にでは雰囲気 の温度上昇を抑制することが可能なイメージ炉 加熱方式,すなわちハロゲンランプ,クセノン ランプを用いて光学的に集光加熱する装置を設 計,試作した。 八面体ダイヤモンドの(111)面の表面模様 金属触媒法により,6万気圧,l,500℃, 2時間 の合成条件で育成。 3. ダイヤモンドの表面化学 黒鉛の安定領域下での気相合成,あるいは焼 結体の合成研究において,重要な点は黒鉛の核 形成,あるいはダイヤモンドから黒鉛への相転 移を防ぐことであろう。これらの問題は表面と 密接なる関連を持っている。 この研究においてはダイヤモンドの表面への 炭素原子の凝縮と蒸発の問題に焦点を合せ,結 晶学的な各表面と各種気体との化学反応性,異 種原子の吸着等による表面構造の変化について 研究を行い,ダイヤモンド表面に関する特徴を 把握するために次のような研究課題について研 究を進めている。 (1)昇温脱離法による研究 ダイヤモンドの気相成長時における表面状態 の変化と異種元素の役割を知るための基礎デー タ を得る ことを 目的とし, 酸素及び水素処理し たダイヤモンド粉末の表面状態を昇温脱離法と 質量分析法を用いて検討している。 その結果,酸素はCO,あるいはCO2とし て,水素はH2として脱離すること,水素処理 することは室温での酸素吸着に対する保護作用 があることがわかった。 (2)トレーサー法による研究 この研究は放射性炭素14 Cで標識したメタン あるいは炭化水素を反応ガスとして用い,ダイ ヤモンドの各表面との化学反応性,吸着と脱着 を調べ表面の性質を把握することである。 放射性同位元素を用いたトレーサー法の利点 は非常に感度が良いことで,これまで微粉末で 行われていた研究が単結晶で行えるという利点 がある。その反面,ガス状の放射同位元素を使 用するため,安全上,装置及び回収方法につい て十分な注意を払う必要がある。その装置を試 作し,その性能の検討を行い十分な性能を有す ることを確認した。また14Cの回収方法につい ても検討を行った。 おわりに 材料の合成を目的とした高温・高圧合成装置 はその経済性を十分に考慮する必要がある。そ のためには圧力空間の拡大,アンビル,コアの 損傷を少なくすることなどである。しかしなが ら合成を目的とした高圧発生装置を開発する基 礎資料に乏しい,したがってこれらの条件を満 し,ダイヤモンドの合成可能な5~6万気圧, 1,700℃の温度を安定に発生することは容易で ない。現在40mmφ分割ガードル型高圧発生装 置を開発しているが,その蓄積されたデータは 今後の高圧合成装置を開発する貴重な資料とな ろう。 物性可能な良質大粒のダイヤモンド合成,あ るいは気相反応法による薄膜の合成法を確立す ることはダイヤモンド材料の未開拓の分野であ る電子工業材料としての応用面,すなわち,耐 熱半導体,サーミスター,半導体レザーなどと しての利用が期待される。 4.3炭化けい素 (昭和41年度~46年度) はじめに 1892年(明治25年),発明王エジソンの助手 をしていたアチェソンがダイヤモンドを合成し ようと考え,いろいろ実験をしていたときに, ある日偶然に光沢のある六角板状の小結晶を見 出したのが炭化けい素発見の端緒である。その 後この物質は隕石の中や特殊の岩石の中から極 微量発見されたという報告が数例あるが,地殼 中に利用できるだけの量は存在しないので,工 業材料としてはもっぱら合成によって作られて いる。 炭化けい素(SiC)はダイヤモンド型の構造 をもつ化合物で,硬度が高く,また2,830℃と いう極めて高い融点(分解溶融温度)を有して いるので,研摩材,研削材,耐火耐熱材料とし て広く利用されている。更に電気的特性をいか して避雷器やバリスター,1,600℃までの抵抗 発熱体としても賞用されている。なお“ひげ結 晶”やフィラメントは複合材料用補強材として の発展が考えられている。 特に最近に至り,炭化けい素の半導体的性質 に関する研究が進み,これを各種ダイオードや トランジスターとして利用する方面がにわかに 脚光を浴びてきた。この理由は,現在のシリコ ン半導体が200℃付近までしか使用できないの に対して,炭化けい素半導体は500℃まで使用 でき,しかも放射線損傷に対しても強いので, 今後高温度下や強い放射線下などの苛酷な環境 でも安心して使える半導体材料として世界的関 心が寄せられたためである。 このように炭化けい素は発見以来広い用途を 開拓してきたが,こと半導体となると現在工業 的に製造されている炭化けい素は全く使いもの にならない。というのは第一に余りにも不純物 が多すぎるためである。一般に結晶の半導体的 性質を調べるには,まず高純度の結晶について そのもの本来の性質を調べ,次にこれが外から 加えられた不純物原子によってどのように変化 してゆくかを調べる二段構えの理解が必要であ る。炭化けい素についても全く同様で,現在の 99%程度の純度の結晶では話にもならないわけ で,どうしても化学成分の明らかな超高純度の ものを合成しなければ研究が進められないこと になる。 第二点として,炭化けい素は化学組成(SiC) が同じでも多数の違った結晶構造を取り得るい わゆる多形現象を示す代表的物質で,現在2 H 型,3C型,4H型,6H型…594R型など100種 類にも及ぶ多形が存在している。しかも一つの 結晶の中に数種の多形がC軸を共有して成長し やすい。したがって一見きれいな単結晶を合成 したつもりでも,実は6 H型と15R型が混って 成長しており,6 H型だけ,15R型だけを単独 に分離して合成することが非常に難しい。多形 の混った結晶の性質を調べても,訳のわからな いことになる。またなぜ594R型のように,原子 が594層ごとに忘れずに同じ原子配列を繰返す 記憶力をもっているのかを明らかにすることも 結晶学上重要なことである。 以上の問題点を踏まえてSiC研究グループで は,SiCを半導体として利用するための基礎的 研究として(1)まず超高純度でしかも多形の混在 しない単結晶を合成し,(2)この結晶の化学的, 結晶学的素性を解析し,(3)ついで半導体的特性 を明らかにすることを目的として研究を行っ た。 1.高純度単結晶の合成 超高純度の単結晶を育成する方法として,昇 華再結晶法及びシリコン融液からの析出法の二 つについて検討を行った。 昇華再結晶方法は,高純度の金属シリコン粉 末(半導体級の純度)と高純度黒鉛粉末(原子 炉用級の純度)を黒鉛製のるつぼ中で高温度で 反応させて,まず高純度のSiCの微細な結晶を 作り,次にこれを別の黒鉛るつぼ中で約2,500 ℃の高温度に加熱してSiCを昇華させ,るつぼ 内の結晶成長空間に再結晶させて比較的大型の 単結晶を得る方法である。この方法について, できるだけ目的とする結晶構造のみのSiCを育 成する合成条件を明らかにするために,結晶成 長空間部に改良を加えて過飽和度を制御できる ようにし,過飽和度の変化が析出する結晶の多 形,晶癖,積層欠陥(原子配列のみだれ)など に与える影響を検討した。 この結果低過飽和の条件で合成すると,不安 定な多形(熱安定性から考えて,その温度で平 衡状態をとり得ない多形)の析出する確率が非 常に低下し,その温度で安定な結晶構造をもつ 多形のみが析出し,しかも析出結晶の積層欠陥 も非常に少なくなることを見出した。 次にこのような平衝状態に近い条件下で,結 晶育成時の環境(温度,時間など)と析出する 多形の種類について研究を進め,基本的多形の 熱安定領をほぼ決定した。すなわち2 H型は大 略1,400℃以下の合成温度で析出し,3 C型は ほぼ1,400~1, 600℃, 4H型はほぼ1,600~2,100 ℃, 6 H型と15R型はほぼ2,100℃以上で析出 すること及び6 H型と15R型はほぼ同じ温度領 域で析出するが,15R型は不安定相で合成時間 を長くすると析出する確率が減少することなど を明らかにした。 この結果は,従来発表されているこの種のデ ータよりも非常に整理されたスッキリとした姿 をとっている。これによって低過飽和度の条件 下で合成した場合,合成温度が何度であれば, どんな結晶構造を持つ多形が得られるかをほぼ 明らかにすることができた。 なお昇華再結晶法では,できた単結晶が一辺 数mm程度で小さく,しかも結晶内に微細な炭 素微粒子を包有しやすい欠点がある。そこで昇 華法のるつぼ内にシリコン蒸気を供給する新し い合成方法を考案し,炭素微粒子を包有せず, しかも一辺10~20mm程度の大型単結晶を合成 することに成功した。その純度は発光分光分析 によってAlやFeはこん跡程度で窒素含有量 は1017atom/cc程度の超高純度のものである。 SiC単結晶 炭素製合成るつぼを結晶育成部とシリコン 溶融部に分け,溶融部からのシリコン蒸気を 育成部に導入するという新しい方法によって, 従来より大型で含有物の少ないSiC単結晶の 合成に成功。 一辺20mmの単結晶は現在では世界で最も大き いものである。 2.ひげ結晶及び薄膜の育成 SiCのひげ結晶は,引張強度が非常に強くま た高温に耐えしかも耐蝕性も強いので,プラス チックや金属と組合せる複合材料用補強材とし て有望視されている。またSiCエピタキシアル 薄膜は,半導体用として注目されている。 ひげ結晶の育成は高温度に加熱した黒鉛など の基板にSiCl4+CCl4+H2系のガスを送り,基 板上で化学反応を起させて育成する方法につい て検討を加えた。従来この方法では,育成温度 と析出する多形の種類との関係が複雑で,同じ 条件で合成したつもりでも2 H型ができたり, 3C型ができたり,あるいは中心部が2H型で 周囲が3C型という混じったものができること が多かった。検討の結果,黒鉛基板が加熱中に 種々の吸着不純物を放出して結果を不ぞろえに する原因であることがわかったので,SiCでコ ーチングした黒鉛基板やモリブデン基板を使用 して2 H型,3 C型多形の安定温度領域を検討 した。その結果1,400℃以下では2 H型,それ 以上では3 C型が安定であることは明らかにし た。なおこの反応系に微量の酸素が存在すると 2 H型の安定領域は1,500℃ないし1,550℃まで 移行することも見出した。 またひげ結晶の成長機構として,2H型は主 として“うずまき成長”理論によるものが多く, 3 C型は結晶にかならず双晶面を有することか ら“凹入角成長理論”によるものと考えた。 SiC薄膜については,CH3SiCl3+H2系などの 反応ガスを用いてスピネル(MgAl2O4)基板上 に育成する方法を試み,3C型のエピタキシア ル薄膜や3 C型の厚膜の育成に成功した。 3.多形の成因に対する考察 従来多形のできる原因は,主としてフランク らの“ら旋転位によるうず巻成長理論”によっ て説明されていた。しかしこの理論では,それ では何故ある温度である構造をもつ多形ができ るのかについてはほとんど説明が不可能であ る。したがって多形の転位論的説明は,出来上 った結晶の積層の繰返しの記憶力の原因を説明 するものであって,長周期構造を有する多形の 成長機構を考えるのには有力の手掛りを与える が,成長しつつある結晶がC軸を共有しつつ他 の多形に移行するか否かの原因は,他の理由例 えば移行せんとする結晶構造の熱力学的安定性 が支配するものと考えるのが妥当であろう。 我々の考え方としては,1,400℃以上の合成 条件では,まず3 C型が初晶として析出し,つ いで与えられた温度で熱力学的に安定な基本的 多形(4 H型や6 H型)に気相を経由して再結 晶的な行き方で移行する。この際ら旋転位が存 在すると,基本的多形と自由エネルギーが非常 に近似した構造を持つ多形が,ら旋転位を媒介 として準安定状態で生成するものではないかと 考えている。 この考え方は,まだ完成されたものではない が,多形の成因について転位論的解釈と熱力学 的解釈の橋渡しをする重要な示唆を与える考え 方であると思っている。 なお基本的多形がおのおの熱力学的に安定な 相であるとしても,相互の自由エネルギーの差 は非常に小さいに違いないので,微量不純物の 存在によってエネルギー差は大きく影響される ことが考えられる。例えば各基本的多形に前記 したような固有な安定領域があっても,これら は微量な不純物の介入によって,その領域が重 なり合ったり,移行したりすることが考えられ る。前記したように2 H型の安定領域が微量の 酸素の存在によって3 C型側に移行することも この実例であるが,更に微量のアルミニウムの 存在によって4 H型の安定領域が6H型の安定 領域まで移行することも実験によって確められ た。この事実は,実験室での高純度系の合成で は2,200℃以上で4 H型がほとんど存在しない のに対して,工業的に製造したアルミニウムを 含む不純な結晶では2,200℃以上でも4 H型が 相当量含まれている理由をよく説明している。 多形の研究としては更に,今まで知られてい ない新しい多形として9 H型,12H型,20H型 21H型,28H型,45R型,48R型などを発見 し,それぞれの結晶構造を明らかにした。 4.極性面の判定 雲母の結晶片は紙状で,その一方側の平面と 反対側の平面は全く性質が同一である。しかし SiCの六角板状の結晶片では雲母と違って結晶 面に裏と表の区別があって,裏面と表面ではそ の性質が非常に異なっている。 一般にSiCやZnSのようにセン亜鉛鉱型構 造やウルツ型構造の結晶は,対称心を欠き極性 軸を有する極性結晶で上記のような性質をもっ ている。SiCの場合,表裏の性質が異なるの は,一方の表面は炭素原子(C)だけが並んで おり,その反対側の表面はシリコン原子(Si) のみが並んでいるためである。 どちらがSi面でどちらがC面であるのか? この極性面の決定はエピタキシアル成長や半導 体素子としたときの電極付けのしやすさなど工 業上にも重大な意味をもっている。 従来の判定方法は500~600℃に保ったNa2O2 +NaNO3の溶融塩で30分程度腐食して,粗面 になる面を炭素面であるとしていたが,この方 法では結晶面の腐食が激しく,判定後の結晶を 半導体素子として使用するには非常に不便であ った。 我々は,110℃付近の低温でK3Fe(CN)6+Na OH+H2Oの水溶液で15分間処理して,炭素面 に蜂巣状又は樹枝状の析出物を析出させる新し い方法を見出した。この方法によると,この析 出物は後で簡単に除去することができるので非 常に有利な判定法ということができる。 5.微量不純物の定量分析 SiCをはじめ高純度無機材質中に含まれる微 量の不純物を分析することを目的として,主と して抽出吸光光度定量法について研究を行っ た。その結果微量ニッケルについては3方法を 新たに開発し,いづれも約0~40μgのニッケル を精度,再現性よく定量することができた。ま た約0~50μgの微量の銅及び0~4ppmのバナジ ウムを精度よく定量する方法についても新方法 を確立した。 6.半導体的性質の測定 合成した単結晶について,半導体用として最 も必要であると考えられる電気抵抗,キャリヤ ー濃度,電子移動度などについて測定を行っ た。その結果いずれの値も半導体用として十分 使用できる高純度単結晶であることを示してい た。 おわりに 炭化けい素研究グループは,昭和41年4月に 発足し,昭和47年3月に解散したが,その間約 50報の報告を内外の学術雑誌に発表した。その 詳細については“炭化けい素に関する研究” (無機材質研究所研究報告書第1号,1972)及び “高純度炭化珪素の研究に関する資料”(無機 材質研究所,1967)を参照されたい。 以上の研究によって,半導体用SiC単結晶に ついて問題となっていた点すなわち(1)超高純度 でしかも多形を混在しない大型単結晶の合成及 び(2)多形の成因についてある程度の解決を与え ることができた。 しかしSiCを半導体として工業的に使用す る場合には,更に多量の単結晶を安価に合成す る方法が確立しなければならない。また学問的 には多形の成因について更に深く堀りさげる必 要がある。 なお炭化けい素は将来の高温ガスタービンの ブレード材や多目的高温ガス原子炉の熱交換器 材としても有望であるので,これらに使用でき る超高強度の焼結体を得るための基礎的研究な ども今後に残された大きな問題であると考えら れる。 5.硼化物系無機材質 5.1硼化ランタン (昭和47年度~継続) はじめに 多くの無機化合物は天然鉱物として産出する か,あるいは結晶構造の同形の物質が多い。し かしながら,硼化ランタン(LaB6)は化学組成 と結晶構造において鉱物に類似性を見出すこと のできない物質である。赤紫色の金属光沢を示 す硼化ランタンの特徴は,高融点で極めて硬い 物質であるにもかかわらず,その電気性質は金 属として振舞う点にある。このような特質は, 硼化ランタンの原子配列と,その結合の様式に 基づいて理解される。すなわち,硼化ランタン の原子配列は6個の硼素原子からなる八面体が 三次元に連らなって,硼素格子を形成する。こ の骨組構造の硼素原子間の結合はダイヤモンド の炭素原子間の結合と同じように強い共有性を 持っている。硼素格子には大きい空間があっ て,この位置にランタン原子を始めとしてアル カリ土類金属及び希土類元素が陽イオンの状態 で占める。硼素格子は電気的には陰イオンの状 態にあると予想されるために,金属イオンが硼 素格子を引締めていると考えてよい。ランタン イオン当り1個の伝導電子が存在するので,こ の伝導電子の振舞いが電気性質,金属的凝集力 及び色の原因になっている。結晶構造は比較的 簡単であるけれども,さまざまな結合様式―共 有性,イオン性,金属性―を含むため,固体内 の電子の状態は複雑になって,現在,十分に解 明された物質とはいいがたい。 1951年にラファティは硼化ランタンの優れた 熱電子放射特性を見出した。しかし,当時にお いては,熱陰性材料に対する技術上の要請はあ まりなかった。最近になって,走査型電子顕微 鏡等の電子ビームを利用した状態分析器機の分 解能の向上,高集積化された固体素子の電子ビ ーム加工の微細化は勿論のこと,加工の高精度 及び高能率化が求められるようになった。この ような事情のために,高輝度サブミクロン電子 銃の必要性が生れ,硼化ランタンが着目される ようになった。 以上の背景に基づいて,まず良質の単結晶を 作るために,合成と単結晶育成及び分析に関す る研究を進めつつある。三次元結晶のモデルと してエピタキシー成長をも取上げた。硼化ラン タンの諸性質及び結合の様式についてより進ん だ研究も進める。電子放射に関しては,単結晶 を用いた電子銃の試作と,その基礎として表面 状態の検討を行うことを目標とした。 1.合成と分析 硼化ランタンの合成温度は他の無機化合物に 較べて高いために,さまざまな困難を伴う。そ こで異なった合成方法の特質を生かすために, 以下の3通りの方法を採用した。第1に,ラン タン金属と硼素を定比の組成比1:6に混合し て,アーク炉で溶融し合成する。第2の方法 は,酸化ランタンと硼素を混合し,アルゴン気 流中で,1,500℃以上に加熱し,金属酸化物を 硼素で還元しつつ硼化ランタンを作る。第3の 溶融塩電解法の特徴は合成温度が低く,多量の 硼化ランタンを合成できることにある。出発物 質を La2O3-CaB4O7-CaCl2, La2O3-Na2B4O7- NaCl, La2O3-Na3AlF6-Na2B4O7 等を用い,融 点以上に加熱すれば,完全あるいは部分的に解 離し,電離によって陰極に硼化ランタンが析出 する。この場合,ハロゲン化アルカリあるいは ハロゲン化アルカリ土類は溶媒としての役割を 果す。ナトリウム塩を用いると固溶系(NaLa) B6を容易に合成できるが,Naの置換を避ける ためには,リチュウム塩を用いれば良い。炭素 質るつぼを一方の電極とし,炭素質あるいはモ リブデン等を他方の電極としてるつぼにつる す。アルゴンや窒素の不活性ガス気流中で加熱 する。陰極上の析出物は,塩酸等で硼化物以外 の附着電解質を溶出させた。電解法では,成長 速度に較べて核生成が著しいために単結晶育成 は成功しなかった。 熱電子放射の特性は結晶表面の2次元構造に よる場合が多く,更にエレクトロニックス材料 として薄膜に対する関心が高まっている。この ために硼化ランタンの薄膜の作製を試みた。蒸 着を電子ビームによって行い,下地単結晶とし て,LaB6と同じ立方格子で,融点が高く,格子 定数のほぼ等しい酸化マグネシウムを選んだ。 下地結晶表面への吸着物の影響を調べるため に,MgOの空気中へき開と1~3 ×10-7Torrの 真空中へき開の場合を比較し,更に予備加熱と 蒸着時の下地結晶の温度とエピタキシー成長の 関連を検討した。空気中へき開面では,MgOを あらかじめ1,200℃に加熱してから,730℃に保 って蒸着すれば単結晶膜が得られる。一方,真 空へき開では予備加熱の必要はなく,下地温度 が高くなるに従って,結晶粒は生長し,ほぼ730 ~790℃の温度範囲で単結晶膜になる。下地結 晶との方位関係はLaB6(001)//MgO (001),La B6〔100〕//MgO〔100〕である。エピタキシー成長 過程の電子顕微鏡観察から,単結晶膜は核発生 の瞬間に既に方向が決り,結晶方位の再配列は ほとんど見られない。他の物質に較べ,エピタ キシー成長に高い温度が必要とされるのは,こ の実験から求めた表面拡散の活性化エネルギー が高いためであろう。 硼化ランタンは溶融塩電解によって合成され る場合が多いため,溶融塩中のハロゲンイオン が不純物として含まれることが予想される。こ の理由から,微量不純物陰イオン,特にフッ素 イオンの接触分析を試みた。F-イオンの分離 補集には五酸化バナジウムを融剤として,酸素 水混合気流中で加熱して行う。KI+NaB3→I2 の反応においてZrイオンは反応促進作用をも つが,F-イオンが存在すれば,この反応は抑 制される。反応速度の大小を反応に伴う電位変 化から求めて定量を行った。 2.単結晶育成 従来,硼化ランタンの研究は多結晶体を用い 硼化ランタン単結晶 ADL型高温高圧単結晶合成炉を用い15kg/cm2 アルゴンガス圧,15mm/hrの条件で浮遊帯域 法により育成した。 たものが多く,単結晶に関するものは極めて数 少ないのが現状である。この物質の単結晶育成 は気相成長,浮遊帯域法及びアルミニウム,亜 鉛等の金属をフラックスと用いる方法がある。 しかし,高融点物質であるために,融体の蒸発 が著しく,その反応性が大きいので,良質の単 結晶は得られていない。硼化ランタンの融体と 容器との接触並びに,高温における蒸発を防ぐ ために,アルゴンガス圧(15kg/cm2)下での 浮遊帯域法で単結晶を育成した。あらかじめ, 1ton/cm2の静水圧でLaB6の成型棒を作った後 に,2,000℃の温度で焼結してから単結晶を育 成する。可能な限り狭い帯状の溶融部をゆっく り移動させることによって単結晶を得る。この 実験では,育成速度を20mm/hrとした。得ら れた単結晶の大きさは直径が8~10mm,長さ 30~40mm程度で,ランタンと硼素の比はほと んど定比の化学組成に近い。1回の浮遊帯通過 の結晶は微量のFe, Mg及びSiを不純物とし て含んでいる。この実験で初めて3回の浮遊通 過に成功し,この結果,不純物を検出すること ができないまでになった。不純物含有量の減少 の目安を得るために,室温とヘリュウム温度の 電気抵抗の比を求めた。1回の浮遊帯通過で は,抵抗比は20に過ぎないが,3回の通過で 720まで増加した。この結果は,3回の通過で 純度が1桁まで向上したことを示す。ベルグー バーレット法を用いて結晶方位のずれを調べた 結果,約数秒の方位のずれを持った1mm3の結 晶の集りであることがわかった。関連物質であ るCrB2及びZrB2の単結晶も同じ方法で育成 し得た。 アルカリ土類の六硼化物は高温における蒸気 圧が一層高く,更に焼結性が悪いために浮遊帯 域法では未だ成功していない。アルミニウムフ ラックス法を用いて,これらの物質の単結晶育 成を試みた。育成の最適条件を見出すために, 1,000~1, 500℃の温度範囲での溶解度曲線を決 定した。この結果,アルカリ土類金属の種類に 無関係に,1,500℃でほぼ0.9±0.1モル%まで 溶ける。硼素単体の溶解度曲線とほぼ同じ温度 依存性を示すことから,六硼化物の溶融金属の 溶解度は硼素の骨組構造の安定性によって決ま ることが理解される。この溶解度曲線を用い て,1,500~1,000℃まで,2℃/minの割合で冷 却すると{100}面で囲まれた単結晶ができ,こ の結晶を用いて光反射の実験を行った。 3.結合と性質 これまでに,金属六硼化物について,いくつ かの理論的な研究がある。その結果によれば, 金属から2個の電子が硼素格子に移動し,この 電子とBの2S22plの電子が価電子帯をうずめ る。金属イオンが2価であれば半導体になり, 3価の状態が安定であれば金属になると指摘さ れていた。 伝導電子の振舞いを明らかにするために,ヘ リウム温度から室温までの直流抵抗の散乱機構 について検討した。一般の金属及び合金の散乱 機構は,不純物散乱,音響モードによる散乱, 電子-電子及び電子-フォノンバンド間散乱等が ある。 しかし,硼化ランタンでは,100K以下では 音響モードによる散乱と不純物散乱が抵抗に寄 興するけれども,温度の上昇に従って光学モ ードによる散乱が増してくる。光学モードによ る散乱は部分的なイオン性を示す半導体で初め て存在するが,金属と合金においては,これま でその例が認められていなかった。つまり硼化 ランタンはランタン金属よりも電気の良導体で あるけれども,イオン結晶としての側面を持つ ことを端的に示している。伝導電子の性格を更 に明らかにするため,ド・ハースーファン・アル フェン効果の実験からフェルミ面の構造を決め た。楕円体に近いフェルミ面の中心は逆格子空 間のΓ点にはなく,Χ点に存在し,それぞれの フェルミ球はネックによって三次元に連なって いる。この構造から,伝導電子はs状態にな く,d状態に近いことが理解される。この結果 を光電子分光からも確かめた。つまり金属六硼 化物の金属イオンの化学シフトを希土類イオン の種類をかえて測定した。化学シフトから内殼 準位の希土類イオンの原子価状態は3種類に分 類され次のようになる。Smイオンは3価と2 価の混合原子価状態,Euイオンは2価,他の 全ての希土類元素は3価であった。化学シフト 量を定量的に議論するために,伝導電子をsと d状態をとると仮定した計算値と実測値との比 較からGdBe及びLaB6はd状態,他の六硼化 物はSd1-x6sxになることが明らかになった。 硼化ランタンの硬度を支配する硼素原子間の 共有結合,言い換えれば価電子帯を光電子分光 によって調べた。光電子スペクトルに現れた価 電子帯の構造は,それが硼素の2S2pからなる として計算した電子構造の結果とほとんど一致 して,金属イオンの軌道の寄興がほとんどない ことを示した。真空レベルからの価電子帯の深 さは,酸化物あるいは硫化物に較べて大きく, 更に価電子帯の電子数も多い。これは,この物 質が固くて安定であるという事実を裏付けてい る。11Bの核磁気共鳴における四重極分裂の大 きさは,B間の結合にあずかる電子の分布につ いての知識を与える。硼化物中の希土類元素の 原子番号が増加すれば,四重極分裂は系統的に 変化する。この変化量のほとんどがBの2S2p による価電子帯に基づくとして説明される。 関連物質であるCrB2の反強磁性の原因の一 つにスピン密度波が考えられている。このため に単結晶を用いて,磁気異方性,ホール定数の 温度変化を調べた。スピン密度波の存在を確認 するために,単結晶による中性子回折の実験を 行っている。 4.電子放射と固体表面 先に述べたように,硼化ランタンは高輝度熱 電子放射用材料として注目を集めている。この 理由は,これまで使用されたタングステン等に 較べて,仕事関数の値が少さく高温における蒸 気圧が低いので,長時間の使用に耐えるという 事実に基づいている。仕事関数は異方性を示 し,固体表面の化学組成と二次元構造及び吸着 イオン及び分子の種類によっても変化する。仕 事関数は,(111)面:3. 3eV,(100)面:2. 85eV, (110)面:2. 68eVと異方性を示すが,時間とと もに変化する。顕微鏡及び低エネルギー電子線 回折の実験から,マクロな(110)と(111)面と に,(100)面が発達することに基づくこととし て証明された。10-4Torr(1,400℃)の低真空に なれば,熱電子放射効率は悪くなり,温度の上 昇とともに再び元に回復する。超高真空下で は,表面低速電子回折(LEED)パターンは, 正常な表面構造を示すが,真空度の悪化に従っ て,超格子構造を示すようになり,ついには, 超格子構造の周期性がなくなり消失する。オー ジ ェ電子分光による吸着分子種の研究と相まっ て,表面の超格子構造は酸素の規則的な吸着に 基づくと推定された。また,熱電子放射の劣化 は酸素の吸着によることも明らかにされた。従 来,試作された熱陰極は焼結体が用いられ,鋭 い先端を得ることができなかった。先端径を鋭 くすれば,一層輝度は高くなりフィールドエミ ッション銃としての可能性も開ける。我々は, 単結晶より針状結晶を切出し,先端をグリセリ ン,燐酸と水の混合液で電解研摩することによ って,0.1~0.2μ の先端径を得ることができ た。これを用いて,電子銃を試作し,走査型電 子顕微鏡(SEM)に取付け,タングステンと ほぼ同じ使用条件で,磁気テープの酸化鉄を観 察し,タングステン陰極に比較して,分解能及 びコントラスト共に優れていることが明らかに なった。 おわりに 硼化ランタンとその関連物質は,合成及び単 結晶育成が困難であったために,研究の遅れた 分野である。しかし,最近になって,物性の立 場からの興心と熱陰性として注目を集めてい る。硼化物は,一般に多様な結合様式を含むた めに,電子状態は複雑であり,そのために中性 子回折,核磁気共鳴の実験が試みられるように なった。我々の研究グループは,まず,純度が 高く,しかも大きい単結晶を作ることを目標に した。この単結晶を用いて,輸送現象及び表面 状態の研究を進めている。電子状態と結合の問 題も,その一端を明らかにし得た。しかし硼化 ランタンは硼化物中で,結合様式は比較的典型 的な物質である。この物性の研究の結果に基づ いて,多様な性格をもつ他の硼化物の研究が望 まれる。熱電子放射,表面状態の研究から,単 結晶チップを用いた熱陰極の見通しは明るいと いえる。 6.酸素酸塩系無機材質 6.1硫酸・燐酸カルシウム (昭和50年度~継続) はじめに 硫酸・燐酸カルシウムの光学材料,特に螢光 体材料及び人造骨,人造歯などのライフサイエ ンス分野等への応用を期待し,これに対する基 礎を得るための第15研究グループが昭和50年4 月に発足した。この研究グループでは対象物質 が酸素酸塩であり,水溶液からの結晶成長や, 結晶水を含む物質の物性を研究の主な目的とし ている。以下酸素酸塩と結晶水について,硫酸 カルシウムと燐酸カルシウムの無水物,水溶液 からの結晶成長,結晶の諸性質,この研究のね らいなどを記す。 酸素酸塩は,酸素原子の大集団のすき間に金 属原子が,規則正しく配列している酸化物の結 晶などとは構造上の大きな相違がある。例えば, 硫酸塩や燐酸塩は結晶中に4個の酸素原子が正 四面体の各頂点に位置し,この中心を硫黄原子 又は燐原子がしめるSO4とかPO4といった独 立した原子集団を持っている。また炭酸塩では 一平面上中心に炭素原子があり,3個の酸素原 子が正三角形をつくってこれを取り巻いてCO3 の原子集団をつくっている。そして硫酸カリウ ム(K2SO4)の結晶のようにだんだん高温に加熱 してゆくとSO4集団が振動して動くようにな り,ついにこのSO4の正四面体がそっくり方 位を変えるといった性質が知られている。 水溶液からの結晶生成においては,水溶液中 での結晶成分と水の結合状態がある程度保たれ てそのまま結晶水になったり,水酸基に移行す ると考えられている。この結晶水も酸素酸塩の 場合と同じように方位があり,この方位につい て,核磁気共鳴や中性子回折などの研究が行わ れている。硫酸カルシウムは常温附近では,2 分子の結晶水をもったCaSO4・2H2O (石こう) の結晶をつくる。燐酸カルシウムの場合は複雑 で,ある場合は硫酸カルシウムと化学式も結晶 形も類似しているCaHPO42H2Oとなり,骨や 歯が形成される場合のように水酸基をもったヒ ドロキシ燐酸カルシウムができることもある。 これら結晶中に含まれる水の状態は温度によっ て大きく影響され,一般に高温になるほど水の 含量は減少するが大きな研究課題になってい る。また高温・高圧下で水溶液からの結晶生長 の研究も試みたい。 これら酸素酸塩をもっと高温に加熱して,無 水の状態になったものとしては,硫酸カルシウ ムを母体とする螢光体が研究されており,硫酸 カルシウムを溶融温度まで加熱すると,分解反 応も起る。燐酸カルシウムに,フッ素やネオジ ムを含有させた溶融物から,単結晶を育成させ てレーザーの母結晶に利用されたり,燐酸カル シウムに,マンガンやアンチモンを添加して焼 いた粉末は我々が日常照明に使用している螢光 灯の螢光体として,広く用いられていて将来こ の方面の研究も推進したい。 硫酸カルシウムの結晶は,硫酸イオンを含む 水溶液とカルシウムイオンを含む水溶液を混合 することにより,白色のCaSO42H2Oの組成の ものが容易に得られるが,このようにして得た 結晶や,工業的に燐酸塩肥料の製造や重油等の 燃焼ガス中の硫黄酸化物から,排煙脱硫によっ て得た結晶は,種子結晶を加えるなど操作方法 に非常に多くの研究が行われているが,いずれ も結晶粒子が細かいものばかりである。一方天 然には窓ガラスとして使用できるぐらいの透明 な大きな結晶もあり,オーストラリアのある塩 湖のように現在成長しつつある例もある。また 山梨県の例のように安山岩の分解した粘土中 に,平行四辺形の硫酸カルシウムの大きな単独 結晶が見出された。 しかし近年,エチレンジアミン四酢酸(ED TA)塩を共存させたり,シリカゲルやモンモ リナイト粘土ゲル中などの条件下で,硫酸カル シウムの結晶が大きく成長しやすいことがわか ってきた。また硫酸カルシウムの結晶はしばし ば矢羽型,あるいは燕尾型といわれる双晶をつ くるが,これは硫酸カルシウムの高度の過飽和 溶液から結晶ができたためといわれる。以上述 べたように,ゲル中で結晶をつくると余分な結 晶核の生成が防止され,またイオンの拡散が遅 くなるので大きな結晶になると思われ,ある種 の粘土に結晶が双晶になるのを妨げる作用があ るらしいが,まだ十分解明されていない。 本研究では,顕微鏡,偏光,カラービデオコ ーダー等も使用して,硫酸カルシウムの結晶の 生長機構を研究し,更に無塵状態で大きな単結 晶を育成することを目標にしている。また天然 の結晶と工業的に得た結晶とでは,これを加熱 して硫酸カルシウム半水和物,いわゆる焼石こ うに変化させる場合の示差熱分析のカーブの形 とか,焼石こうを水と混ぜて得る固形物の諸性 質が著しく異なることが知られており,むしろ この性質によって石こうを実用的に区分してい ると思えるほどである。もし研究が進んで,生 成条件が異なった各種の硫酸カルシウムの単結 晶が得られたなら,これらの結晶の特性を明ら かにすることにより,石こうにいろんな性質の 違いのでてくる理由をはっきり説明できること が期待できる。 燐酸イオンを含む溶液とカルシウムイオンを 含む溶液を混合させると白い沈殿を得るが,こ の物質の組成は非常にまちまちで,弱酸性の水 溶液からは燐酸-水素カルシウム二水和物(CaH PO42H2O)の組成の沈殿が比較的純粋に得られ るが,一般には不定型の燐酸カルシウムがまず 沈澱し,だんだんX線的に構造が推定できる物 質に変化するようである。このことに対応して 化学薬品メーカーが供給する各種燐酸カルシウ ムの化学式のラベルがあてにならないことは日 本でも外国でも指摘されている。このようにし て得られた燐酸カルシウムと水との溶解反応も また複雑である。各種燐酸カルシウムと蒸留水 をある温度で撹拌すると,水量が異なると得ら れた溶液の化学組成が違ってくる。一般的に多 量の水で洗うと,燐酸分が優先的に溶けだし, 水酸化カルシウムが残さに集まるようである。 各種燐酸カルシウムの粉末を蒸留水とふれただ けで組成が変るほど,この物質は,各種金属イ オンや非金属イオンと容易に交換反応が起るよ うであり,溶液中のアミノ酸やたん白質などを 吸着する作用も大きい。 燐酸カルシウムは天然に,フッ素燐灰石など の鉱物として産するが,この鉱物は,成分のイ オン交換の範囲が広いので有名であり,また人 工的にも高温で溶融することにより燐灰石構造 をもった多種の結晶が合成されている。例えば 燐は部分的に又は完全に,ヒ素,バナジウム, 珪素,硫黄などに,カルシウムは1価,2価の 金属や稀土類金属と置換えることができる。 先に述べた燐酸-水素カルシウム二水和物は 天然にブルシャイト鉱物として産し,歯石の成 分でもあるが硫酸カルシウムと似てあまりイオ ン置換が起らないと思える。そしてこのことが 単一組成の沈澱が得やすい原因であろうか。本 研究では,問題が複雑な微細粉末の燐酸カルシ ウムでなく,まず組成の明らかな大きな結晶を つくり,この結晶ができる条件下で結晶中に入 る各種イオンの研究や生成した結晶の物性の研 究を進めてゆきたい。 1.合成法 水溶液中から硫酸カルシウム,燐酸カルシウ ムの単結晶の育成を図るため,特に,シリカゲ ル中でイオンを拡散させてゆく単結晶育成法を 試みた。 珪酸ナトリウムの水溶液は強いアルカリ性を 呈するが,これに適当量の酸を加えた液を放置 すると,固まって半透明なゼリー状なシリカゲ ルになる。このようなゲル中で,ゲル生成時の 酸性,アルカリ性の程度とか,共存成分をいろ いろ変化させたうえで,カルシウムイオンなど をゲル中に拡散させていって,ゲル中に硫酸カ ルシウムや燐酸カルシウムの結晶を析出させ, 更に徐々にこの結晶を成長させる研究を行って いる。下記の写真は,このようにして得た,燐 酸-水素カルシウム二水和物(CaHPO42H2O) の結晶の例である。 ブルッシャイト(CaHPO42H2O)単結晶 (シリカゲル中で成長させたもの) 2.化学的性質 出発物質と生成した結晶の正確な化学組成, 化学量論性について検討し,また,結晶の諸性 質への共存化学分成の影響についても検討して いる。 3.物性 合成された結晶の各種物性を測定し,合成 法,化学的性質と関連づけるため,ゲル成長法 で育成したブルッシャイトの単結晶の熱測定, 誘電測定などを試みている。 おわりに この研究はまだ始まったばかりであるが,皆 様の協力を得て,この分野の研究を更に発展さ せてゆきたいと考えている。 7.ガラス質無機材質 7.1カルコゲンガラス (昭和45年度~49年度) はじめに カルコゲンガラスとはカルコゲンと呼ばれる 硫黄,セレン並びにテルルの3元素を主成分と する物質のガラス状態にあるものをいう。ここ では一般にカルコゲン化物ガラスといわれてい る金属とカルコゲンの結合体でガラス状態にあ るもののほかに,カルコゲン単体又はカルコゲ ン間の結合体でガラス状態にあるものを含めて カルコゲンガラスと呼ぶことにする。組成から 見れば,従来の珪酸塩ガラスや硼けい酸塩ガラ スなどのような酸化物ガラスと異なり,酸素を 含まない非酸化物ガラスであることに一つの特 徴がある。 カルコゲンガラスのあるもの,例えば As2S3 ガラスは1800年代の後半に既に知られていた が,本格的に研究が行われ,これまで知られな かったいろいろの特性が明らかになったのは 1950年代になってからで,今日までほぼ20年余 りしかたっていない。 このガラスの特徴はこれまでの酸化物ガラス にない長波長領域までの赤外光透過性や,低融 性封止材更にはスイッチ作用並びに記憶作用な どのエレクトロニクス素材としての特異性を持 つ新材料である147)。 以下述べるカルコゲンガラスに関する研究成 果は基本的な成分系ガラスについて,合成に関 する研究を中心に得られた試料について分析や 物性研究を行って,その結果を合成研究にフィ ードバックするとともに,ガラス状態解明への 手掛りとすることを目標にして行われたグルー プ研究に関するものである。 1.カルコゲンガラス合成方法 カルコゲンガラス中に微量に含まれる酸素は カルコゲンガラス独自の特性を著しく損なうこ とからも,高純度原料を用いることは勿論のこ と,その合成過程においても空気(酸素)との 接触を断った状態で行われる。空気中で開口る つぼ又は槽窯で溶融する酸化物ガラスとは大い に異なる。 現在実験室で行っている規模のカルコゲンガ ラス合成には一端を封じた透明シリカガラス管 (アンプル)中に高純度(99.999~99.9999%) 原料を入れてから,管内を真空(10-5Torr)に 保持しながら開放端を封じ切り,これを揺動電 気炉内でアンプルを揺動(シーソー運動)させ ながら加熱し,内容物を溶融,反応させて均質 な融液にする。溶融過程の終りにそれまでのア ンプルの水平状態での揺動運動を停止し,アン プルを垂直に一定時間保持した後で加熱を止 め,急冷する。アンプルを垂直に保持する操作 は融液をアンプル下半部に集め,均質な棒状試 料を得るためである。 (1)カルコゲン化物融液とシリカガラスとの 相互反応 As2S3ガラスや As2Se2ガラスのような代表 的二成分ガラスの合成に際し,既述のようなア ンプルを垂直に保持する時間を長くすると,急 冷処理を行ってから電気炉より取出したシリカ ガラスアンプルの下半部(内容物のカルコゲン ガラスに接している部分)に特有の割れが生じ, しかも内容物であるカルコゲンガラス試料は 何ら損傷を受けていない現象に遭遇した。そし て内容物のカルコゲンガラス表面には薄膜が形 成されていることが微小硬さの測定から判明し た。垂直保持温度を上昇(例えば一般の700℃よ り更に800℃又は900℃に昇温)させるか又は保 持時間を1時間以上にした場合,冷却後取出し たアンプルの破損は更にひどくなることが認め られた。 X線マイクロアナライザー(EPMA)による 定性的な元素分析で上記カルコゲンガラス (As2S3ガラス)試料表面に珪素が含有されてい ることが認められたが,アンプルの垂直保持条 件(温度と時間)と上記珪素含有層との量的関係 を求めるには珪素含有層がはがれやすいので工 夫を要した。その結果As2S3ガラス試料表面か ら約20μmの深さまで500ppmの珪素が含まれ ていることが認められた。アンプルの垂直保持 条件(カルコゲン化物融液とシリカガラスとの 静的接触条件)である温度を高くするか,時間 を長くした場合,EPMA測定のための試料面 加工時に珪素濃度の高い部分ははがれてしまう ため(別の実験によればAs2S3ガラス中の珪素, 許容限界は3000ppm以下である)垂直保持条 件の珪素含有層における濃度勾配との(明確な 数式化の)関係は得られなかったが,別の分析 手段,レーザーミクロ分光分析によっても上記 試料表面に珪素の存在が確認できた。 カルコゲン合成に際し,融液をシリカガラス 壁面に静的に接触させ,そのままの状態で急冷 を含めた成形と徐冷を行って得られるカルコゲ ンガラス素材の表面には珪素含有層が形成され ることが上記実験から見出された。As2S3, As2Se3ガラスの場合にはそれ自体は電気的に 絶縁体であるが,導体である珪素をその含有す ることにより各種の応用が期待される。 (2) As2S3ガラスのガラス形成過程 As2S3ガラスを合成する際のガラス形成に必 要な加熱条件(温度と時間)を明らかにした。 高純度原料(砒素と硫黄)をシリカガラスア ンプル内で揺動させながら加熱溶融する場合, 200℃以下では未反応部分があり,250~300℃, 24時間の場合には高温型鶏冠石(α-Realgar, As4S4)とAs25S75の原子百分率組成のガラス 相が形成され,400℃, 24時間ではAs4S4結晶と As33S67~As34S66の領域にある不均質ガラス相 が得られ,500~600℃, 24時間の試料で目標組 成のAs40S60 (As2S3)の均質ガラス相が得られ た。実験を行った条件下における均質なガラス を得るためには少なくとも500℃で24時間加熱 する必要がある。 (3) As2S3ガラスにおける組成均質度に及ぼ す溶融条件の影響 As2S3ガラスを少なくとも500℃で24時間加 熱することにより均質なガラスが得られること は前節で述べたが,更に加熱温度を上げた場 合,どの程度の時間短縮ができるかを調べた。 棒状ガラス試料各部分の砒素含有量差を0. 5 %以下にするためには,実験条件下では600℃ で24時間,700℃で6時間,800℃で1時間それ ぞれ加熱すればよいことがわかった。800℃か ら900℃に昇温すると更に時間が短くなること も判明し,効率の良いガラス合成条件が求めら れた。 2.分析方法 合成方法に関する研究と併行してカルコゲン ガラスの分析方法(主に化学分析法)に関する 研究が進められた。 カルコゲンガラス試料は成分に毒物を含むの で不純物の混入を防ぐほかに,安全上の見地か らも,通常化学分析の前に行う試料の粉末化を 避け,塊のまま秤量して分析を行った。試料塊 は種々の化学組成をもつが,いずれも水酸化ナ トリウム溶液と過酸化水素水を用いて完全に分 解できた。ただし試料中にアンチモン,テルル を含むものはこれらのナトリウム塩が不溶性化 合物となるので,水酸化ナトリウムの代りに水 酸化カリウムを使用した。カルコゲンガラス溶 液にした後,過塩素酸酸性で硫黄,砒素,セレ ンを分析する方法を確立した133,320)。 螢光X線分析については迅速分析化を目標 に,As-S系ガラスについて基礎条件の検討を 行った301)。 合成や物性に関する研究結果とガラス構造に 関連した研究結果から得られた情報,勿論これ らは限られたものであるが,これをもとにカル コゲンガラスのガラス状態解明に何らかの手掛 りを得ることを目的とした。この目的に沿って 行われた関連研究の成果を二,三紹介する。 (1)赤外分光法による構造 ガラス状単体セレンが環状(Se8)と鎖状 (Sen)の構造をとることは環状構造のα-単斜晶 系のセレンと鎖状構造の三方晶系セレンとの対 比から研究されているが,セレンに硫黄,テル ル,砒素並びにゲルマニウムをそれぞれ5%加 えた場合のガラス状態における構造変化を赤外 スペクトルの解析から次の結果を得た320)。 (a)セレン-硫黄のガラスでは硫黄は環状の S5Se3の形に取込まれる。 (b)テルルを添加した場合も鎖状でなく,環 状のSe5Te3の形に取込まれる。 (c) 砒素の場合にはピラミッド型のAsSe3の 形に,ゲルマニウムは四面体のGeSe4の形 に取込まれる。 上記のようにセレンに5%の硫黄,テルル, 砒素並びにゲルマニウムを加えたガラスの赤外 スペクトルは分子モデルによりよく説明でき る。また赤外スペクトルとラマンスペクトルに おける相対強度の組成依存性は必ずしもよい対 応関係を示さない。 (2)X線動径分布解析 カルコゲンガラスの成分元素の状態解析を行 う目的でX線動径分布解析が行われた。まず正 しい動径分布関数を得るためにコンプトン成分 を効率よく除く方法の試みが行われ,半導体検 出器と多重波高分析装置を組合せて,ガラス状 セレンについて測定し,効率よくコンプトン成 分を除くことに成功した312,313)。 (3)摩砕反応によって鉄板の表面に作られた 硫黄-セレン共晶層の電子回折 カルコゲン間の2成分系(S-Se, Se-Te並 びにTe-S)のガラス化に関する研究で,S-Se 系の共晶体の電子回折による研究において,硫 黄-セレン共晶体試料が鉄板との摩砕反応で鉄 と硫黄,鉄とセレンの間の固体反応を生じ,鉄 板に接着性の良い硫黄-セレン共晶体層が得ら れた。 硫黄-セレン層の厚さ約5μmで装覆された 鉄板は半導性を示した。この現象は鉄-セレン 光電池のそれに相似である。したがって本研究 における方法によって作製される鉄-鉄(硫黄, セレン)-共晶体の複合状態は整流器として応用 され得る。 4. As2S3ガラスの結晶化 As2S3組成の溶融体(融点370℃)は冷却速度 に無関係にガラス状になり,結晶化し難い。し かしながら天然にはせきおう(As2S3)として鶏 冠石(AsS)などと共生して産する。そこで As2S3ガラスの結晶化の条件としての過程を水 熱条件下で検討し,次の結果を得た。 (1)結晶化の条件 As2S3ガラスの小塊をカプセルに入れ,これ を各種の溶液又は水を入れた金又は白金の反応 カプセルの高温部分におき,これを圧力容器内 に入れて,温度を200~350℃,圧力を500atm, 時間を7~10日間で反応させた。反応カプセル 内でAs2S3ガラスがいろいろな溶媒との反応に より生じた結果からAs2S3結晶は200℃以下で 安定であり,AsSは高温側で安定であるが,そ の中間温度領域では両者が共存する。260℃よ り高温側で結晶化したAsSは高温型に属する ことが確かめられている。 (2)結晶化過程 図に示すように,多結晶質の小滴の合体から 多結晶集合体の球晶として成長し,ある時期で 球晶表面層の結晶が成長を始め,球晶の断面で 見ると,やがては中心の多結晶集合体の部分ま で針状結晶で占められてしまう。一方,良く共 存するAsS結晶は決して球晶をつくらない。 このようににして得たAs2S3結晶は天然産のも のより格子定数のa0とβが小さく,密度が大き いことが確かめられた。 5.物性 物性研究は合成したカルコゲンガラス試料を グループメンバーがそれぞれの担当分野で研究 し,その結果を合成研究にフィードバックする か,又はガラス状態の解明に役立てようという システムで行われた。 (1)カルコゲンガラス物性の組成依存性 As-S, As-Se,又はAs-(S+Se)系ガラスで はAsとカルコゲンの原子比が2 : 3の場合 As2S3球晶の成長過程模式図 誘電率では最低に227), 熱膨張係数では最低に, 熱膨張係数より求められる転移温度は最高 に(前節に述べた),熱伝導率では最高 に244) なることが確認された。 (2)伝熱特性244,325) As-S系,As-Se系並びにGe-Se系の各ガ ラスの熱伝導率,比熱並びに熱拡散率について 室温から転移領域まで連続加熱の非定常比較法 により求め,温度依存性を検討した。熱拡散率 は熱伝導率を比熱と密度の積で割ったものに等 しい関係があることを考慮しても,熱伝導率は 昇温に伴ってゆるやかに増大するが,同じ傾向 を示す比熱は転移温度領域で急増し,最高値を 示すが,熱拡散率は逆に減少し,最低値を示す ことが明らかになった。 おわりに カルコゲンガラスは酸化物ガラスに比較し て,転移領域も低温側にあり,転移現象の研究 には温度依存性測定面から見て酸化物ガラスよ り取組みやすいと考えられ,この分野の研究結 果を酸化物ガラスの研究にフィードバックする ことにより,ガラス状態解明への新たな局面が 開かれる可能性が考えられる。 赤外レーザー光(特にCOレーザー,波長10. 6 μm)の透過材料としての要求はこれまでの赤外 透過材料としての要求よりはるかに高く,吸収 係数を1/10以下にする努力が必要となっている。 合成原料の徹底した脱酸素処理や,原料中にゲ ッターを添加することなどが報告されており, 研究課題の一つであろう。 7.2アルミノ珪酸塩ガラス (昭和50年度~継続) はじめに 一般に使用されているビンガラスや板ガラス はソーダ石灰ガラスと呼ばれ,その成分系は Na2O-CaO-SiO2で表される。この中で珪酸 (SiO2)が重量で70%以上を占めるとともに,構 造的にも主要な役割を演ずることから珪酸塩ガ ラスと呼ばれる。表題のアルミノ珪酸塩ガラス はアルミナ(Al2O3)とシリカ(珪酸,SiO2)を 主体に,これに第3成分を加えたガラスであ る。第3成分を二価の金属酸化物(例えばCaO MgO,SrO又はBaOなどでROで示す)を加 えたものはRO-Al2O3-SiO2系ガラスとして示 される。第3成分(RO)の一部を一価のアルカ リ金属酸化物で,又はAl2O3やSiO2の一部を 別の金属酸化物で置換することもガラス物性の 特定成分に対する依存性を検討することなどを 目的として行われる。 CaO (又はMgO)-Al2O3-SiO2は,その成分 系内に耐火物,セメント,更には電子材料など を構成する重要な鉱物を含むことから,関連分 野においてそれぞれかなり詳細に研究されてい る。図にCaO-Al2O3-SiO2成分系における主 な鉱物などを示す。 これらの成分系におけるガラスに関する研究 はNa2O-CaO-SiO2系に比較すればはるかに少 ない。これはこの組成領域における実用化され たガラスの少ないことに関係があると見られ る。実用化を阻む理由の一つには失透(結晶 化)しやすい傾向によると見られる。 CaO-Al2O3-SiO2成分系における主な鉱物とセ メント並びにスラグ組成領域 SiO2 :クリストバル石並びにリン珪石 Al2O3 :コランダム CaO :ライム M:ムライト W :珪灰石 R :ランキナト A :灰長石 G:ゲーレン石 S :製鉄用高炉スラグ PC :ポルトランドセメント AC :アルミナセメント E-1:リン珪石,偽珪灰石並びに灰長石の共融 点(1,170℃) E-2 :偽珪灰石,ゲーレン石並び灰長石の共融 点(1,265℃)。 このような成分系のガラスを研究対象に取上 げた具体的な動機が二つある。その一つは耐ア ルカリガラス繊維に対する期待であり,もう一 と は耐熱性の よい高温ガラスへの期待である。 前者は建材用としての複合材料へのニーズに対 するもので,セメントの水和時に生ずるカルシ ウムイオン(Ca2+)に対するアルミノ珪酸塩ガ ラスの耐侵蝕性が,後者においては高アルミナ 領域におけるガラス化(ガラス形成過程)がそ れぞれ研究課題となる。 本研究は昭和50年4月に開始したばかりで, 上記の主要動機に対応した研究をも含めて,以 下に紹介する4項目にわたる研究内容も研究方 針であることを附言する。 アルミノ珪酸塩ガラス(RO-Al2O-SiO2ガラ ス)が耐アルカリ性ガラス繊維,高温用ガラス への応用を期待し,耐アルカリ性ガラスの創製 を中心にガラス形成過程,ガラス状態,ガラス の耐アルカリ性等について研究活動を展開して いる。 1.ガラス形成過程 この研究の骨子はある組成をもつ試料をガラ ス状態にするためにはいかにすべきか,ガラス 形成に関する過程を検討することにあるととも に系統化された組成のガラス(化した)試料を 作製することにある。 標準的なガラス形成過程,物質のガラス状態 化は次のように行われる。ガラス組成に対応 した原料を溶融容器内で溶融,原料間の反応を 十分に行わせ,均質な融液とし,これを所定の 形状に成形すると同時に急冷を行い,ガラス転 移温度(おおよそ融液の液相温度の2/3にあたる) 近傍まで急速冷却を行った後,形状に見合った 除歪操作を含めた徐冷(緩慢な冷却)を行い, 常温まで冷却する。融液を急冷することによる 粘性の増大(流動性の減少)を利用して成形す る,急冷と成形が同時に行われるところに特徴 がある。失透化しやすい成分系では従って冷却 効果のよい薄膜状か,繊維状でしかガラス状態 になり得ないし,またこのような場合には,再 び加熱すると結晶化しやすい。薄膜又は繊維状 試料ではバルク試料の場合ほど徐歪を考えなく てよい。逆に厚みの大きい,又は塊状の試料を 作製する場合には徐歪を考慮しての急冷と成形 を行う必要がある。急冷処理だけによって得ら れる小滴状試料についての情報に基づくガラス 形成領域の設定はあくまで一義的な価値しかな い。上記の急冷と成形は一次的なものであり, 目的により再溶融し,目的に沿った二次的な成 形が行われる。 失透しやすい成分系ではあるが,その特性面 から見てガラス状態を保持させたいという要求 に対しては,成形とともに急冷が十分に行える 繊維状に紡糸するか,薄膜にするか又は薄いリ ボン状に引出す方法がとられる。換言すれば, 失透過しやすい成分系のガラス化は繊維にする か,薄膜にする以外にはない。この場合にも加 熱処理によって失透領域が求まるので,実用に 際してはその温度領域が使用限界の目安にな る。 融液からの成形を含めた急冷によるガラス形 成過程をRO-Al2O3-SiO2系のROをCaO, MgO,SrO並びにBaOなどにした場合,それ ほどの成分系における出発原料とその混合,溶 融,融液の均質化とその冷却の諸条件のガラス 形成に及ぼす影響を研究するとともに,得られ たガラス試料の分析を行う。 CaO-Al2O3-SiO2系における研究の第一段階 における目標組成領域は図中にE-1とE-2で示 したリン珪石,偽珪灰石と灰長石の共融点 (1,170℃)とゲーレン石,偽珪灰石と長灰石 の共融点(1, 265℃)を結ぶ線を囲む周辺領域で ある。 2.ガラス状態 物質がガラス状態にある場合,ある物性が特 定温度領域で変化する現象,転移現象が,可逆 的であることを特徴とする。すなわち温度変化 に対し記憶作用を持っているわけである。 ガラス形成過程に関する研究で得られたガラ ス試料について,温度依存性を含めて物性の測 定を行う。熱膨張の測定においては典型的な記 憶作用,転移現象が見られ,一般には熱膨張曲線 からそのガラス組成の転移温度を求めている。 この転移温度の値は前節のガラス形成過程にお ける徐冷温度下限を決めるのに使われる。 室温における徐冷ずみ試料の密度は他の物性 や次節における構造研究などにおける計算の基 礎的な数値となる。 ガラス状態と関連した物性研究においてもう一 つの特徴は組成依存性の検討であろう。 珪酸塩 並びに硼けい酸塩ガラスについては構成酸化物 の各種の物性に対する加成性が検討され,その 係数まで求められているが,本研究では新たな 角度からこの問題に取組みたい。 3.ガラス構造 この研究においてはX線及び超高圧電子顕微 鏡によりガラス試料の構造解析を行う。ガラス 形成過程に関する研究で得られた試料以外に, PbOを含む成分系のガラス試料も研究対象とす る。また次節における耐アルルリ性試験を行っ た試料について表面層の構造変化の研究も行 う。 4. ガラスの耐アルカリ性 ガラス形成過程に関する研究で得られた試料 を中心に,アルカリ水溶液の種類とガラス組成 をそれぞれ変えた場合におけるガラスの耐アル カリ性について,また耐アルカリ性の温度依存 性,アルカリによるガラス侵蝕機構並びに侵蝕 されたガラス試料の物性変化並びに表面層の変 化などについて研究する。そしてそれぞれの項 目について得られた情報をもとに耐アルカリ性 ガラスとして具備すべき条件について検討す る。 おわりに 最も一般的なソーダ石灰ガラスは全世界にお けるガラス生産量において90%以上を占めてい る。その性質が普遍的であるとともに,その原 料もまた普遍的であることがガラス界の王座を 占めている理由であろう。 ガラス繊維用として賞用されていたEガラス は無アルカリの硼けい酸塩ガラスであるが,最 初に述べた建材用複合材料には耐アルカリの面 で欠点を露呈した以外に,生産時における硼酸 の揮発による環境汚染の問題も生じている。こ のような観点からも,また原料面からもこのと ころ取上げたRO-Al2O3-SiO2系のアルミノ珪 酸塩ガラスはこれまでの特殊ガラスから普遍的 なガラスになり得る素質を十分に備えていると いえる。 Ⅲ研究業績一覧 Il ot Fei — Fa 1.学・協会誌等に発表された研究成果 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 圧力技術 255耐熱材料のホットプレス 下平高次郎 12 64 1974 エレクトロニク・セラミクス 201酸化バナジウムの合成法と物性 大島弘歳 4 23 1973 応用物理 69窒素中でグロー放電処理して得られたAl表面の絶縁膜 について 上村揚一郎・田中耕二 岩田 稔 40 572 1971 90 Si2ON2耐熱材料 白崎信一 39 1036 1970 91耐熱材料の非破壊試験 白崎信一 39 1035 1970 159合成水晶の成長模様(Ⅰ) 本間 茂・岩田 稔 42 17 1973 160合成水晶の成長模様(Ⅱ) 本間 茂・岩田 稔 42 19 1973 224 AINの合成と物性 江良 皓 42 1222 1973 336ランタンヘキサボライドの熱陰極への応用 大島忠平・河合七雄 44 538 1975 384光学的表面観察・測定技術 小松 啓 44 1279 1975 化学と工業 187金属酸化物への異種金属の微量溶解 白崎信一 26 348 1973 岩石鉱物鉱床学会誌 67日高国千栄地域産のヴイリデイン石英片岩について 鈴木 醇・番場猛夫 鈴木淑夫 60 167 1968 68北海道山部地方の蛇紋石類,特にブルース石蛇紋岩の産 状とその成因について 鈴木 醇・鈴木淑夫 63 123 1970 110 Preparation of Baddeleyite(Monoclinic ZrO2) Using PbF2 Flux 藤木良規・鈴木淑夫 小野 晃 67 20 1972 高圧力 33ピストンシリンダー型高温高圧装置の試作 福長 脩 8 1856 1970 8410万気圧以上の圧力補正 福長 脩 9 2391 1971 89100kbarまでのパイロフィライトの剪断強度 岡井 敏 9 2373 1971 鉱物学雑誌 57窒化アルミニウムのホイスカーおよび針状結晶の成長機 構 石井 敏彦・佐藤 忠夫 岩田 稔 10 98 1970 105鉱物結晶の構造・組織と生成環境 小松 啓 8 34 1968 107極性結晶の双晶 小松 啓 9 441 1970 108鉱物学におけるFractography 小松 啓 10 34 1970 118高温型Nb2O5と類似構造の系列について(仮想構造を 含む) 島津正司 10 326 1972 134 ZrO2の相転移現象(Ⅰ ) 小野 晃・藤木良規 10 399 1972 注)番号については,当所の論文リストの整理番号です 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 135 ZrO2の相転移現象(Ⅱ) 小野 晃・藤木良規 10 409 1972 193 VLS機構による窒化アルミニウム単結晶の成長 石井敏彦・佐藤忠夫 岩田 稔 11 127 1973 194電気化学的方法によるgreigiteの合成 毛利尚彦 11 123 1973 238真空蒸着法による鉄硫化物の合成 中沢弘基・大坂敏明 11 25 1974 239遷移金属カルコゲン化合物の結晶化学 中平光興・川田 功 中沢弘基 11 51 1974 274半導体検出器とそのX線回折法への応用 島津正司・中沢弘基 11 411 1974 312エネルギー分散型測定による非晶質散乱のCompton成 分の実験的除去 島津正司・渡辺昭輝 12 45 1974 固体物理 335 LaB6単結晶 田中高穂・石沢芳夫 河合七雄 10 299 1975 セラミックス 70高層建築材としての板ガラス 長谷川泰 6 357 1971 115筑波研究学園都市に建設された無機材質研究所 長谷川安利・松田 洋 7 169 1972 147カルコゲンガラスの科学と工学における進歩 長谷川泰 7 757 1972 177材料科学とキャラクタリゼーション 中平光興 8 274 1973 310 英国におけるセラミック研究 三友 護 10 24 1975 351エキソ電子放射と熱電子放射 河合七雄 10 533 1975 361アルミナの物性と応用 山口成人 10 650 1975 耐火物 61 マグネシア多結晶体のクリープについて 下平高次郎 23 83 1971 148多結晶体における粒形および気孔のモデル 下平高次郎 24 447 1971 180セラミック多結晶体内の気孔について 下平高次郎 25 198 1973 233窒化アルミニウムの焼結と不純物酸素 酒井利和・岩田 稔 26 54 1973 253水酸化マグネシウムの熱分解について 高宮陽一・小田康義 田賀井秀夫 26 202 1973 343 CaOを含むMgOの太陽炉による溶融 高宮陽一・長谷川安利 田賀井秀夫・嵐 治夫 27 242 1975 炭 素 259ピッチの分別法としての真空昇華法 加茂睦和・神田久生 佐藤洋一郎・瀬高 信雄 78 77 1974 鉄と鋼 43電子回折の磁気解析への応用 山口成人 56 1383 1970 電気化学 39窒化アルミニウム単結晶の作成 石井 敏彦・佐藤 忠夫 岩田 稔 38 429 1970 62窒化物 岩田 稔 39 173 1971 213金属ホウ化物の構造と化学結晶 河合七雄 41 746 1973 367 Studies on the Vapor Phase Reaction in the System 国谷保雄・保坂正博 43 372 1975 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Ga-Cl2 進藤 勇 電気評論 302最近のセラミックスの研究動向 白崎信一 59 10 1975 日本化学会誌 119 Sr1-xMxFeO3-z(M = Y, La, Bi, In)固溶系における酸素 欠陥と構造の関係 山村 博・桐山良一 2 343 1972 151 真空焼成フェライトの酸化反応にともなう酸素拡散 山村 博 9 1580 1972 170酸素欠損をもつ(Sr1-x,Lax)FeO3-zの磁性 山村 博 12 2231 1972 219電弧法による窒化アルミニウムの合成 佐藤忠夫・岩田 稔 10 1869 1973 251欠陥チタン酸鉛の乾式合成およびその誘電的性質 掛川幸一・毛利純一 白崎 信一・山村 博 高橋紘一郎 1 10 1974 275チタン酸バリウムの湿式合成およびその誘電的性質 山村 博・白崎信一 高橋紘一郎・高木 実 7 1155 1974 332 Pb(Zrx Ti1-x)O3 の組成変動 掛川一幸・渡辺 潔 毛利純一・山村 博 白崎信一 3 413 1975 日本化学雑誌 13 2 ―(サリチリデンアミノ)チオフェノ ールを用いる微 量ニッケルの吸光光度定量 石井 一・永長久彦 90 175 1969 44 2―(サリチリデンアミノ)チオフェノ ールを用いる微 量銅の抽出―吸光光度定量 石井 一・永長久彦 91 734 1970 日本機械学会論文集 325赤外透過性カルコゲンガラスの温度場の解析 栗山正明・片山功蔵 田熊良行・長谷川泰 大阪俊明 41 607 1975 388ふく射透過性物質の熱伝導率測定におけるふく射伝熱の 影響 栗山正明・片山功蔵 田熊良行・長谷川安利 41 3588 1975 日本金属学会報 74高温高圧下の示差熱分析法 福長 脩 10 405 1971 334電顕格子像による無機化合物の格子欠陥の研究 堀内繁雄 14 315 1975 日本結晶学会誌 73 AINは融けるか 岩田 稔 13 141 1971 106極性結晶の表面微細形態 小松 啓 11 200 1969 128不定比化合物 中平光興 14 73 1972 218 Lattice Complexの概念とその応用 川田 功 15 347 1973 241光学顕微鏡による結晶成長の研究 小松 啓 16 28 1974 242大型人工ダイヤモンド 小松 啓 16 104 1974 日本原子力学会誌 127電子ビーム加熱法による各種炭素材料の高温熱伝導度測定 田中高穂・鈴木弘茂 14 274 1972 日本鉱業会誌 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 234表面観察における反射電子線像の特徴と分解能 藤木良規・平田 衡 89 817 1973 日本物理学会誌 161磁性硫化鉄Fe3S4 山口成人 28 42 1973 289酸化ニオブ中の点欠陥の直接観察 木村茂行 29 781 1974 分析化学 6 サリチリデン-O-アミノフェノ ールを用いる微量銅の抽 出吸光光度定量 石井 一・永長久彦 18 230 1969 10α-ベンゾインオキシムを用いるニッケルの溶媒抽出-紫 外吸光光度定量 永長久彦・石井 一 18 439 1969 21クロロ-ピリジン-水銀(Ⅱ)錯体として抽出後,ジチゾン との配位子交換反応を利用する微量塩化物イオンの間接 吸光光度定量 永長久彦・石井 一 18 1211 1969 30バナジウム(ⅣおよびⅤ) -カルシクロム錯体およびバ ナジウム(Ⅳ)-カルシクロム錯体生成を利用するバナジ ウムの吸光光度定量法 石井 一・永長久彦 19 371 1970 46 N, N'-ビス-サリチリデン-2, 3 -ジアミノベンゾフラン を用いる微量ニッケルの抽出吸光光度定量 石井 一・永長久彦 19 1351 1970 97ブロモ-イソキノリン-水銀(Ⅱ)錯体として抽出後,ジチ ゾンとの配位子交換反応を利用する微量臭化物イオンの 間接吸光光度定量 永長久彦・石井 一 岩崎岩次 20 1355 1971 133イオウとヒ素の逐次分析法 大庭茂樹・上野精一 21 1084 1972 301 ヒ素-イオン系カルコゲン化物ガラス中のヒ素,イオウ のけい光X線分析 大庭茂樹 23 1571 1974 粉体および粉末冶金 5不定比酸化物中の陽イオンの分布について 中平光興 15 440 1969 防蝕技術 54結晶の最外表面の物理化学的作用について J. A. Hedvall著 山口成人訳 20 2 1971 178 Greigite Fe3S4 について 山口成人 22 89 1972 窯業協会誌 1昇華法によるSiC単結晶育成時の隔壁の作用 猪股吉三・三友 護 井上善三郎・鈴木 弘茂 76 137 1968 2昇華法によるSiC単結晶作成時の成長速度が結晶の多 形および積層欠陥におよぼす影響 猪股吉三・小松 啓 井上善三郎・三友 護 76 268 1968 3昇華法によるSiC単結晶育成時の温度と育成結晶の構造 との関係 猪股 吉三・井上善三郎 三友 護・鈴木弘茂 76 313 1968 4昇華法によるSiC結晶の成長過程 猪股吉三・三友 護 井上善三郎・田中広吉 76 355 1968 7溶媒としてシリコンを用いて作成したSiC結晶の多形 猪股吉三・井上善三郎 三友 護・田中広吉 77 83 1969 8 SiC結晶の基本的な構造の熱的な安定性 猪股吉三・三友 護 77 130 1969 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 井上善三郎・田中広吉 9 Lely炉内に生成した2H形SiC Whisker 猪股吉三・井上善三郎 三友 護・末野重穂 77 143 1696 16 β-SiCの加熱による構造変化と15Rの挙動 猪股 吉三・井上善三郎 木島弌倫 77 313 1969 22 15R形SiCの熱的な安定性とその生成 猪股 吉三・井上善三郎 77 405 1969 29 昇華法による2H形SiCの合成とSiCの基本的な構造 の熱的な安定性 猪股吉三・井上善三郎 78 133 1970 31 The Thermal Conductivity of Aluminum Nitride 田中高穂・鈴木弘茂 78 174 1970 37 4H-, 6H-SiCの安定性に及ぼす不純物アルミニウムの 影響 三友 護・猪股吉三 熊埜御堂真土 78 224 1970 41 SiC結晶の熱エッチング模様 三友 護 78 264 1970 45 昇華法によって育成したSiC単結晶の内包炭素粒について 猪股吉三・田中広吉 78 323 1970 48 Wurtzite形とSphalerite形構造の熱的な安定関係 猪股吉三 78 365 1970 53 スピネル型Fe3S4の水熱合成に関する注意 山口成人・和田弘昭 79 37 1971 55 SiC結晶作成時のβ-SiCの初期晶出現象 猪股 吉三・松本精一郎 79 30 1971 63 加圧焼結終期における緻密化機構 下平高次郎 79 132 1971 86 シリコン溶液から成長させた板状のα-SiC単結晶 猪股 吉三・井上善三郎 三友 護 79 259 1971 92 SiC単結晶の作成方法 猪股吉三・田中広吉 79 392 1971 98 On the Two-Dimensional Shape of Polycrystalline Grains 下平高次郎 79 440 1971 100 硫酸ベリリウムの合成とその熱分解過程 松田伸一・池上隆康 鈴木弘茂 79 351 1971 102 酸化ベリリウム粉体の加圧焼結 下平高次郎 80 25 1972 152 Growth of ZrO2 Grystals by Localized Cooling Method Using Na2B4O7-KF Flux 藤木良規・小野 晃 80 506 1972 157 SiC単結晶の合成 猪股 吉三・井上善三郎 太田正恒 81 11 1973 173 不定比化合物V2O3+xの研究 大島弘歳 81 162 1973 195 BeO粉末の湿潤熱と焼結性 池上隆康・松田伸一 鈴木弘茂 81 322 1973 196 硫酸塩を仮焼して得たBeO粉末の表面構造 池上隆康・森 泰道 松田伸一・鈴木弘茂 81 379 1973 197 The Effect of Oxygen Impurity on High Temperature Thermal Conductivity of AIN 田中高穂・酒井利和 岩田 稔 81 399 1973 205 Si3N4-C-N2(1 atm)系における窒化珪素の分解温度 猪股 吉三・井上善三郎 81 441 1973 207 水酸化物由来BeO粉末の表面構造 池上隆康・森 泰道 松田伸一・鈴木弘茂 81 407 1973 215 Chemical Potential Related to Vacancies and Ele­ ctrical Neutrality in the Ionic Solid System 中野みつ子 81 491 1973 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 216 圧縮応力による収縮に関連したガラスの粘度測定法 渡辺昭輝・大坂俊明 長谷川泰 81 467 1973 220 種々のBeO粉末の水に対する湿潤熱 池上隆康・森 泰道 松田伸一・鈴木弘茂 81 455 1973 221 窒化アルミニウムの加圧焼結速度に及ぼす鉄の影響 酒井利和・岩田 稔 81 477 1973 227 As-S-Se系ガラスの誘電率 大坂俊明・渡辺昭輝 長谷川泰 82 78 1974 237 The Synthesis of α-Si3N4 三友 護・田中広吉 田中順三 82 144 1974 244 As2S3およびAs2Se3ガラスの熱伝導率・熱容量の測定 栗山正明 82 156 1974 245 アルミナ還元によるAlNの合成 酒井利和・岩田 稔 82 181 1974 256 高純度マグネシアクリンカーならびに電融マグネシアの 消化について 高宮陽一・松野 望 田賀井秀夫 82 82 297 297 1974 1974 262 Growh of ZrO2 Single Crystals Using V2O5-NaF Flux 藤木良規 82 402 1974 278 貫入粘度測定法における装置定数と貫入速度 渡辺昭輝 82 492 1974 279 Thermal Stability of α-Si3N4 in Si-N2-O2 System at 1730 ℃ 猪股吉三 82 508 1974 283 β-Si3N4-α-Si3N4-Si2N2O系の1,600℃以上における安定 関係と加熱変化 猪股吉三 82 522 1974 306 The Hydrothermal Solubility of Beryllium Oxide in NaOH Solutions 進藤 勇・鈴木弘茂 83 28 1975 307 Effect of Oxygen Partial Pressure on the Growth Character of α-Si3N4 木島弌倫 83 46 1975 308 Oxidation Resistant Si-Impregnated Surface Layer of Reaction Sintered Nitride Articles 猪股吉三 83 1 1975 316 MgOの{100}面上に生成したMg(OH)2の構造 高宮陽一・太田千里 田賀井秀夫 83 56 1975 329 Mg(OH)2へのCa(OH)2の固溶について 高宮陽一・小西秀雄 田賀井秀夫 83 133 1975 333 シリコン粉末の窒化過程 猪股 吉三・上村揚一郎 88 244 1975 344 マグネシアの低温ホットプレス中の結晶子の成長 高宮陽一・小田康義 田賀井秀夫 83 332 1975 359 窒化珪素中の窒素および珪素の定量 一ノ瀬昭雄・永長久彦 83 465 1975 365 Nitridation of Silicon Powder 猪股吉三 83 497 1975 373 As2S3ガラスにおける組成均質度に及ぼす熔融条件の影 響 大庭茂樹・上野精一 長谷川泰 83 558 1975 380 MgOの焼結にたいするCaOの効果 高宮陽一・福田隆生 今井秀喜・田賀井秀夫 84 9 1976 381 非平衡欠陥を含むLaFeO3の磁性 山村 博・大島弘歳 白崎 信一・高橋紘一郎 福長 脩・掛川一幸 84 1 1976 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 382 Oxidation of α-and β-Silicon Nitride 三友 護・J. H. Sharp 84 33 1976 383不純物酸素量の少ないα-Si3N4の合成 木島弌倫・田中広吉 瀬高信雄 84 14 1976 窯業データブック 32超高圧装置 福長 脩 53 84 1970 Acta Crystallographica A 258 High-Resolution Microscopy of Nonstoichiometric Nb22O54 Crystals: Point Defects and Structural Defects 飯島澄男・木村茂行 後藤 優 30 251 1974 358 Direct Observation of Point Defects in Nb12O29 by High-Resolution Electron Microscopy 飯島澄男・木村茂行 後藤 優 29 632 1973 364 Transition of V6O13 to VO2 Observed with a High- Resolution Electron Microscope 堀内繁雄・佐伯昌宣 松井良夫・永田文男 31 660 1975 Acta Crystallographica B 71 Two-Dimensional Superstructure in Hydrothermally Synthesized Pyrrhotite 堀内繁雄・和田弘昭 27 504 1971 281 Lead Trititanate 加藤克夫・川田 功 村松国孝 30 1634 1974 288 BaWO4-Ⅱ(A High-Pressure Form) 川田 功・加藤克夫 藤田武敏 30 2069 1974 311 Lanthanum Tetraboride 加藤克夫・川田 功 大島忠平・河合七雄 30 2933 1974 330 Die Kristallstruktur von T-Nb2O5 加藤克夫・田村脩蔵 31 673 1975 390 Barium Disulphide 川田 功・加藤克夫 山岡信夫 31 2905 1975 The American Ceramic Society Bulletin 263 Empirical Equation for Penetration Viscometry 渡辺昭輝 53 259 1974 273 Formation of Graphitizable Carbon from Polyfurfuryl Alcohol under High Pressure 佐藤洋一郎・大橋 晴夫 瀬高信雄 53 261 1974 The American Mineralogist 226 Preparation of Thin Films of Greigite, Fe3S4, and Its Preferred Orientation on a Sodium Chloride Crystal 中沢弘基・大坂敏明 坂口 幸助 58 926 1973 328 Structure and Crystal Chemistry of Calcium Tsche- rmak's Pyroxene, CaAlAlSiO6 F. P. Okamura, S. Ghose 大橋晴夫 59 549 1975 348 Direct Observation of Metal Vacancies by High- Resolution Electron Microscopy. Part 1:4C Type Pyrrhotite (Fe7S8) 中沢弘基・森本信男 渡辺栄一 60 359 1975 Analusis 184 Démonstration de la Stcechiométrie de Greigite Fe3S4 au Moyen de la Diffraction Électronique 山口成人・和田弘昭 2 141 1973 Analyst 23 Determination of Traces of Constituents with Sohiff 石井 一・永長久彦 94 1038 1969 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Basec 248 Solvent Extraction of Copper( Ⅱ ) and Zinc( Ⅱ ) with 1,5-Diphenylcardazone 永長久彦・石井 一 98 802 1973 Analytica Chimica Acta 66 Complex Formation of Beryllium (Ⅱ) with Thorin: Reinvestigation and an Improved Spectrophotometric Determination on Beryllium 永長久彦・石井 一 54 113 1971 Applied Physics 257 Lifetime Spectra of Positrons in Ionic Compounds 野口正安・千葉利信 岸本安弘・津田惟雄 3 383 1974 270 Lifetime Spectra of Positrons in Deformed Ge 蔵元英一・竹内 伸 野口正安・千葉利信 津田惟雄 4 41 1974 297 Anisotropy in the Angular Correlation Curves of NiO 千葉利信・津田惟雄 5 37 1974 Applied Physics Letters 211 Auger Electron Spectroscopy Study of Oxidation on lanthanum Hexaboride 大島忠平・河合七雄 23 215 1973 354 LaB6 Single-Crystal Tips as an Electron Source of High Brightness 志水隆一・片岡由行 河合七雄・田中高穂 27 113 1975 British Corrosion Journal 117 Greigite as a Corrosion Product of Steel 山口成人・毛利尚彦 7 47 1972 212 Greigite Found in the Submarine Tunnel 山口成人・青山芳夫 8 50 1973 Bulletin of the Chemical Society of Japan 18 Determination of Traces of Constituents with Schiff Bases. Ⅲ. Extraction-Spectrophotometric Determin­ ation of Nickel with Salicylidene-o-Aminophenol 石井 一・永長久彦 42 1558 1969 47 Alpha-Benzildioxime Complexes of Copper (Ⅱ) -A Study by Solvent Extraction- 永長久彦・石井 一 43 2970 1970 112 The Characteristics of Defect Lead Titanate 白崎 信一・高橋紘一郎 真鍋和夫 44 3189 1971 150 Oxygen Vacancies in the Perovskite-Type Ferrites. Ⅱ. Mössbauer Effect in the SrFeO2.5-LaFeO3 Solid- Solution System 山村 博・桐山良一 45 2702 1972 267 Fractionation of Polyvinyl Chloride Pitch by Vacuum Sublimation 加茂睦和・神田久生 佐藤洋一郎・瀬高 信雄 47 1527 1974 276 The Standard Free Energy of the Formation of LaFeO3 at 1204℃ 君塚 昇・桂 敬 47 1801 1974 277 A New Pyrochlore System, Pb (Tix・Sn1-x) O3, and Its Transition to a Perovskite System 白崎信一・山村 博 村松 国孝・高橋紘一郎 47 1568 1974 340 Thermochemical Properties of Lanthanoid-Iron- Perovskite at High Temperatures 桂 敬・北山憲三 杉原 忠・君塚 昇 48 1809 1975 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 341 Phase Equilibria in the Fe-Fe2O3-Eu2O3 System at 1200℃ 杉原 忠・君塚 昇 桂 敬 48 1806 1975 377 Adducts of Bis (hexafluoroacetylacetonato) metal (Ⅱ) with Uni- and Bidentate Nitrogenous Bases 泉富士夫・黒沢亮子 川本 博・赤岩英夫 48 3188 1975 395 Some Aspects of the Solid-solid Reaction Products between MgO and V2O3 大島弘歳・山村 博 白崎信一 49 333 1976 Bulletim of the JSME 374 Analytical Study of Radiation and Conduction Heat Transfer in Infrared Transmitting Chalcogenide Glass 栗山正明・片山功蔵 田熊良行・長谷川泰 大坂俊明 18 1158 1975 Bulletin de la Société francaise de Minéralogie et de Cristallographie 124 Remarques sur une Greigite Préparée par Processus Hydrothermal 山口成人・和田弘昭 94 549 1971 232 Formation de Fe2S3 Cubique 山口成人・和田弘昭 96 213 1973 Bulletin of the Tokyo Institute of Technology 360 An X-RAY Study of Molten Platinum 貫井昭彦・田賀井秀夫 森川日出貴・岩井津一 126 7 1975 Bureau of Mines Report of Investigations/1975 363 Electrolytic Preparation of Titanium and Zirconium Diborides From Their Oxides and Mineral Conce­ ntrates J. M. Gomes RI8053 内田 健治・ M. M. Wong 1 1975 Carbon 130 The Thermal Diffusivity of Pyrolytic Graphite at High Temperatures 田中高穂・鈴木弘茂 10 253 1972 Chemical Physics Letters 188 Oxygen-Diffusion Characteristics of Loosely-Sintered Polycrystalline MgO 白崎信一・浜 正明 20 361 1973 Chemistry Letters 229 Mass Spectral Analysis of Thermally Desorbed Cases from Diamond Suefaces 松本精一郎・佐藤洋一郎 瀬高信雄・後藤 優 9 1247 1973 266 An Early Stage Carbonization Process of Polyvinyl Chloride 加茂睦和・神田久生 佐藤洋一郎・瀬高 信雄 7 797 1974 309 Hydrothermal Growth of Anatase (TiO2) Crystals 泉富士夫・藤木良規 1 77 1975 326 Infrared and Mass Spectral Studies of Complexes of Bis (Hexafluoroacetylacetonato) Metal(Ⅱ) with 1,10-Phenanthroline 泉富士夫・黒沢亮子 川本 博・赤岩英夫 4 379 1975 Chimie Analytique 49 La Microanalyse de Fe3S4 Synthétique et Naturel au Moyen de la Diffraction Électronique 山口成人・宇田応之 和田弘昭 52 864 1970 99 Analyse du Produit de la Sulfuration de I' acier au Moyen de la Diffraction Électronique 山口成人・毛利尚彦 53 592 1971 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Economic Geology 349 Al-Fe Partitioning Between Garnet and Epidote from the Contact Metasomatic Copper Deposits of the Chichibu Mine, Japan 北村健二 70 725 1975 Eighth International Congress on Electron Microscopy, Canberra 1974 357 Equilibration Problems in the System NbO2-Nb2O5 木村茂行・後藤 優 飯島澄男 1 530 1974 Experimentelle Technik der Physik 103 Experimentelle Technik zur Ermittlung der Elektri- schen Polarisationsachse von Eisensulfid Durch Elektronenbeugung 山口成人・和田弘昭 野崎浩司 19 333 1971 314 Experimentelle Technik zur Untersuchung der Metall- Oxid-Grenze mit Hilfe der Elektronenbeugung 山口成人 22 365 1974 391 Zur Halbleitenden S-Se-Eutektoidschicht auf Eise- nblech 山口成人・長谷川泰 田賀井秀夫 23 375 1975 396 Zum Aufbau von Metalloberflächen, die als So- nnenlicht absorber Dienen 山口成人 23 551 1975 High Temperatures-High Pressures 282 Large Bridgman Anvils and Mechanical Propertiecs of Pyrophyllite 岡井 敏・吉本次一郎 5 675 1973 Inorganic Chemistry 317 Structural Chemistry of the Polysulfides Ba2S3 and BaS3 山岡 信夫・J. T. Lemley J. M. Jenks ・H. Steintink 14 129 1975 International Clay Conference 27 Far Infrared Absorption Spectra of Micas 石井紀彦・中平光興 武田 弘 1 247 1969 The 4th International Conference on High Pressure, Kyoto 1974 337 Synthesis of Cubic Boron Nitride by the Catalytic Process 福長 脩・佐藤忠夫 岩田 稔・平岡秀雄 454 1974 338 Supported Wedge Type Girdle Apparatus 福長 脩 798 1974 Japanese Journal of Applied Physics 79 Role of Grain Boundaries in Oxygen Self-Diffusion in Polycrystalline MgO 白崎信一・大石行理 10 1109 1971 83 Shear Strength of Pyrophyllite up to 80 kbar 岡井 敏・吉本次一郎 10 534 1971 120 Formation of 2H-Type SiC Films by Reactive Spu­ ttering 松本精一郎・鈴木弘茂 上田隆三 11 607 1972 204 Electrical Conduction and Phase Transition of Copper Sulfides 岡本公彦・河合七雄 12 1130 1973 223 Oxygen Diffusion in Li-Doped Polycrystalline MgO 白崎信一・山村 博 浜 正明・橋本栄久 12 1654 1973 250 Defect Ferroelectric-Meterial of Type Pb1-xNay 掛川一幸・毛利純一 12 1821 1973 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 TiO3-x+(y/2) 山村 博・白崎信一 261 Effect of Pressure on Dielectric Relaxation in (K3/4 Bi1/4) (Zn1/6 Nb5/6)O3 吉本次一郎 ・岡井 敏 野村昭一郎 13 1019 1974 305 Electrical Properties and Phase Transformation of ZrO2 Single Crystals 石沢芳夫・小野 晃 藤木良規 13 2053 1974 315 Thin Film Cathodes of Lanthanum Hexaboride (La B6) 大島忠平・堀内繁雄 河合七雄 2 281 1974 353 Field Emission Pattern of LaB6-Single Crystal Tip 志水隆一・片岡由行 田中高穂・河合七雄 14 1089 1975 379 A Structural Defect of Natural Magnetite Observed in an Electron Microscope Lattice Image 堀内繁雄・松井良夫 加藤克夫・永田文男 14 1837 1975 Journal of the American Ceramic Society 14 Influence of Oxygen on Growth of 2H-SiC Whiskers 瀬高信雄・江尻公一 52 60 1969 19 Evidence for 2H-SiC Whisker Growth by a Screw Dislocation Process 瀬高信雄・江尻公一 52 400 1969 25 Beta Silicon Carbide Whiskers Prepared on a Mo­ lybdenum Substrate 瀬高信雄・井上善三郎 52 624 1969 126 Hydrothermal Growth and Etching of ZrO2 Crystals 藤木良規・三橋武文 鈴木淑夫 55 223 1972 153 Influence of Vapor-Phase Composition on Morpho­ logy of SiC Single Crystals 瀬高信雄・江尻公一 55 540 1972 202 Preparation of Si3N4 by Vapor-Phase Reaction 木島弌倫・瀬高信雄 石井紀彦・田中広吉 56 346 1973 203 Synthesis of PbZrS3 at High Pressures 山岡信夫 55 111 1972 214 Phase Transformation of Monoclinic ZrO2 Single Crystals 三橋武文・藤木良規 56 493 1973 225 Ferroelectric-Paraelectric Phase Transition in Lead Titanate Containing Lattice Defects 白崎 信一・高橋紘一郎 掛川一幸 56 430 1973 269 Characterization and Stabilization of Metastable Tetragonal ZrO2 三橋武文・市原正樹 田附雄二 57 97 1974 322 Effect of Halide Dopants on Fabrication of Transp­ arent Polycrystalline MgO 池上隆康・松田伸一 鈴木弘茂 57 507 1974 369 Thermal Conductivities of As-Se Glasses 栗山正明 58 302 1975 376 Structural Approach to the Problem of Oxygen Content in Alpha Silicon Nitride 君塚 昇・桂 敬 加藤克夫・井上善三郎 木島弌倫・川田 功 58 90 1975 Journal of Applied Crystallography 101 Crystallographic Investigations of the Phase Transi­ tion of VO2 川田 功・君塚 昇 中平光興 4 343 1971 313 Effective Elimination of the Compton Component in Amorphous Scattering by Experimental Means 島津正司・渡辺昭輝 7 531 1974 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Journal of Applied Physics 35 Low-Temperature Phase Transition of Vanadium Sesquioxide 中平光興・堀内繁雄 大島弘歳 41 836 1970 40 Magnetic Anisotropy of Fe3S4 as Revealed by Ele­ ctron Diffraction 山口成人・和田弘昭 41 1873 1970 158 Preferential Diffusion of Oxygen Along Grain Bo­ undaries in Polycrystalline MgO 橋本栄久・浜 正明 白崎信一 43 4828 1972 166 Electric Field Induced Anisotropy of Iron Thiospinel 山口成人・和田弘昭 43 4794 1972 206 Magnetic Iron Sulfide of the γ-Al2O3 Type 山口成人・和田弘昭 44 1929 1973 285 Note on the Aluminum Suboxides 山口成人 45 3207 1974 290 Lattice Image of Nb12O29 Observed by a 1000-kV Electron Microscope 堀内繁雄・村松国孝 内田裕二 45 3199 1974 327 Electric Field Induced Deformation of Ruby 山口成人 46 439 1975 The Journal of Chemical Physics 400 Covalency Effects on Momemtum Distributions in Compounds: Positron Annihilation in Fe3O4 千葉利信 64 1182 1976 Journal of Colloid and Interface Science 26 Surface Transformation of a Colloidal Particle as Revealed by Electron Diffraction 山口成人・和田弘昭 31 578 1969 162 Aging of Colloidal Iron Sulfide 山口成人・和田昭弘 40 477 1972 355 Structure of the Sunshine Absorbent 山口成人 51 550 1975 Journal of Crystal Growth 20 Thermal Stability of 6H and 15R Types of SiC 猪股 吉三・井上善三郎 三友 護 5 405 1969 64 A New Rolytype of Silicon Carbide 9T 井上善三郎・末野重穂 田賀井篤平・猪股 吉三 8 179 1971 81 Bemerkungen zum Hydrothermalen Kristallwachs- tum von Eisensulfiden 山口成人・和田弘昭 10 131 1971 104 The Direct Observation of a Cluster of Screw Di­ slocations in Silicon Carbide 猪股吉三・小松 啓 三友 護・井上善三郎 2 322 1968 114 Synthesis of Inclusion-Free SiC Single Crystals 猪股吉三 12 57 1972 146 Greigite as Seed for Crystal Growth of Pyrrhotite 山口成人・和田弘昭 15 153 1972 164 Crystal Growth of V6O13 佐伯昌宣・君塚 昇 石井紀彦・川田 功 中野みつ子・一ノ瀬昭雄 中平光興 18 101 1973 198 X-Ray Topography and EPMA Studies of Synthetic Quartz 本間 茂・岩田 稔 19 125 1973 231 A New Type of Twin in an AlN Crystal 堀内繁雄・石井敏彦 21 17 1974 240 β-Si3N4 Single Crystals Grown from Si Melts 猪股吉三・山根典子 21 317 1974 284 Growth of LaOCl Crystalline Films 堀内繁雄・大島忠平 23 239 1974 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 291 Flux Growth and Surface Observations of ZrO2 Single Crystals 藤木 良規・鈴木 淑夫 24/25 661 1974 292 Crystal Growth of Nonstoichiometric V5S8 by Che­ mical Transport 佐伯昌宣・中野みつ子 中平光興 24/25 154 1974 294 Morphology and Imperfection of Hydrothermally Synthesized Greigite (Fe3S4) 堀内繁雄・和田弘昭 毛利尚彦 24/25 624 1974 295 Growth Mechanism of Flux-Grown YAG 小松 啓・本間 茂 木村茂行・宮沢靖人 進藤 勇 24/25 633 1974 296 Preparation of Silicon Nitride Single Crystals by Chemical Vapor Deposition 木島弌倫・瀬高信雄 田中広吉 24/25 183 1974 298 Crystal Growth of Alkaline Earth Hexaborides 村中重利・河合七雄 26 165 1974 345 The Growth of Single Crystals of NbO2 by Chemical Transport Reactions 小玉博志・後藤 優 29 77 1975 346 Oriented Growth of AlN Films on Oriented on Ori­ ented Al Films 上村揚一郎・岩田 稔 29 127 1975 350 Crystal Growth of NbO2 by Chemical Transport Method 小玉博志・後藤 優 29 222 1975 372 Growth of High Purity LaB6 Single Crystals by Multi-Float Zone Passage 田中高穂・坂内英典 河合七雄・山根典子 30 193 1975 Journal of the Electrochemical Society 144 Electrochemical Synthesis of Ferromagnetic Fe3S4 山口成人・毛利尚彦 119 1062 1972 Journal of Inorganic & Nuclear Chemistry 76 Synthesis of Thio-Spinel of Iron Fe3S4 山口成人・和田弘昭 33 1519 1971 190 Verteilungsgleichgewicht des Tris 〔äthylazetazetato〕 -Eisen〔Ⅲ〕Komplexes im System Benzol/Wasser 永長久彦 35 2578 1973 The Journal of the Japanese Association of Mineralogists, Petrologists and Economic Geologists 208 Hydrothermal and Flux Growth of Cassiterite (SnO2) Crystals 藤木良規・鈴木淑夫 68 277 1973 370 Phase Relation of CaFeAlSiO6 Pyroxene at High Pressures and Temperatures 大橋晴夫・針谷 宥 70 93 1975 Journal of the Less-Common Metals 154 Relative Stabilities of Several Forms of Niobium Pentoxide 小玉博志・菊地 武 後藤 優 29 415 1972 192 Phase Transition of V6O13 川田 功・中野みつ子 佐伯昌宣・石井紀彦 君塚 昇・中平光興 32 171 1973 324 Order-Disorder Phenomena of Cationic Vacancies in a Vanadium Sulphide, V5S8 中沢弘基・佐伯昌宣 中平光興 40 57 1975 398 A Trigonal Phase V1+xS2 Prepared under High 小野田みつ子・山岡信夫 44 341 1976 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Pressure 雪野 健・加藤克夫 川田 功 Journal of Materials Science 125 On the Identification of the Polar Surfaces of SiC Crystals 木島弌倫・小松 啓 7 19 1972 129 High-Pressure Phase Research on Nb2O5 田村脩蔵 7 298 1972 331 Oxygen Content of α-Si3N4 Single Crystals 木島弌倫・加藤克夫 井上善三郎・田中広吉 10 362 1975 Journal of Non-Crystalline Solids 254 Composition Dependence of the Infrared Absorption Band Near 250cm-1 in the Glassy System As-Se 大坂俊明 15 149 1974 320 Infrared Spectra of Glassy Se Containing Small Amounts of S, Te, As, or Ge 大坂俊明 17 121 1975 366 Glass-Transition Phenomena for As-Se Glasses 栗山正明・大坂俊明 18 152 1975 Journal of the Physical Society of Japan 24 Electron Distribution in GaAs as Revealed by the X-Ray Diffraction 宇野良清・岡野忠弘 雪野 健 28 437 1970 38 Photosensitive ESR in AlN Phosphors 月岡正至・野崎浩司 岩田 稔 29 239 1970 42 Tunneling Anomalies in Nb-GaAs Junctions above 9. 2K 津田惟雄 29 514 1970 56 Electron State in AlN Studied by Compton Scatter­ ing Measurement 細谷助昭・深町友江 島津正司 30 202 1971 65 Crystalline Transformation of ZrO2 三橋武文・藤木良規 月岡正至・津田惟雄 30 1206 1971 75 Positron Life Time in ReO3 野口正安・千葉利信 三橋武文・津田惟雄 31 306 1971 94 Correlation of Life Times of Positrons in Oxides 千葉利信・野口正安 三橋武文・田中高穂 津田惟雄 31 1288 1971 95 Electron Microscopy of Hydride Precipitation in Vanadinm 千葉利信・高野繁男 31 1113 1971 121 Lifetime Spectra of Positrons in ZrO2 三橋武文・野口正安 千葉利信・小野 晃 市原正樹・津田惟雄 32 1281 1972 122 Positron Lifetimes in Oxides 野口正安・三橋武文 千葉利信・田中高穂 津田惟雄 32 1242 1972 123 Lifetime Spectra of Positrons in Transition-Metal Monoxides 野口正安・佐伯昌宣 塩田 勝・芝田研�� 千葉利信・三橋武文 32 1439 1972 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 津田惟雄 131 The Polymorphic Transition of Nb2NiO4 form the Monoclinic Form to the Tetragonal 田村脩蔵 33 574 1972 132 Temperature Dependences of Positron Lifetime Spectra in Al2O3, KI, Si and GaAs Single Crystals 野口正安・千葉利信 三橋武文・津田惟雄 33 572 1972 140 Electron Spin Resonance of Cr5+ in Phenacite (Be2 SiO4) Single Crystals 月岡正至・山本昭二 児島弘直 33 681 1972 142 A Theory for a Self-Trapped Antiferromagnetic Polaron at T=0K 梅原雅捷・糟谷忠雄 33 602 1972 156 Lifetime Spectra of Positrons in GaAs Deformed by Ga-and As-Bending 蔵元英一・竹内 伸 野口正安・千葉利信 津田惟雄 34 103 1973 167 Lifetime Spectra of Positrons in V2O3 野口正安・君塚 昇 千葉利信・津田惟雄 34 661 1973 169 Pressure Dependence of Cubic-Tetragonal Transition Temperature of KMnF3 岡井 敏・吉本次一郎 34 837 1973 199 Electron Spin Resonance of Cr3+ at Tetrahedral Sites in Phenacite (Be2SiO4) Single Crystals 月岡正至・児島弘直 35 818 1973 200 Positron Annihilation in Sintered and Powdered WO3 野口正安・千葉利信 堀内繁雄・津田惟雄 35 945 1973 209 Positron Annihilation in Single Crystalline Al2O3 津田惟雄・千葉利信 三橋武文 35 1108 1973 210 Hall Mobility in SnS2 Single Crystals 石沢芳夫・藤木良規 35 1259 1973 235 Positron Annihilation in ZrO2 :Angular Correlation 津田惟雄・三橋武文 千葉利信 36 523 1974 264 Pressure Dependence of Transition Temperature in Pb(ZnW)1/2O3 岡井 敏・吉本次一郎 藤田武敏 37 281 1974 280 Lattice - Dynamical Theory of Structural Phase Transition in Quartz 山本昭二 37 797 1974 300 Temperature Dependence of Fine Structure of Mn2+ Ions in SrMoO4 内田吉茂・月岡正至 児島弘直 37 1709 1974 318 Positron Annihilations in Polycrystalline ReO3 and WO8 津田惟雄・千葉利信 38 137 1975 339 Long-Slit Rotating-Specimen Measurement of the Annihilation Radiation from Copper Single Crystals 赤羽隆史 38 1648 1975 347 Pressure Dependence of the Structural Phase Tra­ nsition Temperature in SrTiO3 and KMnF3 岡井 敏・吉本次一郎 39 162 1975 371 Lifetime Spectra of Positrons of in NiS and NiO 野口正安・大谷槻男 松野 直・千葉利信 津田惟雄 39 934 1975 387 Nearly Hydrogenic Energy-Levels of Wannier 葛葉 隆・江良 皓 40 134 1976 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Excitons in Anisotropic Crystals 389 A Canting Spin Ordering Mechanism in Degenerate Magnetic Semiconductors 梅原雅捷・糟谷忠雄 40 13 1976 399 A Theory for a Self-Trapped Antiferromagnetic Polaron at Finite Temperatures 梅原雅捷・糟谷忠雄 40 340 1976 Journal of Physics C : Solid State Physics 72 Anisotropy of the Cubic Fe3S4 Induced in an Ele­ ctrostatic Field 山口成人・和田弘昭 野崎浩司 4 172 1971 271 The Thermal and Electrical Conductivities of LaB6 at High Temperatures 田中高穂 7 177 1974 The Journal of Physics and Chemistry of Solids 378 The Valence Band Structure of Metal Hexaborides: an ESCA Study of CaB6 and YB6 青野 正和・河合 七雄 河野省三・奥沢 誠 佐川 敬・竹花洋一 37 215 1976 Journal of Solid State Chemistry 176 Phase Transformations in Li2WO4 at High Pressure 山岡 信夫・福長 脩 小野照政・飯塚栄一 浅見誠一 6 280 1973 179 Phase Equilibria in the System NbO2-Nb2O5: Phase Relations at 1300 and 1400℃ and Related Thermo­ dynamic Treatment 木村茂行 6 438 1973 230 The Relation Between Ionic Radii and Cell Volumes in the Perovskite Compounds 福長 脩・藤田武敏 8 331 1973 247 Behavior of Vanadium Dioxide Single Crystals Synthesized Under the Various Oxygen Partial Pressures at 1500K 君塚 昇・石井紀彦 川田 功・佐伯昌宣 中平光興 9 69 1974 323 Defect Ferroelectrics of Type Pb1-x TiO3-x 白崎 信一・高橋紘一郎 山村 博・掛川一幸 毛利純一 12 84 1975 342 Standard Free Energy of Formation of YFeO3, Y3Fe5O12 and a New Compound YFe2O4 in the Fe-Fe2O3-Y2O3 System at 1200℃ 君塚 昇・桂 敬 13 176 1975 386 The Standard Free Energy of Formation of YbFe2 O4, Yb2Fe3O7, YbFeO3, and Yb3Fe5O12 at 1200℃ 君塚 昇・桂 敬 15 151 1975 393 Crystal Structures of V3S4 and V5S8 川田 功・小野田みつ子 石井紀彦・佐伯昌宣 中平光興 15 246 1975 Kolloid-Zeitschrift & Zeitschrift für Polymere 17 Polyäthylen als Schutzmaterial für Pyrophores Eise- nsulfid 山口成人・和田弘昭 野口民生 232 813 1969 Kristall und Technik 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 96 Umwandlung des Fe3S4 von Fd3m nach Pa3, P4/ nmm bzw. P63/mmc beim Hydrothermalen Prozeβ 山口成人・和田弘昭 6 353 1971 165 Zur Anisotropen Dilatation von Fe3S4-Kristallen im Elektrostatischen Feld 山口成人・和田弘昭 7 835 1972 228 Magnetic Crystal Structure of Iron as Revealed by Electron Interference 山口成人 8 611 1973 243 Suboxides of Aluminium as Revealed by Electron Diffraction 山口成人 9 23 1974 303 Fe2S3 of the Spinel Type Structure wihth Lattice Defect 山口成人・和田弘昭 8 1017 1973 Materials Research Bulletin 15 Phase Equilibrium Between MnO2 and Mn2O3 福長 脩・高橋紘一郎 藤田武敏・吉本次一郎 4 315 1969 50 Preparations of BaSnS3, SrSnS3 and PbSnS3 at High Pressure 山岡信夫・岡井 敏 5 789 1970 51 High Pressure Synthesis of Pb(B, B')O3 Type Pero­ vskite 藤田武敏・福長 脩 中川雄彦・野村昭一郎 5 759 1970 78 Superstructure of VOx in the Range, x=l. 15-1.25, and its Stability 佐伯昌宣・中平光興 6 603 1971 82 Phase Relations and Superstructures of Pyrrhotite, Fe1-xS 中沢弘基・森本信男 6 345 1971 93 The Influence of Aluminum on the Stability of 4H- and 6H-Silicon Garbides at 2200℃ 三友 護・猪股吉三 田中広吉 6 759 1971 246 Pressure Induced Phase Transformation in BaWO4 藤田武敏・山岡信夫 福長 脩 9 141 1974 356 Glass-Recrystallization of Ferroelectric Pb5Ge3O11 高橋紘一郎・L. E. Cross R. E. Newnham 10 599 1975 Messtechnik 34 Elektronenbeugung zur Messung von Leitfähigkeiten 山口成人・和田弘昭 野崎浩司 4 83 1970 52 Bestimmung der Magnetisierungsachse an Pulver- proben durch Eektronenreflexion 山口成人・和田弘昭 野崎浩司 12 247 1970 80 Elektronenbeugungs-Meβ technik zur Ermittlung der Pyro-bzw. Piezoelektrizität von Kristallen 山口成人・和田弘昭 6 135 1971 Mineralogical Journal 116 Growth Mechanism of Whiskers and Needle Crystals (Prisms) of Aluminum Nitride 石井敏彦・佐藤忠夫 岩田 稔 6 323 1971 136 Growth Process of Baddeleyite (ZrO2) in PbF2 Flux 藤木 良規・鈴木 淑夫 6 477 1972 137 Preparation and Surface Observation of Berndtite (SnS2) Single Crystals 藤木良規・石沢芳夫 6 498 1972 138 Anhydrous Synthesis of Greigite, Fe3S4 中沢弘基・坂口幸助 6 458 1972 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 139 A New Polytype of Silicon Carbide, 45R, and its Structure Analysis According to a Simple Assump­ tion Newly Introduced 井上善三郎・猪股吉三 田中広吉 6 486 1972 172 Influence of B2O3 Component on Flux Growth lof Baddeleyite (ZrO2) 藤木良規 7 1 1972 174 Syntheses of Monoclinic and Tetragonal ZrO2 at High Temperatures 小野 晃 6 442 1972 175 Phase Transformation in the System ZrO2-CeO2 小野 晃 7 66 1972 186 Phase Transformation of (Zr, Ce)O2 and Measure­ ments of the Enthalpy Changes 小野 晃 7 228 1973 189 Dependence of the Cation Distribution in Manganese Ferrite, MnFe2O4, on Temperature and Oxidation 山中高光・中平光興 7 202 1973 287 Surface Structures of Aluminum Nitride Crystals 石井敏彦・佐藤忠夫 岩田 稔 7 384 1974 352 Spherulitic Growth of Orpiment (As2S3) under Hy­ drothermal Condition 藤木良規・長谷川泰 7 542 1975 397 Growth of Single Crystals of Aluminum Nitride 石井敏彦・佐藤忠夫 岩田 稔 8 1 1975 Mineralogical Society of Japan Special Paper (Proceedings of the IMA-IAGOD Meetings '70, IMA Volume) 85 The Growth Condition of a Natural Diamond 小松 啓・ A. R. Lang 1 35 1971 88 Transformation Mechanisms of Pyrrhotite 中沢弘基・森本信男 1 52 1971 Nature 268 Structural Polytypism of SnS2 R. S. Mitchell 藤木良規・石沢芳夫 247 537 1974 394 Cementite Structure for Iron Sulphide, Fe3S 大坂敏明・中沢弘基 259 109 1976 Die Naturwissenschaften 12 Zum Hydrothermal Synthetisierten Eisen-Thiospinell 山口成人・和田弘昭 56 138 1969 60 Synthese von Greigit aus Mackinawit und Amorphem Schwefel durch Elektronenstrahlen 堀内繁雄・和田弘昭 野口民生 57 670 1970 Neues Jahrbuch für Mineralogie Monatshefte 36 Zur Synthese von Greigit 山口成人・和田弘昭 3 138 1970 Optik 59 Untersuchung der Leitfähigkeit von Fe3S4-Filmen durch Elektronenreflexion 山口成人・和田弘昭 野崎浩司 32 338 1971 Philosophical Magazine 28 Growth of Prismatic Dislocation Loops Caused by the Absorption of Vacancies Released from G. P. Zones on Reversion 堀内繁雄 21 623 1970 299 Lattice Images of Nb22O54 and V6O13 in the 1000kV Electron Microscope 堀内繁雄・松井良夫 30 777 1974 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Physics Letters 149 Electron State in TiO Studied by Measurements of Compton Profile and Scattering Factors 寺崎 治・渡辺伝次郎 深町共栄・細谷資明 島津正司 40 A 357 1972 236 Photoluminescence of SnS2 Single Crystals 葛葉 隆・江良 皓 石沢芳夫 46 A 413 1974 385 Electrical Properties of V5S8 Single Crystals 野崎浩司・石沢芳夫 佐伯昌宣・中平光興 54 A 29 1975 Physics Sintering 185 Grain Growth During Hot-Pressing 下平高次郎・田賀井秀夫 木村脩七・安田栄一 5 331 1973 Proceeding Low Temperature Physics-LT14 392 The de Haas-Van Alphen Effect in LaB6 石沢芳夫・田中高穂 河合七雄・坂内英典 3 137 1975 Reactivity of Solids 11 Vacancy Clustering in Fe1-xO and its Role in the Formation of a Spinel-Type Structure 中平光興・秋光 純 567 1969 181 Distribution of the Defects in VOx and the Related Transition-Metal Mono-Oxides 中平光興・佐伯昌宣 97 1972 The Review of Scientific Instruments 155 Gas Flame Heating Equipment Providing up to 2, 300℃ for an X-Ray Diffractometer 貫井昭彦・岩井津一 田賀井秀夫 43 1299 1972 The Royal Australian Chemical Institute 171 Oxygen Pressure as a Means of Studying the The­ rmodynamics of Oxides 木村茂行 8 239 1972 Solid State Communications 87 Defect Lead Titanates with Diverse Curie Tempe­ ratures 白崎信一 9 1271 1971 141 Infrared Absorption Spectra and Cation Distributions in (Mn, Fe)3O4 石井紀彦・中平光興 山中高光 11 209 1972 168 The Metal/ Antiferromagnetic Insulator Transition of V2O3 as Affected by the Non-Stoichiometry and Ti-, Cr- and Fe-Doping 君塚 昇・石井紀彦 佐伯 昌宣・中野みつ子 中平光興 12 43 1973 182 A New Polymorphic Transition of FeTaO4 under High Pressure 田村脩蔵 12 597 1973 286 New Compounds Yb2Fe3O7 and Lu2Fe3O7 君塚 昇・竹内章郎 笹田義夫・桂 敬 15 1199 1974 293 A Series of New Compounds A3+Fe2O4 (A=Ho, Er, Tm, Yb and Lu) 君塚 昇・竹内章郎 笹田義夫・桂 敬 15 1321 1974 304 ESCA Study of Electronic Structure of SmB6 青野正和・河合七雄 河野省三・奥沢 誠 16 13 1974 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 佐川 敬・竹花洋一 Talanta 217 Indirect Spectrophotometric Determination of Thio­ cyanate by Extraction as Bisthiocyanatobisquinol- inemercury( Ⅱ ) Complex and its Ligand Substitution Reaction wish Dithizone 永長 久彦・石井 一 岩崎岩次 20 1017 1973 319 Gravimetric Determination of Selenium from Per­ chloric Acid Solution with Hydrazine 大庭茂樹・上野精一 22 51 1975 Thin Solid Films 249 Some Properties of Thin Aluminium Nitride Films Formed in a Glow Discharge 上村揚一郎・田中耕二 岩田 稔 20 11 1974 Werkstoffe und Korrosion 183 Zum Bakteriologischen Korrosionsprodukt vom Be- toneisen im Untermeertunnel 山口成人・青山芳夫 24 209 1973 260 Zur Oxidschicht von Aluminium 山口成人 25 325 1974 362 Untersuchungen an einer Zahnärztlichen Gold- Platin-Legierung 山口成人・土屋輝彦 西川 誠 26 356 1975 Zeitschrift für Analytische Chemie 143 Notiz zur Elektronenbeugugsanalyse einer Substanz mit Schichtgitterstruktur 山口成人 261 30 1972 222 Nachweis des Eisensulfids vom Gamma-Al2O3-Typ mit Hilfe der Elektronenbeugung 山口成人・和田弘昭 266 341 1973 265 Distribution of the Iron (Ⅱ) -Ethyl Acetoacetate Complex between Aqueous Solution and Benzene 永長久彦・石井 一 257 340 1971 272 Electron Diffraction Analysis of Al2O3 of Gamma­ Type 山口成人 269 191 1974 Zeitschrift für anorganische und allgeeine Chemie 58 Bildung von Fe3S4-FeS2 durch Hydrothermale Rea- ktion 山口成人・和田弘昭 377 339 1970 77 Zur Gitterabmessung von Eisen-Thiospinell, Fe3S4 山口成人・和田弘昭 383 109 1971 111 Elektrochemische Darstellung des Kubischen Fe3S4 山口成人・毛利尚彦 387 134 1972 113 Zur Umwandlung von Mackinawit (FeS) in Greigit (Fe3S4) 堀内繁雄 386 208 1971 163 Zum Polymorphismus Zwischen Greigit und Smythit (Fe3S4) 山口成人・和田弘昭 392 191 1972 191 Bildung des Ferromagnetischen Fe2S3 山口成人・和田弘昭 397 222 1973 252 Zur Umwandlung von Greigit (Fe3S4) in Pyrrhotin (FeS) durch Elktronenstrahlen 堀内繁雄 404 295 1974 321 Single Crystals af T-Nb2O5 Obtained by Slow Cooling Method under High Pressures 田村脩蔵・加藤克夫 後藤 優 410 313 1974 368 The Thermal Decomposition of Nb3O7Cl and NbO2F 小玉博志・後藤 優 415 185 1975 番号 題 名 発 表 者 巻 頁 年 Zeitschrift für Kristallographie 375 Die Kristallstruktur von YbFe2O4 加藤克夫・川田 功 君塚 昇・桂 敬 141 314 1975 Zeitschrift für Physikalische Chemie 145 Zur Elektrischen Anisotropie des Eisensulfids 山口成人・和田弘昭 250 149 1972 2.無機材質研究所研究報告書 番 号 誌 名 発 行 年 第1号 炭化けい素(SiC)に関する研究 昭和47年 第2号 酸化ベリリウム(BeO)に関する研究 昭和47年 第3号 酸化バナジウム(VO2)に関する研究 昭和47年 第4号 窒化アルミニウム(AlN)に関する研究 昭和48年 第5号 硫化鉄(FeS)に関する研究 昭和48年 第6号 鉛ペロブスカイト(PbMO3)に関する研究 昭和48年 第7号 炭素(C)に関する研究 昭和49年 第8号 酸化ジルコニウム(ZrO2)に関する研究 昭和49年 第9号 酸化ニオブ(NbO)に関する研究 昭和50年 第10号 カルコゲンガラス(As-X Glass)に関する研究 昭和50年 3.無機材質研究所研究資料 誌 名 発 行 年 高純度炭化珪素の研究に関する資料 昭 和 42 年 高純度酸化ベリリウムの研究に関する資料 昭 和 45 年 4.特許・実用新案 (1)登録特許 (a)国 内 公告番号 登録番号 発 明 の 名 称 発 明 者 47-2559 670710 ベリリウム化合物の精製法 鈴木弘茂・森 泰道 永長久彦 (b)国 外 登録国名 登録番号 登録日 発 明 の 名 称 発 明 者 米 国 3751557 48. 8. 7 ベリリウム化合物の精製法 鈴木弘茂・永長久彦 森 泰道 米 国 3901996 50. 8. 26 珪素含有層を持つカルコゲンガラス 素材の製造法 長谷川泰・田賀井秀夫 (2)出願特許 (a)国 内 出願年月日 出願番号 発 明 の 名 称 発 明 者 45. 4.1 45-026989 強誘電体ペロブスカイトの湿式製造法 白崎信一・村松国孝 高橋紘一郎 46. 4. 3 46-020054 グレーギットの電気化学的製造法 山口成人・毛利尚彦 46. 5.12 46-031182 炭化けい素単結晶の合成方法 猪股吉三・田中広吉 46.10. 4 46-077112 多重耐圧円筒体 福長 脩 47. 4.13 47-037462 二酸化ジルコニウム単結晶の作成方法 藤木良規・小野 晃 47.10.11 47-101714 珪素含有層を持つカルコゲンガラス素材の製造法 長谷川泰・田賀井秀夫 47.11.16 47-115009 ガラス質物質の粘度測定法 渡辺昭輝・長谷川泰 大坂俊明 47.12.14 47-124782 研究所等廃液の無害化処理方法 長谷川安利・元上章清 松村 真 47.12. 21 47-128628 高圧ガス容器用導線導入端子 広田和士 47.12. 22 47-129106 ウルツ型チッ化ホウ素焼結体の製造方法 山岡信夫・福長 脩 47.12. 22 47-129105 ダイヤモンド焼結体の製造法 山岡信夫・福長 脩 48. 4.10 48-041152 珪素含有層を持つカルコゲンガラス繊維素材の製 造法 長谷川泰・田賀井秀夫 48. 5. 24 48-058468 熱電子放射用硼化ランタン素材の製造法 大島忠平・河合七雄 田賀井秀夫 48. 5. 24 48-058471 熱電子放射用硼化ランタン素材の製造法 大島忠平・河合七雄 田賀井秀夫 48. 6.11 48-065627 アーク法窒化アルミニウムの合成装置 佐藤忠夫 48. 7. 24 48-083316 高密度等方性黒鉛素材の製造法 神田久生・加茂睦和 佐藤洋一郎・瀬高 信雄 48. 8. 9 48-089552 カルコゲンガラスの薄板作製法 大坂俊明 48. 9. 3 48-099011 螢光体用沃素入二硫化錫単結晶の作成方法 江良 皓・葛葉 隆 石沢芳夫・藤木良規 48. 9.10 48-101969 欠陥を含むペロブスカイト型複酸化物誘電体の乾 式合成法 白崎信一・山村 博 48.10. 27 48-120944 磁気記憶装置 山口成人・高橋俊郎 田賀井秀夫 48.10. 27 48-120945 アルミニウム電解コンデンサ用誘電体 山口成人・高橋俊郎 田賀井秀夫 48.10. 27 48-120946 アルミニウム合金材の塗膜形式法 山口成人・高橋俊郎 田賀井秀夫 48.12.15 48-140911 熱電子放射用硼化ランタン電極の製造法 大島忠平・河合七雄 49. 5. 31 49-061502 珪素含浸層を持つ窒化珪素焼結体の製造方法 猪股吉三 49. 6.1 49-062249 易焼結性酸化マグネシウムの製造法 池上隆康 49. 6.13 49-067306 酸化マグネシウム焼結体の製造法 池上隆康 49. 7.1 49-075094 高圧相チッ化ホウ素焼結体の製造方法 福長 脩・山岡信夫 真方 顕 49. 7. 20 49-083649 浮遊帯域単結晶育成法における結晶径自動制御装 置 田中高穂・坂内英典 49.10. 24 49-122687 酸化マグネシウム焼結体の製造法 池上隆康 49.10. 24 49-122940 酸化マグネシウム焼結体の製造法 池上隆康 49.10. 30 49-125256 光導電性被膜の作成方法 山口成人・長谷川泰 田賀井秀夫 50.1.9 50-005139 高純度マグネシア焼結体の製造法 松田伸一 50.1.9 50-005140 高純度マグネシア焼結体の製造法 松田伸一 50.1.9 50-005141 高純度マグネシア焼結体の製造法 松田伸一 50.1.9 50-005142 高純度マグネシア焼結体の製造法 松田伸一 50. 2. 7 50-016601 圧縮性ガスケット 福長 脩 50. 2. 7 50-016602 超高圧装置 福長 脩 50. 2. 7 50-016603 高温高圧装置 福長 脩・赤石 實 山岡信夫・平岡秀雄 遠藤 忠 50. 2. 7 50-016604 高温高圧装置 福長 脩・赤石 實 山岡信夫・平岡秀雄 遠藤 忠 50. 3. 20 50-034027 繊維状チタン酸アルカリ金属の製造法 藤木良規・泉富士夫 50. 4.10 50-043717 熱電子放射用陰極 田中高穂・河合七雄 志水隆一 50. 4. 24 50-050135 熱電子放射用陰極用チップの製法 田中高穂・内田健治 坂内英典・志水隆一 50. 9. 4 50-107738 硼化ランタンと黒鉛との熔接体の製法 坂内英典・田中高穂 内田健治 50. 9. 4 50-107739 熱電子放射用陰極 河合七雄・田中高穂 坂内英典・志水隆一 50. 9. 4 50-107740 電子ビーム加工装置 河合七雄・田中高穂 坂内英典・志水隆一 50. 9. 4 50-107741 走査型電子顕微鏡 河合七雄・田中高穂 坂内英典・志水隆一 50. 9. 4 50-107742 電子顕微鏡 河合七雄・田中高穂 坂内英典・志水隆一 50.10.11 50-123118 窒化珪素焼結体の製造法 三友 護 50.12. 2 50-144691 3イッテルビウム4鉄10酸素化合物(Yb3Fe4O10) の合成法 君塚 昇・加藤克夫 川田 功・進藤 勇 杉原 忠・桂 敬 50.12. 6 50-156716 六硼化カルシウムの製造法 内田健治 50.12. 6 50-156717 六硼化バリウムの製造法 内田健治 50.12. 6 50-156718 六硼化ストロンチュウムの製造法 内田健治 50.12. 26 50-156719 希土類元素六硼化物の製造法 内田健治 51.2. 21 51-018343 結晶育成法 内田健治・村松国孝 51.2. 21 51-018344 結晶育成法 内田健治・村松国孝 51.2. 21 51-018345 イットリウム2鉄4酸素化合物(YFe2O4)単結晶 磁性半導体及びその製造法 木村茂行・進藤 勇 君塚 昇・桂 敬 (b)国 外 出願国名 出願番号 出願 年月日 発 明 の 名 称 発 明 者 西 独 P23511548 48.10.11 珪素含有層を持つカルコゲンガラス素 材の製造法 長谷川泰・田賀井秀夫 アメリカ 50. 3. 20 繊維状チタン酸アルカリ金属の製造法 藤木良規・泉富士夫 アメリカ 50. 4.10 熱電子放射用陰極 河合七雄・田中高穂 坂内英典・内田健治 志水隆一 (3)出願実用新案 出願年月日 出願番号 考 案 の 名 称 考 案 者 49.1.24 49-010987 光学的散乱測定用液体試料支持台 島津正司・小倉好次 渡辺昭輝 49.11.5 49-133827 ガスバーナー用空気混合器 今野重久・一ノ瀬昭雄 50. 2. 7 50-018263 X線回折用高温炉 渡辺昭輝・島津正司 長嶋寛次 5.試料提供 (1)国 内 提供年月 提 供 先 試 料 名 43.10 静岡大学電子工学研究所 炭化けい素単結晶 10 科学技術庁放射線医学総合研究所 酸化ベリリウム単結晶 44. 5 日本原子力研究所 〃 45. 9 青山学院大学理工学部 炭化けい素単結晶 10 日本国有鉄道技術研究所 〃 10 静岡大学電子工学研究所 〃 11 大阪大学工学部 〃 46. 2 (株)三菱金属工業中央研究所 〃 3 労働省労働衛生研究所 〃 5 東京教育大学光学研究所 〃 5 東京大学工学部 〃 7 日本原子力研究所 窒化アルミニウム粉末 46. 8 東京工業大学原子炉工学研究所 炭化けい素単結晶 9 東北大学理学部 酸化ニオブ単結晶 46.12 日本原子力研究所 炭化けい素単結晶 12 東京工業大学原子炉工学研究所 酸化ベリリウム単結晶 47. 5 (株)松下電機中央研究所 〃 6 神戸大学理学部 〃 6 東京大学物性研究所 硫化錫単結晶 8 工業技術院名古屋工業技術試験所 酸化ジルコニウム単結晶 9 (株)昭工舎 炭化けい素単結晶 10 (株)東京芝浦電気総合研究所 窒化アルミニウム粉末 10 東京工業大学理学部 酸化ベリリウム単結晶 11 東京工業大学工学部 窒化アルミニウム粉末 12 東京大学物性研究所 硫化ジルコニウム単結晶 12 東京大学物性研究所 硫化ニオブ単結晶 48. 8 東北大学工学部 ランタンヘキサボライド針状単結晶 11 工業技術院電子総合技術研究所 炭化けい素単結晶 49. 3 東京工業大学理学部 窒化アルミニウム薄膜 8 日本電信電話公社電気通信研究所 炭化けい素単結晶 10 東京大学工学部 酸化ジルコニウム単結晶 酸化錫単結晶 11 科学技術庁金属材料技術研究所 硼化ランタン単結晶 12 山口大学文理学部 酸化ジルコニウム単結晶 50.1 岡山理科大学化学教室 アナターゼ単結晶 1 (株)日立製作所日立研究所 窒化アルミニウム粉末 3 東北大学科学計測研究所 酸化ジルコニウム単結晶 3 東京工業大学工業材料研究所 カルコゲンガラス 3 (株)信濃電気製錬 β型炭化けい素粉末 6 東京工業大学工学部 サマリウムオルソフェライト 6 東京工業大学工業材料研究所 酸化ジルコニウム単結晶 7 大阪大学基礎工学部 炭化けい素単結晶 7 日本原子力研究所 硼化ランタン,硼化クロム, 硼化ジルコニウム焼結体 7 (株)小松製作所技術研究所 窒化アルミニウム粉末 11 東京大学理学部 硫化チタン粉末 12 名古屋大学理学部 β型炭化けい素単結晶 51.2 工業技術院電子総合技術研究所 窒化アルミニウム針状結晶 2 工業技術院大阪工業技術試験所 〃 2 大阪大学理学部 マグネタイト単結晶 3 東京教育大学理学部 二酸化ジルコニウム単結晶 3 職業訓練大学 窒化アルミニウム焼結体 国(2)外 提供年月 提 供 先 試 料 名 46.10 アメリカ G. E.社 窒化アルミニウム焼結体 47.1 イスラエル ヘブリュー大学 炭化けい素単結晶 8 アメリカ アリゾナ州立大学 酸化ニオブ単結晶 9 アメリカ アリゾナ州立大学 〃 48. 4 イギリス オックスフォード大学 酸化ニオブ焼結体 4 アメリカ ヴァージニア大学 硫化錫単結晶 12 アメリカ ネィヴァル・リサーチ・ラボラトリー 炭化けい素単結晶 49. 2 アメリカ ヴァージニア大学 硫化錫単結晶 4 ニュージー ランド オタゴ大学 酸化ジルコニウム単結晶 5 イギリス リード大学 β型窒化けい素針状単結晶 5 アメリカ ワシントン大学 CaAl2SiO6単結晶 5 アメリカ ワシントン大学 FeMgSiO6単結晶 50.11 イギリス ラザフォード研究所 バナジウム硫化物 Ⅳ回顧録 IV ll Ral ae 座談会 ―10年を顧みて― 出席者(順不同,敬称略) 坪井 誠太郎 (日本学士院会員) 山 内 俊 吉 (初代所長) 末 野 悌 六 (末野研究所長) 梅 沢 邦 臣 (元科学技術事務次官) 鈴木 淑 夫 (元総合研究官) 碓 井 求 (元総務課長) 田賀井秀夫 (現所長) 司会 田 中広 吉 (十年史編集委員長) 昭和50年9月17日,無機材質研究所の生みの親であり,育ての親である坪井,山内, 末野,梅沢の四先生,それに設立準備室時代から関係された鈴木元総合研究官,設立当 初から事務関係を担当された碓井元総務課長に出席していただき,研究所の胎動から誕 生までの経緯,発足から筑波移転を経て現在に至るまでの思い出などについて生のお話 を伺った。当所からは田賀井所長,田中十年史編集委員長,平山企画課長,松原総務課 長,十年史編集事務局員が参加した。まず田賀井所長の挨拶があり,本題に入った。 設立への胎動 司会 まず,無機材質研究所設立の発端につきましては,坪井先生,山内先生,末野先生が,それ ぞれ別々に専門の分野から研究所を設立しようという構想をお持ちになっておられ,後に三人がご協 力なされて,固体材質研究所の設置を企画なされたのがそもそものはじまりと伺っております。 最初に,それぞれ独自でお考えになられた研究所はどんな構想であったのか,またその時期とか動 機などについてもお話願えれば幸甚に存じます。 まず,坪井先生にその点をお伺いいたしたいと存じます。 坪井 私はかねてから日本に無機固体材質研究のための機関がほしいと望んでおりました。その当 時実在していた研究所の内では,ワシントンのカーネギー研究所のジオフィジカル・ラボラトリー ――これは1907年の創立でありますが――それが私の構想に近いものでありました。あの研究所の業 績を私は高く評価しておりまして,かつてそれを岩波講座の一編で紹介したことがあります。あの研 究所は,純正理学的発想に基づいて研究を行っているのでありますが,それにもかかわらず研究の成 果は,応用面においても,目先の目的を目指しての研究よりもはるかに大きく寄与しているというこ とは,ご存じのとおりであります。私は,そういう基礎的な研究の機関として,ジオフィジカル・ラ ボラトリー以上の規模のものを夢に描いていたのであります。日本には,そういう方面の研究に適す る若い頭悩がたくさんあるにもかかわらず,それが活用されていないということを遺憾に思っており ました。日本の持っているそのようなポテンシャルを生かしたいものだと考えていたのであります。 司会 では,山内先生,いかがでございましょう。 山内 材料というものが非常に大事になってきたのは最近でありますけれども,その材料を有機, 金属,無機と考えますと,10年前の当時は金属材料,有機材料が世間にもてはやされていたのです が,だんだん超高温度を用いたりその他いろいろと使用条件が厳しくなりますと,金属,有機の材料 だけではどうも行き詰まりだという場合も多くなってまいりました。 そういうことを考えますと,それらの要求に応ずる新しい無機材がほしいということで,無機材料 関係が急に脚光を浴びてきたのであります。 そういうことで,何とかして無機材料の急速な進歩を図る必要がある。 それには,いろいろなことがありますけれども,何としても我が国では無機材料を研究する機関が 少ない。金属のほうでは国の研究としても,ご承知のとおり,立派な研究所がありますし,民間にお きましても立派な基礎研究所ができました。有機のほうはと申しますと,有機は各大学がほとんど高 分子関係その他を持っておりまして,非常に大学は整備されている。しかも,民間でも大きな会社は 基礎研究所を持つというような状態でありました。 ところが,無機関係は業態が小さいのか,そういう基礎研究まで持つだけの余力がない。何とかし て民間のほうにそういう基礎的なものを与える必要があるのではないかということを非常に考え始め たのであります。 もちろん当時は,無機関係におきましても,ご承知のように,東京工業大学の工業材料研究所とか 工業技術院関係の名古屋工業技術試験所,東京工業試験所等にもその部門はありましたけれども,東 京工業大学のほうは,工業材料研究所の前身である窯業研究所が3部門で昭和18年に創設されました が,33年になっても3部門で依然として部門が増えない。また工業技術院も,梅沢さんもご承知のと おり,名古屋のほうも東京も,人数は増えるよりも減っていくというような状況でありました。 そういうことで,どうしても研究所をもう少し充実してもらいたい。東京工業大学のほうを増やす もいいし,工業技術院を増やすのもけっこうですが,どうもそういうところはなかなか増えないの で,ここに新しい研究所でもできたらいいのではないか,そういうことからも新しい研究所がほしい なと思っていたときに,期せずにして坪井先生,末野先生とご一緒になって,この問題を討議したの が始まりです。 司会では,末野先生,お願いいたします。 末野 全く,坪井先生,山内先生の今のお話と同じでございますが,私は東京大学では,地質学を 修めたのですが,坪井先生のところで大学院に5年いまして,岩石学を勉強しておったわけでござい ます。その後,昭和5年か6年に東京工業大学に山内さんとちょうど一緒に勤めたことを覚えていま すが,そのときにだんだん窯業のほうのことも研究,勉強していますと,ジオフィジカル・ラボラト リーの研究が,全く基礎的な研究でありますけれども,あれが皆さん今でこそ常識的ですが,窯業方 面その他の工業面で非常に大きな貢献をしているわけでございます。そういうことをしみじみ感じて おったのでありますが,それでやはり,いつかジオフィジカル・ラボラトリーのようなものが必要で あると思いましたし,外国の先進国にはこういう無機材料の研究所がみんなあります。日本にないの はやはり残念だから作ろうかというのが,お二方と相談した始めなのです。 固体材質研究所の構想 会合の様子 司会 その後三先生が協力なされて固体材質研究所の設立を計られたわけでございますが,このお 三人がお力を合わせるようになりました‶いきさつ"とか動機,あるいは会合の様子とか,その当時 の印象に残るような思い出話などをお願いしたいと思います。まず,山内先生からお願いいたしま す。 山内 今,両先生からお話しのように,外国あたりでは非常にこの方面に力を尽くし,貢献してい る研究所があるし,人材もそろっているという話もありまして,日本にもそういう人材がそろってい るということはわかりましたが,どうも職場が思うようにいかない。外国に留学している人でいい人 もあるけれども日本に帰ってなかなかそういう人の働き場も少ない。 そういうような状態もありまして,何とかしょうじゃないかということで,末野さんに会合の場所 を世話してもらったと思いますが,いっぺん集まろうじゃないかということで三人で集まったのが最 初です。 その後,昭和37年の夏からたびたび会合いたしました。そして,フリートーキングを盛んにやった わけであります。さっきお話しのような問題,その他いろいろな観点から,どうしたら日本のこうい う無機材料の研究活動を促進することができるかということを相談しました結果,どうしてもこの発 展のためには,何かこういう無機材料を作る基礎になるような研究所,いわゆる無機材料の基礎を総 合的に究めていくような基礎研究所がほしいというような話にだんだんなってまいりました。 そこで,どういう研究所を創ろうかということで,だいぶ名前の問題でもめたのです。固体材質と いう話もありましたし,非金属無機材料,それからただ無機材料といった話がありましたが,どうし ても材料というと物を作るほうに堕するので,物を構成している材質を根本的に調べてそれを総合し て,製造のほうその他に利益を与えていくのが一番いいのではないかというわけで,37年の暑いとき にだいぶ会合をしているようでございますが,だんだん話の末,結局,材質という名前がいいだろう ということになりました。 固体材質ということになってきますと,これはいろいろな異論もあったのですが,坪井先生などの 主張もだいぶありまして,結局両先生もそれを主張され,私も名前はどうでもいい,とにかく方向と しては,気体でも液体でもない固体に関するいろいろな基礎的なものをやっていくのが本当だから, 固体材質でよかろうということで私もそれに賛同したわけであります。 そういうふうにして,名前は一応固体材質研究所ということで進めてみようということで,37年の 夏になりましてから,三人の意思統一をしようということで,めいめいに自分で,研究所の目的とか いろいろなことを理学的,工学的に分担を決めまして,一つの作文をしました。それを持ち寄って所 々方々にお願いに出るときの参考にしようというので作ったのが,37年8月の要望書であると記憶し ております。 そういうふうにして,お互いの意見を調整して作ったのが,37年の「固体材質研究所の要望書」で あります。これは所々方々の説明用に所々に持ちまわりまして,学界とか政界,あるいは業界等のい ろいろな方々に意見を求めて皆さんのお話も拝聴したことを覚えております。 そのときに,将来要望書に添付して説明するため具体的な研究所の組織とか規模とか建物とかいろ いろなことの記載が必要ですので,そういうものを整理して,要望意見書につける付属書を作るため に,どうしても三人では手がまわらないものですから,若い――当時若かったのですが――鈴木淑夫 さん,鈴木弘茂さんのお二人にお手伝いを頼んだことを覚えております。 そして,正式な要望書を準備いたしまして38年提出の概算要求にのるように科学技術庁にでもお願 いしようという心組みでいましたが機が熟しませんで,次年度に望みを託して運動するということに いたしたのであります。 そういう状態でございました。 司会お集りになった場所はどこでしたか。 山内 場所は,一番初めはどこでしたかね。料亭は。 末野築地の料亭でしたね。 山内 それからあとは神田の学士会館が主でした。ほとんど学士会館だったですね。あそこで話を しながら昼ご飯を食べて,そしてまた話をして別れるといったあんばいで,だいぶ熱心にいろいろな ものを持ち寄ってフリートーキングをしたことを覚えております。 その細かい記録を述べると大変でしょうけども,私も実はないのです。それが,末野先生はご存じ かもしれませんが。 末野 私も忘れたのですが,日記があるものですから,日記を繰ってみたら後で……。 司会 では,坪井先生一つその辺のことをお願いいたします。 坪井 今,山内さんからお話のありましたように,たびたびお目にかかる機会があったのでありま すが,山内さんや末野さんの研究所についてのお考えを伺って,私はめいめいの考えていることを総 合した研究所を計画するのが一番適切であるという結論に達しました。これは鵼的に総合するという のでなくて,総合したものの各構成要素が互いに他のものに対してプラスに働き合う――そういうこ とを認識したからそういうふうに考えたのであります。こういうふうに方針が決まってから,今,山 内さんのお話にありましたとおり,三人はしばしば会合して構想を練りました。三人の基本的な考え 方は驚くほど一致しておりました。三人で食事を共にしながら,話笑のうちに計画を進めたこともあ ります。いろいろの雑談のうちにでてきたことを申しますと,目先のことばかり考えていては奇想天 外ともいえる画期的なものは得られないとか,未来は予見できるはずがないとか,しきりにそういう こともでてまいりました。近視眼的でない基礎的研究に力をそそごうということが,そのとき強調さ れました。 司会末野先生,お願いいたします。 末野 私も古いことは全部忘れていたのですけれども,ちょうど37年の日記が残っていたものです から,それを見ましてこれの関係のところを繰ってみましたら,実はお二方と相談する前に,梅沢さ んが科学技術庁の枢要な地位におられて,ときどきお訪ねしていたのですが,5月11日金曜日という ようになっておりますが,この設立のことを梅沢さんにちょっと話しましたら「それはいいけども大 変なことですよ」ということだったわけですね。 まあそれならとにかくということで,両先生と,築地の数寄屋寮という料亭ヘ夕方集りまして,そ して,やりましょうということを決めたのが6月20日です。それから,その後26日にお二人と相談し て稲葉修氏のところへ行きましたら「それはバックしますから,方々へ他の第一線の人にも紹介する から」というような話があったのです。今度は,やはり方々へ頼みにいかなくてはなるまいというこ とで学界ということも考えまして,7月19日に本郷の学士会館で昼食した後,ちょうど茅さんが東大 の総長でしたので,茅さんのところへ行って2時間ぐらいこのことについて話してきました。もちろ ん茅さんは賛成だったわけですけれども。 それから,7月は実際暑いときなのにしじゅう会っているのですね。7月25日に稲葉修氏と中曽根 さんに会いました。その後,科学技術庁に杉本局長と梅沢さんに会いに行きました。それから,やは りこれは財界のほうのバックも必要でしょうということで,坪井先生のご親友の植村甲午郎さん―― 当時は経団連の副会長でしたが――植村さんのところへ行って,これも数回お願いに行ったことがあ ります。 そして,7月26日に先ほどの三人の持ち寄った要旨をガリ版で刷ったのです。それが最初のもので す。8月13日に,また茅さんを訪問しています。途中少し抜けているのですが9月6日に,蔵前工業 会館で会って,また科学技術庁に梅沢さん他の局長さんを訪ねている。 その後,毎月1回か2回は会っていたのですが,私も日記はつけますけれども,前の日にちょっと 酒を飲むとあくる日には前の日のことを忘れるものですから(笑)付け忘れていると思うのです。37 年には十数回三人で会っているということですね。 山内石坂さんにもお会いしましたね。 司会 非常にご熱心に何回もお集りになったわけで……。 末野山内さんもご存じの……。 山内 山中貞則先生とか斎藤憲三先生とか。 梅沢 だいぶ,回りましたね。前田正男先生とか。 司会 そうすると,梅沢先生も当時からいろいろご相談いただいているわけですね。 梅沢 茅先生から私のところにも電話があって,文部省でやるのか,科学技術庁でやるのかわから ないが,いい研究だから考えろという電話があったのを覚えています。 司会 今のお話でいきさつが非常によくわかりました。 田賀井 そうすると,38年に要望書がありますね。あの前にもうやってあるわけですね。 司会 37年の8月のがございますね。 山内 あの要望書はまだ不完全ですが。あれは説明用です。どこへ行って,説明してもわかっても らえないので困ってしまって説明用につくった要望書であったと思います。 梅沢 アメリカではこういう研究体制になっているというのが説明文に載っていたですね。 末野 しかし,どこの代議士へ行っても,代議士でもいろいろな人に会ったのですが,みな両先生 が行きますから,一応,敬意を表して話を聞いてくれて,なかなかいいアドバイスをしてくれました よね。自民党の当時の政調会長だった水田三喜男さんなどもね。 山内 非常に協力的だったですよ。これは科学技術は大事だとか言って,一生懸命だったですよ。 ありがたかったです。 背景;必要性 司会 このように熱心にご相談いただき,お三人がご協力の結果できました固体材質研究所の設立 要望書を見ますと,この研究所の性格は,特定の応用研究のみを対象とせず広く科学技術への適用を 考慮して,一般的な基礎研究を行うものとなっております。この考えが現在まで続いておるわけでご ざいますが,こうしたお考えの背景になりました当時の我が国の学界,業界あるいは既存の研究所の 状態はどんなものだったのでございましょうか。 末野先生に,当時の業界の状況と基礎研究の必要性などの点についてお伺いしたいと存じます。 末野 これも古いことですが,先ほど山内さんのお話にもありましたように,窯業協会その他のほ うでいろいろな研究を進められてくると,どうしても基礎のほうが,個別的にはちょくちょくありま したが,どうも外国に比べると劣っているというようなことがありまして,それで,具体的にという ことはどうも忘れてしまいましたけれども,そういう気分がちょうど山内さん,坪井先生と一緒で, 世間もちょうどやはりこういうのができる学界の様子,業界の様子もそういう時期であったというこ とで,それが我々がやったという理由ではないかと思いますね。 司会 私ども考えますと,当時,技術導入でどんどん工業のレベルは上がってきたけれども,振り 返ってみると,我が国独自の芽を出したものは何もない。そういうふうなところから,やはり目先に とらわれず基礎から日本もやっていかないと,技術導入ばかりではどうにもならないというような考 えも,やはり,おありだったのではないでしょうか。 山内そうですね。 司会 それでは,坪井先生,当時の学界の状況とこの基礎研究の必要性とか関連というようなもの について,お伺いしたいと存じますが。 坪井 学界では,基礎研究というものがどんな意義のものかということはよく理解されておりまし たから,何も問題はありませんでした。 司会 先ほどもちょっとお話がありましたけれど――名古屋の工業技術試験所とか東京工業大学の 工業材料研究所とかそういう既存の研究所の状況と,この固体材質研究所の必要性についてもう一度 山内先生にお話をお願いできたらと存じますが。 山内 先ほどお話ししたように,工業材料の研究所と申しますと,いろいろなのがありますが,そ の中の無機のほうの研究所では,さっき申しました東京工業大学の工業材料研究所それから工業技術 院関係の試験所があったわけです。 ところが,そういう研究所はそれぞれ使命をもってやっておられますけれども,さっき申したよう に非常に部門が少ない。人員が少ない。 それに,それぞれ目標があって,一つの材料を作り上げていきたいという研究が主体をなしていた のです。これは人数の少ない点もありまして断片的な研究になりやすいのも仕方のないことと思いま す。 ところが,だんだん進歩してまいりますと材料関係は境界領域の立場から,いろいろな人たちが入 ってこないと解決できない。そういう総合的な研究の体制は,国の研究所としてはなかったし,もち ろん民間のほうは営利が主体でありますから,そういう基礎研究までは手が延びない。 そういうことで,どうしても学際的な立場から,総合的に研究していくような無機材質の研究所を 創らなければ将来の発展に対して非常に遅れていくのではないかという気が,非常に私は強くしてお りました。 特に,外国を見て回りまして,外国のほうがそういう点において,物理,化学あるいは機械,電気 の人までも関係した非常に広い立場で材料をいろいろの面から研究していることを強く感じたのであ ります。そういう状況を見まして,既設の研究所もそれぞれの仕事をされましょうが,そのほうはそ のほうで大きく伸ばしてもらいたいが,どうしてもそのほうが伸びにくいので,何とかしてこれをも う少し人数も増やし,設備も増やしてやるような新しい研究所を創ってもらえないものかということ を強く希望していたわけです。 そういう状態で,日本の無機材料の研究能力を上げるためには,どうしてもそういう基礎的なもの を堀り下げていくという研究所がほしいという状態であったのですが,これは正に私の考えもそうで すけれども,当時の我々窯業関係の学会でも強く希望されていた点だと思っております。 所 属 司会 それで,このようにしてお考えになられました研究所をどこに付属させるか。例えば特殊法 人にするとか,国立の研究機関にするかなどの形式は,最初どのようにお考えだったのでございまし ょうか。また,国立とすれば大学付置の研究所のほうが,こういう基礎研究をやるような目的には合 致するようにも,一見感ずると言う人もおります。科学技術庁に置かれた理由などについてもお伺い できたらと存じます。 最初は旧理研のような形式をお考えになったこともあったと伺っておりますが,その辺山内先生い かがでございましょう。 山内 これは研究所を創る考えがだいたいかたまりましてから,科学技術庁におられました梅沢邦 臣さんが,そのほうの専門でもあるし非常に理解が深いので,最初からご相談願っていたのですが, この梅沢さんのお手引きでまず科学技術庁に出向いたわけです。 というのは,最初三人の考えでは旧理研のような姿――主任研究員がいてそしてそこで自由に研究 をしていけるようなのが一番いいのではないかということであったのです。 それに対しましては,これは現理研の監督官庁である科学技術庁にご相談してみるのが一番いいだ ろうという三人の話合いで,梅沢さんのお手引きで当時の杉本正雄計画局長にお会いして,特殊法人 をつくりたいという話を申し上げたのです。 その話の結果,無機材料というので今寄附を集めて特殊法人をつくることは,非常に無理ではない か。むしろ,何か他のほうがいいのではないか。これは梅沢さんあたりから話があったのかもしれま せんが,かえって国のほうがいいのではないかと話されたように思うのです。 そこで,そんなことから科学技術庁のほうでは法人のほうよりも何か他の考えのほうがいいという ことで,我々は一旦引下がりました。そして国立にするなら科学技術庁にお願いしようじゃないかと いうことを三人で話合ったように思うのです。 それをバックアップして下さったのが梅沢さんだと思っています。 梅沢 あのときお話を受けまして,坪井先生などのお話を聞くと内容は基礎研究なのです。広く見 た目的基礎研究。 そうしますと,特殊法人とか英国の研究組合方式でいくと,応用研究になるわけで,当時は大学の 付置研が一番適切かなという感じがしたのです。 それで学術会議の様子を探りましたら,学術会議に既に20いくつの研究所新設案が出ていたので す。だから学術会議にこれから持ち込んでも研究所になるまでには,順番待つだけで大変だという感 じがして,その話を山内先生にしました。 そうしましたら先生のほうが逆に「科学技術庁だ」と断定的におっしゃってこられたので……。 山内 そんなこともないですが。(笑) そこで,国立とするなら大学に置くのがいいのではないかという話もあるわけですけれども,私の 考えは,さっきおっしゃたように,大学関係の新設希望の研究所はたくさんあるということを聞いて いるし,だいたい大学の付置研究所となると大学の方針でこれが決まるんで外部からどうすることも できませんし,またかりに大学の方針がきまったとしても,更に学術会議などの意見を聞かねばなら ぬように聞いておりました。 あるいは国の研究所として,大学に属さない文部省の研究所もありますけれども,新しい研究所の 設置をお願いすることもなかなか難しいと思っておりました。 しかし,一方私としては,私共の考えている研究所は,その性格からみて,総合調整をされる役所 である科学技術庁に設置のことをお願いするのが,最も適当ではないかと思っていたのであります。 もし私が,科学技術庁だといったとすれば,以上のような考えからでしょう。 そこで,結局は科学技術庁にお願いしたわけですが,これは私だけではなくて両先生ともいろいろ 相談の結果,科学技術庁が一番いいのではないかということでお願いすることになったわけで,決し て私が今,梅沢さんがおっしゃるように科学技術庁だと言い切ったわけでもないわけでございます。 そして,非公式にたびたび科学技術庁にその後お伺いして意見なども聞きましたし,設立の可能性 も打診したわけです。 それに対しましては,私はここでたびたびお話ししますが,梅沢さんがこの重要性を認められて, 初めから次官を退官なさるときまで,熱心にこれを守り育てていただいたということを感謝している わけです。 ちょうどそのころ科学技術庁に杉本局長をお訪ねしたとき,次のようなお話がありました。科学技 術会議の諮問第3号の「国立試験研究機関の刷新,充実についての方策」という答申の中に,基礎研 究の推進ということがある。科学技術庁でもどういう基礎研究を取上げるかを考えているのだが,無 機材料でも取上げてみますかね,という話をされたことを覚えています。 そういうことで,非金属無機材料の基礎的面の開発をしないと製品部門の開発が非常に遅れるとい う私どもの提案に対しまして,科学技術庁も関心を持ってこられたように思いました。 科学技術庁としましては,行きがかり上,いろいろな設置事項その他の事情もありましたので,前 述のように38年度の提出の概算要求にのせるところまではいかなかったわけです。 そこで私どもは更に政界とか学界とか財界というような方面に働きかけて,38年の8月に要望書を 作って科学技術庁長官に提出いたしました。 併せて,内閣の要職の方々その他を熱心に訪問して,政界,財界,学界等の応援を得まして,設立 運動を展開したような次第です。 一方,科学技術庁の計画局では基礎研究課題に無機材料を取上げていただき,この面の権威者から なる,無機材料に関する基礎研究第1パネルを作っていただきました。そして堀江調査官が世話役に なられて熱心に検討会が行われました。このことは後ででましょうから省略いたしますが,このよう にして後日,この研究第1パネルでは,研究所を創るべしという結論に達したと思っております。こ れは後で話が出ると思います。 司会よくわかりました。 坪井先生,大学付置にせずに科学技術庁に置かれた理由を,愛知揆一大臣に説明したことがあると いうようなことを,以前お伺いしたことがあるのでございますが,その点いかがだったのでしょう か,大学付置にせずに科学技術庁付属にしたというような点は。 坪井 先ほど申しましたように,この研究所には総合的な性格があって,学界とも一般社会とも業 界とも関連を持っているものなのです。そういう点で,既存の大学付置研究所であるとか,あるいは 各省所属の研究所であるとか,あるいは業界の研究所とか,それのいずれとも異なる性格のものであ ります。ですから,そのあり方について,先ほど山内さんなどからお話のありましたように,いろい ろ討論したわけであります。そのあり方にかんがみて,大学付置でもなく,各省所属でもない。そう いうように考えて討論の末,結局少なくとも差し当たりは科学技術庁所属にするのが一番いいのだと いうことになったわけであります。 末野 文部省のほうは大学付置ですけれども,あのとき愛知さんは,科学技術庁長官と文部大臣の 兼任でしたね。稲葉修氏のところへ行って,稲葉修氏はあのとき文教委員長か何かやっていたのです ね。しかし,我々は一度も文部省へ行ったことはないのです。 それから学術会議を通さなくてはならない。そういうことはあまり書いてもらっては困るんだ。 やはり結局はじめからあまり文部省のことは考えていなかったに相違ないと思うのですね。 山内 私の記憶では,愛知揆一さんが文部大臣兼科学技術庁長官になられたのは,39年じゃないか と思うのです。そのとき,文部大臣兼科学技術庁長官だから,科学技術庁に置くべきことの了解を得 たように思っているのです。 ただ,要望書を出したときには,佐藤栄作さんが長官でした。 末野 そうです。38年秋です。 山内 これは,私が参議院議長の重宗さんから紹介状をもらって,要望書を持っていったことを覚 えております。あれは38年でしたね。 末野 そうです。38年です。 山内 その次が愛知さんでしょう。要望書を出したときは佐藤栄作さんです。 坪井 私は,今のお話のこととは別に,純粋に研究所の性格というものを考えて,それで大学付置 でもない,どれかの省の所属でもない,特定の業界に関係するものでもない。こういう特殊な性格を 持った前例のない研究所である。どこに所属させようかということで考えた末,それでは少なくとも 差し当りは科学技術庁に持って行こうという結論になったと覚えています。 設立要望書の提出 司会 今度は設立要望書の時代に入るわけでございますが,お三人が中心になられまして各界の権 威者10名の連署で,固体材質研究所の設立要望書を作られまして,科学技術庁の長官でありました佐 藤栄作大臣のほうに提出されるとともに,関係各方面にご説明に回られたとお伺いしております。そ の当時の様子や各界の反応とか,あるいは,お回りになったときの思い出話などをお伺いしたいと存 じます。 まず,山内先生,要望書をお作りになられた当時の思い出話などをお伺いできたらと思います。 山内 それでは私が皮切りで簡単に申しまして,あとは両先生にお任せしたいと思います。 37年に,さっき申し上げましたように,意見調整のための要望書を作りました。これは説明用で, 所々方々にご協力お願いのために必要な書類であったのですが,さっき申し上げましたように,38年 の8月のが正式な要望書です。 それに付属書を鈴木さんたちに作ってもらって添えました。これを作るについては,科学技術庁の ほうでも内々いろいろなご意見を承って作ったようでありますが,それができまして,かねてご協力 をお願いしていました財界,学界,業界の7人の方々を回りまして要望書を出し,重ねてお願いしま してご了解を得たのです。そのお名前は50音順に申しますと,安藤豊禄,石坂泰三,植村甲午郎,茅 誠司,倉田主税,柴田雄次,森本貫一,この7名の方々であります。それぞれ要望書にサインしても らいました。それに私ども末野,坪井,山内の三人が署名いたしまして,10人の世話人の連署でもっ て要望書を作りまして,そして私ども三人でまず科学技術庁長官の佐藤栄作大臣に要望書を提出いた しました。 それから内閣総理大臣とか大蔵大臣とかその他にも提出いたしました。それから,衆参両院の議 長,政調会長,幹事長,官房長官といった方々にも提出いたしましてご了承を得ました。このとおり 科学技術庁長官に要望書を出しましたからよろしくお願いしますということでそれぞれ了承を得たわ けです。 その他に議員の方々も,稲葉修さん,佐々木義武さん,迫水久常さん,愛知揆一さん,中曽根康弘 さん,山中貞則さん,前田正男さんその他,参議院の方々にもこれをお配りしてお願いしたわけです が,いずれも大変けっこうだ,大いに協力してあげようということでご了承いただきまして,大変あ りがたかったことを覚えております。 そういうことで要望書を出した次第でございます。あとの詳しいこと,足りないところその他は両 先生に補っていただきます。 司会 それでは坪井先生,その当時の思い出だとか,要望書をお作りになってご説明をされた当時 のことをちょっとお話しいただきたいと思います。 坪井 要望書に署名をお願いする段階で,私がお二方とご一緒に方々へ行った。なぜ同行したかと いうと,設立趣旨のうちで私の考えている面については,私から直接にお話しして,そして正しく理 解していただきたい,そういうことを思ったからであります。すべての方は趣旨をよく理解,納得さ れたうえで署名して下さったのであります。それから要望書を提出するという段階でも方々へ私が同 行いたしましたのは,これも今申したと同様の理由によったのであります。 司会 末野先生,何かその点につきましてどうぞ。 末野 あのとき作ったのは,要望書と要旨ですか。 司会 設立趣意書,それから設置に関する要望書,それと佐藤科学技術庁長官あての要望書です。 山内三つあったわけです。 末野 それは両先生からお話ししたように行った人はみんな非常に積極的に,いろいろいいアドバ イスをして下さったことを覚えています。あっちへ行ってここのところをこうしなさいとかああしな さいとかいろいろ……。 山内それからサインするときに,今記憶に残っているのは石坂泰三さんです。いろいろな話を前 にも申し上げたのですが,今度行ったときも盛んに私に,自分のところでアルミニウムの耐火物を作 っているが,これが非常に優秀なものでアメリカのに負けないのだと自慢されたのです。「それが無機 材料ですよ」と言ったら「これは金属じゃないんですか」というわけであわてられましてね。その次 に切削のセラミックバイトの話をされたのです。タンガロイでやっている。「これはアルミニウムで 非常に切れるんだ,金属よりいい」と盛んにふかれまして,「それは実は私の研究室で作ったのをタ ンガロイがやっておられるんでそれもやはり無機材料ですよ」と言ったら,「そりゃ大変だ」とし、う わけで,墨を盛んにすられまして,あわててサインされました。非常に喜ばれて大いにやってくれと 言って。そういう話があります。それから柴田先生が非常に喜ばれました。 司会 柴田雄次先生ですね。 山内 ほんとにそういう研究所ができますかねえと言って,ぜひできればいいですねと非常に熱心 でしたよ,柴田先生は。 末野 この辺のところは梅沢さんがいろいろご存じでしょうね。 基礎研究第1パネル 司会 そうですね。要望書が科学技術庁の長官に提出されましたがその要望書を受けられました科 学技術庁では,どんな処置をなされたのか梅沢先生にお願いしたいと思います。 梅沢 先ほどからのように前々から少しは関係していたのですが,だいたい研究所を創る場合に は,行政機関からの考えでできるものと,先ほど田中さんが言われたように国会関係から創れという 二つが主だったのです。先生方から創れというのは学術会議しかなく,科学技術庁で学者の諸先生方 から受けたのはこれが初めてだと思います。 したがって先生方から,科学技術庁に持ってきていただいたというのは,我々とすれば文部省の先 を越したという感じで,ぜひやらなければいけないと思ったのです。 それからもう一つは,金属材料技術研究所がありますね。あれは,科学技術庁ができたとき,予算 は通産省についたのをこちらに移したわけです。そのときの材料というものは相当基礎的なもので, 各省の研究所より基礎的な分野を受けもつ科学技術庁の研究所とすべきであるという考えがありまし たので,この研究所も科学技術庁にくるのが当然ではないかと考えました。 そういうことで,研究所の新設は行政管理庁がうるさいのですが篠原登先生などと御相談し,何と かしようということになりました。 ただし,あのとき覚えていますのは,諸先生方には急にはまいりませんということを申し上げたと 思うのです。それで1年か2年遅れた形になるのですが。その間に科学技術会議の3号諮問である国 立研究所のあり方との関係,それから基礎研究第1パネルの考え方を併せて,少し気長に検討してい こうじゃないかという立場でその当時はいたわけです。 司会 基礎研究第1パネルというのは,設立の必要性と,それからもし必要であればどういう格好 にしたらいいかということを任務にして,科学技術庁のほうで作られたものでございますか。 梅沢 たしかに科学技術会議の中だったのではないでしょうか。 司会鈴木さん,その辺どうでしょうか。 鈴木 基礎理念は科学技術庁でお作りになったのです。 要するに,今度は受けましたから,こっちはこっちらしい検討をしようという形でやり始めたわけ です。 司会 そうすると,科学技術庁のほうが今度はイニシャティブをとって基礎研究第1パネルのメン バーをきめて……。 梅沢 計画局の中に作ったわけです。 山内 さっき言ったように,堀江さんが世話役で科学技術庁がお作りになったわけです。それに我 々が参加したわけです。 司会 結局,科学技術庁としては要望書を受けられて,それを検討するための基礎研究第1パネル まではお作りになられたというわけでございますね。 梅沢そうです。 司会 このようにしてできました基礎研究第1パネルのメンバーは,中堅の助教授クラスの人も非 常に多くて,討論もなかなか盛んであったというように聞いておりますが,その若手メンバーのお一 人であった鈴木淑夫さんに討論の様子だとか思い出話などをお伺いしたいと存じます 。 特に,このときの案には経常研究とプロジェクト研究を行う二つの組織が考えられておりますが , それはどんな構想だったかも併せてお願いいたします。 鈴木 私は38年6月からこの計画をお手伝いさせていただくようになり,それが今,諸先生がおっ しゃったようにずんずん進みましてパネルができたのが38年10月です。 このパネルは39年の5月まで随分一生懸命やりました。このメンバーには坪井先生,山内先生,末 野先生,それから鉱物,窯業,材料というような方々がだいたい10人くらい集まって,先ほどからお 話の基礎研究の必要性と,研究所の設置についての検討というのを中心に討論しました。 皆必要だということに一致して,それから先ほどからの諸先生方の案を,具体的に作っていこうと いう作業も併せていたしました。 私もそれ以前に,前にお話に出たジオフィジカル・ラボラトリーにおりまして,実際日本に帰って きてもこれに似たような仕事をするところが一つもなく実験をする場所も組織もないという実状だっ たものですから,喜んでこういう仕事に参加させていただいたわけです。 他の人達もそういう考えがあったので非常に熱心に随分遅くまでやったことを記憶しております。 討論の内容というのは,実際今,無機材質研究所でやっている研究の,かなり母体となったものが 多く,具体的な物質を中心にいろいろな討論がありました。マテリアル・サイエンスとか純粋物質と かいうふうなものを中心にするというような考えがでていましたし,また,極条件とかいろいろな研 究方法,設備などの考え方もでております。 ただ,そのときにでた話でかなり印象に残っているのは,例えば相図とか熱的なデータとかいうふ うな,非常に地味ですけれどもいつまでも役に立つものをどこかでやらなくてはいけないだろう,そ ういうものはここでやるべきではないかという意見があったことです。これはやはり無機材研のどこ かでやらなくてはいけないものかと思います。 プロジェクト研究なのですが,現在のグループ研究とそれほど一致した考えではないんで,そのと きはやはり普通の意味でのプロジェクトを考えていたように思います。いわゆる学際的というほどの 意味付けはなくて,やはり集団で大規模に組織的にやろうというふうな考えのほうが強かったように 思います。 ただ,このプロジェクト研究の考え方の中に,研究処理委員会という考えがでまして,これはいろ いろな研究をやっているとやめるというのが非常に難しいので,やめることの難しさをどうしようか という話合いをしたように思います。 こういうことも含めて,非金属無機の材質をどうやって進めていったらいいかということが討論さ れて,先ほど申しましたように,やはりどうしても独立の研究所がほしいという結論になったわけで す。 私達は,望むところを大いに話合ったのですが,実はこれから先が大変で,私はよくは知らないの ですが,このような案を実現させるために非常にいろいろな方々,梅沢さんや計画局の方々とか坪井 先生,山内先生,末野先生などの努力があったわけで,私はむしろそこのところをいろいろ伺いたい と思っております。 司会 今の鈴木さんのお話補足するようなことがございましたらお聞かせ下さい。 坪井私,格別ありません。 司会 山内先生,いかがでございますか。 山内 これは,だいたい我々のだした要望書を中心にいろいろ討議をしてもらったことを覚えてい ます。ですから,被告席なのです。しかし,だいたいその線に協力してもらったように思っておりま すが,だいぶ熱心に討議されて,必要性とどういうふうなものを作るかということに対する熱心な討 議があったことを覚えております。 これは若い人々のおかげで,大変だったと思います。 司会 プロジェクト研究というのは,テーマはどんなテーマをお考えになったのでしょうか。 鈴木 例を皆でだしあいました。これは当時の資料がいろいろありますので,非常にたくさんのテ ーマがあります。 司会 経常研究のほうは,反応第1(合成),反応第2 (溶融)……,構造第1(結晶質),構造第2 (非晶質)……,と資料にありますけれど,プロジェクト研究の具体的なテーマというのはあまり見 たことがないので,その当時どういうテーマをプロジェクトに考えたのかなと思いまして。 鈴木 そうですね。プロジェクトはしょっちゅう変わるものなので印刷物にはまとめなかったかも しれませんが……。 山内 経常研究の中に,グループを組んでやるのを作ろうというわけでしょう。 鈴木 経常研究はそれぞれの,いわば研究室でやるという考え方です。 山内 それが集まってきて,ある目的でもって研究しようという,そういう構想なのですよ。 鈴木 今考えているほど学際的ではなかったようです。 山内 そうそう。ある課題がでてきたら,経常研究のほうが協力してやるということですね。 司会 つまり,現在のグループ別ほど学際的ということでもないわけですね。 鈴木 それはむしろ設立準備研究検討会の時期になってでてきた問題なのです。 山内いくらか学際的なものもあるのですけどもね。 設立準備室 司会 では,時間のこともございますので,設立準備室のほうに入らせていただきたいと思いま す。基礎研究第1パネルは研究所がぜひ必要であるという結論を出しましたので,その答申に基づき まして,科学技術庁では昭和40年度予算に新研究所設立の予算を要求したわけでございます。その結 果,科学技術庁の計画局の中に新しい研究所の設立準備室が認められました。 予算要求からそれが認められるまでの経過などについてご苦労なさった点や思い出などにつきまし て,当時科学技術庁の計画局長をなさっておられました梅沢先生から何かお話をお願いいたします。 梅沢 第1パネルが終わりましてから予算要求するまでにも少しもめました。 その一つは,原子力予算が多額のためということです。しかし,計画局ではそれまでにあまり大き な予算を大蔵省でとったということがないので無理押ししていったという感じはあるわけです。 それで予算要求になったのですが,そのとき一番関所になったのがやはり行政管理庁だったです。 結局準備室におさまってしまいました。 それから,大蔵省の説明で一番苦労したのが,金属材料技術研究所が発足するときに,将来は材料 研究所として大きな研究所になるという趣意書があったことですよ。それを大蔵省で知っている人が いまして,何のために研究所を二つにするのかということが非常に問題になってきました。これは専 門分野が全く違うんで,水と油がくっつくんだという説明をしてもなかなかわからなかったのです。 準備室を作るまで納得させたのは,国の研究所としてのあり方が新しいこと,グループ研究の体質が 随分違った組織であるというところに大蔵省は相当興味を持って賛同してきたわけです。 そのときに,科技特(科学技術振興対策特別委員会)の先生方の押しもあったし,一番押しの強か ったのが稲葉先生で,自民党の総務会で特有の演説をして下さいました。 それで準備室ができれば,翌年には必ず作ってくれることになりました。だから一つ関所を越えた ということですね。あのときは山内先生が科学技術庁に泊まっておられたので山内先生と相談してや むを得ないということになったことを覚えています。 司会 そうすると,三先生も,陰ながらご尽力いただいたのですね。 梅沢 予算の途中で三先生がどうなったかとこられるし,山内先生は泊まっていられますし,随分 ウィスキーを飲ませてもらいました。(笑) 山内 こっちが飲ませてもらったのですよ。 梅沢 その当時のことは鈴木君が覚えているでしょう。 鈴木 直接は,準備室のできる前ですから, 山内 そのとき,記憶に残っているのは,愛知揆一さんが文部大臣兼科学技術庁長官になられまし て,そして我々と他の有志が集まって長官に面会を申込んで1時間ぐらいお会いしたのです。そのと きに,愛知さんはああいう人ですから,いい研究所だ,協力しましょうと言っておられたのですが 「どうも金がなくて少ししか金が残ってないんですよ。これで一つ調査費でどうですかね」と言われ た。「やっ,けっこうですよ」と一同喜びました。 それで今度は三人で稲葉さんのところへ行って,こういうわけだとお話して,そして稲葉さんと今 の長官の佐々木さんが大蔵省にお話をしてもらうし,迫水さんにもお願いをいたしました。そのとき の逸話はちょっとここでは言わないほうがいいと思いますけども(笑)だいぶご奮斗願ったようで す,陰ながら,そして科学技術庁のそういう予算の支援をしていただいたのですが,調査費をつけて もらったのは全くありがたいのです。 ところが,調査費が決まる30日,これはおそらく梅沢局長は主計官に言われたのではないかと思う のです。私のところに暮れの30日の夕方に電話がかかってきまして,主計官があれは調査費とするの で異議ないかと言われるから「いや,設立準備のための調査費で,準備はしてありますからただ調査 費としないでください」と言いましたら,「いや,そんな例がない」というわけで随分ゴネられまし て,約30分ぐらい電話がかかってきたのですよ。最後には,これはもうしかたがないと思って「私は とにかく設立準備の調査費だということを科学技術庁にお願いしてますから,私から調査費でいいと は言えません。あとは科学技術庁のほうにご相談下さい」と言って切ってしまったのです。 そうしたら,やはり準備の調査費にしていただいたわけです。 梅沢 予算がついてから,項目を立てるときにまた1週間延びたわけです。 山内 まあ,調査費でもよかったのでしょうが,私は来年はぜひ建ててもらいたかったので,設立 準備のための調査費だということにはっきりしてもらいたいということを言ったら,主計官は随分困 っておられたようだったですがね。結局は梅沢さんにお話があったのでしょう。 梅沢 科学技術庁ががん張っていたので,直接先生のところに主計官が泣き落としをやったのでし ょう。(笑) 山内 私のほうでも,それでなくてはダメだと言切ってしまったのです。あとは科学技術庁にお願 いしてありますからと。 司会 そうですね。単なる調査費と設立準備の費用とはだいぶ意味が違ってまいりますから。 山内意味が違うように思ったので……。 梅沢 もう1年遅れますからね,調査費でいくと。 山内 それで調査は済んでますからということで盛んにがん張ったわけで,結局は最後はがん張っ てもらってよかったと思いました。 碓井 最後で,計画局に設立準備室を置くということで反対があったのですね。それで内緒で,認 知されないまま作ってしまったのですよ。看板を書くときに局長に聞いたわけです。「看板だしてい いですか」「やれやれ」とか何とか……。(笑) 梅沢 あまり表向きにだされては困るというのがありましたよね。科学技術庁の中でも研究所はほ んとうは振興局のわけなのですよ。それを計画局が研究所を創ってるわけで,そこの内々の問題もあ るし。それを設立準備室のときから振興局へ渡すべきか,計画局でやるべきかという議論も,幹部の ほうではあったのですよ。 碓井 予算は金属材料技術研究所についたわけです。人員も3名金属材料技術研究所についたので す。それで1年間は鈴木さんは金属材料技術研究所から月給をもらっていたのです。 梅沢 行管の関係で,新規のものにつけないというので,金属材料技術研究所につけたのです。 設立準備研究検討会 司会 諸先生のご尽力によりまして設立準備室ができまして,その中に今度,非金属無機材質基礎 研究所設立準備研究検討会という長い名前の会が発足しました。そして各方面の学識経験者からなる 委員によりまして新しい研究所の具体案が検討されることになってまいりましたが,当時の様子,あ るいは思い出話などについてまず検討会の座長をなさいました坪井先生にお伺いいたします。 坪井 この場合の座長というのは,中立の立場をとって委員の方々から思う存分意見を述べていた だくようにする,それが役目であります。別にその意見を調整したり,まとめたりするというような 役目はないと思っておりました。ですから委員の方々に思うように発言していただいたのであります が,その発言を伺っておりますと,人によって意見に違いがあるということを感じないわけにはいき ませんでした。しかし全体を通じてみますと,それは小異であって,大切な点では大同であるという ことを感じました。 司会 新しい研究所設立の真意が十分外部に理解されていない面もありまして,反対する機関もあ り,そっちの方面にもご説明に回られたり,いろいろ苦労されたというお話をお伺いしております。 その点,山内先生いかがだったのでございましょうか。 山内 これはね,たしかに苦労といえば苦労も多かったのですが,詳しく述べてもいいのですけれ ど,今更このめでたい10周年にそういうことを述べるのもどうかと思いますので,簡単に私の感想を 述べさせていただきますと,反対はありました。しかしそれはここで詳しく述べるほどのことでもな いと思います。基本的なものではなかったんです。また悪意のものでもなかった。 ただ立場を変えて考えると,わりあいそういうことはありうるのではないかという気がしたので, 立場を変えてなるべく気長に待つことにいたしました。そしていろいろ説得,あるいは理解を求める ために回ったりしましたが,結局,研究所としては,新しく設立された研究所に対して自分の研究所 に何か不利な点が予想されると判定するのは当然だと思うんです。二,三の研究所から反対はありま したが,いずれも話合いによって,39年の暮れまでにはその辺の方々もよく了解されまして,大いに 支援しましょうということになりました。 そういうわけで,反対はありましたけれどみな自分の立場を考えての反対であって,話合えば結局 わかる程度のものでありました。荒立てればいくらでもおもしろく語れますけれど,(笑)そういう ことは研究所の創立に対してあまりいいことでもありませんから申し上げません。とにかく反対され た研究所も後からは非常に好意的に動かれたことを覚えています。いわゆる私的には賛成だが公的に 反対だという立場ですね。その点は梅沢さんもよくご存知でしょうが……。 梅沢 田中さんもよく知っておられるはずです。(笑)やっぱり自分のところの研究範囲を乗取ら れるという感じでね,中身をあまりご存知ないから,それで反対されたのがありましたね。しかし, 一部ではもしいい研究所なら行きたい,移りたいという話もありました。 山内 そういうほんとうに根強い基本的な反対ではなかったわけです。ただ一つだけ,科学技術庁 に研究所を置くのは,自分が委員をやっている立場上反対だ。科学技術庁に研究所を持ってはいかん という私の意見だから,という反対はありました。しかし,この研究所の方向に対しては別に反対は なかったですね。ほかのところは,さっきいったように自分のところに不利益がきわしないかという ことであわてられて反対された。 グループ研究制 司会 検討会において,グループ制という従来にない新しい研究組織が初めてとられたわけでござ います。これは基礎研究第1パネルのプロジェクト研究とつながっているのかどうか,その辺,こう いうグループ研究制の構想の背景とか,あるいはどうしてこういう制度ができたか,ということにつ きまして,一つ梅沢先生のほうからお話いただけませんか。 梅沢 基礎研究第1パネルとのつながりで気になったのは,さっき坪井先生が言われた総合的に研 究を進めるグループ,我々のほうでそれをどう読むかという文書の読み方で,要するに我々は,専門 分野の違う人々がグループとして集まらねばならないグループの研究,‶総合性"というのはそんな 感じで読んでいました。 それから純粋研究,基礎研究,目的基礎研究という分け方がありますが,必ずしもその辺の基礎研 究そのものの意識統一というのが,この第1研究パネルと両方ではちょっと違っていたという感じが ありました。しか、し,だいたいまとまったようです。 逆にいえば準備室が1年間あったので,その後研究所に文句なしにいけたという感じがします。第 1研究パネルだけでいっていますと,あとから相当問題がでたかもしれません。 司会 グループ研究制をとったほうがこういう研究所では研究が効率よく進むだろう。学際的に研 究をして行くためにはグループをつくってやったほうがよいと……。 梅沢 あとは,準備室でだした検討書ですね,あれがいままでに既存の国立研究所のあり方に対し て,相当刺激にもなったし,役立ったような気がしますよ。 司会 坪井先生,基礎研究を自由な発想で行うのに,最初から目標を決めて研究年限を限るのはど うか,というような意見を耳にすることがありますが,その点いかがなものでございましょう。 坪井 私は,しばしば「自由発想」ということを主張しております。よくそのことについて誤解を 受けるのですけれど,「自由発想以外はいけない」ということではありません。その他のいろいろな ものが,自由発想による研究と同格に並んでいくつもあって,しかるべきであると思っております。 私はそういうことを窮屈に考えたり,一律に公式で規制しようということは,好ましくないと思って おります。年限を限るのが適当か否か,ということについてもその場合ごとに違うと思います。場合 ごとに判断するのがよいと思っております。その判断を採用するか,しないか,それを決定するのは 所長の権限であると思います。それについて所長がご自分の意思で,その決定の参考のために例えば 運営委員会にそれを諮問されるというようなことがあってもよいと思います。いまのご質問のよう に,「自由発想で行うのに年限がどうとか」ということは,いま申しましたように,自由発想のもの もよいし,そうでないものもよい。年限を限るのがよいか悪いかということも時と場合による。そう いう考え方をしております。 司会 山内先生,これにつきまして何かご意見は。 山内 「自由発想」についてですか。これはたびたび聞きましたけれど,研究に対して研究者の自 由発想ということが根本ですから,大事なことはわかりますが,やはりこれは課題の進め方とその人 柄とによって任せられるものであって,いまおっしゃるように,ある制限のもとにやらなければ,む やみに自由発想だからといって自由に放ったらかすことはできないかもしれません。 これは坪井先生も同じご意見だと思いますが,いかがですか。 坪井 そのとおりです。よく私は「自由発想」を主張するものですから,時折誤解を受けることが ありますけれど,いま山内さんのおっしゃったことはそのとおりと思います。 山内 私も ‶創造"ということを盛んにいいますが,同じことですね。 梅沢 いままでに,グループ研究のテーマで科学技術庁から押しつけているものはほとんどありま せんね。これは一つの自由発想だと思うんです,研究所としての。他の国立研究所は上から言われる テーマが相当あるわけです,自由発想というのはそういうふうに取っています。 坪井 それからもう一つ,研究中に新しく問題が起こることがありますね。そういうものをもとに して研究課題ができてくるというような場合も,時と場合により所長の判断によって認めるというこ とがよいのではないかと思います。 司会 末野先生,この点につきまして何か御意見はございませんでしょうか。 末野 グループ研究というのは,従来の研究所では梅沢さんがさっき言われたように,上から「こ の課題をやりなさい」ということで,部長が命令を受けて,部長が課長に命令して,そうしてやると いうようなことは,この研究所ではやりたくない。ならばどういうのがいいかというと,昔の理研の ようなかたちがいいのではないか,ということだったわけです。そしてグループを決めたときも,や ってみて悪ければまたほかの方法を考えてもいいのではないかということでした。 山内さんのときにも,このグループは検討すべきだという意見もときどきでたように思いますね。 今後ともこれはフレキシブルに考えていいのではないかと思います。 山内 グループ研究というのは非常に私も記憶に残っているのですが,私はちょうどあの途中で外 国に行きましてね,帰ってみたところがグループ研究というのがでているんですよ。 非常にこれはいい発想ですけれど,やる場合には非常に難しいんじゃないかと思ったんです。そし てその後所長になってからも,この問題は頭にしょっちゅうあったわけです。だから途中で,いま末 野さんがおっしゃるようにやってみていけなければ変えてもいいということでやってきたわけです。 司会 研究制度には,それぞれ長所と短所があり,ある特定の制度が最高で,これでやれば必ず成 功するという一般的な制度は無いようで……,やはり研究所の目的に最適のものをとるということと 思いますが……。 山内 これは新しい体制ですよ。それだけに難しいわけです。これで予算も付いたんじゃないです か,おそらく。 鈴木 ただ,グループ研究というのは今でこそわかるんですけれど,あのときは実は検討会の委員 にしてもだれもよく知られないので。 山内私も帰ってきてね,これは難しいことになったな,と思って……。(笑) 鈴木 グループ研究というのはモデルがないわけでしょう。 性格と名称 司会 それでは次に進ませていただきまして,科学技術庁に「金属材料技術研究所」という,我々 と兄弟関係の研究所がございます。これは「金属材料技術」となっております。それに対してうちは 「無機材料技術研究所」とか,あるいは「無機材料研究所」とせずに「無機材質研究所」と命名され ております。 この理由はいまのお話でだいたいわかりましたが,これは最初の「固体材質研究所」から連綿とし て基礎研究をやっていこうというお考えだろうと思いますけれど,その点,末野先生,いかがでござ いましょう。 末野 「固体材質」からみんな反対がなくて「無機材質」に変わったわけですけれど,そのほうが やってみると通りがよくて,どこへ説明しても「固体材質」というのはいっそうわからないんです ね。(笑)「無機材質」だとまだ少しはわかるというような状態でした。 司会 科学技術庁のほうでは「無機材料技術研究所」とか,既存の金属材料技術研究所と名前を合 わせるというお考えはなかったのですか。 梅沢 それはありました。例えば法制局で説明するときなどにあったのです。法律用語としても, 「固体」で「無機」を表すのは非常に難しい。それから「材質」というのが非常に通りにくかったで すね。しかし「材質」というのは「基礎的研究」というような意味をだそうという意味があったよう な気がします。 「材料」というと,通産的な感じによそからはとられるという感じがしていて……。 田賀井 その時分「無機材質総合研究所」というような話がでて,「総合」はいけないと……。 梅沢 何で「総合」が入るのか,私らにはちょっとわかりにくかったです。グループの意味をだし ていたのかも知れません。 碓井 何か固定されないような研究体制という意味じゃないですかね。 山内 我々のほうでは,もう最初から「材質」というのは……。ただ「応用」を無視してはいない んですよ。応用をやるなら人数がもっと増えなきゃならんということを絶えずいっているんで,手が 回らんから基礎だけだということなんです。 その基礎は変わっていませんから「固体材質」から「非金属無機材料研究所」,その次には「基礎」 を入れて「非金属無機材料基礎研究所」と,だんだん名前が変わっていったんです。最後には,「非 金属」はやめたらどうかという梅沢さんの話があって,我々3人は,じゃ「非金属」は入れなくても いいでしょうといったのを覚えています。 だから名前は一貫してあまり変わっていませんよ。 碓井 これはアンケート調査をしたんですよ。設立準備委員の方々とか,第1パネルの方々の御意 向を聞くために。 司会 ただ「無機材料技術研究所」とするのと「無機材質研究所」とするのでは,研究内容がだい ぶ違いますからね。 梅沢 「材質」で「基礎」を入れたという考え方です。 山内 「材質」が入ったら,基礎はいらないでしょうね。 梅沢 国立研究所ですから,目的基礎研究が主体ですね。目的基礎研究をやっていく場合には,応 用研究にも入ることがあるだろうし,基礎にも入るし,純粋研究にも入ることもある。しかし中心は そこだろうということを「材質」でだしたと思います。 山内 それで,無機材料の基盤となる科学技術の基礎を総合的に開発する研究所,という意味なん ですよね。最初からその考えは一貫していますので,結局はだんだんはがしていって「無機材質研究 所」という姿になったわけです。最初からの意味は全然変っておりません。 誕 生 司会 新研究所設立の法案が41年の第51国会で可決成立しまして,いよいよ無機材質研究所が誕生 いたすことになったわけでございます。一つの国立研究所ができるということは,並たいていのこと ではないと存じます。政府関係,あるいは立法府関係の説明,法律とか府令の改正など,大変な事業 だと思いますが,当時,計画局長として政府委員の第一線でご努力なさいました梅沢先生に,事務的 手続きとかご苦労なさった点,思い出話などお伺いしたいと存じます。 梅沢 設立準備室を作るときに,大蔵省との掛合いは相当やっていたので,研究所にするときには 2度目の説明ですから,その点はだいぶ楽だったような気がします。 ただ,研究所の新設ですから大臣折衝になるわけでちゃんとした準備をしなければならず,行管か ら通産,大蔵,国会と,もう朝駆け夜駆け。 また,相変らず原子力予算との関係で,局長同士の争いというのはなきにしもあらずということだ ったでしょうね。大蔵省で予算がつきましてから一番問題だったのが,鈴木君は知っていますけれ ど,法制局に行って設置法をつくるとき,さっき話にでました「基盤」ということばは大変だったで すよ。結局あそこの第3部長,何という名前だったかな,我々と部長の直接交渉になりましたね。法 制局のほうで非常に援助してくれたことを覚えています。 それから,予算を取ったときに末野先生から「いや,予算が少ないね」と言われた。(笑) 末野忘れましたよ。 司会 梅沢先生は国会の説明も全部,局長としておやりになりましたですね。 梅沢 国会の説明のときは,野党の先生も非常に協力してくだされて…… ただ,「材質」とか, 無機と有機の違いとか,そういうのを説明するのに苦労がありました。金属は800度ぐらいで溶けて しまうのが無機物になると2,000度以上までもつというようなことを言って素人わかりすることばを 作っては説明しました。 司会 坪井先生,山内先生,末野先生も予算成立には大変なご努力をなさったと伺っていますが, 何かそれについて思い出話などをお伺いしたいと存じます。 まず坪井先生から一つお話を伺いたいと思います。長年のご努力が実りまして,予算が通過したと きのご感想なども交じえまして一つ……。 坪井 もちろんそれに対して喜びの念,感謝の念を持ったことは申すまでもないことであります。 けれども,研究所の設立というのは ‶ゴール"ではなくて ‶スタート"なんですね。それからさきが 大切である。そのさきの楽しみ,あるいはそれについての責任などのことにすぐに想いが走っていき ました。立派な業績がこの研究所からでてこなければならない。そういうことをひたすら待望する。 そういう気持になりました。 司会 それでは山内先生,一つご感想を。予算の通過にいろいろご努力なさったと伺っております けど……。 山内 ほとんどむだがなかったということですね。予算は39年にだして40年には調査費がついて, 41年には発足と,一つもむだがなく,極めて順調に進行しましたことは,無機材質研究所の重要性を 皆さんがお認めいただいたということだろうと思います。多くの支援者はもちろん,終始熱心に努力 していただいた科学技術庁の皆さんに対して非常に感謝をいたしました。 この研究所の所期の目的を達成するためには,所員の努力と関係方面の温かいアドバイスをいただ いて,立派な研究所になるように所員の方々にご奮闘願いたいということを考えました。 司会末野先生,いかがだったでしょうか。 末野 私もき尾に付して行ったんですけれど,梅沢さんがちょうどいてくれたから,これが非常に 大きいですね。梅沢さんがいなかったらできなかったかもしれません。 山内それはそうですよ。恩人だ。 梅沢 そんなこと書かないでくださいよ。 末野 これができましたときにお礼回りしたんですよ。みなどこでも喜んでもらいました。ことに 石坂さんところに伺ったときに留守でね,ちょうど我々がでるときに玄関で会いまして,非常に石坂 さんは喜んで「ああ,それはようございました」ってね。 山内 柴田雄次先生が「あれだけのものがよくできましたね」と言われてびっくりされた顔がいま でも思い出されますよ。喜んでおられた。 末野普通ではできなかったからね。 梅沢 一番苦労したのは山内先生を所長にお願いするときですよ。実をいいますとあのころ山内先 生は相当収入が多かったのです。しかし研究所を創る最初から,所長は山内先生にしようと,末野先 生とたくらんでいたわけです。 先生の高収入を,国立研究所の所長になられますとみんな断らなければいけない。それで実をいう と私は,ある人を通じて税務署まで調べたら,所長の月給はその半分以下だったです。 それでもお願いにお願いをつづけて最後に「もう負けた」とおっしゃって下さったのです。 山内 それはそうですよ。31日まで決まらないんですからね。あんまり言われるからもう勝手にし てくださいと言って帰っちゃったんですよ。そして名古屋に行ったんです。そしたら名古屋駅に使い がきていて「昨日,勝手にせいとおっしゃったのは承諾の意味ですか」という。(笑)勝手にお願い しますと言って翌日ゴルフ場を行っていたら,新聞を持ってきて,所長と兼総合研究官となってい る。これは科学技術庁取締役官ですかといって,みんなびっくりしちゃった。 末野 それからもう一つ山内さんに所長になってもらうのに困難だったのは,奥さんの反対で す。猛烈に反対された。せっかくこれから楽になって……。 司会 東京工業大学の学長をお退きになり,名誉教授になられてゆっくりやっておられたわけです から。 梅沢下がってくるのですからね。 末野収入のことを除いてね。 発 足 司会 いよいよ41年4月1日に無機材質研究所は正式に発足し,いまのようなお話で初代所長にな られました山内先生には,我々所員としましては大変なご苦労をおかけしたことを大変感謝しており ます。一つ所長として最初にご努力なさった点とか,ご苦労をなさった点などを,思い出話的にお話 願えますか。 山内 これは,科学技術庁は非常によくしてくださったし,碓井さんに非常に熱心に支援してもら ったので,私は何にも苦労はないんですよ。ただ,発足の当初考えたのは,第1番に有能な人材を集 めたい。これは研究も事務も含めて表裏一体のものですから,有能な人材を集めたいというのが私の 希望でした。それで,なかなか新しい研究所で人は集まらんだろうと思っていましたら,案外集まっ てくれて非常にありがたかった。 もう一つは,いままでの国立研究所らしくない国立研究所にしたいということでした。これはどう いう意味かというと,国立研究所というと何か課題を設けてそれを命令的にやらせるというような気 持を持っている人が多いのですが,そうではなくて研究所自体は許される範囲で自由に研究ができる ような研究所にしたい。あるいは研究所の自治を大事にしたい。それにはまず自ら治めるということ が非常に大事ですから,集団の秩序を守るためにはいろんな内規的なものをつくって,それによって 外部からく くられん前に自分でく くる。 これは,碓井総務課長などは「規則ばかりつくる」というような気持だったのでしょうが,ザルみ たいな内規がたくさんできていて科学技術庁で「これが規則か!」と言われたような規則もあったの です。そういうふうにして研究所内の人材の育成と同時に研究所が自由な空気で外圧もなしに伸び伸 びと研究できるような研究所にしたい,ということで骨を折ったつもりです。 もう一つは,やはり研究所としては人の和の重視も大事です。しかし,人の和が大事だからといっ てワーワー騒いでばかりいるのも困りますので,やはりそこには切磋琢磨,コンペチションと申しま すか,和でありながら研究に対しては競争的な意欲を燃やす,という研究者でありたい。 もう一つは,庁舎ができるまでにだいぶ苦しい思いをしましたが,その新しい研究庁舎ができるま でのうちに,そして人数の少ないうちによい研究の雰囲気をつくりだしておきたいというのが私の希 望でした。次に研究庁舎をなるべく早くつくってもらいたい。こういう希望を持って,その線で努力 したつもりです。 まだありますけれど,要するにそのころは家もなく,最初に就任したとき,私は科学技術庁――い まの文部省の5階でしたが,そこの科学技術会議の非常勤議員の部屋の隅っこに机を置いてもらいま した。これが所長室でした。 それともう一つの室は,さっきお話のあった準備室でそれが所員室でした。新しい研究所としてほ とんど無から発足しましたので,いろんな点にいろんな不自由がありました。 その当初におきましては,碓井総務課長に随分無理なことを言ったり,勝手なことを言ったりしま したが,非常によくやってもらったことを覚えています。科学技術庁におきましては非常に好意的に 扱っていただきまして感謝しております。 苦労したといえば苦労したんでしょうが,順調に進んだのは私の周囲の人たちの苦労のおかげで す。 司会 いろいろとご苦労を,おかけいたし感謝申し上げます。いま山内先生からもお話のありまし た初代の総務課長として新しい研究所の事務を一手に引受けられました碓井さんに思い出話を一つ ……。 特に,今まで碓井さんは行政屋さんばかり相手にされていたと思いますけれど,初めて研究者を相 手にしたときの印象だとか,庁舎の手配だとか,物品の購入などいろいろご苦労があったと思いま す。 碓井 私は,口幅ったいようでございますが科学技術庁とか,通産省とか,内局のようなところば かり歩いておりまして,初めて研究所へ設立と同時に総務課長を拝命いたしまして,最初はもう緊張 の連続でございました。山内先生を前に置いて申しわけございませんけれど,後のほうにちょっとハ ゲができまして,やはりこれは神経的なものであると言われました。 それからもう一つは,研究所ができそうだというのでどうも私にご下命があるようだと思いました ので,まず無機材質というのはいったい何だということを私なりに勉強いたしました。ここにおられ る鈴木さんを講師にお願いしまして,私なりに勉強したつもりでございます。 そして4月1日に山内先生が所長にいらっしゃったことは,私の非常に大きな支えでございまし て,大変包容力のある方で,また深いご理解とご指導力は抜群でございました。特に私らが本当に感 謝にたえませんのは,事務と研究と両方の部門があるんだということで,これは事務が研究に従属す るのでもないし,といって事務が研究を管理するのでもない,これはやはり車の両輪であって表裏一 体のものである,ということをよくおっしゃっておられまして,我々としては非常に心の支えとなっ たわけでございます。 できますときに,当時の計画局長の梅沢先生から「おまえが行くんで,研究のほうは大先生がおら れるから,事務部門についてはおまえの気に入るやつを連れていけ」という大変ありがたいご指示が ございまして,官房筋とか,人事担当の方々も,新しい研究所でしかも事務部門が少ないからなるべ くいいのを送り込もうということで,大変ありがたかったと思っております。 当時,ここにおられます新総務課長もその一員でございます。 あとは,私もこういうざっぱくな男でございまして,山内先生がおっしゃったように ‶人の和", 大いに一つほがらかにやろうということで,乱れない範囲でほがらかにやろうということを非常に心 掛けたしだいでございます。 司会 お互に乱れない範囲でビールなどを飲んでだいぶ議論もやりましたね―。(笑) 碓井 あと,ちょっと余談になりますが当時の中平先生が「研究者というのはうそは言わない。と いうことは自然科学をやっている研究者は自然を相手にしているから,うそは言わないんだ。したが ってお互いに信頼しましょう。研究部門と事務部門とお互いに信頼して,あまり干渉しないでそれぞ れの部門に任せよう」とおっしゃって,そういうような心掛けでやったつもりでございます。そうい う中平先生一流の性善説といいますか,そういうものが非常に印象に残っております。 庁舎につきましては回顧録の最後のほうにまずい文章で載ると思いますので……。これはもう一に かかって山内大先生に庁舎の借家までをお願いしたということで,私達としては大変申しわけなく思 っているしだいでございます。 物品の購入などというのは,大学からこられた方は非常にフリーにやっておられるし,会社からこ られた方はかなり早く品物が入るということで,当時長谷部君というのが経理係長でございましたけ れど,いっぺん黒板に全部図をかきまして,「こういうシステムでこうなっております。たてまえは たてまえです。あと応用動作はまた考えましょう」ということで,当時41年に集まっていただいた方 々は大変ご理解いただきまして,たてまえはみんなで守ろうじゃないかということで大変ご協力いた だいたことを感謝するしだいでございます。 筑波への移転 司会それで今度は筑波移転でございますが,発足後,本庁舎がなくて井荻だとか本駒込の仮実験 室を転々としておりました。46年度にやっと筑波に研究本館が完成し,47年に移転第1号として移っ たわけでございます。しかし当時,筑波研究学園都市は建設途上でございましたので,移転につきま しては所員の知らないいろんなご苦労があったろうと存じます。 何かその点を山内先生に一つお願いしたいのでございますが……。 山内 ご承知のように創立以来家がなくて,いまお話のように転々と移り歩いたのですが,この借 家問題も大変骨が折れまして,碓井総務課長は何べん諸所方々に足を運んだかわからない。大変苦労 をかけたんです。よくやってもらったと思っています。また所員の方々も皆さんがこれに快く協力し ていただいて,ありがたかったと思っています。 移転第1号で筑波に移転するまでにはいろんな苦労がありましたが,移転が始まってからの苦労も ひとしおでした。これはもうここで簡単には申せません。いろんな苦労がありました。 思わないことが飛び出てきて大変苦労をかけたのでありますが,快く総務課長はじめ事務の方々 と,研究所員の方々とが協力して何事もよいように処理していただきました。そのいろんな苦労は言 葉ではとても言い表せません。科学技術庁,大蔵省の理解と協力によりまして,遅々として進まない 研究学園都市に第1号として移転するという心を決めますまでには,皆さんとともに相当の決意をし たつもりでありますが,立派な研究庁舎ができたときはほっといたしました。何か気が抜けたような 感じがいたしました。と同時に何となくいままでの苦労がふっ飛んでしまったというぐらいにうれし い感じがいたしました。 所員一同が庁舎に全部移ったときには,本当に何ともいえない気の毒やらうれしいやら両方の気持 がいたしましたが,移転というのは普通考えれば何でもないのですが,これに当たる人々に対しては 大変な苦労がつきまとってきたわけでございます。特に未開の土地への移転は全く想像以上のものが あります。 それを完遂して,いまになってみますと第1号で行ってよかったなということもありますし,また 現在おられる方は少し早かったかなという気持の方もあるかもしれませんが,とにかくあそこにああ していまでも無機材研の庁舎は立派だと言われるぐらいのものができましたのは,皆さんのご協力の おかげだと感謝しております。 司会 梅沢先生,学園都市の総元締である科学技術庁の次官として,何かご感想を。 梅沢 要するに学園都市が遅れたでしょう。その間,また本郷に移ったり……あのときは碓井君か ら文句を言われ,鈴木君はことに文句を言ったですけれど,印象に残っているのは,学園都市の第1 号だから,よっぽど立派なものにしないと他の研究所にも悪い。それで碓井君に,大蔵省でもらった 金で坪数を減らしてもいいから――坪数を減らして怒られるなら私が怒られるから,確実なものをつ くれと言ったことを覚えているのです。 また,首都圏の会議で年中言ったことは,向こうへ行くと手当てが下がる。その是正の件です。 開所式で升酒を飲んだところで,私もこれで任務は終わったと思って安心したわけです。 山内 大変な苦労だったんですよ。しかし軌道に乗せてもらったのは根本龍太郎さんだと思うんで す。建設大臣のときに。無機材研にも見えましたのでそのときいろいろのことをお願いしました。建 設大臣としてではなくて首都圏の長としてね。8%の手当減はぐあいが悪い,どうも人事院で進まな いから閣議で決めてくれという話をしたら,一生懸命になって閣議に持ち出してもらったのかな。そ ういう意味では根本さんは「8%」の恩人です。(笑) 司会 そうゆう御苦労があったことを今まで全然知りませんでした。今お話を承ってはじめて知り ました。私共は実験道具の運搬ばかり考えていましたので。 山内 坪川さんという建設大臣が見えましたね,地鎮祭で。 梅沢 そのあと,できたときに西村先生だったですか。 山内 ええ。坪川さんが見えましてね。佐藤総理大臣が研究者の宿舎には立派な実験室をつくって やれと言われたとのお話があったんです。それを聞いたときに,これは大変だと思って,実験室を造 られたら家計に響くというわけで,せめて書斉ならいいけれど実験室は困ると御来所の西村建設大臣 や根本建設大臣に申し上げたことを覚えています。 司会 宿舎に実験室まで造れと……。 山内 そうなんです。実験室を造れと言われたというんで,その費用はどこが持つんだろうと思っ て,(笑)実験室じゃなくて部屋を一つ増やしてもらいたいということを言ったことを覚えています よ。根本さんもそのことを覚えておられて「いや,一部屋増えましたね」と言われたことがありま す。 考えてみるといろんな方々にご協力願いましたね。 司会 それでは,実際の移転の事務の総元締をやられました碓井さんに,最初は道路はできていな いし,暗いし,病気しても医者がいないだとか,くさいにおいのする工場があるとか,だいぶ碓井さ んのほうに文句をつけに行っておりましたのですが,相当ご苦労なすったと思います。 碓井 やっぱり今から考えますと,高圧力特殊実験棟というのが先にできましたですね。あれが非 常に事務方としてはいい経験になりました。あれがついたということにつきましては,茨城県の参議 院議員の中村喜四郎先生ですね。あの方に予算の査定中に主査のところへ行ってお願いしてもらった んです。 あとは,裏話をしますと,当時の研究調整局長の梅沢先生にシナリオを書いていただきまして,こ ういうふうにしてこういうところにだれを行かせ,この時期にだれを動かせ,ということを全部指示 をしていただきました。無機材研が非常に難しい立場なのは,学園都市に移転というのは計画局がや っているわけです。それから所管は振興局でございますから,両者の間がうまく動いていくようにや っていただいたわけでございます。 そして,高圧力特殊実験棟がついたということは,非常に私らにとって明るい見通しでしたね。と いうことは大蔵省もいやいやながらこの計画を認めた。本音は認めているんですけれどたてまえは認 めていないというかたちですね。で,超高圧発生装置があるから建物がいる。じゃ,その建物は筑波 学園都市ではなくて,筑波研究学園都市の予定した敷地が無機材研にあるからそこに建てる。という 非常にややこしい言い回しで認めていただいたわけでございます。 それによりまして駒込庁舎とか,公務員宿舎の問題とか,相当促進されたのではないかと思いま す。 これにつきましては,無機材研というのは第1陣として露払い的な仕事がたくさんございました。 例えば,先ほど山内先生からご発言がございました起工式ですね。起工式をやるといって大蔵省の理 財局に案内状を出したら,待ったがかかったわけでございます。なぜかといいますと借料を取らなき ゃいかんという。主計局のほうはそんなものは取る必要はない。将来国のものになるんだから取る必 要はないんだ。しかし理財局のたてまえは,あくまでも財投の金で住宅公団に買わせたものであるか ら,当然借料を取るべきである,ということで起工式をやる寸前までもめておりまして,結局,試験 研究費かなんかの100万円か50万円かぐらいだったと思いますが,それを流用するということで主計 局のほうが負けたわけでございます。 そういうことがこういう事態になって初めて検討されまして……。もう一つは,例の建物を建てよ うと思ってもトラックの入る道路がない。それで,これは住宅公団のほうで大変ご理解いただきまし て,高層気象台のそばに仮設道路を造ってくれたわけでございます。これも無機材研のために造るん じゃなくて,学園都市の東大通り線を造る建設用工事道路というような名目で造ってもらったわけで ございます。 そういうことで関係の方々には大変ご理解をいただきました。先ほどの山内先生のお話にもござい ましたが,結局我々として困ったのは,敷地の中の問題につきましては,関係方面にお願いして予算 をいただければ,我々が全部できるんでございますけれど,一歩外に出ますと全部公共事業でござい まして,学校にしてしかり,商店にしてしかり,医者,バス等々については全部お願いしなければな らなかったということで,今から考えますと,たしかに第1陣として移って結果的にはよかったので ございますけれど,家族の方々,特にお子さん方には大変ご迷惑・ご苦労をかけたのではないかと思 っております。 司会 移転が無事に済みまして,その後すぐにお世話になった方々に御来所いただいて,研究本館 の竣工式を行いました。それから突然山内所長がご退官なさいました。また皇太子殿下のご視察,天 皇・皇后両陛下の行幸啓がございました。それから庁舎や研究設備の整備など,いろいろなことがあ りましたが,移転後の概略につきまして,田賀井所長に一つお伺いしたいと存じます。 田賀井 私,無機材研には46年9月からまいったのですが,その前に運営委員で多少関係しており ましたけれど,こういう創立時の産みの苦しみということは全然知らないのでございます。 一番初め,無機材研が設立され披露パーティに伺いました。あのときは上原大臣がこられてあいさ つされました。将来は筑波に移転するんだと聞きまして,いいなあと思っていました。そのときはま だ私が無機材研に行くことなど全然考えてなかったのですが,運営委員会には井荻にも駒込にも伺い ました。 高圧棟ができて,高圧棟を視察がてら,筑波で運営委員会をしまして,筑波にきたことがありまし た。あのときは何だか非常に大変なところで,自動車が途中で入れなくなって,また元に戻って別な 方から入りなおしたというふうな記憶がございます。 高圧棟の起工式は44年3月27日でしたが,そのときは私はこられませんでした。その後無機材質研 究所にごやっかいになりましたが,ちょうどそのころから移転のことがそろそろ話題になっておりま した。46年10月に研究本館ができたので,私達が住むあたりの環境も見に行こうと,東京から自動車 を運転して行きましたが,筑波学園線がまだ通らないときでした。ずっと行きましたら,なんだか香 ばしい匂いを出す工場がありまして,これは大変なところだなと思いました。 10月に竣工し環境整備をして,いいよいよ47年2月に移ることに決って,その移転については非常 に皆さん真剣に考えました。まず移転計画を立てました。特に事務サイドが非常に大変な御苦労をか けました。計算しますと延べ200台のトラックを用いてどうしても1ヶ月間はかかる。昼間積んで夜 走って,向こうで昼間に下ろすということになると,1台の自動車をどうしても2日間使うというこ とになるわけです。 それが200台です。あんな小さな研究所で200台ですから,これは容易なことではございません。と にかく 47年3月に筑波に研究所の本部を置くということになったものですから,急ピッチの移転をし まして計画どおり3月には全部移転を完了いたしました。 いろいろな研究設備や機械等の整備,すえ付けとかありますので本当に動くのはだいぶ先だろうと いうことでございました。 そうしたところへちょうど皇太子殿下がいらっしゃるという内命であって,それまでにぜひとも装 置を動くようにしなければと,みんな一生懸命整備したわけでございます。 ちょうどそのころ,47年5月16日に竣工式をやりまして,このときは木内大臣をはじめ皆さんおい でいただき,樽の鏡を開いて升酒でお祝いしたのですが,それからちょっと後,皇太子殿下がいらっ しゃるという知らせを受けたのです。 そうしたら突然山内先生がご退官になってあとは私がやるようにということでございました。ちょ うどもうレールが敷かれまして,汽車がちゃんと動くようになりましたので,末野先生や坪井先生, 梅沢次官などの方々からみると,まったく私のロードは全然問題にならないほど軽いものでございま した。 皇太子殿下行啓については,非常に綿密に碓井さんが段取りをつくってくださいまして,その計画 どおりにやればいいので,本当に助かりました。無事にお迎えすることができまして,大変ありがた かったと思います。 そのとき,本当に因縁深いものでございまして,稲葉修大臣が文部大臣をなさっていらっしゃり, また首都圏整備委員長も兼ねていらっしゃいました。長官が中曽根大臣で,お二方お見えくださいま した。岩上知事のご案内でおまけに私どもの研究所でお食事を召し上がるということで,これは大変 でございました。 そして研究所の中をよくご覧いただきまして,大変印象深くお帰りになったように拝見いたしまし た。 そのころからもう少し研究所のいろいろなことを整備しなければというので,山内先生時代に懸案 になっておりましたいろいろな機械などが入ってき,あるいは購入いたしました。また建物は無塵棟 の建設に取組み,一方,汚染物質処理施設とか,排水処理施設というのをつくって,公害物質が外に 出なくするようにいたしました。これは大変お金がかかりましたが本庁のほうでよくご理解いただ き,できましたのは非常にありがたかったと思っています。 何かとなかなか大変でございましたが,移ってきました時分は住むことが非常に困ったことが多く ございました。長ぐつと懐中電灯がなければだめだというようなことでありましたのが,だんだん整 備されてよくなり,ようやく住宅から自転車で通えるような歩道をつけていただいたり,そのうちに だんだん道もよくなるというようなことで,生活環境もよくなったものですから,研究のほうにも皆 さん大変身を入れてやっておられますし,いろいろご援助などで厚生施設もできまして,みんな楽し くレクリエーションもできるようになりました。 その後,高温特殊実験棟の建物も完成いたしました。ちょうど49年度には茨城県で国体がありまし た。その国体へ天皇・皇后両陛下行幸啓の一環の事業として,無機材質研究所においでになるという 知らせを受けまして,これまた非常に驚きました。どうやったらいいか少しもわかりませんので,碓 井さんに方々に行って調べていただきました。 話に聞きますと,科学技術庁では天皇・皇后両陛下をお迎えするのは初めてなんだそうでございま す。碓井さんの心痛というのは非常に大変でございまして,しかしまた綿密に非常によくやってくだ さって,だいたい要領ができたわけでございます。 そういうところで碓井さんが急に原子力船のほうへ転任されることになりまして,そのあとに松原 さんがおいでになりました。松原さんがだいたいあとを引継いでやってくれました。 前の日までは大雨だったのですが,その日は天気がよくなりまして本当に幸いいたしました。御無 事に両陛下ともお楽しそうな感じでお帰りになりまして,大変ありがたかったと思っております。 そんなことで最近までずっときたのでございますが,研究員もしだいに増えまして,中には非常に いい研究ができまして企業のほうがぜひとも一緒にやってもらいたいというようなものもできてまい りました。こういうのもみな山内先生はじめ研究所の所員,事務一緒になって一生懸命やってきたの が今になってようやく花が咲き始めたということだろうと思います。 それにつけましてもこの無機材質研究所設立のころから,山内先生,坪井先生,末野先生,梅沢次 官といった方々の並み並みならぬお骨折りをいただいたので成果がいまになってだんだんでてきたと いうことでございまして,所長として非常にありがたく思っているわけでございます。 今後ともいろいろお世話になると思いますが,どうぞひとつよろしくご支援のほどをお願いいたし ます。 当初の構想と現状 司会 このようにして誕生しました無機材質研究所も来年はいよいよ10周年を迎えることになりま したが,当初の三先生のご構想からみて現状はいかがなものでございましょうか。 最近,行政管理庁や大蔵省へ増員や予算説明にまいりますと,基礎研究所という性格はよくわかる が,単に自然現象を解明するという大学の理学部とは,例えその研究のやり方は同じでも目的意識が 違うはずだ,無機材質研究所と産業界との結びつきはどうなっているのか,また研究成果がどのよう に我が国の産業に効果を及ぼしているのか,というような説明をよく求められます。 これらも含めまして,一つご感想をお願いしたいと思います。坪井先生いかがでございますか。 坪井 そういうことは日本に限らず外国でもしばしば問題にされているようであります。現にワシ ントンのジオフィジカル・ラボラトリーあたりでも,そういうことが問題になることがあるとみえ, あそこの所長のヨーダー(Yoder)が1972年から73年にかけてのアニュアルレポートの巻頭に,いまの 問題についての所見を述べています。その所見が,私の所見と一致しております。ヨーダーさんは 「明日の必要というものをだれが予言できるであろうか」といっています。そのあとに,一見実用の わからない研究題目を並べてありまして,「そういうようなことからどんな実用が由来するか,それ をだれが予言できるであろうか」と述べています。一見しては応用と無関係のように思われる研究で も,実際にはいま目先に応用のある研究よりも大切な応用上の寄与があり得るのだ,ということを強 調しているのであります。それに関連してあの研究所の前所員であったヴァンナー ・ブッシ(Vanner Bush)の言葉がそこに引用されているのです。その言葉を原文のままで引用させていただきます。 それは,「If what you are doing to-day can be used by industry now, you are not far enough ahead in either theory or experiment.」 というのです。 念のため申し添えますが,私は,目先の実用をめざしての研究をいけないというのではありませ ん。それも大いによろしい。しかし,たとえ実用を目的とする場合でも,一見実用の見通しがない研 究であるからといって,それを排斥してはいけないというのです。何の実用もなさそうにみえる研究 に,かえって実用上はるかに重要なものがしばしばあるということを認識してほしい。ことに無機材 研では,目先の実用の有無にかかわらず,基礎的の研究を奨励したいと望んでいます。それが,無機 材研に好ましい特質の一つでもあると思います。 司会 山内先生,一つこれにつきまして……。 山内 国の研究所には一つの目的があるわけですが,無機材質研究所はその目的が無機材質の研究 をして,いい材料を作るということにあるわけですね。情報を提供しようということでございます。 しかし研究所というのは,さっき確か申し上げたかと思いますが,いい人材を得ることが第一で, いい人材を得てそこに金をつぎ込むことが,研究所として一番いいだろうと思います。 いままで研究所では人材の育成には意を用いて,皆さん気をつけてこれらたわけであります。また 施設・設備もよくなってまいりました。また研究成果も非常にたくさん発表されて,世界的に認めら れる研究所になったことは,非常にうれしいことであります。 今では研究面でも業界にいろいろな刺激を与えておりますし,情報も提供しております。特許その 他もいくらかでてまいりました。くよくよしないで,あせらず真剣に研究に取り組んでもらいたいと 思います。 ただ一つここで,今の研究成果はどうかという,その成果というのはおそらく実用的な成果を意味 していると思います。これはやはり研究所として,サイエンスだけの研究所といえばそれまでですけ れど,科学技術庁にある以上は国の金を使っているわけですから,何かやっぱり国民のため,人類の ために役立つものをだすことは必要です。 その考えだけは研究所員みんなが頭に置かれまして,そのうえで一生懸命研究に熱中してもらえ ば,おのずからいろんな成果が生まれてくるものだと思います。 だけど,そうしろといってできるものではないし,研究者自身が自分の研究成果はなるべく役に立 つようにこれを使っていきたいということも心がけるように仕向けていくことも必要ではないかと思 います。 司会 ありがとうございました。では末野先生,一つ。 末野 両先生のお言葉どおりでございます。現在もよく,設立の趣旨のとおりにおおむねうまく運 営されているのではないかと思っています。成果も上げていると思っています。 ただ利用の面に直接成果がでていることはまだ少ないかもしれませんけれど,それは現在でている ものは将来にまた役立つものでありますから,現在,皆さんの大変なお骨折りでいい研究所になって いると思います。 司会梅沢先生,一つ。 梅沢 今の問題などは建設当時は行政管理庁なり大蔵省なりとのコミュニケーションがよいが,こ れは仕事でつながっていくんですけれど,一段落つくと疎遠になりがちなんです。それはやはり相手 に見せるなり聞かせるなり度々してゆくということがいちばん大切ではないかと思います。基礎研究 だの,応用研究だの,実用化がどうだとか,形式的に言ったってわからないので,年中実体を説明し ているという態勢が必要だと思うんです。まだ開所10年でしょう。中学生になったか,ならないかぐ らいで,しかもまだ研究所の中の先ほどからでているグループ内の協調のあり方も確立中ですし,田 中さんがやっておられるグループ・リーダーの立場というか,動き方というか,それもいま確立しよ うとしているところでしょう。まだできたてのホヤホヤで,これからなんだと思うのです。 もう一つは,そろそろ研究成果がおでになっているというけれど,これの情報提供のあり方という ものもそろそろ検討することでしょう。要するに公共的という立場というか研究者個人個人の情報提 供というものがいいのか,あるいは研究所としての情報提供のあり方がいいのか,その辺のところは もうそろそろお考えにならないといけないような気がします。 それから,こういうグループ制の研究所は研究者のお互いの協力と信頼だと思うのです。そうする と,どのくらいの陣容まではそれが保てるのか,一つご検討いただきたいと思います。例えば300人 くらいなのか,要するに15グループできて,今度は増強になりますけれど,あまり大きくなるとまと まらなくなるかもしれませんし,先駆けてお考えになっておくほうがいいんじゃないかという気がし ます。 所員への希望 司会 私ども所員といたしましても設立の精神にのっとりまして,何とか一つ立派な研究成果を上 げるよういっそう努力したいと考えておりますが,最後に一つ所員に対して心づもりのようなものと か,あるいはご注意などを,諸先生方から一言ずつお願いしたいと存じます。 坪井 そういうことに対しては,私からは何も申し上げることはございません。 山内 私もありませんが,研究というものは皆さんご承知のとおり一つの創意(アイデア)がでて まいりますと,そのアイデアに対して協力する。共同でやる。そうして適当なスポンサーをみつけて 伸ばしていく。これが進め方だと思うんです。 そういう意味で,いいアイデアがでてきたらだれかまわずそのアイデアを伸ばすという方向で進め ていただくことが必要ではないか。たくさんの研究の中にはいいものがあるに違いないと思うんで す。それをみんなで見つけて,そのアイデアを伸ばしていくように努力されることが必要 ではない か。 なお研究者にお願いしたいのは,あんまりがんばらないで,自然発想とさっきおっしゃったけれ ど,心緩やかにという意味も含んでると思いますが,自分のペースに合った,長続きのするような方 法を考えて,じっくり研究に専念してもらいたいということを希望いたします。 司会 ありがとうございました。では末野先生,何か一つ。 末野 同じことでございますが,この研究所は設備としては日本では新しいものはみんな入ってい ますし,一番立派な設備ではないかと思います。ぜひこの設備を大いに活用して,いい研究ができま すように,皆さんひとりひとりが日本の一流の学者になってもらいたいと思います。 司会 ありがとうございました。では梅沢先生。 梅沢 要するに三先生方ほか諸先生が一つの考え方をおだしになって研究所が始まり10年たちまし たが伝統はまだでしょう。早く研究所の伝統をつくっていただきたいと思います。 それから不況の現在,これから先研究所は苦しくなると思います。よっぽどここでがんばっていた だかないと……。 一段階増強というのはとても難しいですから,その辺のご苦労をお願いしたいと思います。 司会 碓井さん,何か一つご提言などございましたら。 碓井 私は研究のほうはよくわかりませんけれど,企画課長も今度で四代目になりますか,特に私 ら事務方として心掛けておりましたのは,研究所の中ではいろいろご意見があって,トラブルがあっ たり,活発な意見を交換するのはいいんですが,外部に対しては一本にまとまってやるということが 非常に大切だと思います。 無機材研が大変皆さん方からご理解があるし,ご協力いただけるというのは,外部に対して信用が ある。しかも一本にまとまっているのが非常にいままでよかったのではないかと思います。 司会 鈴木さん最後に何かひとこと。 鈴木 各先生がおっしゃったこととまったく同感です。そういうふうにしていけば非常にいい研究 所になることは間違いないと思います。 ただ,非常にいい仕事をしても専門にかたよる傾向がある程度でるのが普通ですが,しかし学際的 というか,いろんな分野でいろんなことができるように無機材質研究所の組織はできているので,そ ういう点を大いに活用することも一つは必要でしょう。それはグループ制度の一つの非常に大きい特 色だと,私は思っております。 これは同時に無機材質研究所だけではなくて,せっかく筑波研究学園都市というのを科学技術庁を 中心にしてやっていらっしゃるわけですから,そういうものを利用して,広くいろいろなところとの 連絡もよくしながらやることによって,もう一つ別の面からの進歩があるだろうと,期待しておりま す。 司会 どうも長時間にわたりましてお疲れのところ,いいお話を伺わせていただきまして大変あり がとうございました。お話を伺いまして諸先生はじめいろいろな方のご努力と御力添えによって無機 材質研究所ができたとことがよくわかりました。私ども,なおいっそうの努力をいたしたいと考えて おります。 最後に田賀井所長からごあいさつがあるとのことでございます。 田賀井 本日はお忙しいなかをわざわざこの無機材研のために時間を取っていただきまして,そし て,私も初めての珍しいいきさつを拝聴いたしまして,大変興味深く,またこういうことをしてくだ さってこそ無機材研が今のようになったんだということをヒシヒシと感じているのでございます 。 本当にありがたく,心から御礼を申し上げる次第でございます。今日こういう機会を持ちまして, 今更ながら我々の任務が非常に重大だと思って,これからも一生懸命努力するつもりでございます。 どうぞよろしくご支援のほどお願いいたします。 何か,これからご相談を申し上げることが再々あると思うんですが,どうぞよろしくお願い申し上 げます。大変どうも今日はありがとうございました。御礼申し上げます。 井荻時代の思い出 岡山理科大学教授中 平 光 興 (元総合研究官) 「さて手ごろの喫茶店はどこ?」西武線井荻駅を降りて徒歩5分,借家住いの研究所の周りでまず 初めに気になったのがこれ。 基礎研究パネル,検討委員会と道をたどってやっと創立された私達の無機材質研究所は,その仮り の住いをこの井荻の(財)機械振興協会技術研究所跡を借りて出発した。山内所長を始め碓井,渡部氏等 を中心にした事務陣営,田中,岩田氏等約10名の研究員,研究室は門を入ってグルッと回って行った テニスコート横のガランとした広い一階の建物,恐らく工作機械のあったところと思われた大部屋, それに続いてやや小さな部屋,そこは一応研究員の部屋であった。事務室は門を入ってすぐ左側の建 物,二階の大部屋にちゃんと机を並べると一応立派な格好がつき,現在筑波で総務課長をしている松 原氏等の声が聞えた。小人数で出発したこの研究所,それは同時に一つの家庭的な雰囲気を持った集 団でもあった。それを象徴するかのようにこの建物の二階には畳敷の部屋があり,所員会議,面接等 はここで内心一杯やりながらぐらいの気持で行われた。現在,筑波にいる研究員の中にはこの畳敷の 部屋で面接された思い出のある人もあろう。 ここで出発したのがSiC研究グループである。研究所の建設はいろいろと設備が整って研究が始ま るというのではなく,仕事を通じて建設して行くという筋のものだが,何しろ完全に零から出発した 我々にとって,最も必要な日常のナベ,カマに類するものの皆無なことは大変な困難であり,SiC研 究グループのリーダーを引受られた田中広吉氏やグループ員の苦労は今からでも想像にあまりある。 まず始められたのが鈴木弘茂氏を中心にしたカーボン抵抗炉の設計,製作で,これは翌年駒込に移る 前に前述のガランとして大部屋に据付けられたと記憶する。この炉は,こうした無機材研の研究の歴 史の第一歩を踏み出したものであり,その後のその実績と共に所の歴史に深くその足跡を刻み込だも のである。私の記憶するところでは,この当時入ったもう一つの大型機器はX線ディフラクトメータ ーで,現在筑波の三階で活動している。 井荻時代の大きな仕事,それは事務方面ではまず何よりも研究所の事務体系の確立,翌年更にその 翌年への準備,そうしたこととからみあって日常のこまごました出来事,それらが少数の人員によっ て処理されて行かねばならなかった。それは未来の大研究所の夢とロマンティシズムに支えられた苦 労なのであった。研究方面でも同じこと,研究所が一つの新しい型の無機物質研究所としての理想を 掲げて出発した以上,その具体化のための第一歩は何か,グループ研究とは何か等々,日常の研究に 常に頭にこびりついてくるのであった。私自身将来に目標を置いた物質の基礎研究の体制としてのグ ループというものの真にあるべき姿というものがどうやらわかってきたように思い始めたのはそれか ら一年余りも経てからのことなのである。 所員会議はこうした現在,将来にわたる大綱の議論とともにそれとからみあってすぐ翌年にも取上 げて行くべき研究目標の決定が急がれた。パネル当時から考えられたいろいろの物質体系,またすぐ に得られる研究者等々の兼合いをも含めて,SiCに引続きBeO,VO2及びAlNが取上げられたのはこ のときである。グループ名は番号で呼び,物質名はカッコに入れるというやり方は研究所のあり方と いう問題に関連してこの当時習慣付けられたように記憶している。 創立期の家庭的な雰囲気,それは皆での泊り掛けのハイキング,その他,今でも鈴木淑夫氏のアル バムに克明に記録されている。私は赤提灯には無縁であるが(それは碓井さんに聞いたらよい),毎 日電車で隣りの鷲の宮駅のところまでコーヒー恋しさに行くこととなったのである。 松原勝定 (総務課長) 私の無機材質研究所との出会いは,昭和40年4月からの非金属無機材質基礎研究所設立準備室,同 41年4月から,43年11月までの井荻・駒込庁舎時代の3年有余の期間であり,そしてこの研究所が創 設以来の目標としていた15研究グループの完成間際に再びこの研究所にお世話になることとなったこ とは,本当に感慨無量といったところです。 設立準備室発足当時の昭和40年は,ちょうど現在の諸情勢と似通った財政事情で高度成長とかのあ おりを食って日本経済は不況の最中であり,政府の予算要求に対する方針は機構の新設(局や公団公 社)は一切認めないとする考え方を打出していました。勿論,研究所の新設などもこの考え方に含ま れていました。 私達準備室員3人(渡部有造,鈴木淑夫)は,諸般の状勢を判断して研究所の設立はいささかあき らめの心境で,あと1年は留年の浮き目に会うのではないかとさえ考えていました。幸いなことに坪 井誠太郎,山内俊吉,末野悌六の諸先生,並びに当時計画局長であった梅沢邦臣元次官のなみなみな らぬお力添えによって無機材質研究所が誕生したのでした。この無機材質研究所という名称は,当時 設立計画に参加された研究検討会のメンバーや,その他関係者によるアンケートの結果から最もよく 研究所の性格を現すものとして決定されたのでした。そして昭和41年5月10日杉並区の井草にある(財) 機械振興協会技術研究所の仮庁舎に移転するまで虎の門にある文部省に間借りしている科学技術庁の 一隅で過したのでした。そのころ,科学技術庁は,初代所長として山内俊吉先生(元東京工業大学 長)の出馬を何回となく懇望し,先生も三顧の礼を辞しかねて遂に御就任がようやくにして得られた ということでした。このことは現在,当研究所が,ますます発展の一途をたどっていることも先生の 人格とそのひたむきな仕事に対する情熱の賜物だと感謝せずにおれないと思うのは私一人ばかりでは ないと思っています。 昭和41年4月1日,当時の陣容は9人の小人数で形だけは1人で二役も三役もという事務体制でし た。 所長 山内俊吉 (SiC) 研究グループ 総合研究官 (併山内俊吉) 主任研究官 岩田 稔 主任研究官 鈴木淑夫 企画室長 渡部有造 専門職 松原勝定 企画係長 (併渡部有造) 業務係長 (併渡部有造) 総務課長 碓井 求 課長補佐 (併松原勝定) 庶務係長 (併松原勝定) 係員 森下久美子 運転手 湯本久光 経理係長 長谷部成夫 昭和41年5月10日,無機材質研究所は(財)機械振興協会技術研究所の一部を借用して小人数ながら曲 りなりにも業務を開始出発しましたが,庁舎の周辺は麦畑が多く通勤の途上にはひばりがさえずりい かにものどかで私達の晴れの門出を祝福するかのようでした。SiC研究グループ,企画室,総務課の 全職員がすべて同じ部屋で執務の状況でした。総務課の背中合せの私のすぐ後には衡立で囲った所長 室があり,山内先生には気の毒なばかりの所長室でした。私の大きい声が先生に聞かれていて,「あ なたはいつも厳しいことを言っているね。」とよく言われ,また「しまった。」と反省することしきり でした。 引越を終えてすぐの6月20日に,虎の門共済会館ホールにおいて,政界,官界,業界,学会等お世 話になった方々をお招きして研究所開所の披露パーティーを行い約300人の参会者があり非常な盛会 さでした。始めてのそして小人数での準備は並み大抵ではなく大過なく終ったときには所員一同ほっ としたほどでした。 このころの所員会議やら職員の採用試験等は会議室と称して日本間に机を並べて行われ,とにかく 暑かったことだけが記憶に残っています。小人数のために家庭的な雰囲気があったことは確かで,初 めての親睦旅行を山内先生の図らいで秋川渓谷探訪としゃれこんで一泊旅行を行い,全員参加して盛 会であったことは今でも懐かしい想い出の一つです。現在の親睦会のはしりとでもいうべきでしょう か。 この1年間の井荻時代は「貧乏ひまなし」の感があり碓井総務課長,渡部企画室長を初め,田中, 岩田,鈴木等の各研究官は専ら研究よりも,研究所の体制づくり,運営づくりに追われがちの毎日で した。特に外部から,併任研究官として定永両一先生(東大教授),斉藤進六先生(東工大教授),鈴 木弘茂先生(東工大教授)等の絶大なる御支援は研究所としては忘れることはできないでしよう。 井荻生活も1年経過後の昭和42年5月10日,2~3年先に建物が手狭となることが予想されたの で,再び駒込にある(財)放射線同位元素協会の研究所跡に引越たのでした。 駒込時代の思い出 前田明男 (総務課用度係長) 私が昭和43年7月に当研究所に転勤してきたときは,ちょうど,本館の建物を関東財務局から借用 し,電気,ガス,水道等の設備が一切なく引越たときであった。建物は,木造一部鉄筋2階建延べ 3,800m2の内,2,200m2であり,戸締りはうまくできず,雨漏り,床板は諸所腐っているというひどい 状態でした。私の仕事は用度係で,物品の計画,管理,取得,保管,供用,処分に関すること及び国 有財産の管理,維持,営繕に関すことであり,思い出す事柄は後者に属することが多かった。 錠が締らない,戸の建付けが悪い,床に穴があいたなど少々の仕事では大工さんもきてくれず,私 がその都度補修して廻り,また,装置のスイッチを入れても通電しないとの連絡があり調べると,配 電盤のスイッチが入ってなく,点検もせずに修理を依頼するということが何度もあったように記憶し ています。 約1年後には,人員増に伴い受電設備の新・増設の要望が膨大となり,各研究者と最少設備で工夫 したいと話合ったが,私の説得力の乏しかったせいもあり要望どおりに既設設備の数倍もの設備施工 をしたところ,実際には設備量の十数分の一しか使用していない現状であったこともあった。一方, 関東財務局から更に建物を延べ900m2追加して借用した。この大部屋の間仕切りについて,「各所修繕 費」の予算科目で鉄製書庫,重戸棚��等を相当数購入してこれで間仕切りを行ったところ,会計検査の 際注意を受けたが,間もなく筑波研究学園都市に移転することでもあり経済的事情等を種々説明した 思い出もある。 なお,施設等の保守員がいなかったため,保守点検等が手薄になって時々トラブルを起し,その都 度田中高穂さん,田中耕二さんに修理をお願いし協力頂いたことも忘れられない一つである。 本館の西隣に文京区立の幼稚園が有り,夏季にはプールで若い女性の先生の水着姿を窓越に見なが ら研究を行っていたグループもあり,うらやましかったことを今思い出します。時々,そばの交番か ら研究所の自転車が届いているから引取りにくるように電話があり,あやまりながら引取りにも行っ た。これは職員が食事のため使用して置き忘れたものであったらしい。 さて,かねてから計画のあった本館の建物の1/3の解体撤去工事が昭和45年11月から始まることにな り,これに先立ち4月ごろから準備にとりかかった。2年後には筑波研究学園都市に移転することに なっているので,可能な限り経費を節約して施工する計画を立てた。解体撤去部には地下受水槽,屋 上水槽,ポンプ室等があり,その移設,新設及び電気,水道の配線,配管替え,撤去部と既設部の補 強間仕切り等ぼう大な工事量である。 40トンの受水槽の新設については,経費節約上から,私がブロックを積んで造ることにした。素人 が力学計算もせず,ただ永年の経験をたよりに造るのであるから,完成後も研究所の人から水漏れ, 崩壊が見ものであるといわれ,地震のたびごとに心配した。どうにか昭和47年2月に筑波研究学園都 市に移転するまで無事にその目的を果すことができたのを非常にうれしく思い,懐しい限りである。 筑波研究学園都市においては,比較的新しい施設が多く,駒込当時の老朽化した建物などを知る人 が少なくなりつつあることは一抹の淋しさを感じざるを得ない。 田中高穂 (第12研究グループ研究員) 昭和42年に若手第一期生8人の内1人として無機材研に採用され,約1ヶ月ほどの研修を終えてか らまだ井荻にあった研究所にいって最初にやらされた仕事が駒込への引越でした。その前に駒込の建 物を下見にいったところ,床におよそ1mくらいの高さでガス管やら水道管やらが10本ぐらいも林立 している。これはどうするんだろうと心配したものの,私達が手を出すことはなく,事前に処理されこ のほうは問題なかったわけですが,移ってからそれなりに実験を始めてからが大変,水道施設が老朽 していて,何かといえば断水になる。不幸(?)にして当時岩田さんと同室であったために,岩田さん に「研究者が自分の研究環境に支障が起ったとき,自分で修理もできなくてどうするか。」という言葉 にしったされ,何度か水道工事の真似事をやらされました。今は管財係に苦情をいってゆけば済むわ けですから随分と楽になったものです。その中で一番記憶に残っているのは屋上の水タンクの清掃で す。中に入って洗うことになり,はしごも何もないタンクの中に狭い入口から入るということになる と,身長及び体の断面積を考慮した結果私が中に入ることになりました。初夏のかなり暑い日だった のに,10分も中で洗っていると体の心まで冷えてくるようで,水を抜いた屋上のしかも日に照らされ たタンクなのにどうしていつまでもこう冷いのかと恨めしく思ったものです。しかしこういった苦労 のおかげで,それ以降も断水はやはり時々起ったのですが,水が十分ある間はふくらんでいたこのタ ンクが,水のなくなると同時に「ボン」という音をたててへこむのを,一階の実験室の中でも確実に 聞きわけるようになりました。だからその音が聞えるや,拡散ポンプのヒーターを消したり準備おさ おさおこたりなしというわけです。約5分もすると急に廊下が騒々しくなり「断水だ」と皆が右往左 往するころは涼しい顔をして本を読んでいました。こういう苦労はしてみればそれなりに何か役に立 つものだと感心したことです。実際,筑波に移って,炉の設置のときにほんのちょっとした水道工事 で,外注すれば,人夫賃ばかりになるといったものは何の苦もなくこなせるし,一方で同じような工 事を管財係に頼みそれだけではやれないからついで待ちとかいわれ,手をこまねいているのを見てニ ヤニヤしていれるのもこのときの訓練の成果のようです。 上村揚一郎 (第3研究グループ研究員) 駒込時代の研究所における生活で,最も印象に残っているのは,何といっても庁舎であろう。最初 は,小ぢんまりとした2階建の建物で,庭には芝生があり,その庭を囲むように桜の木が植えられて おり,春の満開のころともなれば,近くの人々も見物にくるほどのものであった。ところが初動期 で,年々膨張を続けた研究所は,ついにこの建物だけでは,入りきれなくなってしまった。そこで50 mほど離れたところに在った,取壊し寸前でもあったらしい建物にも入ることになった(この庁舎を 借りるについては,大変な御苦労があったらしいが,その点には目をつぶって,客観的にながめさせ て頂くことにする)。 この建物は,現在の冷暖房完備の近代的な建物とは,およそ掛け離れたものであった。建物自体は 昔のものらしくガッシリしていて,かなりの広さがあり,いかにもがん丈そうであったが,一歩中に 入ると,窓はガタピシで,天井からはコンクリートの破片がぶら下がりといった状態であった。夏は 風通しの悪い部屋で,汗をフキフキ我慢会。冬は近ごろ珍らしいダルマ型石油ストーブで暖をとっ た。寒い朝,ポリタンクを持っての灯油扱みはなかなか大変であった。少し広い部屋では,ストーブ が赤くなるほど灯油をたいても,すぐそばしか暖まらず,そのため,自然,ストーブの周りに集まる ことが多くなり,親睦を深めるには有効だったようである。今から思えば,このような当時つらかっ たときのほうが,かえって壊しく思い出されてくる。 筑波移転の思い出 宇宙開発事業団 プロジェクト管理部次長 寄水義雄 (元企画課長) 私が無機材質研究所の企画課長として奉職していた昭和43年5月から47年4月までの4年間は,私 の25年にわたる役人生活のうちで最も充実した毎日であったのではないかと思います。というのは, 昭和37,8年ころ,研究所の設立構想を科度技術庁が検討し始めた段階からこれにタッチしたこともあ って,グループ研究体制などの特色を生かしつついかにして斬新で活気に満ちた理想的な研究所とし て発展させることができるかという夢があったからだと思います。 この4年間には,いろいろなことがありました。駒込の庁舎に初めて出勤した日,国電駒込駅から の道程が随分長く感じられたこと,庁舎の階段や廊下を歩くたびに大きく軌み,また部屋の床板が部 分的に抜け落ち,よく総務課の前田さんに修理してもらったことなどが懐かしく思い出されます。 しかし,何といっても忘れることができないのは,筑波研究学園都市への移転です。 無機材質研究所は,設立当初から研究学園都市に研究本館を建てる計画を持っていたわけですが, 都市としての道路や住宅などの整備が遅れたために,研究所の庁舎建設計画がなかなか実現しません でした。けれども研究所が総力をあげてこれに取組んだおかげで,ようやく昭和45年度から研究本館 の建設に着手でき,46年の秋に完成することができました。この計画を推進していく段階では,予定 敷地内における建物配置や建家構造などについて数多くの意見が続出し,これをまとめるのに苦労し ましたが,なかでも計画立案の中心であった長谷川(安)さんの獅子奮迅の努力には感謝の言葉もあり ませんでした。 そして,昭和47年3月から筑波研究学園都市の新庁舎で業務を開始することになりましたが,その 移転準備の最中に,研究所が排水しようとする水質について地元の一部に誤解が生じました。ちょう ど,47年の正月をはさみ12月から1月にかけての約1ヶ月間は,この問題を解決するために土浦の日 本住宅公団と水戸の茨城県庁へ山内先生の指示を仰ぎながら何回も足を運びました。幸い,日本住宅 公団の坂部さんや茨城県の高久さんをはじめとする関係者のご尽力によって円満に解決し,予定通り 移転することができましたが,一時は移転不可能という事態になるのではないかと心配し,冬の早 朝,駅のプラットホームで列車を待つときの寒さが特に身にしみ,何か惨めに感じたことを思い出し ます。 移転してからは,筑波研究学園都市への移転第1号の研究所ということもあって見学者が多く,総 務課長の碓井さんともどもほとんど毎日その案内に追われました。あいにく 3月から4月という時期 は強風が吹き荒れ,研究所周辺が整地中のためもあってものすごい土埃が立ち,洋服,ワイシャツの 類はもちろんのこと下着まで汚れる有様で,こんな日の見学者の案内には全く閉口しました。 また,排水問題で地元とトラブルを起してはならないという気持から,暇をみつけては排水処理施 設の周りをゴム長靴をはいて歩き廻り,その処理状況を監視しましたが,貯水池へ排水するホースを 動かすのには大変苦労しました。 今,創立10周年を迎え,15の研究グループも編成されて第1段階の目標は一応達成されましたが, 今後とも職員各位の努力によって第2,第3段階の目標に向って大きく前進し,単に日本の無機材質 研究所にとどまらず,世界における無機材質研究のメッカとなる日を願っております。 永田孝行 (総務課長補佐) 当研究所は,昭和41年4月,筑波研究学園都市に移転することを前提に科学技術庁内に設立され た。同年5月,研究業務開始のため機械振興協会技術研究所内に移転した。これが初回の移転であ る。第2回目は,一年後の昭和42年5月,駒込所在の科研化学(株)所有の建物(897m2)に移転した。 昭和43年3月には,更に隣接の国有財産(l,850m2)を追加借用し,研究業務の拡張と研究用機器の 整備を図るとともに,筑波における研究施設の建設に努力した。 昭和43年度から施設費が予算に計上され,昭和44年3月,高圧力特殊実験棟の起工式が筑波敷地の ほぼ中心部で行われた。その後,9ヵ月の工期を得て同年12月下旬に完成し,その引渡しを受けた が,当時は研究所が駒込にあり管理することができなかったので,取りあえず警備会社に管理業務を 委託した。翌年の1月から大型プレスの調整にはいり,6月には,駒込庁舎から3台のプレスを移送 し,暫定的ではあるが高圧力関係の実験が出張研究の形式で行われるに至った。当時は職員宿舎がな かったので,研究員は簡易ベットを並べた実験棟2階の一室を寝室に当てていた。日々の食事は自炊 といった具合で非常に不便であったが,研究員達の顔にはその不便さは見られなかった。私達が出張 して,昼食時に駅弁をひろげると,特製の暖いミソ汁をご馳走していただいた。 一方,このころ,駒込庁舎では研究本館の基本設計に着手していた。また,移転経費の予算要求時 期でもあった。 総務課では移転に伴う予算要求事項について打合せを行い,各係は必要経費の見積りを行ってい た。移転時期としては,研究本館が完成する昭和46年10月と予定され,本格的な移転準備に取り掛っ た。昭和45年9月,10月にかけて,移転可能な前提条件があげられ,関係機関へ要望された。この中 で特に,(1)宿舎の完備,(2)生活必需品の売店確保,(3)教育機関の受入体制の確立,(4)交通機関の確 保,(5)電話の架設,(6)医療機関の確保,(7)郵便局の設置,(8)保育所の設置,(9)周辺道路の整備,(10)電 気,ガス,水道の確保,(11)排水の流出等が生活環境の移転前提条件として強力に要望された。12月2 日,研究本館の建設工事が開始された。研究本館の設計に当っては,研究所のマスタープランはでき ていたが,予算が要求に追従しないため,このプランを変更せざるを得なかった。また,研究学園都 市にふさわしい建物という所員の願望もあったので,長谷川建設委員主査をはじめ,建設委員の方々 のご苦労が多大であった。 昭和46年8月,部屋割委員会が設置され,岩田委員長のもと,部屋割基本方針がまとめられるとと もに,部屋割の協議が重ねられ,同年11月,部屋割試案が決定された。研究本館の建設は予定どおり 10月末に完成したが厚生施設(医務室,理髪室,食堂)が完成せず,しかも,職員宿舎が建設中であ り,12月末に完成するということで,10月の移転が不可能となり,11月の所員会議で移転時期を昭和 47年2月に変更された。12月に入って,総務課では移転事務手続きが始り,赴任旅費の計算,宿舎入 居手続き,備品数量調査,移転計画,作業日程表の作成等の作業を行った。昭和47年1月の所員会議 で,2月移転が再確認されるや,移転作業は急速に進められた。まず,各室の移転責任者を決定し, 作業心得,ラベルの記入方法,備品配置図等,物品を安全に能率よく運送するための資料を作成し て,その説明会を行った。 2月1日,運送請負契約が日本通運(株)東京支店との間で成立し,事務庁舎2階の会議室に移転本部 が設けられた。2月2日~7日までは移転準備期間として,実験機器の配管及び配線の除去,水切, 筑波庁舎における備品配置床実測表示が行われた。2月8日から梱包作業を始め,14日からトラック で搬出された。 筑波庁舎では,15日から荷物が搬入され,開梱,すえ付け,調整が行われ,予定どおり29日には運 送作業が完了した。運送に使用したトラックは130台を超えたが,昼間に積載したトラックは,その 夜は都内の営業所で待期し,翌朝,筑波庁舎へ向うように手配されたこと,研究所としては不便であ った本館と別館が離れていたことが,かえって運送作業を非常に能率よく進め,混雑を避ることがで きた。精密機器,大型機械(解体,すえ付け,調整を要するもの)については,機器の納入業者が運 送した。その数は12社もあったが,作業日程どおり作業が進み,業者間のトラブルは生じなかった。 運送中の破損については,ガラス器具等9点あったが,これらは同等の現物で補給した。昭和47年3 月1日,正式に官報で移転が報告され,研究所の所在地がはじめて固定された。3月は職員の花室住 宅への引越であった。毎日数台のトラックが住宅の中へ到着したが,職員の自発的な協力を得て短時 間で荷物が室内に搬入され,夜ごとに窓の灯りが多くなり,新しく団地生活が始まった。研究所の方 では,4月から研究所本来の機能を平常化すべく庁舎周辺の整備及び室内設備の整備が重点的に進め られた。4月7日,庁舎竣工移転記念行事についての会合があり,式典を5月16日に行うことが内定 された。その後,業務分担等が決められ,各班ごとにその準備に取り掛った。 5月16日は,朝から強い西風が吹いていたがよい天気で,多数の地元招待者をまじえ,庁舎竣工移 転記念式典が午後1時30分より大会議室で行われ,引続き1階のロビーで披露宴が行われた。当所 は,これを機会に本格的な研究活動を始めた。当所が設立以来,10周年を迎えるにあたり,研究所の 移転について,経過的に記したが,筑波への移転は,当所職員の積極的な努力の結晶であり,今後の 努力を期待する。 長谷川安利 (第3研究グループ主任研究官) 毎日が楽しい一日であった。筑波に研究本館を建設するという大きい夢と希望があり,当時は今と は比較にならないほど交通が不便であったが,美しい自然ときれいな空気につつまれた理想の場所と 思えた。昭和42年4月所内に建設委員会が設けられ,当時企画課に兼任として在籍していた関係で本 館の建設のための各種要望事項のとりまとめなどをやらさしていただいた。実際の設計の段階で関東 地方建設局の技術屋さん達と随分いろいろと議論し楽しい一時であった。一番頭を悩ました問題はな んといっても排水処理の問題であった。この解決なくしては移転は不能であったのでタイムスケジュ ールとにらめつこしながら毎日を過ごしていた。昔小野田セメント(株)に在職時,体得した各種の技術 的処理工程をなんとかこの排水処理に応用できないものかといろいろ考えた末の処理法が,現在本館 敷地の一端にある処理施設である。この処理施設の良し悪しは別として,研究所の排水処理の一般的 解決法の一つとして広く世間に紹介されたことが,小生にとっては心の救いであった。今一つの問題 は工業用冷却水の給水問題であった。昔シャフトキルンの燃焼バーナー冷却水断水でかなりのダメー ジを受けた体験から, 所内の大型合成装置の断水時発生のトラブルをいかにして最小限の被害に抑え るべきかについてもかなり頭を悩ました。結果として高架水槽(別名ハゲナマの塔なるニックネーム を所員よりいただいた。)方式に落着いたが,本館完成以来学園都市の研究施設に必ず高架水槽方式の 工業冷却水給水方式をみるにつけ,この方式はまずまずであると考えている。研究本館の完成と同時 に部屋割委員会が設けられ,建物の機能を100%有効に使うべく発足し現在に至ったが,発足当時の理 想とは裏腹になかなか思うようにならないのが現状である。 最も悲しかったこと。 研究本館の部屋割のとき,ある研究員から「恒温恒湿実験室に電気炉を置けないようないい加減な 設計仕様をするとは何事か!」と怒鳴り込まれたこと。±0.1℃に温度制御するために,断熱材の仕 様をいろいろと検討したり,いかに熱負荷の変動を押えるかにあれだけ苦心し,やっと出来上った恒 温恒湿実験室に熱負荷の桁違いに大きい電気炉を持込もうとするその研究員の非常識さにあきれる前 に,自分自身がすごく悲しく感じられた。 最も残念なこと。 研究本館の玄関を毎日見るにつけ思い出すことは前所長の山内俊吉先生が無機材研の玄関は無機材 料でというお言葉に反し見事ステンレスでやってしまったこと。これについては今更,言訳の言葉も ないが,本当に申訳けないことをしてしまったと心から悔いている仕第である。これから小生が無機 材研に勤務する間,毎日玄関を通るたびにこのステンレス製玄関は小生の心に残る唯一の残念事とな るであろう。 最もうれしかったこと。 研究本館が完成し,始めて屋上に上って本館をながめたとき,全く感無量の境地を味わったこと。 いろいろと苦しいこと,悲しいこと,楽しいこと人生の一端を自由に存分に活動できることは本当 によかったと思っている。これには元企画課長の寄水義雄氏,前総務課長の碓井求氏の一方ならぬ御 配慮のお陰と心から感謝している仕第である。 福 長 脩 (第3研究グループ主任研究官) 研究所全体の移転に先立つ2年前に,筑波原野中の一軒家のように建てられた高圧力特殊実験棟 は,正しくは高圧力及び特殊実験棟と解すべきであった。昭和45年6月から47年2月に至る1年9ヶ 月にわたる実験項目は数多く,かつ興味深いものであった。特に7人のやや一癖ある研究員が合宿し た上で,外界から離れた原野に生活する際に生ずる種々の応力及びひずみの関係は精神心理学的な研 究課題として好適であった。 我々と外界を結ぶ一本の線の末端に大時代の手廻し電話器があった。幾度廻しても交換手が現れ ず,当初はいらいらしたが次第に慣れた。慣れたといえば,倉掛部落の外れにあった2, 3本のエン トツから発する強烈な臭気にすらも耐え得るようになった。 停電,断水は日常のことであったから,現在のようにトラブルが少ないのは不思議でならない。不 思議といえば,あのころは毎夜のように訪ねてくれた無数の愛らしい小さな虫達は今どこに消えたの か,彼らは窓のわずかなすき間から出入りした。終に無風流にも,訪問が好ましくない部屋の窓は空 気すらも通じないよう密閉してしまった。その報いだろうか,その部屋で実験すると,なにか胸苦し さを憶える始末であった。 食べ物の趣好に由来する潜在的な空腹感は,無意識のうちに蓄積し突然顕在化する。海外に旅行し て,ずっと異質の食べ物に接しているとき,ふとカツ丼などを口にすると,以後日本食ばかり欲す る。都会生活では毎日多数の,場合によっては一生に一度しか擦れ違うことのないような,雑多な人 間と接触しているが,前紀筑波時代はまさにその対極の状況であった。誰かまれに遊びにきてくれる と,かえって無性に人と会いたくなったものだ。 このような状況の中で,我々相互の信頼や友情に一時的な危機は確実に存在し,またその困難の中 から新たなしかもかなり強固な信頼感が生じたことも事実である。一見,問題が我々の立場と無縁に 存在していても,よく考え議論するに十分な孤立した時空系があったことは,その種の問題に対する 臭覚を育てるのに有効であったし,また議論のうちから,次第に他の人間を理解する習慣も得られた のではないか。前紀筑波時代も末期に近付くにつれ,小さな虫達は,奇妙な脚部を持つ巨大なは虫類 に駆逐されていった。は虫類の数は次第に増え,林の向うに動きまわる姿や,うなり声が聞えるよう になった。は虫類は泥を跳ね上げ,移動し,林をならし確実に支配する領域を拡大していった。我々 が孤立を感じたのは,もしかすると重大な錯覚ではなかった? 虫達にとっては,まさに我々自身が 駆逐する側の存在であった。開発と建設は更に巨大な生物体と類似している。このような変化の様子 は現在に至っても継続しているが,当時の変化は質的なものであっただけに印象的であった。 開発と建設が系として摂取し排出するものに対して関心を深めた真の動機は恐らく以上の事柄と関 係がありそうである。一見なに気なく出現した現象のうらに,さまざまの問題があり,人間関係や人 間と自然との関係が単純であれば一層その体験を通じてのみ理解し得る特殊な行動や心理があり得る という感が強い。 ある日,高層気象台の原野を草笛を作りながら散策した。鳥達が思いがけない近くから,ふいに飛 び立っていった。方向を失って,やたらと森の中の小径をたどったのは昨日のような気がする。あの 附近は今となっては,工業技術院の建設のために大きな鉄骨が林立しているあたりである。 学園都市全体が巨大な特殊実験場であり,その成否は実は我々の研究という作業の内容にすら,影 響を与え得るのだと思われる。 結晶祭発足のころ 雪 野 健 (第3研究グループ主任研究官) 無機材質研究所が準備室時代を経て,井荻において研究所として発足し,駒込・籠町への移転,最 後に筑波研究学園都市の倉掛に移転第1号機関として研究本館を建設,落ち着く経過を見ると,それ はあたかも,普通に見られる新婚から家を建てられるまでの過程に良く似ていると思われる。現実に は新しい製品を製造する会社の創立時代に例えられるほどに厳しい状況であったのかもしれないが- アパートを借り,所帯をどうにか持つことができ,子供が生れ,手狭になり,新しい家を借り,更 に,所帯が大きくなり,子供達も成長し,住宅地として線引きされた土地(上野から1時間,駅から 徒歩2時間,ガス・電気・上下水道・舗装道路なし,ただし,松林有り,四季の山菜豊富,筑波山・ 霞ヶ浦近し,人情厚し)を買い,ローンで家を建築して安住の地に落ち着き,車を購入し,増築し, 附近に家が建ち始め,環境が整備されていくのを待つ過程に例えることができると思う。 移転1回目の駒込庁舎は,筑波移転のための仮の宿で,研究学園都市建設の進捗��状況に,不安と希 望とを抱きながらの実験装置の整備と所内の移転の繰返しであった。物理・化学・鉱物等の理学系, 電気・金属・工業化学・窯業等の工学系の異なる専門分野の研究者が数多く入所した時期で,無機材 質とは,グループ研究体制とは,マテリアル・サイエンスとは,研究課題の選定,研究グループの解 散と研究の連続性との関連,教育の問題,予算制度,受益者負担等現在でも話題になる問題が研究懇 談会や諸々の会合で談じられた。 この時期は新しい装置が多く購入されたが,予算上の機器は生活に必要な「鍋釜」に変更されたも もの少なくなかった。そして,一丁の庖丁で野菜も魚も肉も切るようなことが多かった。また,手作 りの装置が数多く製作され,アングリ,アルミ板が多く購入され,古いところでは探せばあるよう な,抵抗,コンデンサー,ねじ,釘等を新しく伝票を切り,納品まで相当待たされ,身銭を切られた人 が多かったと思う。このようなことは新しく所帯を持った苦労であり,トラブルも多く見られたが, 事務の人々の理解ある処理により徐々に改善された。倉庫などはこの例であり,隣接している理研の 図書室と工作室,液化室等は多く利用された。X線,電顕等の装置,暗室等の共通あるいは共同で使 用されるものについての運営や拡充計画を話合う利用者会議や物性懇談会,合成懇談会が発足し,種 々のゼミや講演会も盛んに開かれた。 一方,親睦会によるバレー,卓球,ソフト大会等が開かれ,バス旅行などは特に楽しいものであっ た。野球,テニス,山岳,楽焼,音楽等の同好会が多く発足したのもこのころであった青々とした芝 生が丸坊主になるほど盛んに行われ,チェリーアウトなどの珍しいルールが作られた昼休みのバレー ボール,藪蚊に刺されながら帰ってきた理研コートのテニスなどが思い出される。また,午後3時に 鐘が鳴り,手のあいた人が集り,三友商会の1回10円のコーヒーを飲みながら,話合うコーヒーブレ イク,祝い事や花見,月見,雪見の宴等が懐しく思い出される。このような雰囲気で生れたのが結晶 祭である。 43年の9月末,石井(一)さんのお祝い事で,酒肴に呼ばれたときに提案されたのが,所全体の忘 年会としてのお祭りである。その祭りは日本的な神事の型式を踏襲することにし,神主には公的にも 私的にも期待される新婚早々の人が選ばれ,次回の祭りの委員長と委員は,委員長が独善的に決定 し,会の最後に発表することにし,自薦他薦の裏方が決定され,早速準備に取り掛かり,お祭りが盛 大に行われた。運営委員や客員研究官の先生方も参加され,予想以上の成功であった。これは完全な 運営がなされたという意味ではなく,所員の親睦を図る上に運営や催し物等が批評され,改善の提案 がなされ,次回への飛躍が約束されたことである。その一つの例として,会の名称が公募され,所員 の投票により,第2回から「結晶祭」と名付けられた。第3回には,巫女が選ばれた。第4回は筑波 移転のため,夏に行われ,近隣への挨拶も兼ね,桜村や倉掛の人達,OB等の当所に関係ある人達が 招待され,所員の家族も参加し,盛大に行われた。これ以後は,所員とOBのみで行われるようにな り,出店や演芸の重点の改善も行われた。 無機材研の建物を顧みて 日本原子力船開発事業団 むつ事業所次長 碓井 求 (元総務課長) つらく難しいと思われた仕事も,それが果されてみるとホロ苦いけれども,返って愉しい思い出と なってよみがえり,楽なことより苦しいことのほうが鮮明な記憶として残っている。 無機材研の創設は,し界の大御所である坪井,山内,末野三先生の御熱心なる御指導,御支援と当 時の梅沢計画局長の永い御経験と絶大な実行力の賜物である。 この方々の御活躍は,私らの伺い知る以上の事柄であるため,今回は,私なりに最も印象の深かっ た「研究所の建物」を主にまとめてみた。 〔まず建物〕 研究所の設立の条件として筑波研究学園都市に本格的庁舎を造ること。それまでの間,都内で適当 な建物を借りて業務を始めること。となっていた。 予算,人員,設備等は,研究所及びその理解者の努力により何んとかできるが,これを収容する容 物は,屋根があり,囲いが必要で,雨露がしのげるもの,これすなわち建物で,例え予算があっても 不動産問題は片づかず,しかも「適当な建物を借りる」ということは,相手があってこそ初めて実行 可能となる。 研究所設立の機運が熟し,諸般の準備も着々進んだ昭和40年秋,それはそれとして建物の‶メド" がないと最後の詰の段階で具体性に乏しい……という観点より,理研の跡地,又は国有財産で何処 か,と種々検討したがいづれも実現不可能のため,やむなく梅沢計画局長が,通産時代の縁故で,機 械振興協会技術研究所(井荻)の一部借用の話を進めて頂き,幸い設立までになんとか間に合わせ た。 同協会の専務理事堀合道三氏も元通産の方で,話の大筋は決めて頂いたため,私らは具体的にどこ の部屋ということや,貸借等事務的な面のみで比較的スムーズに進行し,昭和41年5月10日引越を完 了,早速当時の科学技術庁長官上原正吉先生の揮ごうによる看板を正面門柱に掲げ第一歩を踏み出し た。 〔井荻庁舎〕 初年度,1研究グループと事務部門を合せて21名という人数,家族的雰囲気の時代で,主として体 制,運営方法等土台造りに専念し,今後の進め方も併せて検討していた。 さて,将来の15研究グループ,人員400名を目指す第2年度の予想として少なくとも3グループの 増員を考えた場合,庁舎の追加借用というのが可能かどうか機械振興協会に折衝を重ねたが,同協会 側としても十分理解するが,他の機械業界団体よりの希望もあり,若干困難性が伴うとの答であっ た。 その後,初年度設備の購入に至り冷却水の需要が多量でとても機械工業関係を考えた建物では,賄 い切れないことがわかり,しかも借用中の建物で自ら井戸を堀ること,都市水道を引くには300 mぐ らいの工事をすることは,近く研究学園都市へ移る研究所として行うべきでないという結論に至っ た。 これらの観点より次の建物捜しが始まったが,その当時,山内先生は,「街を通るたびに,いろい ろの建物が目について,この内どこか借りられないかということが頭から放れないよ。」と漏らして おられた。 山内先生は,研究所の体制造り,優秀な人材を集めて頂くなど運営一般に気を使って頂く大切な方 で,所長とはいえ,建物等で御心配をお掛けするのは筋違いで,誠に申しわけないことでした。 どうしてもなければと,同先生が旭硝子(株)の首脳部に意を伝え,同社の研究所が移転した跡の鶴見 の建物を予定したときもあった。 〔駒込庁舎〕 その後,理研の跡を駄目を承知で一度聞いてみようと,当時既に同建物と敷地は,科研化学(株)に所 有権が移っていたので,同社に問合せることとし,幸い私の兵隊時代の班長殿がいるはずと電話した ら経理部長とのことで早速伺い意を伝えたところ「当社自ら理研の跡へ入る予定である。しかし敷地 内に別の団体があり,名称を放射線高分子研究協会といって約250坪ぐらいの建物を所有して,しか も近く解散することを聞いている。」という耳よりな情報を得,結果的にこの建物を借りるに至った。 その条件は,地主である科研化学が買取る。3ヶ年間無機材研に貸す。買収価格に見合う借用を払 うことであった。 結論は簡単であるが,これに至るまでの間(昭和41年秋より42年5月移転まで),山内先生,当時 科学技術庁藤井会計課長,それから科研化学藤枝総務課長,同協会代表者ダイセル和田野氏等と幾多 の折衝が重ねられ,また建物の借料改造費等今から考えますと要求通り予算措置を頂いた大蔵省主計 局担当の方々の暖かい御理解があったからこそ実現したのである。 昭和42年度3研究グループ人員32名の大巾新規増が認められた根拠としてこの建物問題も預かって 力があったと思われる。 〔駕篭町庁舎への進出〕 駒込庁舎が思いのほか狭く,大蔵省にはここ当分大丈夫という図面も出して置いたのであるが,実 際設備を入れて見てどうしようもなく,将来はおろか,昭和42年度の時点でも難しいということにな り,またまた次の建物を追加して借りなければならない事態となった。 昭和42年6月の所内会議で早急に次の手を打つべしという結果と相成り,その席上駕篭町小学校の 隣りが空いているのではないか? と。それではと調べたところ正に国有財産として存在している事 実がわかり,これぞ天佑と早速6月の某日,関東財務局へ掛合いに行ったところ,大いに有望という 卦がでた。 7月財務局内の機構改革があり,話が中途で切れていたので,7月中旬新ためて出掛けたところ, 「建物がなくどうして設立されたか。」まず最初の質問はこれであった。無機材研の設立の目的,組 織,人員等は勿論説明し,研究学園都市へ移転までの間の過渡的な手段ということも十分理解を示し てくれたが,「建物がなくて」という素人でも不可解に思う疑問であった。 担当の直轄財産第二課の遠藤課長以下とてもよい方で,「国有財産を国の研究機関が使用するのは 最も筋が通っている。」と内々漏らしてくれた。 しかし,同土地は既に文京区等地元より払下げて欲しいという陳情があり「これが先口なので頭が 痛い」のが真実だともいっていて,どう措置されるか軽々に予断が許されなかった。 私一人では荷が重く,山内先生にも御出馬願ったが,その際にも「なぜ学者先生が,このような御 心配をされるのか。」と反対に質問を受け汗顔の至りであった。 財務局としては,人員増が果して研究所の計画通り実現するか,筑波移転の見通しが不明である, 相当の期間居据わられるのではないか,などの疑問があるため,来年度予算の内示待ちとして,年内 は休戦となった。 昭和42年度の充員と設備もすえ付けられるに及びますます狭く,一日も早く追加使用が認められな いかとつらい毎日が続いたとき,「焦ってもしようがない気を長く持って時期を待つのだ。」と山内先 生に慰めて頂き,力づけられたのを覚えている。 待ちに待った予算の内示の時期がきて,昭和43年度2研究グループ22名の人員増が認められ,加え て高圧力特殊実験棟の建築費約2億が最終内示で入るという朗報が舞い込み,人員増,筑波問題につ いて一応見通しが得られたため,使用承認の方向に大いに進展し,国有財産関係審議会に諮問するな ど所要の手続を経,3月1日付をもって使用許可書が発行されたのである この間,地元の陳情のことがあり敷地の3分の1を文京区へ払下げ,その上の建物の取り壊しを2 年間猶予するという妥協案が生まれるなど紆余曲折もあったが約半歳にわたる陳情合戦の成果として 山内先生も「筑波移転問題はあるが,これで当分建物の苦労をしなくて済む。」と喜んで頂き,私も幾 分なりと御役に立ったと思うと感慨ひときわであった。 〔筑波への途〕 希望に燃え,研究所へ張切って入所された方々には,仮庁舎はあくまで仮りで,本格的に実験する にはやはり一日も早く筑波移転を実現されなければならなかった。 「筑波への道」という無機材研自作の映画があるが,映画はともかくとして,この道は担々たる道 でなく,自ら切り開き,自ら地ならしをして進まなければならなかった。 したがって私にとっては,自ら拓いた「途」という字が適当と思っている。 研究学園都市移転については,政策ベースで政府,地元受入機関が心配し,協力してくれたのであ るが,これに反し駒込,駕篭町庁舎の借用については,関係者の同情があったとはいえ,研究所がほ とんど自主的に努力しなければならなかった。「筑波までの途」として,移転前研究所の規模が100名 余となり,多くの設備を持てたのも,これらの建物があった御陰で,広い意味で「筑波への途」の基 礎となったはずである。 次に,筑波研究学園都市促進の一助になったのが,高圧力特殊実験棟の建設である 昭和43年度, 44年度の2ヶ年にわたる債務負担行為で,初年度はわずか1割の歳出予算であったが,これの実現の ためには故人となられた茨城県選出の中村喜四郎先生の御尽力と当時研究調整局長在職中の梅沢局長 の陰の御活躍を忘れることはできない。 この実験棟の建設は,都市として未完成時代の研究学園都市にいろいろな波紋を投げ,次の計画の ステップとして役に立ったと思われるが,これのみで相当のスペースが必要のためここでは割愛した い。 「ローマは一日にして成らず」というが,移転後皇太子殿下,昭和49年には,天皇・皇后両陛下の 行幸啓を仰ぐに相応しい研究所として成長し,それに値する庁舎を持てたのも,決して一朝一夕でな く言い知れぬ過去の経緯があったことを「10周年を迎える」に当り更めて嚙み締めて頂きたい。 最後に筑波移転に際して,数々の御不満,不都合もあって所員や特に家族の方々に申しわけなく存 じ,これだけでも多くのページをさいて書きたく思いますが,これは記憶に新しいことなので,次の 機会に譲ることとしたい。 Ⅴ無機材研に望む VY SERS OT ic Bits 無機材質研究所の将来について 東京大学教授 飯田修一 (元客員研究官) 私が無機材質研究所初代所長山内俊吉博士と近付きになったのは,確か昭和30年代のことで,我が 国の科学技術の10年計画に対する諮問に答えるための委員会に専門委員の立場から加ったときであっ た。その後駒込の理研跡の仮庁舎の時代から,筑波への一番乗り以後の目覚しい無機材研の発展を側 面からながめる立場にあったわけである。しかしながら中に入って辛苦をともにしたという立場では ないので,いろいろ考え落しなどがあった節はどうかお許しいただきたい。 無機材研は苦しい建設時代を今しばらくのうちに脱皮して,当初の理想であった世界の無機材研に 発展する時期に到達しているように思う。私はかつて米国ベル研究所に招へいされ,Remeika, Van Uitertその他世界をリードする無機結晶作成の権威とともに研究し,クォリファイされた試料がい かに大切であるか,それを容易に得られるベル研究所は我々物性物理学の研究者にとっていかに重大 なアドバンテージを持っているかを痛感させられた。勿論我が国の国家予算に匹敵するような巨額の 研究費を使用してゆく米国の特別研究所(BTL, IBMなどがその例)と同列に論ずることのできな いことは明らかであるが,科学技術による以外,立国の可能性のない我が国において,我が国に特に 必要な一,二の科学技術の領域においては,ある程度米国に比肩する研究費と研究の質を維持するこ とが望まれる。高品質の無機材質の合成と研究はまさにそのような分野の一つではなかろうか。 私は無機材研の今後の発展の方向として,世界最高水準の技術と研究を維持していただくことは無 論であるが,大学関係研究室との巾広い研究連絡によるより総合的な発展を期待したい。現状では無 機材研は独自のいくつかのプロジェクトを持ち,そのプロジェクトについては世界有数の良質結晶を 作成研究されている。私の希望はこうした技術を我が国の研究者の共通の資産として正確に記録保存 されるとともに,我が国において発展しているいくつかの特に優れた研究が,その研究の必然の方向 として良質の単結晶を要求したとき,その結晶を作成できないことは無機材研のプライドに関するく らいに考えていただけるような大研究組織に発展することを願ってやまない。また,大学研究室との 協力に関しては,交通費や研究費等を含めた自由度のより高い方向に発展していただくことを希望す る。 無機材研の将来に望むもの 旭ダイヤモンド(株) 研究所長 犬塚英夫 (運営委員) そろそろ無機材研も設立10年になるとのこと,出発当時,いろいろの研究所の跡を仮住いしながら 点々として移り歩いたことも懐しい語り草となりました。 ところでこれからますます研究が進むにつれていろいろの新しい材料が次々と生れてくるものと考 えられます。そこでこの研究所の出発時に所長が考えられた構想の一つ『いわゆる研究だけでなく, 物をちゃんと造るんだ』というこの考え方をずっと守って民間の会社との協力の下に実用化を十分考 えてほしいと思います。 それについて二つのことを将来の計画として提案したいと思います。 その第一は結晶を造ったり,材料をシンターさせたり,又は電子顕微鏡の試料を造ったりする,熟 練技術を特に保護強化していただきたいと思います。一般に若い人達は新しい材料を評価することに 興味を持ちます。その理由として評価を行うほうが数値的に結果が出るので論文になりやすい,とこ ろが結晶造りやいろいろの試料造りをやる人は論文になりにくいということがあります。 また第二として,できた新しい材料についての加工法を研究していただきたい。概して材料の加工 に関しては金属関係では比較的良くやっているように思いますが,無機材料の加工については余り関 心がないようです。これは無機材料が今日のように発達してきて,細かい加工が必要とされ始めたの は日が浅く,ほんのここ10年くらいであるからかも知れません。 実際企業の面からいいますと,材料だけではどうにもなりません。加工して使えるものにすること こそ製品を育てる唯一の方法なのです。それに無機材料は一番加工が難物なのです。 例えば,今多く使われている半導体用のシリコンにしても現在はその直径が60 mm~75 mmです が,1年もすると100mmになるといわれています。そしてこれを切断するときの厚さは前の60mm ~75mmのときと同じく 0.3mm くらいを考えているとのことです。60mm~75mmでも切断のとき に面が湾曲します。これが100mmになればもっと曲りは大きくなると思われます。これを解決する には機械加工と物性面と両面から研究していかなくては話はつかないと思います。加工法は機械屋さ んまかせではもうだめです。 また,これから超大型LSIの電子露光に使われると考えられるランタンボライドもやはり先端を とがらせた形で細いものが必要になるでしよう。これも楽な仕事ではないと思います。また先端のR をどのくらいにしろなどとなると大変です。 そのうちに単結晶化してエミッションの良い方向を選ぶなどのこともでてくるでしょう。その他切 断,又はラップで厚さをそろえること,それ以外にフェライト等では表面の鏡面仕上げの研究も必要 となってきます。この鏡面仕上げは物によってやり方が違います。これには物性と機械の専門家が共 同でやらなくてはなかなからちがあかないと思います。 どんな材料でも『切って,削って,つやをだす』これは必要なことです。材木でも材木だけではど うにもなりません。やはり切って,削って,つやをだして使用します。 無機材料の加工法特にこれからは精密加工を考えていただきたいと思います。 無機材研の将来に期待する 日本碍子(株)参与 貴田勝造 (元運営委員) 無機材研が10周年を迎えられますます進展されていることは,誠に慶賀にたえません。小生,研究 所設立準備研究検討会時代に検討委員,開所後は運営委員を仰せつかり数年間諮問機関としての一員 をやらせていただいたわけですが,初代所長山内先生,現所長の田賀井先生の傑出した経営と所内研 究官始め皆様の御努力で,本研究所はいろいろな意味での各種の制約を乗越えて,他の国立研究所に 見られない特色を持っておられ,この特色が研究所の目的達成にいかに効果的であったかは,この10 年史の各所に見られるところであると信じます。 昭和38年に非金属無機材料の基礎研究を重視し,これを世界一流の水準にすべきだという科学技術 会議の意見は10年にして達成したように思われます。規模内容は異なっても15年以上の後進性をうん ぬんされていた原子力平和利用研究がほぼ10年で世界水準になったのと対比できる成果,否それ以上 の成果でないかと思われます。ただ原子力の場合は開発がむしろ主体であり,無機材研は基礎研究が 主体でありますから外目で見た派手さは異なっても立派に進展してこられたと思います。今後もよい 特色を活かし,独創的材質の創製に御努力願いたいと思いますが,10年の成果をふまえて私は将来進 展を試みられてはと考える方向を希望として申し上げてみたいと思います。 無機材質の研究には,超高圧,高温等多額の研究設備を必要とし,また無機材質を主製品とする産 業界はその規模からして大きな研究投資に耐え得ないところに国家機関としての無機材研の設立の必 要性の一部があったわけで,立派な設備の整備も着々と進み,研究の成果も蓄積されてきた現在,応 用的というか開発目的を明確にした材質研究への進展はいかがかと考えます。このため,従来とも進 めてこられた各大学,研究所,産業界との連けいも一段と進め,必要あれば提携研究も含めて,実用 的に開発的な方面へも一部の勢力をさく必要があるのではないかと考えます。勿論,従来よりの重点 である基礎的な超高純度物質や,これに類する材質の物性研究あるいは創製も大切で主任務であるこ とに変りありませんが,最終的には科学技術の進歩の推進役としての無機材料の出現が,無機材研に 期待されているわけであり,ある段階では他部門の研究と共同した応用的な開発的なグループの誕生 もまた必要になるのではないかと愚考致します。 ここ数年御無沙汰していて,研究内容も詳細に承知致しておらない私の意見でありますので見当違 いや思い違いも多いと思いますが,私としては無機材研から将来必ずや近いうちに大きな社会的影響 をもたらす独創的な物質が出現することを確信して勝手なことを申し上げたわけであります。 無機材料の将来 大阪大学教授 桐山良一 (運営委員) 1.実用無機材料を歴史的に見ると,初めは天然産鉱物や岩石をそのままそれらの特性に応じて, 器具,建材などに利用した。科学技術史をたどると,次いで,鉱物や岩石を原料として,それらに適 当な処理を施して新しい材料が生産されている。「冶金」と「窯業」という言葉は現在ではどうも古 めかしい語感を与え,使用を避ける傾向にある。しかし,私には「冶金」と「窯業」という技術の中 に含まれる複雑な化学反応を最新の物理化学の眼で捕え,それらの将来像を描かなければ無機材料の 進歩はどうしても望めない気がする。 2.現在の「新しい無機材料」は,天然鉱物と結晶構造を同じくしているものが少なくない。鉱物 の特異な物性にヒントを得て同形ないしは類形結晶が開発された例も多い。無機材質の改良と開発の 基盤としての結晶化学は将来ともゆるがせにすることはできない。しかし,結晶化学は,単に結晶構 造の解析結果の記載を整理する学問分野でなく,化学結合の内容まで解明する分野でなければならな い。無機材質研究所においては構造解析に関して既に多くの業績がある。将来は過去の成果を更に発 展する方向に指向してもらいたい。 3.新材料の開発目標として,極限条件下における安定な材料を取上げるすう勢にある。将来これ を掘下げて研究するには,超高温,超高圧力用材料に関しては合成反応物質と使用容器との相互作用 の解明,極低温,超高真空用材料には微量不純物確認法の解明が不可欠である。また,状態分析とか 非破壊検査という手段の物理化学的意義の確立も要求されるようになろう。 4.結晶性物質の研究には純粋な単結晶が望ましい。これまでの固体物性研究はこの方向に指向し ていた。しかし,実用材料の開発は単結晶の特性を多結晶体に対してどう活用するかにかかってい る。強じんな焼結セラミックスの需要は今後ますます増加するであろう。その基礎となる無機物質に おける化学結合及び化学反応性の解明がいよいよ要求されるのは必至である。 5.今後,全く新しい物理的性質が発見される機会はそうないだろう。無機材質研究所の使命は, 現在及び将来要求される物理的特性を有する物質の実現のために適確な指示を与え,また合成提供す るにある。その実現の基盤はいうまでもなく,組織の力である。(1)物性,(2)構造,(3)反応の三本柱を もって,適当なバランスをとってピークをつくることが望ましい。そのための所員の衆知の結集が不 可欠になる。 新物質の創製を期待して 大阪大学教授 小泉光恵 (研究会委員) 無機材研創立10周年誠におめでとうございます。この10年間における貴研究所の御業績に対し,同 じ分野の仕事に携わる者の一人として心から敬意を表したいと思います。 さて,貴研究所の将来につき意見を述べよとのお誘いですが,たまたま大阪大学における私共の研 究グループも昨年3月をもって同じく発足10年を迎えましたので,過去の反省をもって未来への発展 のよすがとするという思いには誠に共感を覚える次第であります。 専門家を前にして釈迦に説法のそしりを免れませんが,物質の科学の研究には,プロセシングとキ ャラクタリゼーションの二つの道があります。これらは相互に干渉し,融和すべきものと常々思って います。ところが日本の現状は,物質科学に携わる研究者の相当数がキャラクタリゼーション(厳し くいえば,物理性質の測定と解釈そのもの)のみに,より多くの関心を示し,またそのほうが比較的 短時間に一見すっきりした成果が得られるので,ますますその方向に流れてゆく傾向があるといわれ ています。私の大学でも,物質を扱う学問である化学の学生すらが,物そのものを軽視し,いたずら に測定や結果の数式による処理のみに走り,肝心の試料は他の研究室から頂だいしてなどという風潮 の見られることが一部で問題になっています。 無機材研設立のねらいの一つに,確か“新物質の創製”ということが唱われていたと思います。こ れこそまさにこのような情勢の中で現代日本の物質の科学技術が最も必要とするものではないでしょ うか? “物を作る”ということは泥臭いことであり,論文のページをかせぐには余り効率的でなく, スマートさを欠くことはなはだしいことかもしれません。しかし,このカッコ悪さを克服し,広い意 味での新物質を次々と生み出してゆくことこそ,社会が無機材研に最も期待するところであると信じ ています。そしてまた無機材研は,そのような研究が十分にできる日本で唯一の国立研究機関ではな いでしょうか。したがって,そこで行われる構造や物性の研究は,あくまで新物質の開発ということ に何らかの意味でつながるべきであり,単純な“物性研究所”になってはならないと思います。 以上,局外者の勝手な発言をお許し頂いて,貴研究所が次の10年間にますます発展され,その社会 的使命を果されるようお祈り致します。 想い出と望みと 東京工業大学 工業材料研究所長 斎藤進六 (運営委員) ある日,境野教授,鈴木教授それに私は山内俊吉先生のもとに呼び集められて,これからの無機材 料の研究と開発にどんな考えを持っているかと尋ねられた。10年以上も前の話である。であるから, 私を含めて,当時の若手の助教授といった方が相応しいかも知れない。無機材質研究所創立10周年を 迎えると聞いて,まず私の脳裏に浮んだのは,こうした昔の想い出である。物性論と材料との密月と いう言葉がささやかれていたころであり,材料の中でも高分子の進歩が目を奪わんばかりで,金属は 精致な理論に,いやが上にも光ぼうを添えていたにもかかわらず,無機材料は過去数千年のその歴史 の長さゆえに,かえって近代への脱皮が思うにまかせないときであったから,我々が無機材料の新し い研究所づくりに情念を湧かしたことは当然のことであり,山内先生,坪井先生それに末野先生の唱 導のもとに第一パネル委員会ができたとき,そもそも物質とは何か,材料とは何かという原点に立ち 返って活発に議論が集中したことは論をまたない。 今の言葉でいえば,それはキャラクタリゼーションという内容を,名もなく,顔もない風景を求め るように議論したのであろうか。窯業という名で,無機材料が代表されていた昔より,材料の千変万 化する特性に振り回されて,原料の鉱物学的組立てから,粉砕,形成,焼結のどの工程にも,所謂名 人芸をもって,初めてコントロールされるさまを,如実に見てきた窯業屋にとって,物の特性とはま さに,影のごとく,夢のごとくとらえ難きものであったから,従来の理論というものは,なぜかすき 間風に似て果敢なく,鳥肌の立つ想いも禁じ得なかったのである。がそれは,物性論における完全主 義のためであったと気付いたのも,これらの模索を通じてであったし,逆に,それゆえに,特定の用 途を持った材料より一歩身をひいて,より客観的に材質の根源を明にすべきであるという見解に到達 したのも,この討論の結果である。 当時は若かったという述懐は,裏を返せば,私達も年をとったということになるが,パネルメンバ ーであった中平さんももういない。鈴木(淑)さんも筑波大に去った。 想えば10年は早いものである。わずかに私は,東工大に求められた工材研所長の職責として,無機 材研の運営委員会のメンバーの一人として関係をもっているが,私達の年を重ねるとは逆に,無機材 質研究所はますます充実し,さかんな青年期を迎えようとしている。我が国におけるその位置づけも 大かた定まったかに見える。今後,一層,世界の中における無機材料研究の一大殿堂とならんことを 切望してやまない。 結晶の相転移と無機材質研究所の変態 東京大学教授 定永両一 (客員研究官) 常日ごろ無機結晶と対面し,特にそれらの変化を研究していると,結晶のもつ面白い性質に気付 く。結晶が相転移を起す場合,それは転移点に至って初めてドタバタと大あわてするような無様なま ねを決してしない。転移の前駆現象として,転移点のはるか前から,結晶はきたるべき相転移の準備 を始める。そしてそのまま前駆現象が進行し,すんなりと相転移を完了するような場合もあるが,転 移点に至ってどうしてもつじつまを合せることができないような事態に当面して,それなりの苦労を 経て転移を完了するのが多くの場合である。このことは,この原稿を書くにも,十分の時間的余裕を もって御依頼を頂き,またそれなりに心の中で準備はしているものの,いざ締切間際になると結局大 騒ぎして一山乗越えねばならぬ我々人間のちょっぴりき帳面であるが,大部分はずぼらである性質に 余りにも似ている――というのは逆で,我々人間も自然物である限り結晶と同じ自然の法則に従うも のであるといえば,ずぼらなどと卑下することもないというものであろう。 ところで,結晶の中には,実に巧みに前駆現象を利用して,小ブロックごとの原子配列は転移の前 後で全く変化せず,それらブロックの並び方のみを変えるものがある。このような結晶の物理性は, かなり特異なものであるはずであるが未だほとんど研究されていない。ただわかっているのは,それ らがX線回折に際して多少ともぬえ的性格を示すことがあり,結晶構造が三斜対称であるにもかかわ らず,そのX線回折図形は完全に単斜対称であったりする。このことは,多相変化や多形変化に伴っ て新しい性質をもった物質を作り出しうる可能性を示唆し,将来特に注目すべき問題である。 現在の無機材質研究所には,二代続いた名所長及び諸先輩の御努力のお陰で,制度的にも非常に優 れた面が多々あるが,それと共にそれらが十分に消化しきれない困難もあることは否定できない。こ れらの困難は,ただ現行制度に変化を与えることによって解決し得るものとは,私には思われない。 それよりも何よりも,学問上のアイデアが豊富に出てくれば,自然と研究所のポテンシャルが上り, このことのみが研究所が歓迎すべき変態を完了するのに有効に作用し得る前駆現象であると信ずる 。 無機材研の将来に期待して 東京工業大学教授 鈴木弘茂 (客員研究官) 私は,前所長山内俊吉先生のもとで,志を同じくする方々と共に本研究所の設立の舞台裏で微力を 捧げ,その発足と同時に併任研究官となり,更に旧第2研究グループの総合研究官として合計6ヵ年 余り奉職したものであり,創立10周年を迎えられるに当り,往時を顧み,現在の充実し完成した威容 に接すると感慨無量であります。 私の記憶によれば,材料の三本柱ともいうべき無機非金属材料,金属材料,有機材料のなかで,当 時前者が後の二者にくらべて,工業としての生産量,研究人口,研究施設などいづれも少なく,不十 分であり,国の将来を考えどうしても立派な国立の研究所が必要であるとの先覚者の認識に応えて, 本研究所が創立されることになったのでありました。当時,東京大学物性物理学研究所(現東京大学 物性研究所)の長倉教授が,化学的に純度が保証され,物理的に構造や組織がよく制御された研究試 料が欲しい,これが入手し難いことが物性研究のネックになるといって本研究所の設立に心から賛成 し助力して下さったことが深く印象に残っております。その後における無機非金属材質に関する学問 分野,及び工業材料としての急激な発達を見ますとこの新設が誠に時宜を得たものであったことがわ かると思います。 無機非金属材料の研究には幾多の分野があり,方法も無数にある。そして本研究所の運営に関して は,すでに十分討議され確立されたものがあると思われるから,私がとやかく申すことはないのです が,所長からのご要請に接したので,二三,日ごろ考えていることを以下に記述します。 (1) 化学的組成と物理的構造とが任意にコントロールされた無機材質を創製し,そのキャラクター を明らかにしたうえで,試料として広く社会に提供することが望ましい。これができると全国の無機 材料に関する研究の無駄をはぶき,その進歩に重大な貢献をすることになる。 (2) 無機非金属材質は将来,各方面で機能材料としての役割が増大することは明らかであるから, そのような貴重な新材料の創製に一つの重点を置かれたい。その成否が今後の科学技術の進歩の鍵を 握ることとなろう。 (3) 巨大科学時代に入り,研究も大規模となる。国立機関として,民間や大学でできにくい大型の 社会的ニーズをとらえ,組織的かつ機動的な研究ができるように願いたい。 以上,十分整理したものでなく,思いつくまま,あるいは私の夢かもしれませんが意見を述べさせ て頂きました。 意を尽せない点もあり,失礼な点があるかもしれませんがお許し下さい。 無機材研に望む 日本学士院会員 坪井誠太郎 (運営委員) 私は,無機材研創設よりもずっと前,未だこの研究所の影も形もなかったころ,何とかして日本に この種の研究所が欲しいものだという念願を永年にわたって持ち続けていた。そして,そういう研究 所の好ましい性格や研究活動について,数々の夢を描いていた。 1975年の今日,現実に存在する無機材研は,いろいろの点において上記の“夢の研究所”に近い性 格を備えている。そこには,私の夢のうちの少なからざるものが実現されている。しかし,まだ実現 されずに残っている夢もある。それらは,やがてだんだんに実現されることであろうと期待してい る。その残っている夢のうちから,ここでは二つを拾い,それについて述べようと思う。 その一つは,純正自然科学(理学)の立場からの発想に基づく研究課題をも取上げてほしいという ことである。ほんの一例であるが,自然産の鉱物や岩石も無機材質のうちであって,近年は,地殻の 構成物に限らず,マントルの岩石,地球外天体の岩石等についての研究,マグマの発生に関する研究 等が世界的に脚光を浴びている。そして,その研究の手法には,現に無機材研で行われている研究の 手法と共通する点が多い。無機材研の保有する研究力を上記方面の諸問題の解明に適用するならば, 必ず見るべき成果が得られるであろうと思う。 もう一つは,無機材研所属外の有能な研究者(年齢国籍を問わず)に対し,暫時又は随時,施設を 提供し,その研究を助成する道を講じてほしいということである。適切な研究課題を持ち,しかも十 分な研究能力を備えているにかかわらず,利用できる施設がないために手をこまねいている者があ る。そういう人々を外来研究者として受入れ,その能力を発揮できるようにしたいというのが趣旨で ある。これは無機材研に共同利用研究所的な性格を付け加えたいということにあたる。現行の客員研 究官制度には,この線に沿っている点があるが,それを格段に拡充強化したいと望むのである。外来 研究者の審査選考の方法については,私は私なりの案をもっている。外来研究者を受け入れること は,研究所の雰囲気に常に新風を吹き込むことにもなると思う。 10周年を祝して 東京理科大学教授 三宅静雄 (元運営委員) 早いもので,無機材研も10周年を迎えるという。しかし,このことは,もとより研究所が古くなっ たということではなく,研究所の形がようやく整ったということであろう。私も以前東大物性研で10 周年を迎えたことがあるが,やはりそのような状態であり,そのような気持であった。無機材研の真 の活動はこれからである。 無機材研については,その構想が検討された準備委員会のある時期以後,その委員として,また研 究所の設立後には何年か運営委員として多少お付合いをしてきた。官庁に所属した研究所の中にあっ て,無機材研を,実用的な速効性を必ずしも求めない,より基礎的な研究を行う研究所とすること は,最初からの方針であったと思う。したがって,この研究所へは普通の官庁の研究所に比べ,より 大学的な性格を持つことになるが,これを,大学に比べてはるかに官庁的なわくが多い組織の中でど う実現させていくかが,当初熱心に議論された。この研究所ではグループ研究を特色として進めよう という方針も,そういう議論のなかで打出されたように記憶する。グループ研究は研究所内の融通性 を高めるための工夫の一つであった。しかし,このようなアイデアが制度化されると,それはそれ で,そこにまた官庁的なわくがはまってくる,という現実も見ざるを得なかった。この傾向は最初の 構想とは逆の方向の結果をもたらしかねないのである。 かつて私がいろいろとお世話になったS先生は,「10年くらい一つのことに打ちこめ,そうしたら 必ずその方の第一人者になれる」ということを,よく若いものにいわれていた。私は,無機材研とい うところは,このような“第一人者”をたくさんつくりだすのに極めて適した研究所ではないかと思 う。そのためには,一人の研究者が,機械的な操作によって目先をわずか4~5年で変えるのはよく ないのである。むろん,グループ研究はねらいが適切でよく運営されるならば能率的であり,この制 度は捨てることなく,むしろ極力利用していくことが大切である。ただ,各テーマにはおのずから性 格の違いがあるから,同人数,同予算,同期間などといったふうに同一規格にしたら,むしろ弊害を もたらす心配がある。一方,上に述べたように私は,“なになにに関する権威者ここにあり”といえる 方が何人もでてこられるような研究所になることを信じ,また心から願っている。 10周年は設立完成の年である。無機材研はいま新鮮な出発点に立った幸福な時点にある。研究所の 成長は今後のみなさんの努力次第であろう。 追憶 と 希望 東京工業大学名誉教授 山内俊吉 (初代所長) 私共が無機材質研究所の創設を目指して運動をはじめたのは昭和37年の夏であった。その後多くの 人々の理解と協力により科学技術庁が中心となって,その創設を押しすすめていただくことになり極 めて順調に進展し,遂に昭和41年4月1日国立研究機関として発足することができた。この研究所 が,今後我が国無機材料発展の推進役として極めて大きな役割を演ずることは確かで本当にうれしく 思っている。そして創設以来ここに10年ようやく所員の数も増し,施設設備も整い研究所として大き く活動できる,よい環境がつくりだされつつある。 創立当初,庁舎がなく借家住いであり,いつ研究庁舎が,できるかわからないのでいろいろと苦労 も多かった。 私も所長として庁舎は勿論,規模の拡大や運営その他のことが一応の目鼻がつくまでは,やめられ ず,所員達と力を合せ,これらのことを一応軌道に乗せるため,6年余り真剣な努力を重ねたつもり である。そして筑波研究学園都市に研究庁舎や宿舎などができ,規模,運営その他も一応の軌道に乗 ったように思ったので,昭和47年3月筑波に当研究所の移転を完了したのを機会に,その6月所長を やめさせていただいた。まだなさねばならぬいろいろのことが残っていたが,老齢であり所員の方々 に後事を托したわけである。今,私の所長時代にできなかったことは現所長を中心として熱心に努力 が重ねられているし,私も現在研究所の運営委員の一人であるから改めていうこともないので希望の 一端を申し述べてみたい。 創設当初,庁舎は勿論設備もなく,全くのないないづくしで研究をはじめるにはいろいろといい知 れぬ苦労が多かった。しかし,所員は将来への希望に燃えて研究意欲は極めて盛んであった。庁舎, 設備など周囲が整備されてくると次第に老化現象がでてくるものだといわれているが,無機材質研究 所では,今なお創設当初の若々しい気力がみちみちて老化のきざしが見られないのは実にうれしい。 今後とも研究への精進を重ね,研究に対するポテンシアリティーを一段と高め,当研究所が無機材 料に関する科学技術の基盤を総合的に開発していく研究の一大中心となるよう希望してやまぬ。 そのためには所員の皆さんが和気に満ちてしかもお互の厳しい切磋琢磨を怠らない。そして自由で 秩序あるよい研究の雰囲気をつくりだし,その中で創造の意欲に燃え,いろいろの分野の人々との協 同につとめながら研究に全力を傾注していただきたい。そして今後予想される目まぐるしい変転の時 代に即応し,また測り知らぬ科学技術の進歩に遅れぬよう常にみがかれた柔軟な頭脳の育成に心掛 け,がっちりと無機材料の進歩を押しすすめて,人類の要望に,応えるために十分のご奮闘を御願い したい。 無機材質研究所の将来に期待する 東京大学教授 山 口 悟郎 (運営委員) 無機材質研究所,誠にすっきりした私の好きな名前である。またそれだけに,その内容が素晴しい ものに成長することを期待して止まない。 あえてお金の尺度で物をいわせてもらうと,無機材質の研究に絞ってあれだけの設備投資がなさ れ,人件費と物件費が毎年,私達がうらやましいと思うほど使われている研究機関は,公私を問わず 我が国にここにおいてほかにはない。それだからこそ無機材研には,我が国の大学や公私の無機材質 研究の中心的存在となり,その舞台まわしの役割を果しうるようになる責任があると思う。決して研 究投資のパリティーだけの分担を果せればよいというようなことであってはならない。 我が国のといわず,今までの無機材質研究の最大の弱点は何であっただろうか。それは分子物質 (分子の概念が明確な物質を仮にこう呼ぼう)や金属の研究と対比すれば明らかである。無機材質の 研究では,その対象物の物質構成が極めて複雑であることもその一因となって,物質構成をとことん まで突きつめることなしに,時には分子物質や金属からの類推だけを頼りにして話が進められてしま うことが往々にしてあった。少なくとも無機材研の研究はこうであってはならないと思う。それのみ か無機材研はその予算と人材とを活用し,他の公私機関の研究者のためにも無機材質の物質構成解明 のシステムを確立し,開発し,継承していく責任がある。こうすることにより無機材研が我が国のこ の研究分野における前述した使命を果しうるのであろう。 無機材質の物質構成の解明を,実在の物質の多くに適用できるようにシステム化することは難事で あるとはいえ,今日では関連した科学と技術の発展により,資材と人材とを集中して取組めばその可 能性は日に日に増しつつある。しかも我が国において,これをなしうる可能性のある機関は無機材研 をおいて他に皆無であるのは事実である。 このような努力の結果,万人をして無機材研の協力さえ得れば,どのような実在の無機材質の物質 構成も解明できるのだという望みをいだきうる域に達してもらいたい。そしてそれを継承し,新しい システムを開発し,常にこの分野で最高の実力を保持してもらいたい。そのような存在となれば,そ の実力を発揮して研究所自身が発展させた学問構成は抜群のものとなろうし,他の機関の研究者に貢 献することもまた絶大のものとなるであろう。さすれば研究所自らはたとえ年に1件の特許を取るこ とがなかったとしても,無機材質研究の分野における重鎮となることは火を見るより明らかである。 役人は研究所の活動力を特許の数や報文の数で計る習性があるかも知れないが,学会全体の無機材 研に対する信頼と尊敬が絶大なものとなって,こせこせした方法で役人の顔色を伺う必要のなくなる ことを願うものである。 私はことあるごとに無機材質の研究にあってはキャラクタリゼーション先行方の研究が必要である ことを主張してきた。本稿ではあえてこの表現をとらなかったけれども,要はこの主張に通じるもの であることを述べて筆をおく。 (山口悟郎氏には,昭和51年4月11日急逝��され,本稿は遺稿となりました。) 資 料 1.科学技術庁設置法(抜すい) 2.無機材質研究所組織規則 3.無機材質研究所研究グループ設置規程 4.固体材質研究所(仮称)設立趣意書 5.無機材質研究所の育成について(要望) 6. おもな人事 7.海外出張者 8.表彰事項 9.おもな訪問者 10.年 表 1.科学技術庁設置法(抜すい) 昭和31年3月31日 法律第49号 最終改正 昭和51年1月16日 法律第2号 (附属機関) 第16条 科学技術庁に附属機関として,次の機関を置く。 航空宇宙技術研究所 金属材料技術研究所 放射線医学総合研究所 国立防災科学技術センター 無機材質研究所 資源調査所 (無機材質研究所) 第20条の2無機材質研究所は,次に掲げる事務をつかさどる機関とする。 (1) 非金属無機材質に係る超高純度材質及びこれに類する材質の創製に関する研究を行なうこと。 (2) 前号の研究に伴い得られた物を試料として提供すること。 (3)委託に応じ,第1号の研究を行なうこと。 2無機材質研究所は,茨城県に置く。 3無機材質研究所の内部組織は,総理府令で定める。 2.無機材質研究所組織規則 昭和41年4月1日 総理府令第11号 最終改正 昭和51年5月10日 総理府令第31号 (内部部局) 第1条 無機材質研究所に,管理部及び科学技術庁長官の承認を受けて所長が定める研究グループを置く。 (管理部の分課) 第1条の2 管理部に,次の二課を置く。 総務課 企画課 (総務課) 第2条 総務課においては,次の業務をつかさどる。 (1)機密に関すること。 (2)人事に関すること。 (3)所長の官印及び所印の保管に関すること。 (4)公文書類の接受,発送,編集及び保存に関すること。 (5) 職員の福利厚生に関すること。 (6)予算,決算及び会計並びに会計の監査に関すること。 (7) 行政財産及び物品の管理(企画課の所掌に属するものを除く。)に関すること。 (8)営繕に関すること。 (9)前各号に掲げるもののほか,企画課及び研究グループの所掌に属しない業務に関すること。 (企画課) 第3条 企画課においては,次の業務をつかさどる。 (1)研究の総合調整及び企画並びにこれらに必要な調査に関すること。 (2) 研究に伴い得られた物を試料として提供する事務に関すること。 (3)研究の受託の事務に関すること。 (4)共用の設備に関すること。 (5)非金属無機材質の定型的な物理分析,物理測定及び化学分析に関すること。 (6)国有特許等の事務に関すること。 (7)広報に関すること。 (8)技術相談に関すること。 (9)文献及び資料の調査,収集,編集,刊行及び保管に関すること。 (研究グループ) 第4条 研究グループにおいては,次の業務をつかさどる。 (1)非金属無機材質に係る超高純度材質及びこれに類する材質の創製に関する研究に関すること。 (2) 委託に応じて行なう前号に掲げる業務に関すること。 (所長) 第5条 無機材質研究所に,所長を置く。 2所長は,所務を掌理し,所属職員を監督する。 (部長,総合研究官及び課長) 第6条 無機材質研究所の部に部長を,研究グループに総合研究官を,課に課長を置く。 2部長又は総合研究官は,所長の命を受け,部務又は研究グループの業務を掌理する。 3 課長は,部長の命を受け,課務を掌理する。 (客員研究官) 第7条 無機材質研究所に,客員研究官を置く。 2客員研究官は,所長の命を受け,研究グループの業務に参画する。 (運営委員) 第8条 無機材質研究所に,運営委員を置く。 2運営委員は,無機材質研究所の運営に関し,所長の諮問に応じる。 附 則(抄) この府令は,公布の日から施行する。 3.無機材質研究所研究グループ設置規程 昭和41年4月1日 所長達第1号 最終改正 昭和51年5月10日 所長達第1号 (目的) 第1条 この規程は,無機材質研究所組織規則(昭和41年総理府令第17号)第1条の規定に基づき,無機材質研 究所の研究グループの設置について定めることを目的とする。 (研究グループの設置) 第2条 無機材質研究所に,無機材質研究所組織規則第4条の業務のうち,次の表の右欄に掲げる種類の非金属 無機材質に係るものを行なわせるため同表の左欄に掲げる研究グループを置く。 研究グループの名称 非金属無機材質の種類 第1研究グループ 酸化マグネシウム 第2研究グループ 複合バナジウム硫化物 第3研究グループ 窒化けい素 第4研究グループ 酸化アルミニウム 第5研究グループ ペロブスカイト型化合物 第6研究グループ 窒化ほう素 第7研究グループ 酸化チタン 第8研究グループ ダイヤモンド 第9研究グループ アルミノ珪酸塩ガラス 第10研究グループ 複合ビスマス酸化物 第11研究グループ 酸化けい素 第12研究グループ 硼��化ランタン 第13研究グループ イットリウム・ガーネット 第14研究グループ 酸化レニウム 第15研究グループ 硫酸・燐酸カルシウム 2第8研究グループにおいては,前項に規定する業務のほか,非金属無機材質に係る超高純度材質及びこれ に類する材質の創製に係る超高圧力技術に関する研究を行う。 附 則(抄) この規程は,昭和41年4月1日から施行する。 4.固体材質研究所(仮称)設立趣意書 研究所設置の主旨 およそ科学技術の諸分野において,その優劣を決する最大の要因の一つは,これに使用される資材の良否であ る。科学技術の格段の進歩は,それぞれの分野において目的に適する高性能の資材を得るために,その科学技術 の一般的基盤としての基礎研究を先行させることがどうしても必要である。特に我が国においては,天然人工の 無機質非金属材料などの固体材質の分野において諸外国にくらべて大きくおくれており,この方面での基礎研究 はきわめて緊急事であることを痛感する。 近年,欧米諸国では固体材質の基礎的研究が盛んに行なわれ,その成果は科学技術の進歩に対して実に顕著な 貢献をなしている。しかるに我が国においては,このような基礎研究での面の研究施設が甚だ不備であり,しか もこの種の研究を目的とする総合的な独立の研究機関が皆無であるため,先進国に追随することすら困難であ る。このままでは将来我が国はこの方面において,世界の進展からの落伍者となるであろう。 われわれは,我が国の有能な各種分野の研究者を結集し,固体材質開発に関する基礎研究を進め,その成果の 基盤の上に科学技術の画期的進歩をはかることを目的とし,ここに研究所の設置を要望する。 設置の目的 本研究所は,固体材質の各種条件下における物理的,化学的,鉱物学的性質に関する基礎研究を行なうことを 目的とする。 ここに固体材質というのは,天然・人工の無機鉱物質の資材(ただし金属をのぞく)の総称である。 (例:鉱物,岩石,人造鉱物,窯業製品,特殊電気材料,電子工学材料,原子炉材料,宇宙工学材料,その他 ニューセラミックスと呼ばれる無機質材料など) 固体材質は,一般に種々の物質種の集合であって,各物質種がそれぞれ一つの相を形成する。各材質の性質, 性能は,その材質を構成する物質種と,これらの物質種諸相の量比,諸相によって構成される組織等の集合状 態,及びその材質の置かれた温度,圧力,化学的環境等の環境条件によって特徴づけられる。 高温,高圧条件下における状態を決する反応はきわめて複雑であり,平衡状態に達する前に反応が実際上打切 られてしまう例が多い。このような場合には,従来よく用いられている相律の適用は困難である。固体材質はそ の成因,製造法と,性質,性能との関係が複雑であって不明のことが多く,そこに実に多くの研究課題がある。 この研究所は,固体の結晶学的状態,生成,変化等の究明を主とするもので,我が国の既存のいずれの研究所 とも内容を異にするものである。 固体材質創製の諸条件を求める目的をもって行う基礎研究の一般的な主要題目の例を挙げると (1)材質を構成する各物質種の構造(結晶構造,硝子構造)の研究およびこれに対する原子置換の影響の研究 (2) 各物質種の構造とその性質(性能)との関係の研究 (3) 各材質における諸物質種の集合状態,組織の研究 (4)各材質の物質種の集合状態と,その性質,性能との関係の研究 (5) 各物質種および諸物質種集合体に対する環境条件の影響の研究 (6)高温,高圧下における固相反応の研究 (7) 高温,高圧下における固相反応の条件(環境条件)と生成物質種および生成物質集合状態との関係の研究 (8)以上の諸研究を実施するための装置,方法等の創案,改良の研究 以上の研究による研究成果に基づく,新しい発見発明の芽を育成するために,所員はもちろんその他の関係方 面の協力を得て,現製品の品質向上,新製品の創製につとめ,もって科学技術の進歩に貢献する。 外国の状況 諸外国にはこの種の研究を強力に行なっている研究機関がある。それらのうち代表的なものは (1)ワシントン市カーネギー研究所地球物理学実験所(Geophysical Laboratory, Carnegie Institution of Wa shington, U.S.A.)これは名前は「地球物理学実験所」というが,実は鉱物材質の基礎研究を主とする研究所 であって,1907年設立され,以来過去半世紀にわたり,この方面の研究における世界の中心として今日に至って いる。 (2) ペンシルバニア州立大学鉱物工学部 (College of Mineral Industry, Pennsylvania State University, U.S.A.) 第二次世界大戦以後急速に拡充整備された研究機関であって,現在では規模は前記のカーネギー研究所地球 物理学実験所のそれを凌駕し,鉱物材質の基礎研究の新しい世界的中心をなしている。 (3)マックス・プランク珪酸塩研究所(元カイザー ・ウイルヘルム珪酸塩研究所) Max Plank Gesellschaft zur Förderung der Wissenschaften (Keiser-Wilhelm Gesellschaft) 1911年カイザー・ウイルヘルム科学振興協会が,科学知識の普及と科学研究の発展とを目的として設立さ れ,その研究活動は各分野に非常に貢献した。第二次大戦後同協会はマックス・プランク科学振興協会と改称 された。同協会に所属する珪酸塩研究所も古くから多くの優れた業績を示し,注目されていたところである。 我が国の状況 我が国では材料の物性に関する研究機関としては東京大学物性研究所があり,また技術面には工業技術院の工 業試験所その他があるが,新しい材料,特に固体材質をつくりあげる基盤となる基礎知識の提供については,両 者はいずれも不適当である。このためには,この目的を遂行しうる物理,化学,地質鉱物等の総合的な基礎研究 を推進しうる独立した研究機関が必要である。 日本には,この種の研究に従事するに適する有能な研究者が現在相当に多数ある。この点においては日本はお そらく世界有数である。これらのうちには,かつて前記のカーネギー研究所やペンシルバニア大学において研究 した経歴を有する者は約20名にも達し,現にこれらの研究所に在留中の者もある。これらの日本人研究者の彼地 における業績は例外なく優秀であって,高く評価されている。 現在,日本にはこのような固体材質育成の基盤となる研究を強力に行なうことを目的とする独立の研究機関は 皆無である。このような研究を強力に行なうための研究所設立は,日本のもつ偉大な潜在力を生かして,科学技 術の向上と産業の振興とを持ち来たすべき確実な一つの道である。 研究の意義 (1)理学上の意義 物性の研究において,固体材質を対象とする場合には,その材質の基本的性質がいかんなく知られていなけれ ばならない。このような基礎研究が不備である場合には,せっかくの立派な研究成果もその価値が半減する。 有機質または金属材質を対象とする場合には,物質種が純粋であり,一定均質の集合状態のものを求めること が可能であるため,共通理論を導き出すうえに支障が少ない。しかし無機材質は,その成因・製造方法により純 度,物質種の集合状態,組織が一定せず,基本的性質を十分知っておくことが特に重要であるにもかかわらず, その基礎的データは甚だ不備である。 最近宇宙開発が進むにつれて,隕石,隕鉄等の宇宙物質の研究が重要視されるに至り,この方面の開発に関係 しても固体材質の研究は重要である。 このような分野の研究の進展には,その要求に応ずべき固体材質の基礎研究を先行させることが必要である。 (2)工業上の意義 最近科学技術の進歩に伴い,固体材質(非金属無機材料)の品質向上,新製品の創製がきわめて重要であるこ とが叫ばれながら,固体材質に関する基礎的知識の不足,高温高圧下での固体反応の理論的面が十分明らかでな いため多くの研究努力にもかかわらず,その進歩が遅れ,また新しい物の創製が思うように実現しない。 従来の,基礎を欠いた単なる応用研究や試験研究からも,見るべき成果の得られた例は少なくないが,画期的 な成果はこのような研究のみからは期待し難い。 工業上それぞれの目的に適する特定の高性能をもつ材質を得るためには,応用研究や試験研究に対し科学技術 の一般的な根拠を与え,方針を指示することを目的とする基礎研究が不可欠である。 このような固体材質の基礎研究からは,既成材料の品質改善はもちろん,今日未知の高性能の新材質を将来創 製することも可能であり,予想を超えた成果が期待できる。 (3)設置の効果 材質の基礎研究を掘り下げ,本質を究明することによって,応用上幾多の画期的な発明が生まれることは周知 の事柄である。 基礎研究は未知の世界の究明であるから,たまたまこれから全く予想を超えた発明が行なわれる。すなわち, 基礎研究から生まれるものは,予想することができないのが本来である。 この研究機関はこのような研究も行わねばならぬが,その根本は,本研究機関の成果が直接間接に産業界など の応用研究や,製品の品質改善への基礎資料を与えることや,新しい製品の創成の芽を産み出すことなどが,そ の主な任務である。 次の諸材料は,固体材質の基礎研究によってその開発が大きく進展しつつあるものの例である。 1)エレクトロニックスの材料のうち高周波誘電材料,強磁性材料,半導体材料,圧電気材料,その他のニュ ーセラミックスと呼ばれる材料 2)航空工学,宇宙工学の高温耐熱材料,電気器械材料,その他のニューセラミックスと呼ばれる材料 3)原子炉の減速材,反射材,遮��蔽材,放射線防御材,セラミック核燃料,その他のニューセラミックスと呼 ばれる材料 4)窯業材料,非金属無機材料一般,その他 性格と組織 この研究所は特定の応用研究のみを対象とせず,広く科学技術への適用を考慮して,その一般的な基盤となる 基礎研究を行うものである。 このような基礎研究は民間で実施することが困難であり,また従来の国立研究機関,大学研究組織等でも実施 し難い。従って本研究所は,国としての立場からみて,広く科学技術の基盤を十分に支える国立研究機関であっ て,総合的な基礎研究を目的とする性格上,科学技術庁の附属機関として設置することが適当であるように思 う。 研究室の規模 (1)研 究 室……10研究室とする。 (第1~第10研究室) (2)研究室の構成……研究主任,研究補助員をおき,専任のほか,兼任臨時の任用も認める。(流動的研究員も 認める) 研究主任1名,研究員および研究補助員5~10名。 (3)研究課題……各研究室の研究題目は年度毎に研究主任が自主的に発案し,研究会議の承認を経て決定する。 (4)研究室の設備……共通の基本設備をもつ。 (5)施設(建物等)……研究所長室,研究員の個室並びに研究室,共通実験室,調査室,図書室,工作室,事務 室,資料室,標本室,動力室,会議室,講堂。 予算 人員研究者 100人 技術者その他100人 } 計200人 1億円 土地 20,000坪 10億円 建物 4,000坪 10億円 設備 10億円 初度調弁(車,机等) 1千万円 年間経常費 研究費1人 150万円 1億5千万円 機械維持費 5千万円 土地建物設備費 30億円 年間経常費 3~4億円 年度別 1年度100人 2年度150人 3年度 200人 5.無機材質研究所の育成について(要望) 昭和41年9月30日 大蔵省主計局長殿 要望者(順不同) 石川島播磨重工業株式会社技術研究所長 中村 素 ソニー株式会社常務取締役 鳩山道夫 旭硝子株式会社取締役研究所長 船岡正男 日本セメント株式会社取締役研究所長 中 条 金兵衛 日本電気株式会社常務取締役研究所長 出川雄二郎 東京芝浦電気株式会社取締役中央研究所長 和田重暢 富士製鉄株式会社副社長中央研究所長 的場幸雄 富士製鉄株式会社常務取締役中央研究所副所長 金森九郎 三菱原子力工業株式会社研究所長 杉本一六 昭和電工株式会社常務取締役中央研究所長 山口 茂 株式会社日立製作所中央研究所名誉所長 星合正治 三井金属鉱業株式会社取締役中央研究所長 桑原謙之 科学技術の画期的な進歩を図るためには,それに使用されている材料の品質性能の向上が不可欠の要件となり つつありますが,各方面の強い要望を担い昭和41年度科学技術庁の付属研究機関として無機材質研究所の新設が 認められ,また所長として我が国無機材質研究に最も理解と経験の深い山内俊吉氏(元東工大学長)を迎えられ ましたことは,関係業界技術界にとり誠に御同慶に堪えない次第であります。特に同研究所の研究目的は非金属 無機材質の研究の基本である超高純度材質の合成研究を主とし,これに伴っての解析研究・比較研究を行い,ま たその結果得られる試料を提供することにあると承知しておりますが,このような基礎的な部門は元来国立研究 機関が受持って研究すべき性質のもので,その成果は我々産業界・技術界が応用面の開発に欠くべからざるもの で,この研究所が設立されましたことに誠に意を強くしております。 しかしながら,仄聞するところによりますれば,同研究所は初年度のためか,現在人員21名,予算額も6,600 万円余りとのことであります。諸外国がこの方面に非常な努力を傾けている現状であり,この部門の開発には超 高温・超高圧など多額の費用を要する研究がその中核となっていること,また多数の人員の連係のよくとれた努 力を早急に組織することが必要であることを考慮しますと,第一次5ヶ年計画で目標とされておられる450名を 擁する充実した研究所になるべく早く到達するよう,来年度におきましては研究グループ数の急速な増加と研究 員数の増強がぜひ必要と確信致します。 以上のごとくでありますので、,材質の基礎研究が産業界の今後の進歩を支えるものであることを何卒御賢察の 上,折角発足致しましたこの研究所を早くその軌道に乗せるため,来年度の予算面において特別の御考慮を払わ れたくここにお願い申し上げる次第であります。 6.おもな人事 (昭和51年5月16日現在) (1)職 員 所 長 41.4.1~47. 6.16 47. 6.16~ 山内俊吉 田賀井秀夫 採用,退職 昇任 総合研究官 41.4.1~41.11.10 山内俊吉 併任(炭化けい素) 41.11.10~42. 6.10 田中広吉 転任(大工試第1部長)(〃) 第1研究グループ 42. 6.10~47. 4.1 田中広吉 配置換(炭化けい素) 総合研究官 47. 4.1~47. 6.16 田賀井秀夫 〃(酸化マグネシウム) 47. 6.16~49. 5.1 田賀井秀夫 併任( 〃 ) 49. 5.1~ 白崎信一 昇任( 〃 ) 第2研究グループ 42. 6.10~43. 3.1 山 内 俊吉 併任(酸化ベリリウム) 43. 3.1~47. 4.1 鈴木弘茂 併任(東工大助教授)(〃) 47. 4.1~49. 4. 20 中平光興 配置換,退職(複合バナジウム硫化物) 49. 4.20~49. 5.1 田賀井秀夫 併任 ( 〃 ) 49. 5.1~ 川田 功 昇任 ( 〃 ) 第3研究グループ 42. 6.10~47. 4.1 中平光興 昇任(酸化バナジウム) 47. 4.1~ 田中広吉 配置換(窒化けい素) 第4研究グループ 42. 6.10~48. 4.1 岩田 稔 昇任(窒化アルミニウム) 48. 4.1~ 山口成人 配置換(酸化アルミニウム) 第5研究グループ 43. 4.17~43. 8.1 山内俊吉 併任(硫化鉄) 43. 8.1~48. 4.1 山口成人 採用(〃) 48. 4.1~ 岡井 敏 配置換(ペロブスカイト型化合物) 第6研究グループ 43. 4.17~47. 5.1 山内俊吉 併任(鉛ペロブスカイト) 47. 5.1~48. 4.1 岡井 敏 昇任( 〃 ) 48. 4.1~ 岩田 稔 配置換(窒化ほう素) 第7研究グループ 44. 5.1~44. 7.1 山内俊吉 併任(炭素) 44. 7.1~49. 4.1 瀬高信雄 昇任(〃) 49. 4.1~49. 5.1 田賀井秀夫 併任(酸化チタン) 49. 5.1~50. 4.1 岩田 稔 併任(〃 ) 50. 4.1~ 藤木良規 昇任(〃 ) 第8研究グループ 44. 5.1~44. 7.1 山内俊吉 併任(酸化ジルコニウム) 44. 5.1~49. 4.1 鈴木淑夫 昇任,出向(文部省)(〃) 49. 4.1~ 瀬高信雄 配置換(ダイヤモンド) 第9研究グループ 45. 5.1~45. 7.1 山内俊吉 併任(酸化ニオブ) 45. 7.1~50. 4.1 後藤 優 昇任(〃 ) 50. 4.1~ 長谷川 泰 配置換(アルミノ珪酸塩ガラス) 第10研究グループ 45. 5.1~45. 7.1 山内俊吉 併任(カルコゲンガラス) 45. 7.1~50. 4.1 長谷川 泰 昇任( 〃 ) 50. 4.1~ 後藤 優 配置換(複合ビスマス酸化物) 第11研究グループ 46. 4.1~46. 9.1 山内俊吉 併任(酸化けい素) 46. 9.1~47. 4.1 田賀井秀夫 転任(東工大教授)(〃) 47. 4.1~47. 5.1 山内俊吉 併任(〃) 47. 5.1~ 下平高次郎 昇任(〃) 第12研究グループ 47. 5.1~47. 6.17 山内俊吉 併任(硼��化ランタン) 47. 6.17~48.1.1 田賀井秀夫 〃( 〃 ) 48.1.1~ 河合七雄 昇任( 〃 ) 第13研究グループ 48. 5.1~49. 4.1 田賀井秀夫 併任(イットリウムガーネット) 49. 4.1~51.1.1 小松 啓 昇任,出向(文部省)(〃) 51.1.1~ 田賀井秀夫 併任( 〃 ) 第14研究グループ 49. 5.1~ 津田惟雄 昇任(酸化レニウム) 第15研究グループ 50. 4.1~ 上野精一 昇任(硫酸・燐酸カルシウム) 管理部長 51.5.10~ 碓井 求 採用 企画課長 41.4.1~43. 5.1 渡部有造 昇任,出向(通産省)(43. 4.17まで企画室長) 43. 5.1~47. 4. 25 寄水義雄 昇任,昇任(科技庁) 47. 4. 25~50. 8.1 山口 運 昇任,昇任(〃) 50. 8.1~ 平山量三郎 昇任 総務課長 41.4.1~49. 9. 30 碓井 求 昇任,退職 49.10.1~ 松原勝定 配置換 (2)運営委員 氏 名 役 職 備 考 岩村霽郎 科学技術庁金属材料技術研究所科学研究官 41.5. 24 ~45. 5. 31 貴田勝造 日本碍子(株)専務取締役 41.5. 24 ~47. 9.15 末野悌六 末野研究所長 41.5. 24 ~ 田賀井秀夫 東京工業大学教授 41.5. 24 ~46. 9.1 坪井誠太郎 日本学士院会員 41.5. 24 ~ 野口長次 通商産業省工業技術院名古屋工業試験所第5部長 41.5. 24 ~47. 9.15 野田稲吉 三重大学長 41.5. 24 ~47. 9.15 三宅静雄 東京大学教授 41.5. 24 ~47. 9.15 森谷太郎 東京理科大学教授 41.5. 24 ~47. 9.15 田代 仁 京都大学教授 42. 7.1~ 山口悟郎 東京大学教授 42. 7.1~51.4.11 伊藤伍郎 科学技術庁金属材料技術研究所科学研究官 44. 3.1~ 犬塚英夫 旭ダイヤモンド工業(株)取締役研究所長 45. 7.1~ 松本秀夫 通商産業省工業技術院名古屋工業試験所第5部長 46. 2.1~47. 9.15 鈴木 平 東京大学教授 46. 7.1 ~ 山内俊吉 東京工業大学名誉教授 47. 8.1~ 桐山良一 大阪大学教授 47. 9.15 ~ 佐 藤正 雄 東京工業大学教授 47. 9.15 ~49. 6.1 内藤隆三 通商産業省工業技術院名古屋工業技術試験所長 47. 9.15 ~ 山本英雄 旭硝子(株)顧問 47. 9.15 ~51.5.16 伊藤正三 日本碍子(株)専務取締役 48. 6. 29 ~49. 6.1 斎藤進六 東京工業大学工業材料研究所長 49. 9.1~ 井上弥治郎 通商産業省工業技術院電子技術総合研究所長 49. 9.1~ 梅沢邦臣 吉田科学技術財団理事長 51.5.16 ~ 尾野勇雄 旭硝子(株)顧問 51.5.16 ~ (3)客員研究官 氏 名 役 職 備 考 末野重穂 筑波大学助教授 42.1.1~46. 3. 31 51.1.1~ 福長 脩 東京工業大学助手 42. 4.1~42. 7.1 佐多敏之 東京工業大学教授 42. 7.1 ~ 48. 3.31 末野悌六 末野研究所長 42. 7.1 ~ 49. 3.31 山口成人 理化学研究所 42.11.1 ~44. 3. 31 宇野良清 日本大学教授 42.11.1~47. 3. 31 児島弘直 山梨大学助教授 42.11.1 ~ 44. 3. 31 加藤範夫 名古屋大学教授 42.12.16 ~ 48. 3. 31 大石行理 九州大学教授 43. 2.1 ~ 47. 3.31 島内武彦 東京大学教授 43.11.1~47.10.31 野村昭一郎 東京工業大学教授 43.12.1~ 中山忠行 早稲田大学教授 44. 3.1 ~ 51.3.31 青山芳夫 日本国有鉄道 44. 5.1~ 国谷保雄 山梨大学教授 44. 5.16 ~ 上田隆三 早稲田大学教授 44. 8.1~46.11.30 水渡英二 京都大学教授 44. 8.1~46.10.31 箕村 茂 東京大学教授 45. 5.1~ 野口正安 日本原子力研究所研究員 45. 7.1 ~ 51.3.31 田賀井秀夫 東京工業大学教授 45.11.1~46.10.31 渡辺伝次郎 東北大学教授 45.11.1 ~ 50. 3. 31 橋本栄久 千葉大学教授 46. 4.1~51.3.31 森本信雄 大阪大学教授 46. 8.1 ~50. 3.31 51.4.1~ 飯田修一 東京大学教授 46. 9.1~49. 3.31 片山功蔵 東京工業大学教授 47. 4.1 ~ 50. 3.31 桜井武磨 東北大学教授 47. 4.1~50. 3.31 桂 敬 東京工業大学教授 47. 4.1~ 溝口 正 学習院大学 47. 4.1~51.3.31 定永両一 東京大学教授 47. 5.1~ 鈴木弘茂 東京工業大学教授 47. 7.1~ 荒牧重雄 東京大学助教授 47. 7.1~50. 3.31 藤沢英幸 東京大学助教授 47. 7.1 ~ 48. 6.30 矢島聖史 東北大学教授 47.11.1 ~ 50. 3. 31 山根典子 都立工業技術センター 48.1.16~51.3. 31 小松和蔵 東京工業大学教授 48.1.16 ~ 49. 3. 31 51.4.1~ 宇田応之 理化学研究所研究員 48. 6.15~ 志水隆一 大阪大学助教授 48. 7.1~ 武居文彦 東北大学助教授 48. 8.15 ~ 木村脩七 東京工業大学助教授 49. 4.1~ 斎藤進六 東京工業大学工業材料研究所長 49. 4.1~50. 3.31 岩井津一 東京工業大学教授 49. 4.1~ 小林信之 富山大学助教授 49. 4.1~ 中平光興 岡山理科大学教授 49. 5.1~ 熊沢峰夫 名古屋大学助教授 49. 5.1~ 松野 直 東京理科大学嘱託助手 49. 5.1 ~ 51.3.31 鈴木淑夫 筑波大学教授 49. 6.1~ 高橋洋一 東京大学助教授 49. 8.1~ 岡 明 東京新技術開発事務所長 50. 4.1 ~ 51.3.31 沢岡 昭 東京工業大学助教授 50. 4.1~ 丸茂文幸 東京工業大学助教授 50. 4.1~ 浜口由和 日本原子力研究所 50. 4.1~ 福田敦夫 東京工業大学助教授 50. 8.16 ~ 小松 啓 東北大学教授 51.1.1~ 岡本祥一 理化学研究所 51.4.1~ 掛川一幸 千葉大学助手 51.4.1~ 吉川晶範 東京工業大学助教授 51.4.1~ 田部浩三 北海道大学教授 51.4.1~ 白鳥紀一 大阪大学講師 51.4.1~ 7.海外出張者 (1)調査等 氏 名 出張期間 渡 航 目 的 出張先国名 備 考 山内俊吉 44. 4. 8~44. 5. 7 無機材質及びこれに関連する分 野の研究体制等の現状調査 アメリカ,カナダ 田賀井秀夫 50. 3. 26~50. 4.18 中南米諸国における科学技術の 振興状況,特に科学技術政策の 動向,研究開発の推進及びアメ リカとの研究協力の実情,また 無機材質研究の現状等の調査 アメリカ,ブラジ ル,メキシコ 昭和49年度科 学技術会議海 外調査団員 (2)国際会議 氏 名 出張期間 国際会議名(開催地名) 出張先国名 備 考 中平光興 43. 8. 23~43. 9.1 第6回国際固相反応シンポジウ ム(スケネクタディー) アメリカ 国際研究集会 鈴木弘茂 44. 4. 20~44. 5. 24 アメリカ窯業学会年次大会,国 際原子炉材料シンポジウム(ワ シントン) アメリカ 〃 山口成人 44. 8.11~44. 8. 24 第8回国際結晶学会総会(ニュ ーヨーク) アメリカ 〃 小松 啓 46. 6.19~46. 7.10 第3回結晶成長国際会議(マル セーユ)第1回結晶成長国際夏 期学校(ライデン) フランス,オラン ダ 〃 田中広吉 46. 7.10~46. 7. 27 第6回国際炭化珪素委員会(グ ルノ ーブル) フランス 〃 岩田 稔 47. 4. 28~47. 5.14 日米窯業基礎科学セミナー(ナ イヤガラフォールズ,ステート カレッジ) アメリカ,カナダ 〃 中平光興 47. 7.12~47. 7. 26 第7回国際固相反応シンポジウ ム(ブルストル) イギリス,オラン ダ,西ドイツ 〃 江良 皓 47. 8.15~47. 9. 4 ルミネッセンス国際会議(レニ ングラード) ソ連,チェコスロ バキア,西ドイツ 〃 下平高次郎 48. 8.31~48. 9.18 第3回国際焼結円卓会議(ヘル サク・ノビ) ユーゴスラビア, オーストリア,ス イス,西ドイツ, フランス,イスラ エル 国際研究集会 田中広吉 48. 9.15~48. 9. 26 国際炭化珪素会議(マイアミビ ーチ) アメリカ 〃 後藤 優 49. 8.17~49. 8. 26 結晶学国際集会(メルボルン) オーストラリア 〃 石沢芳夫 50. 8.12~50. 8. 28 第14回国際低温物理学会議(ヘ ルシンキ) フィンランド,イ ギリス,フランス 〃 (3)在外研究員 氏 名 在外期間 研究テーマ 在外先 備 考 君塚 昇 45. 4. 25~46. 9. 30 V-O系酸化物及びその関連酸 化物の相平衡と固体化学的な研 究 アメリカ(ペンシ ルバニア州立大 学) パートギャラ ンティ 堀内繁雄 45. 5.1~47. 2. 29 FeS誘導体等の超周期構造の研 究 西ドイツ(クラウ スタール工科大学) 〃 高橋紘一郎 48.1.25~49. 7. 24 強誘電体材料の研究 アメリカ(ペンシ ルバニア州立大学) 長期在外研究 員 山岡信夫 48. 8. 27~49. 8. 26 無機化合物の高圧合成に関する 研究 アメリカ(テキサ ス大学) 〃 三友 護 48. 9. 2~49. 9.1 窒化けい素に関する研究 イギリス(シェフ ィールド大学) 〃 木村茂行 49. 8.10~50. 8. 9 無機酸化物材質の不定比性と結 晶成長の研究 オーストラリア, (オーストラリア 連邦科学産業研究 省トリボ物理学研 究所) 日豪科学技術 交流派遣職員 千葉利信 49. 8. 31~50.10. 31 陽電子消滅法による化合物の結 合電子状態の研究 アメリカ(ニュー ヨーク大学) 原子力関係海 外派遣職員 井上善三郎 49. 9.1~51.4. 28 Si3N4単結晶の高温における構 造変化の研究 アメリカ(ニュー ヨーク州立大学) 長期在外研究 員 中沢弘基 49.10.1~51.9. 30 遷移金属硫化物及び関連化合物 の規則―不規則転移の研究 西ドイツ(マール ブルク大学) パートギャラ ンティ 川田 功 50. 6.15~50. 9. 9 ヨーロッパ諸国における遷移金 属カルコゲン化物の研究におい て,合成方法,結晶化状態と構 造の関係及び物性の面に関する 研究状況調査 西ドイツ,スイス, フランス,オラン ダ 中期在外研究 員 小玉博志 50.10.1~51.9. 30 無機酸化物材質の熱測定と結晶 成長の研究 カナダ(トロント 大学) 長期在外研究 員 8.表彰事項 (1)叙勲,褒章等 44. 4.15 岩田稔総合研究官科学技術功労賞(多層薄膜製造用膜厚監視装置の開発) 44.11.3 山内俊吉所長 勲二等旭日重光章(工業教育に対する貢献と科学技術の振興に寄与したことによ る) 48. 4. 29 丹野善次事務補助員 勲七等瑞宝章(45年間にわたる永年勤続に対して) 48.11.3 山口成人総合研究官 紫綬褒章(多年にわたり物質構造解明の研究に努め可変電圧式電子回折装 置を完成した実績による) 49.11.3 岩田稔総合研究官 紫綬褒章(多層薄膜製造用膜厚監視装置開発の実績による) 50.11.3 田中広吉総合研究官 紫綬褒章(セラミックスコーチング技術開発の実績による) (2)学術団体賞 44. 4. 23 福長脩主任研究官 窯業協会進歩賞(半導体酸化物の焼結及び高圧下における酸化物系の固相反 応の研究) 45. 4.22 猪股吉三主任研究官窯業協会進歩賞(高純度炭化けい素単結晶の合成に関する研究) 46.10. 22 小野晃研究員 日本地質学会研究奨励賞(長野県高遠―塩尻地方に分布する領家変成岩の変成分 帯) 48. 5. 28 下平高次郎総合研究官窯業協会学術賞(加圧焼結の緻密化機構及び多結晶体の組織に関する研 究) 49. 5. 27 瀬高信雄総合研究官 窯業協会学術賞(気相析出法による炭化けい素合成に関する基礎的研究) 9.おもな訪問者 42. 2 佐藤正典人事院人事官,篠原登科学技術会議議員 11 始関伊平科学技術政務次官 44. 3 Prof R. Roy (アメリカ ペンシルバニア州立大学材料科学研究所長) 8 Prof F. Fulrath (アメリカ カルフォルニア大学) 9 Prof G.W. Brindley (アメリカ ペンシルバニア州立大学) 9 Prof L.E. Cross (アメリカ ペンシルバニア州立大学) 9 自由民主党首都圏整備委員会 11 金基衡大臣(韓国科学技術処長官) 45. 3 Dr. G. P. Smith (アメリカ コーニング・ガラス・ワークス社) 4 Dr. MJ. Ridge (オーストラリアCSIRO (豪州連邦科学産業研究省)建築研究所) 5 篠原登科学技術会議議員 7 参議院建設委員会 7 Dr. J.B. Mac Chesney (アメリカベル電話研究所) 7 根本竜太郎建設大臣他 9 Dr. G. Moh (西ドイツ ハイゼンベルグ大学) 9 Dr. A.M. Anthony (フランスCNRR (科学研究本部)高温物理学研究所研究部長) 11 西田信一科学技術庁長官 46. 6 佐藤正典人事院人事官 8 Dr. J.E. Burke (アメリカGE社窯業研究部長) 8 Dr. K. Jarmolow (アメリカ RIAS 所長),Dr. A.R.C. Westwood (アメリカ RIAS 副所長) 46. 8 Dr. R.M. Fulrath (アメリカ カルフォルニア大学) 8 Dr. J.B. Wachtman (アメリカ ビュローオブスタンダード社無機材料部長) 9 Dr. D.W. Langer (アメリカ 航空宇宙研究所) 9 西村英一建設大臣 11 衆議院内閣委員会 12 参議院内閣委員会 47. 4 Dr. S. Mroczkowski (アメリカ エール大学) 4 Dr. J.F. Wenckus (アメリカ アーサー ・ド・リトル社部長) 5 Dr. S.J. Hohn (韓国 国立科学技術研究所長) 8 大村襄治大蔵政務次官,増岡博之厚生政務次官,小淵恵三建設政務次官,藤波孝生科学技術政務 次官他 8 Dr. J.M. Cowey飯島住男博士(アメリカ アリゾナ大学) 9 Dr. A.R. Verma (インド 国立物理研究所長),Dr. P. Krishna (インド バナラス,ヒンズ ー大学) 9 Dr. U. Wattenberg (西ドイツ マールブルク大学) 10 Dr. J. Nicki(西ドイツ ミューンヘン大学固体化学研究所) 48.1 金丸信建設大臣 3 衆議院内閣委員会 8 飯山敏道博士(フランス文部省科学研究院鉱物合成化学研究所) 10 Dr. AJ. Rouanet (フランス 国立超耐火物研究所) 10 衆議院科学技術振興対策特別委員会 11 前田佳都男科学技術庁長官 49.1 Dr. R.L. Coble (アメリカ マサチューセッツ工科大学) 3 Dr. R.C. Devries (アメリカ GE 社) 3 Dr. J. Sanders (オーストラリアCSIROトリボ物理研究所) 3 Dr. H.W. Koch (アメリカ 物理学協会長) 3 Dr. A.M. Anthony (フランス CNRS高温物理学研究センター所長) 3 Dr. T. Niemyski (ポーランド 結晶研究センター所長) Dr. A. Modrzejewski (ポーランド 原子核研究所) 3 Prof. Dr. A.A. Chernov, Prof. Dr. K.S. Bagdasarov, Dr. B.P. Butuzov, Dr. V.A. Timofeeva (ソ連結晶学研究所) 4 Dr. W. Tolksdorf (西ドイツ フィリップスリサーチ) 4 Dr. R.M. Fulrath (アメリカ カルフォルニア大学) 5 Dr. P. Hartman (オランダ ライデン国立大学) 5 Mr. T.F. Kearns, Mr. R. Schmidt(アメ リカ 国防省) 7 Dr. J.R. Hutchins (アメリカ コーニング・グラス・ワークス社副社長) Dr. G.P. Smith (アメリカ コーニング・グラス・ワークス社部長) 8 Dr. U. Wattenberg (西ドイツ ボン大学) 8 森山欽司科学技術庁長官,岩上妙子参議院議員 10 金熙喆博士(韓国 ソウル大学工科大学長) 10 Dr. J.C. Fletcher (アメリカ 航空宇宙局長官),Dr. U.J. Sakss (アメリカ 航空宇宙局) 10 岩上二郎茨城県知事 12 Dr. G.A. Samara (サンディア研究所) 50.1 Dr. J.K. Giφnnes (ノルウェー オスロ大学) 1 武安義光科学技術事務次官 4 Dr. E.E. David (日米科学委員会委員長)他 4 Mr. S.K. Chun (韓国 科学技術処総合企画室長) 4 Mr. C.E. Mckinrey (アメリカ ノースカロライナ大学) 5 Prof. P.V. Popov (ソ連 熱流研究所) 5 Mr. N. Haffey (日加科学技術協力) 6 Prof. R.S. Gordon (アメリカ ユタ大学) 6 Prof. L.E. Cross (アメリカ ペンシルバニア州立大学) 7 Prof. J.A. Pask (アメリカ ペンシルバニア州立大学) 7 Dr. D.B. Chang (日米科学技術協力委員) 10 Dr. W.F. Knippenberg (オランダ フィリップス研究所) 10 Prof. O.J. Kleppa (アメリカ シカゴ大学ジェームス・フランク研究所長) 11 Dr. P. Bennema (オランダ ベルフルフト工科大学) 11 Dr. A.M. Anthony (フランスCNRS高温物理学研究センター所長) 11 Dr. P. Forsgren (スウェーデン 技術開発庁材料開発部長) 51.1 Dr. J.R. Smyth (アメリカ 航空宇宙局月科学研究室) 2 Prof. G. Kullerud (アメリカ パディア大学) 3 Mr. J.M. Suh (韓国科学技術処政策計画局総合企画官室課長) 3 Mr. W.K. Kwon (韓国科学技術処総合計画官) 10.年 表 年 月 日 事 項 37. 7.13 科学技術会議第3号諮問「国立試験研究機関を刷新,充実するための方策について」に対する 答申中基礎研究の重要性について強調。 38.10. 9 前記答申の趣旨に基づき,科学技術庁計画局において,その第一着手として非金属無機材質の 研究をいかに推進するかを検討するために「第1パネル」を設置。 40. 4.16 非金属無機材質基礎研究所(仮称)設立準備室設立(科学技術庁計画局内)。 7.19 非金属無機材質基礎研究所(仮称)計画案が設立準備研究検討会において策定。 41.4.1 研究所発足(人員21名),(庁舎は科学技術庁内)。第1(SiC :化け炭い素)研究グループ,企 画室,総務課。所長に元東京工業大学長山内俊吉就任。 5.10 東京都杉並区井草4~18所在の機械振興協会技術研究所内に移転。 42. 4. 24 庁舎建設委員会設置(筑波研究学園都市に建設する庁舎について必要な事項を検討)。 5.10 東京都文京区本駒込2~28~10所在の科研科学(株)所有の建物に移転。 42. 6.10 第2(BeO :酸化ベリリウム),第3(VO2 :酸化バナジウム)及び第4(AlN :窒化アルミニウ ム)研究グループを新設。 12.1 筑波研究学園都市に建設予定の「高圧力特殊実験棟」の設計図等完成。 43. 4.1 第5 (FeS :硫化鉄)及び第6 (PbMO3 :鉛ペロブスカイト)研究グループを新設。企画室は企 画課となる。 10. 29 43. 7.1 「無機材研ニュース」発刊。 7. 31 筑波研究学園都市庁舎配置設計完成。 44. 3. 27 高圧力特殊実験棟(RC-2,延面積1,761m2)起工式。 5.1 第7 (C:炭素)及び第8 (ZrO2:酸化ジルコニウム)研究グループを新設。 12. 26 高圧力特殊実験棟完成。 45. 5.1 第9(NbO :酸化ニオブ)及び第10 (AS-X Glass :カルコゲンガラス)研究グループを新設。 6. 5 高圧力特殊実験棟に高圧力発生装置を駒込庁舎等から搬入,すえ付け及び調整完了,業務開始。 12. 5 研究本館(RC-3,延面積6,160m2)建設工事着工。 46. 4.1 第11(SiO2 :酸化けい素)研究グループを新設。 10.12 研究本館完成。 47. 3.1 筑波研究学園都市へ移転。 4.1 第1(MgO:酸化マグネシウム),第2 (MV2S4複合バナジウム硫化物)及び第3 (Si3N4:窒化 けい素)研究グループを再編成。 5.1 第12(LaB:硼��化ランタン)研究グループを新設。 5.16 竣工,移転記念式典(開所式)。 6.16 初代所長山内俊吉退官,二代目所長田賀井秀夫就任。 7.19 皇太子殿下行啓。 8.11 高温合成特殊実験棟(RC-2,延面積1,826 m2)及び陽電子消滅特殊実験棟(RC-1,延面積168m2) 建設工事着工。 12. 6 第1回研究発表会(昭和46年度終了研究グループ:炭化けい素,酸化ベリリウム,酸化バナジウ ム)。 48. 3. 3 高温合成特殊実験棟及び陽電子消滅特殊実験棟の完成。 4.1 第4 (Al2O3 :酸化アルミニウム),第5 (Pb 1-x TiO3-x :ペロブスカイト型化合物)及び第6 (BN 窒化ほう素)研究グループを再編成。 5.1 第13(Y3X5O12 :イットリウムガーネット)研究グループを新設。企画課に技術室を設置。 第2回研究発表会(昭和47年度終了研究グループ:窒化アルミニウム,硫化鉄,鉛ペロブスカイ ト)。 49. 4.1 第7(TiO2 :酸化チタン)及び第8(C :ダイヤモンド)研究グループを再編成。 5.1 第14(ReO3 :酸化レニウム)研究グループを新設。 10. 23 天皇,皇后両陛下行幸啓。 11.1 第3回研究発表会(昭和48年度終了研究グループ:炭素,酸化ジルコニウム) 11.19 無塵特殊実験棟建設工事着工(RC-2,延面積1,658m2) 50. 4.1 第15(Ca-SO4-PO4-H2O :硫酸•燐酸カルシウム)研究グループを新設。 第9 (RO-Al2O3-SiO2 Glass :アルミノ珪酸塩ガラス)及び第10 (Bi2O3-RmOn :複合ビスマス酸 化物)研究グループを再編成。 8. 20 超高圧電子顕微鏡特殊実験棟建設工事着工(RC-2,延面積412 m2)。 9.18 第4回研究発表会(昭和49年度終了研究グループ:酸化ニオブ,カルコゲンガラス)。 12. 9 無塵特殊実験棟一部稼動(10, 000クラス)。 51.3. 23 超高圧電子顕微鏡特殊実験棟完成。 5.10 管理部を新設。 編 集 後 記 “烏兎匆匆”とか“光陰如矢”という古い言葉がある。実感をもってこの意味を感じたのは,“無機材研も来 年51年には創立10周年を迎えるので,今から記念行事の予定をたててはいかがでしょうか”という所員会議での 山口前企画課長の発言であった。昭和41年の設立以来,研究設備や施設の整備,研究体制やその運営そして研究 と無我夢中で過したこの10年は全く 一瞬の間であった。 田賀井所長から十年史編集委員長の大役を仰せつかり,第1回編集委員会を開いたのは,春も間近い2月の下 旬であった。各委員から編集方針や目次の大綱を提案してもらい,その後何度も委員会を開いて検討し,執筆要 綱を定めて原稿依頼をしたのは炎暑に入った7月中旬であった。 編集会議を通じてはっきりしたことは,無機材研は無機材質の研究に携わってきた大先輩の方々が,当時の現 状を見るに忍びず,日本の将来を考え,大きな理想を掲げて関係方面の理解を得,苦心の末に創立してくれた研 究所である。したがってこれを殺すも生かすもその責任は,これを背負った我々にあるという点であった。 そこで第一回目の年史としては,まず設立の経緯を通じて当初の理念,構想,特色などを正確にありのままに 後代に残すことに意を用いた。第1章の“設立の経緯”と第Ⅳ章の“10年を顧みて”がこれである。 次に当所の主務である研究活動の記録であるが,詳細な研究報告は他の出版物に発表されているので,ここで は各研究グループが何をねらって何を解明したのかについて,わかりやすく解説することを主旨とした。第Ⅱ章 の“研究概要”がこれである。 更にこの10年を踏まえて,将来いかにあるべきかについて,運営会議の方々から忌たんのない御意見を伺った のが,第Ⅴ章の“無機材研に望む”である。なお回顧文を載せることによって創立当時の雰囲気を残すこととし た。 本年史が,単に無機材質研究所の歩んだ10年間の変還の記録にとどまらず,将来発展の一助ともなれば誠に幸 である。最後に本史の刊行に当り,執筆いただいた各位並びに御協力いただいた関係各位に心から感謝申し上げ るとともに,編集委員会の力が至らず不備の点の多いことを深く御詫び申し上げる次第である。 (編集委員長田中広吉) 十年史編集委員会 委員長 田中広吉 委 員 鈴木淑夫(現筑波大学教授),瀬高信雄,小松 啓(50年11月迄),雪野 健(50年11月から), 福長 脩,加茂睦和,上村揚一郎,田中高穂,松原勝定,山口 運(50年7月迄),平山量三郎 (50年8月から) 事務局 永長久彦,石橋倫幸,渋谷文義,江口巧一 無機材質研究所十年史 昭和51年5月 編集無機材質研究所十年史 編集委員会 発 行 科学技術庁 無機材質研究所 〒300-31茨城県新治郡桜村大字倉掛 筑波研究学園都市 印刷・製本(株)奥村印刷